Slide 1

Slide 1 text

はじめての「相関と因果とエビデンス」入門 林岳彦 国立環境研究所 社会システム領域 〜 “動機づけられた推論” に抗うために 〜 データ分析の従事者ではないかもしれないけれども 市民・意思決定者として「相関と因果」に興味がある人のための

Slide 2

Slide 2 text

自己紹介 専門:環境データ分析、因果推論、Science-Policy Interface 国立環境研究所/社会システム領域/経済・政策研究室 現在の主な研究内容 • 農薬が生態系に与えている影響の因果効果の分析 • 化学物質の生態・ヒト健康リスク評価に関するデータ解析 • 環境問題に対する対話・コミュニケーション活動 • エビデンスの政策利用を考慮する際の検討枠組みの開発 本日はデータ分析・リスク評価・政策助言・ リスクコミュニケーション等の業務経験を基にお話します

Slide 3

Slide 3 text

自己紹介 2/28刊行 好評発売中! 電車内でのスキマ時間や、 夜中のお風呂上がりに ビール片手に読めるような本を 目指しました

Slide 4

Slide 4 text

本日の目次 (0) そのそものそもそも:科学的推論とは何か、なぜ重要か (I) 現象編:「相関」と「因果」はなぜズレる? (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 (III) 利用編:EBPM とエビデンスの多元的評価

Slide 5

Slide 5 text

本日の目次 (0) そのそものそもそも:科学的推論とは何か、なぜ重要か (I) 現象編:「相関」と「相関」はなぜズレる? (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 (III) 利用編:EBPM とエビデンスの多元的評価

Slide 6

Slide 6 text

本日の目次 (0) そのそものそもそも:科学的推論とは何か、なぜ重要か • 科学/科学的推論とは何か? • なぜ「科学/合意された方法論に基づく推論」が重要なのか • 都合のよい“因果関係”を引き出してしまわないために

Slide 7

Slide 7 text

科学/科学的推論とは何か? 専門家(科学者)集団によって合意された 一連の方法に基づく推論 (現代)科学を科学たらしめているのは 「合意された方法」である 「科学=真実」という単純な話ではなく、 もちろん、「科学≠真実」という単純な陰謀論でもない 標準的な答え方のひとつとしては 科学の”客観性”の実態は「手続き的客観性」であることが多い

Slide 8

Slide 8 text

なぜ「科学/合意された方法/に基づく推論」が重要なのか データはどのアングルから見るかによって見え方が変わる どのアングルから見える像も”ウソ”ではない 「データ=真実」というのは勘違いである 結論 = データ+解釈(仮定/アングル)

Slide 9

Slide 9 text

なぜ「科学/合意された方法/に基づく推論」が重要なのか 結果、「自らに都合の良いアングルから見た推論」で世界が溢れる 上から見たらコップが丸に見えたとしてもコップが球体ではないのと同様に 「自分の都合の良いアングルから見た推論」が実態を反映しているとは限らない 予め持っている信念をもとに、情報を主観的に 取捨選択して、主観的に解釈する行為 また、人間は「動機づけられた推論(motivated reasoning)」の 甘い誘惑に負けがちな生き物である 例えば、米国においては、気候変動に対する知識が見解に与える影響の方向は、支持政党の違いに 大きく依存する(政党の立場に沿う見解を強化する方向で作用する)傾向があることが知られている

Slide 10

Slide 10 text

科学は「科学的方法」によって「特定のアングル」に人を縛る 現代において科学は、動機づけられた推論の誘惑に抗うための 数少ない有効(not万能)な手段のうちの1つである 余談:実は少なからぬ場合に縄がゆるゆるになっているというのが昨今の「再現性問題」 JOHN WILLIAM WATERHOUSE - Ulises y las Sirenas 科学的 ⽅法 動機づけられた推論

Slide 11

Slide 11 text

独善的な“因果関係”を引き出してしまわないために 誤った因果関係の帰属をすると、人が死ぬことがある (特に公共政策の場合には、とてもたくさんの人が死ぬことがある) 本日はデータから”因果関係”を引き出す際の 「科学的方法」と各種の留意点について解説します 事 例 数 時間 AがBの原因である! BがAの原因である! そもそも関連はない!

Slide 12

Slide 12 text

本日の目次 (0) そのそものそもそも:科学的推論とは何か、なぜ重要か (I) 現象編:「相関」と「因果」はなぜズレる? (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 (III) 利用編:EBPM とエビデンスの多元的評価

Slide 13

Slide 13 text

(I)の目次 (I) 現象編:「相関」と「因果」はなぜズレる? • はじめに:「因果」の概念を理解する • 因果関係がなくても相関関係が生じる3+2パターン • 応用編:男女賃金差の分析を例に考える

Slide 14

Slide 14 text

(I)の目次 (I) 現象編:「相関」と「因果」はなぜズレる? • はじめに:「因果」の概念を理解する • 因果関係がなくても相関関係が生じる3+2パターン • 応用編:男女賃金差の分析を例に考える

Slide 15

Slide 15 text

はじめに:「因果」の概念を理解する 『因果概念』は観察者の “心の習慣”の産物である デヴィット・ヒューム (1711-1776) カール・ピアソン (1857-1936) 科学は、因果関係のような曖昧な 概念ではなく数学的に厳密に定義 される相関関係を議論すべき 「ピアソンの相関係数」 のひと 昔は(統計)科学では「因果」の概念は軽視/避けられてきた 理由の1つは、「因果」をきちんと定義するのは案外に難しいこと

Slide 16

Slide 16 text

現代的な考え方(のひとつ):「反事実条件」による因果の定義 可能世界論からの「必然性」「可能性」の考え方 「可能世界」の枠組みで考えれば色々と捗るよ! ソール.クリプキ (1940-2022) 全ての可能世界においてXが成り立つ 「Xが可能である」とは? 少なくとも1つの可能世界においてXが成り立つ ・世界について考えうる異なる「あり方」ごとに異なる「可能世界」がある ・その中で我々が実際に暮らしているのこの世界が「現実世界」 可能世界を考えることで、「必然性」や「可能性」という概念を論理的に定式化できる 「Xが必然である」とは?

Slide 17

Slide 17 text

現代的な考え方(のひとつ):「反事実的条件」による因果の定義 可能世界論からの「因果」概念の考え方 D. ルイス (1941-) 「XがYの原因である」 「同じ状況(到達可能な近傍の可能世界)において、 もしもXが起こらなければ、Yは起こらなかっただろう」 反事実的条件に基づく因果解釈 例1. 「温室効果ガス濃度の上昇が、地球温暖化の原因である」 = 「温室効果ガス濃度の上昇が起こらなければ、地球温暖化は起こらなかっただろう」 例2. 「新型コロナの流行が、倒産数の増加の原因である」 = 「新型コロナの流行が起こらなければ、倒産数の増加は起こらなかっただろう」

Slide 18

Slide 18 text

現代的な考え方(のひとつ):「反事実的条件」による因果の定義 反事実的条件と「因果推論の根本問題」 「同じ状況(到達可能な近傍の可能世界)において、もしもXが 起こらなければ、Yは起こらなかっただろう」 因果効果を次のように定義できそう: X→Yへの因果効果 =出来事Xが起きた世界におけるY - 出来事Xが起きなかった世界におけるY しかし、「起きた世界」と「起きなかった世界」の 両方を同時に観測することは原理的に不可能 新型コロナが社会に与えた因果的影響を知るためには、「新型コロナがなかった世界で何が生じたか」も知る必要があるが、 私たちが今いるこの世界の内部では「新型コロナがなかった世界」の観測はできない 「因果推論の根本問題」

Slide 19

Slide 19 text

現代的な考え方(のひとつ):「反事実的条件」による因果の定義 因果推論が本来的に難しい理由は、“実際には起こらなかった方 の可能世界”に関する反事実的な推論を含むためである 統計的手法で 反事実的な世界を推論する 数理モデル・シミュレーションで 反事実的な世界を推論する 質的な”過程追跡”により 反事実的な世界を推論する Number of averted COVID-19 cases and deaths attributable to reduced risk in vaccinated individuals in Japan Taishi Kayano,a Misaki Sasanami,a,1 Tetsuro Kobayashi,a,1 Yura K. Ko,b,1 Kanako Otani,b,1 Motoi Suzuki,b and Hiroshi Nishiura a* aKyoto University School of Public Health, Yoshida-Konoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan bCenter for Surveillance, Immunization, and Epidemiologic Research, National Institute of Infectious Diseases, Tokyo 162-8640, Japan Summary Background In Japan, vaccination against severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) was initi- ated on 17 February 2021, mainly using messenger RNA vaccines and prioritizing health care professionals. Whereas nationwide vaccination alleviated the coronavirus disease 2019 (COVID-19)-related burden, the population impact has yet to be quantified in Japan. We aimed to estimate the numbers of COVID-19 cases and deaths pre- vented that were attributable to the reduced risk among vaccinated individuals via a statistical modeling framework. Methods We analyzed confirmed cases registered in the Health Center Real-time Information-sharing System on COVID-19 (3 March−30 November 2021) and publicly reported COVID-19-related deaths (24 March−30 November 2021). The vaccination coverage over this time course, classified by age and sex, was extracted from vaccine registra- tion systems. The total numbers of prevented cases and deaths were calculated by multiplying the daily risk differen- ces between unvaccinated and vaccinated individuals by the population size of vaccinated individuals. Findings For both cases and deaths, the averted numbers were estimated to be the highest among individuals aged 65 years and older. In total, we estimated that 564,596 (95% confidence interval: 477,020−657,525) COVID-19 cases and 18,622 (95% confidence interval: 6522−33,762) deaths associated with SARS-CoV-2 infection were prevented owing to vaccination during the analysis period (i.e., fifth epidemic wave, caused mainly by the Delta variant). Female individuals were more likely to be protected from infection following vaccination than male individuals whereas more deaths were prevented in male than in female individuals. Interpretation The vaccination program in Japan led to substantial reductions in the numbers of COVID-19 cases and deaths (33% and 67%, respectively). The preventive effect will be further amplified during future pandemic waves caused by variants with shared antigenicity. Funding This project was supported by the Japan Science and Technology Agency; the Japan Agency for Medical Research and Development; the Japan Society for the Promotion of Science; and the Ministry of Health, Labour and Welfare. Copyright Ó 2022 The Author(s). Published by Elsevier Ltd. This is an open access article under the CC BY-NC-ND license (http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/) Keywords: Averted burden; COVID-19; Statistical model; Vaccination; Epidemiology; Direct effectiveness Introduction Shortly after the emergence of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS- CoV-2), which causes coronavirus disease 2019 (COVID-19), the main interventions in 2020 were non-pharmaceutical, which are presently referred to as public health and social measures (PHSM). PHSM range from social distancing at a local level to widespread restrictions, such as lock- down policies, and have contributed to reducing virus transmission and buying time. However, these restric- tions have curbed people’s freedom and the adverse impact on social and economic activities has been sub- stantial.1−3 In this regard, vaccination has been a key player in epidemic control programs. The vaccine roll- out against COVID-19 was launched in December *Corresponding author at: School of Public Health, Kyoto Uni- versity, Yoshida-Konoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8501, Japan. E-mail address: [email protected] (H. Nishiura). 1 These authors contributed equally. The Lancet Regional Health - Western Pacific 2022;28: 100571 Published online 11 August 2022 https://doi.org/10.1016/j. lanwpc.2022.100571 www.thelancet.com Vol 28 November, 2022 1 Articles 感染症疫学の数理モデル計算に基づき 「新型コロナワクチンの接種により 死亡者が約18000人減少」 Kayano et al. (2022) https://doi.org/10.1016 /j.lanwpc.2022.100571 本日は主に統計的因果推論の話をベースにお話します

Slide 20

Slide 20 text

本日の目次 (I) 現象編:「相関」と「因果」はなぜズレる? • はじめに:「因果」の概念を理解する • 因果関係がなくても相関関係が生じる3+2パターン • 応用編:男女賃金差の分析を例に考える

Slide 21

Slide 21 text

因果関係がなくても相関関係が生じる3+2パターン 因果と相関がズレる基本パターンを理解すると、データを見る勘所が だんだんと分かってくるのでまずはその辺りを学んでいきましょう! (1) 逆の因果 (2) 共通の原因 (3) 合流点 (4) 確率的な偶然 (5) 平均への回帰 主にデータの生成過程に 起因するバイアスの話 主にデータの確率的変動に 起因するバイアスの話 一般に「相関と因果」の話をするときは左側の(1)(2)(3)の話が中心になることが多いのですが、 右側の話も実務上は(よくある落とし穴として)重要なことも多いので、本日は右側の(4)(5)の話も追加でします

Slide 22

Slide 22 text

因果関係がなくても相関関係が生じる3+2パターン 本日の説明においては、「因果」「相関」の語を以下の用法で用います 「因果関係がなくても相関関係が生じる」 「X→Yの因果関係」がなくても「XとYの相関関係」が生じる 「(もし介入等により) Xを変化させると、Yが変化する」 という関係 ≠Yに介入すると、Xが変化する (介入に基づく因果の定義) XとYのデータを 図にプロットしたときの “何らかの関連” 数式で書くとP(X)=P(X|Y)

Slide 23

Slide 23 text

パターン(1):逆の因果 X→Yではなく、Y→Xの因果関係により相関関係が生じている 看板なし 地点 看板あり 地点 交 通 事 故 の 発 生 件 数 Y 看板の設置 X 交通事故多発注意 「看板の設置」が交通事故の原因? 実際には 「交通事故が多い→看板の設置」 の因果関係 相関関係を見てすぐさま「因果関係」に 飛びつかず、その背景メカニズムを 考えることが重要

Slide 24

Slide 24 text

パターン(1):逆の因果 ちょっと見分けづらい例:サンゴの保全の仮想例 サ ン ゴ の 生 存 率 Y サンゴの捕食者A種の密度X A種を駆除すればサンゴが回復する? 野外調査の結果、実はA種は「死んだサンゴ」を 食べるスカベンジャーだったことが判明 実際は「サンゴ生存率低下→捕食者Aの増加」 「A種の駆除」はむしろサンゴの新陳代謝を妨げて保全には逆効果 背景メカニズムを「知ってるつもり」で安易に解釈すると危ない (データからの因果解釈の際には専門知・現場知が重要)

Slide 25

Slide 25 text

パターン(2):共通原因 XとYの上流側に”共通原因”がある X Y Z 共通原因の変動がXとYの間に因果関係によらない相関関係を生む Zが「XとYの共通原因」 X Y Zの変動によりX-Y間 に"シンクロ"が生じる Zが大 Zが小 非因果的 連関 いわゆる”疑似相関”

Slide 26

Slide 26 text

【補足説明】 Zが「XとYの共通原因」ではないときの例 X Y Z X Y Zの変動でX-Y間に “シンクロ”は生じない Zが大 Zが小 X Y Z X Y Zの変動でX-Y間に “シンクロ”は生じない Zが大 Zが小 Zは「Xの原因である」が「Yの原因ではない」例 Zは「Yの原因である」が「Xの原因ではない」例 Zが「XとYの共通原因」でなければ”疑似相関(交絡)”は生じない (より厳密な話は『はじめての統計的因果推論』を参照ください)

Slide 27

Slide 27 text

パターン(2):共通原因 広島県のあるおじいさん(Yさん)と林の夜の機嫌の仮想例 林の夜の機嫌 Y さ ん の 夜 の 機 嫌 データの解釈の際には、こうした疑似相関を生む「共通原因」の 見落としがないかどうかをよく考えることが大事 (専門知・現場知が重要) 過去も未来もお互いのことを全く知らない Yさんと林のあいだで機嫌に相関が!? 林の夜の機嫌 Yさんの 夜の機嫌 広島カープの その日の勝敗 勝った日 負けた日

Slide 28

Slide 28 text

パターン(3):合流点 データが「合流点」で選抜されている:美大入試の仮想例 Z:合否 Y:実技 試験 X:学⼒ 試験 実 技 試 験 合格者 Z=1 不合格者 Z=0 100 100 学⼒試験 合 格 ラ イ ン

Slide 29

Slide 29 text

パターン(3):合流点 データが「合流点」で選抜されている:美大入試の仮想例 Z:合否 Y:実技 試験 X:学⼒ 試験 実 技 試 験 合格者 Z=1 100 100 学⼒試験 合 格 ラ イ ン 合流点で「選別」された(複数条件の組み合わせ下でのみ観測される)データでは、 データの「欠落」により明瞭な”疑似相関”が生じることがある

Slide 30

Slide 30 text

パターン(3):合流点 余談:選抜されたデータから「ランダムサンプリング」しても “疑似相関”は消えません 実 技 試 験 100 100 学⼒試験 合 格 ラ イ ン 実 技 試 験 100 100 学⼒試験 合 格 ラ イ ン 特殊な選抜を経たデータ(含ウェブモニター等)のバイアスには注意! ランダムサンプリング

Slide 31

Slide 31 text

パターン(4):平均への回帰 偶然に高い値を取った次の回は、より”普通”の値が出やすい 夏の試験 冬の試験 試 験 の 点 数 特別授業 あり 特別授業 なし 夏 ↓ 冬 の 点 数 の 伸 び 0 + - 成績上位者(⾚丸)だけ抜き出して特別授業を実施 特別授業を受けると成績が下がる? 前回に「ラッキー(偶然的上振れ)」で成績上位に入ったものは、次回はより 「普通」の順位になりやすいので、平均的には成績が下がる傾向になりがち 注:運の要素も 強い試験を想定

Slide 32

Slide 32 text

パターン(5):確率的な偶然(と多重比較) 確率的な偶然で相関が出ることがある (*特に、背後にたくさんの類似ケースがある場合には要注意!) 開運グッズ なし 開運グッズ あり コインを 50回 投げて 表が出た数 こうした試行をすると 100回に5回程度は 両者に有意差が出る (5%有意水準の場合) 開運グッズの例 *本日の話では全ての開運グッズに「真の因果効果」はないものとする いわゆる”偽陽性”

Slide 33

Slide 33 text

パターン(5):確率的な偶然(と多重比較) 開運グッズ なし 開運グッズ あり コインを 50回 投げて 表が出た数 20種類の開運グッズによる(多重比較の)例 開運グッズ なし 開運グッズ あり コインを 50回 投げて 表が出た数 開運グッズ なし 開運グッズ あり コインを 50回 投げて 表が出た数 開運グッズ なし 開運グッズ あり コインを 50回 投げて 表が出た数 ・・・ 20種類の開運グッズについてそれぞれ仮説検定をかけると、 「有意差が出た開運グッズ」を1つは見つけられてしまうと期待できる * (しばしば潜在的に類似ケースが多数ある中で)目立つものだけを 採り上げると「偶然による相関」を拾いやすくなるので注意! 1 1 2 2 19 19 20 20 「いろいろ調べてみたんですが、この「開運グッズ19」は凄いんですよ・・・」的なロジックは危ない こうした解析は「仮説探索」的分析であり、そこで得られた結果/仮説は改めて「追試・検証」を行う必要があります

Slide 34

Slide 34 text

(I)の目次 (I) 現象編:「相関」と「因果」はなぜズレる? • はじめに:「因果」の概念を理解する • 因果関係がなくても相関関係が生じる3+2パターン • 応用編:男女賃金差の分析を例に考える

Slide 35

Slide 35 text

応用編:男女賃金差の分析の仮想例を考えてみよう https://r4d.mercari.com/news/240202_ELSInote_genderpaygap/ ELSI NOTE「⼈事データ分析を利⽤した男⼥間賃⾦格差是正の取組み:株式会社メルカリにおける ケーススタディ」 元ネタはメルカリの人事データ分析事例 (*今回は説明用に話を単純化してます) Title 人事データ分析を利用した男女間賃金格差是正の取組 み : 株式会社メルカリにおけるケーススタディ Author(s) ⼯藤, 郁⼦; 北川, 梨津; 林, 岳彦 他 Citation ELSI NOTE. 2024, 36, p. 1-25 Version Type VoR URL https://doi.org/10.18910/93498 林も執筆参加した ケーススタディレポート が出ていますので ご興味がありましたら ご笑覧いただければ 幸いです

Slide 36

Slide 36 text

応用編:男女賃金差の分析の仮想例を考えてみよう 社内の制度上は「男女による取扱いの差」はないのに、社内での 男女の平均給与に差がある場合、その原因には何がありうるか? • 男女での平均をみたとき、職種・職位に差がある • 男女での平均をみたとき、人事評価に差がある • 男女での平均をみたとき、働き方に差がある 例)専門職には男性が多く、事務職には女性が多いなど 例)評価者側のバイアスにより、女性の成果が低く評価されるなど 例)男性の方が残業が多い働き方をしているなど • 男女での平均をみたとき、業務上で男女での有利不利がある 例)男性中心文化が強く、女性が能力を発揮 もしこれらの差がない状況でも男女に賃金差がある場合、原因は何がありうる?

Slide 37

Slide 37 text

応用編:男女賃金差の分析の仮想例を考えてみよう *男女に本来的な能力差はなく、かつ給与は業務のパフォーマンスと地域の相場に応じて決まるとする 性別 パフォ 賃⾦ 男 女 給 与 性別 パフォ 賃⾦ 男 女 給 与 本来は男女の賃金に差は無い 男女での平均 賃金差が生じる もしこれらの差がない状況でも男女に賃金差がある場合、原因は何がありうる? 地域 女性の方が給与相場の低い地方在住の割合が高いと・・・ 地方在住 東京在住

Slide 38

Slide 38 text

応用編:男女賃金差の分析の仮想例を考えてみよう 性別 パフォ 賃⾦ 男 女 給 与 退社 たとえば女性トップパフォーマ—が大量にヘッドハンティングされると・・・ (研究業界だとたとえば東大に引き抜かれるなど) 男女での平均 賃金差が生じる *男女に本来的な能力差はなく、かつ給与は業務のパフォーマンスと地域の相場に応じて決まるとする もしこれらの差がない状況でも男女に賃金差がある場合、原因は何がありうる? 性別 パフォ 賃⾦ 男 女 給 与 本来は男女の賃金に差は無い 「因果関係がないのに相関関係がある」ときの基本パターンが分かると いきなり結論に飛びつかずに色々な可能性を検討できるようになる メルカリさんの事例での結論についてはぜひ先ほどのレポートをご参照いただければ 退社

Slide 39

Slide 39 text

(I)のまとめ 偶然的変動が関わる+2のパターンとして、(4)平均値への回帰、(5) 確率的な偶然(+多重比較)がある 「因果がないのに相関がある」の3つの基本パターンとして、(1)逆の 因果、(2)共通原因、(3)合流点がある • いずれの場合でも、適切な解釈を導く際には、現象の背後にあるメカニズム 的な知識が重要となる • 偶然的な変動は常に存在するが、偶然的な変動の中につい”偽りの因果”を ”発見”してしまいやすい「特に危ないパターン」がいくつかある (II)では、上記のような現象に対して、「統計的因果推論」がどのような 考え方で「因果効果」を推定するかの概要を説明していきます

Slide 40

Slide 40 text

本日の目次 (0) そのそものそもそも:科学的推論とは何か、なぜ重要か (I) 現象編:「相関」と「相関」はなぜズレる? (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 (III) 利用編:EBPM とエビデンスの多元的評価

Slide 41

Slide 41 text

(II)の目次 (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 • 基本的なゴールは「特性のありようを揃える」こと • 「施策の因果効果」の推定方法の基本的な考え方を学ぶ (1) Don’t: 良くないアプローチの例 (2) Do: 自分たちが介入の主体側のとき (3) Do: 調査観察データからの推定

Slide 42

Slide 42 text

(II)の目次 (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 • 基本的なゴールは「特性のありようを揃える」こと • 「施策の因果効果」の推定方法の基本的な考え方を学ぶ (1) Don’t: 良くないアプローチの例 (2) Do: 自分たちが介入の主体側のとき (3) Do: 調査観察データからの推定

Slide 43

Slide 43 text

基本的なゴールは「特性のありようを揃える」こと 統計的因果推論でまず大事なことは「特性のありよう」を考えること 10個のリンゴがあります 通常の統計の教科書が想定してる「ありよう」は 均質なリンゴたち

Slide 44

Slide 44 text

基本的なゴールは「特性のありようを揃える」こと 統計的因果推論でまず大事なことは「特性のありよう」を考えること 10個のリンゴがあります 現実はしばしば「多様な”リンゴ”」である 様々なリンゴたち

Slide 45

Slide 45 text

基本的なゴールは「特性のありようを揃える」こと 統計的因果推論でまず大事なことは「特性のありよう」を考えること ある意味、統計的因果推論とは集団の“特性のありよう”を 巡る体系である (これから説明します) 均質なリンゴたち 様々なリンゴたち ? ?

Slide 46

Slide 46 text

具体例を用いて考えてみる 仮想例として「肥料X→リンゴの糖度Y」の因果効果を考えてみる • 肥料Xを与えると糖度Yは単純に+2される • もともとのリンゴの糖度Yの平均は16、分散は1.0 • 「肥料X=あり」で育てたリンゴは50個(=”肥料あり処置群”) • 「肥料X=なし」で育てたリンゴは50個(=”肥料なし処置群”) ここで、リンゴ総計100個における 「肥料Xの有無と、糖度Yの関係」をプロットすると・・・ つまり「真の因果効果」は 「+2.0」 (まずは単一品種バージョン) バラツキの 大きさの指標

Slide 47

Slide 47 text

「肥料X→リンゴの糖度Y」の散布図 (1品種ver) 処置群間の差の平均(+1.9) ≒ この「観察された群間差(+1.9)」を 「因果効果(+2)」の 推定値として そのまま解釈可能 「真の因果効果(+2)」 X ここまでは何の変哲も無い話です

Slide 48

Slide 48 text

ひきつづきリンゴの例を用いて考えてみる 2品種が混在する拡張バージョンを考える ここで、品種の混在したリンゴ総計100個における 「肥料Xの有無と、糖度Yの関係」をプロットすると・・・ • 「ぺこ」と「すまいる」の2つのリンゴ品種が、サンプル内に 混在している • 元々の「ぺこ」の糖度Yの平均は16 • 元々の「すまいる」の糖度Yの平均は12 • その他の設定・仮定は先程の例と同一

Slide 49

Slide 49 text

「肥料X→リンゴの糖度Y」の散布図 (2品種ver) 処置群間の差の平均(+4.6) ≠ 他の条件は同じなのに 二種類の品種が混在するだけで 「観察された群間差(+4.6)」と 「因果効果(+2)」がズレている 「真の因果効果(+2)」 ංྉT ͳ͠ ͋Γ ౶ ౓ Y ΃͜ ͢·͍Δ X なぜズレるのか? ぺこ40個 すまいる10個 糖度の高い 「ぺこ」が多いので 肥料と関係なく 平均糖度が高い ぺこ10個 すまいる40個 糖度の低い 「すまいる」が多いので 肥料と関係なく 平均糖度が低い 比較しているグループ間での 「背景(品種の割合)のありよう」の違いと 「肥料の有無の違い」の効果が混ざってしまっている

Slide 50

Slide 50 text

ංྉT ͳ͠ ͋Γ ංྉT ͳ͠ ͋Γ ౶ ౓ Y ංྉT ͳ͠ ͋Γ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ʺ ζϨ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ʺ ζϨ 比較対象となる群間で「特性(品種)のありよう」が揃っていれば 「観察された群間差」を「因果効果」として解釈できる! 2品種が混在すると必ずズレるのか? X X X

Slide 51

Slide 51 text

比較する群間で「背景のありよう」が揃っていれば 「観察された群間差」を「因果効果」として解釈できる! 2品種が混在すると必ずズレるのか? 逆に言うと 「観察された群間差」から「因果効果」を推定するためには 比較する群間の「背景のありよう」を揃えれば良い! 統計的因果推論とは、何らかの統計的な工夫により 比較する群間での「背景のありよう」を揃える試み 統計的因果推論とは

Slide 52

Slide 52 text

たとえばどうやって「背景のありようを揃える」の? ౶ ౓ Y ංྉT ͳ͠ ͋Γ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ʮංྉ5ͳ͠ʯ܈ͷ಺༁ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ʮංྉ5͋Γʯ܈ͷ಺༁ ʺ ζϨ ʰɹ͢·͍Δʱ͚ͩͰ ૚ผղੳ ʰɹ΃͜ʱ͚ͩͰ ૚ผղੳ ංྉT ͳ͠ ͋Γ ౶ ౓ ංྉT ͳ͠ ͋Γ ౶ ౓ たとえば、「特性が揃った」グループに分けて解析する 特性ごとにグループを分ける→観察された差を「因果効果」と解釈できる X X X

Slide 53

Slide 53 text

比較する群間で「背景のありよう」が揃っていれば 「観察された群間差」を「因果効果」として解釈できる! 2品種が混在すると必ずズレるのか?(再) 逆に言うと 「観察された群間差」から「因果効果」を推定するためには 比較する群間の「背景のありよう」を揃えれば良い! 統計的因果推論とは、何らかの統計的な”工夫”により 比較する群間での「背景のありよう」を揃える試み 統計的因果推論とは

Slide 54

Slide 54 text

(II)の目次 (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 • 基本的なゴールは「特性のありようを揃える」こと • 「施策の因果効果」の推定方法の基本的な考え方を学ぶ (1) Don’t: 良くないアプローチの例 (2) Do: 自分たちが介入の主体側のとき (3) Do: 調査観察データからの推定

Slide 55

Slide 55 text

(II)の目次 (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 • 基本的なゴールは「特性のありようを揃える」こと • 「施策の因果効果」の推定方法の基本的な考え方を学ぶ (1) Don’t: 良くないアプローチの例 (2) Do: 自分たちが介入の主体側のとき (3) Do: 調査観察データからの推定

Slide 56

Slide 56 text

Don’t: 良くないアプローチ例その1 「介入の有無」以外において特性のありようが比較対象間で 揃っていないのに因果的解釈を引き出してしまう 仮想例:「柵の設置実施」と「シカ食害」の関係 シ カ 食 害 なし あり 柵設置 そもそも食害がひどい地点に選択的 に柵が設置されている 「地点の特性の差」と 「柵による差」の どちらか解釈不能 柵の設置はシカの食害を 増加させた 本当にそうなの?

Slide 57

Slide 57 text

Don’t: 良くないアプローチ例その2 単純な前-後比較 (強い時間的斉一性が想定できるときはOK) 仮想例:「レアハンバーグ規制」と「食中毒件数」の関係 食 中 毒 件 数 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 規制開始 規制の前-後で 「規制の有無」以外の条件が 揃っている保証はない レアハンバーグ規制は 食中毒を減少させた 本当にそうなの? 「規制による差」か 「季節等の条件の差」か どちらか解釈不能

Slide 58

Slide 58 text

Don’t: 良くないアプローチまとめ 残念ではあるが、「比較対象の特性がたまたま揃っている」 みたいな状況は実際にはほぼない 仮想例:「レアハンバーグ規制」と「食中毒件数」の関係 食 中 毒 件 数 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 規制開始 規制の前-後で 「規制の有無」以外の条件が 揃っている保証はない レアハンバーグ規制は 食中毒を減少させた 本当にそうなの? 「規制による差」か 「季節等の条件の差」か どちらか解釈不能 仮想例:「柵の設置実施」と「シカ食害」の関係 シ カ 食 害 なし あり 柵設置 そもそも食害がひどい地点に選択的 に柵が設置されている 「地点の特性の差」と 「柵による差」の どちらか解釈不能 柵の設置はシカの食害を 増加させた 本当にそうなの? 介入デザイン ・ 調査デザイン ・ 統計解析での調整 ・ どこかで何らかの “工夫”が必要

Slide 59

Slide 59 text

(II)の目次 (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 • 基本的なゴールは「特性のありようを揃える」こと • 「施策の因果効果」の推定方法の基本的な考え方を学ぶ (1) Don’t: 良くないアプローチの例 (2) Do: 自分たちが介入の主体側のとき (3) Do: 調査観察データからの推定

Slide 60

Slide 60 text

「介入の有無」をランダムに割り付けて比較する 仮想例:「柵の設置実施」と「シカ食害」の関係 シ カ 食 害 なし あり 柵設置 ①設置地点を ランダムに選ぶ ②「柵設置の有無」以外の特性の ありようが(平均的に)揃う ③この差を柵による 「因果効果」と解釈可能 Do: ランダム化比較実験(RCT)による介入

Slide 61

Slide 61 text

Do: ランダム化比較実験(RCT)による介入 RCTは「エビデンスヒエラルキー」における”Gold Standard” 質が低い 質が高い ランダム化比較試験(RCT)・メタアナリシス 擬似実験・自然実験 純粋な観察研究 専門家意見 もし実施可能であればRCTは質の高いエビデンスをもたらす *ただし、エビデンスヒエラルキーはエビデンスの一面しかみていないという話も後述します

Slide 62

Slide 62 text

Do: 介入の時期をずらす 同時一斉介入だと「単純な前-後比較」しかできない・・・ 定 期 テ ス ト の 学 年 平 均 点 特別授業(全クラス) 特別授業の前後で 授業の有無以外の条件が 揃っている保証はない 仮想例:「特別授業」と「テストの点数」の関係 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3

Slide 63

Slide 63 text

Do: 介入の時期をずらす 仮想例:「特別授業」と「テストの点数」の関係 「介入の時期」をずらすことで比較のペアを確保する 定 期 テ ス ト の ク ラ ス 平 均 点 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 特別授業(4, 5, 6組) 特別授業(1, 2, 3組) 互いに比較対照の 情報を提供 普通授業(1, 2, 3組) 普通授業(4, 5, 6組) 同時期・同試験での 比較となるため 授業の有無以外の 条件は揃っていると 期待できる

Slide 64

Slide 64 text

(II)の目次 (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 • 基本的なゴールは「特性のありようを揃える」こと • 「施策の因果効果」の推定方法の基本的な考え方を学ぶ (1) Don’t: 良くないアプローチの例 (2) Do: 自分たちが介入の主体側のとき (3) Do: 調査観察データからの推定

Slide 65

Slide 65 text

「介入の有無」以外の特性を層別化で揃える Do: 層別化による調整 ౶ ౓ Y ංྉT ͳ͠ ͋Γ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ʮංྉ5ͳ͠ʯ܈ͷ಺༁ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ʮංྉ5͋Γʯ܈ͷ಺༁ ʺ ζϨ ʰɹ͢·͍Δʱ͚ͩͰ ૚ผղੳ ʰɹ΃͜ʱ͚ͩͰ ૚ผղੳ ංྉT ͳ͠ ͋Γ ౶ ౓ ංྉT ͳ͠ ͋Γ ౶ ౓ 揃える必要のある特性の数がごく少数の場合には有効 *本日は詳述しませんがあくまで諸々の前提のもとでのみ成り立つ解析です

Slide 66

Slide 66 text

Do: マッチングによる調整 「特性が似たもの同士のペア内の差」をもとに集計する 仮想例:「柵の設置実施」と「シカ食害」の関係 シ カ 食 害 なし あり 柵設置 設置がランダム化 されていないデータ ①特性が似ているペアを マッチングさせてペアごとの差をみる ②この差を柵による 「因果効果」と解釈 シ カ 食 害 なし あり 柵設置 *本日は詳述しませんがあくまで諸々の前提のもとでのみ成り立つ解析です

Slide 67

Slide 67 text

Do: 統計モデル(重回帰モデルなど)による調整 統計モデル(重回帰モデルなど)による調整 ංྉT ͳ͠ ͋Γ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ʺ ζϨ ౶ ౓ Y ංྉT ͳ͠ ͋Γ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ͢·͍Δݸ ΃͜ݸ ʺ ζϨ 糖度Y = β肥料X + α品種Z X X 「品種」が「糖度」に与える影響をモデル化して調整する 比較対象の集団で、「特性(品種)のありよう」が 揃っていない 「品種」の影響をモデル化した統計解析で 「品種の影響」を取り除いて 「肥料Xの影響β」を 推定できると期待できる 重回帰モデルによるモデル化 *本日は詳述しませんがあくまで諸々の 前提のもとでのみ成り立つ解析です

Slide 68

Slide 68 text

Do: 差の差分析 「介入による前後差」の「差」に着目する 規制前 (夏) 規制後 (秋) レアハンバーグ規制なし (E, F, G, H県) レアハンバーグ規制あり (A, B, C, D県) 食 中 毒 件 数 規制あり県での「差」 無し県での「差」 この「差」の差 =規制効果 仮想例:「レアハンバーグ規制」と「食中毒件数」の関係

Slide 69

Slide 69 text

Do: 回帰分断デザイン 連続量のどこかで施策が切替るときの「切替り際」に着目する 仮想例:クーラー導入の労働生産性への効果 「午前10時の外気温25℃以上の日だけクーラー使用可」というルールがある 午前10時の外気温 労 働 生 産 性 25℃ 15℃ 30℃ 切り替わり近傍でのクーラーの有無以外の 条件はほぼ同等と想定可能 この差 =クーラーの因果効果 本日は詳述しませんが あくまで諸々の前提の もとでのみ成り立つ解析です *

Slide 70

Slide 70 text

連続量のどこかで施策が切替るときの「切替り際」に着目する 仮想例:県境での生物保全施策の切替わりの利用 県Bのみで保全施策 Xが実施されている 県A 県B 県境をまたいだ近傍で特性が揃っている場合には近傍 ペア内比較により因果効果が推定できると期待できる 県境 Do: 一般的な分断線の利用 *本日は詳述しませんがあくまで諸々の前提のもとでのみ成り立つ解析です

Slide 71

Slide 71 text

(II)のまとめ 介入の主体側の場合には、介入のランダム化や時期の調整などの 「工夫」がありうる 施策の「因果効果の推定」には一般に何らかの「工夫」が必要 • 特性が揃っていない集団同士の比較や、単純な前後比較は基本的にNo good (III)では、こうした諸手法により得られた「因果効果のエビデンス」 を社会で利用していく際に生じる論点について見ていきます 調査観察データの解析では、層別化・マッチング・差の差方など、幾つ かの統計的な「工夫」により因果効果の推定ができる場合がある • データの不足や条件が満たされないなどの理由で実際の適用は必ずしも簡単 ではないが、ハマれば強力な手法である *本日は端折りましたが、解析に必要な条件等は 『はじめての統計的因果推論』等を参照ください

Slide 72

Slide 72 text

本日の目次 (0) そのそものそもそも:科学的推論とは何か、なぜ重要か (I) 現象編:「相関」と「相関」はなぜズレる? (II) 対策編:統計的因果推論の考え方 (III) 利用編:EBPM とエビデンスの多元的評価

Slide 73

Slide 73 text

(III)の目次 (III)利用編:EBPM とエビデンスの多元的評価 • EBPMとは • エビデンスの5つの評価軸 • エビデンス評価と3つの制度化段階

Slide 74

Slide 74 text

(III)の目次 (III)利用編:EBPM とエビデンスの多元的評価 • EBPMとは • エビデンスの5つの評価軸 • エビデンス評価と3つの制度化段階

Slide 75

Slide 75 text

“広義の用法”の特徴 “狭義の用法”の特徴 “エビデンス”の 定義範囲 “政策形成”の 定義範囲 政策効果を検証した 実証分析の結果 広い意味での 政策の(客観的な)根拠 インパクト評価を中 心としたPDCA 広い意味での 政策形成プロセス全般 林の感想 “EBPM”という全称的な 呼称の割には定義範囲が狭い 意味範囲が広すぎて結局 何も言っていない疑惑あり 使ってる人 EBPMガチ勢 +関連分野の人 一般の人(政治家・行政官含む)は だいたいこちら 色々な人が色々な意味で”EBPM”という語を使っている

Slide 76

Slide 76 text

欧米を中心とした”狭義のEBPM”の動き(概略) “元ネタ”としてのEBM 近年の”EBPM”の拡大 (Evidence-Based Medicine) • コクラン共同計画(1993-): ランダム化比較試験(RCT)を中心とした臨 床試験等の系統的レビューにより、有効な治療施策の情報を統合 • 「根拠に基づく医療」による医療実践の標準化と普及へ • EBPM:政策の因果効果の統計的根拠に基づく政策の選択・決定の枠組み • 「エビデンスヒエラルキー」を中心とした世界観(で語られることが昔は多かった) 英国→ブレア政権(1997-)から導入され、政策効果に関するエビデンスの構 築・伝達・利用促進のためのWhat Works Centreが設置され拡大中 米国→2017年に『エビデンスに基づく政策形成のための基盤法』が導入 英国では”EBPM”よりも”What Works”と呼ばれることが多い

Slide 77

Slide 77 text

「エビデンスヒエラルキー 」的世界観 質が低い 質が高い ランダム化比較試験(RCT)・メタアナリシス 擬似実験・自然実験 純粋な観察研究 専門家意見 エビデンスの質 = 因果関係推定の方法論の質 序列化可能・一次元的な エビデンス観 エビデンスの評価の 標準化に貢献 玉石混交によるグダグタの回避に貢献 *ただし、この”エビデンス”の用法が「普通」なのは一定範囲の領域分野においてのみ (狭義のEBPMでの)エビデンス = 政策効果を検証した実証分析の結果

Slide 78

Slide 78 text

“狭義のEBPM”は政策形成のどの領域に対応するか 段階モデルから見た位置づけ 秋吉ら『公共政策学の基礎』より改変 アジェンダ設定 政策案設定 決定 実施 評価 廃止 修正 省庁・審議会 議員スタッフ 議会 内閣 出先機関 自治体 会計検査院 省庁・議会 ニーズアセスメント 政策分析 公聴会 世論調査等 プロセス評価 業績測定 インパクト評価/ プログラム評価 “狭義のEBPM”は”Policy Making“と冠しているものの「政策形成のプロセス全体」か ら見ると実はかなり限定された範囲の話でしかない 主語がでかい ここらのPDCAでRCT等の 実証的な評価を噛ますのが ”狭義のEBPM”のコア概念 パイロット評価

Slide 79

Slide 79 text

”狭義のEBPM”の重要性 政策の効果は実際にやってみないと案外に分からない パイロット施策1 パイロット施策2 パイロット施策3 パイロット施策4 パイロット施策5 効 果 検 証 施策2 高い信頼度で有効性が 実証されたものを 選んでスケールアップ RCTを頂点とした ヒエラルキーによる序列化 こうした“What Works”の実証的リストを充実させていくことで、 限られた資源を効率的に使って有効性の高い政策形成が可能となる

Slide 80

Slide 80 text

色々な人が色々な意味で”EBPM”という語を使っている “広義の用法”の特徴 “狭義の用法”の特徴 “エビデンス”の 定義範囲 “政策形成”の 定義範囲 政策効果を検証した 実証分析の結果 広い意味での 政策の(客観的な)根拠 インパクト評価を中 心としたPDCA 広い意味での 政策形成プロセス全般 林の感想 “EBPM”という全称的な 呼称の割には定義範囲が狭い 意味範囲が広すぎて結局 何も言っていない疑惑あり 使ってる人 EBPMガチ勢 +関連分野の人 一般の人(政治家・行政官含む)は だいたいこちら

Slide 81

Slide 81 text

“広義のEBPM”とは? バイデンの 大統領覚書 2021.1.27 漠然としていて 決まった定義があるわけではない https://www.whitehouse.gov/b riefing-room/presidential- actions/2021/01/27/memoran dum-on-restoring-trust-in- government-through- scientific-integrity-and- evidence-based-policymaking/

Slide 82

Slide 82 text

“広義のEBPM”とは? バイデンの 大統領覚書 2021.1.27 漠然としていて 決まった定義があるわけではない https://www.whitehouse.gov/b riefing-room/presidential- actions/2021/01/27/memoran dum-on-restoring-trust-in- government-through- scientific-integrity-and- evidence-based-policymaking/ “It is the policy of my Administration to make evidence-based decisions guided by the best available science and data. Scientific and technological information, data, and evidence are central to the development and iterative improvement of sound policies, and to the delivery of equitable programs, across every area of government.” 一般の人の多くが”EBPMが必要”と言うときには だいたいはこういう思想のことを指している

Slide 83

Slide 83 text

“広義のEBPM” EBPMのニーズ側からみると、”広義のEBPM”はしばしば 「明確な根拠がないままに政策が決まるのは色々な意味でやばい」 という現場の心の叫びが求めるもの “エピソード/思い込みベースドPM”などへの抵抗概念として の”広義のEBPM” “エピソード/思い込みベースドPM”への抵抗概念としては ”狭義のEBPM”は概念範囲が狭すぎるきらいがある

Slide 84

Slide 84 text

“EBPM”が必要だよなーと感じるとき(*仮想例です) ͓΅Ζ͛ͳ͕Βු͔ΜͰ͖ͨΜͰ͢ ͱ͍͏਺ࣈ͕ γϧΤοτ͕ ු͔ΜͰ͖ͨΜͰ͢ スピリチュアルベースドポリシーメーキング!? なんで目標がこの値に決まったんですか? アカウンタビリティとは ??

Slide 85

Slide 85 text

“広義のEBPM”は政策形成のどの領域に対応するか 段階モデルから見た位置づけ 秋吉ら『公共政策学の基礎』より改変 アジェンダ設定 政策案設定 決定 実施 評価 廃止 修正 省庁・審議会 議員スタッフ 議会 内閣 出先機関 自治体 会計検査院 省庁・議会 ニーズアセスメント 政策分析 公聴会 世論調査等 プロセス評価 業績測定 インパクト評価/プログラム評価 ここらのPDCAでRCT等の 実証的な評価を噛ますのが ”狭義のEBPM”のコア概念 ޿ٛͰ͸ΤϏσϯεͷఆٛʗ༻๏͸ʮ੓ࡦͷ٬؍తͳࠜڌʯ ͙Β͍ͷ؇͍΋ͷͰ͋Γɺ͜ͷྖҬ๊͕͍͑ͯΔ ݱঢ়ͷେ͖ͳ໰୊܈΋είʔϓ಺ͱͳΔ パイロット評価 l޿ٛͷ.zͷ༻๏Ͱ͸੓ࡦܗ੒શൠʢʹ͓͚Δࢥ૝ʣ͕ର৅ͱͳΔ

Slide 86

Slide 86 text

狭義/広義のEBPMの比較 “大乗EBPM” “小乗EBPM” ・原典に忠実でスコラ的 狭義= 広義= ・多数の衆生を救うのは目的外 ・原典へのリスペクトは少なく何でもあり ・多数の衆生を救いたい気持ちはある 広義の用法の特徴 狭義の用法の特徴 “エビデンス”の 定義範囲 “政策形成”の 定義範囲 政策効果を検証した 実証分析の結果 広い意味での 政策の(客観的な)根拠 インパクト評価を中 心としたPDCA 広い意味での 政策形成プロセス全般 使ってる人 EBPMガチ勢 +関連分野の人 一般の人(政治家・行政官含む) はだいたいこちら 日本の一部で見られる 「ロジックモデル使えばEBPM」 みたいな理解はかなり”邪教“的

Slide 87

Slide 87 text

(III)の目次 (III)利用編:EBPM とエビデンスの多元的評価 • EBPMとは • エビデンスの5つの評価軸 • エビデンス評価と3つの制度化段階

Slide 88

Slide 88 text

Environmental Science and Policy 116 (2021) 86–95 A framework for implementing evidence in policymaking: Perspectives and phases of evidence evaluation in the science-policy interaction Hiroyuki Kano a,*, Takehiko I. Hayashi b a Graduate School of Human Sciences, Osaka University, 1-2 Yamadaoka, Suita, Osaka, 565-0871, Japan b Center for Health and Environmental Risk Research, National Institute for Environmental Studies, 16-2 Onogawa, Tsukuba, Ibaraki, 305-8506, Japan A R T I C L E I N F O Keywords: Evidence-based policy A B S T R A C T The use of scientific knowledge in policymaking has been a subject of debate in the environmental sector. An essential task for the effective use of evidence in policymaking is for scientists and policymakers to share a Contents lists available at ScienceDirect Environmental Science and Policy journal homepage: www.elsevier.com/locate/envsci この論文の話をします

Slide 89

Slide 89 text

「エビデンスヒエラルキー 」的世界観 質が低い 質が高い ランダム化比較試験(RCT)・メタアナリシス 擬似実験・自然実験 純粋な観察研究 専門家意見 エビデンスの質 = 因果関係推定の方法論の質 序列化可能・一次元的な エビデンス観 エビデンスの評価の 標準化に貢献 玉石混交によるグダグタの回避に貢献 単に因果効果の帰納的推論の方法論に多少詳しいだけなのに政策形成の全般に ついて語れる”専門家”であると錯覚する半可通な人々が少なからず生じがち 弊害: “エビデンスヒエラルキスト”

Slide 90

Slide 90 text

背景:エビデンスを巡る科学-政治境界の課題 Science-Policy Interface とは言え「エビデンスを巡る科学-政治境界の論点の全体像を 見るべき」といっても“素人”にはハードルが高い “エビデンスヒエラルキスト”の存在は環境問題の解決において実 害をもたらしうる • 環境政策では”質の高いエビデンスの存在”を規制の正当化要件とすることで いくらでも規制を骨抜きにできる 科哲/応哲の人じゃね? この件の”専門家”って誰よ? (+分野プロパー) • 専門家が「エビデンスを巡る論点の全体像」を整理して示すと良いのでは? • 環境政策の判断は「エビデンスを巡る論点の全体像」を見て行うべき トランプ政権下では実際に環境規制の正当化のための エビデンスの要件を引き上げる動きがあった

Slide 91

Slide 91 text

Environmental Science and Policy 116 (2021) 86–95 A framework for implementing evidence in policymaking: Perspectives and phases of evidence evaluation in the science-policy interaction Hiroyuki Kano a,*, Takehiko I. Hayashi b a Graduate School of Human Sciences, Osaka University, 1-2 Yamadaoka, Suita, Osaka, 565-0871, Japan b Center for Health and Environmental Risk Research, National Institute for Environmental Studies, 16-2 Onogawa, Tsukuba, Ibaraki, 305-8506, Japan A R T I C L E I N F O Keywords: Evidence-based policy A B S T R A C T The use of scientific knowledge in policymaking has been a subject of debate in the environmental sector. An essential task for the effective use of evidence in policymaking is for scientists and policymakers to share a Contents lists available at ScienceDirect Environmental Science and Policy journal homepage: www.elsevier.com/locate/envsci そこでわれわれが書いたのがこの論文 Ճೲ׮೭͞ΜˏՊֶ఩ֶ

Slide 92

Slide 92 text

これ以降の用語法についての但し書き 本論文における”Evidence”の定義 “In policymaking, evidence is not just scientific knowledge; rather, scientific knowledge is only regarded as “evidence” if it is relevant to the policy context. As such, evidence is a type of knowledge able to promote or inhibit political decision-making. “ P( Political decision ) ≠ P( Political decision| Knowledge ) P( Hypothesis ) ≠ P( Hypothesis | Evidence ) c.f., ソーバー『科学と証拠』における「エビデンスの定義」との比較 *実際にそうなるか、ではなく影響を与えうるかどうか、で判断 *この論文ではかなり広い文脈での「エビデンスの政策利用」を議論の スコープに含めているので当然に広い定義を使用しています

Slide 93

Slide 93 text

内容の概要のプレビュー エビデンスを環境政策に利用する際に、検討すべきポイントにつ いて5X3のクロス表の形で整理し提示した • 評価軸として: (1)方法論的厳格性、(2)総体的一貫性、 (3)文脈的近接性、(4)社会的適切性、(5)正統性 • 対象とする問題(issue)の段階として:(1)前-制度化段 階、(2)中-制度化段階、(3)後-制度化段階 それぞれの評価軸×段階ごとに、検討すべきポイントが異なってくる ことを明示化(これから説明します)

Slide 94

Slide 94 text

エビデンスの検討上のポイントを示す5x3クロス表 Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 3つの制度化段階 5つの評価軸 白のマス: 対応する 状況の説明 灰色マス: 注意すべき ポイント

Slide 95

Slide 95 text

5つの評価軸とは? 先行研究を踏まえた上で以下の5軸を考慮 ①方法論的厳格性 ②総体的一貫性 ③文脈的近接性 ④社会的適切性 Methodological rigorousness Consistency Proximity Social appropriateness ⑤正統性 Legitimacy

Slide 96

Slide 96 text

5つの評価軸とは? 先行研究を踏まえた上で以下の5軸を考慮 ①方法論的厳格性 ②総体的一貫性 ③文脈的近接性 ④社会的適切性 Scientificな視点 Sociopoliticalな視点 Methodological rigorousness Consistency Proximity Social appropriateness ⑤正統性 Legitimacy

Slide 97

Slide 97 text

1. 方法論的厳格性(Methodological Rigorousness) 方法論的厳格性:「科学的方法論の質」の視点 “科学的方法論”の質の違いを認識することが重要 • 帰納的推論の質:“エビデンスヒエラルキー” 帰納的推論に関する方法論的厳格性 • 理論・シミュレーション研究の質 • 計測の質 演繹的論理の内的整合性(体系内部での自己検証はしばしば困難) 計測に関する方法論的・技術的適切性(どう測ってどう「定義」するか) 一貫性・近接性・適切性・正当性を保証するわけではない(後述) 独立な観察事実等との整合による検証(→”総体的一貫性”) 技術認証やガイダンス等による標準化による質の担保 “コロナ禍でモデル予測をどう使うか?”

Slide 98

Slide 98 text

5つの評価軸とは? 先行研究を踏まえた上で以下の5軸を考慮 ①方法論的厳格性 ②総体的一貫性 ③文脈的近接性 ④社会的適切性 Scientificな視点 Sociopoliticalな視点 Evidenceの生産 Evidenceの活用 Methodological rigorousness Consistency Proximity Social appropriateness ⑤正統性 Legitimacy

Slide 99

Slide 99 text

2. 総体的一貫性(Consistency) 総体的一貫性:「複数の知見の整合性」の視点 多様なエビデンスの相互関係を総体的に評価する視点が重要 質的に異なりうる複数のエビデンスの”アンサンブル評価” 多様なエビデンスを網羅的に参照し、メリットとデメリット、不確実性 をオープンにしながら、専門家による総合的な判断により最終的な結 論を導出 • “Weight of Evidence” アプローチ e.g., WHO (2009) シミュレーション結果と、独立に得られた観察事実の整合をもってエビ デンスの総体的な頑健性を評価 • ロバストネス評価 複数のエビデンスを多面的に見てそこからconsistencyの崩れをちゃんと見抜ける奴がプロ

Slide 100

Slide 100 text

2. 総体的一貫性(Consistency) 総体的一貫性:「複数の知見の整合性」の視点 多様なエビデンスの相互関係を総体的に評価する視点が重要 質的に異なりうる複数のエビデンスの”アンサンブル評価” 多様なエビデンスを網羅的に参照し、メリットとデメリット、不確実性 をオープンにしながら、専門家による総合的な判断により最終的な結 論を導出 • “Weight of Evidence” アプローチ e.g., WHO (2009) シミュレーション結果と、独立に得られた観察事実の整合をもってエビ デンスの総体的な頑健性を評価 • ロバストネス評価

Slide 101

Slide 101 text

5つの評価軸とは? 先行研究を踏まえた上で以下の5軸を考慮 ①方法論的厳格性 ②総体的一貫性 ③文脈的近接性 ④社会的適切性 Scientificな視点 Sociopoliticalな視点 Evidenceの生産 Evidenceの活用 Methodological rigorousness Consistency Proximity Social appropriateness ⑤正統性 Legitimacy

Slide 102

Slide 102 text

3. 文脈的近接性(1/2)(Proximity) 文脈的近接性:「政策課題との近接性」の視点 米国のある地域における 少人数学級に関する 小規模なRCTの推定結果 具体的な政策課題の文脈から見た「外的妥当性・一般化可能性・ 外挿可能性」などの概念に対応(包含)する 米国のある地域における少人数 学級に対する大規模な導入 米国の異なる地域における少人数 学級に対する大規模な導入 日本における少人数学級に対する 大規模な導入 ? ?? ??? たとえRCTであっても・・ 近接性高 近接性低

Slide 103

Slide 103 text

3. 文脈的近接性(2/2)(Proximity) 文脈的近接性:「政策課題との近接性」の視点 エビデンスの科学的な質だけではなく政策課題との文脈的な近接性 の程度を吟味することが重要 *一般に、方法論的厳格性と近接性はトレードオフの関係 →レギュラトリーサイエンスの中心テーマ • システムとドメイン間での近接性:質的に異なるモデルシステム間 での”距離” • ドメイン間での近接性:同質システム間での”距離” (例)エビデンス:米国での少人数学級のRCTの結果 ↔ 政策課題:日本での少人数学級の導入 (例)マウス毒性試験でのハーダー腺腫瘍への影響結果 ↔ 政策課題:ヒト健康リスクの管理基準の設定 科学的側面だけではなく社会的適切性の考慮が必要となる

Slide 104

Slide 104 text

5つの評価軸とは? 先行研究を踏まえた上で以下の5軸を考慮 ①方法論的厳格性 ②総体的一貫性 ③文脈的近接性 ④社会的適切性 Scientificな視点 Sociopoliticalな視点 Evidenceの生産 Evidenceの活用 Methodological rigorousness Consistency Proximity Social appropriateness ⑤正統性 Legitimacy

Slide 105

Slide 105 text

4. 社会的適切性(1/2)(Social Appropriateness) 社会的適切性:「ELSIやメタ的合目的性」の視点など (1) エビデンスを生産・活用するシステムの構造的枠組みのレベル • 科学哲学における「帰納のリスク」の議論 科学者が仮説を受け入れたり否定したりする際には、 その決定が社会的に及ぼす影響の深刻さを考慮する必要がある • 「帰納のリスク」の3つのレベル(Steel 2016) 例:欧州の化学物質管理システムは枠組内に予防原則の概念を取り入れている (2) エビデンスの基準や方法論のレベル (3) 個々のケースでの方法論に関する個々の科学者・研究グループに. おける判断のレベル 例:統計的仮説検定において偽陽性と偽陰性のどちらを避けるべきか 例:境界例における病理サンプル中の「陽性」の線引きをどう判断するか Ethical, Legal, Social Issues

Slide 106

Slide 106 text

4. 社会的適切性(2/2)(Social Appropriateness) 社会的適切性:「ELSIやメタ的合目的性」の視点など • メタ的合目的性とフレーミングの適切性 階層的なズレ: 上位目標と個別政策の目標の不一致 水平的なズレ: 特定の政策目標の追求と他の価値・利害との衝突(例: 集団平均効果では有効だが一部のヒトに強く有害) Ethical, Legal, Social Issues エビデンスの評価は社会的文脈と安易に切断できない部分があり その総体的な適切性を吟味することが重要 方法論的厳格性の観点からは「弱いエビデンス」でも、意思決定の判断においてそれを重 視するのが適切な局面が当然ある(e.g., 予防原則 → 制度化段階の議論へ) 例:『良い教育/学区を求めて転居することが学力/生涯年収を上昇 させるというエビデンスがある』 教育の公的役割の考慮は? 近視眼的なエビデンスの提示によって 「社会として達成すべき価値はなにか?」という 議論がスキップされてしまう

Slide 107

Slide 107 text

5つの評価軸とは? 先行研究を踏まえた上で以下の5軸を考慮 ①方法論的厳格性 ②総体的一貫性 ③文脈的近接性 ④社会的適切性 Scientificな視点 Sociopoliticalな視点 Evidenceの生産 Evidenceの活用 Methodological rigorousness Consistency Proximity Social appropriateness ⑤正統性 Legitimacy

Slide 108

Slide 108 text

5. 正統性(1/3)(Legitimacy) 正統性:「政治と科学の各デュープロセス」の視点 ポピュリズムと専門家支配の間のバランスと手続き的公正性を 認識することが重要 • 市民/政策立案者/専門家の非対称性とバランス • 政治的正統化の正と負の側面 - エビデンスの偏重は専門家支配による弊害をもたらしうる - 一方、エビデンスの軽視は非合理的な意思決定や責任者不 在のポピュリズムの原因となりうる - 財政的な援助や、国等の統計調査が豊富にあることは政策の基盤と なるエビデンスを充実させる - 一方、政治的な意図をもった援助は”Policy-Based Evidence Making”へと転倒しうる

Slide 109

Slide 109 text

5. 正統性(2/3)(Legitimacy) • 正統性を考える上では利益相反の考慮も重要 例:タバコ業界はタバコの害が小さいことを示す方向の研究を長年支援し 続けてきた たとえ個々の研究自体は適切に行われていたとしても、研究テーマの選 択の段階で既に大きな偏りが生じうることが大問題 (「何を計測するか」はしばしば強い政治的を帯びる) たとえば近年ベネッセが文科省案件に食い込みすぎ的な状況が散見されるが、たとえばPolicy- Makingを視野に入れた研究/活動においてベネッセから資金提供を受けてRCT等を進めること に利益相反的な問題はないのか?EBPMにおける正統性/利益相反の問題についてどこかで ちゃんと議論しているのか? 正統性: 「政治と科学の各デュープロセス」の視点 エビデンスの取得にはコストがかかるゆえに、そのスポンサーとの 利益相反の考慮には真剣に向き合う必要がある

Slide 110

Slide 110 text

5. 正統性(3/3)(Legitimacy) 正統性: 「政治と科学の各デュープロセス」の視点 新型コロナ流行下では、査読前のプリプリント論文等が学術共同体でのあるべき 吟味の過程をまるっとすっとばしてそのまま政治的議論のアリーナにダイレクト に入ってきてしまうことがしばしば生じた 現実の進行速度が通常科学の進行速度よりも早い上に、オープンアクセス・プレ プリントの広がりもあり、玉石混交のままに研究が”放出”された この問題はやや複雑な構造をしており、「政治のデュープロセス(政治と科学の接続にお ける適正手続き)」と「科学のデュープロセス(科学者共同体における質保証の適正手続き)」の 二重の正統性を考える必要がある • 学術共同体による研究の質に対するフィルタリング機能が容易にバイパスされる状況が生じ、 質の低い/implicationに乏しい研究が政治的アリーナに容易に上がりうる状況 • (専門家+利害関係者内で話題にする範囲なら問題ない/むしろ奨励すべき側面も大きいが)原著論文を読む訓 練を経ていない人や政治家に過剰に注目された形でエビデンスが届いてしまうケースあり

Slide 111

Slide 111 text

(再掲)5つの評価軸とは? 先行研究を踏まえた上で以下の5軸を考慮 ①方法論的厳格性 ②総体的一貫性 ③文脈的近接性 ④社会的適切性 Scientificな視点 Sociopoliticalな視点 Evidenceの生産 Evidenceの活用 Methodological rigorousness Consistency Proximity Social appropriateness ⑤正統性 Legitimacy

Slide 112

Slide 112 text

(再掲)5つの評価軸とは? 先行研究を踏まえた上で以下の5軸を考慮 ①方法論的厳格性 ②総体的一貫性 ③文脈的近接性 ④社会的適切性 Scientificな視点 Sociopoliticalな視点 Evidenceの生産 Evidenceの活用 Methodological rigorousness Consistency Proximity Social appropriateness ⑤正統性 Legitimacy ݸʑͷΤϏσϯεͷํ๏࿦తݫ֨ੑͷ ߟྀ͸ॏཁͰ͋Γ ݚڀऀ͸ͦͷ࣭ͷۛຯʹରͯ͠େ͖ͳ ੹೚ΛՌͨ͢΂͖ Ͱ͋Δͱಉ࣌ʹ ͦΕ͸ΤϏσϯεΛۛຯ͢Δ্Ͱͷ ॾ؍఺ͷ͏ͪͷҰͭͰ͔͠ͳ͍͜ͱͷ ֮ࣗ΋ॏཁ

Slide 113

Slide 113 text

(再掲)5つの評価軸とは? 先行研究を踏まえた上で以下の5軸を考慮 ①方法論的厳格性 ②総体的一貫性 ③文脈的近接性 ④社会的適切性 Scientificな視点 Sociopoliticalな視点 Evidenceの生産 Evidenceの活用 Methodological rigorousness Consistency Proximity Social appropriateness ⑤正統性 Legitimacy ൺֱతʹ஫໨͞ΕΔ͜ͱ͕গͳ͍͕ ࣮຿ʹ͓͍ͯ͜͜͸ΊͪΌͪ͘Όେࣄ ͋ΔҙຯͰ.ͷઔͷཁ

Slide 114

Slide 114 text

(III)の目次 (III)利用編:EBPM とエビデンスの多元的評価 • EBPMとは • エビデンスの5つの評価軸 • エビデンス評価と3つの制度化段階

Slide 115

Slide 115 text

エビデンスの検討上のポイントを示す5x3クロス表 Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 3つの制度化段階 5つの評価軸 白のマス: 対応する 状況の説明 灰色マス: 注意すべき ポイント

Slide 116

Slide 116 text

エビデンスの検討上のポイントを示す5x3クロス表 Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 3つの制度化段階 5つの評価軸 白のマス: 対応する 状況の説明 灰色マス: 注意すべき ポイント ͦΕͧΕͷධՁ࣠ʹ͓͍ͯ஫ҙ͢΂͖ϙΠϯτ͸1IBTFʹΑͬͯҟͳΔ

Slide 117

Slide 117 text

3つの制度化段階とは? エビデンス活用の様相は科学の制度化段階に依存する(c.f., 立石 2011) (1)前-制度化段階: 問題の学術的・社会的な外延が不明瞭 (2)中-制度化段階: 学術的解明が一定程度進み、制度化が進行 (3)後-制度化段階: 制度境界の確定と再帰的強化(再認知と再調査) • 「エビデンス」に関するプロトコルが確立する(プロトコルの外部が切り捨てられる) • 様々な可能性を表に出すために色々な「エビデンス」が検討対象になる 制度化段階に依存した”エビデンス”の性質や役割の変化の認識が重要 化学物質過敏症の場合 の例 (立石 2011) これまでの治療・対策の枠組みでは溢れ落ちてきたアレルギーや心身疾患、慢性疲労 性症候群と化学物質過敏症の関連性が指摘される 「シックハウス症候群」としての診断基準の確立、症状を誘発する物質の特定、化学物質 濃度の測定技術の確立、化学物質に対する規制、標準的な治療法の確立が進む 原因物質や判断基準が明確になったことで、「対象物質が基準値以下である」ことが「”化 学物質過敏症”ではない」こととして制度の外側に残置されしてしまう 『環境問題の科学社会学』 • 確立した「エビデンス」体系に基づくプロトコルが運用される

Slide 118

Slide 118 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化

Slide 119

Slide 119 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ࣄҊͷॳظϑΣʔζͰ͸৘ใ͸அยతͰ͋Γ ํ๏࿦తݫ֨ੑɺҰ؏ੑͱ΋ʹ ߴ͍Ϩϕϧͷ΋ͷ͸ଘࡏ͠ͳ͍ ʢͦͷϨϕϧΛద੾ʹೝ͍ࣝͯ͠Δ͔ʁʣ

Slide 120

Slide 120 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 அยతͳΤϏσϯε͕΋ͭ ੓ࡦతؔ࿈ੑ΋൑વͱ͠ͳ͍ ʢؔ࿈ੑͷఔ౓Λద੾ʹೝ͍ࣝͯ͠Δ͔ʁʣ

Slide 121

Slide 121 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ࣾձతؼ͕݁ਂࠁͰ͋Γ͏Δͱ͖ʹ ʮΤϏσϯεͷෆ଍ʯΛཧ༝ͱͯ͠ ੓ࡦతରԠΛ᪳᪯ͯ͠ͳ͍͔ʁ ʢॳظϑΣʔζʹ͓͍ͯे෼ͳΤϏσϯε͕͋Δ ͜ͱ͸ͦ΋ͦ΋كͰ͋Δʣ ༧๷ݪଇ ͷߟྀ

Slide 122

Slide 122 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ੓ࡦͷਖ਼౰Խͷཁ݅ͱͯ͠ա౓ʹߴ͍Ϩϕϧ ͷΤϏσϯεΛٻΊ͍ͯͳ͍͔ʁ ࣗൃతʹࢀՃͯ͘͠Δ੓෎͔ΒҕୗΛड͚Δݚڀऀ ͱ੓ࡦܾఆͱͷؔΘΓͷ͋Γํ͸ద੾͔ʁ

Slide 123

Slide 123 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ੍౓ԽΛਐΊΔ্ͰͷΤϏσϯε ͷ͔֬Β͠͞͸ൈ͚࿙Εͳ͘ ݕূ͞Ε͍ͯΔ͔ʁ

Slide 124

Slide 124 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ʮΤϏσϯε͕ࣔ͢΋ͷʯͱ ʮ࣮ࡍͷ੓ࡦʯͷؒʹίϯςΫετ ͷζϨ΍ൈ͚࿙Ε͸ͳ͍͔ʁ

Slide 125

Slide 125 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ੍౓Խ͞ΕͨΤϏσϯεͷ ੜ࢈ʗ׆༻ͷγεςϜ͕ࣾձతద੾ੑ Λߟྀͨ͠΋ͷʹͳ͍ͬͯΔ͔ʁ

Slide 126

Slide 126 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ੍౓Խ͞ΕͨΤϏσϯεͷ ੜ࢈ʗ׆༻ͷγεςϜ͕ࣾձతద੾ੑ Λߟྀͨ͠΋ͷʹͳ͍ͬͯΔ͔ʁ ಈ෺࣮ݧ ͷېࢭ

Slide 127

Slide 127 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ա౓ͷΤϏσϯεͷཁٻʹΑΓ Պֶతݕ౼͕ࠎൈ͖ʹ͞Ε͍ͯͳ͍͔ʁ ΤϏσϯεੜ࢈ऀͱͷ རӹ૬൓͸ͳ͍͔ʁ

Slide 128

Slide 128 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ੍౓Խ͞ΕͨΤϏσϯε ͷํ๏࿦΍શମ૾ʹ ࢮ֯͸ͳ͍͔ʁ

Slide 129

Slide 129 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ʮۙ઀ੑͷΪϟοϓΛຒΊΔࡍʹ ൈ͚མͪͨ΋ͷʯΛͪΌΜͱ೺Ѳ ʗέΞͰ͖͍ͯΔ͔ʁ

Slide 130

Slide 130 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ࣾձతద੾ੑʹরΒͨ͠ ੍౓ͷϦϑϨʔϛϯάΛ ద੾ʹੵۃతʹ ߦ͍ͬͯΔ͔ʁ

Slide 131

Slide 131 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ੍౓ͷҡ࣋ʹͱͬͯ ౎߹͕ྑ͍ઐ໳Ոͷॏ༻ʹΑΓ Պֶతݕূͷ࣮ޮੑ͕ ଛͳΘΕ͍ͯͳ͍͔ʁ

Slide 132

Slide 132 text

ケーススタディ:水俣病 (1)前-制度化段階: 問題の学術的・社会的な外延が不明瞭 1950年代、水俣病は前-制度化段階にあったといえる • エビデンスがもつ「方法論的厳格性」「一貫性」ともに低い状態 例:最初期には断片的な情報しかなく、地方の奇病/感染症の可能性が疑われていた • エビデンスがもつ「近接性(政策関連性)」「社会的適切性」が不明瞭 例:相対的に早期の段階で、汚染した魚の摂取が原因との間接的証拠は得られていたも のの、それらのエビデンスの政策関連性や社会適切性の考慮が不十分であった (本来ならば食中毒事件としての対応を開始するべきだった) エビデンスの位置付けの不明瞭さが、不作為による水俣病拡大の原因となった (教訓)前制度化段階では、エビデンスが弱い/断片的であっても社会的 適切性の観点から必要である場合には対策を採るべき

Slide 133

Slide 133 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(再掲) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ࣄҊͷॳظϑΣʔζͰ͸৘ใ͸அยతͰ͋Γ ํ๏࿦తݫ֨ੑɺҰ؏ੑͱ΋ʹ ߴ͍Ϩϕϧͷ΋ͷ͸ଘࡏ͠ͳ͍ ʢͦͷϨϕϧΛద੾ʹೝ͍ࣝͯ͠Δ͔ʁʣ

Slide 134

Slide 134 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(再掲) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 அยతͳΤϏσϯε͕΋ͭ ੓ࡦతؔ࿈ੑ΋൑વͱ͠ͳ͍ ʢؔ࿈ੑͷఔ౓Λద੾ʹೝ͍ࣝͯ͠Δ͔ʁʣ

Slide 135

Slide 135 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(再掲) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ࣾձతؼ͕݁ਂࠁͰ͋Γ͏Δͱ͖ʹ ʮΤϏσϯεͷෆ଍ʯΛཧ༝ͱͯ͠ ੓ࡦతରԠΛ᪳᪯ͯ͠ͳ͍͔ʁ ʢॳظϑΣʔζʹ͓͍ͯे෼ͳΤϏσϯε͕͋Δ ͜ͱ͸ͦ΋ͦ΋كͰ͋Δʣ

Slide 136

Slide 136 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(再掲) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ࣾձతؼ͕݁ਂࠁͰ͋Γ͏Δͱ͖ʹ ʮΤϏσϯεͷෆ଍ʯΛཧ༝ͱͯ͠ ੓ࡦతରԠΛ᪳᪯ͯ͠ͳ͍͔ʁ ʢॳظϑΣʔζʹ͓͍ͯे෼ͳΤϏσϯε͕͋Δ ͜ͱ͸ͦ΋ͦ΋كͰ͋Δʣ ༧๷ݪଇ ͷߟྀ

Slide 137

Slide 137 text

ケーススタディ:水俣病 (2)中-制度化段階: 学術的解明が一定程度進み、制度化が進行 1970年代、水俣病はようやく中-制度化段階に移行する • 関連エビデンスの「方法論的厳格性」「一貫性」ともに上昇 新潟水俣病の発生における科学的調査の蓄積などもあり、水俣病が工場からのメチル 水銀の排水起因であることが明確となってきた • 社会でも公害問題が大きなトピックとなり「社会的適切性」の観点からも公害 についてのエビデンスの位置付けが大きく変化 • 1970年に開かれた「公害国会」において水質汚濁法を含む14の環境関連法 案が成立し、環境に関するエビデンスと政策の「近接性(政策的関連性)」「正統 性」が明確化・制度化された

Slide 138

Slide 138 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ੍౓Խ͞ΕͨΤϏσϯεͷ ੜ࢈ʗ׆༻ͷγεςϜ͕ࣾձతద੾ੑ Λߟྀͨ͠΋ͷʹͳ͍ͬͯΔ͔ʁ ಈ෺࣮ݧ ͷېࢭ

Slide 139

Slide 139 text

ケーススタディ:水俣病 (3)後-制度化段階: 制度境界の確定と再帰的強化 現代まで、水銀のリスク管理の制度と範囲は拡大し続けている • 関連エビデンスの「方法論的厳格性」「一貫性」が確立し精緻化が進む 水銀の健康影響のメカニズム的な理解、および疫学からの知見など質の高い科学的 知見が蓄積し、神経症状以外の影響などにも研究範囲が拡大 • 社会でも水銀の毒性は広く認知され、「社会的適切性」の観点からもより広い 範囲においてより厳しいレベルの水銀のリスク管理の強化が進む • 2017年に水俣条約が締結され、水銀の健康リスク管理のためのグローバル な管理枠組みが実現化された 現在、水銀の使用、流通・輸出入、排出、廃棄の全プロセスにおいて厳しい管理が進んで おり、水銀を含んだ製品の使用・流通は大幅に制限されている 水銀リスクが大幅に低減された先進国だけではなく、開発途上国における水銀リスクを 減らすことが国際社会のミッションとして再確認され制度化された

Slide 140

Slide 140 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ࣾձతద੾ੑʹরΒͨ͠ ੍౓ͷϦϑϨʔϛϯάΛ ద੾ʹੵۃతʹ ߦ͍ͬͯΔ͔ʁ

Slide 141

Slide 141 text

ケーススタディ:水俣病 同じ「エビデンス」であっても、issueの制度化段階に応じて その位置づけ・評価・機能・論点は全く異なりうることの理解が重要 (1-3)制度化段階間の比較 ɾΤϏσϯε͕΋ͭʮํ๏࿦తݫ֨ੑʯʮҰ؏ੑʯͱ΋ʹ௿͍ঢ়ଶ ྫɿ࠷ॳظʹ͸அยతͳ৘ใ͔͠ͳ͘ɺ஍ํͷحපʗײછ঱ͷՄೳੑ͕ٙΘΕ͍ͯͨ ɾΤϏσϯε͕΋ͭʮۙ઀ੑʢ੓ࡦؔ࿈ੑʣʯʮࣾձతద੾ੑʯ͕ෆ໌ྎ ྫɿ૬ରతʹૣظͷஈ֊ͰɺԚછͨ͠ڕͷઁऔ͕ݪҼͱͷؒ઀తূڌ͸ಘΒΕ͍ͯͨ ΋ͷͷɺͦΕΒͷΤϏσϯεͷ੓ࡦؔ࿈ੑ΍ࣾձద੾ੑͷߟྀ͕ෆे෼Ͱ͋ͬͨ ʢຊདྷͳΒ͹৯தಟࣄ݅ͱͯ͠ͷରԠΛ։࢝͢Δ΂͖ͩͬͨʣ • ؔ࿈ΤϏσϯεͷʮํ๏࿦తݫ֨ੑʯʮҰ؏ੑʯཱ͕֬͠ਫ਼៛Խ͕ਐΉ ਫۜͷ݈߁ӨڹͷϝΧχζϜతͳཧղɺ͓ΑͼӸֶ͔Βͷ஌ݟͳͲ࣭ͷߴ͍Պֶత ஌ݟ͕஝ੵ͠ɺਆܦ঱ঢ়Ҏ֎ͷӨڹͳͲʹ΋ݚڀൣғ͕֦େ • ࣾձͰ΋ਫۜͷಟੑ͸޿͘ೝ஌͞Εɺʮࣾձతద੾ੑʯͷ؍఺͔Β΋ΑΓ ޿͍ൣғʹ͓͍ͯΑΓݫ͍͠ϨϕϧͷਫۜͷϦεΫ؅ཧͷڧԽ͕ਐΉ ݱࡏɺਫۜͷ࢖༻ɺྲྀ௨ɾ༌ग़ೖɺഉग़ɺഇغͷશϓϩηεʹ͓͍ͯݫ͍͠؅ཧ͕ ਐΜͰ͓ΓɺਫۜΛؚΜͩ੡඼ͷ࢖༻ɾྲྀ௨͸େ෯ʹ੍ݶ͞Ε͍ͯΔ 前-制度化段階 後-制度化段階

Slide 142

Slide 142 text

コロナ禍(初期)への適用例:K値のケーススタディ コロナ感染者数の増減のダイナミクスを単純な物理学的モデルに フィッティングしたモデルから得られた、感染に関する指標 尚、一時期には新たな有用指標として話題になり自治体等での公式な指標の一つとして 採用されるなどしたが、K値による感染予測が全く当てにならないことが歴然としたため、 現在はK値に言及する人はほぼいない K値とは? 内容について詳しくは→ http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/%7Enakano/What- is-K-value.pdf 「コロナ K値」などでググるといろいろ出てくると思います

Slide 143

Slide 143 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ಺෦Ϟσϧͷͳ͍୯ͳΔΧʔϒϑΟοσΟϯάͰ͋Γ ํ๏࿦తݫ֨ੑ͸͔ͳΓ௿͍

Slide 144

Slide 144 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ײછಈଶʹؔ͢Δੜଶֶతͳಛੑ౳ͱͷ طଘ஌ݟͱͷ੔߹ੑ͕ͳ͘Ұ؏ੑ͸͔ͳΓ௿͍

Slide 145

Slide 145 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ಺෦ϞσϧΛ΋ͨͳ͍Ώ͑֎ૠՄೳੑͷࠜڌΛ΋ͨͣ ͍͔ͳΔจ຺ʹରԠ͠͏ͷΔ͔ͷۙ઀ੑͷݟ௨͠Λܽ͘

Slide 146

Slide 146 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ʢՊֶతʹ࠷௿Ϩϕϧͷ࣭ͳͷʹʣ੓ࡦܾఆऀͷෆ࡞ҝΛਖ਼౰Խ ͠͏Δ͜ͱ͕༰қʹ༧ݟ͞Εࣾձతద੾ੑ΋͔ͳΓ௿͍

Slide 147

Slide 147 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ʢՊֶతʹ࠷௿Ϩϕϧͷ࣭ͳͷʹʣଐਓతͳύΠϓʹΑͬͯେ ਉɾ஌ࣄϚλʔʹ·Ͱ,஋͕Ͷ͡ࠐ·Εͨ͜ͱ͸ۃΊͯ ໰୊͕େ͖͍ʢ͜Ε͸೔ຊͷֶज़తॿݴͷഊ๺Ͱ͋Δʣ

Slide 148

Slide 148 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 (1) 前-制度化段階での注意すべきポイント(概略) Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 ؍࡯σʔλ͔ΒͷΤϏσϯε͸ࢧ࣋ɾ൱ఆଆͱ΋ʹݶఆత Ͱ͋Γɺྟচࢼݧͷ݁ՌΛ଴ͭ΂͖ ੜ෺ֶతͳػߏʢަࠩ໔Ӹʣͱͷ ҰఆͷҰ؏ੑ͸͋Δ ରࡦ͠ͳ͍͜ͱͷਖ਼౰Խ΍ɺখࣇ΁ͷڙڅͷ ো֐ʹ͕᷷Δͱ͔ͳΓΑΖ͘͠ͳ͍ ͋Δ΂͖ਖ਼౷ੑͷ࿮૊ΈΛ௒͑ͯ੓෎౳ͷҙࢥܾఆʹ ӨڹΛ༩͑Δ͜ͱ͸ͳ͔ͬͨʢ͜Ε͸ྑ͔ͬͨʣ

Slide 149

Slide 149 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 コロナ禍(初期)への適用例:「マスク着用」のケーススタディ Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化

Slide 150

Slide 150 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 コロナ禍(初期)への適用例:「マスク着用」のケーススタディ Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ʮۙ઀ੑͷΪϟοϓΛຒΊΔࡍʹ ൈ͚མͪͨ΋ͷʯΛͪΌΜͱ೺Ѳ ʗέΞͰ͖͍ͯΔ͔ʁ

Slide 151

Slide 151 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 コロナ禍(初期)への適用例:「マスク着用」のケーススタディ Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ʮۙ઀ੑͷΪϟοϓΛຒΊΔࡍʹ ൈ͚མͪͨ΋ͷʯΛͪΌΜͱ೺Ѳ ʗέΞͰ͖͍ͯΔ͔ʁ 4"34΍ΠϯϑϧԼͰͷ ஌ࣝ࿮૊ΈͷϦϑϨʔϛϯά ʹग़஗Εͨ

Slide 152

Slide 152 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 コロナ禍(初期)への適用例:「マスク着用」のケーススタディ Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ඈລײછ͕ओମʹ طଘͷΤϏσϯεͷۙ઀ੑ͸ ࢥͬͨΑΓ௿͔ͬͨ ʮۙ઀ੑͷΪϟοϓΛຒΊΔࡍʹ ൈ͚མͪͨ΋ͷʯΛͪΌΜͱ೺Ѳ ʗέΞͰ͖͍ͯΔ͔ʁ 4"34΍ΠϯϑϧԼͰͷ ஌ࣝ࿮૊ΈͷϦϑϨʔϛϯά ʹग़஗Εͨ

Slide 153

Slide 153 text

Phase 前-制度化段階 中-制度化段階 後-制度化段階 各視点の焦点 Perspective ⽅法論的厳格性 検討対象の学術的な理解が不⼗分。(Pre-R) 検討対象の学術的な標準的⾒解が確⽴する。 (Mid-R) 研究がさらに進み、検討対象の細部の解明が進む。 (Post-R) 科学としての質 当該検討対象に関わるそのとき得られる知⾒が、どのような⼿法によって得られたも のかを明⽰し、エビデンスとしての有効性を評価しているか? エビデンスを創出する科学的⽅法論や研究デザインの強みと限界を明⽰しているか? ⼀貫性 エビデンス間の関係性を検討できるほど学術研究が進展して いない。(Pre-C) エビデンス間の関係性が検討できるようになる。 (Mid-C) より詳細にエビデンス間の関係性を検討することが可能にな る。 (Post-C) 研究の進展に応じて、エビデンスの主張、不確実性、影響・被影響関係の整合性の把 握に努めているか? 最終的な結論を⽀持/留保する論拠について、関連するエビデンスの主張、不確実性、 影響・被影響関係を体系的に把握しようと努めているか? 近接性 科学的知⾒の政策的意義が不明確であり、研究成果が政策形 成に結びつき難い。(Pre-P) 研究が進むことでエビデンスの基準が確⽴し、研究成 果と政策対象の関連性が把握しやすくなる。それに伴 い、政策的対応のガイドラインが整備される。(Mid- P) 問題がプロトコルやガイドラインに則って理解されることで、 そこから逸脱する事象が切り捨てられる傾向が⾒られるよう になる。(Post-P) 科学の政策への応⽤可能 性 エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性が想定できない場合、近接性の⽋如に⾃覚的か? エビデンスの内容と政策対象の関連性はあるか? 近接性の射程について⾃覚し、射 程の外部に対して総合的な考慮をしているか? 社会的適切性 当該問題に関するエビデンスが⼗分にない状況において、個 別ケースごとに科学者や研究グループの社会的価値判断が要 求される。(Pre-A) エビデンスの⽣産に関わる科学的⽅法論やエビデンス 基準に社会的価値判断が反映される。(Mid-A) 制度設計の⽔準に社会的価値判断が反映される。(Post-A) 科学の政策への応⽤可能 性を判断する際の妥当性 エビデンスの欠如を理由に、過小な政策的対応になっていな いか?ある仮説を採用、棄却、保留する判断を、その判断が 招く社会的帰結の深刻度を考慮して決定しているか? 型に嵌った判断に終始しないで、その都度、当該問題 に対する研究デザインの意義を検討しているか? フレーミングの限界を認識し、必要に応じて再課題化を促し ているか? 正統性 研究者による⾃発的な研究や、原因究明のための委託研究に 対する政治的関与のあり⽅が問われる。(Pre-L) エビデンスの基準の設定と運⽤に対する政治的関与の あり⽅が問われる。(Mid-L) 科学的⾒解を統制するための議論の進め⽅や研究者の選定の 仕⽅に対する政治的影響のあり⽅が問われる。(Post-L) 政治と科学の各デュープ ロセス(適正な⼿続き) 当該問題の理解を深めるために様々な可能性を顕在化しよう と働きかけているか?過剰なエビデンスの⽔準が課されるこ とで、政策的対応の不作為が免れていないか? エビデンスの要求レベルを不当に操作することで、過 剰な政治的⾃律性が許容されていないか?利益相反に 注意を払っているか? 都合の良い専⾨家の選別を通して、特定の政策路線の強化を 促していないか? 視点の関係性 エビデンスの⽅法論的厳格性や⼀貫性に関し不明瞭な点が多 いため、エビデンスと政策対象との近接性が測り難い。この 段階では、エビデンスレベルに縛られない予防的対策も考慮 する必要があり、社会的適切性と正統性はしばしば緊張関係 にある。すなわち、政策決定の根拠として科学者の社会的価 値判断を重視することは正統性を侵⾷する危険性があるが、 政策判断を科学者側に課すことで説明責任の転化を招く危険 性もある。 ⽅法論的厳格性と⼀貫性の点でエビデンスの質が向上 することで、近接性の判断も可能になる。ただし、エ ビデンスの質と近接性はしばしばトレードオフの関係 にある。これら前者⼆つの科学的視点と近接性のバラ ンスは純粋に科学的に決められるわけではなく、社会 的適切性や正統性の視点に照らし合わされて決まられ る。 研究が進み⽅法論的厳格性と⼀貫性に関して質の⾼いエビデ ンスの創出が可能になることで、より詳細に近接性を測れた り、適切な課題設定が可能になる。⼀⽅で、制度化により問 題のフレーミングが再帰的に強化されることで、近接性や⼀ 貫性を検討すべき知⾒の範囲の拡張や、社会的適切性に照ら した問題の再課題化が制限される危険性がある。 コロナ禍(初期)への適用例:「マスク着用」のケーススタディ Fig. 1. Cross table of managerial points for EBPM in environmental policymaking. 方法論的厳格性 一貫性 近接性 社会的適切性 正統性 前-制度化 中-制度化 後-制度化 ඈລײછ͕ओମʹ طଘͷΤϏσϯεͷۙ઀ੑ͸ ࢥͬͨΑΓ௿͔ͬͨ ʮۙ઀ੑͷΪϟοϓΛຒΊΔࡍʹ ൈ͚མͪͨ΋ͷʯΛͪΌΜͱ೺Ѳ ʗέΞͰ͖͍ͯΔ͔ʁ 4"34΍ΠϯϑϧԼͰͷ ஌ࣝ࿮૊ΈͷϦϑϨʔϛϯά ʹग़஗Εͨ ʮΤϏσϯε͕ͳ͍ʯঢ়گΑΓ΋ʮۙ઀ੑͷϏϛϣ΢ͳΤϏσϯε͕͋Δʯ ঢ়گͷ΄͏͕͚ͬ͜͏೉͍͠ͱ͍͏ڭ܇ͷ͋Δέʔε

Slide 154

Slide 154 text

(III)のまとめ Evidenceのevaluation/managementにおいては、少なくとも 以下の「5評価軸 x 3段階」ごとに、それぞれの検討すべきポイントが 存在する “Evidence”や”Policy Making”の概念範囲は話者により 大きく異なるので注意(EBPMガチ勢と一般人のあいだに大きなギャップあり) コロナ禍で色々な人が色々なことを言っているけれども、もし「専門知の政策利用」について _建設的に_語りたいのであれば、上記の論点は最低限として踏まえたいところだと思っています 評価軸として: (1)方法論的厳格性、(2)総体的一貫性、(3)文脈的近接性、(4)社会的適切性、(5)正統性 対象とする問題(issue)の段階として: (1)前-制度化段階、(2)中-制度化段階、(3)後-制度化段階

Slide 155

Slide 155 text

Take home messages 「データ=真実」ではなく、「結論=データ×解釈(仮定・アングル)」であ る。結論より先に仮定やアングルの妥当性こそを丁寧に吟味すべき エビデンスの評価の際には多面的な評価軸がありうることと、適用する 際の文脈や状況の違いを常に意識しよう 分断の時代において、エビデンスは意志決定/民主主義のための 「公共財」である。自分に都合のよい解釈におもねらず、「より良いエビ デンスの生産」と、「より適切なエビデンスの利用」を目指そう! 本日はありがとうございました! 「データサイエンス/AIがあれば専門知・現場知は不要になる」は間違い (背景知識抜きの因果解釈は容易に間違いうる)

Slide 156

Slide 156 text

No content