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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の 事例とホールチームアプローチ #スクフェス⼤阪 2025.07.19 株式会社ログラス QAコタツ

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⾃⼰紹介 2015年に株式会社ビズリーチにバックエンドエンジニアとして入社。 フルサイクルエンジニアを経てなんとなくQAに至る。 2022年に株式会社ログラスに1人目のQAエンジニアとして入社。 独自の品質モデル(品質富士山)を提唱し、アジャイルテスティングに邁進中。 趣味は家庭菜園。 株式会社ログラス QAエンジニア コタツ Kotatsu

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1. はじめに a. 原体験、本セッションの⽬的、私を取り巻く状況、免責 2. 理論パート)相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 a. 贈与と寄り合い b. 2つの事例からの学び 3. 実践パート)ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する a. プロダクト開発との関係性、実践しているアプローチとアウトカム 4. 導⼊と実践に向けたステップと考慮事項 5. まとめ アジェンダ

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はじめに

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私の原体験

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はじめに 時は遡ること20年ほど前、インターネットばかりやっている⻘春時代を送ったコタツ⽒。 Yahoo!ジオシティーズを使って個⼈サイトを作ったり相互リンクしたりBBSを作ってみたり なんとかメッセンジャーやSNSで知らない⼈と延々ふざけたり Flash倉庫を⾒たり リーダーや表⽴ったルールがない世界を夜な夜なエンジョイしていた... 私の原体験

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はじめに 私の原体験 引用元:無料&広告なしで個人サイトを作成できる Geocities風サービス「 Neocities」を使ってみたよレビュー

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はじめに 私の原体験 引用元:コミックマーケットの理念と実相

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はじめに インターネットのルーツは、冷戦期の⽶国防総省が開発したARPANETにまで遡ります。その設計思想の⼀ つに、核攻撃などの事態が発⽣しても通信網が機能し続けることがありました。これは、特定の中⼼点に 依存しない分散型のネットワークを構築することで、システム全体の脆弱性を低減するという発想です。こ れが、後のインターネットが持つ思想的な特性の基盤となります。 初期のインターネットは、特定の管理主体を持たない分散型システムとして設計され、情報の⾃由な流通 と、それによる⾃⼰組織化された秩序の形成が期待されました。これは、相互扶助と⾃⼰組織化の中で規 範を作り、社会を円滑に運営できるという理想を、インターネットが実現する可能性を秘めていると⾒な されたのです。 ※Geminiによる解説 私の原体験

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はじめに ソフトウェアを無料で提供し、誰でも共有‧改良できるようにするオープンソース⽂化や、Wikipediaの運 営なんかを考えると分かると思います。 当時は全然知らないでただ楽しんでいただけだったが、実は相互扶助と⾃⼰組織化の実践例に触れていたの だった... 私の原体験

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はじめに 5年程前アジャイルというものを知ったが、その時シュッと私に馴染み、全然違和感がなかった それは「分散型」「⾃由と⾃律」「何でも⾃分でやってみる」という点が、思春期にどっぷり浸かったイ ンターネットでの体験の中で体に染み付いていたからだと思います。 本⽇は、上記の特徴を実現している相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例を考察して、アジャイルテ スティングで⼤切なホールチームアプローチ(全員で品質保証すること)を再解釈し、今後の活動のヒン トにしたいと思っています 本セッションの⽬的

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私を取り巻く環境の説明

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No content

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経営企画向け予実管理システムを主に開発しているSaaS開発会社です。 ⼊社したときは40⼈台だったのに今250⼈ぐらい。もはや違う会社になった FASTという⼤規模アジャイルフレームワークを採⽤しています。私は⽇本初??のFASTやっているQAかも 開発チームはアジャイルテスティングの考え⽅‧プラクティスに則っています。 ホールチームアプローチを取っているので、開発チーム⼀丸となって品質に取り組んでいます はじめに 私を取り巻く環境の説明

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免責

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N=1かつ実験中、状況による、⼀つのサンプルとして考えてください 社会的事象や先⼈たちの考察と⾃分の取り組みの関連性を紐解きながら、意義付けや落とし⽳を⾒つけ て、普段の活動をより良くしたいと考えています ⼀概に階層型組織的なアプローチを否定したいわけではない。 ⼀⻑⼀短あると思うし、状況によります。 はじめに 免責

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例

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秩序とはなんだろう

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 社会学や政治学において「秩序 (social order)」は、社会が安定して機能するために必要な、個⼈や集団の ⾏動規範、制度、構造の総体を指します。 世間⼀般的な誤解として、国家、政府、階層型組織の⽀配の⼒のみによって秩序が保たれていると思われが ちです。 秩序とは?

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 ⽀配の⼒とは? 秩序を⽣み出す⼒と⼀⼝に⾔っても⾊々あり ます。 単純な「⽀配」だけでなく、構造的な⼒、誘 導する⼒、そして規範や⾔説の⼒として、 様々な形で社会に遍在しています。⽂化⼈類 学の視点から⾒ると、特に「国家なき社会」 や「寄り合い」のような共同体では、⽀配に よる⼒や構造による⼒(国家‧資本主義のそ れ)が希薄な代わりに、⾏動による⼒や規範 的‧⾔説による⼒が、秩序を形成する上で極 めて重要な役割を担ってきました。

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 階層型組織に頼らない秩序維持の事例をご紹介 1. ミクロネシアの部族で⾏われる「贈与」 2. ⽇本における「寄り合い」 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例

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ミクロネシアの部族で⾏われる「贈与」

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 贈与論 引用元:【大田区】大森駅は乗り換え路線の無い駅の乗車数 23区 内で1位!ラッシュ時間に利用する際には覚えておくと便利な JR 蒲田駅始発の電車。 引用元:Wikipedia 縄文土器

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 贈与論 モースは、ミクロネシアのクワキウトル族のポトラッチ(アメリカ合衆国およびカナダ‧ブリティッシュコ ロンビア州の太平洋岸北⻄部海岸に沿って居住する先住⺠族によって⾏われる祭りの儀式)や、ポリネシア のマオリ族の贈与の習慣といった事例を分析し、贈り物には、贈与者と受領者を結びつける、⽬に⾒えな いが強⼒な「精神的な拘束⼒」があることを⽰しました。贈り物は、単なる物質の移動ではなく、⼈間関 係、社会的地位、そして共同体の規範を織りなす「全体的給付」(total prestation)として機能します。 贈与の交換は、以下の三つの義務を伴います。 1. 与える義務 (to give) 2. 受領する義務 (to receive) 3. 返礼する義務 (to repay)

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 贈与論 物を贈り合うことは、互いに敬意を与え合うために⾏っています。逆に、与えることを拒んだり、招待をし ないということは、宣戦布告に相当します。 贈与は双⽅的なつながりを作って他者を受け⼊れることにつながり、集団間の戦いを防ぐ効果がありま す。また、集団間の贈与で獲得した財は部族⺠に再配分(⼤盤振る舞い)されることも特徴的です。 引用元:「今日はみんなでポトラッチしよう」(岡本太郎)

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 贈与論 贈与論は、国家や貨幣、そして暴力による強制という近代的な前提がなくても、人間社会が複雑な秩序を形成し、 維持することが可能であるという洞察を得ることができます。 貨幣や市場が普及する以前の社会では、人間関係の多くが「負債( debt)」、すなわち相互に何かを借りている状 態によって成り立っていたという考察があります。これは金銭的な負債ではなく、 相互扶助や贈与によって生じる 「互恵的な義務感」としての負債です。 私たちが「借金」と聞くと連想するような、数字で明確に清算される金銭的負債とは異なり、精算がされない 「道徳 的な負債」や「人間関係の負債」が社会関係の根幹をなしていた ことを詳細に論じています。 引用元:『負債論 ─ 貨幣と暴力の 5000年史』(以文社、 2016年)

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 1. 暴力や強制によらない規範遵守: 贈与の義務は法的な強制力ではなく、 「評判」「世間体」「名誉」といった社会的な価値によって維持 されま す。人々は共同体の一員として認められ、信頼されることを重視するため、自発的に贈与のルールに従い ます。 2. 非階層的な社会の流動性と柔軟性: 贈与のシステムは、特定の個人や集団に富や権力を固定化させるのではなく、 資源や義務の流動的な循 環を促します。ポトラッチのように、競って贈与し、消費することで富を「消尽」させる文化は、過度な富の集 中を防ぎ、社会的な均衡を保つ役割を果たしました。 3. 関係性の構築そのものが目的: 贈与は単なる経済活動ではなく、 「人間関係を築き、維持すること」そのものを目的 とします。贈り物のやり 取りは、友情、親族関係、政治的同盟といった社会的な絆を強化する儀礼的な行為です。 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 贈与論 引用元:『負債論 ─ 貨幣と暴力の 5000年史』(以文社、 2016年)

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 贈与論 反論:「⼈間は⾃⼰保存を本能とし、互いに他者より優位に⽴とうとするので、⾃然のままでは常に戦争 状態になる」(リヴァイアサンⅠ トマス‧ホッブス著) なんで成り⽴つのか?: 他者より優位に経とうとするからこそ、贈り物に返礼できないような恥ずべきことはしないから 上記のように「⾃然状態では常に戦争になる」ので⼈間は信頼できないから権⼒が必要という反論は、⾒ 栄を張るという⼈間本来の特性によって贈与がのシステムが成り⽴っていることの補助になる

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⽇本における「寄り合い」

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 寄り合い 寄り合いとは、古代から⽇本の社会に存在する、⾃律的な共同体運営のための⾃然発⽣的な慣習です。基 本的に地域や⾎縁、職業などで結びつき、互いの性格、家族構成、過去の⾏動、社会的⽴場などを⽇常的 に把握した「顔の⾒える」⼩規模な共同体で⾏われます。 • ⼀度きりの関係ではなく、⽣涯にわたる関係性を前提とするため、「貸し借り(恩義)」や「相互扶 助」といった⻑期的な互恵関係が重視されます。困った時は助け合い、何かを受け取れば返礼すると いうサイクルが、共同体を維持する基盤となります。 • ⽇々の交流や共同作業を通じて信頼が蓄積されます。信頼があるからこそ、明⽂化された契約なし に、⼝約束や⾮公式な合意で物事が進められます。

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 寄り合い 寄り合いにおける意思決定は、特定のリーダーによる指⽰や多数決ではなく、参加者全員の納得、すなわ ち「総意」や「合意(コンセンサス)」を⽬指す傾向が⾮常に強いです。 • 意⾒の対⽴があっても、感情的な議論を避け、時間をかけて「落としどころ」を探ります。それでも 全員が合意に⾄らない場合、無理に結論を出さず、問題を「棚上げ」したり、次回の寄り合いに「持 ち越し」たりすることがあります。これは、関係性を壊さずに問題を継続的に検討し、熟成させるた めの戦略です。 ‐ 最終的な決定に対する全員のコミットメントを強化する効果がある • 明⽂化された法や規則が少ない⼀⽅で、「ムラ⼋分(村⼋分)」に代表されるような⾮公式な社会的 圧⼒が存在しました。共同体の規範から逸脱する⾏動は、評判の失墜や関係性の断絶に繋がり、個⼈ にとっては極めて重い制裁となります。秩序は、外からの強制ではなく、個々⼈の⾃律的な規範意識 と、共同体からの相互監視‧相互評価によって維持されます。

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 寄り合い 共同作業と儀礼を通じた連帯感の強化 寄り合いは、単なる話し合いの場だけでなく、共同体としての活動や儀礼を通じて、参加者間の絆を深 め、秩序を再⽣産する役割も担います。 • 「ハレ」と「ケ」の循環: 祭りや共同作業(例えば、⽥植えや稲刈り、⽔路の整備など)といった 「ハレ(⾮⽇常)」の共同活動は、⽇々の「ケ(⽇常)」における関係性の基盤となります。共に汗 を流し、共に⾷事をすることで、共同体の⼀員であるという意識が強化され、協⼒関係が再確認され ます。 • 共同作業や儀礼の場は、⽇常的な不満や⼩さな対⽴を解消する機能も持ちます。共同体を優先する意 識が⾼まり、個々の争いを超えて、全体の調和を再構築する機会となります。

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の事例 寄り合い 現代においても地⽅にはエッセンスは残っている: 「顔の⾒える範囲での信頼」「合意形成による内発的コミットメント」「⾮公式な社会的圧⼒」「共同実 践を通じた連帯感」といった、国家権⼒とは異なる原理に基づく秩序形成のメカニズムが機能していると ⾔えます。

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ちょっとスピンオフ: FASTとの関係性

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 FASTとの関係性

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2つの事例からの学び

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 1. 資源や労働の「共有性」と「必要に応じたアクセス」、そして「富の流動性」 2. 意思決定と権⼒の「⾮集中性」 3. 関係性の「持続性」 2つの事例からの学び

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 富は所有で固定化されず、常に「与える」という行為を通じて流動し、その流動性こそが社会関係を活性化させる 1.資源や労働の「共有性」と「必要に応じたアクセス」、そして「富の流動性」 引用元:「今日はみんなでポトラッチしよう」(岡本太郎)

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(再掲)相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 贈与が相互の合意と信頼に基づいて⾏われる関係性では、上からの強制や命令は機能しません。⼈々は⾃ 発的に合意を形成し、互いの意⾒を調整することで秩序を保ちます。これは、⼒が特定の個⼈に「独占」さ れず、分散されている状態を⽰します 2. 意思決定と権⼒の「⾮集中性」

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 常に何らかの「借り」が残る状態が、⼈々を相互に結びつけ、関係性を継続させる 3. 関係性の「持続性」

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 この章のまとめ 1. 資源や労働の「共有性」と「必要に応じたアクセス」、そして「富の流動性」 2. 意思決定と権⼒の「⾮集中性」 3. 関係性の「持続性」

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ホールチームアプローチを 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ 秩序の要素で再解釈する

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ホールチームアプローチとはなにか

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ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する プロジェクトに携わる全ての⼈で問題解決‧⽬的達成に邁進するアプローチです。 変化の激しい現代社会において、トップダウンやボトムアップだけでは対応できない課題に対し、組織全 体の知恵を結集し、より良い⽅向へ進むための⼿法として、アジャイルテスティングの⽂脈で語られる事が 多いです。 本⽇このスライドの中においては、品質管理部とか、QAとか、専⾨職の⼈や部⾨のみに品質保証の責任が 集中するのではなく、開発チーム全体で品質に責任を持ち、品質を向上をしていくための、品質に関する ホールチームアプローチについて扱います。 ホールチームアプローチとは

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ホールチームアプローチを 相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の 要素で再解釈する

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(再掲)相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 1. 資源や労働の「共有性」と「必要に応じたアクセス」、そして「富の流動性」 2. 意思決定と権⼒の「⾮集中性」 3. 関係性の「持続性」 以降は上記の要素を取り込みながら、わたしが⾃社で実践していることをお話していきます 考えるうえでのヒント

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 富は所有で固定化されず、常に「与える」という行為を通じて流動し、その流動性こそが社会関係を活性化させる 1.資源や労働の「共有性」と「必要に応じたアクセス」、そして「富の流動性」 引用元:「今日はみんなでポトラッチしよう」(岡本太郎)

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ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する 責務や情報の独占によって権⼒になってしまうので、それをしません。これは組織構造ではなくQAのタス クと責務をどのように定義するかの話です。責務の集中によってフェーズゲートが⽣まれ、フェーズゲート が⽣まれるとボトルネックとなり、機動⼒が損なわれるからです。 メリット • 全員が品質担保の責務があるので、バグは開発の早い段階で発⾒‧修正されやすくなる • 開発者もテストに参加することで、開発リソース全体の流動性が⾼まり効率的な開発が可能になる • 新しい技術や知識を取り⼊れる動きが加速する • 開発チーム全体のスキル向上に寄与 1.資源や労働の「共有性」と「必要に応じたアクセス」、そして「富の流動性」  →QA/QCの責務やタスクを独占しないでシェアする

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全員が品質保証の担い⼿である前提 のもと、QAはプロダクト開発のため の(品質に関するスキルや技能も含 めた)様々なケイパビリティを上げ る、というミッションにしています 重要なのはQAは品質保証をする⼈‧ 役割ではないということ ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する 1.資源や労働の「共有性」と「必要に応じたアクセス」、そして「富の流動性」  →QA/QCの責務やタスクを独占しないでシェアする 引用元:8/8(木)_Findy_ワンチームで勝つ :プロダクトチームの中 でのQAエンジニアのふるまい事例

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(再掲)相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 贈与が相互の合意と信頼に基づいて⾏われる関係性では、上からの強制や命令は機能しません。⼈々は⾃ 発的に合意を形成し、互いの意⾒を調整することで秩序を保ちます。これは、⼒が特定の個⼈に「独占」さ れず、分散されている状態を⽰します 2. 意思決定と権⼒の「⾮集中性」

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ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する 2:意思決定と権⼒の「⾮集中性」  →QAとして横断組織をおかないで、チームの中に⼊る 組織設計として、QA横断組織を作らず、チームの中に⼊りチームの活動にコミットするという形を取って います。 品質保証がQAだけの責任ではなく開発チーム全体で⾏うことを組織設計としても⽰すことで、各メンバー が品質に対する強いオーナーシップを持ちます。権限が「⾮集中」されることで、⼀⼈ひとりが品質の「意 思決定者」としての意識を持ちます。 メリット • 意思決定が迅速化し、品質改善のサイクルが⾼速になる • 職種間の協⼒関係が促進され、より建設的なフィードバックと対話が⽣まれる ‐ 強制や命令、依頼、委託等はなく、ある程度は各々⾃分で考える必要があるから ‐ 特定の職種だけが品質基準やテスト戦略を独占しないため、チーム全体の透明性が⾼まるから

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ソフトウェアにおける品質は、単に技術 的な完成度やバグの少なさだけでなく、 ユーザーにとっての有⽤性、ビジネス⽬ 標への貢献、⻑期的な保守性や拡張性な ど、多様な「価値」を内包します。この ように広く存在する品質を⽀えるのはテ クノロジー、プロセス、そして組織で す。(cf: 品質富⼠⼭) 品質を広義で捉えた結果、明らかにQAの みでは実現できないので全員でやってい く必要性が⾼まりました ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する 2:意思決定と権⼒の「⾮集中性」  →QAとして横断組織をおかないで、チームの中に⼊る

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ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する 組織図として⽰す、⽇々そのように振る舞う、だけで はなく、品質コミュニティの運営や、開発者を巻き込 んだ品質勉強会など、オープンな情報共有のためのコ ミュニケーション設計もしています。 (cf: スクフェス⼤阪2023で発表させてもらった資料) 以下は弊社slackのテストに関するemoji(規範?) 2:意思決定と権⼒の「⾮集中性」  →意思決定と権⼒の「⾮集中性」を意識づけする取り組み 引用元:https://speakerdeck.com/kotatsu

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相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ事例 常に何らかの「借り」が残る状態が、⼈々を相互に結びつけ、関係性を継続させる 3. 関係性の「持続性」

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ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する 3. 関係性の「持続性」  →常にスウォーミングをする なるべく、何でも⼀緒にやるようにしました。作業を⼀緒にやると、あるべきの話や今するべきではない けど思いついた話、私⽣活、⼈となり、⾊々⾒えてきます。この積み重ねにより、QAと開発者は、互いに 改善のためのフィードバックを与え合い、サポートし合うことで、より強固なチームや関係が築くことがで きます。単に「テストをパスした/しない」という⼀⾯的な関係で終わらず、品質向上という共通の⽬標に 向かって協⼒し続けられるようになりました。 メリット • 品質保証の知識と経験がチーム全体に蓄積される • ⼀時的な課題やメンバーの⼊れ替わりがあっても品質⽔準が低下しにくい持続的な体制が構築される • 困ったときに助けてもらえる • リスクを拾いやすくなる • ベイビーステップができる

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ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する スウォーミングに持ち込むためのテクニックも ⾊々(cf: 過去登壇) スウォーミングの中の会話から転じ、そもそも の問題の提起をしたい‧なにかを変えたいと なったときは、そのために別途時間を取り⼀緒 に準備をするとか、MTGの準備やファクトの収 集、課題整理などを⼀緒にやったりもします。 3. 関係性の「持続性」  →常にスウォーミングをする 引用元:https://speakerdeck.com/kotatsu

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ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する 私が実践していることのまとめ 相互扶助と自己組織化で成り立つ秩序 品質保証において実践していること 資源や労働の「共有性」と「必要に応じたアクセ ス」、そして「富の流動性」 QA/QCの責務やタスクを独占しないで、シェアする 意思決定と権⼒の「⾮集中性」 QAとして横断組織をおかないで、チームの中に⼊る 関係性の「持続性」 常にスウォーミングをする

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導⼊と実践に向けたステップと考慮事項

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導⼊と実践に向けたステップと考慮事項 再現性はあるのか? とはいえあなたの感想ですよね、という域を出ないというか 再現性はあるのかどうかちょっと考えてみました

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導⼊と実践に向けたステップと考慮事項 順番に登る、しっかりやる 思い返すと私は 1. 「QAとして横断組織をおかないで、チームに⼊る」 2. 「常にスウォーミングをする」 3. 「QA/QCの責務やタスクを独占しないでシェアする」 という順番で登りました。このような登り⽅になったのはたまたまですが、逆の順番、もしくは全部⼀気 にやろうとしてもうまく⾏かなかったような気がします。 チームの中に⼊っても、⾃分だけでテストをしていたら、この順番でやってもうまくいかなかったと思いま す。

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導⼊と実践に向けたステップと考慮事項 コミュニティの運営 また、スウォーミングと同時に、品質に興味がある⼈たちの⼩さなコミュニティ的の運営することからは じめたことも添えておきます。 そのコミュニティの中では、コミュニティ‧オブ‧プラクティス(実践コミュニティ)のアプローチを参考 に、品質に関する関⼼や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて 深めていきました。 — 実践コミュニティの構成モデル 1. ドメイン: そのコミュニティで取り組む共通のテーマ 2. コミュニティ: メンバー間の相互作⽤と学習。どのようにコミュニティを運営していくか 3. 実践: 知識を⽣み出す活動 三要素を並⾏して発展させることが重要 引用元:コミュニティ・オブ・プラクティス ナレッジ社会の新たな知識形態の実践

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実践コミュニティの構成モデル 1. ドメイン: そのコミュニティで取り組む共通のテーマ 2. コミュニティ: メンバー間の相互作⽤と学習。どのようにコミュニティを運営していくか 3. 実践: 知識を⽣み出す活動 上記3つともが流動的な状態だと存続が危ういとのことだが、品質に関する実践コミュニティは、ドメイン や実践を強固にするための題材には事⽋かない。安定した要素が⼀つでもあれば、それを元に他の要素の 安定にもつなげられて、メンバーの出⼊りは激しくてもコミュニティにあまり影響がないとも記載されてい て、今までの経緯を思い返すと合致する。 会社組織の中で品質コミュニティをやっていくにあたり、上記構成モデル3つを同時に発展させていくこと は他のドメインと⽐べると簡単なのでは?と思います 導⼊と実践に向けたステップと考慮事項 コミュニティの運営 引用元:コミュニティ・オブ・プラクティス ナレッジ社会の新たな知識形態の実践

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考慮事項

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ダンバー数とは、イギリスの⼈類学者ロビン‧ダンバーが提唱した概念で、⼈間が安定した社会関係を維 持できる個体数の認知的限界は約150⼈であるというものです。この数字は、脳の新⽪質の⼤きさや、個々 ⼈が互いの顔と名前を認識し、その⼈となり(性格、信頼性、過去の⾏動など)を記憶‧理解し、直接的 な関係を維持できる上限として導き出されました。ダンバーは、この150という数字が、狩猟採集社会のバ ンドの規模や、歴史的な軍隊の基本単位、現代の企業の部署の規模など、様々な集団で⾒られる共通のパ ターンであると指摘しています。 導⼊と実践に向けたステップと考慮事項 ダンバー数を超える組織での導⼊は考慮する必要がある 引用元:ベンチャーに立ちはだかる「人数の壁」〜その真の原因と対策〜 Vol.2

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ダンバー数を超える集団で、全ての⼈々が意⾒を述べ、合意形成を⽬指すことは現実的に不可能です。⼤規 模な集団では、代表者制や多数決、あるいは権威による意思決定が不可避となります。寄り合いが直接⺠主 主義的な運営を可能にしているのは、その規模が⼈間の認知限界に適合しているためと考えられます。 ⾒知らぬ⼈々の集団では、個⼈の⾏動に対する 「社会的圧⼒」は格段に弱まります。 導⼊と実践に向けたステップと考慮事項 ダンバー数を超える組織での導⼊は考慮する必要がある 引用元:ベンチャーに立ちはだかる「人数の壁」〜その真の原因と対策〜 Vol.2

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階層型組織的な権⼒を⼀概に否定することは難しい 階層型組織的体制とネットワーク型組織のいい感じの落とし所とは? 私達はサラリーマンだし会社という組織の中に途中から乗り込む⾝です、なので途中参加した時点で既に 全体の⽅向性はあるし、これからも新たに創出されるし、階層構造の組織を否定することは出来ない なので全体の⽅向性をトップダウンで⽰しつつ、具体的な実⾏計画や改善案はボトムアップで作り上げて いく「ハイブリッドモデル」をどう作るのかが鍵だと思っています。全体の⽅針⾃体が納得感に基づき、現 場の⾃律性を阻害しない形であることが重要です。 また、ネットワーク型組織のメリットが損なわれてしまうので、階層型組織的権⼒が過剰にネットワーク 型組織に⼲渉すること阻⽌したほうが良いです。 導⼊と実践に向けたステップと考慮事項

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寄り合いと国家の関係性からも学べる部分がありそうです • 階層型組織的体制の⽬標を理解するための時間は惜しまない。納得し⾃分の⾔葉で語れるまでになる • 階層型組織的体制の⽬的をネットワーク型組織の⽬標に⼀部取り⼊れる • 安定性や実⾏速度を出したいときは階層型組織的な組織設計を⾏う • 階層型組織的体制とネットワーク型組織の窓⼝‧インターフェースを⼀元化し、調整能⼒の成熟を図 る ダンバー数からも分かる通り、巨⼤な組織の上から下までネットワーク型でやろうとするのは難しいの で、上記のような⼯夫を取り⼊れていく必要性があります。 階層型組織的な権⼒を⼀概に否定することは難しい 階層型組織体制とネットワーク型組織のいい感じの落とし所とは? 導⼊と実践に向けたステップと考慮事項

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まとめ

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ホールチームアプローチを相互扶助と⾃⼰組織化で成り⽴つ秩序の要素で再解釈する 私が実践していることのまとめ 相互扶助と自己組織化で成り立つ秩序 品質保証において実践していること 資源や労働の「共有性」と「必要に応じたアクセ ス」、そして「富の流動性」 QA/QCの責務やタスクを独占しないで、シェアする 意思決定と権⼒の「⾮集中性」 QAとして横断組織をおかないで、チームの中に⼊る 関係性の「持続性」 常にスウォーミングをする

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1. 独占することでボトルネックになる(共有、⾮集中) 2. 関係構築をしないとうまくいかない 3. ⽬的を捉え、常にアップデートする 4. 誰かがやってくれる、ではなく、できることは何でも⾃分たちでやる まとめ ⼀連の考察から得られる⽰唆

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⼀連の考察から得られる⽰唆 1.独占することでボトルネックになる(共有、⾮集中) 良かれと思ってやってしまいがちなタスクや責務の独占が、結果的にスピードを落としたり、最適解にたどり着くこ とが難しくなってしまったりします。 独占することは、責任は集中するものの、異なる価値観の人との協業や、意見のすり合わせ、合意形成をする手 間は省けて一時的にはスピードアップするし、楽です。一方で、特に複雑で曖昧なことであればあるほど、様々な 観点を汲み取ることができず、特定の属性の人たちで進行する難易度は上がります。 そして、共有して一緒に進めることは勇気がいることです。 また、タスクや責務以外、例えば情報等、他のものでも独占は起こります。情報共有を常に怠らないようにする 等、あらゆることを独占しないこと に気を配るべきだと思っています。 まとめ

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社会においては異質な人間に出会っても、考え改めさせるのではなく、対話をし、共生していく必要があります。 関係性自体を繋いでいくために分散型組織の共同体の仕組みがあるのだと事例は示しています。 イノベーションを生み出すため心理的安全性が必要と言われたりしますが、心理的安全性というそれっぽい言葉 で語るより、人と人との関係性を構築するというほうが個人的にはしっくり来ます。 ⼀連の考察から得られる⽰唆 2.関係構築をしないとうまくいかない まとめ

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⼀連の考察から得られる⽰唆 3.⽬的を捉え、常にアップデート まとめ 私達を規定している常識に深く考え込まず従うと、わたしたちのやり方や仕事はいつまでたってもカイゼンされま せん。既存のやり方を疑うことで、アップデートし、進化していくことができると思っているので、大事にしていきた いと思っています。 また、このマインドがダブルループ学習には不可欠だと思っています。

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できることならなんでも自分でやる、というマインドは、アジャイルにおける自律の精神と繋がります。 日々の仕事の中でまずできることとしては、問題があったらマネージャーに丸投げする、デザインがほしいからデ ザイナーに依頼するのではなく、自分で構想を伝えたり、問題解決のための設計をしてからそれを伝えてみて一 緒に考える、等が上げられるのでは無いでしょうか。ホールチームアプローチとはそういうことなんじゃないかなと 思います。 ⼀連の考察から得られる⽰唆 4.誰かがやってくれる、ではなく、できることは何でも⾃分たちでやる まとめ

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参考⽂献 • 贈与論 他⼆篇 マルセル‧モース著 森⼭⼯訳 岩波⽂庫 • 負債論 貨幣と暴⼒の5000年 デヴィッド‧グレーバー著 ⾼祖岩三郎訳 以⽂社 • コミュニティ‧オブ‧プラクティス ナレッジ社会の新たな知識形態の実践 エティエンヌ‧ウェンガー、リチャード ‧マクダーモット、ウィリアム‧M‧スナイダー著 野村恭彦監修 野中郁次郎解説 櫻井祐⼦訳 翔泳社 • リヴァイアサン1 ホッブズ著 ⾓⽥ 安正訳 古典新訳⽂庫

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