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分断を乗りこえる アジャイル開発のための 可視化 株式会社講談社・KODANSHAtech合同会社 長尾洋一郎 天重誠二 2024/3/8

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講談社の課題 2024/03/08 分断を乗りこえる - 2 講談社の特色: 「総合出版社」であること ● 「雑誌」を中心として発展=各「編集長」に、 絶対的とも言える意思決定権がある。 ● それぞれ様式の異なる城に、歴史・文化の異な る領主(編集長)と領民(編集部員)がいるよ うな状態。 ● 意思決定や、ちょっとした日々のオペレーショ ンの方法論もバラバラ。 ⇨ 2010年代まで、各編集部はバラバラに、それぞれ の努力によってWEB施策に挑戦。しかし… ⇨「やりきれずベンダー丸投げ」「深まらない知 見」「片手間・他人事化」が常態化していた。

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内製化は「いちメディア」 から草の根でスタート 現代ビジネスが1億PVを目指していた2017年頃、「記 事量産以外にウェブメディア成長の方法はないのか」と 模索するなかで、みずからUXを設計する内製技術チーム を持つ動きがはじまる。 はじめは、会社公認でもなく、現場発で動き出した有志 =草の根にすぎなかった。 2018年、会社のチームとして正式に位置付けられ、 FRIDAYデジタルを完全内製化。 この頃は、フロント2名、フルスタック1名、バックエン ド1名程度のチーム。その体制で、4ヵ月ほどでメジャー ブランドのメディアを作っていた。 2024/03/08 分断を乗りこえる - 3

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出版カルチャーの「分断」 を超えはじめる 本来は「男性ジャーナリズム誌」の部署から自然発生し た草の根チームだったが、やがて新規事業や女性誌系メ ディアも扱うことに。 2023年までに、VOCE、ViVi、with digital、FRaUなど も担当。 クラウドファンディングサービス「ブルーバックスアウ トリーチ」なども開発・運営。 さらにウェブメディア向けのコミックリーダーや特典動 画配信サービスなど、多分野の開発を手がけるように。 2024/03/08 分断を乗りこえる - 4

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「仲間」としての 内製化チームを成立させる 装置=KODANSHAtech社 もちろん、非技術の企業にとっては、開発の専門的知見 や新技術商材を持つ外部ベンダーとの協業は必須。 一方で技術を「縁遠いもの」「自分とは関係ないもの」 と規定したままで事業を行っていくことは、少なくとも コンテンツビジネス=情報を届ける産業においては、み ずからビジネスに「限界」を作ることに他ならない。 そこには「発注・受注」の関係性ではない、「仲間」と しての専門家が必要。 ⇨ そうした人材をグループとして安定的に確保する枠組 みとしてKODANSHAtech社を発足させた。 発注・受注の関係のデメリットとは… ● 発注側に知見が貯まらず、的外れ・思い つきによる指示を繰り返す。 ● 上記により、全般的に開発方針やその後 の運用体制構築を丸投げしてしまう。 ● サービスの継続運用のフェーズで、発注 元の参加意識の低さがアダになり、継続 改善が行えない。 ● 全体の開発進行と関係ないタイミングで 「ただやりたいことを投げるだけ」とな り、それが早期に実現できないフラスト レーションから協業先を変えるなど不毛 なコミュニケーションサイクルに陥る。 ● 受注側も「仕事」として参加する形にな るので、不毛な発注に対しても「はいは い」と反発せずに受けれてくれてしまう 場面がある。結果、サービスにとってベ ストな選択が行われない。 2024/03/08 分断を乗りこえる - 5

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「編集部」単位の意思決定では成立しなかった 「横展開」の主体を目指して 🟠 メディア事業のドメイン知識を横展開し、全体の開発・運用効率を あげていく。 🟠 社内的な標準技術選定を行う主体として積極的に動くことで、知見 を共通化し、サイロ化を防ぐ。 結果、新規サービスの立ち上げ効率も大幅にアップするなど、会社全体のデジタル施策への対応 力が大幅に向上した。 ⇨ Datadog導入も、監視のスタンダードを作っていくための試みのひとつ。 2024/03/08 分断を乗りこえる - 6

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分断を乗り越える: 実践編 01

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about me ● 天重誠二(あましげせいじ) ● KODANSHAtech 3年目 ● おもにサーバーサイドをやっていますが、わりと 何でも屋です 2024/3/8 分断を乗りこえる - 8

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2024/3/8 分断を乗りこえる - 9 PV: 2500万 UU: 360万 セッション数: 500万

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2024/3/8 分断を乗りこえる - 10 Webメディアって記事を投稿するだけで単純ですよね? GET https://i-voce.jp/feed/3191777/ HTTP/2 200 content-type: text/html;charset=utf-8 content-length: 196321 …

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2024/3/8 分断を乗りこえる - 12 システムは複数のコンポーネントの組み合わせ マイベスコス ➔ コスメDBからコスメ データの取得・保存 ➔ コスメ検索に検索エン ジンが必要(検索エン ジンは Piano) コスメトレンド ➔ WordPressでコスメを 検索して保存 ➔ ページの表示じたいは WordPressから表示

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編集部 2024/3/8 分断を乗りこえる - 13 他のグループ会社 KODANSHAtech(+α) 編集業務のサブシステム 編集・企画・記事の制作 SNS担当 コスメDB管理 techチーム データ分析 編集長

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編集部 他のグループ会社 編集・企画・記事の制作 SNS担当 コスメDB管理 データ分析 編集長 Cosme DB Word Press Re:dash Bigquery techチームが業務とどう関わるか 2024/3/8 分断を乗りこえる - 14 KODANSHAtech(+α) techチーム

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2024/3/8 分断を乗りこえる - 15 会社Aが開発 会社Bが開発 会社Cが開発 内製 AWS (別の人) 内製(データ管理)

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なんかバグってるみ たいですけど、どう なってますか? 調べてみたけどわか んないっすね〜 B社さんに聞いてみて は? 問題になるようなロ グはないですね! 2024/3/8 分断を乗りこえる - 16

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なんかバグってるみた いですけど、どうなって ますか? 調べてみたけどわかん ないっすね〜 B社さんに聞いてみて は? 問題になるようなログ はないですね! なんもわからん
 なんもわからん
 なんもわからん
 2024/3/8 分断を乗りこえる - 17 情 報 の 壁 情 報 の 壁

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システム(広義に定義)を設計するあらゆる組織は、組織のコミュニケーション構 造をコピーした構造を持つ設計を生み出す。 
 https://www.melconway.com/Home/Committees_Paper.html 2024/3/8 分断を乗りこえる - 18

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ある組織がそのコミュニケーション構造において 完全に柔軟でない限り 、その 組織は生み出すすべてのデザインにおいて、自分自身のイメージを刻印する ことになる。組織が大きくなればなるほど、柔軟性は低下し、その現象は顕著に なる。
 https://www.melconway.com/Home/Committees_Paper.html ある組織がそのコミュニケーション構造において 完全に柔軟でない限り 、その 組織は生み出すすべてのデザインにおいて、自分自身のイメージを刻印する ことになる。組織が大きくなればなるほど、柔軟性は低下し、その現象は顕著に なる。
 https://www.melconway.com/Home/Committees_Paper.html →コミュニケーション構造に柔軟性があれば、組織が生み 出すデザインは組織と似ない 2024/3/8 分断を乗りこえる - 19

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すべてを「見える化」する
 同じ会社で働くスタッフ全員に、同じ一つの目標に向かって ともに歩いてほしいと思う。情報の縄張りをいくつも作ってまと まりを失えば、仕事の勢いは鈍る。疑心や不信も生まれる。 組織は分裂し、重要事項を知っている上層部と、やっている 本人も理解できない、謎に包まれた仕事の断片を言われるま まこなすだけの層に分断されてしまう。まったく無意味だ。 
 『スクラム 仕事が4倍速くなる”世界標準”のチーム戦略』 p.201 2024/3/8 分断を乗りこえる - 20

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課題のまとめ ● 業務の境界にあわせて組織が存 在していた ● この境界を区切りにして、シス テム境界も存在した ● 組織の分断がそのままシステム の分断であり、情報がそのなか で不可視化していた 2024/3/8 分断を乗りこえる - 21

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取り組んだこと 2024/3/8 分断を乗りこえる - 22

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2024/3/8 分断を乗りこえる - 23 コミュニケーション状況を改善する ● デイリーミーティングを開催。スプリン トの進捗報告がメインだが、雑談もする ○ リモートワーク特有の問題もあり、慢性的なコ ミュニケーション不足に悩まされていたのもあ ります ● スプリント計画、スプリントレビュー、 レトロスペクティブなど、スクラムに 則った会議を定期的に開催する ● 編集部との定例をもつ

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設計・実装情報の共有 ● 各サブシステムを横断して、メンバー が設計・実装情報を獲得できるように する ● 相互レビュー ● 設計情報の調査と共有 ● 関係会社でも可能なかぎり設計情報を 共有する 2024/3/8 分断を乗りこえる - 24

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運用の改善・Datadogの導入 ● ビルド自動化と短期間リリースサイク ルができるようにする(CI/CD) ● システムコンポーネント境界を跨い で、ログ・トレースを確認できるよう にする=>Datadogの導入 ○ あるページが表示できないとき、 WordPressのエラーなのかCosmeDBの エラーなのか検索エンジンのエラーなのか 判断できなかった ○ 設計情報の共有だけでは実際のシステムの 結合時の振る舞いはわからない。 2024/3/8 分断を乗りこえる - 25

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なぜDatadog? ● カンバンなどの情報はほとんど Notion に集約しているが、参加メンバーの 意見でそのまま変更できる ● Datadog の導入もこれとほぼ同じ理由で、メンバーが参加して gradual に やり方を変えていくことができる ● 業務のための情報システムは、改善して使いやすくしていくことが必要で、 可塑性があって理解しやすいのはかなり重要度が高い 2024/3/8 分断を乗りこえる - 26

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取り組み ● コミュニケーションを積極的に とる枠組みを採用する ● メンバーがどのリポジトリに対 しても知識を獲得する ● 運用時のシステム内部情報を可 視化し、メンバーがいつでも見 ることができるようにする 2024/3/8 分断を乗りこえる - 27

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どうなった? 2024/3/8 分断を乗りこえる - 28

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● APMを確認、原因となる箇所をす ぐに特定できた(一次対応) ● 検索条件をURLに含めることがで きるので、アドホックな検索条件 でも問題とする現象を共有しやす い 2024/3/8 分断を乗りこえる - 29

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● 翌日には根本原因を特定( join で想 定しない行数になったところを group by していた) ● この日は休日だったので業務指示 はないが、メンバーが適当に Datadogを検索して原因特定して くれた様子 ● スロークエリを特定できるように ダッシュボードを整えようという 提案があった 2024/3/8 分断を乗りこえる - 30

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取り組みの結果 ● 障害の分析が容易になっただけで なく、分析過程の共有が可能になっ た ● 情報共有の過程で、各メンバーが 全体の振る舞いを把握し、理解を深 めることができるようになった ● 状況に応じて主体的に判断すること がしやすくなった 2024/3/8 分断を乗りこえる - 31

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2024/3/8 分断を乗りこえる - 32 同じ会社で働くスタッフ全員に、同じ一つの目標に向かってともに歩いてほしいと思う。情報の縄張りをいくつ も作ってまとまりを失えば、仕事の勢いは鈍る。疑心や不信も生まれる。組織は分裂し、重要事項を知ってい る上層部と、やっている本人も理解できない、謎に包まれた仕事の断片を言われるままこなすだけの層に分 断されてしまう。まったく無意味だ。 


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2024/3/8 分断を乗りこえる - 33 すべての仕事をガラス張りで見えるようにしたため、複数のチームで仕事を分担できた。メンバーがそれぞれ 何をしているのか、皆が常に把握できた。誰かが問題にぶつかれば助け合った。一人が問題を抱えていて も、別の誰かが同じ問題を経験済みなら、解決策を教えることもできる。同じチームのメンバーでなくてもそれ ができるのだ。(...)これが透明化の力だ。 


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ご静聴ありがとう ございました 分断を乗り越える: アジャイル開発のための可視化 2024/3/8