Slide 1

Slide 1 text

AIがコードを書いてくれるなら、新 米エンジニアは何をする? 2025.11.01 / Yukiya Nakagawa (Nkzn) KomeKaigi 2025

Slide 2

Slide 2 text

自己紹介 ● 中川幸哉 / なかざん(@Nkzn) ● 38歳 ● 高田生まれ会津育ち、新潟市在住15年目 ● Android出身React Native育ち、最近はBigQueryとGASがマブダチ ● 株式会社モニクルリサーチCTO(新米) ○ 金融Webメディア事業の裏方で業務システムをモリモリ作ってる ● 技術書典のWebサイト&アプリ開発担当(11/15〜技術書典19) ● 好きなAIモデルはClaude 4.5 Haikuで、年初からCursor年間課金勢

Slide 3

Slide 3 text

KomeKaigi開催 おめでとうございます 👏

Slide 4

Slide 4 text

エクスキューズ AI時代の新米からのキャリア戦略について最近考えていることを生煮えのま ま持ってきました。これが正しいとは思ってなくて、こういう方向性がありえそう なんだけど、本当か……?どうだろう……?くらい。 まだ社内でもほとんど話したことがない話題なので、今回の発表は所属企業 の採用方針・育成方針とは全く関係ありません。 「どうすんだこれ」状態で持ってきたので、皆さん一緒に頭を抱えてください。

Slide 5

Slide 5 text

エクスキューズ② 懇親会に参加しないので、お話したいことがある方はAsk the Speakerでお 願いします

Slide 6

Slide 6 text

AI、便利ですよね

Slide 7

Slide 7 text

コーディングに AI活用してますか ● ChatGPTやClaude Desktopに質問してる ● CursorやVSCodeで気の利いた補完をしてもらってる ● エディタ内のエージェントにコードを書いてもらうこともある ● Claude CodeやCodex等のCLI系エージェントにゴリゴリとコードを書い てもらってる 󰢧

Slide 8

Slide 8 text

(お金はかかるけど) 古米でも新米でも 平等にAIでコードが書ける時代 シニア ジュニア

Slide 9

Slide 9 text

問題提起 コーディングに携わってトライアンドエラーするのは 新米エンジニアの定番の下積みルートだったはず もしそれが必要ない時代が来た場合、新米エンジニアは どんな知識体系で育っていけばいい? (思考実験としての色合いが強めです)

Slide 10

Slide 10 text

前提:顧客が求めるのは「価値」 ● AIは便利だが、顧客がお金を払ってくれるのは「AIで作られたもの」ではな く「価値があるもの」 ● 価値 = 役に立つもの ● 「エンジニアリング」とは技術を扱うことではなく、技術によって課題を解決 して役に立つこと ● 役に立つものを作るために、AIをより効果的に使っていきたい

Slide 11

Slide 11 text

AIを扱う=チームを組む?

Slide 12

Slide 12 text

AIに役割を与える ● AIに肩書きや役割を与えると、それに相応しい動きをすることはよく知られ ている ○ 「あなたはデータベースのスペシャリストです」 ● 各分野のスペシャリストとしてのAIを定義して、それらの組み合わせで成 果を出そう

Slide 13

Slide 13 text

スペシャリストのチーム ● スペシャリストたちが自分の専門性を持ち寄る……つまりこれはチームで は? ● より大きな成果を出すには、専門性を持たせたAIでチームを組むと良さそ う ● ただし、そのチームを率いるのは人間

Slide 14

Slide 14 text

人間に求められる能力

Slide 15

Slide 15 text

専門性の理解が必要 ● 人間に必要なことは、それぞれの専門家に、どんな成果を期待するのか しっかりと伝えられること ● 専門性の中身を詳しく知っている必要まではない ● しかし、それがどんな分野で、どんな制約・自由度があり、どんな成果が 出るものなのかを知らないと、期待する成果を伝えることはできない

Slide 16

Slide 16 text

人間がやるべきこと 手を動かしたり、選択肢を考えるのはAIがやってくれるかもしれない。 しかし、それ以外は人間がやらなければいけない。 ● 誰の役に立つのか ● どのように役に立つのか ● 役に立ち続けるための品質はどのように保証するのか これらをAIにプロンプトで説明し、上司や顧客にも説明する必要がある

Slide 17

Slide 17 text

ビジネスにおける責任

Slide 18

Slide 18 text

遂行責任と説明責任 成果を説明すること、これを「説明責任」という。 ビジネスにおける責任には種類がある。 ● 遂行責任: 与えられたタスクを最後までやり切ること ● 説明責任: 遂行した結果やそれに付随する判断材料について関係者に 説明すること (ここに賠償責任も含めて3つの責任と呼ばれたりするが、今回は割愛)

Slide 19

Slide 19 text

言い出しっぺ なんとかする人 なんとかする人 なんとかする人 説明責任 遂行責任 遂行責任 遂行責任 実際やる人 実際やる人 実際やる人 実際やる人 実際やる人 説明責任 遂行責任 遂行責任 説明責任 遂行責任 説明責任 遂行責任 遂行責任 実施するための責任

Slide 20

Slide 20 text

言い出しっぺ なんとかする人 なんとかする人 なんとかする人 成果確認 説明責任 説明責任 説明責任 実際やる人 実際やる人 実際やる人 実際やる人 実際やる人 成果確認 完了報告 完了報告 成果確認 完了報告 成果確認 完了報告 完了報告 成果を見るための責任

Slide 21

Slide 21 text

言い出しっぺ なんとかする人 なんとかする人 なんとかする人 成果確認 説明責任 説明責任 説明責任 実際やる人 実際やる人 実際やる人 実際やる人 実際やる人 成果確認 完了報告 完了報告 成果確認 完了報告 成果確認 完了報告 完了報告 成果を見るための責任 こいつ 説明ばっかりしてるな?

Slide 22

Slide 22 text

中間管理職の両面性 ● 中間管理職は「遂行責任」と「説明責任」の両方を持つ ○ 上司からの指示を遂行する責任 ○ 部下の成果を上司に説明する責任 ● 新米エンジニアは通常、遂行責任がメイン ○ 上司が成果物の価値を確認し、顧客やさらに上の上司へ説明してく れる

Slide 23

Slide 23 text

AI時代の遂行責任

Slide 24

Slide 24 text

前提:AIに丸投げは NG 作業をAIに任せたら、遂行責任はどこへ行く? ● 遂行責任はAIに任せたので、AIが出してきたものを自分では確認せずに 「AIにやらせたので私は細かいところは知りません」と上司にそのまま渡 す? ● それはNG: 上司が直接AIに頼んだほうが精度も高いし伝言ゲームの手 間もなくなる

Slide 25

Slide 25 text

少しだけ中間管理職? AIを部下とみなした場合、ほんの少しだけ中間管理職としての振る舞いが求 められるかもしれない……? ● 実現方法はなんでもいいが任された業務を遂行する責任 ● 自分以外の手により遂行された成果に価値があることを説明する責任

Slide 26

Slide 26 text

なんとかする人 なんとかする人 なんとかする人 説明責任 遂行責任 遂行責任 遂行責任 実際やる人 実際やる人 実際やる人 実際やる人 実際やる人 説明責任 遂行責任 遂行責任 説明責任 遂行責任 説明責任 遂行責任 遂行責任 AI

Slide 27

Slide 27 text

実際やる人 AI 説明責任 遂行責任 実際やる人 AI 成果確認 結果報告 説明責任 なんとかする人 「自分でやってないけど価値 は出せてる」と思った理由は 説明がいる

Slide 28

Slide 28 text

説明責任らしきものが発生する? ● 遂行責任から逃げられたかと思ったら説明責任が降ってきた? ● AIに手伝わせたことを言わずに「言われた通りのものを作りました」と報告して も全然OK(責任を転嫁しないので) ● あくまでもAIが行うことは自分の手の延長であり、自分は遂行責任を手放して いない、という意識が重要 ● 「実装コードは読みきれてないけど、テストコードは全部読んであって、要求仕 様を満たしているように見えるのでできてると思います」あたりが通るかは事 業や組織の特性による (シニアが部下のPRをレビューする時もそういう粒度なことはある)

Slide 29

Slide 29 text

キャリア形成の第一歩

Slide 30

Slide 30 text

AIが書いたコードを説明できるようになったら ● まずはコーディング作業の成果を読める、説明できることを目指す ● ソフトウェア設計の知識を身につけ、事業やチームに合ったソフトウェアの 構造について同僚やAIと議論できるようになる ○ 実はここだけでもデカいトピック ○ あわせて読みたい:設計に疎いエンジニアでも始めやすいアーキテク チャドキュメント https://speakerdeck.com/phaya72/she-ji-nishu-ienziniademoshi-meyasuiakitekutiyadokiyumento ● その次は?

Slide 31

Slide 31 text

コーディングのさらに外側へ ● システム開発はコーディングだけで成り立つわけではない ● コーディングの前や後にも工程があり、専門性がある ● どんな専門性を組み合わせれば、価値あるプロダクトを世に出せる? 組織設計は経営の一大トピックなので唯一絶対の正解はない。 しかし、IPA(情報処理推進機構)の情報処理技術者試験 を紐解くと、ある程度の 目安は見えてくる。

Slide 32

Slide 32 text

https://www.ipa.go.jp/shiken/kubun/list.html IPAの試験区分

Slide 33

Slide 33 text

高度試験の専門性 ● ITストラテジスト : 経営戦略に根差したプロダクトを提案 ● システムアーキテクト : 実現可能な全体像を設計 ● プロジェクトマネージャー : 円滑にプロジェクトを進める ● ネットワーク /DBスペシャリスト : 運用に耐えうる構成を構築 ● ITサービスマネージャ : 安定的なサービス提供をリード ● 情報処理安全確保支援士 : セキュリティを担保

Slide 34

Slide 34 text

TAC情報処理講座(2024)「2025年度版 ALL IN ONE オールインワン パーフェクトマスター システムアーキテクト」 TAC出版 特にシステムアーキテクトは全体像の目線を持ちやすい

Slide 35

Slide 35 text

No content

Slide 36

Slide 36 text

No content

Slide 37

Slide 37 text

各フェーズに役割を与える ● 各フェーズを得意とする役割をAIに与える ● AI同士が上手く連携できるよう、人間が橋渡しをする ● チームとして回るようになる そのためには、各専門性がどんなものかを理解する必要がある。

Slide 38

Slide 38 text

新米エンジニアへの提案 AIがコードを書いてくれるなら、新米エンジニアは: 1. AIが書いたコードを説明できるだけのプログラミング知識を身につける 2. コードを書く業務の前や後にある工程にも手を伸ばすことで、よりよいシス テムを生み出すための活動に貢献するための勉強を始める AIにも上司・顧客・同僚にもひたすら説明することになるAI時代は 「言語化」が最重要なスキルとなる。 手がかりとしてIPAの試験の知識を参照してもいいかもね。

Slide 39

Slide 39 text

そしてその先へ 手を動かしてシステムを構築することに強みを感じたら、遂行責任が多めの Individual Contributor(IC)方面へ 関係者へやりたいこと・やるべきことを説明し、調整することに強みを感じたら、 説明責任が多めのEngineering Manager(EM)方面へ AIという説明相手とやり取りしながら、自身の適性を探ってみてください。

Slide 40

Slide 40 text

ご清聴ありがとうございました