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重力プログラミング入門 第4回 ~理論としての物理・数学をプログラミングして、動かし、世界を楽しむ~ スペースコロニーを建造する 第1部:惑星間の重力と宇宙空間における物体配置 2018/03/11 ver 0.5作成 2018/03/16 ver 0.9作成

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1 今回セッションの趣旨 宇宙空間に、スペースコロニーを配置 する際の基本理論を説明し、コード化 の前段である「数式」を紐解きます その後、 「数式をコード化する様 を見ていただき、物理 や数学のコード化が 思った以上にカンタン」 ということを実感していただきます 最後に、スペースコロニーの配置以外 のトピックをご紹介したいと思います

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2 1. 宇宙空間に物体を配置する 2. ラグランジュ点 L1/L2/L3 3. ラグランジュ点 L4/L5 4. 配置以外に宇宙空間で考えること 5. スペースコロニー内では… 6. 物理・数学をプログラミングする世界 目次

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3 1.宇宙空間に物体を配置する

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4 1.宇宙空間に物体を配置する 未だ、重力をコントロールする術を持たない人類は、以下2つの 方法で、宇宙空間への物体の定常的な配置をします ① 単一惑星の重力で落下しても着地させずに済む横方向 への移動速度 (第1宇宙速度) で周回させ続ける ② 周回する複数惑星の重力が均衡する位置に配置する 重力プログラミング 第1回でご紹介した「人工衛星」は、①の例 であり、今回のテーマである「スペースコロニー」は、②の例です

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5 1.宇宙空間に物体を配置する 周回する惑星間の重力が均衡する位置として「ラグランジュ点」 もしくは「ラグランジュポイント」と呼ばれるものが有名です 2つの惑星が、両者の重心を中心として、各々、円軌道で回って いる場合、惑星と比べ、質量が無視できる小さな第3の物体を 軌道面内に置くと、2惑星と相対位置を変えずに回り続ける5点 (L1~L5) が存在し、これを「ラグランジュ点」と言います 公転方向

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6 1.宇宙空間に物体を配置する 地球と月を2惑星として、質量が無視できる小さな第3の物体を スペースコロニーとし、宇宙空間に配置したのが、ガンダムシリーズ における「サイド」で、5点のラグランジュ点に、サイド1~サイド8の 計8つのサイドを配置していました 月の裏側にあるのが ジオン公国発祥の地 となったサイド3 (L2) 月と同一軌道上の サイド7でガンダム 大地に立つ (L3)

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7 1.宇宙空間に物体を配置する ガンダムの物語中では、中心となるサイド3およびサイド7ですが、 5点の中で不安定な点である「L2」および「L3」に存在しています L1/L2/L3は、2惑星の直線上にあるため、少しでも2惑星に 近づく方向にズレると、惑星の重力に引き寄せられ、均衡を失い やすい一方、「トロヤ点」と呼ばれるL4/L5は、2惑星の重心と スペースコロニーの遠心力が釣り合っており、均衡します L4/L5は、多少の位置のズレが 発生しても、2惑星の重力比が 25倍以上なら、距離変動時の 重力変化カーブが小さいことから、 位置の復元力が発生します (ちなみに地球は月の81倍)

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8 1.宇宙空間に物体を配置する なお、ラグランジュ点L4/L5が継続的に安定していることを示す 例は、フィクションや数式の上だけで無く、実例が存在します 太陽と木星の2惑星と二等辺三角形の位置にある、「トロヤ群」 と呼ばれる数千個を超える小惑星群が、それに該当します トロヤ群が、ラグランジュ点L4/L5にあるのを20世紀に見つけて 以来、継続的に位置が維持されていることが確認しています

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9 2.ラグランジュ点 L1/L2/L3

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10 2.ラグランジュ点 L1/L2/L3 まずは、ラグランジュ点L1/L2/L3に、どのような力学が働いて いるかを確認しましょう 最もカンタンなL2/L3で説明しますが、「直線上に並ぶ地球と 月の重力の合力」で落ち続ける中、合力と直角方向の速度が 維持されることで、地表へ落ちずに周回し続けます これは、重力プログラミング入門#1の人工衛星と類似してます F Fcosθ Fsinθ

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11 1.「横に投げたボール」と「人工衛星」は同じ ボールを真横に投げると、途中までは水平に飛んで行きますが、 やがて水平方向の勢いを失って、重力に従って地上方向に落ち ていき、最後は地上に着きます GPSを積んだ人工衛星は、このボールの水平飛行が続いたよう なもので、重力に従って地上方向に落ち続けてはいるが、速度 が維持されているため、地上に着かず、周回し続ける訳です この速度のことを、「第1宇宙速度」と言います = 再掲

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12 2.「万有引力の法則」 あらゆる2つの物体間には、お互いを引き合う力、つまり「引力」 が発生しており、引力は、以下2つの条件が成り立ちます ➢ 各物体の質量の乗算に比例する (重い程強く引き合う) ➢ 物体間の距離の2乗に反比例する (離れると弱まる) 質量当りにかかる引力の強さを「G 」※、物体の質量を「M 」「m」、 物体間の距離を「r 」とすると、物体間の引力は、以下となります ※「万有引力定数」と呼びます 【Column】 「重力」とは、引力に「自転の遠心力」を合わせた力を指します 宇宙空間を扱う天文学・宇宙開発では割愛し、「重力」=「引力」と扱います F = G Mm r 2 再掲

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13 2.人工衛星の位置を示すxy軸座標 以下は、地球の中心を0地点とした、人工衛星のxy 座標です 人工衛星の軌道は、「運動方程式」により、以下の通りです ma = F 加速度a を、x 軸・y 軸に分けることで、移動速度を出しましょう x α θ y F Fcosθ Fsinθ r Position( x, y ) 人工衛星の座標 0 ※m は人工衛星の質量、a は加速度 再掲

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14 2.引力と人工衛星の位置から移動速度を計算 ma はmdx とmdy という偏微分に分割し、F は直交座標(xy 座標)から極座標(方向F と角度θ で表現される座標)へと変換 します mdx = -F cosθ, mdy = -F sinθ F を前述した引力に展開し、cosθ, sinθ を人工衛星位置x, y と人工衛星までの距離r で表現すると、以下の通りです mdx = -G ・ = -G mdy = -G ・ = -G Mm r 2 x r Mmx r 3 Mm r 2 y r Mmy r 3 ※方向F は、0地点から外側に向かって いればプラス、逆方向ならマイナスと なるため、この場合はマイナスとなる 再掲

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15 2.引力と人工衛星の位置から移動速度を計算 両辺のm を削除したものが、移動速度になります dx = -G , dy = -G 地球が0地点なので、r は、x とy から計算できます r = √ x + y G およびM は、以下の通りです ➢ 万有引力定数 G = 6.67259 x 10 m / s ➢ 地球の質量 M = 5.974 x 10 kg GM = 1.267 × 10 km / s Mx r 3 My r 3 2 2 -11 3 2 24 8 3 2 再掲

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16 3.公転軌道をJavaScriptでプログラミング 前章で紐解いた、人工衛星の移動速度を用いて、人工衛星が 地球周回軌道をグルグルと回るシミュレーションをJavaScirptで 作ってみましょう dx = -G , dy = -G , r = √ x + y この移動速度の数式をコード化した以下は、数式そのままです (最近、関数型しか書いて無いので、状態を持てる・更新できる言語に拒否反応が(-_-u… ) … // 公転対象の位置から重力影響を計算し、速度を変更後、公転対象の位置を移動 moveOnGravityEffect: function() { var r = Math.sqrt( Math.pow( this.x, 2 ) + Math.pow( this.y, 2 ) ); this.dx = this.dx - G * M * this.x / Math.pow( r, 3 ); // x方向の移動速度 this.dy = this.dy - G * M * this.y / Math.pow( r, 3 ); // y方向の移動速度 this.x = this.x + this.dx; // x位置を、x方向の移動速度で更新 this.y = this.y + this.dy; // y位置を、y方向の移動速度で更新 }, … Mx r 3 My r 3 2 2 再掲

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17 2.ラグランジュ点 L1/L2/L3 月の質量M は、以下の通りです ➢ 月の質量 M = 7.346 x 10 kg 月の分の移動速度も、計算式は、地球と同じです dx = -G , dy = -G r は、月との距離になるので、x とy の各々から、月の座標である moon_x とmoon_y を引いて計算します r = √ (x - moon_x) + (y - moon_y) L2/L3は、月の重力分、引っ張られるため、移動速度は月より も大きくなり、間にあるL1は、相殺され、小さくなります 22 Mx r 3 My r 3 2 2

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18 2.ラグランジュ点 L1/L2/L3 地球と月の距離は、以下の通りです (1日15時間、時速5kmで歩き続けたとして、13.9年の距離) ➢ 地球と月の距離 3.844 x 10 km L1/L2/L3の月もしくは月軌道との距離は、以下の通りです ➢ L1 (月の内側に) 5.802 x 10 km ➢ L2 (月の内側に) 6.451 x 10 km ➢ L3 (月軌道の内側に) 2.725 x 10 km なお、この距離は、元JAXA勤務の、歌島 昌由 博士という方が、 高次方程式を高精度で解いた結果※として、発表しています ※NASDA-TMR-960033 宇宙開発事業団技術報告「ラグランジュ点近傍の軌道力学」 5 4 4 3

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19 2.ラグランジュ点 L1/L2/L3 L3にあるスペースコロニーが、月と同じように周回軌道をグルグル 回ります (L1/L2はゴチャゴチャするので割愛)

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20 2.ラグランジュ点 L1/L2/L3 地球の質量を、月と同じくらいに軽くすると、周回軌道を外れて、 どこかへすっ飛んでいってしまいます… この場合、もっと地球の傍に配置する必要があります

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21 2.ラグランジュ点 L1/L2/L3 地球の質量を、太陽と同じくらい重くすると、アッという間に、地球 に吸い寄せられてしまいます

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22 3.ラグランジュ点 L4/L5

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23 3.ラグランジュ点 L4/L5 次は、ラグランジュ点L4/L5に、働く力学を確認しましょう L4/L5は、2惑星が、直線上に並んでおらず、「二等辺三角形 の頂点」の位置で重力が発生するため、その合力は、2惑星の 重心方向 (下図の×) に向きます この重心方向へ落ち続ける中、重心方向と直角の向きの速度 が維持されることで、地表へ落ちずに周回し続けます L4 or L5 月 地球 F

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24 3.ラグランジュ点 L4/L5 2惑星の重心は、2惑星の距離を質量比 (1:81) で分けた点 となりますが、地球の半径が6,371kmなので、重心が地球上に 重なっていることになります (つまり下図は、重心が月側に寄って誇張された図になっている) L4 or L5 月 地球 F 1:81 3.844 x 10 km 5 3.797 x 10 km 5 4,687 km 地球半径6,371kmより内側↑

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25 3.ラグランジュ点 L4/L5 L4/L5の位置が「二等辺三角形の頂点」なら、スペースコロ ニーにかかる2惑星からの重力も、質量比 (1:81) に従います (たとえば地球の質量が軽くなれば、重心も中央に寄っていく) 重心と重力のかかり方が、正比例しているため、各惑星の質量 が変わったとしても、二等辺三角形が維持されることとなります (なお、下図には未記載ですが、L4/L5の外向けの遠心力は、 質量比が大きくなれば強まり、小さくなれば弱まります) 月 地球 81:1

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26 3.ラグランジュ点 L4/L5 L4/L5の軌道は、「二等辺三角形の頂点」であるため、月から 地球の距離と、L4から地球の距離が、円の半径と等しくなります つまり、地球を中心とした、月の軌道と全く同じになるため、軌道 計算は、そのまま流用できます (なんか中高でやる証明問題みたい…私、アレがすごく苦手でした 大人になって、多少、理屈が分かってくると、結構、面白くなるんですけどね)

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27 3.ラグランジュ点 L4/L5 L4/L5にあるスペースコロニーも、月と同じ周回軌道をグルグル 回ります

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28 3.ラグランジュ点 L4/L5 【余談】 今回のような、3つの天体が、重力によって、お互いに影響し合う シチュエーションで、それら軌道を決定する問題は、「三体問題」 もしくは「多体問題」と呼ばれ、解析的には解けない …つまり、 方程式の変形で解くことは不可能… と言われています しかし、3体のうち、1体の質量が、他2体と比べ、無視できるほど 小さい場合は、「制限三体問題」と呼ばれ、特殊解を求めること が可能となります 更に、2体の軌道が、円軌道である場合、「円制限三体問題」 と呼ばれます 今回のラグランジュ点は、この「円制限三体問題」に該当します

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29 4.配置以外の宇宙空間で考えること

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30 4.配置以外の宇宙空間で考えること 以下のようなことを考察します (続編をお楽しみに) ① スペースコロニーにかかる遠心力 ② スペースコロニー周辺の重力場 (上面、下面、側面) ③ 重力を発生させるための回転 ④ 構造材料選定・輸送 (打ち上げ、マスドライバー射出) ⑤ 外壁・太陽発電・ガラス強度 (デブリ、重力場、遠心力) ⑥ ガラスの紫外線カット ⑦ 太陽発電の運用/電力コンティンジェンシー ⑧ 外壁・太陽発電・ガラスのメンテナンス ⑨ 外壁・太陽発電・ガラスの破損コンティンジェンシー ⑩ ラグランジュ点の軌道から逸れた場合の復元プラン ⑪ 想定外挙動時のトラブルシューティング/救援体制維持

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31 5.スペースコロニー内では…

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32 5.スペースコロニー内では… 以下のようなことを考察します (続編をお楽しみに) ① 大気、空気の波 (圧縮性流体)、漏出率、音波 ② コロニー内重力、陸地、コロニー内飛行 ③ 陸地、地震 ④ 陸地の太陽照射に伴う窓風「ウインドウウインド」 ⑤ 気象 ⑥ 海洋、圧力影響、海の波 (非圧縮性流体) ⑦ 移住者の衣食住、経済活動 ⑧ 移住者の心理面影響 ⑨ コロニーと地球の政権、自治・独立 ⑩ 戦争対策、「コロニー落とし」への対策

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33 6.物理・数学をプログラミングする世界

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34 6.物理・数学をプログラミング世界にようこそ 今回は、スペースコロニーの宇宙空間での配置を考えるにあたり、 「ラグランジュ点」と「各点における重力影響」についての理論を 解説し、数式を紐解き、プログラミングしてみました 「理論→数式→プログラミング」の流れが、「なんとなく難しく無い かも?」と思っていただけたら、この入門としては大成功です 数式の紐解きの中で、偏微分や座標系の変換等、数学のテク ニックが幾つか出てきましたが、頻出するパターンは決まっている ので、一歩ずつ理解し、慣れていけば、抵抗感は無くなります 数式からコードに落とす点も、思った以上にスンナリだったのでは 無いでしょうか?機械学習などでも、これは同様の感覚です これからも物理・数学のプログラミングを楽しんでください!