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2025.08.23 Cursor Meetup Osaka #1 モノタロウでCursorを導入してみた 理想と現実、それと未来 Kotaro Ichihara @ MonotaRO 1

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自己紹介 市原功太郎 (@ichi_taro3 / ichihara-3) ソフトウェアエンジニア @MonotaRO 最近の主な業務 古くなった社内基幹システムリプレース の設計&開発リード AIツールの導入、組織への浸透の作戦立 案 2 © MonotaRO Co., Ltd.

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一言で言うと、 「AIを配るだけでは生産性は上がらない」ので色々がんばる 4 © MonotaRO Co., Ltd.

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ClineからCursorへの移行 5

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モノタロウのAI駆動開発 基本方針: 「大きく導入、後から検証」 2023年〜:GitHub Copilot全社導入 2025年1月〜:Devin、Cline導入開始 2025年2月〜:Cursor評価開始 2025年5月 : Clineの利用者が200人に到達 2025年7月:IDE方針の決定 「AIはインターネット級の変革」という認識 6 © MonotaRO Co., Ltd.

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2025.07.02 モノタロウテックブログ Clineを200人で試してみた 7 © MonotaRO Co., Ltd.

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Cline配ってみた件 2025年1月〜5月の取り組み 仮説: 「全員にAIツールを配れば生産性が上がる」 選定理由: VS Code拡張で導入が容易 APIキー配布で素早く展開可能 (背景: Claude APIの確保ができていた) コミュニティの熱量が高い 導入規模の推移 1月:20名でスタート 3月:100名に拡大 5月:250名まで到達(開発者の半数以上) 8 © MonotaRO Co., Ltd.

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Clineの成果 良かった点 社内アンケートで人気No.1 「新規スクリプト作成が圧倒的に速い」 「調査時間が激減した」 Clineを活用して、エンジニアじゃないメンバーがプログラムを書く事例も登場! 9 © MonotaRO Co., Ltd.

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が、ここで方向転換 ブログより: 10 © MonotaRO Co., Ltd.

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Cursorの採用を拡大する方針に! 11 © MonotaRO Co., Ltd.

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「モノタロウにおけるAI駆動開発ツールの全体方針」を策定 2025年7月1日 12 © MonotaRO Co., Ltd.

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(方針から抜粋) 1. Devin 方針: 当面の間、利用を継続します。 背景・理由: Devinは開発生産性に大きく貢献していると評価されています。 直近では月間約300のプルリクエスト(マージ済みのもの)を生成しており、その費用は約5000ド ルと試算されています(1プルリクエストあたり約2500円) 。 コードレビューも可能であり、開発者の増強に匹敵する貢献があると判断しています。 将来の展望: 年内を目途に継続利用を予定していますが、将来的にCursorのバックグラウンドエージェン ト、Copilot Workspaceなどの代替サービス、新規サービスの登場等により、Devinの優位性が低下し た場合は、方針を見直す可能性があります。 13 © MonotaRO Co., Ltd.

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(方針から抜粋) 2. IDE (GitHub Copilot および Cursor) 方針: 開発者の皆様には、GitHub Copilot(+VSCode)とCursorのどちらかを選択して利用してもらう 方針です。 GitHub Copilot(+VSCode): ベースラインのツールとして位置づけられ、希望すれば開発者は誰でも利用できます。 Cursor: AIを積極的に活用して開発や業務を行うヘビーユーザー向けです。より高度なAIによる開発支援機 能を持ちます 開発者だけでなく、デザイナー、プロデューサー、PMなど、モノタロウのシステム改善業務に携 わる幅広い役割のユーザーも対象となります。 補足: CursorはVS CodeのPython拡張機能の一部が古いバージョンでしか使えない可能性があり、特定 の開発環境でネックになる可能性があります。 14 © MonotaRO Co., Ltd.

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(方針から抜粋) 3. Windsurf 方針: 検証を停止し、当面利用しないこととします。 背景・理由: 2025年6月1日から検証を開始しましたが、モノタロウの開発環境には適さないと判断されまし た。 WSL (Windows Subsystem for Linux) の対応が不十分であることが主たる理由です。 モノタロウの開発で不可欠な「devcontainer on Docker in WSL」が動作しない点が致命 的でした。 WSL自体への接続は可能ですが、安定性が非常に低いという問題もありました。 15 © MonotaRO Co., Ltd.

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(方針から抜粋) 4. Cline 方針: 利用は継続しますが、利用の縮小を促します。 背景・理由: 費用面が高額であることが最大の理由です。ヘビーユーザーの場合、月に数百ドルに達する可能性 があります(例:1日で15ドル使用するユーザーは月換算で300ドルに達する可能性) 。 GitHub CopilotやCursorへの移行を推奨します。 ただし、業務都合などでCopilotやCursorが利用できない場合は、Clineの継続利用も許容されま す。 現在APIキーを保有している方で、1ヶ月以上利用実績がない場合はAPIキーを停止する可能性があ ります。高額な費用を発生させているユーザーの方には、優先的にCursorへの移行を案内しま す。 16 © MonotaRO Co., Ltd.

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なぜCursorを選んだか 17 © MonotaRO Co., Ltd.

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組織でツールを導入するときの観点 コストが「読める」こと 利用状況の「分析ができる」こと 標準として「誰でも使える」こと 現実的に「運用管理ができる」こと もちろんセキュリティなどの要件は前提 18 © MonotaRO Co., Ltd.

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比較して 観点 Cline Cursor コスト管理 従量課金(予測困難) (ちょっと高い) 月$40固定(+従量課金) 観測可能性 APIログのみ 詳細な利用分析可能・ダッシュボード 運用性 APIキー個別管理 コスト・アカウント管理がやりやすい SSO設定可能 使いやすさ 情報は豊富・使いやすい・エージェント特化 情報は豊富・使いやすい・機能が豊富 19 © MonotaRO Co., Ltd.

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他ツールとの比較 なぜWindsurfではないのか WSL環境との互換性が低い Cognition(Devin開発元)買収で今後に期待 なぜClaude Codeではないのか CLI/ターミナルベースで「全体方針」の点では、エントリーハードルが高い PM、デザイナーなど多様なロールには不向き 積極推奨していないが、一部の希望者には提供中 なぜCopilot一本化しないのか ベースラインとしては優秀だが、エージェントの速度・精度の機能差がある。モデル採用のリードタイム も気になる 20 © MonotaRO Co., Ltd.

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AI導入の理想と現実 21

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AIを導入すると生産性は向上するのか 22 © MonotaRO Co., Ltd.

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Devinは確かに効果がある 23 © MonotaRO Co., Ltd.

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Cursor / Cline の効果は...??? 24 © MonotaRO Co., Ltd.

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Cursor(やCline)でPR数が増えない...!? 25 © MonotaRO Co., Ltd.

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観測指標とのズレ 開発者の声... 「開発生産性が上がった!」 「これ無しでは仕事できない!」 発表者自身もCursorによって今の仕事が捗っていると感じている 一方で... 数値上、組織としてPR数は増えていない...? 仮に、AIツールが個人の力を伸ばすなら、個人あたりのPR生産量は増えていそう、 、 、な気がする 26 © MonotaRO Co., Ltd.

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ありそうな可能性 PR数以外の部分に価値が出ている 例) AIによるコードレビューや調査タスクによる品質向上 例) マネージャやリーダー層などの開発への参加 (一人当たりの開発数は増えていないが、コミッター数は増えているのでは) 生産性の向上はあるが、他の仕事に時間を使っている 例) コードレビューの時間が減った分、企画したり、調査したり、PRの品質を上げることに時間 使ったり、Slackを眺めたり 例えば、5%だけ生産性が向上するなら1日8時間として 24分。この時間を果たして使い切 って開発するか...? 季節(PJ)の変動が大きい 会社のシーズンや大きいプロジェクトの進行による変動が大きい 使いこなせていない ... いずれもありそう 27 © MonotaRO Co., Ltd.

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Cursor 130アカウントの実態 現在の利用状況 発行済み:130人 アクティブ:100人 休眠:30人 500 Premium Requestsを使い切る人:10〜20人 月に100 Premium Requests以上使う人:50人 つまり、 「使いこなしている人」は少数...! 28 © MonotaRO Co., Ltd.

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これからどうする。 。 。? 1. 仮説は維持 「AI系ツールを正しく使えれば生産性は上がる」 2. 「使いこなせていない」層を動かす 3. 共有知としてのAIの活用方法を蓄積する 4. 指標と介入をPDCAで回す(利用ログ→セグメント別施策→効果測定) 29 © MonotaRO Co., Ltd.

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Devinだけが明確に効果を出している理由 なぜDevinはすぐに効く? タスクを100%置換するから(5%改善ではなく) 開発タスクの開始から終了までを自律的に動く 並列化を容易に行える 30 © MonotaRO Co., Ltd.

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組織の慣性を動かす仕掛け 31

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抵抗ではなく「慣性」との戦い モノタロウの状況 2023年からCopilot/AIチャットの導入済み → AI自体への抵抗は少ない CTO以下、AI活用を推進 → トップの理解はある では何が問題か? 「日々の業務に追われて触る余裕がない」層の存在 どうやって「動かない層」を動かすか? 32 © MonotaRO Co., Ltd.

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内部ネットワーク効果を作る 狙い: 「使わないと置いていかれる」空気を醸成 個人の成功 ↓ チームへ伝播 ↓ 他チームが真似る ↓ 組織の文化に 必要なのは「ムーブメント」 外部発信も含めて、継続的に語り続けることが重要 33 © MonotaRO Co., Ltd.

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三本柱アプローチ 1. AI駆動開発トレンドラボ 4ヶ月で6回開催、延べ300人以上が参加 最新情報の共有と 座談会形式 → ヘビーユーザーの生の声を届ける 2. DOJO 「帯」制度を備える、社内教育機関 AI系ツールを活用したエンジニアリングの「基準」を作って講座を開催(鋭意準備中) 3. AIエバンジェリスト制度 各チームに配置 現場主導のEnabling、成功事例の横展開 34 © MonotaRO Co., Ltd.

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トレンドラボの進化 初期(講義形式)の限界 300人参加するが「聞くだけ」 知識は増えるが行動変容しづらい 座談会形式への転換 少人数の「エバンジェリスト」に自チームの状況や課題をパネルディスカッション的に語ってもらう 「あの人もやってる/困ってる」を可視化 質問しやすい雰囲気/Slack ナラティブ(物語)として共有 → 形式知化 35 © MonotaRO Co., Ltd.

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これからの挑戦 36

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生産性を10倍にするには 開発生産性を爆上げするには、開発がちょっと早くなるだけでは不十分 増やしたい -> AIに丸投げできるタスク <一番効果が出る/人間のスキルによらない> まあ増やしたい -> 人間がAIを使うタスク <それなりの効果/人間のスキルに依存する> 減らしたい -> 人間だけができるタスク <従来通り/人間のスキルに依存する> 37 © MonotaRO Co., Ltd.

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ソフトウェア開発サイクルの分析のイメージ 開発工程のどこでどのようにAIが活用できるのか、人間を置き換え可能か 1. 実例を集める(社内/社外) 2. 定型化して展開(ノウハウ・ツール作成・サービス導入など) (※ 図の割合は適当なので注意!) 38 © MonotaRO Co., Ltd.

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例: 監視・運用の自動化 事例: Sentry × MCP × AIの連携 エラー検知(Sentry) ↓ 初期調査(MCP) ↓ 修正案作成(Cursor/Devin) ↓ PR作成(Cursor) ↓ レビュー(Human + Cursor) 39 © MonotaRO Co., Ltd.

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組織変革の本質 ツールから文化へ Tool(道具) ↓ Process(プロセス) ↓ Practice(実践) ↓ Culture(文化) 大事なのは ツールの優劣ではない 組織としての学習速度 変化への適応力 40 © MonotaRO Co., Ltd.

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まとめ:3つの学び 1. 配るだけでは上がらない ツール導入 ≠ 生産性向上 使いこなしの格差を埋める仕組みが必要 2. 観測可能性が鍵 Cursorの利用ログで現実を直視 データに基づく介入と改善 3. タスク置換を目指せ 5%改善は余りの時間として消える 100%置換で大きな効果を狙う 41 © MonotaRO Co., Ltd.

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AI時代を楽しんでいきましょう! 42 © MonotaRO Co., Ltd.

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連絡先・資料 発表資料 本スライド:[後日公開予定] テックブログ:https://tech-blog.monotaro.com モノタロウ採用情報 https://mid-career.monotaro.com/EngineeringIT お気軽にお声がけください! 44 © MonotaRO Co., Ltd.