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ワクチン予約問題に対する UTMDの⾃治体との取り組み 野⽥ 俊也(東京⼤学経済学研究科・UTMD)

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ワクチンの予約管理 = 資源配分の問題 p 経済学(特にマーケットデザイン)の究極の⽬標は効率的な資源配分 p ワクチンの予約管理は資源配分の問題 n 予約枠 = いつ・どこで・どのワクチンを打つか︖ n 誰がどの予約枠をもらうか︖ = マッチング p 実は我々はこの問題をコロナ以前から意識 n 2009年の新型インフルの際の混乱の後、 公衆衛⽣学者から相談を受けていた n 野⽥はこの問題に着想を受けた論⽂を いくつか執筆

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UTMDの取り組み p ⾃治体・職域接種にアドバイスを⾏い、部分的な改善には貢献したが、抜本的 な解決をもたらすことはできず(反省点は後述) 2020年9⽉ UTMD創設 2020年11⽉ ファイザーの初期 治験結果が公表 2020年11⽉ ワクチン配布の 研究チームを編成 2021年1⽉ レポート第⼀弾公開 2021年5⽉ ⾼齢者向け接種が 本格的に開始 2021年3⽉〜8⽉ ⾃治体・職域接種の相談に乗る 2021年6⽉ 職域接種開始 ⼀般向け接種も随時開始 2021年5⽉・6⽉ 予約システム・インセンティブ付けの 政策提⾔公開 2021年12⽉ ブースター接種開始

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予約申込殺到問題 p 横浜市の事例: n 7万5千回分の予約を受付 n 接種対象者は80歳以上の34万⼈ n 100万件/分の最⼤アクセスを想 定していたが、実際は倍の200万 件/分でシステムがパンク p ⼈⼝を⼤幅に上回るアクセス数 p なぜ混乱が発⽣した︖ p どう防げばよい︖ 出典: 朝⽇新聞2021年5⽉4⽇付 https://www.asahi.com/articles/ASP5371JNP53ULOB003.html

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先着順の予約システムの問題点 p 予約受付開始時にはワクチンは接種希望者より⼤幅に少ない(需給不均衡) p 混乱が起きた⾃治体で⽤いられた予約システムは先着順 n 早いもの勝ちで予約枠を埋める = 打ちたいなら早く予約するべき︕ p 希望者は予約に動く速さで競争 n (オークション等と異なり)かけたコストは社会的に無駄 n 予約殺到はシステムに負荷をかけるため、社会的にはむしろマイナス p 実際、予約殺到は接種希望者にも⾃治体にも負担をかけた p (もう少し数理的な解説が、⽇本オペレーションズ・リサーチ学会の機関誌の 2022年3⽉号に掲載予定)

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どう解決すべきか︖ p 労⼒による競争が起きないメカニズムを⽤いる 以下のいずれの⽅法でも予約殺到問題は解決可能 1. 抽選や年齢をもとに優先順位を作り、それをもとに予約枠を割り当てる 2. 先着順を⽤いつつも予約受付のタイミングを細かく分散させる p 実際には、電話予約・⼤規模接種・職域接種等との兼ね合いを調整する必要

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なぜ先着順の予約システムが広く⽤いられたか︖ p 先着順は平時にはとても優れたシステム n 平時と災害時では有効なシステムが異なることが⾒落とされていた n (野⽥は災害時の買いだめ⾏動についても似た問題を発⾒) p 配布戦略を練る⾏政単位が⼩さすぎた n そもそもITベンダーが先着順のシステムしか提案していない n 配布の主体となった市区町村は新規システムの開発依頼ができるサイズ感 ではない → 問題を認識していても既存システムを使うしかない n (システム開発以外でも、個別接種などで問題になった) n スケールが問題となる部分では国がイニシアチブを取るべきだった︖

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これから⾏うべきこと p 発⽣した混乱の原因を調査し、解決策を⾒つける反省を⾏わなければならない n 反省の内容を世界的に情報共有するところまでやる p コロナ下で発⽣した混乱の⼀部は、2009年の新型インフルエンザの流⾏の際に 起きた問題をきちんと反省していれば起きなかったかもしれない p 今回の反省を踏まえ、望ましい予約システムの在り⽅を分析・設計 → 次回の類似する災害の際にはモデルケースとして機能 → 類似する災害を分析した経験があれば新しい災害への対応も速くなる p 現在、ワクチン予約の混乱と解決についての研究書を執筆中…