第67回宇宙科学技術連合講演会 『ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運用におけるインターフェース調整コストの低減』
https://meltingrabbit.com/blog/article/2023101801/ https://blog.arkedge.space/entry/2023/11/13/113000
株式会社アークエッジスペースhttps://arkedgespace.com/○鈴本 遼,⼩林 秀和,秋間 敏史,岩佐 由喜,坂本 優太,藤田 朱門,杉本 健太朗,藤田 一槻,柳田 幹太(株式会社アークエッジ・スペース)ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運用におけるインターフェース調整コストの低減[email protected]
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序論
アークエッジ・スペース (AE) での多種類・複数機生産アークエッジ・スペース (AE) では,多種類・複数機生産の実現を目指しており,様々な種類の衛星を複数機量産することを目指している.• 自社の衛星コンステレーションによるサービス提供• 通信 (IoT,VDES) 衛星,リモセン衛星(多波⻑など)など• より大型の衛星での事業化に向けた軌道上 PoC への利⽤• 打上機会の豊富さ,比較的規模の⼩さいコスト・スケジュールで開発が可能といった CubeSat 衛星の強みを生かし,早期の軌道上実証が可能• ホステッドペイロードサービスによる,様々なペイロードを搭載した衛星開発• ユーザーの衛星搭載機器の機能実証,またそれを利⽤した事業実証の機会を適正な価格・納期で実現• 深宇宙探査機などの特殊な衛星開発• 彗星探査衛星 (Comet Interceptor) や月インフラのための衛星など2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 3
多種類・複数機生産における SW 的観点での課題• ミッション部と衛星バス部との煩雑なインターフェース (IF) 調整• 通信プロトコル調整• テレメトリ・コマンド(テレコマ)仕様調整• ミッション部と整合するバス側の SW 開発(ドライバ,アプリケーションなど)• かみ合わせ試験時の不具合対応• etc...• 衛星製造パートナー企業との様々な IF 調整• 運⽤時を想定した IF 調整ソフトウェア技術や,OSS 化などの Open 化,標準化による各種調整コストの低減を目指す2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 4
アークエッジ・スペースの SW 開発とOSS 化・標準化戦略について
アークエッジ・スペースの SW 開発チーム• 地球周回衛星∕深宇宙探査機 といった衛星種類や,アプリケーションによらず,SW っぽいものをまるっと全部担うチーム• 担当しているものは,概ね次の通り• 人工衛星搭載 SW (Flight SW; FSW)• Field Programmable Gate Array (FPGA)• 搭載コンピューターボード (On-Board Computer; OBC)• 各種シミュレータ• 衛星の運⽤を支援する地上 SW• 衛星の開発・量産を⽀援する SW• 衛星データ解析 SW• 社内情報システム参考:『宇宙業界にソフトウェアの力で挑むチームができてから1年が経ちました』https://blog.arkedge.space/entry/2022/12/07/1130002023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 6
SW 開発チームのポリシー(⾏動原理)1. 意思決定において,開発体験のよさについて妥協しないべきである• 良い開発体験が,生産性と品質を向上させる2. 開発するすべての SW は,update 可能であるべきである• “すべて” (地上も FSW も sub OBC も)3. 開発するすべての SW は,検証可能な状態を保ち,自動で検証されるべきである• CI / CD の積極的な整備4. 開発機数に対してコストが劣線形になるように SW を開発するべきである• スケールメリットが出る SW に価値がある5. ハードウェア (HW) や人間が絡むコストの高い仕組みや作業を発⾒し,SW に落とし込むことで効率を向上させていく活動を,全社横断的に実施していくべきである• 真の意味での DX6. 生産性と企業価値を高めるために,Rust を採⽤していくべきである• ミッションクリティカルな部分や,プロトコルスタックは システムプログラミング言語である Rust で.地上も宇宙も同じ言語で.参考: 『大公開:ArkEdge Space のソフトウェアチームのポリシーと実現したい夢』https://blog.arkedge.space/entry/2023/01/24/1130002023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 7
SW 開発チームの短期的なゴール• 不自由さの解消など,生産性と企業価値が高い状態に移⾏する(cf. ポリシーの達成状態)• アプリケーションからベアメタルまですべて Open な OBC の開発• アプリケーション SW,Kernel (C2A),HAL (Hardware Abstraction Layer),ブートローダー,FPGA ロジック,インターフェース基板 (MIF),OBC そのものなどを開発• 衛星をどんどん SW 化(SW defined へ)• 複雑な衛星システムをブラックボックスなしで開発• 異なる種類の⼈⼯衛星 / 探査機を同時に開発・運⽤できる能力を獲得する• 衛星固有 SW を 1 ⼈で面倒を⾒切れる規模にする• 労働集約型にならない衛星製造システム・運⽤システムを開発する• ビジネス可能な⼈⼯衛星を開発する• SW 思考と事業開発 PoC の相性はよく,またエンドユーザーとのインターフェース (IF) はSW である• エンドユーザー価値向上のための PoC の結果を衛星設計やシステム設計にフィードバックする• AE が SW の強い宇宙スタートアップという対外的なイメージ・評価が醸成され,それに⾒合うチームである2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 8
アークエッジ・スペースにおける Rust(⼀例)• 高信頼性が求められる箇所で,モダンなシステムプログラミング言語である Rust を採⽤• 先進的な Rust エコシステムにより,“開発体験の良さ” も強く意識した開発が可能に• 詳細:SSC2023 の AE 発表 “SSC23-P5-24”“Satellite Software Development Framework With Rust ThatImproves Developer Enablement”• 例:プロプライエタリな IDE なしでの FSW 開発• MPLAB も HEW も CubeIDE も不要• Open で⾃由度の高く,CI などの⾃動化もし易い開発環境が,(ベンダーの思想ややる気とは無縁に)構築可能• VS Code のみで SILS 実⾏も,実機書き込み &実⾏も,1 コマンドで可能に.これまで IDE で⾏っていた設定もコードで可能.• FSW 以外にも,AE の地上局 SW や製造支援システム(後述)はどれも Rust が⽤いられており,衛星側も地上側も同じ言語で開発することが可能となっている2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 9マイコンの各種設定 as CodeSILS / 実機動作手順
Open 化 (OSS 化) 戦略と考え⽅ (OBC,FSW)c2a-core (app) として一部 Openc2a-core (system) として OSSc2a-hal として Open へ準備中将来的に RISC-V などの採⽤で Open に多種衛星に対応するための FPGA ベース基板Space Cubics 社などと協力し開発へ (Open に)2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 10c2a-sils-runtime として OSSGaia (地上局 SW) や周辺ツールもすでに OSSミッション機器との IF 調整にも利⽤c2a-devtools として OSS“標準化”,”開発体験” において重要ミッション機器との IF 調整にも利⽤S2E を利⽤ (東大 ISSL により OSS 化)インターフェース基板 (MIF)OBC (HW)命令セットHAL / Boot loaderOS / Kernelアプリケーション SW 検証環境開発ツールシミュレータインターフェース調整に役⽴ち,かつ⾮競争領域を OSS に!https://github.com/arkedge/c2a-corehttps://github.com/arkedge/c2a-corehttps://github.com/arkedge/c2a-devtoolshttps://github.com/arkedge/c2a-core/tree/develop/sils-runtimehttps://github.com/arkedge/gaia
Open 化 (OSS 化) 戦略と考え⽅ (衛星製造・運用)Gaia (地上局 SW) の中核システムや様々なコンポーネント・仕様は,自社以外も含めた FSW開発や衛星製造・運⽤のために OSS 化.とりわけ地上システムの仕様は様々な周辺ツールに波及するため,Open 化(仕様が明解であること)が極めて重要2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 11Gaia (地上局関連の様々なマイクロサービス)地上局設備 衛星運⽤システム マネジメントシステム衛星製造支援システム c2a-devtoolsc2a-sils-runtime衛星運⽤衛星製造ツールキット.衛星量産のパートナー企業の工場にも導入することで,そこでの作業が AE で管理可能に.FSW 開発衛星製造
プロトコル標準化• プロトコル標準化により,各機器に対して c2a-devtools や Gaia,衛星製造支援システムなどの “AE 標準ツールセット” が利⽤可能になる.このツールセットは,“開発体験の良さ” が強く考慮されている (不⾃由さの排除 / 環境構築の容易さ / メンテナンス性のよさ)• 標準化により,P2P 通信が可能となり,たとえばミッション機器を実証したい顧客は,中継機器(MOBCなど)を意識せずに,直接ミッション機器とのテレコマ操作が可能• OSS なため,各種ツールを提供しながら,衛星開発・標準化を進めることができる• AE と取引のある複数の顧客・機器メーカーがこの標準化に賛同してくださっている2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 12https://github.com/arkedge/c2a-core/blob/develop/docs/component_driver/communication_with_components.md
調整コスト低減の例
例1)プロトコル,バス側 FSW の Open 化によるコスト低減• 以下が OSS として,仕様に加えてその実装方法も公開されいてる• 標準プロトコルスタック• バス機器側のドライバ• バス機器側の HAL(一部)• ミッション機器開発者• 接続先機器の動作を把握• プロトコルスタックの実装の直接確認• アークエッジ・スペース• ミッション機器開発者とのミスコミュニケーションの防止2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 14https://github.com/arkedge/c2a-core/blob/develop/docs/component_driver/communication_with_components.mdhttps://github.com/arkedge/c2a-core/blob/develop/library/crc.h公開されているドキュメントやコード ↗
例2)TlmCmd DB によるテレメ・コマンド定義の調整• ミッション機器やバス機器のテレコマ定義を,AE 標準の machine readable な形式でやり取りする• AE 側の様々なソースコードや,コンフィグレーションファイルが⾃動生成される(=コストの大幅削減)• かみ合わせ時の不具合が低減• 機器側の仕様変更・アップデートを受け入れることが容易(低コスト)に2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 15https://github.com/arkedge/c2a-tlmcmddbGUI での TlmCmd DBjson 形式での TlmCmd DB実際に,あるミッション機器では,ミッション機器のシステム合流後でも,ミッション機器開発者のテレメトリ・コマンドのアップデート要求に応えることができた
例3)標準化における運用柔軟性の向上• プロトコルの標準化によって,各機器(衛星機器,地上機器)はネットワーク通信可能となる• ミッション機器と直接つながる機器(e.g. Main OBC)のみならず,たとえば AOCS OBC(下図の Sub OBC に相当)とも MOBC を介して通信可能となる• さらに,地上局ともネットワーク通信可能なため,ミッション機器のデバッグコマンド・テレメトリ等も,AE バス側と(ほぼ)追加調整なく利⽤可能となる.2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 16実際に,ある機器の実証ミッションでは,デバッグテレメトリをダウンリンクする予定
例4)標準化によるシステム合流コストの削減• 標準プロトコルでは,各機器はネットワーク通信可能となる.• 通信経路に依存しない通信が可能となる.• また,標準プロトコルに関連する様々なツールがOSS として公開されている• ミッション機器開発者側での単体試験時と,AEでのかみ合わせ試験時や運⽤時の機器とのテレコマ通信は(通信形態も,プロトコルスタック上の実装も)同等となる• 機器開発者も AE での試験時と同等のツールを⽤いて試験可能であり,システム合流時の不具合発生を抑制できる2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 17試験・運⽤コンフィグレーションhttps://github.com/arkedge/c2a-devtoolsOSS 化された開発ツール実際に,あるミッション機器では,事前に OSS 化された開発ツールにて単体試験をしたため,システム合流時における SWに起因する不具合は発生しなかった
例5)製造パートナー企業との調整コストの削減• 衛星の量産を目指すアークエッジ・スペースは,ともに衛星量産を⾏うパートナー企業との衛星製造時における量産・試験のコスト削減も目指している• AE は独⾃に衛星生産技術を開発しており,衛星製造支援システムを衛星製造ツールキットとしてパートナー企業に提供する• このツールキットはクラウド上に展開され,パートナー企業の製造現場と AE のシステムが統合される• パートナー企業と AE の強みを生かした win – win の量産体制が構築できる• エンジニアが製造現場に常駐せずとも不具合等に対応でき,また,パートナー企業に利⽤してもらうツールキット⾃⾝のアップデートも容易となる• ツールキットを通じて試験手順や試験設定,試験記録をやり取りすることで,統一的な情報のやり取りが可能となる• パートナー企業と AE との様々なインターフェース調整が不要になっている2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 18
まとめ
まとめ• 様々な種類の衛星を複数機量産することを目指しているアークエッジ・スペースでは,衛星開発・製造・運⽤など,様々なところでのインターフェース調整コストが課題となっている• ソフトウェア技術や,OSS 化などの Open 化,標準化によって,各種調整コストの低減を目指している• すでに以下のものが OSS や公開仕様として公開されている• FSW の Kernel, App, HAL (一部) のソースコード• 衛星機器同士,地上局との通信プロトコルと,そのプロトコルスタックの実装• FSW 開発環境やツール• 地上局 SW• これらの結果,今回例⽰したような様々なメリットが既に生まれている• これらの標準化を今後も積極的に進めていきたい2023/10/18 宇科連2023 ソフトウェア技術による衛星開発・製造・運⽤におけるインターフェース調整コストの低減 20