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大企業でもできる!ボトムアップで拡大 させるプラットフォームの作り方
 Platform Engineeringの進め方とコミュニケー ション ~組織の壁への向き合い方~
 ダイキン工業株式会社 前川博志 


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自己紹介
 所属、職位 
 ● ダイキン工業 テクノロジー・イノベーション センター 主任技師
 ● (いわゆる『課長級』) 
 
 これまでの経歴 
 ● IoTプラットフォーム「DK-Connect」のSRE チーム
 ● サービスエンジニア支援プラットフォーム のアーキテクト
 ● AWSを始めとした開発インフラの標準化
 ● それらの開発プラットフォームを活用する アジャイル開発チームのアジャイルコーチ
 ● 技術情報の情報交換を行うコミュニティ運 営


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最近の外部登壇
 ● DevOpsDays Tokyo 2025
 ○ Effectuational DevOps: "エフェクチュエーション"で駆動するDevOps組織 変革 
 
 ● AI Engineering Summit by Findy Tools
 ○ 研究開発部門で生成AIを一年間追いかけて学んだたった一つのこと 
 
 ● JaSST関西 2025(基調講演)
 ○ DevOpsを加速させるテスト、DevOpsで加速するテスト 
 
 ● Developer's Summit 関西 2025
 ○ 技術とともに進む、ダイキン工業のソフトウェア開発


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ダイキン工業紹介


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ダイキン工業紹介


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今日お話しすること
 Platform Engineeringを進める上での組織の壁 
 ● DevOps組織の意義が理解されず、エンジニアや予算が十分に与えら れない
 ● 基盤を広げていくのが難しい、押しつけ基盤となってしまう
 ● 取り組みが組織全体に広がらず、活動が頭打ちになる
 ● 直接的な事業インパクトを生み出せないため、予算削減対象になりや すい
 
 
 これらにどう向き合ってきたか? 
 ● 「エフェクチュエーション」という考え方を軸に振り返る


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エフェクチュエーションとは 不確実な状況での意思決定アプローチ

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エフェクチュエーションとは
 未来を予測して目標から逆算するのではなく、手持ちの資源から可能なこ と を考え行動し、偶然を取り込みながら目的を創造 していくアプローチ
 
 
 ● 特に新規事業など 変化の激しい環境 の意思決定に有効とされる
 ● バージニア大学ダーデン経営大学院のサラス・サラスバシー教授によっ て提唱
 ● 日本では書籍「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する5つの 原則」が有名


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エフェクチュエーションの5つの原則
 ● 手中の鳥: 目的ありきではなく、手持ちの手段から始める
 ● 許容可能な損失 : 失っても許せる範囲で挑戦する
 ● レモネード : 予期せぬ出来事を機会に変える
 ● クレイジーキルト : 関係者との相互作用で未来を共創する
 ● パイロット : 未来は予測せず、コントロール可能な範囲に注力する
 
 
 ⇒ この5つの原則でダイキンでの取り組みを振り返る 


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ダイキン工業での「エフェクチュエーション」事例 手中の鳥: 自分たちの持つ武器をどう定義するか?

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手中の鳥: 自分たちの持つ武器をどう定義するか?
 目的ありきではなく、手持ちの手段から始める原則 
 ● 「自分は何者か?」「何を知っているか?」「誰を知っているか?」
 ● 今あるリソース(技術、人、知識、ネットワークなど)を最大限に活用して 何ができるかを考え、行動を起こす
 
 
 「もっとXXがあれば、、、」を捨て、今ある武器を探す 
 ● 技術: これまで曲がりなりにも大規模なAWSプロジェクトを進めてきた
 ● 人: 一緒に難しいプロジェクトをくぐり抜けてきた仲間が一人
 ● つながり: 色々目立つ社内活動(火消しの傭兵)のおかげで、信頼貯金 有り


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とっかかりのプロジェクト: AWS設計指針
 ● いままで暗黙的、散逸的だった知識をまとめた
 ● 自分たちで説明展開できるように、自分たちで書くことにこだわった 
 ● 今考えると、生み出したモノ自体を「手中の鳥」にしたかったのかも


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社内ルールも参照し「ダイキン」としてのルールを意識
 ● 社内のセキュリティレベル と、情報セキュリティの3要 素(CIA)についてマッピン グ
 ● どのような情報源に対し て、どのような対応を行う べきかを記載
 ● 社内ルールとの整合性を 取ることで、説得力のあ る「手中の鳥」に 


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モダンなドキュメントシステムの試行
 ● AsciiDocとGitHubを活用し、ドキュメントをコードのように(テキストベー スで)管理
 ○ textlintなどの日本語に対する静的チェック
 ○ PRを利用したドキュメントのレビュー
 ○ Web/PDFなどの複数の出力形式の管理
 ● CICDの仕組み構築
 ○ リンク切れを自動検知
 ○ GitHub Pagesで各PR毎にサブディレクトリが構成され、確認できるように


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ダイキン工業での「エフェクチュエーション」事例 許容可能な損失: 小規模だからこそできる取り組みを活か す

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許容可能な損失: 小規模だからこそできる取り組みを活かす
 失っても許せる範囲で挑戦する原則 
 ● 「この挑戦に失敗した場合、失っても許容できる損失はどれくらいか」を 自問し、その範囲内で行動を選択
 ● 大きなリスクを取らずに新しい試みを始めやすくなる
 ● 特に リソースの限られる状況 で有効とされる
 
 
 短期的な利益がみえなくても、とりあえずやってみよう 
 ● 相談ベースの支援をとりあえず沢山うけてみる
 ● 「そんな事一々やってたらキリないよ」は無視!!
 ● これが実は「手中の鳥」となっていた


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開発インフラの効率化も「許容可能な損失」で
 ● AWS標準の権限管理だと、アカウント=人のアクセス権を一覧化するの が大変
 ● 管理権限をユーザーに渡しすぎると危険、渡しすぎないと煩雑、、、
 ⇒ 小さく始められる範囲で ユーザーや権限をYAMLで記述できる仕組み を開発


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GitHubの管理効率化とセキュリティ強化
 ● GitHubにもAWSと同様のYAML管理の仕組みを導入
 ○ この仕組みをCopilotなどの新規ツール導入時にも効果的に活用
 ● さらにGitHubのアクセスを分析する仕組みも構築
 ● 失敗しても影響範囲が限定される領域から始めた 


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コミュニティも「許容可能な損失」で立ち上げ
 ダイキン工業AWSコミュニティ ACDC 
 ● AWS Community for Daikin Co-workers
 ● ACDC変換のように、異なるエリアの人たちが交われる場に
 ● メーカーとして、ハードウェアに近いような言葉を入れたかった


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ACDCのあゆみ
 ● 2023年6月くらい: 企画 ⇒ とりあえずの仕切りを引き受ける 
 ● 2023年9月: 社内でのAWSカンファレンスを実施 + 告知
 ● 2023年10月: 正式立ち上げ、Teamsなどでの相談うけつけを開始
 ● 2024年12月: ACDCカンファレンスを開催
 ● 最終的には200名を超える組織に 
 
 
 ⇒ 「許容可能な損失」の範囲で始めたことが、大きな「手中の鳥」に成長


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ダイキン工業での「エフェクチュエーション」事例 レモネード: どんな課題(レモン)も見方を変えればレモネー ドに

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レモネード: どんな課題(レモン)も見方を変えればレモネードに
 予期せぬ出来事を機会に変える原則 
 ● 計画通りに進まないことや、予期せぬ問題・失敗(酸っぱいレモン)が発 生した場合の考え方
 ● 単なる障害と捉えるのではなく、学びや新しい方向転換の機会(美味し いレモネード)として積極的に活用する
 
 
 どうせやらないといけない面倒事なら、楽しむ 
 ● 社内規定は守らないといけない、、、それは仕方ない
 ○ ⇒ だったら単にルールを決めるだけにしない、自動化する 
 ● 誰も彼もが生成AIほしいと言ってるんだけど、、、これどうしよう
 ○ ⇒ みんな使いたいなら使ってもらう環境を用意すればいいじゃん!


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なんでも自動化すれば(ちょっとは)楽しい!
 ● 守るべき規定に対し、自分から動いて変えていく 
 ● 自動化前提で考えていくことで、自分たちの領域に持ち込む 
 ● 社内のセキュリティルールをAWS向けにアレンジしたチェックリストをIT 部門と合意、作成
 ● そのセキュリティルールをAWS Config上で検知する仕組みを構築
 ○ IaC実装からも検知可能なので、セキュリティプロセス自体を大幅にシフ トレフト


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結局自分たちでプチCSPMつくっちゃった
 ● AWSマネージドでダッシュボードを自作し、必要な機能を実装
 ● ある程度の運用しやすさを担保しつつ、高い拡張性・安価なランニング コストを実現
 ● ⇒ PoC段階で致命的なセキュリティインシデントを発見!! 


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どうせみんな生成AIを使うんだから、先に作っとこう
 ● 技術の動向は決まってないので、ある程度流用できる構成に
 ● やはりキラーコンテンツになり、社内で続々引き合い
 ● 生成AIは関わるだけ会社に詳しくなれるので、爆アド
 RAGテンプレート 
 ● リファレンスアーキテクチャの延長としてRAGテンプレートを整備
 ● インターフェースの導入により、サービスに依存せず柔軟な処理実装が 可能


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ダイキン工業での「エフェクチュエーション」事例 クレイジーキルト: 社内外を有機的につなぐ

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クレイジーキルト: 社内外を有機的につなぐ
 関係者との相互作用で未来を共創する原則 
 ● 事業を進める中で出会い、関心を示してくれた人々(ステークホルダー) と自発的なパートナーシップを築く
 ● 相互作用 を通じて、当初は想像もしなかったようなゴールや事業内容 を 共に創り上げていく 
 
 
 前提を持たずにコミュニケーションして発見を繰り返してく 
 ● セキュリティ周りで全社IT部門と多く会話するように
 ○ お互いの事情がわかり、建設的な議論 ができるようになった
 ● 生成AIの事例の中で営業で技術を尖らせているメンバーを発見
 ○ RAGテンプレートに巻き込み、想定以上のスピードで事例創出


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ちょっとでも確実に起きている変化
 IT部門
 ● AWSのガードレール環境の導入が進む
 ○ そのグループのメンバーがAWSコミュニティでも積極的にうごいている
 ● 規定を定めるときにも、「チェックが自動化できること」を前提に考える
 ● アジャイル開発どうやって進めればいい?という相談も!!
 
 
 営業部門
 ● 実際に生成AIをビジネスとして考えるように
 ● シーズ駆動ではあるが、コラボレーションによって新しい動きにつながる


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コミュニティの統合も「クレイジーキルト」
 AWSコミュニティとシステム開発コミュニティを統合し、ダイキンのあらゆる開 発者を対象としたコミュニティに変更 ⇒ Daikin Developers' Lounge: D2 Lounge 
 ● 参加者約400名の巨大コミュニティに
 ○ WAUも200名近い、生きたコミュニティ
 ● 異なるバックグラウンドの人たちが有機的につながる場に 


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実践的な勉強会の開催
 ● AWS様のご協力の元、実践型ワークショップであるGameDaysを開催
 ● 製造業としては異例(AWSさん談)の、60名を超える参加者が集まる
 ● 外部パートナーとの「クレイジーキルト」も積極的に 


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ダイキン工業での「エフェクチュエーション」事例 パイロット: 大きなことを一気に見すぎない

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パイロット: 大きなことを一気に見すぎない
 未来は予測せず、コントロール可能な範囲に注力する原則 
 ● 市場予測や競合分析といった 外部環境の予測に頼るのではなく 、自 らがコントロール可能な活動に焦点を当て、行動する
 ● 予測ではなく 未来を形作っていこう とする考え方
 
 
 コントロールできる範囲で動き、少しづつ波を大きくする 
 ● 少しづつ広がる内製開発の取り組み
 ● 進化と合わせて進む生成AI取り組み


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内製開発の取り組み
 ● 組織を大きく変えるのは難しくても、実績を積めば少しずつ
 ● 個々の登壇実績でチームが成長し、ここまできた!!
 ● (もちろんまだまだこれがスタート)
 
 
 アジャイル開発チームの成長 
 ● 立ち上げたばかりの内製アジャイル開発チームのアジャイルコーチ
 ● 人数は倍以上に成長、高度なアジャイル実践者集団に
 ● お互いに刺激を受けながら、チームを引っ張りメンバーに引っ張られて います!!


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生成AIに向き合うのも「パイロット」
 コントロール出来ないものが多すぎる... 
 ● 1年以上、生成AIを活用した仕組みを取り組んできたが、技術の進歩は あまりにも早い! 
 ● これまで苦労して作ってきたものが一夜にしてAPIになる恐怖
 ● では取り組みは無駄なのか?技術的にトライしなくていいのか??
 
 
 コントロールできるものに向き合う 
 ● 新しいAIサービスの「本当の価値」がわかる ⇒ 「目利き力」が非常に 重要
 ● いかに、どこを疎結合にするのかを常に考えるようになる ⇒ モジュー ル化、パーツ化を意識 
 ● サンクコストをおそれず、やっていく
 ● 陳腐化しない「経験」を人間にストアする


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コードレビューシステム 「D-Arc」
 ● 組み込みシステムを対象と したレビューシステムを試 作しトライアル実施
 ● 生成AIに丸投げするので はなく、構文解析など決定 論的な手法と組み合わせ
 ● 最近流行の 「AIエージェン ト」の考え方を先取り する 形に


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D-Arc VSCode拡張 で使いやすく
 ● コマンドラインだけ!のよ うな人を選ぶツールのみ ではなかなか使ってもらえ ない…
 ● フィードバックを得るため にもVSCode拡張を内作 
 ● コントロールできる範囲 で、着実に前進


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まとめ エフェクチュエーションでPlatform Engineeringの壁を越え る

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Platform Engineeringの課題にどう向き合うか?
 課題
 ● DevOps組織の意義が理解されず、エンジニアや予算などが十分に与えられ ない
 ● 基盤を広げていくのが難しかったり、押しつけ基盤となって前向きに利用して もらえない
 ● 取り組みが組織全体に広がらず、活動が頭打ちになる
 ● 直接的な事業インパクトを生み出せないため、予算削減対象になりやすい
 
 
 エフェクチュエーションでの向き合い方 
 ● 意義が理解されるまでは 許容可能な損失 で地道に頑張り、クレイジーキル ト を紡いで 手中の鳥 を育てていく
 ● 困難な状況をうまくフックに使い、レモネード で一気に加速させる
 ● パイロット のように今ある状況を理解し、活かすことが重要


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「エフェクチュエーション」していく中でも必要なこと
 これっていわゆる「行き当たりばったり」じゃないの??? 
 
 
 ビジョン = 実現したい絵姿なしにこれをやると、みんな混乱する 
 ● ビジョンは大きくは「ソフトウェアを製造業においてビジネスを加速する 手段とすること」
 ● そのために、DevOpsで質とスピードを上げる。内製も取り入れる。生成 AIも活用する。
 ⇒ 目指したい姿を常に示し、アップデートすることが必要 
 「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することになろうかとおもいます」 「要するに、行き当たり ばったりじゃな」 ― 銀河英雄伝説 「黎明篇」より

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