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守る「だけ」の優しいEM を抜けて、 事業とチームを両方見る視点を身につけた話

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この資料の構成 PA RT 1 — 盾の時代 崩壊寸前のチームを「生存」させるまで PA RT 2 — 槍の時代 新規プロジェクトで「前に進める」に振り切った話 PA RT 3 — 判断軸 守りと攻めの迷いを整理する、自分なりの基準 Overview

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2024/03 入社、そしてチームの危機 Section

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内定時 会社 フロントエンドエンジニアとして採用! チームにはたくさん人がいるよ! ありがとうございます! がんばります! なんでもやります!( なんでもやるとは言ってない) Part 1 — 盾の時代

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入社時(2024/03) よーしがんばるぞ〜 Part 1 — 盾の時代

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2024/04~2024/05 ファッ!? Part 1 — 盾の時代

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退職・異動が重なり、チームは崩壊寸前に 入社してまもなく、退職やチーム異動などの不運が重なりチームは一気に縮小。 社歴の長いメンバーもおらず、日々のオペレーションを回すだけで精一杯の状態に。 組織コンテキストの断絶 ナレッジ移転の停滞 メンバーとしても入りたてで、業務に慣れるまで時間がかかる チームの「型」がない プロセスも文化もほぼゼロから作り直しが必要な状態 複雑かつ膨大なドメイン 1 つの課題解決が高難易度 ドメイン知識とソースコードが複雑で、キャッチアップに多大なコスト 予期せぬ影響を発生させるリスク ちょっとした実装ミスが予測困難な影響波及を起こしうる構造 Part 1 — 盾の時代

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どう対応したか → 生存戦略としての「盾」 まずは「生き残ること」を最優先にした、徹底的な防御フェーズ。 外部の依頼を絞り込む 盾になり、チームを外圧から 守ることに徹する。開発リソースを 分散させず、生存のために一点集中。 WIP を極限まで絞る 同時進行を減らし、 1 つずつ確実にやりきる。 スイッチングコストを排除する。 対話とモブプロで知識を共有 属人化を防ぎ、 4 人全員が動ける状態をつくる。 手戻りを削減し、品質を底上げ。 関連資料 — SpeakerDeck チームの立て直し施策をGoogle の「効果的なチーム」と見比べてみた https://speakerdeck.com/maroon8021/timunoli-tezhi-sishi-ce-wogoogleno-xiao-guo-de-natimu-tojian-bi-betemita Part 1 — 盾の時代

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半年後の「成功」 チーム体制の回復 Before 4名 → After 8名 採用と異動によりメンバーが倍増。 「4 人の生存」状態から脱却し、体制を立て直した。 デリバリーの安定 運用作業で手一杯の状態から脱却。 スプリントや数ヶ月単位の計画的実行が可能に。 この時点では、盾の戦略は正解だった。 Part 1 — 盾の時代

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2025/09 〜 転換点、そして槍の時代 Section

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新規プロジェクトの始動 チームの立て直しが一段落した頃、別の新規プロジェクトが本格始動した。 過酷なロードマップ 3 ヶ月に一度、大きな山場(成果証明)が来るスケジ ュール。 START MILESTONE 急造の体制 自分が先行して進め、後からなんとか頭数を揃えた突 貫工事の状態。 ドメイン知識の偏り 自分には知識があるが、他メンバーは少ない。属人化 の種がある状態でのスタート。 Me Member じっくりチームを作りたい。でも、現実はそれを待ってくれない。 Part 2 — 転換点 ? ? EM

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新規プロジェクトの体制 少人数、知識差、急造の体制。前チームの崩壊時と似ている。 しかし今回は「生存」ではなく「成果を出し続ける」ことが求められた。 Part 2 — 転換点

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私が信じていた「私にとっての理想のEM 像」 SUPPORT サーバントリーダーシップ チームの障害を取り除く メンバーが最大限パフォーマンスを発揮できるよう、環 境を整え、雑務を引き受け、背中を押す「支援者」に徹 する。 PSYCHOLOGICAL SAFETY ピープルマネジメントの徹底 心理的安全性の確保 1on1 を重視し、メンバーのキャリアや悩みに寄り添 う。個人の成長を第一に考え、信頼関係を構築する。 AUTONOMY ボトムアップの組織 権限委譲と自律 トップダウンの指示を避け、現場のメンバーが自ら考 え、決定できる自律的なチームを目指す。 「支えることさえやっていればいい」 事業の推進が大事なのはわかっていたが、 「ピープルマネジメントをやっているから」という理由で、厳しい現実と向き合いきれていなかった。 Part 2 — 転換点

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「弱めのEM 」にこだわっていた 出典:広木 大地「エンジニアリングマネージャ/ プロダクトマネージャのための知識体系と読書ガイド」Qiita (2019-12-01 、最終更新 2021-08-02 ) (閲覧日:2026-02-27 ) https://qiita.com/hirokidaichi/items/95678bb1cef32629c317 Part 2 — 転換点

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「支援」が「停滞」に変わる時 支援 ● 納得するまで待つ ● 知識が揃うまで伴走する ● 任せて自律を促す → 停滞 ▲ 待つ間にも締め切りは近づく ▲ 伴走が間に合わない ▲ 学習を兼ねるため、どうしても遅い 「ピープルマネジメント」を、厳しい意思決定を避ける免罪符にしていた。 Part 2 — 転換点

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過去のトラウマ 過去の職場で、独断で進めすぎてチームの自律性を失わせた経験があった。 「結局、mitsui がやるんでしょ」 マネージャー個人への依存が、チームの思考停止を招いた。 サーバントでいたい。でも今はそれでは前には進まない。 Part 2 — 転換点

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ではどうしたか Section

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盾を置き、槍を持つ 細かいところは後で考えよう。 今は私が決めて進める。 俺がやらなきゃ誰がやる Part 2 — 転換点

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変えたこと 意思決定の仕組みを、速度優先に切り替えた。 合意形成から即断へ 80 点取れるなら議論せず決める。可逆なら即 断、不可逆なら慎重に。 「決まらない」ことを 避ける。 采配と調整を一手に タスクの優先度・外部調整・不確実性の管理を まとめて引き取った。分散させるより判断が速 い。 設計の初動を引き取る ゼロから考える部分を巻き取る。詰まったら即 座に入り、チームが手を動かせる状態をつく る。 Part 3 — 槍の時代

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変えなかったこと 全員で回す仕組みは、意図的に残した。 スプリント・デイリー・リファイ ンメント チームのリズムは壊さない。回す仕組みがある から走れる。スクラムのセレモニーは全て継続 した。 1on1 ・毎日の相談会 対話の場は守る。納得感が薄れるからこそ、意 思決定の背景を伝える場が必要だった。 重要機能の実装はメンバーに 設計・実装・レビューは任せる。 「自分がつく った」実感を奪わない。EM が全部やったら前 と同じ。 全員で回す仕組みは守り、全員で決める仕組みは手放した。 Part 3 — 槍の時代

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槍の成果 プロジェクトの山場を、チームとして乗り越えた。 3 ヶ月ごとの成果証明をクリア 事業は確実に前に進んだ。定期的なマイルストーン達成により、組織からの 信頼を獲得。 判断の速度が上がった 迷う時間を削り、実行に集中できる状態をつくった。即断即決が開発のリ ズムを生み出した。 多少パワーで進めた部分もあった。 でも、前に進めたことには確かな価値があった。 Part 3 — 槍の時代

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介入の収支 + 得たもの スピード 事業の前進速度が劇的に向上 成果 実績に基づく信頼の獲得 推進力 非常時を乗り越えた突破力 − しわ寄せが出たところ 透明性 意思決定プロセスのブラックボックス化 合意形成 メンバーの納得感の欠如 自律性 挑戦と失敗から学ぶ機会の損失 事業は進んだ。でも、この進め方にはしわ寄せもあると感じた。 Part 3 — 槍の時代

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このトレードオフ、どう扱う? Section

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事業の推進 ? チームの健全さ この2 つは本当にトレードオフなのか? 前に進めたい。でも、チームにしわ寄せも出る。感覚ではなく、判断の軸が欲しかった。 Part 3 — 槍の時代

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上司 その意思決定が、 企業価値にどう影響するかで考えればいい Part 3 — 槍の時代

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DCF 法:企業価値の構造 V = ​ t=1 ∑ n (1 + r)t CF ​ t V  企業価値 CF  期間t のキャッシュフロー ≒ 事業成果 r  割引率 ≒ 不確実性・組織リスク t  時間 — 遅れるほど価値が目減りする EM の判断は CF (事業成果) と r (組織リスク) を通じて企業価値に影響する。 t Part 4 — 理論と哲学

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企業価値の算定イメージ(DCF 法) 将来のフリーキャッシュフロー(FCF )を割り引いて合算したものが、企業価値。 企業 価値 FCF FCF FCF … FCF 現在 1年後 2年後 3年後 n年後 FCF(現在価値に割引後) 割引分(時間・リスクによる目減り) Part 4 — 理論と哲学

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「事業貢献」= CF を大きくすること よく言う「ビジネス貢献」 。DCF の文脈では、分子のCF (事業成果)を大きくすること。 通常の事業成果 FCF t=1 FCF t=2 FCF t=3 企業価値 = V → 事業成果を上げた場合 FCF t=1 FCF t=2 FCF t=3 企業価値 = V ▲ Part 4 — 理論と哲学

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組織リスク(r )が企業価値を削る 同じ事業成果(CF = 100 )を3 年間出しても、組織リスクが高いと企業価値は大きく変わる。 同じCF r = 5% 健全な組織 95 1年後 91 2年後 86 3年後 企業価値 V V = 272 r = 20% 属人化・信頼毀損 83 1年後 69 2年後 58 3年後 企業価値 V V = 211 ▼23% 現在価値(PV) 割引分 同じ成果を出していても、組織リスクの差が企業価値を分ける。 Part 4 — 理論と哲学

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補足:本発表における「企業価値」の定義 金融理論をそのまま適用しているわけではなく、EM の意思決定を整理する思考モデルとして使っています。 「企業価値」という言葉の意図 厳密なDCF 法の V は「事業価値」を指しますが、本発表ではプロダクトだけでなく組織・文化・採用など会社全体の資産に責任を持つEM の視座を示すため、広義の「企 業価値」を採用しています。 割引率 r = 組織リスク 金融上の r は資本コスト(不確実性) 。本モデルでは属人化・採用難・信頼毀損といった「組織リスク」を、事業成果が実現する確率を下げる不確実性として定義してい ます。 組織リスク(r )↑ → 不確実性が増大 → 企業価値(V )↓ 計算ツールではなく、判断の共通言語 短期的な成果(CF )か、中長期的な組織健全性(r )か ── トレードオフを「企業価値への寄与」という同じ土俵で比較するための思考モデルです。 Part 4 — 理論と哲学

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結論 Section

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事業貢献「だけ」でもなく、ピープルマネジメント「だけ」でもない。 「この判断は企業価値にどう影響するか?」 結論

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判断の軸と、実行の引き出し 判断 WHAT 実行 HOW CF(キャッシュフロー)を上げる 事業価値の向上・売上貢献 組織リスク r を下げる 不確実性の低減・持続可能性 先頭に立つ(槍) 自ら手を動かし突破する 支える(サーバント) メンバーの障害を取り除く 任せる(権限移譲) 信頼して結果責任を持つ 結論

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それでも。 Section

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私はピープルマネジメントが好きだ 人と話す、人と人をつなぐ AI 時代だからこそ、人と人をつなぐコミュニケーションの価値は増していく。 ただし「ピープルマネジメントだけ」やるわけではない 必要なら他のロールも担う柔軟性を持つ。 自分が一番輝ける場所にフォーカスできる「場作り」から責任を持つ → 黙って待つのではなく、自ら動く 結論

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EM として意識したいこと 1 手広くやる必要がある 事業貢献「だけ」 、組織マネジメント「だけ」では不 十分。両方の視点を持ち、状況に応じて柔軟に動く 必要がある。 2 目線合わせ・期待値調整 手広くやるからこそ、何に注力するかを周囲と合意 形成する。期待値のズレを防ぎ、信頼を積み重ねる ための必須アクション。 3 「自分がどうありたいか」 役割が曖昧で広範だからこそ、流されないための 「軸」が必要。自分のスタンスを明確にし、迷った ときの指針にする。 Engineering Manager とは、不定形な課題 に対し、自らの意志 で形を与えていく役割である。 結論

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なにを軸に、どう貢献し、 どんなEM でありたいですか? 結論

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fin