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「流動小説」の実験について / On the Experiments of “Fluid No...
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Takashi Ogata
December 29, 2023
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「流動小説」の実験について / On the Experiments of “Fluid Novels”
人工知能学会・第2種研究会: ことば工学研究会. 第73回ことば工学研究会
発表資料
Takashi Ogata
December 29, 2023
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Transcript
「流動小説」の実験について On the Experiments of “Fluid Novels” 小方孝 (Takashi Ogata)
岩手県立大学ソフトウェア情報学部 小野淳平 (Jumpei Ono) 青森大学ソフトウェア情報学部
1.まえがき • ここで言う流動小説において、私は人間による制作と物語生成システムによる生成とを 結合し、最終的に「固定された」小説―物語コンテンツ―を完成することを狙っている。 • 本稿では、この流動小説の実験について紹介するが、その前提として、幾つかの概念や 方法に関して議論する。具体的には、 ①物語生成システムと人間(私)の物語/小説―非‐虚構性/虚構性、私性/非‐私性、 ②流動と固定の概念、 ③小説/物語における形式と内容と物語/小説の構成要素について議論し、さらに、
④小説/物語の内容的素材としての社会的現象を対象とする日本の物語戦を、直近の一事 例―中東問題に関する民間の研究者・評論家の飯山陽と、東京大学先端科学技術研究セン ター教授で中東問題の研究者である池内恵との論争―を素材に論じる。
新人作家「候補者」としてnoteに参入 • 流動小説集|小方 孝(Takashi Ogata)|note
参考文献 • なお、以下の考察の多くは、これまで私が発表して来た様々な 文献に基づいており、それらの大部分は公的なデータベース等 で検索し、容易に入手することが出来る。 • また、私の物語生成システムの概念から技術までを体系的・包 括的に網羅した論考は、何冊かの本の中に集成されている。こ れらも容易に入手出来る。 •
その一部を参考文献として紹介する(小方・金井, 2010; 小方・ 川村・金井, 2018; 小方, 2021, 2022, 2023; Ogata, 2019, 2020)。
論文掲載参考文献リスト(本のみ) • Takashi Ogata (2019). Toward an Integrated Approach to
Narrative Generation: Emerging Research and Opportunities. Hershey, PA, USA: IGI Global. • Takashi Ogata (2020). Internal and External Narrative Generation Based on Post-Narratology: Emerging Research and Opportunities. Hershey, PA, USA: IGI Global. • 小方孝 編 (2021). 『ポストナラトロジーの諸相―人工知能の時代のナラトロジーに向けて1―』. 新曜社. • 小方孝 (2022). 『物語生成のポストナラトロジー―人工知能の時代のナラトロジーに向けて2―』. • 小方孝 (2023). 『物語戦としてのロシア・ウクライナ戦争―物語生成のポストナラトロジーの一展 開―』. 新曜社. • 小方孝・金井明人 (2010).『物語論の情報学序説―物語生成の思想と技術を巡って―』.学文社. • 小方孝・川村洋次・金井明人 (2018). 『情報物語論―人工知能・認知・社会過程と物語生成―』. 白 桃書房. • 吉田雅明 編著, 小野﨑保・嶋根克己・矢澤清明・小方孝・金子洋之・柳田達雄・高萩栄一郎 著 (2003).『複雑系社会理論の新地平』.専修大学出版局.
2.物語生成システムと人間(私)の物語/ 小説―非‐虚構性/虚構性、私性/非‐私性 • 人間にとって「自分・私」というのは特権的な存在である。 • それが自分にとって、あるいは他者にとって、どんな意味や価 値を持っているのかに拘らず、多くの人間は自分や私という存 在を、その存在全体のかなり中核的なものとして、位置付けて いる。
表現行為 • また、人間にとって、表現という行為も、一般的に、重要なものとして位置付けられて いる。 • 人間は様々な表現行為に携わる。 • 小説や物語を制作するという行為は、人間の表現行為の中の代表的なものの一つである。 • 小説や物語の制作は、人間の個人幻想を表白するための重要な作業である。
• しかし、それはノンフィクション(非‐虚構)としての日記や自叙伝等の制作とは、異 なる性格を持っている。 • もし、自分や私というものを、素直に、全面的に表現しようとするなら、人は日記や様々なタイプ の自伝的な記述を用いるであろう。 • 小説も、時にその種のものと見做されることがあるが、しかし、日記や自伝的な各種文 章とは異なる性格を持っている。
小説/物語 • まず、小説や物語は、虚構性を強く持つ表現タイプである。 • それはまた、「私」をそのまま、直接的に表現するためのジャ ンルでもない。 • 同時に、小説/物語、特にその中の小説的要素は、自分/私と いう存在と切り離されては存在し得ない。 •
小説/物語は、「虚構性/非-虚構性」と、「非-私性/私性」 という、二つの概念対において、それぞれの中間的な位置を占 めるという、特有の性格を持っている。
私の小説/物語 • ここまでは、小説/物語の一般の論述であったが、これから、それ を巡る、私自身のスタンスに基づく論述に移行しよう。 • ここで言う「私性」を、私を表現したいという欲求だと解釈すれば、 小説/物語は、私にとって、私性を強く持った表現ジャンルである。 • 私は、小説/物語を通じて、私における私性をとことん表現してみ たいと思っている。
• しかし、私性の追求だけを行なえば、表現物の結構は破壊されてし まう、という予想をも、私は同時に持っている。
私の小説/物語における、私性‐非‐私 性、非‐虚構性‐虚構性 • そこで、私性の追求の中に、「非‐私性」を、如何にして紛れ込ませるか、とい うことに興味を持つことになる。 • この非‐私性は、虚構性というものと関連している。 • 私は、小説/物語を通じて、非‐私性に基づく虚構の世界を構築したいと思って いる。
• しかしもう一方で、虚構の世界の中に、あるいはそれとの関係において、私にお ける私性と強く結び付いた、非‐虚構の世界を設けたいとも考えている。 • 物語生成システムや、後述する「暗号化小説」の概念は、小説/物語における私 性を非‐私的にし、非‐虚構性を虚構化するための、道具である、と定義するこ とが出来る。
3.「流動と固定」のコンセプト • 「流動と固定」は、物語生成という現象全般を貫く概念もしくは概念対で あると同時に、物語の制作や物語それ自体を特徴付ける概念でもある。 • 単体としての小説/物語は、流動的性格と固定的性格との双方を持つ。 • すなわち、ある小説/物語は、書かれ・制作され、発表・公表されるが、一旦書か れたものが再び直され、訂正され、また一旦発表されたものが、直されてまた発表 される等、必ず流動的な性格を持つ。
• 小説/物語における流動的性格は、仮に作者自身が死んでしまったとして も、なお完全には停止されることはない。 • しかしながら、あるいは同時に、小説/物語は、例えば、書かれ終わった 時点で、発表された時点で、一旦固定的な性格を持つことになる。 • 我々は、ある小説/物語を、この流動‐固定の間の運動として、見ること が出来る。
流動‐固定の相互運動 • 流動‐固定の相互運動は、どんな小説/物語においても見られる、 普遍的な運動である。 • しかし、これを謂わば操作的な観点から眺めることも出来る。 • すなわち、物語生成システム等の技術的機構を利用することによっ て、これを操作的に利用することが、出来るようになる。 •
例えば、一旦出来上がった、すなわち固定化された小説/物語の中に、物語 生成システム乃至それと関連する機構を挿入しておくことによって、これを、 流動化の機構を内在化させた小説/物語とすることが、出来るようになる。 • 表面的なイメージでは、読者によって、あるいは使用の時々に、表層的な言 語表現が変ってしまう小説/物語を作ることも可能である。
物語生成システム等の技術的機構 • 物語生成システムやそれと関連した技術的機構は、制作されたあるいは制作され ている小説/物語における、私性を非‐私性とつなぎ、あるいは私性の中に非‐ 私性を導入し、またその非‐虚構性を虚構性と接続するための機構として機能す る。 • また、小説/物語における固定性を流動化するための機構としても、機能する。 • すなわち、物語生成システムやそれと関連した技術は、私性/非‐私性、非‐虚
構性/虚構性、固定性/流動性の、それぞれの軸における操作を行うと共に、そ れらの多様な諸関係を作り出すことによって、小説/物語の制作や、制作された 小説/物語そのものにおける、様々な変化を作り出すことが出来るのである。
3.小説/物語における形式と内容―物 語/小説の構成要素― • 人工物としての小説/物語は、内容的要素と形式的要素とから、 構成されている。 • ここで内容的要素とは、総体としてストーリーと呼ばれるもの である。 • ストーリーの中には、話の筋、その筋の中に現れる登場人物、事物、
時間的要素や空間的要素等の、すべてが含まれる。 • 一方形式的要素は、内容的要素の具体的な表現に関わるすべて の要素を含み、多岐にわたるが、大きく二つのグループに分け ることが出来る。
形式的要素における第一グループ • 一つのグループは、物語の内容すなわちストーリーを表現するための、具 体的な言説構造である。 • 例えば、「筋」と呼ばれるものもこの中には含まれる。 • 但し、この場合の筋は、ストーリーの場合の筋とは、異なる。 • ストーリーの場合の筋は、時間順に進行する出来事の順番である。
• 一方、形式的要素という意味での物語の筋とは、その時間的に順序付けられた出来 事群を、どのような順序で語るのか、という意味での筋である。 • この二つは明確に異なる。 • 例えば、[E1‐E2‐E3]という順序で展開されるストーリーにおける出来事が、 [E3‐E1‐E2‐E3]という順序で語られることがある。あるいは可能である。 • この意味での、すなわち形式的要素としての筋のことを、しばしばプロットと呼び、 ストーリーと区別する。 • このグループ、すなわち言説構造の中には、このプロットの他にも、様々 な方法が含まれ、総合的に、抽象的なものであるストーリーを超えて、物 語を具体化するのに貢献する。
形式的要素における第二グループ • 他方、小説/物語における形式的要素における第二のグループは、より表 層的な、謂わば則物的な表現そのものに関わるレベルを意味する。 • ここで注意しなければならないのは、広く「物語」と言う場合、その表現媒体(メ ディア)は、言語に限定されない、ということである。 • しかしここでは、「小説/物語」という表現を使うことによって、対象が 言語による物語である、という制約を掛けている。
• 従って、ここで言う表現メディアは言語であり、従って形式的要素の第二 のグループは、小説/物語の言語表現そのものを具体的に実現するレベル における、そのような意味での言説、ということを意味している。 • その中には、漢字をどの程度使うのか、改行はどの程度行うのか、一文の長さは長 いのか短いのか、といった、極めて具体的な要素が含まれる。
物語の素材 • さて、このような意味での小説/物語における内容的要素と形式的要素とを、一 般論としてではなく、あくまで私自身の制作対象としての小説/物語の問題とし て考える時、まず、「物語の素材」という問題が浮かび上がる。 • 上述の物語内容すなわちストーリーの説明は、作られた小説/物語という観点からの論 述であったが、それを制作するプロセスに焦点を当てた場合、「素材」というレベルが よりはっきりと浮かび上がる。 •
そしてこの素材を巡る問題は、前述した、物語における私性/非‐私性、非‐虚 構性/虚構性、という二組の軸と密接な関連を持つ。 • 素材を、私性が強く、非‐虚構性が強いものを中心に用意する、という一つの方 向があり得る。 • 逆に、非‐私性が強く、虚構性が強いものを中心に準備する、という方向もある。
私の小説/物語における素材 • では実際に、私自身が小説/物語との関連で、具体的にどのように考えて いるかと言えば―双方の視点から素材を集める、という風に考えている。 • 私性や、非‐虚構性が強い素材を集め、これに基づいて小説/物語を作れ ば、それは「私小説」(的な小説/物語)に近付く。 • それに加えて、非‐私性や虚構性が強い素材をも等分に集め、利用して小 説/物語を制作するとすれば、私小説的な要素を含みながらも、それを超
えた小説/物語が出来上がる可能性が高くなる。 • 私はその種の小説/物語、すなわち非‐私性や虚構性に基づく素材と、私 性と非‐虚構性に基づく素材とを、意識的に等分に集めることで、構成さ れた小説/物語のことを、「全体小説」という言葉で呼んでいる。 • すなわち、物語の内容という点からは、私が目指す小説/物語は、私小説 的な要素を内在させた全体小説である、ということになる。
私の小説/物語における形式的要素 • それでは、もう一方の形式的要素に関しては、どのように考えているのか? • まだ物語の内容に関してのように明確には説明出来ないが、一つ言えるのは、多 様性を目指す、ということである。 • これは、言説構造のレベルから言語の表層表現のレベルにわたって、多様な技法を利用 することをコンセプトとする、ということを意味している。 •
しかしそこにも一定の「戦略」や方針は必要である。 • それについて確定的に言うことがまだ出来ないが、前述した流動と固定の考え方をそこ に導入したら、面白いのではないかと考えている。 • 例えば、一つの小説/物語について、あるいはその制作過程において、流動的に、小説/物語におけ る言説構造や言語表現の実験を行う。 • そして最終的に、何らかの機構を通じて、その固定化を図る。そんな制作過程を想定することが出来 るだろう。
4.流動小説の第一次実験 • 以上のような諸概念による小説/物語の一つの制作実験として、現在『無 題』と題する小説/物語作品を制作・発表する、実験を試みている。 • それを、note(小方孝)のマガジン『流動小説集』に連続して発表し始めている。 • 第一段階では、歌舞伎のある物語の分析結果や、私自身の物語生成システ ムにおけるデータ構造、新聞記事等を利用して、小説/物語の雛形を、現 在私自身が執筆している。
• 現在、三分の一から四分の一程度の執筆が終わっている。 • 第二段階において、執筆が終わった部分ごとに、「暗号化」と呼んでいる 機構によって、元の文章や言語の表現を部分的に書き替えている。 • その際、一定の方法を統一的に使用しているのではなく、部分ごとに方法を少しず つ変えて試みている。
これまでの具体的方法 • 今まで使用した具体的な方法には、名詞の変換、動詞の変換、語尾 の変換、単文化、複文化等が含まれる。 • 名詞や動詞の変換のためには、私自身が開発した、統合物語生成シ ステムにおける概念辞書を利用しているが、その際、変換される名 詞や動詞の類似度の計算と操作も行っている。 • また、元の文章における同じ名詞や動詞は同じ名詞に変換する方法
と、異なる名詞や動詞に変換する方法との、両者を併用している。 • 今後、この暗号化のためには、より多くの方法の使用を試みて行く 予定である。
暗号化 • なお、「暗号化」とは、小説/物語における、私性を、非‐私性の方へ移 行させるための、一つの方法である。 • 小説/物語というものを私が書きたいと思う理由の一つは、その中に、人 には言えないような、また現実社会の中では実行出来ないような、そんな 忌まわしいことを、どうしても表現したい欲求に駆られることである。 • 例えば、誰かを殺したい・殴りたい・篠田英朗(東京外国語大学教授)流に言えば
「快楽殺人」に耽りたい、といった欲望、論理では到底勝ち目のない相手にどうに かして復讐してやりたいといった願望、勝ち誇ったような差別発言に対して鉄槌を 下してやりたい気分、等々どれだけあるのか見当も付かない程の、自分自身の中の ネガティブな、あるいは論理的に説明することの出来ない類の、感情・願望・欲 望・欲求の類を、小説/物語の中で、全面開放してみたい、ということが、小説/ 物語というものを書く、私自身の一つの理由、動機となっている。
暗号化小説 • しかし、それをそのまま発表してしまえば、いろいろな意味で差し支えがある。 • 少なくとも、私が生きている間は、あるいはどうでも良くなるまでの間は、何と か隠しておきたい。 • そして何処かに隠しておいた鍵(キー)を、何かのタイミングで使用可能とする ことによって、差し支えがなくなった時期に、忌まわしい小説/物語の元の文章 を、全面公開してやりたい。
• 私は、このような意味で暗号化された小説/物語を、「暗号化小説」と呼んでい るのである。
例―noteに漸次投稿 • 文章:流動小説集|小方 孝(Takashi Ogata)|note • 朗読:物語朗読ロボット―AI/人間による流動小説集・ロボッ ト朗読版|小方 孝(Takashi Ogata)|note
以下は、物語戦に関する、直 近の事例による思索・第一段 第一段目の仮説的考察 これから進めることの準備
5.小説/物語の内容的素材としての、社会 的現象を対象とする日本の物語戦について― 直近の一事例― • 新曜社から今年の九月に発刊した、『物語戦としてのロシア・ウクライナ 戦争』 (小方, 2023)という本の中にはっきりと書いておいたが、私がこの 本で扱った類の、日本の論者達の「物語戦」を扱ったのは、それを私自身 の小説/物語のための、社会的なレベルにおける物語内容のための素材と
して利用することを意図してのことであった。 • 上記の本における「社会的現象」とは、ロシア・ウクライナ戦争そのもの と言うより、それを巡る日本における言論空間内での出来事であったが、 物語戦という概念はより普遍的なものである。 • 例えば現在も、ネット空間上で、イスラエル・ハマス戦争乃至イスラエ ル・ガザ戦争の文脈において、言論人の間で物語戦が展開されている。
現在の日本の言説レベルにおける物語戦 • 例えば、在野の中東問題研究者・評論家の飯山陽氏と、東京大学先端科学技術研 究センター教授で中東問題研究者の池内恵氏との間で、論戦が闘わされている。 • (以下、「氏」は省略する。) • その経緯については、上記の書物の中で、私が橋下徹のツイッター記事について の論評を書く際に行ったような、詳細な分析が必要となるので、ここでは省略す る。
• その代わりここでは、この物語戦に関する私自身の一つの解釈を、私の小説/物 語の物語内容の素材に関する考え方との関わりにおいて述べるに留める。
共同幻想論のポイント • 吉本隆明の共同幻想論という思想がある。 • 「共同幻想」の側面のみが雰囲気的に扱われることが多いが、 その諸作品を読んでいると、何が重要なのかが分かる。 • この思想のポイントは、人間の幻想領域には、共同幻想、対幻 想、個人幻想の三つがあり、一見、共同幻想がその他の幻想領 域を包含するように見えるが、実際はそうではなく、三者はそ
れぞれ相対的に独立した幻想領域として、固有の価値を持って いる、ということである。
共同幻想論における「転向」の捉え方 • 特に、例えば戦争状況のような、共同幻想性の力がより勝るよ うな状況において、対幻想や個人幻想に、対等の価値を認める ところに、思想提案者としての吉本の力点があった。 • この考えに基づけば、例えば、個人幻想や対幻想を重視する立 場からの「転向」という精神的現象は、通常は、転向者におけ る共同幻想性からの「落伍」として見られるが、吉本はそうし た観点からの転向者への批判を行うことはしない。
• 寧ろ、観念的な思想という抽象性から大衆的な具体性への「落 下」、というこの現象の中に、ある積極的な価値を認める。
私性、共同性 • 私性は、共同性と同等の価値を持つことが出来、ある場合には 私性が共同性を包含していても良い。 • あるいは、上記池内がXのポストを通じて (https://twitter.com/chutoislam/)、「低能」・「ネトウヨ」 等々と蔑視し続けている「大衆的」存在の私性は、必ずしも、 池内によって意識されているに違いないような、「劣性」とし てレッテル貼りされるようなものではない。
池内 • 池内は、ネット世界の中に現実の法制度的秩序、さらにはそれを超 えた危険な管理思想を持ち込み、それによって、「民主主義」(意 味不明)や、ネット世界の堕落・腐敗や、先進的な研究上の試行等 の、共同幻想的価値の守護者たることを自認し、その種の「価値の ある」自らの行動によって、常識的に見た場合の侮辱的な言葉や差 別的な言葉の数々を正当化しようとしている。 • それに賛同する仲間や参加者も存在する。
• すなわち、共同幻想至上主義的な世界観が、池内において、新しい 形で蘇っている状況を、我々は、ネットの世界の中に見ている。
飯山 vs. 池内 • 以上のような思想を踏まえて、飯山と池内の物語戦について考 え、一つの解釈を与えてみる。 • 私が、飯山の文章(X: https://twitter.com/iiyamaakari; note:
https://note.com/iiyamaakari)や映像資料(YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCtmYmradB7A9J7oyU- TCn4w)から読み取ったのは、飯山が、池内の放つ様々な侮蔑 的・差別的な言葉から、侮辱や、権威的な威圧を感じ、その感 覚(感情)から池内に対する反論を行っている、という構図で あった。
池内の「方法」(1) • それに対して池内の方は、明らかに侮蔑的で威圧的、しばしば極めて差別的な言 葉使いを、恐らく主観的には問題視していず(客観的にも一切謝っていない)、 問題の構図を、社会的なレベル(共同幻想的なレベル)に「引き上げて」(この 言葉に価値観は含まれていない)論じている。 • 仮に池内の側から、「飯山の関係者」がある党派的な塊として見えたとしても、 上記の資料からその経緯を丁寧に辿れば、もともと飯山の言説が、何らかの政党 や党派との関わりで発されたものではなかったことは明らかである。
• それにも拘わらず、池内は、飯山を政党や党派の存在と結び付け、自分と同等の 共同幻想の領域に引き上げて、対立の構図を明瞭化させようとしている。
池内の方法(2)―認知レベル • 「自分(私)」に関する論評、「自分(私)のグループ」(幾つ か)に対する論評に対する、「全否定」 • 否定すべき全対象者~集団的に捉え(分類し)、「ネトウヨ」(代表)とラ ベリング • いなご •
蛾 • 魚 • ユーチューバー • 狂乱 • 虚言 • 色ボケ • 老人 • 高齢者 • 素人 • etc.
池内のレトリック (ビジネスモデル) 分析例 誹謗中 傷・侮辱 表現・差 別表現 etc. 個々の(主に感情 的)反応・反発
対処する責任・法 制度化 etc.の主張 参加・応援
池内~対幻想の支配欲求 • さらに手が込んでいることに、池内は、飯山の個人的な劣性を、 抽象的なレベルで指摘・弾劾し続けるだけでなく、 • その家族という対幻想領域をも持ち出し、飯山を、(その家族 が)監禁するべきことを教唆している。
問題の位置付けの齟齬 • このように、飯山は、もともと、池内の侮辱的で差別的な言語表現、その 筆致に、個人幻想レベルで反発を感じ、それに対する何らかの形での正当 な「謝罪」を求めていた筈だ。 • しかし池内の方は、この問題を「社会問題化(共同幻想化)」することに よって、個人幻想レベルにおける謝罪や常識の問題をスキップ可能である と、信じているようだ。 •
この信仰が、無意識的なものなのか、意識的なものなのかは、不明である。 • さらに、飯山個人の劣性は、社会のみならず、家族によっても、対処され なければならないと、主張するに至っている。
共同幻想論と池内の論理(1) • このような池内の論理は、典型的な「男の論理」である。 • すなわち、共同幻想と個人幻想、対幻想の価値的階層性を信じる論理である。 • 簡単に言えば、「俺は、社会のため、組織のため、正しい制度のために戦っているのだ。 • だから、多少の言葉使いの粗さや、侮蔑的・差別的表現などは、些細なものとして免責 されるべきだ。
• 寧ろ、理想を目指す俺(俺達)の行動を邪魔立てするゴミのような輩を始末することこ そが、より崇高な大義の観点から、正当化されるべきなのだ。 • 俺は今、偉大な社会的使命を果たそうとしているからだ。」という、明らかな一つの思 想である。 • 『罪と罰』のラスコーリニコフ、共産主義の理想に燃えたその創始者達、等々と同じ精 神構造だ。 • 何よりもそれは、共同幻想論の思索を通じて、吉本らが、徹底的に批判した精神構造で ある。
共同幻想論と池内の論理(2) • Xに現れた池内の思想は、以上のような共同幻想至上の観点から、 個人幻想領域や対幻想領域を、単にそれに奉仕するものとして位置 付けるだけでなく、ある理想の共同幻想の実現という大義のために は、(自分もしくは自分達にとって(=「民主主義」社会にとっ て?))都合の悪い個人幻想や対幻想は、末梢・抹殺されてしかる べきだ、という風に展開されている。 • このような池内の思想は、民主主義社会を健全に発展させて行く上
で、極めて危険な思想である、というのが、私の評価である。
飯山に関する一解釈 • 飯山は、その思想的立場に立って、政権や研究者の中東問題への対応を批 判する言説を重ねているが、もしここで飯山の方が、意識して党派性に依 拠する言説に傾いてしまえば、池内(ら)の思う壺になってしまうだろう。 • 研究者としてだけでなく、評論家もしくは思想家としての立ち位置を確保 することで、池内らのような「専門家」―あるいは共同幻想傾向の勝った 言説に意識的・無意識的に依拠するイデオローグ達―にはない、在野・民 間の自立した研究者としてのあり方をこれから飯山が真に体現して行くこ
とが出来るかどうか、私にとっての今後の興味と期待はその辺にある。
評論家 • なお上で「評論家」という言葉を使った。 • 研究者の中には時に、「評論家」や「批評家」を蔑視している 者がいるが、私が用いるこの言葉の中には、その種のニュアン スは全く含まれていない。 • 寧ろ、自分の意見や思想を持ち、これによって対象の分析・論 評や、研究の意味の評価を行う存在のことを指して、評論家と
呼んでいる。
社会科学 • 私は最初の大学時代、社会科学を学んだ。 • 今は知らないが、その頃は「社会科学方法論」という科目が数 少ない必須教科となっていた。 • その授業で、自然科学とは違って、人間を扱う社会科学においては、 自然科学と同様の意味での客観性を措定することは、原理的に不可能 であることを、担当の教員は繰り返し論じていた(田村正勝助教授と
いう人だったように覚えている)。 • 社会科学においては、例えば、分析主体の中に、その意見や思 想を、如何に意識的に繰り込むか、ということが、極めて重要 な前提作業となるのだ。
社会科学と評論家 • 社会科学系の研究者達との共著 (吉田, 2023)を編む際も、このよう な議論をした覚えがある。 • 吉田雅明 編著, 小野﨑保・嶋根克己・矢澤清明・小方孝・金子洋之・柳田達
雄・高萩栄一郎 著 (2003).『複雑系社会理論の新地平』.専修大学出版局. • 原理的に存在することが当然である、分析主体における思想や意見 を、可能な限り客観的に意識化・明示化出来ることが、社会科学に おける優れた研究者の条件となる、と私は考えている。 • そのような側面を、評論家・思想家という言葉で呼んだのである。
6.あとがき • 5節の内容に関しては、一つの物語戦として、特に、大学教授側の 物語のイメージが徐々に浮かび上がりつつあり、上述した私の評価 に基づき、今後も観察・分析して行くことが必要である。 • ロシア・ウクライナ戦争時の橋下徹と同様、今回も何人かの人間像・思想像 が可視化されて来たことは、興味深い。 • 今後も、流動小説の執筆・制作の実験を続けて行く。
• 現段階で重要なのは、私の小説/物語の当面の固定化を目指して、 可能な方法を出来るだけ多く試みるという流動小説の試行錯誤を行 うことである。