Slide 1

Slide 1 text

https://foundx.jp/ Takaaki Umada / 馬田隆明 東京大学 FoundX(インセプションプログラム) https://foundx.jp/ スタートアップの仮説思考 (2) 仮説生成力を鍛える

Slide 2

Slide 2 text

スライドが本になりました 本スライドを基にした書籍 『仮説行動』発売 2 第1部 仮説行動を理解する なぜ仮説は重要なのか 仮説行動の全体像 第2部 仮説を強くする 仮説を生成する 仮説を検証する 仮説マップを生成/統合する ループの停滞を回避する 第3部 仮説を現実にする 仮説を評価する 決断する 仮説を実行する 第4部 大胆な未来を実現する 影響度の大きな仮説を目指す 目次

Slide 3

Slide 3 text

仮説思考の全体像 仮説思考には四つの段階がある。 3 1. 仮説生成 2. 仮説選択 3. 仮説検証 4. 意思決定

Slide 4

Slide 4 text

今回は「仮説生成」について解説する 今回はプロセスの中でも仮説生成について解説する 4 1. 仮説生成 2. 仮説選択 3. 仮説検証 4. 意思決定

Slide 5

Slide 5 text

5 全体像の詳細は「仮説思考入門」で https://speakerdeck.com/tumada/jia-shuo-si-kao-ru-men-sutatoatupufalsejia-shuo-si-kao-1

Slide 6

Slide 6 text

スタートアップの仮説生成 7

Slide 7

Slide 7 text

スタートアップの代表的な仮説 初期のスタートアップには検証するべき様々な仮説がある。 8 課題仮説 解決策仮説 価値仮説 製品仮説 (機能・体験) 製品の 実現性仮説 市場仮説 成長方法仮説 実行仮説 創業チーム 仮説 組織仮説 ビジネスモデ ル仮説 戦略仮説 ファイナンス 仮説

Slide 8

Slide 8 text

スタートアップの代表的な仮説 初期のスタートアップには検証するべき様々な仮説がある。 9 課題仮説 解決策仮説 価値仮説 製品仮説 (機能・体験) 製品の 実現性仮説 市場仮説 成長方法仮説 実行仮説 創業チーム 仮説 組織仮説 ビジネスモデ ル仮説 戦略仮説 ファイナンス 仮説 これの仮説をすべて生成して 検証を通して仮説の確からしさを 総合的に上げていく

Slide 9

Slide 9 text

10 起業家は常に 仮説を生成し続ける 必要がある

Slide 10

Slide 10 text

スタートアップで度々求められる「仮説」 起業家は常に新しい仮説を生み出し続けなければならない職種 である。 11 • マーケティング施策の仮説 • 採用に関する仮説 • 組織に関する仮説 • 新製品に関する仮説 • etc

Slide 11

Slide 11 text

時間 最後の仮説さえ合ってれば良い? 13 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 意思 決定 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 仮説 棄却 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 仮説 棄却 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 仮説 棄却

Slide 12

Slide 12 text

時間 実はそんなことはない 14 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 意思 決定 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 仮説 棄却 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 仮説 棄却 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 仮説 棄却

Slide 13

Slide 13 text

15 最初が微妙な仮説だと 良いフィードバックが貰えず サイクルが回り始めない (質の低い仮説だと顧客や同僚に取り合ってもらえない)

Slide 14

Slide 14 text

微妙な仮説を検証にかけたときによくあること 16 検証の学びが少ない 微妙な仮説だと、検証フェーズに入ったと きに、顧客や顧客候補から「良いと思う」 程度の微妙なフィードバックしかもらえず、 仮説の改善がしづらい。 そもそも実験できない 微妙な仮説だと顧客候補を紹介してもらえ ることが少なくなり、そもそも顧客を通し た検証ができない。

Slide 15

Slide 15 text

良い仮説生成ができないと… THE SCIENTIFIC METHOD (AGW Falsified) by Dr. Vincent Gray 17 現象 観察 仮説 生成 実験⇒ データ データ 分析 仮説の 検証 仮説の 確認 仮説の 反駁 仮説の 洗練 仕組み 化 顧客の 顧客を 通した 顧客や 社会の

Slide 16

Slide 16 text

良い実験が行えず詰んでしまう THE SCIENTIFIC METHOD (AGW Falsified) by Dr. Vincent Gray 18 現象 観察 仮説 生成 実験⇒ データ データ 分析 仮説の 検証 仮説の 確認 仮説の 反駁 仮説の 洗練 仕組み 化 顧客の 顧客を 通した 顧客や 社会の

Slide 17

Slide 17 text

19 特に初期の仮説(アイデア)は “あまり良くない” ものが多いので 良い実験ができずに”詰む”ことが多い

Slide 18

Slide 18 text

20 少しだけ見込みのある 仮説を生成できたタイミングで 仮説思考のサイクルが回り始める

Slide 19

Slide 19 text

22 だから、なにはともあれ 良い仮説を 生成しよう

Slide 20

Slide 20 text

23 仮説の生成は 事実×推論

Slide 21

Slide 21 text

仮説は事実と推論から成り立つ 24 事実 推論 仮説

Slide 22

Slide 22 text

「雲→雨→傘」の考え方: 事実 雲という事実を見る。 25 雲がある (事実)

Slide 23

Slide 23 text

「雲→雨→傘」の考え方: 推論 そこから「雨が降る」ことを推測する。 26 ⛆ 雲がある (事実) 雨が降るかもしれない (推論)

Slide 24

Slide 24 text

「雲→雨→傘」の考え方: 仮説 雲という事実を見て、そこから「雨が降る」ことを推測し、そ の結果として「傘を持っていくべき」という仮説が生まれる。 27 ⛆ 雲がある (事実) 雨が降るかもしれない (推論) 傘を持っていくと良いだろう (仮説)

Slide 25

Slide 25 text

28 あなたは探偵

Slide 26

Slide 26 text

29 「隠れた事実 」 を見つけて 「推理 」して 仮説へと辿り着く あなたは探偵

Slide 27

Slide 27 text

まず事実について 30 事実 推論 仮説

Slide 28

Slide 28 text

1. 事実 31

Slide 29

Slide 29 text

事実の中身を見てみると… 32 事実 推論 仮説

Slide 30

Slide 30 text

4 つの要素がある 33 推論 仮説 生成 把握 再解 釈 解釈

Slide 31

Slide 31 text

仮説生成のベースとなる「事実」ための四つの要素 34 1. 把握 観察や顧客インタ ビューなどを用いて、 現状起こっているこ とを把握する。 2. 生成 アンケートなどの行 動をして事実を新た に「生成」すること もある。 また顧客や社会に働 きかけて、新たな事 実を生成する。 3. 解釈 事実認識には人の解 釈やバイアスが入り 込む余地がある。 事実や現象をとらえ ようとしたときに、 バイアスをうまく回 避する手段を身に着 ける。 4. 再解釈 事実を異なる視点か ら見ることで、新し い事実の側面を見つ けることができるこ ともある。 再解釈の方策を身に 着けることで、事実 の新たな側面が見え てくることもある。

Slide 32

Slide 32 text

35 (1) 事実の把握 推論 仮説 生成 把握 再解 釈 解釈

Slide 33

Slide 33 text

二種類の事実をうまく使う 36 質的 顧客インタビューや観察を通して得られる 事実。 量や数値では表せない情報としての事実を 把握する。 量的 主にデータを使って事実を把握する。 市場についてなど、既にデータがある場合 もあるため、それらを把握すrことも 市場の把握や経時的な変化には役立つが、 新たな驚くべき事実が得られることはそれ ほど多くない。

Slide 34

Slide 34 text

37

Slide 35

Slide 35 text

38

Slide 36

Slide 36 text

39 質と量の両方の ”事実” を抑える (それぞれの重要性はフェーズによって異なる)

Slide 37

Slide 37 text

40 事実の インプット を増やすことが まず最初に行うこと

Slide 38

Slide 38 text

41 さらに事実の解像度を高める ことで構造などを把握する

Slide 39

Slide 39 text

42 (2) 事実の生成 推論 仮説 生成 把握 再解 釈 解釈

Slide 40

Slide 40 text

43 事実や情報を 新たに生み出して インプットを増やす

Slide 41

Slide 41 text

仮説を作るためには事実などのインプットが必要 44 インプット (事実、情報、独自の体験)

Slide 42

Slide 42 text

事実を基に推論をして仮説を作る 45 推論 仮説 インプット (事実、情報、独自の体験)

Slide 43

Slide 43 text

仮説を基に製品開発をする 46 仮説 製品開発 インプット (事実、情報、独自の体験) 推論

Slide 44

Slide 44 text

すると何かしらのアウトプットが生まれる 47 仮説 アウトプット インプット (事実、情報、独自の体験) 推論 製品開発 製品や MVP

Slide 45

Slide 45 text

アウトプットを出すことでフィードバックが得られる 48 仮説 アウトプット 製品や MVP を通して得た 他人や市場からのフィードバックによる新しい情報や事実 (自分だけのユニークな情報/洞察) インプット (事実、情報、独自の体験) 推論

Slide 46

Slide 46 text

するとインプットが少しだけ大きくなる 50 仮説 アウトプット インプット (事実、情報、独自の体験) 推論 製品や MVP を通して得た 他人や市場からのフィードバックによる新しい情報や事実 (自分だけのユニークな情報/洞察)

Slide 47

Slide 47 text

さらにアウトプットの過程や結果で独自の体験をする 51 仮説 アウトプット 推論 自分だけのユニークな体験/洞察 インプット (事実、情報、独自の体験)

Slide 48

Slide 48 text

するとさらにインプットが増す 52 仮説 アウトプット インプット (事実、情報、独自の体験) 推論 自分だけのユニークな体験/洞察 インプット (事実、情報、独自の体験)

Slide 49

Slide 49 text

53 仮説を形にして 世に出すと 情報が生まれる 仮説を誰かにぶつけるだけでも違う

Slide 50

Slide 50 text

54 アウトプット(ローンチ)をすれば 「独自の情報」や「独自の体験」 という「新たな事実」を得られる

Slide 51

Slide 51 text

大きくなったインプットから 55 仮説 アウトプット インプット (事実、情報、独自の体験) 推論 インプット (事実、情報、独自の体験)

Slide 52

Slide 52 text

大きくなったインプットから新たな仮説が生まれ 56 仮説 アウトプット インプット (事実、情報、独自の体験) 推論

Slide 53

Slide 53 text

新たな仮説からさらに大きなアウトプットが生まれる 57 仮説 アウトプット インプット (事実、情報、独自の体験) 推論

Slide 54

Slide 54 text

アウトプットでさらに情報や体験、事実が得られ… 58 仮説 アウトプット インプット (事実、情報、独自の体験) 推論 更なる自分だけのユニークな体験/洞察 さらに他人や市場から得た新しい情報や事実 さらに自分だけのユニークな情報/洞察

Slide 55

Slide 55 text

このサイクルが回りだす 59 仮説 アウトプット インプット (事実、情報、独自の体験) 推論

Slide 56

Slide 56 text

どんどんと回していくことでインプットは大きくなり 60 仮説 アウトプット インプット (事実、情報、独自の体験) 推論

Slide 57

Slide 57 text

61 仮説 アウトプット インプット 事実、情報、独自の体験) 推論 良い仮説に辿り着ける

Slide 58

Slide 58 text

62 とにかく 仮説を形にして世に出し続ける すると独自の情報を得られ アドバンテージになる

Slide 59

Slide 59 text

63 行動量やアウトプットが多い人が 良い仮説に辿り着きやすいのも こうしたフィードバックサイクルを 回しているため

Slide 60

Slide 60 text

64 を作って今すぐローンチしよう

Slide 61

Slide 61 text

とにかく雑に作れ 65 とにかく 雑に 作って出す

Slide 62

Slide 62 text

66 MVP を作り ローンチして 独自の事実を得よう

Slide 63

Slide 63 text

67 ※アンケートやインタビューは 質問によってはおかしな事実を 生成してしまうこともあるので 注意しながら行う

Slide 64

Slide 64 text

68 (3) 事実の解釈 推論 仮説 生成 把握 再解 釈 解釈

Slide 65

Slide 65 text

事実にも「解釈」が含まれる(群盲象を評す) 一つの事実に対しても、解釈は人によって異なることもある。 69 木のようだ 蛇のようだ 蛇のようだ 箕のようだ 壁のようだ

Slide 66

Slide 66 text

事実にも「解釈」が含まれる 同じペンという事実を見ても、 • ペンがあった 70

Slide 67

Slide 67 text

事実にも「解釈」が含まれる 同じペンという事実を見ても、 • ペンがあった • 黒ペンがあった 71

Slide 68

Slide 68 text

事実にも「解釈」が含まれる 同じペンという事実を見ても、 • ペンがあった • 黒ペンがあった • 黒ペンがあった 72 1980年生産でたまたまその事 故によって発生した世界で100 本しか生産していない超レアな ペンマニアの 視点 解像度が異常 に高い

Slide 69

Slide 69 text

事実にも「解釈」が含まれる 同じペンという事実を見ても、 • ペンがあった • 黒ペンがあった • 黒ペンがあった • ペンのような盗撮カメラだ 73 1980年生産でたまたまその事故 によって発生した世界で100本 しか生産していない超レアな 探偵ならでは の視点

Slide 70

Slide 70 text

事実にも「解釈」が含まれる 同じペンという事実を見ても、 • ペンがあった • 黒ペンがあった • 黒ペンがあった • ペンのような盗撮カメラだ • ペンの周りに空気がある • もしかしてこのペンは宙に 浮いている…? など、様々な理解や解釈が可能 74 1980年生産でたまたまその事故 によって発生した世界で100本 しか生産していない超レアな

Slide 71

Slide 71 text

これは水です 75 2匹の若いサカナが泳いでおり、逆方向に泳ぐ年上のサカナに会いました。 すれ違い様、年上のサカナはこう言いました。 「おはよう少年たち。今日の水はどうかね。」

Slide 72

Slide 72 text

これは水です 76 2匹の若いサカナが泳いでおり、逆方向に泳ぐ年上のサカナに会いました。 すれ違い様、年上のサカナはこう言いました。 「おはよう少年たち。今日の水はどうかね。」 2匹のサカナは特に気にもとめず、しばらく泳いでから、 顔を見合わせて言いました。 「てか水って何?」

Slide 73

Slide 73 text

これは水です 77 2匹の若いサカナが泳いでおり、逆方向に泳ぐ年上のサカナに会いました。 すれ違い様、年上のサカナはこう言いました。 「おはよう少年たち。今日の水はどうかね。」 2匹のサカナは特に気にもとめず、しばらく泳いでから、 顔を見合わせて言いました。 「てか水って何?」 人は意外と「事実」を 認識していないときもある

Slide 74

Slide 74 text

私たちは”理論”(素朴理論含む) を通して現象を理解する THE SCIENTIFIC METHOD (AGW Falsified) by Dr. Vincent Gray 78 現象 観察 仮説 生成 実験⇒ データ データ 分析 仮説の 検証 仮説の 確認 仮説の 反駁 仮説の 洗練 理論化 予測

Slide 75

Slide 75 text

79 私たちの事実の認識には 隠れた ”理論” や “解釈” が紛れ込む

Slide 76

Slide 76 text

事実の解釈性 私たちの事実把握にはどうしても解釈が紛れ込む。その解釈の 歪みのもとについて解説する。 80 1. バイアス バイアスは偏りや偏見のこ と。自分自身でも気づいて いない認識のゆがみ。 バイアスがあると適切な事 実把握ができない。 2. ステレオタイプ 多くの人が持つ固定観念や 先入観、紋切り型の考え方、 パターン化されたモノの見 方。一種の「自分自身の理 論」。たとえば「こういう 人はこうに違いない」と いったようなもの。 もともとはステロ版という 印刷の型から来た言葉で、 型にはまったものの意味。 3. フレーミング ものの見方のこと。窓のフ レーム(枠)などから来て いる言葉。スキーマと呼ば れることもある(少しニュ アンスが異なる)。

Slide 77

Slide 77 text

81 1. バイアス (見方の偏り、誤り)

Slide 78

Slide 78 text

1. バイアスの例 私たちの認識は自然状態だと偏っている。「無意識のバイア ス」などと呼ばれたりする。 82 確証バイアス 仮説や信念を支持する情報ばかりを集めて、 自分の仮説に反する事実を集めない傾向が ある(特に初回の起業家に顕著)。 また自分の信念に合致する主張を信じる 「信念バイアス」や自分にとって都合の悪 い情報を無視したり過小評価する「正常性 バイアス」などもある。 可用性バイアス 頻繁に起こることや、印象の強いこと、直 近のこと、思い出しやすいことを過剰に重 要視してしまう傾向や偏りのこと。 またある事象の評価が、事前に与えられた 情報にひきずられてしまう「アンカリン グ」などもある。

Slide 79

Slide 79 text

83 2. ステレオタイプ (解釈の型: 図は男の子らしさ、女の子らしさのステレオタイプ)

Slide 80

Slide 80 text

2. ステレオタイプの例 ステレオタイプと呼ばれる解釈の「型」も事実の認識をゆがめ るときがある。 84 過度な一般化や単純化をする 特定のカテゴリに属する人やものを、特定 の特徴と紐づける考え方。 たとえば「男の子、女の子らしさ」「女性 は話が長い」「高齢者はこれだから」など はステレオタイプの一つであり、こうした 見方は偏見や差別に結びつきやすい。 なかなか変容しない 固定観念として固まっており、中々変化が 起こらないのもステレオタイプの特徴とし て挙げられる。

Slide 81

Slide 81 text

85 3. フレーミング (枠、解釈のスキーマ)

Slide 82

Slide 82 text

86 同じ写真でもフレームが違えば印象が違う

Slide 83

Slide 83 text

3. フレーミング 以下の二つは同じ情報(事実)なのに後者のほうを好ましく感 じる。人はフレームによって事実認識を大きく変えてしまうこ とがある。 87 死亡率 10% 生存率 90%

Slide 84

Slide 84 text

88 自分の認識している「事実」は 本当の「事実」ではない かもしれないことに注意する (少なくとも認識は偏っていることが多い)

Slide 85

Slide 85 text

89 (4) 事実の再解釈 推論 仮説 生成 把握 再解 釈 解釈

Slide 86

Slide 86 text

90 受動的な (無意識的な) 事実の認識 能動的な (意識的な) 事実の認識

Slide 87

Slide 87 text

91 受動的な (無意識的な) 事実の認識 能動的な (意識的な) 事実の認識

Slide 88

Slide 88 text

事実の再解釈の技法 意識的に事実を再解釈することで、新たな事実の側面を見るこ とができる。 92 リフレーミング (re-framing) 新たな視点でものを見ること、意図的に異 なるフレームを当てはめて物事を見直して みること。 異なる見方で事実を見ることで新たな側面 に気付けることも多い。 レンズ 政治系では理論のことをレンズと呼ぶこと がある。異なる理論で同じ現象を見ること を、「レンズを入れ替える」と言ったりす る。 理論を多く知ることで、私たちは多くのレ ンズを通して物事を見ることができるよう になる。

Slide 89

Slide 89 text

リフレーミング (1) 最初に提示された情報を… 93 死亡率 10%

Slide 90

Slide 90 text

リフレーミング (2) 合えて異なる見方をしてみることで、事実の印象や意思決定な どが変わったりする。 94 死亡率 10% 生存率 90%

Slide 91

Slide 91 text

メタ認知的知識を持ち、メタ認知的活動を行う 自分の解釈に潜むバイアスなどに注意しながら、能動的にその 解釈を変えてみて、同じ事実から新しい側面を発見すること。 95 メタ認知的 “知識” バイアスや思い込み、ステレオタイプなど、 人の認知についての知識を持つこと。 バイアスやステレオタイプなどの知識を持 ち、それが入り込むタイミングについて知 ること。 メタ認知的 “活動” 自分の思考を監視して、不適切な部分を修 正する活動のこと。 メタ認知的知識(認知バイアスに関する知 識)を持っていても、その知識を活用でき る人はそう多くないため、きちんとその知 識を活用できているかをチェックする。

Slide 92

Slide 92 text

再解釈を支援する道具 96 沢山の理論を知る 理論(レンズ)をたくさん 持つことで、事実の異なる 見方を身に着けられる。 理論を知ることで事実の再 解釈が行えるようになる。 メタ認知を行う 自分の思考状態を監視する メタ認知を意識して行い、 バイアスなどに極力気づき、 それを省こうと努力する。 もしくは異なる思考回路に 持って行けるような意識付 けを行う。 解像度を高める 解像度を高めることは異な る解釈を行うことでもあり、 これを通して再解釈を行え る。

Slide 93

Slide 93 text

97 人間の思考の癖を知って 事実を上手に認識しよう

Slide 94

Slide 94 text

4 つの要素について解説した 98 推論 仮説 生成 把握 再解 釈 解釈

Slide 95

Slide 95 text

99 アウトプットをして 事実を生み出しながら 考え方や解釈の インプットを増やす

Slide 96

Slide 96 text

100 アウトプットをして 事実を生み出しながら 考え方や解釈の インプットを増やす

Slide 97

Slide 97 text

101 結局 インプット と アウトプット が大事

Slide 98

Slide 98 text

事実について解説した 102 事実 推論 仮説

Slide 99

Slide 99 text

2. 推論 103

Slide 100

Slide 100 text

104 仮説を作るためには 推論力 も必要

Slide 101

Slide 101 text

次に推論の方法について 105 事実 推論 仮説

Slide 102

Slide 102 text

推論の三つの手法 106 事実 仮説 演繹 法 アブダク ション 帰納 法

Slide 103

Slide 103 text

主な三つの推論法:演繹法、帰納法、アブダクション 107 演繹法 帰納法 アブダク ション

Slide 104

Slide 104 text

まずは演繹法から 108 演繹法 帰納法 アブダク ション

Slide 105

Slide 105 text

主な三つの推論法:演繹法、帰納法、アブダクション 109 演繹法 大前提→小前提→結論の順 で結論を導く推論。 1. 人間は死ぬ 2. ソクラテスは人間だ 3. ソクラテスは死ぬ などの例が有名。 大前提以上の新しい情報は ないが、形式に合う限り正 しい。

Slide 106

Slide 106 text

110 ビジネスで使う 演繹法の例

Slide 107

Slide 107 text

1. まず規則や仮定としてのベストプラクティスがある 111 社内外のベストプラクティス と状況(仮定、大前提)

Slide 108

Slide 108 text

2. 現在の状況はベストプラクティスの状況と類似 112 社内外のベストプラクティス と状況(仮定、大前提) 現在のこの会社の状況 (小前提)

Slide 109

Slide 109 text

3. よって結論としてベストプラクティスをするべき 113 社内外のベストプラクティス と状況(仮定、大前提) 現在のこの会社の状況 (小前提) この会社でもこのベストプラ クティスをするべき (結論)

Slide 110

Slide 110 text

ビジネスにおける演繹法の例 グローバル展開をしている戦略コン サルでよくあるパターン。 社内外から集めたベストプラクティ スを一つの法則として用いて結論を 演繹する。 ただしベストプラクティスを当ては められるような状況かどうかを分析 を行う必要や、そもそものベストプ ラクティスの精度が高く、例を多数 熟知していることが前提としてある。 114 社内外のベストプラクティス と状況(仮定、大前提) 現在のこの会社の状況 (小前提) この会社でもこのベストプラ クティスをするべき (結論)

Slide 111

Slide 111 text

115 推論も インプット を増やすことが鍵

Slide 112

Slide 112 text

次に帰納法のビジネスでの応用について 116 演繹法 帰納法 アブダク ション

Slide 113

Slide 113 text

主な三つの推論法:演繹法、帰納法、アブダクション 117 演繹法 大前提→小前提→結論の順 で結論を導く推論。 1. 人間は死ぬ 2. ソクラテスは人間だ 3. ソクラテスは死ぬ などの例が有名。 大前提以上の新しい情報は ないが、形式に合う限り正 しい。 帰納法 複数の事実から法則を導く 推論。「これまで見てきた 白鳥はすべて白い。よって 白鳥は白い」の例が有名。 すべてのケースが網羅され れば正しいが、多くの場合 無理。どこかで帰納的飛躍 が行われ、蓋然的推論に留 まる。大量のデータを用い て精度を上げるなども可能。

Slide 114

Slide 114 text

帰納法の例:まずは事例を観察する たとえばまずは白鳥をとにかく見ていく 118

Slide 115

Slide 115 text

帰納法の例 その結果として、「すべての白鳥は白い」という結論を導く。 119 全ての白鳥は白い

Slide 116

Slide 116 text

帰納法のビジネスでの例 基本的には多くの人が同じ結論に行きつくことになる。 121 事実の収集 多くの事例から共通のパターンを見つける こと。そのため事実を幅広く集められるか どうか、事実の認識がうまくなるかどうか がカギとなる。 データ分析 大量のデータを用いて、そこからすべてに 当てはまるパターンを導き出す。もしくは 蓋然的推論を行い、パターンを導き出す。 ユーザー全体に共通するものはないため、 特定のセグメントに区切って考えることが 多い。

Slide 117

Slide 117 text

※帰納法によって導かれた仮説は棄却されるときがある たとえば黒い白鳥が出てきたら帰納法によって出てきた「すべ ての白鳥は白い」という仮説は棄却される。 122 全ての白鳥は白い

Slide 118

Slide 118 text

最後にアブダクション 123 演繹法 帰納法 アブダク ション

Slide 119

Slide 119 text

124 アブダクション (仮説形成法)

Slide 120

Slide 120 text

主な三つの推論法:演繹法、帰納法、アブダクション 米盛『アブダクション―仮説と発見の論理』を参照 125 演繹法 大前提→小前提→結論の順 で結論を導く推論。 1. 人間は死ぬ 2. ソクラテスは人間だ 3. ソクラテスは死ぬ などの例が有名。 大前提以上の新しい情報は ないが、形式に合う限り正 しい。 帰納法 複数の事実から法則を導く 推論。「これまで見てきた 白鳥はすべて白い。よって 白鳥は白い」の例が有名。 すべてのケースが網羅され れば正しいが、多くの場合 無理。どこかで帰納的飛躍 が行われ、蓋然的推論に留 まる。大量のデータを用い て精度を上げるなども可能。 アブダクション 最良の説明への推論。リト ロダクション(訴求推論)、 仮説形成法、仮説的推論と もいわれる。 発見性は高い。ただし仮説 的飛躍が行われるため、可 謬性も高い(間違っている 可能性が高い)。

Slide 121

Slide 121 text

アブダクションをビジネスで使うシーン ビジネスにおいてほとんどの仮説生成はアブダクションになる。 126 顧客の 行動や発言 顧客には 課題 A がある 事実(結論) 仮説 アブダクション

Slide 122

Slide 122 text

アブダクションをさらに重ねていく ビジネスにおいてほとんどの仮説生成はアブダクションになる。 127 顧客の 行動や発言 顧客には 課題 A がある 事実(結論) 仮説 アブダクション 課題 A は 製品 B で 解決できる アブダクション

Slide 123

Slide 123 text

帰納法とアブダクションの違い 混乱しがちな帰納法とアブダクションの違いを解説する。 128 演繹法 帰納法 アブダク ション

Slide 124

Slide 124 text

帰納は類似、アブダクションは異種のものを導く 米盛『アブダクション―仮説と発見の論理』を参照 129 帰納法: 類似の結論 観察したものから一般化する。 その結果、観察結果と類似の法則を導き出 すことになる。 アブダクション 観察したことの説明を導き出す。 その結果、観察したものとは違う種類の何 か、時には観察不可能なもの(物理法則な ど)を導き出す。 ニュートンのリンゴによる万有引力の法則 の発見もアブダクションの一種(帰納法だ と「リンゴは木から落ちる」としか言えな い)

Slide 125

Slide 125 text

主な三つの推論法:演繹法、帰納法、アブダクション Wikipedia: アブダクションの例を参考にした 130 演繹法 1. 仮定 α を見る 2. 規則「αならばβであ る」を当てはめる 3. 結論 β を導く 帰納法 1. 「α ならば β である」 という事例をすべて観 察する 2. 結論 β を導く アブダクション 1. 結論 β を見る(例:驚 くべき事実など) 2. 仮説 α が真であれば β は当然である 3. よって仮説 α は真であ ると考える理由がある ただし α が真であることは 保証しない。

Slide 126

Slide 126 text

131 「アブダクション」が スタートアップの 仮説生成ではキーとなる

Slide 127

Slide 127 text

アブダクションのツール 132

Slide 128

Slide 128 text

アブダクションを起こすための四つのツール 主に四つに分けてアブダクションのツールを解説する。 133 アブダクション (推論) アナロジー フレームワーク 水平思考 人

Slide 129

Slide 129 text

まずはアナロジーから 134 アブダクション (推論) アナロジー フレームワーク 水平思考 人

Slide 130

Slide 130 text

(1) アナロジー アブダクションのツール 135

Slide 131

Slide 131 text

アナロジーとは 既知の事物(ベース)から新たな事物(ターゲット)に対して、 構造や関係性を写像して推論すること。 http://www.jaist.ac.jp/~j-morita/wiki/index.php?plugin=attach&refer=%BB%F1%CE%C1&openfile=dCr3.pdf 136 ベース ターゲット

Slide 132

Slide 132 text

まずはベースの構造を把握する http://www.jaist.ac.jp/~j-morita/wiki/index.php?plugin=attach&refer=%BB%F1%CE%C1&openfile=dCr3.pdf 137 ベース

Slide 133

Slide 133 text

次にターゲットの構造を把握する http://www.jaist.ac.jp/~j-morita/wiki/index.php?plugin=attach&refer=%BB%F1%CE%C1&openfile=dCr3.pdf 138 ベース ターゲット

Slide 134

Slide 134 text

ベースからターゲットへと類推する http://www.jaist.ac.jp/~j-morita/wiki/index.php?plugin=attach&refer=%BB%F1%CE%C1&openfile=dCr3.pdf 139 ベース ターゲット 類似した要素の 対応付け

Slide 135

Slide 135 text

ベースに関する知識を用いて、新たな洞察を推論する http://www.jaist.ac.jp/~j-morita/wiki/index.php?plugin=attach&refer=%BB%F1%CE%C1&openfile=dCr3.pdf 140 ベース ターゲット 類似した要素の 対応付け 欠けている要素や 新しい要素の 推論的生成 もしかしてここに 要素があるのでは?

Slide 136

Slide 136 text

アナロジーを行う上で重要なポイント 141 構造や特徴の把握 類似性を把握するためには、 ターゲットとベースの両方 の構造や特徴の把握を行え ていることが前提となる。 また同じ対象についても、 構造を複数の抽象度で見る ことができたり、深い解像 度で把握できているかが類 似性の発見のポイントとな る。 ベースのパターン ベースとなりうる構造のパ ターンを多く持っているこ とで、より多くの類似を見 出せる。 たとえばスタートアップの パターンを知っていること は新たなスタートアップの アイデア(仮説)を生み出 す助けとなる。 具体と抽象の行き来 どの抽象度レベルで物事を 見るかで、構造の認識は変 わる。これについては後述 する。

Slide 137

Slide 137 text

把握している抽象度で類似性は変わる 具体的に見てみると全然形が違うものも… 142 ベース ターゲット 超具体的な 視点では この二つは 全然違うもの

Slide 138

Slide 138 text

把握している抽象度で類似性は変わる 抽象度を上げてみてみると、似ている部分が見えてくることが ある。 143 ベース ターゲット 抽象度を上げると 似ている構造が見える ときもある

Slide 139

Slide 139 text

把握している抽象度で類似性は変わる 既知の事物(ベース)から、新たな事物(ターゲット)へと 144 ベース ターゲット 異なる抽象度では アナロジーが 発揮できることも この部分があるかも?

Slide 140

Slide 140 text

抽象度や解像度を上下させて類似構造を見つける 抽象度の違いで「似ている」「似ていない」の認識の仕方は異 なる。 145 抽象度 ベース (人) ターゲット (猿) 結論 高 動物 動物 似てる (同じ行動を取るだろう) 中 哺乳類 哺乳類 似てる (同じ行動を取るだろう) 低 人 猿 似てない (違う行動を取るのでは)

Slide 141

Slide 141 text

アナロジーのためのベースをたくさん持つ 沢山のベースの知識を持っておくことで、アナロジーできる範 囲が広がる。 146 • ソーシャル • マーケットプレイス • SaaS • パッションエコノミー • シェアリングエコノミー 新規ビジネス X • 広告モデル ベースとなる知識 ターゲット

Slide 142

Slide 142 text

147 アイデア(仮説) = イノベーション = 新結合

Slide 143

Slide 143 text

148 アイデア(仮説) = イノベーション = 新結合

Slide 144

Slide 144 text

149 新結合のためには…… 結合しうる要素を沢山持たないと 新しい結合は中々起きない

Slide 145

Slide 145 text

150 推論も インプット を増やすことが鍵

Slide 146

Slide 146 text

(2) フレームワーク アブダクションのツール 152

Slide 147

Slide 147 text

次に推論のフレームワーク 153 アブダクション (推論) アナロジー フレームワーク 水平思考 人

Slide 148

Slide 148 text

154 解釈と推論の 型としての フレームワーク

Slide 149

Slide 149 text

フレームワーク フレーム(枠)の名が示す通り、フレームワークは私たちに枠 を提供して解釈や推論を半ば強制して促す機能を持つ。 155 解釈のフレーム カスタマージャーニーマップなどはどのよ うな視点で顧客の行動などを解釈すれば良 いかのフレームを提供してくれる。 また穴埋め問題になっている文章も一種の フレームとして機能する。 推論のフレーム ビジネスモデルキャンバスなど、特定の要 点を押さえる推論を行うことを支援する。 また論理的思考やデザイン思考で用いられ ているものも多い。

Slide 150

Slide 150 text

フレームワーク フレーム(枠)の名が示す通り、フレームワークは私たちに枠 を提供して解釈や推論を半ば強制して促す機能を持つ。 156 解釈のフレームの例 • AEIOU • カスタマージャーニーマップ • ペルソナ 推論のフレームの例 • 論理的思考 (MECE、ツリー構造、ピラミッド構造、 Five Whys など) • デザイン思考 (How might we、POV、 Crazy 8s、 プロトタイプ、スケッチ、アフィニティ マップなど) • スタートアップ系 (Lean Canvas など)

Slide 151

Slide 151 text

157 ※ フレームワークの使い時を 適切に選ぶのが難しいので 利用は注意すること (フレームワークまとめ本の通りにやってもうまくいかないことが多い)

Slide 152

Slide 152 text

158 デザイン思考系は東京工業大学の EDP が 順序立てて整理しているのでお勧め https://edp.esd.titech.ac.jp/toolkit/

Slide 153

Slide 153 text

(3) 水平思考 アブダクションのツール 161

Slide 154

Slide 154 text

次に水平思考 162 アブダクション (推論) アナロジー フレームワーク 水平思考 人

Slide 155

Slide 155 text

思考法の 2 分類 アイデア発想の方法として、エドワード・デボノが提案した仁 分理央。 https://en.wikipedia.org/wiki/Vertical_thinking 163 垂直的思考 (vertical) 分析的な思考のこと。いわゆる論理的な思 考のステップを踏んで行われる考え方。穴 を掘り進んでいくイメージなので垂直思考。 例) • 研究開発して技術を深める • 演繹して答えを導く 水平的思考 (lateral) 既成の概念にとらわれずに、複数の視点や ユーモア、ランダム性などを活用した思考。 アナロジーも一種の水平的な思考。 例) • 既存の技術を中心に組み合わせる • 旧来のビジネスモデルを使う

Slide 156

Slide 156 text

思考法の 2 分類 アイデア発想の方法として、エドワード・デボノが提案した仁 分理央。 https://en.wikipedia.org/wiki/Vertical_thinking 164 垂直的思考 (vertical) 分析的な思考のこと。いわゆる論理的な思 考のステップを踏んで行われる考え方。穴 を掘り進んでいくイメージなので垂直思考。 例) • 研究開発して技術を深める • 演繹して答えを導く 水平的思考 (lateral) 既成の概念にとらわれずに、複数の視点や ユーモア、ランダム性などを活用した思考。 アナロジーも一種の水平的な思考。 例) • 既存の技術を中心に組み合わせる • 旧来のビジネスモデルを使う 多くのスタートアップが 狙っているのはこちら

Slide 157

Slide 157 text

水平思考の優位性 (1) 3M での発明の研究 (Ouderkrik, 2014) 「専門家」「ゼネラリスト」「ポリマス(博識家:少なくとも 一つの分野で深い知識+幅広い知識)」に分類。 ポリマスが 3M の中で最も栄誉ある賞を受賞していた。 特許の研究 (Melero, 2015) 不確実性の高い分野には、役に立たなかった特許と大当たりし た特許が混在し、大当たりの特許は幅広い経験がある人のチー ムから生まれていた。 確実性の高い分野では、ある程度役に立つ特許が多く、スペ シャリストのチームによる開発が多かった。 RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる などを参考 165

Slide 158

Slide 158 text

水平思考の優位性 (2) ヒットした漫画家の研究 (Taylor, 2006) クリエイターが複数のジャンルに関わったことがあるほうが、 商業的価値の高いコミックや革新的なコミックを生み出した。 クリエータ個人の経験の幅が広がると、チームでの革新性を上 回るようになる。 RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる などを参考 166

Slide 159

Slide 159 text

水平思考の優位性 (3) ヒットした論文の研究 (Uzzi, 2013) (Wang, 2017) 一般的な組み合わせを用いつつ、一般的でない組み合わせ (通常 一緒に現れない雑誌からの引用) を取り入れた論文がヒット (ただし組み合わせの新規性が高すぎる論文はヒットしない) ※新しい知識を組み合わせた論文は、最初は評価されないが、3 年経過すると引用件数が 増え、15 年経つとトップ 1% に入る割合がはるかに多くなる (=つまり新しい知識を組み合わせた論文は研究資金を得られる可能性が低く、有名な雑 誌に掲載される可能性も低い しかし長期的に見たら大ヒットする可能性が高い) 167

Slide 160

Slide 160 text

水平思考のためのツール 水平思考的な発想を促すためのツールもいくつかある。 TRIZ の図は FotoSceptyk 氏によるもの。CC BY-SA 4.0 168 TRIZ 40の発明原理という形で「分ける」「一部 を変える」などの推論の方向性を支持する。 SCAMPER オズボーンのチェックリストを覚えやすく したもの。 入れ替え、組み合わせ、当てはめ、変更、 他の用途への転用、排除・縮小、並べ替 え・逆転の英語の頭文字を取ったもの。

Slide 161

Slide 161 text

思考法の 2 分類 https://en.wikipedia.org/wiki/Vertical_thinking 169 垂直的思考 (vertical) 分析的な思考のこと。いわゆる論理的な思 考のステップを踏んで行われる考え方。穴 を掘り進んでいくイメージなので垂直思考。 例) • 研究開発して技術を深める • 演繹して答えを導く 水平的思考 (lateral) 既成の概念にとらわれずに、複数の視点や ユーモア、ランダム性などを活用した思考。 アナロジーも一種の水平的な思考。 例) • 既存の技術を中心に組み合わせる • 旧来のビジネスモデルを使う ※ただしほとんどの場合は 垂直と水平の組み合わせ (特定の部分は垂直で深めて、残りは水平など)

Slide 162

Slide 162 text

(4) 人 アブダクションのツール 170

Slide 163

Slide 163 text

最後に「人」 171 アブダクション (推論) アナロジー フレームワーク 水平思考 人

Slide 164

Slide 164 text

172 同程度かそれ以上の 解像度を持つ人と 議論をする (チームメイト、研究者同士など)

Slide 165

Slide 165 text

人と話すことは推論の大きな助けになる 人と話すことで異なる推論の仕方を学んだり、会話の中で新し い推論に気づけたりする。 173 壁打ち 同程度かそれ以上の知識や 経験を持つ人と話すことで、 新たなアブダクションの方 法に気付けるときもある。 インタビュー 顧客と話すことを通して、 新たな推論に気づくことが できることもある。 メンタリング 先輩などとのメンタリング セッションを受けることを 通して、新たなアブダク ションの手法を学べるとき もある。

Slide 166

Slide 166 text

174 結局人との議論を通して 新たな推論に辿り着くことが 多い

Slide 167

Slide 167 text

175 最初の微妙な仮説にも きちんと反応してくれる人が いる環境に身を置くこと (そしてフィードバックを真摯に受け止めること)

Slide 168

Slide 168 text

アブダクションを起こすための四つのツール 主に四つに分けてアブダクションのツールを解説した。 176 アブダクション (推論) アナロジー フレームワーク 水平思考 人

Slide 169

Slide 169 text

推論の三つの手法を解説した(主にアブダクション) 177 事実 仮説 演繹 法 アブダク ション 帰納 法

Slide 170

Slide 170 text

ここまでのまとめ(まだ続きます) 178

Slide 171

Slide 171 text

仮説生成力を鍛えるために 事実と推論の両方に共通する、鍛えるための Tips をまとめる。 179 事実 推論 仮説

Slide 172

Slide 172 text

まとめ:仮説生成力を鍛えることに近道はない 180 インプットを増やす 解釈も推論もそのベースに あるのはインプット。理論 (仮説の束)を知っている ことで予測が可能になり、 仮説が生まれやすくなる。 またほかの仮説を知ってい ることで、その仮説を当て はめることも可能になる。 他社スタートアップも仮説 なので知るとヒントになる。 仮説検証数を増やす 事実認識や推論の能力は上 げるためには、行動量を増 やしてアウトプットを続け、 自分の仮説に負荷をかけて 仮説検証を何度もしながら 学んでいく。 何度も正しい仮説検証をし ないと事実認識や推論の能 力は上がらない。 解像度を高くする アナロジーを適用できるよ うな構造化の把握や分解を できるようにする。そのた めには解像度を高めて、抽 象度の行き来をすること。 構造化がうまくなっていた り、構造化のパターンを知 識として持っていると強い。

Slide 173

Slide 173 text

仮説生成に加えて、 生成した仮説をチェックする方法 181

Slide 174

Slide 174 text

仮説を生成したあとにチェックする方法 仮説を生成した後に、仮説の精度を手軽にチェックする手法が いくつかある。 182 徹底的に 言語化 する 人に話す 時間を 使って 育てる

Slide 175

Slide 175 text

まずは言語化から 183 徹底的に 言語化 する 人に話す 時間を 使って 育てる

Slide 176

Slide 176 text

184 (1) 徹底的に 言語化 する

Slide 177

Slide 177 text

仮説を言語化によるメリット 仮説を言語化することで、解像度を自分でチェックできるよう になる。 185 解像度が低いところが分かる 言語化すると、「デザインがよい」など抽 象的な単語が使われているところに気付け る。気付いたところはきちんと説明できる ようにしておく。そのためには解像度を高 めておく必要がある。 細かく説明できない場合などは、まだ仮説 の粒度が粗い可能性が高い。 客観的に認識できる 文字に起こしてみることで、自分の仮説を 客観的に認識できる。 また他人にもチェックしてもらいやすくな る。

Slide 178

Slide 178 text

Amazon は「プレスリリース」を書いて精緻化する プレスリリースを書くことで言語化を強制す る。箇条書きなどで誤魔化さない。 プレスリリースの内容 1. 見出し 2. サブ見出し 3. サマリー 4. 課題 5. ソリューション 6. 開発側の声 7. 始め方 8. 顧客の声 9. クロージングと Call to Action 画像は Amazon のプレスリリースより: https://amazon-press.jp/Top-Navi/Press-releases/Presselist/Press- release/amazon/jp/Ops/20210222_distance-assistance/20210222_Distance-Assistant-/ 186

Slide 179

Slide 179 text

次に人に話す 187 徹底的に 言語化 する 人に話す 時間を 使って 育てる

Slide 180

Slide 180 text

188 (2) 人に話す

Slide 181

Slide 181 text

人に話して壁打ちをする 人に話すことで仮説のあいまいな点が分かりやすくなる。 189 共同創業者候補に話す 共同創業者候補に仮説を話すことで、自分 の仮説の曖昧なところが分かるようになる。 場合によっては相手からのつっこみもある。 また同時に共同創業者の巻き込みにもなる のでお勧め。 起業仲間に話す 同じフェーズの起業仲間と仮説をぶつけあ うことで、異なる領域の仮説や情報を知る ことができる。

Slide 182

Slide 182 text

190 共同創業者候補や仲間と 仮説の壁打ちの時間を 毎週持とう

Slide 183

Slide 183 text

191 (3) 時間を使う (たいていの人が十分な時間を使っていない)

Slide 184

Slide 184 text

192 検証を通して 仮説と仮説生成力を 徐々に育てていく

Slide 185

Slide 185 text

193 経験則では 最初の良い仮説に到るまで 200 時間ぐらいかかる (フルタイムで働いて 1 か月ぐらい)

Slide 186

Slide 186 text

194 たった一か月で卒論・修論の アイデアが固まれば凄い方 良い仮説を作るには それ以上の時間が必要

Slide 187

Slide 187 text

195 たった一か月で卒論・修論の アイデアが固まれば凄い方 良い仮説を作るには それ以上の時間が必要

Slide 188

Slide 188 text

定期的な予定を持って仮説を考える時間を作ること リズムを作り、仮説を生成し続けること。絵も毎日書けばうま くなるように、仮説作りも日々続ければうまくなる。 196

Slide 189

Slide 189 text

仮説を生成したあとにチェックする方法 仮説を生成した後に、仮説の精度を手軽にチェックする手法が いくつかある。 197 徹底的に 言語化 する 人に話す 時間を 使って 育てる

Slide 190

Slide 190 text

テトロック「超予測力」など 198 そして仮説を アウトプットして 「答え合わせ」をすることで 仮説を作るための推論能力が 鍛えられる

Slide 191

Slide 191 text

199 答え合わせをしていかないと 推論が合っているか分からない とにかく素早く検証することで 推論能力は上がる

Slide 192

Slide 192 text

200 答え合わせをしていかないと 推論が合っているか分からない とにかく素早く検証することで 推論能力は上がる

Slide 193

Slide 193 text

201 最初の良い仮説に辿り着けるまで 付き合ってくれる人がいる環境に 身を置きながら 何度もアウトプットを繰り返し 独自の事実を得ていくことが 仮説生成力を高めていく

Slide 194

Slide 194 text

202 最初に助けてくれるがいる 環境に身を置いて 仮説を生み出し続けて 学び続けよう

Slide 195

Slide 195 text

まとめ 206

Slide 196

Slide 196 text

仮説は事実と推論から成り立つ 207 事実 推論 仮説

Slide 197

Slide 197 text

事実と推論で仮説を生む 208 仮説 演繹 法 アブダク ション 帰納 法 生成 把握 再解 釈 解釈

Slide 198

Slide 198 text

209 一般的には推論力ではなく 事実を得る力のほうが 差別化要素になるので 事実側を鍛えることを お勧め

Slide 199

Slide 199 text

210 それに一度の推論と仮説で 正解に到らなくても良い

Slide 200

Slide 200 text

211 作った仮説の検証を行って もし間違っていれば もう一度推論をし直せばよい

Slide 201

Slide 201 text

時間 仮説検証のサイクル全体を最適化する 単体の仮説だけで完璧を目指さず、全体の速度を上げること。 212 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 意思 決定 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 仮説 棄却 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 仮説 棄却 1. 仮説 生成 2. 仮説 選択 3. 仮説 検証 4. 仮説 棄却

Slide 202

Slide 202 text

重要なのは推論能力ではなく、検証の一連のスピード 推論の筋が良くても 100% 正解はあり得ない。だから推論能力 だけではなく、検証までのスピードが大事。 213 仮説生成 (推論) の 筋の良さ 仮説生成 から検証 までの スピード

Slide 203

Slide 203 text

次回のスライドは「仮説選択」 次のスライドでは仮説選択について解説する。 214 1. 仮説生成 2. 仮説選択 3. 仮説検証 4. 意思決定

Slide 204

Slide 204 text

更なる文献 • アブダクション―仮説と発見の論理 • 類似と思考 改訂版 • アナロジーの力 • 考えることの科学 • 仮説思考 215

Slide 205

Slide 205 text

補足: 質的研究の技法を応用する: M-GTA, SCAT, TEM 質的研究の技法は仮説生成向きなので、参考になる部分がある。 代表的な手法として三つを紹介する。 216 GTA/M-GTA Grounded Theory Approach (GTA) ならびに Modified GTA (M-GTA)。 概念の抽象化と要素間の関 係性の整理を通して、プロ セスの全体構造を把握し、 仮説を生成する。 SCAT Steps for Coding and Theorization。大谷氏によ る質的データ分析の手法。 ステップが明示されている ため、着手しやすい。 TEM/TEA 複線径路・等至性モデルも しくはアプローチ (Trajectory Equifinality Model/Approach)。 時系列を中心にまとめてい く。

Slide 206

Slide 206 text

同じ対象を異なる方法論で整理した事例 それぞれ分析の趣向が異なるため、どれを使うかは注意しなが ら選ぶこと。 子どもの経験を質的に描き出す試み 217 M-GTA TEM

Slide 207

Slide 207 text

FoundX の紹介 218

Slide 208

Slide 208 text

FoundX とは 219 東京大学 FoundX は東京大学 産学協創推進本部の下部組 織です。東京大学 本郷キャンパスの近くに 3 つの施設を構 え、起業志望者向けのプログラムを複数提供しています。 投資は行いませんが、無償での個室貸与やプログラムの提 供、起業家コミュニティへの参加を支援します。 興味 情熱 Fellows (6 か月) Pre-Founders (6 か月) Founders (9 か月) 共同創業者 の説得 有利な 資金調達 フル コミット ビジネス 実績 初契約 初売上 製品開発 と改善 助成金や コンテス ト 賞金の獲 得 Review, Resource, School 試行 錯誤 アイデア の種 検証された アイデア 起業家の 基礎知識 &スキル プロト タイプ 顧客イン タビュー

Slide 209

Slide 209 text

FoundX の提供する起業家支援プログラム & リソース 主に東京大学の卒業生向けに、無償のスタートアップ支援プロ グラムや学習リソースを提供。 220 チーム向け Founders Program 事業と起業家の成長を、コ ミュニティを通して達成す るプログラム。個室を無償 で最大 9 か月間貸与。 Pre-Founders Program Founders Program に入る までの準備を行うプログラ ム。 個人向け Fellows Program スタートアップ的手法の実 践を通してアイデアを見つ け、育てるためのプログラ ム。 学習リソース FoundX Review 平日ほぼ毎日更新し、ス タートアップのノウハウ情 報を提供。カテゴリ別のま とめは FoundX Resource。 FoundX Online School 動画形式でスタートアップ の基礎を学べる。

Slide 210

Slide 210 text

スライド著者 & FoundX 運営 馬田隆明 (東京大学 FoundX ディレクター) University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトでの Visual Studio のプロダクトマネージャーを経て、テクニカルエバンジェリス トとしてスタートアップ支援を行う。スタートアップ向けのスライド、 ブログなどの情報提供を行う。 サイト: https://takaumada.com/ 221 スタートアップの 方法論の基礎 Amazon (2017年3月) 起業環境の重要性と アクセラレーター の設計方法 Amazon (2019年4月) スタートアップの 公共や規制との 付き合い方 Amazon (2021年1月) スタートアップに ついてのスライド Slideshare SpeakerDeck

Slide 211

Slide 211 text

222 https://foundx.jp/ ご応募お待ちしています