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Women in Agile Tokyo2024 Keynote 個が輝く社会に向けて〜スポーツ界での挑戦〜

Women in Agile Tokyo2024 Keynote 個が輝く社会に向けて〜スポーツ界での挑戦〜

日本体育大学体育学部教授、博士(学術)、コーチングエクセレンスセンター長、伊藤 雅充氏によるキーノート資料です。
スポーツ業界での新しい指導者の形を模索し、アスリートセンタードコーチングという育成体系を作り普及されている伊藤先生のお話。
アスリートの半数は女性なのに公認指導者であるコーチは8%。そこにはスキル獲得機会の少なさ、固定観念によって生み出されたバイアス、ロールモデルの不足、男性優位な環境など、様々な問題があるそうです。私たち一人一人にもバイアスがあることを簡単なワークで体感させてもらいつつ、コーチングの可能性、コーチという存在の意義などにも深掘りしながら解説、盛りだくさんの1時間半の講演です。

動画はこちら
https://youtu.be/MChTkP1yHD8

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Transcript

  1. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 個が輝く社会に向けて 〜スポーツ界での挑戦〜

    伊藤雅充 ⽇本体育⼤学(コーチング学) NCDAディレクター [email protected] Women in Agile Tokyo 2024
  2. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 研究者と実践家としてのキャリア Øバイオメカニクス(特に筋-腱複合体)の研究とバレーボールのアナリスト活動

    Ø国際的なコーチデベロッパー(コーチのコーチ)を育成する • スポーツ庁委託事業スポーツアカデミー形成⽀援事業(NCDA)など Ø⽇本のスポーツコーチングの改善 • ⽇本スポーツ協会公認スポーツ指導者資格制度改訂、⽇本パラリンピック委員会強化本部コーチ部会⻑など Ø諸外国(特に開発途上国)のスポーツ開発を⽀援する • 東京パラ参加国最⼤化に向けたスポーツ庁委託事業戦略的⼆国間国際貢献事業(パラグアイなどの中南⽶諸 国・ザンビアなどのアフリカ諸国・ブータンなどのアジア諸国・バヌアツなどのオセアニア島しょ地域な ど)、シンガポール・マレーシアのコーチ育成システム開発⽀援など Ø⼥性のコーチを育成する • スポーツ庁委託事業アスリートの育成・⽀援プロジェクト⼥性エリートコーチ育成プログラムなど
  3. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 研究者と実践家としてのキャリア Øバイオメカニクス(特に筋-腱複合体)の研究とバレーボールのアナリスト活動

    Ø国際的なコーチデベロッパー(コーチのコーチ)を育成する • スポーツ庁委託事業スポーツアカデミー形成⽀援事業(NCDA)など Ø⽇本のスポーツコーチングの改善 • ⽇本スポーツ協会公認スポーツ指導者資格制度改訂、⽇本パラリンピック委員会強化本部コーチ部会⻑など Ø諸外国(特に開発途上国)のスポーツ開発を⽀援する • 東京パラ参加国最⼤化に向けたスポーツ庁委託事業戦略的⼆国間国際貢献事業(パラグアイなどの中南⽶諸 国・ザンビアなどのアフリカ諸国・ブータンなどのアジア諸国・バヌアツなどのオセアニア島しょ地域な ど)、シンガポール・マレーシアのコーチ育成システム開発⽀援など Ø⼥性のコーチを育成する • スポーツ庁委託事業アスリートの育成・⽀援プロジェクト⼥性エリートコーチ育成プログラムなど
  4. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 6カ国が東京パラリンピックで初出場 Supported

    by NEPP project St Vincent & Grenadines Bhutan Paraguay Guyana Grenada Maldives
  5. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan コーチデベロッパーとしての練習を⾏うCD候補者 観察役のCD候補者

    トレーナー コーチ役のCD候補者 2019年度のCD養成講習会の様⼦ (財)⽇本スポーツ協会公認スポーツ指導者資格制度 におけるコーチデベロッパーとコーチの育成 コーチデベロッパー マイクロコーチング (Tell-Sell-Ask-Delegate)
  6. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 研究者と実践家としてのキャリア Øバイオメカニクス(特に筋-腱複合体)の研究とバレーボールのアナリスト活動

    Ø国際的なコーチデベロッパー(コーチのコーチ)を育成する • スポーツ庁委託事業スポーツアカデミー形成⽀援事業(NCDA)など Ø⽇本のスポーツコーチングの改善 • ⽇本スポーツ協会公認スポーツ指導者資格制度改訂、⽇本パラリンピック委員会強化本部コーチ部会⻑など Ø諸外国(特に開発途上国)のスポーツ開発を⽀援する • 東京パラ参加国最⼤化に向けたスポーツ庁委託事業戦略的⼆国間国際貢献事業(パラグアイなどの中南⽶諸 国・ザンビアなどのアフリカ諸国・ブータンなどのアジア諸国・バヌアツなどのオセアニア島しょ地域な ど)、シンガポール・マレーシアのコーチ育成システム開発⽀援など Ø⼥性のコーチを育成する • スポーツ庁委託事業アスリートの育成・⽀援プロジェクト⼥性エリートコーチ育成プログラムなど
  7. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 考えてみましょう •

    ある朝、お⽗さんが仕事に⾏く際に息 ⼦を保育園に送り届けていました。 • 不幸にも交通事故にあってしまい、⼆ ⼈とも重傷です。 • 救急⾞で別々の救急病院に運ばれまし た。 • ⼦どもが運び込まれた病院で⼿術室で 外科医が⾔いました。 「この⼦は私の息⼦です」 • この外科医は、なぜ⾃分の息⼦だと ⾔ったのでしょうか︖
  8. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan ⽇本代表 開催年・地

    オリンピック パラリンピック 2008・北京 11.0% 21.9% 2012・ロンドン 11.6% 17.2% 2016・リオ 15.4% 20.0% 2021・東京 14.3% 24.2% 種類 割合 コーチ1 22.4% コーチ2 22.2% コーチ3 18.4% コーチ4 8.0% ⽇本スポーツ協会公認スポーツ指導者 ⼥性コーチの割合は圧倒的に低い︕ 内閣府男⼥共同参画局(2018)、スポーツ庁(2022)、⽇本スポーツ協会(2021)のデータをもとに作成
  9. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan なぜ⼥性コーチの育成・⽀援︖ nアスリートの視点から

    Øアスリートの半分は⼥性である • ⼥性アスリートの競技⼒向上 • ⼥性アスリートの幸福 Ø様々なリーダーシップのあり⽅とプレーヤーの選択肢 • アスリートの性別にかかわらず、アスリートが幸福なスポーツライフを経験するためには ⼥性コーチを選べるようにしておく必要がある nコーチの視点から Ø⼥性がコーチとしてのキャリアを歩みたくても実現できない障壁があるのであ ればそれを取り除くべきである • ロンドンオリンピックに参加した⼥性アスリートの6割以上が将来のキャリアに不安を感じ、 4割以上がコーチとしてのキャリアを考えている nスポーツの視点から Ø多様性が導くスポーツ界のイノベーションを期待
  10. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 何が問題︖ nコーチングスキル

    nジェンダー役割の固定観念によって⽣み出された思想的・構造的な障壁 • コーチ=監督者・統率者=男性というイメージ • ⼥性コーチに男性性と⼥性らしさの両⽅を求める⽭盾 nロールモデルの不⾜ • ⼥性アスリートの将来の選択肢としてコーチという発想が起こらない nオールドボーイズクラブ(男性社会) n個⼈的、組織的サポートの⽋如 • 家庭と仕事の時間的バランス • 同僚コーチから能⼒や権威を⽇常的に脅かされる • アスリートによる尊厳の⽋如 • 上司による能⼒の過⼩評価 • ⼥性コミュニティーによるメンタリングなどの⽀援⽋如
  11. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan どうすればよい︖ nロールモデル

    nオールドガールズクラブのような⾮公式ネットワークへのアクセス n男性コーチによる「ジェンダースポンサーシップ」 n組織による意図的な⼥性コーチの雇⽤ n家族に優しい環境の整備 n専⾨能⼒向上プログラム(⼥性対象)の実施 ⼥性活躍推進に向けた多様な取り組みが求められる
  12. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 公式学習 (研修会)

    Formal Learning オン・ザ・ジョブ・ トレーニング On-the-Job Training メンタリング Mentoring 実践 コミュニティー Community of Practice 2年間のプログラム スポーツ庁委託事業 ⼥性アスリートの育成・⽀援プロジェクト ⼥性エリートコーチ育成プログラム ブレンド型学習 Blended Learning
  13. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 女性エリートコーチ育成プログラム コンピテンシーチェック

    対象コーチ:◦◦◦◦ 領域 キーワード 発達段階 コンピテンシー 評価 エビデンス ビジョン と戦略の 設定 システム思 考スキル、 情報収集力、 情報分析力、 情報発信力、 ニーズ分析、 SWOT分析、 本質看取、 プランニン グ、KPI、 コミュニ ケーション スキル、ア ジャイル開 発スキル、 リーダー シップ、組 織マネジメ ント、経営、 コーチング 哲学、倫理 等 スタンダード 他者の意見を取り入れることができる。 P 研修会で他のコーチやスタッフらの意見をよく聞き、それらを取り入れた発言をしてい る。(◦◦ 2021/3/11) 他者の支援やツールを用いることで年間の戦略を可視化した形で示すこ とができる。 P オリンピック強化指定選手を対象としたインターナショナル合宿に参加する中で、多く の経験豊富なコーチの意見を聞く機会をつくることができ、オリンピック選考会に向け たビジョンと戦略を考えることができた。(◦◦) アドバンス アスリート個人、チーム、ステークホルダー、コーチ自身、それぞれの ニーズを反映したビジョンを設定し、ビジョン達成に向けた年間の戦略 を立案することができる。 C 所属先の選手に対して、年間計画を作成・実施している。第5回OJT報告では計画の立案 と実施は選手やスタッフとの共通認識のもと実践できるようにコミュニケーションを とっていることが確認できた(◦◦ 2021/9/14) ビジョンと戦略を簡潔かつ説得力のある方法で示し、チーム内の賛同を 得ることができる。 P 所属先において、チームの方向性を選手と共有するため定期的にミーティング等の話し 合う機会を設けている。また、目標設定や実際のトレーニング内容は選手に意見を聞き ながら共通認識を作りながら決めている。(◦◦2021/9/14) エリート 自身の指導現場を取り巻く全体像を把握し、個々のニーズを満たした包 括的なビジョンを設定するとともに、実現に向けた戦略を中長期的視点 から論理的かつ先見性をもって策定できる。 NYC 提出されたHPプロジェクト計画から、選手だけでなく、スタッフの課題にも触れ、全体 的な視点から現場を見るとともに、日常的なコーチング場面では個々の違いを大切にす るといったコーチング行動が観察された。ただ、HPプロジェクトが少々全体像に焦点が あたり、具体的な取組が見えづらいこと、エビデンスベースで議論を展開できるはずな のに、それが行えていないところを改善できるとよい(◦◦ 2021/12/16, 2022/02/20) ビジョンと戦略をチーム、ステークホルダーに浸透させ、共通の信念を 醸成することができる。 NA チームについては確認済み。ステークホルダーについては確認できていない (◦◦2022/03/21) イノベーター 動的かつ複雑で絶対解を見いだすことが困難な現代社会において、現在 の社会的通念を打ち破る挑戦的で明確なビジョンを持ち、そのビジョン を実現に結びつけるための明確かつ柔軟、本質的な課題にアプローチす る戦略の設定ができる。 NA 他者がそのビジョンと戦略へ賛同したくなってしまう影響力を有し、社 会におけるスポーツの意義や組織の存在価値を高めていくことができる。 その結果として、日本の国際競技力向上を牽引することができる。 NA 領域は①ビジョンと戦略の設定、②環境整備、③⼈間関係の構築、④練習の実施と試合への準備、⑤「現場」の理解と対応、⑥学習と内省、の6つ。 評価はP(Proficient), C (Competent), NYC (Not Yet Competent), NA (Not Available)を記⼊。 エビデンスには評価の根拠となる⾏動等とそれを確認した⼈、⽇付を記⼊する。 NAは確認する機会がない場合など NYCは「まだできていない」 C/Pは能⼒あり いつ、誰が、何を確認し、評価したのか コンピテンシーチェックシート(形成的評価)の⼀例
  14. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 問題は⼥性のスキルではない可能性が⾼い •

    多様性が組織のメリットとなるが、実際には多様性の実現は簡単で はない • 誰がリードするか︖ • 現在リーダーシップポジションにいる⼈ → 多くは男性 • ⼥性エリートコーチ育成プログラムの経験でも • ⼥性コーチの必要性を謳うリーダーがいなくなると、スキルの⾼い⼥性コー チが登⽤されなくなった事例 • 理解ある上司のもとで活動する⼥性コーチが、組織に多くの新しいアイデア を提供している事例 • 現在のプログラムでは競技団体とのコミュニケーションをより密にすること に注⼒している
  15. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan コーチングの定義 •

    ビジネス界でのコーチング ◦ 戦略的なコミュニケーションスキルのひとつ ◦ 教えるのではなく、引き出し、考えさせる (伊藤守,『コーチングマネジメント』, 2002) • スポーツのコーチング ◦ コーチング対象者の有能さと⼈間性を⾼めて いく⽀援を⾏っていくプロセスの総称 (⽇本スポーツ協会, 『リファレンスブック』,2019)
  16. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan コーチングの現場は混沌としている Muddiness

    of coaching context (Mallett, 2007) 構造化された即興 Structured Improvisation (Cushion, 2007)
  17. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 何に焦点をあてた働きかけをするのか? ある期間、A群とB群が同じ課題に取り組んだ。

    A群: 指導者は結果に焦点をあてた。 B群: 指導者は過程に焦点をあてた。 一定期間後、簡単な課題と困難な課題を与え、 本人たちに選ばせた。 簡単な課題を選択 困難な課題を選択 (Dweck, 2014)
  18. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan コーチングのWHATと WHO,

    WHEN, WHERE & HOW そしてWHY 同じトレーニング内容でも、 誰が誰に対して、いつ、どこで、どのようにコーチングするか、 どのような価値や哲学に支えられているのかで効果が異なる。
  19. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 文脈によって使い分けよう 4つのアプローチ

    TELL 指⽰ SELL 提案 ASK 質問 DELEGATE 委譲 コーチ アスリート 意 志 決 定 の 割 合 例)AとBならどちらが しっくりくる? 例)Aをやってみて。 例)Aっていう⽅法もある と思うんだよね。 例)みんなで考えてやって みようか。
  20. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 育成・指導 采配・指揮

    コーチは プレーヤーの成⻑を⽀援 コーチは プレーヤーの⼀員として競技
  21. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan Ͱ͖Δ͔ͳʁ Ͱ͖ͳ͍͔ͳʁ

    Ͳ͏΍Ε͹ Ͱ͖Δ͔ͳʁ Growth Mindset 成⻑的マインドセット Fixed Mindset 固定的マインドセット
  22. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 教育とは事実を学ぶものではなく、 考える力を養うものだ。

    (アルバート・アインシュタイン) 人にものを教えることはできない。 みずから気づく手助けができるだけだ。 (ガリレオ・ガリレイ) 子どもは誰でも芸術家だ。 問題は大人になっても芸術家でいられるかどうかだ。 (パブロ・ピカソ) 教えられた者は自分の経験を信頼せず、 大切な“学び”がその命を失ってしまう。 (カール・ロジャース)
  23. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan コーチや親の情熱が⼦どもたちの害となることも︕ (⼤⼈の逆依存現象)

    ⼦どもと⾃分を 重ね合わせる ⼤⼈が⾃らの価値を、 ⼦どもの成功や失敗 をもって定義 “挫折した騎⼿” ⼦どもを通して⾃ 分が“勝者”や“敗 者”になる ⼦どもが成功しなければ ⼤⼈のセルフイメージが 脅威にさらされる恐怖 (Smoll, Cumming, Smith, 2011)
  24. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan もともとは アスリートファースト

    - ウィニングセカンド • スポーツ実施の主体はアスリート • 学びは学習者本⼈のもの • アスリートの⼈間的成⻑とパフォーマ ンス発達をアントラージュとして⽀援 • アスリート、コーチ、その他の関係者 も皆が幸福に アスリートファースト アスリートセンタード
  25. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 暗黙知として コーチング⽅法が伝承

    コーチング⽂化は重⼒のように “無意識のうちに”あなたのコーチン グ⾏動に影響を与えている︕ コーチとしての学びはアスリートの頃から始 まっている。(Werthner & Trudel, 2009)
  26. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan ⾃分の無意識を意識下に︕ •

    学習は⼀般に学習者が、⾃分で発⾒したり、他者から伝達されたり、他者との相互作⽤の中で経験し たりした知識を習得していく過程であり(Wenger and Lave,1991)、指導者としての学びはアス リート時代から始まっている(Werthner and Trudel, 2009)。 • 運動部活動における体罰・暴⼒は、無⾃覚のうちに⾝体のレベルにおいて学ばれ伝承されているため に、知的な理解としての体罰・暴⼒の禁⽌は、この問題の根本的な解決につながってこなかった(坂 本, 2011)。 • 体罰を経験した者ほど、体罰を肯定的にとらえるという傾向がある(冨江, 2008)。 • 指導者の暴⼒的⾏動を体験した者のほうが、指導での暴⼒的⾏為を否定できず、暴⼒的⾏動を体験し たものが再び暴⼒的⾏動の実践者になり、次々に受け継がれる(阿江, 2000)。 コーチがコーチングを始めたとき、使⽤できる唯⼀の戦略は、彼らが アスリートとして経験したことであったが、その後の他者との関わり の中で様々な学びを⾏い、新しいコーチングの概念やスキルを学ぶこ とでコーチングを変化させられる(根本ら,2022)
  27. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan ⼤⼈の学びは「学びほぐし」から 経験する

    振り返る 教訓を 引き出す 応用する アンラーニングあり (信念やルーティンの変更) アンラーニングなし (過去の教訓に固執) 仕事の信念や ルーティンの変更 Kolb(1984), 松尾(2021)をもとに作成 ほとんど 変化なし!
  28. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 勝利を追い求めることは悪いことか︖ 勝利⾄上主義

    何をしてでも勝つ。 勝利に勝るものはない。 勝利追求(主義) 適切なやりかたで勝利を追求する。 例)スポーツ医・科学の知識を取り⼊れ る。コーチングスキルを⾼める。
  29. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan ⽬的と⽬標をしっかりと分けて考える •

    ⽬的 ◦ ⽬指すあるべき状態 ◦ 未来への⾏動を⽅向付けるもの ◦ 概念的・抽象的なものが多い • ⽬標 ◦ ⽬的に達するために、⽬印になる もの ◦ ⽬的に向かって⾏動するにあたっ て実現、達成を⽬指す⽔準 ◦ 具体的なものが多い 例)将来、安⼼して家族と暮らす 例)充実した幸福な⼈⽣を歩む 例)30歳で家を購⼊する 例)⾦メダルを獲得する ⽬的達成のために、具体的な⽬標を設定していく。 伊藤⼤輔『担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座』(2017)を参考に作成
  30. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan Well-being(持続的幸福、幸福な状態) 肯定的な感情

    楽しみ、喜び、温かさ、⼼地よさなどを含むポジティブな感情のことで、そうした感情 に溢れている⼈⽣は快い⼈⽣ということができる。 深い関与 (エンゲージメント) 何か没頭し、ときが経つのも忘れてしまうくらい無我夢中になることを意味する。やっ ている最中よりも、振り返ったときに⾃分のやっていることが素晴らしかったというこ とがわかる。 意味や意義 ⾃分のやっていることを社会的な視点や歴史的な視点といった⼤きな枠組みから⾒て位 置づけること。「なぜそれをしているのか」といった問いに対する答えが意味や意義を 構成するともいえる。 達成 ⾃分が⾏っていることの⽬標に達成することを意味する。スポーツ競技は勝利を⽬指し て⾏われるため、勝利が「達成(内在する⽬的)」となる。勝利したことによる褒美は あくまで付加的な要素(外在的な⽬的)で「達成」とは異なる。 関係性 ⽂字通り「他者とのつながり」を意味する。皆で⼀緒にやり遂げるなども含まれる。そ の⼀⽅、うまくいかないときに仲閒やライバルがいることで乗り越えていけることもあ る。 マーティン・セリグマンのポジティブ⼼理学
  31. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 話し⼿︓嬉しかったことを⼀ ⽣懸命話している⼦ども

    聞き⼿︓発⾔をポジティブに 受けとめつつ、 「でもね、・・・」と異な る考えを⾔ったり、アドバ イスしたりする親 2⼈組でやってみましょう 90秒
  32. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 1.⼆⼈組でそれぞれが頭に思い浮かべた動物を当ててみま しょう。

    2.「はい」もしくは「いいえ」で答えられる質問を順番に してください。 3.聞かれた側は「はい」か「いいえ」でしか答えません。 ただし、「はい」か「いいえ」で答えることが難しい場合は「いいえ」と答え て下さい。例)「⽩ですか︖」→(⽩もあれば⿊もあるぞ・・・)→「いい え︕」 4.2分間の質疑応答の後、それぞれファイナルアンサーを 決定し、答え合わせをしましょう。 質問⼒アップ アクティビティ①
  33. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 1.⼆⼈組でそれぞれが頭に思い浮かべた動物を当ててみましょ う。

    2.「はい」もしくは「いいえ」で答えられない質問を順番にし てください。 3.聞かれた側は適切に回答をしてください。 相⼿が「はい/いいえ」質問をしたらNGと指摘してください。 4.4分間(できれば直前のアクティビティの質問数と同じ数) の質問の後、それぞれファイナルアンサーを決定し、答え合 わせをしましょう。 質問⼒アップ アクティビティ②
  34. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 質問力アップ クローズド・

    クエスチョン オープン・ クエスチョン 回答が限定的 誘導尋問や「なぜ?」には注意! 回答が非限定的 質問者(コーチ) 回答者(アスリート) コミュニケーションの主役は
  35. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 文脈によって使い分けよう 4つのアプローチ

    TELL 指⽰ SELL 提案 ASK 質問 DELEGATE 委譲 オープンクエスチョン クローズドクエスチョン 上位の質問 下位の質問 はい/いいえ より具体的 より抽象的・概念的
  36. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 話し⼿︓困ったことを打ち明ける 部下

    聞き⼿︓⾃分の考えは⾔わず、部 下の悩みを理解しようと、話 の節々で相⼿の話を掘り下げ る、広げるような5W1Hの質 問をする上司 2⼈組でやってみましょう 180秒
  37. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan ある柔道コーチの例「考えていない?」 コーチ:なんで引手を先に持たへんの?持たれへんの?

    選手:はい… コーチ:意識しとかなできるようになれへんで? 選手:はい… コーチ:触れたら握るねんで? 選手:はい! コーチ:握ったら離すな! 選手:はい!
  38. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan Goal 何をやろうとしたのかな?

    Reality 実際どうなった?どんな感じ? Option もっとうまくやる方法はあるかな? Will じゃあ、次は何を意識してやってみようか? ͋ͷॊಓίʔν͕(308Λ࣮ફͯ͠ΈΔͱŋŋŋ (PBMˠ3FBMJUZˠ0QUJPOˠ8JMM
  39. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan ͋ͷॊಓίʔν͕(308Λ࣮ફͯ͠ΈΔͱŋŋŋ コーチ:今のはさあ…まず,どこを持ちたいん?(Goal)

    選手:本当は引手を持ちたいんですけど….なかなか取れなくて… コーチ:なんで取れへんねんやろうか?(Reality) 選手:相手がこうやって手を引いてくるのでなかなか持てなくて…手はこうやって引いてくるし, 体は向こうに開いてしまってるんで,手を伸ばしても遠い感じがして…届かないんです. (中略) コーチ:他に方法ないか~?(Option) 選手:こうとか?(不安げな表情を浮かべながら) コーチ:引手が不十分なときに右に動いたら,相手についてってしまえへんか?こわない? 選手:こわいです(笑) コーチ:じゃあどうすればええかな~?2つ持ったら何をかけたい?どの形に持っていきたい? 選手:足技から背負いに繋げていきたいんですが…いつも引き手が不十分のまま技へいってしまうので返されたり技へいけなかったりし ちゃいます…引き手をとるときって足がこうなってしまっても大丈夫ですか?足を入れ替えるのがなんか少し怖くて… コーチ:怖いであれば、やめといたら?でも胸を張ってまっすぐの姿勢の状態であれば怖くないと思うねんけど,結構姿勢が丸くなってしま いがちやん?どう? 選手:あ~確かに,あ,(実際やってみる)あ,怖くないかもです~.怖いから姿勢が丸くなっちゃうんですけど,丸まると不安定で余計に 怖くなります(笑). コーチ:じゃあさ,そこを意識してやればええんちゃう?(Will) 選手:はい!意識できそうです.やってみます! 2つ持てたときには掛けれる状態になったらこう(背負い)いけば…(独り言) (PBMˠ3FBMJUZˠ0QUJPOˠ8JMM
  40. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan Never try

    to be better than someone else. Learn from others, and try to be the best you can be. Success is the by-product of that preparation. John Wooden ⾃分がなることができる最⾼の⾃分になろう︕ バスケットボールコーチ
  41. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 今のは良いコースのショットだね︕ 他にどこに打ててた︖

    ドロップショット、上⼿く打ったね︕ ところで、打つときにコーチが⾛り出 しているのは⾒えてた︖ 何を考えて、さっきのショットを選択 したのかな︖
  42. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 変動性 不確実性

    複雑性 曖昧性 • VUCAワールドでは、変化が激しく、未来が予測しづらく、複雑な問題が多く、曖昧な情報が交錯 している • スポーツは本質的にVUCAである • スポーツコーチングは、アスリートの⼼⾝の能⼒を最⼤限に引き出すだけでなく、VUCAを⼒強く ⽣き抜くノウハウを⽇常的にトレーニングできる可能性を秘めている • アスリートが主体的に、課題を定義し解決案を模索(拡散と収束)して、意志決定をし⾏動する。 その⼀連のプロセスの結果を省察し、次の実⾏をよりよいものにするために学習する。 • コーチはその学習サイクルが効果的なものになるように⽀援する。
  43. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 「教える」 「学びを支援する」「成長」

    「教わる」 「自分で学ぶ」 「成長」 プレーヤー コーチ 今のは良いコースの ショットだね! 他にどこに打ててた? ドロップショット、上手く 打ったね! ところで、打 つときにコーチが走り出し ているのは見えてた? 何を考えて、さっきの ショットを選択したの かな? 学び(成⻑)のパートナー 師弟関係
  44. Nippon Sport Science University Coach Developer Academy, Japan 個が輝く社会に向けて 〜スポーツ界での挑戦〜

    伊藤雅充 ⽇本体育⼤学(コーチング学) NCDAディレクター Women in Agile Tokyo 2024