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グライダー事故を読み解く(2) (公社)滝川スカイスポーツ振興協会 チーフインストラクター 日口 裕二 JSA航空安全講習会 2022年2月27日(土) 14:10~15:25

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自己紹介 • 1980年 北大航空部でグライダーを始める • 1985年 教証取得 • 1987年 滝川で飛び始める • 1989年 北海道滝川西高等学校に赴任 • 1993年 滝川市スカイスポーツ課に配属 以降、スカイスポーツのまちづくりに邁進 運航主任、主任教官を 歴任 • 2021年 滝川市役所を定年退職 現職に至る JSA常務理事として、クラブ間連携や講習会事業を担当 ※著書に、『雲と風』、ソアリングエンジンシリーズなど 2

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前回のあらすじ • どのように事故は起こるのか・・・事故報告書による振り返り →背景にある『何か』を探る 【事故事例】2015年5月 Discus bT墜落事故 (概要) ・ウェーブフライト中に山の中でパスを下げてしまう ・燃料がないのにE/G再始動を試みる ・最後まで着陸場所を選択できず、(木にひっかけて)墜落 →なぜ →なぜ →なぜ 3

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<背景> • 「Takikawa Glider Competition Meeting」開催中 • 当該パイロットは飛行経験は豊富だった(約1,000時 間)が、ウェーブを初め山岳エリアの飛行に不慣れだ った • AUSでSL機に慣れていたが、Turbo機は今回が初めての 運用だった • 期間中、リーダー機やスタッフに比べて必ずしもうま く飛べていなかった • 当日は難しいウェーブ・ローカル・デーだった(当日、 指定外の場所にO/Lした機体もあった) • いわゆる、優柔不断なパイロットではない 6

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事故対策(どのように事故を防ぐのか) <パイロットとして> ・技術/知識面の向上 ・エリアの慣熟、事前研究 ・TEMの実践 Threatの認識 Errorの認識(自己分析) ・ヒヤリハット/事故事例、ハンガートークから学ぶ (人の経験を我がものにする) →予期し、対策する →Errorの連鎖を止める 経験値を増やす →でも、事故はパイロットだけでは防げない 7

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状況認識(Situation Awareness) レベル1:何かが起こっていることに気付く レベル2:その原因を特定できる レベル3:これからの事態の推移が予測でき る 状況認識エラー 80.2% (「気付き」の失敗) 16.9% (「原因特定」の失敗) 2.9% (「予測」の失敗) 航空インシデントの研究報告より Johns&Endsley, 1995 8

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組織として事故を防ぐ こんなパイロットがいたら、どうしますか? ・28歳、男性(グライダー歴10年) ・自家用操縦士(滑)上級/動力、教証、自家用(飛)陸単、三整(上滑) ・飛行時間 滑空機上級 500rs、動力50hrs、飛行機50hrs ・H23C/Ka8/G102/ASW20L/DG400/Janus CM ・滑空記章 銀章 ・X’C経験 計1,000km(国内のみ) ・Janus CM 単独オペレーションチェックアウト(7hrs、10回) ・前日、三整(動力)の実地試験終了/合格 →当日、Janus CMの初単独オペレーション(監督者なし) 9

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事故事例2:1989年8月 Janus CM転覆事故 【概要】 滝川航空協会所属シェンプ・ヒルト式ヤヌスCM型JA2419(動力滑空機) は、平成元年8月16日13時55分ごろ、訓練を終え北海道滝川市滝川滑 空場に着陸の際、立ち木に接触して、同滑空場の手前に転覆し中破し た。 同機には、機長ほか1名が搭乗していたが、同乗者が軽傷を負った。 【原因】 本事故は、同機が、最終進入経路に入る間にダイブ・ブレーキ等の不 適切な操作のため高度を下げすぎアンダーシュートしたことによるも のと推定される。 10

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当日/当該飛行の状況 • Janus CMによる初単独オペレーション(運航スタッフなし) • 突然の体験希望者(九州の航空部学生) • 2回目、約30分の飛行(上昇気流なし) • 場周高度から思い付きのローパス(400ft、200km/h) • プルアップ後、早めのフルフラップ/エアブレーキの使用により、ア プローチ高度の低下(ファイナルターンのオーバーシュート) • フラップ/エアブレーキを戻し、川面にピッケ(滑走路面より5m低 い) • 河川敷の立ち木(約2m)に翼端が接触 • 翼端先端部が脱落。水平回転後、転覆 11

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最終経路図 転覆の様子 12

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意識や能力vs危険度 • 意識や能力、危険度は常に変動する 危険レベル(環境) 意識・能力レベル 危険! 13

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マネージメントしやすいもの • 機材的なもの、ルール化しやすいもの • 離着陸 • 時間的余裕のあるもの マネージメントしにくいもの • ソアリング&クロスカントリー・・・個々のパイロットに委ねられ るもの • 天候等の急変 ex. Cbコンディション、ローターコンディション • 人間の性質に関わるもの・・・意識、性格、本能、気になること • 時間的余裕のないもの・・・エマージェンシー状況(低高度、低速) マネージメントの難易 14

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マネージメントの手法 • オペレーションマニュアル・・・ルールの設定 • ブリーフィング/デブリーフィング・・・転ばぬ先の杖 • 座学・・・一定水準の知識レベル • 事例紹介(アクシデント/インシデント/ヒヤリハット)・・・ 身近な例 • 無線の活用・・・すぐに指示できる態勢 • シミュレーション • 教育法 • オペレーションディレクター/セーフティオフィサーの配置 →安全文化の構築 15

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気象条件に応じて想定されるリスクと対応策 (運航アドバイス用) 気象条件 想定されるリスク (Threat) 対応 雨・・・ 低気圧の接近 失速速度の増大 雨量に応じ、飛行速度 を5-10kt増す (弱い雨) 視界不良 (キャノピー上に水滴が つく) 小窓を開け、側方の視 界を確保する 16

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気象条件 想定されるリスク (Threat) 対応 (冷たい雨・・・ 寒気流入) 視界不良 (内外の温度差でキャ ノピーが曇る) ベンチレーター、 小窓を開ける (強い雨・・・ 前線の接近、Cbコンデ ィション) 飛行中止 (飛行中であれば、た だちに着陸する) ※十分な飛行高度があり、止み間に留まれる場合は、着陸時に強い雨にあたらないようタ イミングを見計らう 低視程 (ヘイズ、黄砂、 など) バーディゴ (空間識失調) 見えるところを見て、 正常な感覚に戻す ※長時間のソアリングは避ける 17

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気象条件 想定されるリスク (Threat) 対応 低い雲底高度 (高湿度) 雲中に入ってしまう (低コントラスト) 雲から十分離れて飛行 (移流、 フェーンギャップ閉) (ソアリング時) 滑空場から離れない (すり鉢を守る) 早めに降下開始 強風 (等圧線の間隔狭い、 寒気流入、ウェーブコ ンディション、前線接 近) 風向風速の急変、 ウィンドグラディエン ト 着陸時、 十分な機速の確保 地上滑走時、 遠方を見て方向保持と 水平 (ソアリング時) すり鉢管理(パス高め、 強い沈下想定) 18

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気象条件 想定されるリスク (Threat) 対応 その他(日没近く) (眩しくて)曳航機が 見えない 太陽の方に向かって曳 航しない (無線で誘導) 地面が暗い サングラス外す (極端な高起こし、 引き起こしなし) 早めに目を慣れさせる 地面を注視し過ぎない ※疲労が溜まり判断力が鈍る傾向があるので、意識して行動 19

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人間の特性/その人の性格を踏まえた運航管理 • 人間の心理・・・帰巣本能 →戻らなくてもいいオプションを持たせる、”戻らせない”教育 • 人間の反応・・・突発事象に対し、思考や反応が停止 →予め、決めておく(大切な順) • 何かが起こったら、その一つのことに目がいってしまう →意識して分散(ほかにもあるはず) • 性格(せっかち/がさつ/のんびり/注意深い/大胆/まじめ、etc) • 年齢(による機能低下)・・・意識との乖離 <運航管理上のポイント> • 人間の特性や「落とし穴」/「抜け」を踏まえる • その人をよく知る・・・日常の行動観察、分析 →その人がやりそうなことを予測する →性善説を捨てる 20

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ヒヤリハット(エラー)/インシデント/ アクシデントの連鎖への対応 トラブルに巻き込まれないようにするためには? ①アラートの発出 ②運航体制の強化 ③基本に立ち返る ※トラブルがあったという情報が不可欠 →トラブルを起こした団体の協力が不可欠 (お互いのために) 21

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情報発信/共有の必要性 ・クラブ同士のつながり・・・JSA安全委員会 ①初期段階での事故情報の展開 “次の週末の運航に間に合うように情報発信” ②定期的な安全啓発 “運航基準等の意見交換” ・スタッフ間の情報共有 ・クラブ内でのハンガートーク、ディスカッションの促し 22

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事故を防ぐには 強い覚悟! 23