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JAXとFlaxを使って、
 ナウい機械学習をしたい


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自己紹介 
 - 森山直人(Twitter: @vimmode) - みらい翻訳株式会社でリサーチエンジニア - 日本語<->中国語の言語間の機械翻訳がメイン - pythonと自然言語処理が好き - 深層学習はPyTorchを使うことが多いです - allennlp, flairあたりが好き - 発表内容は組織を代表するものではありません

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今日のお話
 - 深層学習フレームワークの複雑化は止まらない - 最も知見があるGoogleが一から設計した物が出来たらしい? - これは試せずにいられない! - (試した結果、とても素晴らしいものでした👍) - 本題の前に少し温故知新な話をしたい - 時間の都合で、網羅性よりも自分の感想が中心です

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深層学習フレームワークの機能 
 - 必要最低限の機能 - 学習データからミニバッチを作成 - ニューラルネットワークの定義 - 予測値を計算し、誤差から自動微分でパラメータを更新 - 学習済みのモデルのシリアライズ - GPU, TPUなどのハードウェアアクセラレータ対応 - ニューラルネットワークの記述は主に2つのパラダイムがある - 以降のページで説明していきます

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Define and run
 - Caffe, TensorFlow1などが該当 - 静的な計算グラフを作ってから、データを流し込む - 内部構造は直感的であり、理解しやすい - pythonで計算グラフを定義に使うが、実行時はpythonは必要ない - 定義されたネットワークは実行時に変わることはないので、 デプロイと運用は安心・安全 - モバイルやエッジコンピューティングにも強い! - コーディングは深層学習への深い理解がないと直感的には書けない

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Define by run
 - Chainer, PyTorchなどが該当 - 変数に計算元の情報を保持させ、それを辿っていくとネットワークが出来る(計算グ ラフの概念を意識させない) - これにより、記述のしやすさが格段に向上 - ネットワークは入力が来て初めて作られる、永続化はパラメータの辞書 - (初期は)製品化でもpythonのruntimeが必要なため、言語由来の制約は多い - ネットワークが動的に変わることがあり、実運用で問題が発生し得る - 動作環境やメモリ、互換性など、デプロイはデータを流してみないとわからない

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Define by run VS Define and run
 - 研究ではDefine by runが支持され、製品運用ではDefine and runが支持 される構図に - Define and runであるTensorFlowは研究者から避けられることが多いが、 実務運用ではきわめて優秀 - Define by runであるPyTorchは、モデルをdefine and run スタイルである Caffe2に変換する機能を早期に採用したことで製品運用の課題を一定カ バー - Chainerとの強い差別化 - とはいえ、TensorFlowほど簡単ではない

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異なるフレームワークの規格を統一したい
 - 記述が得意なフレームワークと、実装に優れたフレームワークの相互運用の ために、学習済みモデルの規格を統一させる => ONNX - PyTorch -> MXNetなど - 一方で、フレームワーク間で数値表現に違いが存在する場合があり、ONNX を交えた変換で計算結果が同じにならない事がある! - 平均や分散などの統計計算は注意が必要 - ONNX専用のruntimeを利用する話もあるが、時間の都合でここでは割愛し ます

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現在の二大勢力の課題(個人感)
 Tensorflow - TensorFlow2ではdefine by run形式でコーディングできるようになったものの、TensorFlow1の 基本設計を考えると、かなり無理な拡張をしたと察する - kerasやeagerなど、抽象化機能が多くて書き方が多様すぎる PyTorch - 初期からCaffeに変換する設計だったこともあり、内部は複雑に - 細かいところはC++なので、内部実装把握はそこで力づきる - モデルとパラメータが密接に紐付いており、かつネットワークは計算時に確立されるため、量子化と いったパラメータ操作や、モデルの確実なシリアライズが複雑

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JAX
 Googleが開発した行列演算+自動微分+XLAのライブラリ (もともとはautogradというライブラリを拡張して設計されたもの) - 行列演算 - NumPyのAPIと完全互換(ただし非同期処理) - 自動微分 - 自動微分をサポートすることで、JAXだけで簡単なニューラルネットワークが書ける - XLA - pythonで記載された線形代数関連の命令郡をまとめてハードウェアアクセラレータ向け にJITコンパイルし、一度で実行できるようにする。

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JAXの好きなところ(個人感)
 - pure python! - デバックや内部実装の把握がしやすい - とにかく早い - ミニバッチ内の処理など関数をすべて JITコンパイルすることで、全体の処理が高速化 - データのCPU -> GPU(TPU)間の移動がシームレスに出来る - 設計は関数型指向 - 行列のデータは基本的に変更不可 - インデックス/スライス経由の値変更やインプレース演算ができない設計 - 乱数生成はグローバルの乱数状態を参考にするのではなく、都度状態を生成

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JAXサンプル- 行列の不変性
 - 行列は基本不変であり、変更するには update関数経由で新たに生成する必要がある - (深層学習で相当な量のバグを防げる)

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JAXサンプル- 乱数生成
 JAXでは(関数型の性格から)共通のグローバル空間の状態を参照するのではなく、 都度乱数状態を作り出し、そこを参照するスタイル

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JAXサンプル- 関数ベクトル化
 - vmapを使うことで関数のベクトル化が簡単に行うことが出来る - 深層学習のミニバッチ構築で強い恩恵を受ける

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JAXサンプル- JIT
 - 関数をJITコンパイルすることで高速化 - NumbaなどのJITコンパイルと違い、テンソル計算を主眼に設計されており、 機械学習関連の用途では (JITのために)関数を書き換える必要はほぼない

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Flax
 GoogleによるJAXをベースに実装された深層学習フレームワーク - JAX開発者と近い距離で開発されており、一枚岩感がある - JAX以上に、強い関数型指向の性格を持つ 🌟 - 各種深層学習フレームワークの負債を研究しており、設計思想がアツい 設計思想(抜粋&意訳) - 悪い抽象化や関数のオプションを増やすよりも、コードの複製を - ドキュメンテーションやテストが難しい部分は、設計を見直そう - 関数型スタイルは一部のユーザーを混乱させるが、高い利益をもたらす - 役に立たないエラーメッセージはバグ同然

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Flaxの好きなところ(個人感)
 - 自動微分はJAXの機能を使うため、設計は大変見通しがよい - モデルとパラメータを明確に分離 - PyTorchのような、モデルとパラメータが一体になる構造ではない - モデルは初期化時に内部構造が確定したら、その後なにも変更されない - パラメータの更新はoptimizerが管理し、シリアライズ時はoptimizerに対し て行う - モデルはpythonのdataclassと同じ構造 - 余計なものがないのは心理的にとても楽

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サンプルコード-モデル定義
 - setup経由でモデルの構造を確定。 - @nn.compactでcallをデコレートすればsetupは省略可能 - __call__を定義しているものの、学習時は直接モデルに入力を渡すことはしない(後述)

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サンプルコード-初期化


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サンプルコード-学習
 - ネットワークで流れるデータは型はjax.DeviceArray - (JAX及びFlaxのコードは関数渡しやクロージャなどの関数型指向で書かれたコードが多 く、それに慣れておくと良い) - optimizer.targetに更新パラメータが格納される

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JAXとFlaxの所感- 良い点
 - JAXとFlaxの役割がそれぞれ明確に分割されているおかげで、両方の設計と APIはスッキリしている - 関数型指向な設計を取り入れたことで、既存のフレームワークのような過度な 抽象化はなく、透明性が高い - イミュータブルな設計も大変良い - Flaxではモデルとパラメータの分離の考え方は素晴らしく、実装側としては納 得感が高い - なにより、書いていて楽しい!

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JAXとFlaxの所感- 悩むところ
 - 関数型指向な設計により、フレームワーク設計としての美しさは十分だが、入 門者にとっての学習コストは高い - とはいえ、慣れれば可読性と生産性はかなり高い - 既存の資産は簡単には転用できない - PyTorchとTensorFlow2間はある程度簡単だが、Flaxは少し複雑 - コミュニティがどれだけ大きくなるかは読めない - 世間一般ではPyTorchとTensorFlowはさほど強い不満は持たれていない - 実務観点で、既存のフレームワークからリプレイスするROIは難しいと思う

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まとめ
 - JAXとFlaxについて、基本的な操作と個人的な感想を紹介しました - まだ日が浅いプロダクトであるものの、明確な思想で面白い - ここで紹介しきれなかった優れた要素はまだまだあります - 非同期実行やGPU/TPU上での処理など - 気になる方はぜひ公式ドキュメントをご一読してください - 個人的にはもう少し使いこなせるようになりたいと思う