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「流動小説」の実験について / On the Experiments of “Fluid No...

Takashi Ogata
December 29, 2023
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「流動小説」の実験について / On the Experiments of “Fluid Novels”

人工知能学会・第2種研究会: ことば工学研究会. 第73回ことば工学研究会
発表資料

Takashi Ogata

December 29, 2023
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Transcript

  1. 「流動小説」の実験について On the Experiments of “Fluid Novels” 小方孝 (Takashi Ogata)

    岩手県立大学ソフトウェア情報学部 小野淳平 (Jumpei Ono) 青森大学ソフトウェア情報学部
  2. 論文掲載参考文献リスト(本のみ) • Takashi Ogata (2019). Toward an Integrated Approach to

    Narrative Generation: Emerging Research and Opportunities. Hershey, PA, USA: IGI Global. • Takashi Ogata (2020). Internal and External Narrative Generation Based on Post-Narratology: Emerging Research and Opportunities. Hershey, PA, USA: IGI Global. • 小方孝 編 (2021). 『ポストナラトロジーの諸相―人工知能の時代のナラトロジーに向けて1―』. 新曜社. • 小方孝 (2022). 『物語生成のポストナラトロジー―人工知能の時代のナラトロジーに向けて2―』. • 小方孝 (2023). 『物語戦としてのロシア・ウクライナ戦争―物語生成のポストナラトロジーの一展 開―』. 新曜社. • 小方孝・金井明人 (2010).『物語論の情報学序説―物語生成の思想と技術を巡って―』.学文社. • 小方孝・川村洋次・金井明人 (2018). 『情報物語論―人工知能・認知・社会過程と物語生成―』. 白 桃書房. • 吉田雅明 編著, 小野﨑保・嶋根克己・矢澤清明・小方孝・金子洋之・柳田達雄・高萩栄一郎 著 (2003).『複雑系社会理論の新地平』.専修大学出版局.
  3. 表現行為 • また、人間にとって、表現という行為も、一般的に、重要なものとして位置付けられて いる。 • 人間は様々な表現行為に携わる。 • 小説や物語を制作するという行為は、人間の表現行為の中の代表的なものの一つである。 • 小説や物語の制作は、人間の個人幻想を表白するための重要な作業である。

    • しかし、それはノンフィクション(非‐虚構)としての日記や自叙伝等の制作とは、異 なる性格を持っている。 • もし、自分や私というものを、素直に、全面的に表現しようとするなら、人は日記や様々なタイプ の自伝的な記述を用いるであろう。 • 小説も、時にその種のものと見做されることがあるが、しかし、日記や自伝的な各種文 章とは異なる性格を持っている。
  4. 私の小説/物語における、私性‐非‐私 性、非‐虚構性‐虚構性 • そこで、私性の追求の中に、「非‐私性」を、如何にして紛れ込ませるか、とい うことに興味を持つことになる。 • この非‐私性は、虚構性というものと関連している。 • 私は、小説/物語を通じて、非‐私性に基づく虚構の世界を構築したいと思って いる。

    • しかしもう一方で、虚構の世界の中に、あるいはそれとの関係において、私にお ける私性と強く結び付いた、非‐虚構の世界を設けたいとも考えている。 • 物語生成システムや、後述する「暗号化小説」の概念は、小説/物語における私 性を非‐私的にし、非‐虚構性を虚構化するための、道具である、と定義するこ とが出来る。
  5. 3.「流動と固定」のコンセプト • 「流動と固定」は、物語生成という現象全般を貫く概念もしくは概念対で あると同時に、物語の制作や物語それ自体を特徴付ける概念でもある。 • 単体としての小説/物語は、流動的性格と固定的性格との双方を持つ。 • すなわち、ある小説/物語は、書かれ・制作され、発表・公表されるが、一旦書か れたものが再び直され、訂正され、また一旦発表されたものが、直されてまた発表 される等、必ず流動的な性格を持つ。

    • 小説/物語における流動的性格は、仮に作者自身が死んでしまったとして も、なお完全には停止されることはない。 • しかしながら、あるいは同時に、小説/物語は、例えば、書かれ終わった 時点で、発表された時点で、一旦固定的な性格を持つことになる。 • 我々は、ある小説/物語を、この流動‐固定の間の運動として、見ること が出来る。
  6. 流動‐固定の相互運動 • 流動‐固定の相互運動は、どんな小説/物語においても見られる、 普遍的な運動である。 • しかし、これを謂わば操作的な観点から眺めることも出来る。 • すなわち、物語生成システム等の技術的機構を利用することによっ て、これを操作的に利用することが、出来るようになる。 •

    例えば、一旦出来上がった、すなわち固定化された小説/物語の中に、物語 生成システム乃至それと関連する機構を挿入しておくことによって、これを、 流動化の機構を内在化させた小説/物語とすることが、出来るようになる。 • 表面的なイメージでは、読者によって、あるいは使用の時々に、表層的な言 語表現が変ってしまう小説/物語を作ることも可能である。
  7. 3.小説/物語における形式と内容―物 語/小説の構成要素― • 人工物としての小説/物語は、内容的要素と形式的要素とから、 構成されている。 • ここで内容的要素とは、総体としてストーリーと呼ばれるもの である。 • ストーリーの中には、話の筋、その筋の中に現れる登場人物、事物、

    時間的要素や空間的要素等の、すべてが含まれる。 • 一方形式的要素は、内容的要素の具体的な表現に関わるすべて の要素を含み、多岐にわたるが、大きく二つのグループに分け ることが出来る。
  8. 形式的要素における第一グループ • 一つのグループは、物語の内容すなわちストーリーを表現するための、具 体的な言説構造である。 • 例えば、「筋」と呼ばれるものもこの中には含まれる。 • 但し、この場合の筋は、ストーリーの場合の筋とは、異なる。 • ストーリーの場合の筋は、時間順に進行する出来事の順番である。

    • 一方、形式的要素という意味での物語の筋とは、その時間的に順序付けられた出来 事群を、どのような順序で語るのか、という意味での筋である。 • この二つは明確に異なる。 • 例えば、[E1‐E2‐E3]という順序で展開されるストーリーにおける出来事が、 [E3‐E1‐E2‐E3]という順序で語られることがある。あるいは可能である。 • この意味での、すなわち形式的要素としての筋のことを、しばしばプロットと呼び、 ストーリーと区別する。 • このグループ、すなわち言説構造の中には、このプロットの他にも、様々 な方法が含まれ、総合的に、抽象的なものであるストーリーを超えて、物 語を具体化するのに貢献する。
  9. 形式的要素における第二グループ • 他方、小説/物語における形式的要素における第二のグループは、より表 層的な、謂わば則物的な表現そのものに関わるレベルを意味する。 • ここで注意しなければならないのは、広く「物語」と言う場合、その表現媒体(メ ディア)は、言語に限定されない、ということである。 • しかしここでは、「小説/物語」という表現を使うことによって、対象が 言語による物語である、という制約を掛けている。

    • 従って、ここで言う表現メディアは言語であり、従って形式的要素の第二 のグループは、小説/物語の言語表現そのものを具体的に実現するレベル における、そのような意味での言説、ということを意味している。 • その中には、漢字をどの程度使うのか、改行はどの程度行うのか、一文の長さは長 いのか短いのか、といった、極めて具体的な要素が含まれる。
  10. 物語の素材 • さて、このような意味での小説/物語における内容的要素と形式的要素とを、一 般論としてではなく、あくまで私自身の制作対象としての小説/物語の問題とし て考える時、まず、「物語の素材」という問題が浮かび上がる。 • 上述の物語内容すなわちストーリーの説明は、作られた小説/物語という観点からの論 述であったが、それを制作するプロセスに焦点を当てた場合、「素材」というレベルが よりはっきりと浮かび上がる。 •

    そしてこの素材を巡る問題は、前述した、物語における私性/非‐私性、非‐虚 構性/虚構性、という二組の軸と密接な関連を持つ。 • 素材を、私性が強く、非‐虚構性が強いものを中心に用意する、という一つの方 向があり得る。 • 逆に、非‐私性が強く、虚構性が強いものを中心に準備する、という方向もある。
  11. 私の小説/物語における素材 • では実際に、私自身が小説/物語との関連で、具体的にどのように考えて いるかと言えば―双方の視点から素材を集める、という風に考えている。 • 私性や、非‐虚構性が強い素材を集め、これに基づいて小説/物語を作れ ば、それは「私小説」(的な小説/物語)に近付く。 • それに加えて、非‐私性や虚構性が強い素材をも等分に集め、利用して小 説/物語を制作するとすれば、私小説的な要素を含みながらも、それを超

    えた小説/物語が出来上がる可能性が高くなる。 • 私はその種の小説/物語、すなわち非‐私性や虚構性に基づく素材と、私 性と非‐虚構性に基づく素材とを、意識的に等分に集めることで、構成さ れた小説/物語のことを、「全体小説」という言葉で呼んでいる。 • すなわち、物語の内容という点からは、私が目指す小説/物語は、私小説 的な要素を内在させた全体小説である、ということになる。
  12. 私の小説/物語における形式的要素 • それでは、もう一方の形式的要素に関しては、どのように考えているのか? • まだ物語の内容に関してのように明確には説明出来ないが、一つ言えるのは、多 様性を目指す、ということである。 • これは、言説構造のレベルから言語の表層表現のレベルにわたって、多様な技法を利用 することをコンセプトとする、ということを意味している。 •

    しかしそこにも一定の「戦略」や方針は必要である。 • それについて確定的に言うことがまだ出来ないが、前述した流動と固定の考え方をそこ に導入したら、面白いのではないかと考えている。 • 例えば、一つの小説/物語について、あるいはその制作過程において、流動的に、小説/物語におけ る言説構造や言語表現の実験を行う。 • そして最終的に、何らかの機構を通じて、その固定化を図る。そんな制作過程を想定することが出来 るだろう。
  13. 4.流動小説の第一次実験 • 以上のような諸概念による小説/物語の一つの制作実験として、現在『無 題』と題する小説/物語作品を制作・発表する、実験を試みている。 • それを、note(小方孝)のマガジン『流動小説集』に連続して発表し始めている。 • 第一段階では、歌舞伎のある物語の分析結果や、私自身の物語生成システ ムにおけるデータ構造、新聞記事等を利用して、小説/物語の雛形を、現 在私自身が執筆している。

    • 現在、三分の一から四分の一程度の執筆が終わっている。 • 第二段階において、執筆が終わった部分ごとに、「暗号化」と呼んでいる 機構によって、元の文章や言語の表現を部分的に書き替えている。 • その際、一定の方法を統一的に使用しているのではなく、部分ごとに方法を少しず つ変えて試みている。
  14. 暗号化 • なお、「暗号化」とは、小説/物語における、私性を、非‐私性の方へ移 行させるための、一つの方法である。 • 小説/物語というものを私が書きたいと思う理由の一つは、その中に、人 には言えないような、また現実社会の中では実行出来ないような、そんな 忌まわしいことを、どうしても表現したい欲求に駆られることである。 • 例えば、誰かを殺したい・殴りたい・篠田英朗(東京外国語大学教授)流に言えば

    「快楽殺人」に耽りたい、といった欲望、論理では到底勝ち目のない相手にどうに かして復讐してやりたいといった願望、勝ち誇ったような差別発言に対して鉄槌を 下してやりたい気分、等々どれだけあるのか見当も付かない程の、自分自身の中の ネガティブな、あるいは論理的に説明することの出来ない類の、感情・願望・欲 望・欲求の類を、小説/物語の中で、全面開放してみたい、ということが、小説/ 物語というものを書く、私自身の一つの理由、動機となっている。
  15. 5.小説/物語の内容的素材としての、社会 的現象を対象とする日本の物語戦について― 直近の一事例― • 新曜社から今年の九月に発刊した、『物語戦としてのロシア・ウクライナ 戦争』 (小方, 2023)という本の中にはっきりと書いておいたが、私がこの 本で扱った類の、日本の論者達の「物語戦」を扱ったのは、それを私自身 の小説/物語のための、社会的なレベルにおける物語内容のための素材と

    して利用することを意図してのことであった。 • 上記の本における「社会的現象」とは、ロシア・ウクライナ戦争そのもの と言うより、それを巡る日本における言論空間内での出来事であったが、 物語戦という概念はより普遍的なものである。 • 例えば現在も、ネット空間上で、イスラエル・ハマス戦争乃至イスラエ ル・ガザ戦争の文脈において、言論人の間で物語戦が展開されている。
  16. 飯山 vs. 池内 • 以上のような思想を踏まえて、飯山と池内の物語戦について考 え、一つの解釈を与えてみる。 • 私が、飯山の文章(X: https://twitter.com/iiyamaakari; note:

    https://note.com/iiyamaakari)や映像資料(YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCtmYmradB7A9J7oyU- TCn4w)から読み取ったのは、飯山が、池内の放つ様々な侮蔑 的・差別的な言葉から、侮辱や、権威的な威圧を感じ、その感 覚(感情)から池内に対する反論を行っている、という構図で あった。
  17. 共同幻想論と池内の論理(1) • このような池内の論理は、典型的な「男の論理」である。 • すなわち、共同幻想と個人幻想、対幻想の価値的階層性を信じる論理である。 • 簡単に言えば、「俺は、社会のため、組織のため、正しい制度のために戦っているのだ。 • だから、多少の言葉使いの粗さや、侮蔑的・差別的表現などは、些細なものとして免責 されるべきだ。

    • 寧ろ、理想を目指す俺(俺達)の行動を邪魔立てするゴミのような輩を始末することこ そが、より崇高な大義の観点から、正当化されるべきなのだ。 • 俺は今、偉大な社会的使命を果たそうとしているからだ。」という、明らかな一つの思 想である。 • 『罪と罰』のラスコーリニコフ、共産主義の理想に燃えたその創始者達、等々と同じ精 神構造だ。 • 何よりもそれは、共同幻想論の思索を通じて、吉本らが、徹底的に批判した精神構造で ある。
  18. 社会科学と評論家 • 社会科学系の研究者達との共著 (吉田, 2023)を編む際も、このよう な議論をした覚えがある。 • 吉田雅明 編著, 小野﨑保・嶋根克己・矢澤清明・小方孝・金子洋之・柳田達

    雄・高萩栄一郎 著 (2003).『複雑系社会理論の新地平』.専修大学出版局. • 原理的に存在することが当然である、分析主体における思想や意見 を、可能な限り客観的に意識化・明示化出来ることが、社会科学に おける優れた研究者の条件となる、と私は考えている。 • そのような側面を、評論家・思想家という言葉で呼んだのである。