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学習指導要領から職場の 学びを考えてみる 2024/8/24 スクラムフェス仙台2024 おがさわら(@bonbon_0605) aki.m(@Aki_Moon_)

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自己紹介

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自己紹介 • おがさわら(@bonbon_0605) • KDDIアジャイル開発セン ターで働いています • スクラムフェス仙台は初回 から現地参加しています • (裏でワークショップやっ ているので遅れて参加しま す) • aki.m (@Aki_Moon_) • というアジャイルチー ムに所属 • スクラムフェス仙台に現地 参加するのは初めて 「学びと心理学」コミュニティで一緒に活動しています! https://educational-psychology.connpass.com/

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職場で学ぶ場を作るときに起きがちなこと

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職場では時間や人の制約で一方通行の学びの場が形成さ れて効果的な学習が困難になることが多い • 得意領域の差異 • 学ぶstepの差異 • 興味関心を持つ領域の差異 個々人の学習特性 • 業務で行える勉強会の時間は極わずか • 過去教材を踏襲 • 限定的な質問対応 • “教えてあげる”人の過大評価 • ”教えてもらう”人の萎縮 • 一方通行のコミュニケーション “上下”関係 時間の限界

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解決の糸口として 学校教育で使われる学習指導要領を見てみる

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教育基本法では、社会に羽ばたくために必要な能 力が教育課程で育まれることを目標としている 知性 社会性と倫理観 身体と労働 世界への理解 ・幅広い知識と教養 ・真理を求める態度 ・豊かな情操と道徳心 ・自主及び自律の精神 ・個人から生まれる創造性 ・健やかな身体 ・職業と生活の関連 ・勤労を重んずる態度 ・日本の伝統と文化の尊重 ・他国に対する尊重 ・国際平和への寄与 ・生命や自然への尊敬 ・環境保全への寄与 ・自他の敬愛と協力 ・正義と責任 ・男女の平等 ・社会発展に寄与する態度 教育基本法. 平成18年12月22日. 法律第120号. https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html

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学習指導要領では、多様性を集積して課題解決す るスキルを教育基本法に加えて身につけることを 重要視している これからの学校には,こうした教育の目的及び目標の達成を目指しつつ, 一 人一人の児童が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者 を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的 変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となる ことができるようにすることが求められる 学習指導要領. 前文(小学校/中学校/高校共通). 令和2年4月1日施行. 文部科学省告示第63号. https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html 個々人の多様性 価値ある 他者との協働 ×

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個々人の多様性をかけ合わせて困難な課題を協力して解 決できる子供を育てるために「個別最適な学び」と「協 働的な学び」が生まれた 多様な子供たちを誰一人取り残すことなく育成する「個 別最適な学び」と、子供たちの多様な個性を最大限に生 かす「協働的な学び」の一体的な充実が図られることが 求められるとされています 学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料. 令和3年3月. 文部科学省初等中等教育局教育課程課. https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/mext_01487.html

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「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実践している 教育現場では、友達と協力して自分の好きな学び方で好 きなペースで学びを深める

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11 学びの動機づけ テストの成績などではなく、子供から自主的に生まれる内発的な動機を重視する 03 個々人の興味関心領域への知識活用 思考力、判断力、表現力をはじめ、家庭環境などに起因して差異が生じやすい知識を個々人の興味関心 領域に適用 02 基礎知識の効率的な伝達 個別学習、グループ別学習、繰り返し学習など学習習熟度に応じて学習 01 個々人の興味や特性に合わせて個別化された 学習活動を営むことが個別最適な学び 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)【本文】. 令和3年1月26日. 中央教育審議会. https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_2-4.pdf

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個別最適な学びはダイバーシティとインク ルージョンの考え方にも影響されている 教育なし 従来型の一斉教育 個別最適な学び 知識に格差が存在 ・一斉授業で平等に知識提供を行うが、格差は依然 として存在 ・テスト結果でクラス分けした後に一部の子供には 個別授業をする等のアプローチで一定の到達点に全 員が行けるように試行錯誤する ・子供の多様性に応じて 各々の個性を活かせるよ うな環境を形成 ・到達点の多様性を認め、 優劣をつけない 伏木久始 (2023年). 第4章 互恵的に深化・発展する個別最適な学びと協働的な学び.奈須正裕, 伏木久始 編著. 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して. 北大路書房. 102-103

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13 ソーシャルスキル形成 個別最適な学びで学習した内容を深める過程でソーシャルスキルを育む 03 ICTを活用した専門家へのアクセス ICTを活用することで、遠い地域に住んでいる人々や時間の都合が取りにくい専門家と繋がる 02 孤立の解消 個別最適な学びは、個人学習への没頭から他人への無関心を促進する側面がありケアが必要 01 他人との交流を通して学びを深めつつ、人との繋 がりを作りながらソーシャルスキルの形成を測る のが「協働的な学び」 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)【本文】. 令和3年1月26日. 中央教育審議会. https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_2-4.pdf

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個別最適な学びと協働的な学びを実現するた めにはアグレッシブな変化が求められる 知識の定着度よりも知識の活用度を 与えられた学習計画よりも立案した学習計画を 均一的な学ぶプロセスよりも流動的な学ぶプロセスを 友人との競争よりも協調を 教えることよりも環境を整えることを

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https://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/ksuzuki/resume/books/1995rtv/rtv09.html 個別最適な学びと協働的な学びの充実を実践する 教師は役割が変化する 口頭継承モデル 伝達者モデル 情報技術モデル 教師が一方的に知識を伝達 教師が色々な形で知識を伝達し 生徒で伝播 知識はICTが教え、教師は学習環境 と生徒との相互的関係性を構築 経験 知識 経験 知識

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「知識を得る場」ではなく「生きる力を得る場」の 機能が直近の学校教育では目指されている

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教育現場での実践例紹介

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 ソニー子ども教育科学プログラム 2023年度の最優秀校 https://www.sony-ef.or.jp/program/result_school.html テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdf

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdfより引用

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdfより引用

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdfより引用

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdfより引用

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdfより引用 生徒に「実験セットの器具を使って、光にはどのような性質 があるか、自分たちで見つけよう」と伝え、実験セットを渡した。

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdfより引用

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdfより引用

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdfより引用 凸レンズでどうして光が折れ曲がるのか、そしてその光がどうして焦点にすべて集まるのか、その仕組みを理解しきれ ていない生徒も何人かいた。生徒Aはそんな生徒の一人で、教師のもとにやってきた。そして、「先生、凸レンズを使う と光が折れるのは分かるんですけど、どうして全部の光が1か所に集まってくるのかが分かりません。教えてくださ い」と質問をした。 そこで、理解の深まりに違いを感じた状況を踏まえて、班同士が交流し、生徒同士で分からないことを質問し合ったり、 教え合ったりする時間「お尋ねタイム」を設定した。 生徒Aは、お尋ねタイムで教えてもらうことに何度うなずき、質問し終えると満足そうな表情で自分の班に戻っていった。 そして、同じ班の仲間達に教えてもらったことを図に表し、説明することができていた。

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刈谷市立刈谷南中学校/愛知県の事例 テーマ:共創する生徒の育成2023ー多様な他者と共によりよい考えを創るー https://www.sony-ef.or.jp/program/result/pdf/2023_sci_kariyaminami.pdfより引用 単元の最後、生徒たちはこれまでの実験結果や学習内容をもとに、ピンホールカメラの仕組みの解明に迫った。ピン ホールカメラの作りのモデルがかかれたワークシートを用意し、配布すると、どの生徒も熱心にかき込み始めた。そし てほとんどの生徒が、光の道筋を作図し、ピンホールカメラの仕組みを理解することができていた。生徒たちは自分た ちの考察を発表し合い、学級全体で考察を練り上げてい った。

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学習指導要領から得たアイデアを 職場の学習に活かすためのコツ

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個々人の学ぶ能力を信じる 相手を子供扱いせず「信頼」する 人は、学び続ける動物である。なぜそういえるかというと、 人が問題を解いていたり、新しい問題の解を見極めたりす る時どういうことが起きているかを詳細に観察してみると、 人は、何かが少し分かってくると、その先にさらに知りた いこと、調べたいことが出てくることが多いからだ 三宅芳雄、三宅なほみ, 教育心理学概論, 放送大学教育振興会, 2014, p.11

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学ぶ人達がそれぞれにとって 個別最適な学びができる状態にする 多様な学び方に対応した場を作る 認知特性に応じた学びができるようにする 学習計画をカスタマイズする 興味がある分野をきっかけに学べるようにする 人は学んでいく過程で更に学びが深まる 孤立した学びにならないように、 協調して学べる状態を作る

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教えるだけではなく一緒に学ぶ 知っていることをただ教えるだけでは 深い学びに繋がりにくい 教える人自身も 「分からない」ことを見つけて学ぶ 学ぶ姿勢や学ぶプロセスを 一緒に体験しながら教える

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職場における学びの場づくりの例

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事例1:動画を使った学びの場づくり 1. スクフェスなどの動画から観たい動画を個人が決める

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事例1:動画を使った学びの場づくり 2. Slackで一緒に観る人を募集する(2〜5人ぐらいでの実施を想定)

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事例1:動画を使った学びの場づくり 3. Slackやショートミーティングで、レビュー会(※)の日程を決める (※)レビュー会では、各参加者が動画の内容について説明を行う 4. レビュー会までに個別に学習を行う • 動画を観る • 動画のポイントを整理して、レビュー会で話す準備をする • 気になる内容の深堀りなどもこの時間で行う

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事例1:動画を使った学びの場づくり 5. レビュー会を行う • それぞれが準備してきた内容で動画はどんな内容かを説明する(1人2〜3分程度の目安) • 単に感想を言うのではなく、自分が内容を説明するという行為を通じて、それぞれの理解を深める • 同じ動画でも説明が違ってくるため、他者の観点から学びを得られる • お互いの発表が終わった後は、不明点や気付いたことなどを話し合って深堀りをする 6. 動画の感想を記録する • 今後の実施者が参考にできるように、活動のログを残す • 個別の学びをふりかえる

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事例1:動画を使った学びの場づくり 場づくりで意識したこと 個別での学びの時間と協働的な学びの時間を両方つくること • 内容が難しい動画でも、自分のペースで準備をした上で協働的な学びに臨める • 自分で準備した上で他者の観点の意見を聞くと、自分の考えとの違いが理解しやすくなる • 参加者が全員同じ動画を観てきているので、コンテキストが揃いやすく、議論がしやすい 参加者の負担を少なくすること • 無料公開されている動画を活用することで、費用を気にしなくて良い • 動画を観るのは1時間程度なので、時間的な負担も少なく、隙間時間で観ることもできる • レビュー会の発表も簡単な準備で良いことにしている • 集める人数も多くて4人ぐらいなので、MTGなどの調整もしやすい。急用でのリスケも容易 開催者も一緒に学べること • 「教師」「生徒」の関係性になる場ではなく、開催者が学びたいことが学べる

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1. 教材を複数与えて個人で自習する 2. 自習した結果をもとに3-4人でチームを組んで実践演習をする 3. 別のチームを見学し、自分たちが演習で作った成果物にFBを もらう 4. もらったFBをもとにチームでふりかえり、再度演習に取り組 む 5. 経験を個人でふりかえる 6. ふりかえり結果をチームに共有する 事例2:個別最適な学びと協調的な学びを繰り 返す研修

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事例2:個別最適な学びと協調的な学びを繰り 返す研修 場づくりで重視されていること 個別での学びの時間と協働的な学びの時間を両方作る • 個人のふりかえりもチームのふりかえりもある • 自分で準備した上で他者の観点の意見を聞くと、自分の考えとの違いが理解しやすくなる • 個人のペースで学習した内容をチームの中で実践する FBの動線が複数ある • 同じ成果物に対して、色々なチームや人から異なる観点でFBをもらう • 自分たちの学びと比較しながら他者の学びを取り込む 学習の動線が複数ある • 必要最低限の講義は実践しつつ、大部分は個々人の特性を活かして学ぶ時間になっている • 個人で色々な教材を使って学びを深めることも可能だし、チームメンバーやTA, 講師に聞きながら学 びを深めることもできる

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おわりに

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アジャイル開発の中で、協働的な学びだけで なく、個別最適な学びも考えていきたい 学びは個から始まる 個から始まった学びが協働的な学びを通して気付きになり、また個の学習に戻っていく チームで活動するアジャイルチームでは、協働的な学びの場は多い 一方で、個別最適な学びについては、あまり注目されていないのでは 学習特性や学びたい内容など、個に合わせた環境を考えていきたい 例えば、文字で理解しやすい人、絵で理解しやすい人、それぞれを考慮した資料 例えば、いきなりコードを書きたい人もいれば、最初にドキュメントを読みたい人もいる