Slide 1

Slide 1 text

生成AIの初等中等教育での ガイドライン策定に向けた提言 2023年4月 特定非営利活動法人みんなのコード 1

Slide 2

Slide 2 text

情報技術は刻一刻と驚異的なスピードで進化し、昨今ではChatGPTの利用者が 2ヶ月で1億人を突破するなど、生成AIツールに対する注目が高まっている。 また、技術の進化に合わせ、文部科学省でもChatGPTなどの生成AIをどのように学校教育の 現場で取り扱うかについて、ガイドラインを策定することが予告されている。 一方、生成AIについては、その脅威や留意点が過剰に強調されていると感じており、 メリットに注目している場合も、「いかに活用するか」という表面的な議論が先行している と言っても過言ではない。 このままでは、AI時代を生きていく子どもたちが、AIがもたらすメリットを学ぶ機会を十分に 享受することが困難になるのではないかと危機感を抱いている。 そこで、みんなのコードは、全国の学校現場とともにAIを含む情報教育の実証研究を 行ってきた知見から、必要となる観点を3つに整理し、 「生成AIの初等中等教育でのガイドライン策定に向けた提言」としてまとめた。 はじめに 2

Slide 3

Slide 3 text

観点1 AIを「人間が高度な知的生産をするためのもの」と認識すべきではないか 観点2 コンピュータと適切に対話する力も、重視すべきではないか 観点3 思考力・判断力・表現力等に及ぼす影響について、議論すべきではないか みんなのコードが考える 議論に必要な3つの観点 3 生成AIの教育での利活用をめぐる議論では、以下の3観点が不足している。 ガイドラインの策定にあたっては、関係者がこれらを考慮する必要がある

Slide 4

Slide 4 text

観点1 AIを「人間が高度な知的生産をするためのもの」と認識すべきではないか 報道等で見かける(特に生成)AIに対する見解 AIは、人間が楽をするため・人間の思考活動を脅かすもの あるべきAIに対する認識 AIは、人間が高度な知的生産をするためのもの この認識だけでは、AIのメリットを十 分に享受できない 教育に関して意義のある議論をする ためには、AIに関する前提を改める 必要があるのではないか 4

Slide 5

Slide 5 text

昨今の報道例 「チャットGPT」が「子供の文章力・思考力」を奪う?  専門家「あくまで考えるのは人間の役割。分業化がポイント」と考察 「自分で考える力が必要ないから心配」「使っているのも見た ちょっと怖い」 チャットGPTに対して、「子供の文章力・思考力」に関する懸念の声があります。 出典: 関西テレビ newsランナー「特集 「チャットGPT」が「子供の文章力・思考力」を奪う? 専門家「あくまで考えるのは人間の役割。分業化がポイント」と考察 」(2023.4.11) 5 報道で紹介されるのは、生成AIに対する心配の声ばかり AI悪用懸念 読書感想文コンクール 盗作や不適切引用などへの対応は 文書が生成できるAIの利用拡大を受け、「青少年読書感想文全国コンクール」を主催する「全国学校図書館協議会」は、悪用の懸念が 拭えないとして応募要項を改めることを決めたということです。 具体的には「盗作や不適切な引用等があった場合、審査対象外になることがあります」と、事実上の失格となることがあるとする規定を 追記することを決めました。 AIが生成した文章をそのまま引用し、さらに執筆者本人がAIを使ったことを認めた場合などに適用されるということです。一方、文章の 校正に使うのは問題ないとしています。 出典: NHK 首都圏ナビ もっとニュース「 AI悪用懸念 読書感想文コンクール 盗作や不適切引用などへの対応は 」(2023.3.30)

Slide 6

Slide 6 text

みんなのコードの ChatGPTの使用例 複数人がAIと何回も対話を重ねることで、個人の能力以上のアウトプットができる 6 複数人がAIと何回も 対話を重ね、 個人ではたどり着けなかっ たアウトプットを 目指す

Slide 7

Slide 7 text

(特に生成)AIを「人間が高度な知的生産をする」ために必要なことは下記 3点 ➔ 教育関連のAIをめぐる議論では1と3が重視され、2が軽視されていることに危機感 ➔ AIの「良き利用者」になるためには、1〜3の力を身につけることが必要ではないか 1. 課題の発見・設定 2. コンピュータとの適切な対話(対コンピュータの言語力) 3. 導き出された答えの判定 観点2 コンピュータと適切に対話する力も、重視すべきではないか 7

Slide 8

Slide 8 text

みんなのコードが考える 対コンピュータの言語力 8 対コンピュータの言語力(≒対コンピュータ国語)は、これまでの学校教育が 扱ってきた人間が書き、読むことを前提としたコミュニケーションとは異なるもの ● 文脈に依存しない・行間を言語化 ● 人間であれば省略可能な情報も、明示する必要性 ● 機械学習モデルの学習や推論の仕組みを考慮した上での、適切な指示  ➔ コンピュータが分かりやすい言語に対する理解がなければ、高度な知的生産につな がるアウトプットを得られない

Slide 9

Slide 9 text

昨今の報道例 「即答」ChatGPTの利用急拡大、ただし過信は禁物 …教育現場「正確さに懸念」 インターネット上で人工知能(AI)と文字で会話する「Chat(チャット)GPT」が話題だ。従来のAIと比べ、文脈や背景を理解する力が飛躍的に高ま り、より自然で複雑なやり取りができるためだ。ただ、回答には誤った情報が含まれることもあり、利用には注意も必要だ。 誤った情報が含まれていることを前提に、 利用する際は事実確認が欠かせない 。 出所: 読売新聞オンライン「 「即答」ChatGPTの利用急拡大、ただし過信は禁物 …教育現場「正確さに懸念」 」(2023.2.14) 人間を超えるAI時代「問いベースの教育に」 安宅和人慶應大教授 文科省は3月24日、「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方 に関する有識者検討会」の第 3回を会場とオンラインのハイブリッドで開催 し、慶應義塾大学の安宅和人教授がこれからの社会像や、求められる能力 などについて話した。 (中略) 「AIの発達によって、インターパーソナルスキル、つまり他者とうまく関わる能 力が本当に重要になってくる。 1人で机に向かってやっているようなことでは 駄目だ。また、自分で意味のある問いを立てられない人、つまり指示待ち人 材の時代は終焉する 」と話した。 出所: 教育新聞「人間を超えるAI時代「問いベースの教育に」 安宅和人慶應大教授 」(2023.3.24) 出所: 文部科学省「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会 【資料2】安 宅和人氏提出資料 」(2023.3.24) 9 AIに何を問うか、導き出された答えをどう判断するかは言及されているが、 「コンピュータとの適切な対話」の重要性が教育関係者に浸透していない

Slide 10

Slide 10 text

AIを利用するだけ(推論を体験するだけ)では良き利用者にはなれない “学習”と”推論”をどちらも行うことで良き利用者になれる 実際にコンピュータに学習させ、コンピュータの性 質を科学的理解することが必要 AIの「良き利用者」となるためには 推論を体験するだけでは、対コン ピュータの言語力は身につかない 10

Slide 11

Slide 11 text

「良き利用者」を育てる授業例(みんなのコードの実証研究) 目的 ● AIの良さや特徴、AI技術を活用したプログラムを組む方法を理解 ● 特性を理解した上で、社会の中での AIの活用の在り方を考える 実践 ● Teachable Machineを用いて、機械学習の仕組みを学ぶ ● AIを利用し、身の回りの課題解決に役立つプログラムを作る 児童の 変容 ● 適切に作動しない原因は、データ学習 /プログラムのどちらにあるの か、仕組みの理解に基づいた検証ができていた ○ 「データの学習に問題があるので、うまく動いていないと思いま す」 ○ 「プログラムには問題ないのは分かった」 ● 「AIは人間に代わって指示すればなんでもやってくれるもの」と考え ていたが、仕組みを理解し学習データを見直すことができた Teachable Machineで機械学習の 仕組みを学ぶ様子 図書の貸出システムを作成する児童 宮城教育大学附属小学校 CS科 (学校独自の教科) 6年生:AIってなんだろう?(AIの仕組みと特徴、 AIの利便性と危険性 等) 11 推論だけでなく、AIに”学習”させる体験をすることでAIへの科学的理解を形成できる

Slide 12

Slide 12 text

生成AIのデメリットとして言及されていること・・・「自ら考えて文章を書かないことで思考力育成を阻害するおそれ」 ➔ AI等が台頭している現代において、そもそも 「思考・判断・表現」の方法が変わりつつあること に 向き合う必要があるのではないか? コンピュータを利用して思考・判断・表現する コンピュータとの対話を通して思考・判断・表現する 主体的・対話的で深い学びの 「対話」イメージの刷新 観点3 思考力・判断力・表現力等に及ぼす影響について、議論すべきではないか 12

Slide 13

Slide 13 text

コンピュータとの対話例 13 人間とAI(コンピュータ)が 対話しながら学ぶ例 人間が作りたいプログラムを言語化 ➔ AIが教えてくれる ➔ 人間が実際にやってみる ➔ 人間がわからない点を再度聞く ➔ AIが教えてくれる ➔ 人間が実際にやってみる ➔ 人間が上手く動かない点を聞く ・ ・ ・ AIとの対話によって、思考力が必要となる学習も可能に

Slide 14

Slide 14 text

これまでの学校教育が求めてきた「効率的な学び」から の脱却。「協働的な学び」の実現 14 みんなのコードの取り組み: 学びの作品化プロジェクト 教科学習で学んだ「知識」をプログラミングを用いて作 品にしていく。 学習に際しては、Scratchコミュニティ上の作品や児童 同士の対話を通じて作品を制作。 「情報技術パラダイム」の実現 児童・生徒間の相互作用に加え、コンピュータとの対話を通じて学ぶことが可能となり、学びの姿 そのものが変化しつつある

Slide 15

Slide 15 text

観点1 AIを「人間が高度な知的生産をするためのもの」と認識すべきではないか 観点2 コンピュータと適切に対話する力も、重視すべきではないか 観点3 思考力・判断力・表現力等に及ぼす影響について、議論すべきではないか まとめ 15 ➔ みんなのコードは今回のガイドラインへの提言だけでなく、今後も学校・研究・関係者との議論を 深め、AI時代に相応しい情報教育のあり方を示していく 生成AIの教育での利活用をめぐる議論では、以下の3観点が不足している。 ガイドライン策定にあたっては、関係者がこの3観点を考慮する必要がある