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機械学習コンペの近年の潮流 2022 年 4 月版 日本経済新聞社 石原祥太郎 ML Study #3 「機械学習コンペ」 2022 年 4 月 4 日

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本発表の概要 2 ● 機械学習コンペを取り巻く近年の潮流を紹介 ○ 世界最大のコンペサイト「Kaggle」での出題傾向の変化 ○ よりよい競争環境のための創意工夫 ○ 日本国内での動向 ● 広く機械学習に関わっている方に向けて、機械学習コンペや Kaggle の 2022 年 4 月時点での実情が垣間見える発表になれ ばと考えています

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自己紹介@ニュースメディア 3 ● 2017 年より日本経済新聞社でデータ分析・サービス開発。 現在は研究開発部署で主任研究員を務める ○ https://hack.nikkei.com/publications/ ○ https://hack.nikkei.com/jobs/AI_and_datascience/ ● 2013 〜 2017 年は公益財団法人東京大学新聞社で、記者・編集長・デー タ分析・文化事業・広告担当などを歴任 ● ニュースメディアにおけるデータ利活用(最近は機械学習・自然言語処理の 応用)に関心がある ○ 国際ニュースメディア協会の若手表彰で、アジア太平洋部門の最優秀賞(2022) https://www.nikkei.co.jp/nikkeiinfo/news/information/699.html

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自己紹介@Kaggle 4 ● Kaggle では 2019 年にチーム参加した「PetFinder.my Adoption Prediction」で優勝。 ● 同年の「Kaggle Days Tokyo」では、日本経済新聞社として コンペを開催 ● Kaggle 関連書籍を出版(スタートブック& 4GM 本& ??? ) ● 個人活動として、ニュースレター「Weekly Kaggle News」を 2 年以上にわたり週次で発行し、購読者は 2000 人超。

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目次 5 ● Kaggle での出題傾向の変化 ● よりよい競争環境のための創意工夫 ● 日本国内での動向

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機械学習コンペティションとは 6 1. 主催者がデータセットと課 題を提供 2. 参加者は評価用データ セットの正解ラベルを予測 3. 開催期間中に順位を競い 合う 4. 終了時の最終結果で順位 が確定

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機械学習コンペティション × 国際会議 7 ● 1997年にはデータマイニングの国際会議「KDD」にて、第1回の 「KDD Cup」が開催 ○ 現在に至るまで毎年開催を継続 ● 「NeurIPS」「RecSys」など、機械学習に関連するさまざまな国際 会議でコンペが併設されている ※ 筆者が機械学習コンペに参戦したのは 2018 年で、記述に当たっては [1][2] を参考にした [1] 馬場雪乃. 2016. “機械学習コンペティションの進展と今後の展開 .” 人工知能 31 (2): 248–53. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsai/31/2/31_248/_article/-char/ja/ [2] Kohei Ozaki (smly). 2017. “データ分析コンテストの技術と最近の進展 .” https://speakerdeck.com/smly/detafen-xi-kontesutofalseji-shu-tozui-jin-falsejin-zhan

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大規模画像認識コンペティション「ILSVRC」 8 ● 大規模画像データセット「ImageNet」を用いた画像認識のコンペ ● 2010 年に開始し、2012 年に畳み込み層を用いた深層学習のモ デルが従来手法を圧倒的に凌駕する性能を叩き出した ● この事例は、昨今の深層学習研究の急速な発展に向けた転換点 とも言われている

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機械学習コンペティションの貢献 (分類は [1] を参照) 9 ● 特定の問題に適した予測モデリング手法の研究促進 ○ ILSVRC や、映画推薦の「Netflix Prize」 ○ 最近の例だと、日本語質疑応答の「AI 王」[3] など ○ 機械学習の利用に対する参入障壁の低減 ● 予測モデリング手法の汎用性を報知する場の提供 ○ 参加者が同一のデータセットで学習し、未知のデータセットで評価 ● 実用上の知見の蓄積 ○ 実装に当たっての勘所、論文で報告された手法の再検証 [3] https://sites.google.com/view/project-aio/home

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Kaggle とは 10 ● 2010 年設立の機械学習コンペのプラットフォーム。 2017 年に Google に買収された ● コンペ開催に必要なユーザ管理・順位表・スコア計算などの機能 を提供 ○ 主催者は比較的手軽にコンペを開催可能に ○ 参加者もより気軽に数多くのコンペに挑戦できるように ● ユーザ数は 2020 年に 500 万人に達し、世界最大。日本からの 参加者も年々増えている

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Kaggle のイメージ => Titanic ? 11 ● Kaggle の入門として、タイタニック号を題材にしたコンペ [4] が有名 ● 扱うのは、右図に示すテーブル 形式のデータセット ● サイズは総計で 93.08 kB [4] https://www.kaggle.com/c/titanic

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データセットの種類別の推移 12 Kaggle 公開のデータセット「 Meta Kaggle」から作成したデータセットの種類別のコンペ数の推移( 2021 年 12 月時点で終了したコンペまでを対象に集計)

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データセットのサイズ 13 ● 画像を題材にしたコンペ ○ Happywhale - Whale and Dolphin Identification [5] : 62.06 GB ● テーブル形式のデータセットでも増加傾向に ○ H&M Personalized Fashion Recommendations [6] : 34.56 GB ※ 共に Kaggle で現在開催中 [5] https://www.kaggle.com/c/happy-whale-and-dolphin [6] https://www.kaggle.com/c/h-and-m-personalized-fashion-recommendations

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GPU が必須になりつつある 14 ● 処理を高速化するための GPU の利用は必須になりつつある ● データセットの加工に GPU を用いるライブラリも ○ rapidsai / cudf [7] ○ pfnet-research / xfeat [8] ● TPU が利用される例もチラホラ [7] https://github.com/rapidsai/cudf [8] https://github.com/pfnet-research/xfeat

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解き方が非自明な課題の増加 15 ● データセットが最初からモデリング(model.fit)できる状態では提 供されないコンペも ● 課題としては最終的な出力と評価指標が示され、どのように解く かは参加者が試行錯誤する余地がある ● たとえば「NFL Health & Safety - Helmet Assignment」[9] ○ 詳細は優勝者の Qiita 記事参照 [10] [9] https://www.kaggle.com/c/nfl-health-and-safety-helmet-assignment/ [10] https://qiita.com/Kmat67916008/items/8ccf0171219036621540

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シミュレーション・コンペティション 16 ● 2020 年から、設定された環境下で戦うモデルを提出するシミュレー ション形式のコンペが登場 ● 強化学習や、行動制御のために大量の条件文の記述、教師あり学習 の考え方で取り組む「模倣学習」といったアプローチが存在 ● サッカー・じゃんけん・街づくりなど、定期的にコンペが開催されている

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Data-Centric AI 17 ● モデリングではなくデータ加工に焦点を当てた「Data-Centric AI Competition」[11] (※ Kaggle 外での開催) ● 機械学習モデルの学習部分は固定で、データの前処理などを通じた 性能向上に取り組む [11] https://https-deeplearning-ai.github.io/data-centric-comp/

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● まとめ ○ データセットの形式がテーブル => 画像中心に ○ データセットのサイズも増加し、GPU の必須になりつつある ○ 解き方が非自明な課題の増加 ● 所感 ○ データサイエンスの普及に伴い、ある程度解き方が明瞭な課題は企業が自 社内で処理できるようになってきた? 出題傾向の変化のまとめと所感 18

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目次 19 ● Kaggle での出題傾向の変化 ● よりよい競争環境のための創意工夫 ● 日本国内での動向

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機械学習コンペティションのよくある課題 ● 大量のモデルのアンサンブル ○ 映画推薦のコンペ「Netflix Prize」では、最終的に賞金 100 万ドルを獲得し たモデルは 100 以上のモデルのアンサンブル ○ Netflix によると、優勝したモデルはオフライン検証を通じた性能向上が実装 や運用の工数に見合わないという理由で、本番環境への導入が見送られた [12] ● 評価用データセットの事前参照 ○ 事前にデータセットの分布を確認できるという「特殊な」問題設定 20 [12] https://xamat.medium.com/on-the-usefulness-of-the-netflix-prize-403d360aaf2

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Kaggle での創意工夫の例 21 ● (前節で触れた)出題傾向の変化 ● チーム人数の制限 ● コード提出形式のコンペティション ● time-series API ● Code の公開制限

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チーム人数の制限 22 ● Kaggle では 2018 年ごろから、チーム内の人数の上限が設定さ れるように ○ 現在は 5 人の場合が多い ○ 過度なアンサンブルへの警鐘、チームへの貢献がない参加者の抑制といっ た目的などがあると考えられている

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コード提出形式のコンペティション 23 ● Kaggle では計算資源の公平性や透過性のためにコードを提出して 実行する形式のコンペが一般的に ● 処理時間の制限も設定 ○ 推論時間のみの制限が多いが、過去には前処理を含めた場合も ● 最終的な評価に、未来のデータセットを使う場合も ○ 実用面を勘案した解法になるような制度設計

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time-series API 24 ● Kaggle では独自の API を用いて、学習時に評価用データセット を参照できない仕組みを実現している事例も ● 通常は推論がバッチ処理だが、ストリーム処理が必要に ● 未知のデータセットへの対応力や省メモリ化・高速化など、実装力 を問われる場面も増えてきた [13] [13] https://docs.google.com/presentation/d/1tQPw_JwRTgRHNbvs3YJOab4PywsprREwR6fo58NfMGQ/

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Code の公開制限 ● Kaggle では時折、締め切り直前の高スコアの Code 公開が議論に なる ○ 過去には終了数時間前に公開された Code をそのままコピーして提出すればメ ダルが取れてしまった事例も [14] ● 現在は対応策として、自制を促す警告が表示されている ● コンペ終了 7 日前から Notebook の公開を禁止する規制を検討して いると明らかに [15] 25 [14] https://www.kaggle.com/c/talkingdata-adtracking-fraud-detection/discussion/56182 [15] https://www.kaggle.com/general/291540

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目次 26 ● Kaggle での出題傾向の変化 ● よりよい競争環境のための創意工夫 ● 日本国内での動向

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[16] https://sinchir0.hatenablog.com/entry/2021/12/18/090325 日本勢の躍進 27 ● コンペ上位に日本から の参加者がいるのは、 珍しくない状況に ● Kaggle ranking top 100 で最も多い国は日本 (2021 年 12 月時点) [16] NFL Health & Safety - Helmet Assignment の最終順位表 https://www.kaggle.com/c/nfl-health-and-safety-helmet-assignment/leaderboard

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Kaggle Days Championship 28 ● 2021 年から Kaggle が新たに始めたイベント [17] ● 12 カ所で 4 時間の短期間コンペを開催し、上位 3 チームが 2022 年秋にスペイン・バルセロナでの本戦に進出 ● ここでも日本勢の活躍が目立つ [17] https://kaggledays.com/championship/

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29 https://kaggledays.com/championship/leaderboard/

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日本発のコンペティションサイト 30 ● SIGNATE: 日本最大のコンペプラットフォーム ● Nishika: 特許庁初となるコンペを開催 ● ProbSpace: 優勝解法のピアレビュー制度が独特 ● Solafune: 衛星データが専門 ● atmaCup: Kaggle Master が運営 など

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Kaggleを冠した書籍 (Amazon で検索) 31 ● Kaggleで勝つデータ分析の技術 ● Kaggleのチュートリアル第6版 ● Kaggleで学んでハイスコアをたたき出す ! Python機械学習&データ分析 ● 実践Data Scienceシリーズ PythonではじめるKaggleスタートブック ● Pythonで動かして学ぶ! Kaggleデータ分析入門 ● Kaggleコンペティション チャレンジブック ● Kaggle Grandmasterに学ぶ 機械学習 実践アプローチ ● データサイエンスの森 Kaggleの歩き方 ● kaggleで上位に入るための探索的データ解析入門

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石原が関わった書籍(2020, 2021) 32 https://book.mynavi.jp/ec/ products/detail/id=123641 https://www.kspub.co.jp/b ook/detail/5190067.html

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2022 年秋、講談社より刊行予定 33 ● テーマ:深層学習を用いた画像分類・画像検索・文章分類 ● 著者 4 名での共著 ○ Kaggle 全般・近年の潮流・頻出手法 など <= 石原 https://www.kaggle.com/sishihara ○ 実践:画像分類 <= iwiwi さん https://www.kaggle.com/takiba ○ 実践:画像検索 <= Kohei さん https://www.kaggle.com/confirm ○ 実践:文章分類 <= flowlight さん https://www.kaggle.com/flowlight ● 詳細が固まり次第告知 https://twitter.com/kspub_kodansha

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まとめ 34 ● Kaggleでの出題傾向の変化 ● よりよい競争環境のための創意工夫 ● 日本国内での動向