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株式会社アークエッジスペース https://arkedgespace.com/ ○鈴本 遼,⼩林 秀和,秋間 敏史,岩佐 由喜,坂本 優太, 藤田 朱門,杉本 健太朗,藤田 一槻,柳田 幹太 (株式会社アークエッジ・スペース) ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運用における インターフェース調整コストの低減 [email protected]

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序論

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アークエッジ・スペース (AE) での多種類・複数機生産 アークエッジ・スペース (AE) では,多種類・複数機生産の実現を目指し ており,様々な種類の衛星を複数機量産することを目指している. • 自社の衛星コンステレーションによるサービス提供 • 通信 (IoT,VDES) 衛星,リモセン衛星(多波⻑など)など • より大型の衛星での事業化に向けた軌道上 PoC への利⽤ • 打上機会の豊富さ,比較的規模の⼩さいコスト・スケジュールで 開発が可能といった CubeSat 衛星の強みを生かし,早期の軌道上 実証が可能 • ホステッドペイロードサービスによる,様々なペイロードを搭載した 衛星開発 • ユーザーの衛星搭載機器の機能実証,またそれを利⽤した事業実 証の機会を適正な価格・納期で実現 • 深宇宙探査機などの特殊な衛星開発 • 彗星探査衛星 (Comet Interceptor) や月インフラのための衛星など 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 3

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多種類・複数機生産における SW 的観点での課題 • ミッション部と衛星バス部との煩雑なインターフェース (IF) 調整 • 通信プロトコル調整 • テレメトリ・コマンド(テレコマ)仕様調整 • ミッション部と整合するバス側の SW 開発(ドライバ,アプリケーションなど) • かみ合わせ試験時の不具合対応 • etc... • 衛星製造パートナー企業との様々な IF 調整 • 運⽤時を想定した IF 調整 ソフトウェア技術や,OSS 化などの Open 化,標準化による 各種調整コストの低減を目指す 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 4

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アークエッジ・スペースの SW 開発と OSS 化・標準化戦略について

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アークエッジ・スペースの SW 開発チーム • 地球周回衛星∕深宇宙探査機 といった衛星種類や,アプリケーションによらず,SW っぽ いものをまるっと全部担うチーム • 担当しているものは,概ね次の通り • 人工衛星搭載 SW (Flight SW; FSW) • Field Programmable Gate Array (FPGA) • 搭載コンピューターボード (On-Board Computer; OBC) • 各種シミュレータ • 衛星の運⽤を支援する地上 SW • 衛星の開発・量産を⽀援する SW • 衛星データ解析 SW • 社内情報システム 参考:『宇宙業界にソフトウェアの力で挑むチームができてから1年が経ちました』 https://blog.arkedge.space/entry/2022/12/07/113000 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 6

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SW 開発チームのポリシー(⾏動原理) 1. 意思決定において,開発体験のよさについて妥協しないべきである • 良い開発体験が,生産性と品質を向上させる 2. 開発するすべての SW は,update 可能であるべきである • “すべて” (地上も FSW も sub OBC も) 3. 開発するすべての SW は,検証可能な状態を保ち,自動で検証されるべきである • CI / CD の積極的な整備 4. 開発機数に対してコストが劣線形になるように SW を開発するべきである • スケールメリットが出る SW に価値がある 5. ハードウェア (HW) や人間が絡むコストの高い仕組みや作業を発⾒し,SW に落とし込むこと で効率を向上させていく活動を,全社横断的に実施していくべきである • 真の意味での DX 6. 生産性と企業価値を高めるために,Rust を採⽤していくべきである • ミッションクリティカルな部分や,プロトコルスタックは システムプログラミング言語で ある Rust で.地上も宇宙も同じ言語で. 参考: 『大公開:ArkEdge Space のソフトウェアチームのポリシーと実現したい夢』 https://blog.arkedge.space/entry/2023/01/24/113000 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 7

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SW 開発チームの短期的なゴール • 不自由さの解消など,生産性と企業価値が高い状態に移⾏する(cf. ポリシーの達成状態) • アプリケーションからベアメタルまですべて Open な OBC の開発 • アプリケーション SW,Kernel (C2A),HAL (Hardware Abstraction Layer),ブート ローダー,FPGA ロジック,インターフェース基板 (MIF),OBC そのものなどを開発 • 衛星をどんどん SW 化(SW defined へ) • 複雑な衛星システムをブラックボックスなしで開発 • 異なる種類の⼈⼯衛星 / 探査機を同時に開発・運⽤できる能力を獲得する • 衛星固有 SW を 1 ⼈で面倒を⾒切れる規模にする • 労働集約型にならない衛星製造システム・運⽤システムを開発する • ビジネス可能な⼈⼯衛星を開発する • SW 思考と事業開発 PoC の相性はよく,またエンドユーザーとのインターフェース (IF) は SW である • エンドユーザー価値向上のための PoC の結果を衛星設計やシステム設計にフィードバック する • AE が SW の強い宇宙スタートアップという対外的なイメージ・評価が醸成され,それに⾒合う チームである 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 8

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アークエッジ・スペースにおける Rust(⼀例) • 高信頼性が求められる箇所で,モダンなシステムプロ グラミング言語である Rust を採⽤ • 先進的な Rust エコシステムにより,“開発体験の良 さ” も強く意識した開発が可能に • 詳細:SSC2023 の AE 発表 “SSC23-P5-24” “Satellite Software Development Framework With Rust That Improves Developer Enablement” • 例:プロプライエタリな IDE なしでの FSW 開発 • MPLAB も HEW も CubeIDE も不要 • Open で⾃由度の高く,CI などの⾃動化もし易い 開発環境が,(ベンダーの思想ややる気とは無 縁に)構築可能 • VS Code のみで SILS 実⾏も,実機書き込み & 実⾏も,1 コマンドで可能に.これまで IDE で ⾏っていた設定もコードで可能. • FSW 以外にも,AE の地上局 SW や製造支援システム (後述)はどれも Rust が⽤いられており,衛星側も 地上側も同じ言語で開発することが可能となっている 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 9 マイコンの各種設定 as Code SILS / 実機動作手順

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Open 化 (OSS 化) 戦略と考え⽅ (OBC,FSW) c2a-core (app) として一部 Open c2a-core (system) として OSS c2a-hal として Open へ準備中 将来的に RISC-V などの採⽤で Open に 多種衛星に対応するための FPGA ベース基板 Space Cubics 社などと協力し開発へ (Open に) 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 10 c2a-sils-runtime として OSS Gaia (地上局 SW) や周辺ツールもすでに OSS ミッション機器との IF 調整にも利⽤ c2a-devtools として OSS “標準化”,”開発体験” において重要 ミッション機器との IF 調整にも利⽤ S2E を利⽤ (東大 ISSL により OSS 化) インターフェース基板 (MIF) OBC (HW) 命令セット HAL / Boot loader OS / Kernel アプリケーション SW 検証環境 開発ツール シミュレータ インターフェース調整に役⽴ち, かつ⾮競争領域を OSS に! https://github.com/arkedge/c2a-core https://github.com/arkedge/c2a-core https://github.com/arkedge/c2a-devtools https://github.com/arkedge/c2a-core/tree/develop/sils-runtime https://github.com/arkedge/gaia

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Open 化 (OSS 化) 戦略と考え⽅ (衛星製造・運用) Gaia (地上局 SW) の中核システムや様々なコンポーネント・仕様は,自社以外も含めた FSW 開発や衛星製造・運⽤のために OSS 化.とりわけ地上システムの仕様は様々な周辺ツール に波及するため,Open 化(仕様が明解であること)が極めて重要 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 11 Gaia (地上局関連の様々なマイクロサービス) 地上局設備 衛星運⽤システム マネジメントシステム 衛星製造支援システム c2a-devtools c2a-sils-runtime 衛星運⽤ 衛星製造ツールキット.衛星量産のパートナー企業の工場 にも導入することで,そこでの作業が AE で管理可能に. FSW 開発 衛星製造

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プロトコル標準化 • プロトコル標準化により,各機器に対して c2a-devtools や Gaia,衛星製造支援システム などの “AE 標準ツールセット” が利⽤可能になる.このツールセットは,“開発体験の良 さ” が強く考慮されている (不⾃由さの排除 / 環境構築の容易さ / メンテナンス性のよさ) • 標準化により,P2P 通信が可能となり,たとえばミッション機器を実証したい顧客は,中 継機器(MOBCなど)を意識せずに,直接ミッション機器とのテレコマ操作が可能 • OSS なため,各種ツールを提供しながら,衛星開発・標準化を進めることができる • AE と取引のある複数の顧客・機器メーカーがこの標準化に賛同してくださっている 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 12 https://github.com/arkedge/c2a-core/blob/develop/docs/ component_driver/communication_with_components.md

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調整コスト低減の例

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例1)プロトコル,バス側 FSW の Open 化によるコスト低減 • 以下が OSS として,仕様に加えてその実装方法も 公開されいてる • 標準プロトコルスタック • バス機器側のドライバ • バス機器側の HAL(一部) • ミッション機器開発者 • 接続先機器の動作を把握 • プロトコルスタックの実装の直接確認 • アークエッジ・スペース • ミッション機器開発者とのミスコミュニケー ションの防止 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 14 https://github.com/arkedge/c2a-core/blob/develop/docs/ component_driver/communication_with_components.md https://github.com/arkedge/c2a-core/blob/develop/library/crc.h 公開されているドキュメントやコード ↗

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例2)TlmCmd DB によるテレメ・コマンド定義の調整 • ミッション機器やバス機器のテレコマ定義を,AE 標 準の machine readable な形式でやり取りする • AE 側の様々なソースコードや,コンフィグレーション ファイルが⾃動生成される(=コストの大幅削減) • かみ合わせ時の不具合が低減 • 機器側の仕様変更・アップデートを受け入れるこ とが容易(低コスト)に 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 15 https://github.com/arkedge/c2a-tlmcmddb GUI での TlmCmd DB json 形式での TlmCmd DB 実際に,あるミッション機器では,ミッション機器のシステム 合流後でも,ミッション機器開発者のテレメトリ・コマンドの アップデート要求に応えることができた

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例3)標準化における運用柔軟性の向上 • プロトコルの標準化によって,各機器(衛星機器,地上機器)はネットワーク通信可能と なる • ミッション機器と直接つながる機器(e.g. Main OBC)のみならず,たとえば AOCS OBC (下図の Sub OBC に相当)とも MOBC を介して通信可能となる • さらに,地上局ともネットワーク通信可能なため,ミッション機器のデバッグコマンド・ テレメトリ等も,AE バス側と(ほぼ)追加調整なく利⽤可能となる. 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 16 実際に,ある機器の実証ミッションでは,デバッグテレメトリをダウンリンクする予定

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例4)標準化によるシステム合流コストの削減 • 標準プロトコルでは,各機器はネットワーク通信 可能となる. • 通信経路に依存しない通信が可能となる. • また,標準プロトコルに関連する様々なツールが OSS として公開されている • ミッション機器開発者側での単体試験時と,AE でのかみ合わせ試験時や運⽤時の機器とのテレコ マ通信は(通信形態も,プロトコルスタック上の 実装も)同等となる • 機器開発者も AE での試験時と同等のツールを⽤ いて試験可能であり,システム合流時の不具合発 生を抑制できる 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 17 試験・運⽤コンフィグレーション https://github.com/arkedge/c2a-devtools OSS 化された開発ツール 実際に,あるミッション機器では,事前に OSS 化された開発 ツールにて単体試験をしたため,システム合流時における SW に起因する不具合は発生しなかった

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例5)製造パートナー企業との調整コストの削減 • 衛星の量産を目指すアークエッジ・スペースは,ともに衛星量産を⾏うパートナー企業と の衛星製造時における量産・試験のコスト削減も目指している • AE は独⾃に衛星生産技術を開発しており,衛星製造支援システムを衛星製造ツールキッ トとしてパートナー企業に提供する • このツールキットはクラウド上に展開され,パートナー企業の製造現場と AE のシステム が統合される • パートナー企業と AE の強みを生かした win – win の量産体制が構築できる • エンジニアが製造現場に常駐せずとも不具合等に対応でき,また,パートナー企業に利⽤ してもらうツールキット⾃⾝のアップデートも容易となる • ツールキットを通じて試験手順や試験設定,試験記録をやり取りすることで,統一的な情 報のやり取りが可能となる • パートナー企業と AE との様々なインターフェース調整が不要になっている 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 18

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まとめ

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まとめ • 様々な種類の衛星を複数機量産することを目指しているアークエッジ・スペースでは,衛 星開発・製造・運⽤など,様々なところでのインターフェース調整コストが課題となって いる • ソフトウェア技術や,OSS 化などの Open 化,標準化によって,各種調整コストの低減 を目指している • すでに以下のものが OSS や公開仕様として公開されている • FSW の Kernel, App, HAL (一部) のソースコード • 衛星機器同士,地上局との通信プロトコルと,そのプロトコルスタックの実装 • FSW 開発環境やツール • 地上局 SW • これらの結果,今回例⽰したような様々なメリットが既に生まれている • これらの標準化を今後も積極的に進めていきたい 2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 20