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エンジニアが事業に向き合うために 必要だったこと 〜エンジニアのための事業貢献入門〜 Joystruct Inc. Daiasuke Sato Developers Summit 2025 Summer

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自己紹介 さとだい(Daisuke Sato) 株式会社Joystruct 代表取締役 大手 E コマース企業、スタートアップ 企業などで、開発部部長や VPoE などを 務めた後、株式会社ジョイストラクトを 創業。同社にて、技術組織の支援および 顧問、パーソナルコーチなどを行ってい る。このほか、株式会社カウネット社外 取締役を務める。著書『エンジニアのた めのマネジメント入門』 ©2025 Joystruct Inc. 2

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あなたにとって事業貢献は、 何をすることですか? ©2025 Joystruct Inc. 3

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開発の納期を守った ©2025 Joystruct Inc. 4

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技術的負債を返済した ©2025 Joystruct Inc. 5

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開発生産性を高めた ©2025 Joystruct Inc. 6

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プロダクト目標を達成した ©2025 Joystruct Inc. 7

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個人目標を達成した ©2025 Joystruct Inc. 8

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事業に貢献できたのか? 開発の納期は守ったが、商談は失注に終わった 技術的負債を返済したが、サービス自体が終了した 開発生産性は向上したが、売上には結び付かなかった プロダクト目標は達成したが、セールス目標は未達だった 個人目標は達成したが、事業は何も変わらなかった ©2025 Joystruct Inc. 9

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事業貢献から遠ざかってしまったことも バーンアウト 障害の多発 人間関係の悪化 組織の対立 大量退職 ©2025 Joystruct Inc. 10

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事業に向き合うために足りなかったこと エンジニア・マネージャー・部門長・役員・経営者。 それぞれの立場から「事業貢献」をふりかえると、基本が足りていなかった。 事業とエンジニアリングのつながりを理解していない 企業と組織のしくみを理解していない 事業とビジネスの知識が足りていない ステークホルダーとの関わりを大事にしていない ©2025 Joystruct Inc. 11

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事業貢献に必要な4つこと Connection 事業とのつながり Organization 企業と組織 Domain 事業とビジネス Engagement ステークホルダーとの関わり ©2025 Joystruct Inc. 12

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「CODE」を読む Connection Organization Domain Engagement ©2025 Joystruct Inc. 13

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Connection 事業とのつながり ©2025 Joystruct Inc. 14

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エンジニアリングと事業 の距離 エンジニアリングの業務と事業には距離 がある。 ソースコードを書くことで、どの程度事 業に貢献するのか、その見極めは難し い。 Connection - 事業とのつながり ©2025 Joystruct Inc. 15

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事業を測る指標 事業にはその活動を測る先行指標と結果指標がある。 売上指標の例 売上 LTV 最⼤化 顧客体験向上 注⽂単価 注⽂頻度 注⽂単価 アップ率 平均注⽂単価 購⼊サイクル メルマガ 設定者数 NPS 配送時間 クロスセル率 リピート率 定期購⼊ 継続期間に 関する指標 アップセル率 結果指標 先⾏指標 Connection - 事業とのつながり ©2025 Joystruct Inc. 16

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エンジニアリングは先行指標 エンジニアリングの活動は、販管費や原価に反映されることが多い。 コスト指標の例 コスト 1 オーダーあたりの コストを下げる 原価 販管費 商品費 配送費 仕⼊単価 廃棄率 再配達率 配送単価 開発⼯数 開発⽣産性 CS 対応件数 ... ⼈件費 インフラ費 Connection - 事業とのつながり ©2025 Joystruct Inc. 17

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事業貢献への距離と摩擦 エンジニアリングの活動は先行指標に反映されるが、結果指標までの距離が遠く因子も多 い。距離が遠いほど摩擦によるエネルギーの損失も大きい。 コスト 売上 エンジニアリングの指標 μ Connection - 事業とのつながり ©2025 Joystruct Inc. 18

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経営指標 結果指標のその先、経営者が見ている指標は、さらに遠くにある。 営業利益 売上 原価 販管費 ROE (⾃⼰資本利益率) 当期純利益 ROA (総資産利益率) 貸借対照表 企業価値 ... Connection - 事業とのつながり ©2025 Joystruct Inc. 19

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目標の活用 私たちの身近にある「目標」は、事業のつながりを確認するための道具になる。 目標の構造 コスト予算 売上⽬標 経営⽬標 プロダクト⽬標 部⾨⽬標 チーム⽬標 個⼈⽬標 Connection - 事業とのつながり ©2025 Joystruct Inc. 20

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日々の活動を事業に接続 目標を活用し事業を俯瞰することで、日々の活動と指標の関連が見え、優先順位をつけられ るようになる。 コスト 売上 エンジニアリングの指標 企業価値 Connection - 事業とのつながり ©2025 Joystruct Inc. 21

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日々の活動は事業貢献そのもの 日々の変化はスプリントに影響し、スプリントはプロジェクト、プロジェクトはプロダク ト、プロダクトは戦略、そしてビジョンへとつながっている。 日々の活動は、先行指標に反映され、結果指標につながっている。 Connection - 事業とのつながり ©2025 Joystruct Inc. 22

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Organization 企業活動と組織 ©2025 Joystruct Inc. 23

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企業の活動 企業の活動のもっとも根本的な構造は、お金を集めてそれを使って事業を行うこと。 資⾦を集める 投資する 利益を上げる 企業の活動 Organization - 企業活動と組織 ©2025 Joystruct Inc. 24

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企業の活動ログ 企業の活動によって、財務諸表が作られる。仕訳データは、組織の活動の事実を記録するイ ベントソーシング。 資⾦を集める 投資する 利益を上げる 企業の活動 資産 負債 純資産 営業CF 投資CF 財務CF 売上⾼ 売上総利益 営業利益 経常利益 税引前当期純利益 当期純利益 フリーCF CS BS PL Organization - 企業活動と組織 ©2025 Joystruct Inc. 25

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組織の活動 組織は、全体的な方向性を示して戦略をたて(ビジョンと戦略) 、具体的な目標を作り計画を 策定し(目標・予算と計画) 、実行してその成果を測定・評価する(実行と測定・評価)を繰 り返す。 資⾦を集める 投資する 利益を上げる ビジョンと戦略 ⽬標・予算と計画 実⾏と測定・評価 組織の活動 企業の活動 Organization - 企業活動と組織 ©2025 Joystruct Inc. 26

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組織のレイヤーごとの活動 組織のレイヤーが異なっても、組織の活動は同じ。縦横にアラインメントされている。 ビジョン チーム戦略 ⽬標 計画 実⾏ 測定・評価 ビジョン 部⾨戦略 ⽬標・予算 計画 実⾏ ビジョン 経営戦略 ⽬標・予算 計画 実⾏ 測定・評価 ボードメンバー 部⾨/事業部 チーム 測定・評価 Organization - 企業活動と組織 ©2025 Joystruct Inc. 27

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企業のフェーズと戦略の関係 スタートアップ企業とエンタープライズ企業では、戦略が大きく異なる。 観点 スタートアップ企業 エンタープライズ企業 投資の方 針 赤字覚悟の先行投資 安定利益重視 成長の期 待 数十倍の成長を数年で求め られる 中長期での持続的成長 株主の期 待 キャピタルゲイン、企業価 値 配当、安定収益、資本効率、企業価値 投資判断 スピード優先、仮説検証、 PMF 財務的妥当性、リスク評価、バリューベース、 非財務価値 Organization - 企業活動と組織 ©2025 Joystruct Inc. 28

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時間 利益 戦略の違いは優先順位に 顕現する たとえば、スタートアップ企業は、売上 のトップラインを増やすことを優先し、 機能の開発に注力する。 開発生産性や人材育成に、投資を控える 傾向がある。 Organization - 企業活動と組織 ©2025 Joystruct Inc. 29

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人材育成に対する投資 人材育成の効果は測定しづらい。投資判断は、経営のポリシーによって決まる。 レベル 評価項目 1:Reaction 学習者に対して、アンケート調査などを行い、研修の満足度を評価する。 2:Learning 筆記試験やレポート、ロールプレイなどを行い、学習者の学習到達度を評価 する。 3:Behavior 学習者へのインタビューや同僚へのアンケートなどを行い、職務における行 動変容を評価する。 4:Results 学習者の成果や組織の業績が、どのような結果になったか評価する。 5:RoI 人材育成にかけたコストに対して、得られた利益を評価する。 Organization - 企業活動と組織 ©2025 Joystruct Inc. (表: ジャック・フィリップスの5段階評価法) 30

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目に見えない価値 ブランド、知財、技術、文化など、目に 見えない価値は、企業価値につながる。 エンジニアリングもここに接続できる が、その距離はもっと遠い。そこに投資 するべきかは、企業のフェーズや財務状 況によっても異なる。 Organization - 企業活動と組織 ©2025 Joystruct Inc. 31

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Domain 事業活動とビジネス ©2025 Joystruct Inc. 32

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ビジネスの知識 業界の知識 ソースコード 事業の知識 業務の知識 アーキテクチャ エンジニアリングはドメ イン知識が必要 事業とエンジニアリングが分断している と、事業貢献はできない。 ドメイン知識をどれだけ理解するかで、 成果の質が大きく変わる。 Domain - 事業活動とビジネス ©2025 Joystruct Inc. 33

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ビジネスモデル ビジネスモデルは次の4つ構成要素からなる。 商流 物流 金流 情報流 ビジネスモデルは、自社の市場におけるポジショニングを理解するのに役立つ。 Domain - 事業活動とビジネス ©2025 Joystruct Inc. 34

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ビジネスモデルの型 ビジネスモデルの型は様ざま。あなたの会社はどのようなビジネスモデル? 型 説明 EC型 物販サイト運営、自社 or モール型 SaaS型 クラウド経由で提供、月額・年額のサブスク型収益 プラットフォーム型 出品者と購入者をつなぐ手数料収益 広告型 メディア/SNS広告モデル SIer型 受託開発+保守運用 ... ... Domain - 事業活動とビジネス ©2025 Joystruct Inc. 35

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ビジネスモデルの例 Amazon Go 当初は、 Just Walk Out 技術が競 合優位性の源泉だった その後、 AWS にて Just Walk Out 技術を提供する「SaaS 型の外販ラ イセンス」のビジネスモデルに方 向転換した Domain - 事業活動とビジネス 画像出典元<近藤哲郎『ビジネスモデル2.0図鑑』 (中経出版・2018年)> 36

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⾃社 Company 競合 Competitor 顧客 Customer 市場 自社と顧客と競合を分析し、市場におけ る事業の強みと機会を認識する。 Domain - 事業活動とビジネス ©2025 Joystruct Inc. 37

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競合優位性 事業の中核領域にリソースを集中するこ とで、競合優位性を得て、事業貢献を高 める。 Domain - 事業活動とビジネス 画像出典元<Vlad Khononov『ドメイン駆動設計をはじめよう: ソフトウェアの 実装と事業戦略を結びつける実践技法』訳・増田亨・綿引琢磨(オライリー・ジ ャパン・2024年)> 38

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Engagement ステークホルダーとの関わり ©2025 Joystruct Inc. 39

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エンジニアリングのステークホルダー エンジニアリングの活動は、さまざまなステークホルダーとの関わりで成り立っている。 ⾃分 マネージャー 他部⾨ 経営 顧客 Engagement - ステークホルダーとの関わり ©2025 Joystruct Inc. 40

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企業のステークホルダー 企業は、さらに多くのステークホルダー と関わりを持つ。 Engagement - ステークホルダーとの関わり 画像出典元<新井和宏『持続可能な資本主義』 (ディスカヴァー・トゥエンティワ ン・2017年)> 41

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立場による違い ステークホルダーによって立場が違い、見ている指標も異なるため、事業貢献の認識がズレ やすい。 ⾃分の 「事業貢献」 ステークホルダーの 「事業貢献」 Engagement - ステークホルダーとの関わり ©2025 Joystruct Inc. 42

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組織を通じて協働する 組織図だけではない組織の実態を見るこ とで、人それぞれの立場や役割を理解す る。 自らの役割を超えて協働することで事業 貢献を目指す。 Engagement - ステークホルダーとの関わり 画像出典元<佐藤大典『エンジニアのためのマネジメント入門』 (技術評論社・ 2023年)> 43

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相手の立場に立つ ステークホルダーを理解するうえでは、 実際に相手の立場に立つことが一番早 い。 たとえば、開発した製品が売れないと き、セールスの現場に同行してみると、 モノを売る難しさを実感する。 Engagement - ステークホルダーとの関わり ©2025 Joystruct Inc. 44

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経営者に寄り添う 自分たちを「理解してほしい」は不確実。自分たちを理解してもらうのではなく、相手を理 解しにいく。 エグゼクティブ採⽤ 資⾦調達 キャッシュフロー 売上・利益率 事業ポートフォリオ M&A 中期経営計画 法規制 アクティビスト 株主総会 Engagement - ステークホルダーとの関わり ©2025 Joystruct Inc. 45

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自己組織化した組織 誰もが経営者として事業貢献を目指す状 態こそ、自己組織化した組織のさらに先 だと考える。 経営から預かったリソースを活用し、企 業にレバレッジを効かせる。 Engagement - ステークホルダーとの関わり ©2025 Joystruct Inc. 46

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「CODE」を読むことで事業がより近くなる C onnection: 事業とのつながり O rganization: 企業活動と組織 D omain: 事業活動とビジネス E ngagement: ステークホルダーとの関わり ©2025 Joystruct Inc. 47

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行動のためのヒント ©2025 Joystruct Inc. 48

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行動チャート Y Y ⾃社の 競合 を 理解している Y ⾃社の ビジネス モデル がわかる ⾃社の 競合優位 性 を認識してい る 財務諸表を⾒る Y N ⾃社の 経営戦略 を理解している 決算資料を⾒る Y N ⾃社の 財務状況 を把握している N Y 事業部/プロダクト /全部⾨ の ⽬標 を 把握している ⽬標を理解 Y N ステークホルダー を理解している N Y エンジニアリング の ⽬標 がある ⽬標を作る 事業貢献の 優先順位を つけて ⾏動! 会話する 競合⽐較をする N 業界調査をする N N ビジネスモデルを 可視化する ©2025 Joystruct Inc. 49

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ケーススタディ 1on1を通じて、事業貢献の距離を縮める 企業価値を高める文化づくり 技術的負債を借りるとき、返すとき 事業に合わせたソフトウェアアーキテクチャ コードを書くとき、書かないとき ©2025 Joystruct Inc. 50

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まとめ ©2025 Joystruct Inc. 51

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まとめ エンジニアが事業に向き合うために必要な4つのこと Connection: 事業とのつながり エンジニアリングと事業の距離を理解する 目標を活用して事業との接続を確認する 日々の活動が事業貢献につながることを認識する Organization: 企業活動と組織 企業の根本的な構造(企業の活動)を理解する 組織のレイヤーごとの活動を把握する 企業のフェーズによる戦略の違いを認識する ©2025 Joystruct Inc. 52

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まとめ エンジニアが事業に向き合うために必要な4つの要素 Domain: 事業活動とビジネス ドメイン知識はエンジニアリングに不可欠 自社のビジネスモデルを理解する 市場における自社のポジショニングを把握する Engagement: ステークホルダーとの関わり 多様なステークホルダーの立場を理解する 相手の立場に立って協働する 経営視点を持って自己組織化した組織を目指す ©2025 Joystruct Inc. 53

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事業貢献への道筋 エンジニアリングの活動は、技術的な成果だけでなく、事業全体への貢献を意識すること で、より大きな価値を生み出せる。 「CODE」を読んで行動することで、エンジニアとしての事業貢献がより確実になる。 ©2025 Joystruct Inc. 54

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あなたにとって事業貢献は、 何をすることですか? 自分の事業に向き合おう ©2025 Joystruct Inc. 55

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ご清聴ありがとうございました Daisuke Sato | Joystruct Inc. ©2025 Joystruct Inc.