Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

言語進化研究とは何か

Avatar for Hiroto Hiroto
February 25, 2026
14

 言語進化研究とは何か

本資料は講義用に作成したものであり、参考文献が現在ついていません。一部の引用箇所についてお気づきの点がございましたらご連絡ください。

Avatar for Hiroto

Hiroto

February 25, 2026

Transcript

  1. 03. 言語とは何か? • Hockett (Hockett, 1963; Hockett & Altmann; 1968)

    地球上の人類文化全てに共通する言語(会話、手話、 ジェスチャー)の性質として、以下の16種類を提示 1. 音・聴覚チャネル/動作・視覚チャネル 2. 一斉送信と選択的受信 3. 急速な消失 4. 可換性 5. 統制性 6. 特殊化 7. 象徴性 8. 恣意性 9. 離散性 10.超越性 11.構成性 12.文化的伝搬性 13.パターンの二重性 14.詐欺性 15.再帰性 16.学習可能性
  2. 04. (人類)言語に共通する特徴 (1) Hockett’s design features of language • Hockett

    (Hockett, 1963; Hockett & Altmann, 1968) 地球上の人類文化すべてに共通する言語の性質は何か? (動物のコミュニケーションと共通した性質含む) 1. 音・聴覚チャネル/動作・視覚チャネル: 「話す⇒聞く」,もしくは「ジェスチャー⇒見る」 というチャネルで言語は機能する 2. 一斉送信と選択的受信: 話者が話すとき、音はあらゆる方向に伝達されるが、 聞き手はどの方向から音が来るかを知覚する。同様に、 手話は視界に入る全ての人に伝達されるが、見る側は 誰が手話をしているのかを見ている。
  3. • Hockett (Hockett, 1963; Hockett & Altmann, 1968) 地球上の人類文化すべてに共通する言語の性質は何か? 3.

    急速な消失 言語の音は短い時間だけ存在し、その後、知覚されなくなる。 音波は、話し手が話すのをやめると、すぐに消えてしまう。 これは手話でも同じである。しかし、文字は異なる。 4. 可換性: 人は聞くことができるものは何でも言うことができる。すべ ての種がこの機能を有しているわけではない。例えば、女王 アリは自分の地位を伝えるために他のアリが出せないような 化学的な香りを出す。 05. (人類)言語に共通する特徴 (2) Hockett’s design features of language
  4. • Hockett (Hockett, 1963; Hockett & Altmann, 1968) 地球上の人類文化すべてに共通する言語の性質は何か?? 5.

    統制性 (完全なフィードバックによる制御): 言語の話し手は自分の話し声を聞くことができ、話しながら 自分の言っていることを制御したり修正したりすることがで きる。同様に、手話者も自分の手話を見、感じ、そしてコン トロールすることができる。 6. 特殊化: 言語はコミュニケーションという目的に特殊化して意図的に 使用される。コミュニケーションは一般にはそうとは限らな い。例えば、飼い犬は速くて浅い呼吸をして飼い主に「暑い or喉が渇いた」と伝えることがあるが、速くて浅い呼吸の主 目的は体の冷却であり、飼い主とのコミュニケーションはそ の副産物に過ぎない。 06. (人類)言語に共通する特徴 (3) Hockett’s design features of language
  5. • Hockett (Hockett, 1963; Hockett & Altmann, 1968) 地球上の人類文化すべてに共通する言語の性質は何か? 7.

    象徴性 (意味性): 特定の音信号は、ある特定の意味に直接結びついている。 8. 恣意性: 言語は、「意味するもの(音、記号)」と、「意味されるも の(対象)」との間に本質的または論理的なつながりがない。 たとえば、「くるま」という音は、実際の車とは似ても似つ かない。このことは、言語が異なれば、同じものに対しても 全く異なる名前が付けられるという事実からも明らかである。 手話では動作が対象のアイコンとなっている場合はあるが、 ほとんどの場合は、形と意味の関係は恣意的なものである。 07. (人類)言語に共通する特徴 (4) Hockett’s design features of language
  6. • Hockett (Hockett, 1963; Hockett & Altmann, 1968) 地球上の人類文化すべてに共通する言語の性質は何か? 9.

    離散性: 言語表現は小さな離散的な単位に分解することができ、それ らは規則に従った方法で互いに結合される。これらは連続的 ではなく、有限個のグループに分類されて認識される。例え ば、英語は複数形の形態素/s/で数を表し、これはあらゆる名 詞の末尾に付加することができる。 10. 超越性 (転移性): 転移/超越性とは、物理的に今ここに存在しないもの、あるい は存在すらしていないものについて話すことができるという 性質のことである。話し手は過去や未来について話すことが でき、希望や夢を表現することができる。人間の話し方は、 「今、ここ」に限定されるものではない。この性質は、人間 の言語と他の種のコミュニケーションとを分ける特徴の一つ である。 08. (人類)言語に共通する特徴 (5) Hockett’s design features of language
  7. • Hockett (Hockett, 1963; Hockett & Altmann, 1968) 地球上の人類文化すべてに共通する言語の性質は何か? 11.構成性

    (生産性): 構成性とは、言語使用者が既存の単語や文書を組み合わせ、 新しい単語や文書を創造し、理解することができるという 性質のこと。 12.文化的伝搬性: 言語が持つ「他個体からの影響を受ける社会的学習によって 後天的に獲得され、それが個体間で繰り返されることで、特 定の性質を共有した言語活動が世代を超えて、社会集団内で 維持される」という性質のこと 09. (人類)言語に共通する特徴 (6) Hockett’s design features of language
  8. • Hockett (Hockett, 1963; Hockett & Altmann, 1968) 地球上の人類文化すべてに共通する言語の性質は何か? 13.パターンの二重性:

    意味あるメッセージは、より小さな意味のある単位(単語や形態素)から構成され ており、その単位自体がより小さな意味のない単位(音素)から構成されている。 14.詐欺性: 言語の「嘘をついたり騙したりするために 使用することができる」という性質のこと 10. (人類)言語に共通する特徴 (7) Hockett’s design features of language
  9. • Hockett (Hockett, 1963; Hockett & Altmann, 1968) 地球上の人類文化すべてに共通する言語の性質は何か? 15.再帰性:

    人間は言語について話すために言語を 使用することができる。 16.学習性: 言語は教えることができ、学習することができる。 11. (人類)言語に共通する特徴 (8) Hockett’s design features of language • 「お腹が空いた」という会話文 では、主語が省略されている
  10. 12. 言語使用に必要な言語能力 • Hauser (Hauser, Chomsky, and Fitch; 2002) 言語の性質を羅列しても以下の言語進化に関する大事な問いに

    答える役にあまり立たない。 1. 言語は、人間に固有なのか、そうでないのか? (固有vs共有) 2. 人間の言語は漸進的に進化したのか、 跳躍的な進化があったのか?(漸進vs跳躍) 3. 言語はコミュニケーションのために進化したのか、 それ以外の目的で進化したのか? (適応vs前適応) ⇒「言語それ自体の性質」ではなく、「言語使用に必要な能力」に注目し、 その上で、以下の2つを区別することで、言語進化の問題を整理 • 人類固有の言語能力(FLN: Faculty of Language –Narrow sense) • 他種と共有したもの含む言語能力全体(FLB: Faculty of Language –Broad sense) • 引用: Hauser, Chomsky, and Fitch (2002)
  11. 01. 言語と言語能力の前駆体 • 比較心理学的アプローチ 人類と、人類以外の生物の行動/認知能力を 比較することで、人類/人類進化について理解しよう • 人類の特徴 (言語活動/能力) •

    近縁種の特徴 (行動/認知能力) • 相同(homology) • 相似(analogy) • 人類の進化 • 他の動物の進化 類似した適応課題に対して 類似した特徴が進化?? 類似性 類似性 共通祖先の特徴(プレ言語活動/言語能力)が、 両者に遺伝しているから類似?? • 共通祖先
  12. 02. 人類言語の性質との比較 • Hockett (Hockett, 1963; Hockett & Altmann; 1968)

    地球上の人類文化全てに共通する言語(会話、手話、ジェスチャー) の性質として、以下の16種類を紹介 1. 音・聴覚チャネル/動作・視覚チャネル 2. 一斉送信と選択的受信 3. 急速な消失 4. 可換性 5. 統制性 6. 特殊化 7. 象徴性 8. 恣意性 9. 離散性 10.超越性 11.構成性 12.文化的伝搬性 13.パターンの二重性 14.詐欺性 15.再帰性 16.学習性 • 引用: https://en.wikipedia.org/wiki/Ch arles_F._Hockett
  13. 03. ベルベットモンキーの警戒音 ~『象徴性』を持った動物の音声コミュニケーション~ • ベルベットモンキーは天敵が自分の近くにいるのを見つけると 警戒音を出すが、警戒音の種類は天敵の種類により異なる。 異 な る 警

    戒 音 • ワシ • ヒョウ • ヘビ • ベルベット モンキー • 象徴性: 警戒音の種類は、 天敵の種類を象徴している ⇒ だが、警戒音は、その後の逃避行動と密接に関連し、警戒音の種 類と天敵の種類の対応関係も固定化していて、「恣意性」はない
  14. 04. ミツバチの8の字ダンス ~『超越性』を持った昆虫のコミュニケーション~ • ミツバチは、巣から遠くにある餌場の場所を、8の字ダンスと 呼ばれるダンスで、他の個体に伝える • 超越性: 巣から見えない餌場の 場所情報を扱っている

    • 象徴性: ダンスする向きと、尻 を振って直進している時間の 長さが各々、巣から見た餌場 の方向と距離を象徴。 ⇒ だが、8の字ダンスは生得的な行動形質で、ダンスと餌場の情報 との対応関係も固定化しているため、「恣意性」はない
  15. 06. ニホンザルのイモ洗い行動 ~『文化的伝搬性』を持った動物の行動~ • 1963年、幸島(宮崎県)のニホンザルの子供(命名:イモ)に「イモ洗い行動」の 習慣があることが観察される (起源) • その後、この習慣がイモの親族/遊び仲間を通して島のサル全体に伝搬 (伝搬)

    • 伝搬を通して、イモを洗う場所が「小川」から「海」に変化 (変容) • 文化的伝搬: 幸島のサルの 「イモ洗い行動」という習慣は 上記3性質を満たす「文化」 ⇒ イモ洗い行動は「文化的伝搬」に加えて「離散性」も満たしうる 可能性もある。しかし、レシピに基づく人間の食事調理のように 「作業手順の組み合わせ」ができないので、「構成性」はない
  16. 07. チンパンジーの道具作成/道具使用 ~『構成性』の萌芽を持った動物行動~ • チンパンジーは白アリ釣りで道具を使い分ける  穴あけ棒  釣り針 •

    引用元: • Sanz&Morgan(2007) • Suzuki et al. (1995) • 構成性(の萌芽): 道具を組み合わせて、その使用順序を考慮した 作業プランを構成している ⇒ しかし、作業プランなので、「象徴性」はない
  17. 08. ジュウシマツの歌文法 ~『構成性』の萌芽を持った動物のコミュニケーション~ • ジュウシマツの求愛歌は学習により獲得され、複数の音素(a-g)から 成る単語(ab,cde,fg)を特定の規則に従って組み合わせて歌を歌う • 学習性: 学習により獲得 •

    構成性(の萌芽): 音素を 組み合わせ複雑な歌を歌う。 ⇒ だが、人間の文法が文脈自由文法なのに対し、ジュウシマツの歌文法 は有限状態文法。また、求愛歌なので、文法構造に「象徴性」はない
  18. 01. 進化とは何か?(1): 適応進化 • ダーウィンの進化: • 変異(多様性): 様々な形質を持った生物個体がいる • 遺伝:

    前の世代の個体の形質は子に継承される • 生存競争: [環境の収容量] < [繁殖力] • 適者生存: 子孫の数は形質の違いによる異なる • 適応進化: • 変異(多様性): 様々な形質を持った個体がいる • 遺伝: 前の世代の個体の形質は子に継承される • 淘汰: 形質や所属集団の違いで、個体の適応度が異なる • 狭義の自然淘汰: 形質の違いで環境への生存率が異なる • 性淘汰: 形質の違いで異性との生殖機会獲得頻度が異なる • その他淘汰:人為淘汰、社会淘汰、集団淘汰、血縁淘汰など そのメカニズムの本質は?
  19. 02. 進化とは何か?(2): 中立進化 • 木村の中立説: 分子レベルの形質の変化は、大部分が 自然淘汰に対して有利でも不利でもなく、以下が 進化の主因 • 突然変異:

    DNA複製のミスやDNAの損傷による 遺伝子の変化 • 遺伝的浮動: 子孫を残す個体が適応度の違いでは なく、偶然/ランダムで決まることで (有限)集団内の多様性が減少 そのメカニズムの本質は? • 中立進化: • ランダムな遺伝の失敗: 親とは異なる形質をランダムに子孫が獲得 • ランダムな淘汰: 子孫を残す個体がランダムに決まる
  20. 03. 進化とは何か?(3): 理不尽な進化 • ラウプの『大絶滅』: 巨大隕石の墜落により 環境が激変することで進化の方向性が変化 • サルコスクス •

    プロトゥンギュレイタム・ダネー 隕石落下による 環境の激変 • ワニ&人間 そのメカニズムの本質は? • 理不尽な進化: 環境が激変し、適応進化の3要素の 一つである淘汰において、 「どんな形質が有利か」 というゲームのルールが変化
  21. 04. 進化とは何か?(4): 進化の構成要素・要因 • 進化 : 集団内での個体の形質(情報含む)の分布の時間変化 (Based on 中央(2015),

    メスーディ (2016) ) 変化の要因としては以下が考えられる。 • 変異(多様性): 様々な形質を持った生物個体がいる • 遺伝: 前の世代の個体の形質は子に継承される • 淘汰: 個体間で、形質の違いにより生存環境への適応度が異なり、 その生存率・繁殖率に違いがある。以下の影響を受ける。 • 生存環境の変化: 環境それ自体の変化 • 集団の遺伝子頻度の変化(他の種含む): 相互作用する他個体の種類や、その振る舞いの変化 • ランダムネス: 各個体の形質とその集団比率のランダムな変化 ⇒ 生物進化以外にも進化と見なせる対象はあるのでは?
  22. 05. 進化とは何か?(5):生物進化以外の進化 • 文化進化 : 社会的伝達を通して主体が獲得し利用する行動/情報の 集団内での利用頻度の時間変化 (Based on メスーディ

    (2016) )  文化: 模倣バイアス(権威/同調バイアス)を前提とした社会学習 の中で伝達される社会的行動のシステム (Boyd&Richerson, 1985) 例) 携帯電話  文化進化における遺伝子とは何か?  ミーム論: 文化進化は、競合する多様な自己複製子(=ミーム)の繁栄/淘汰のプロセス (ミーム≒脳という計算機に寄生するコンピュータ・ウイルス)
  23. 06. 2種類の進化 1. 生物進化 : 集団内における遺伝子頻度の(時間)変化 (Based on ソーバー(2009) )

    2. 文化進化 : 社会的伝達を通して主体が獲得し利用する行動/情報の 集団内での利用頻度の時間変化 (Based on メスーディ (2016) ) • 生物進化の系統樹 (https://gakuto-plus.jp/12320) • オセアニアの政治制度の系統樹 (中央(2012)) • 植物栽培文化の伝搬 • ホモサピエンスの拡散 (Fagan(2004))
  24. 01. 言語進化研究の方向性 • 方向性1:人類固有と考えられる生得的で適応価が高そうな言語能力を 探し、その能力に着目して、言語進化について考えていこう 1. 高度な認知能力 (階層性アプローチ) 2. 高度なコミュニケーション能力

    (意図共有アプローチ) • 方向性2: 生物進化と文化進化の共進化により、人類固有の言語が 進化した可能性を考えていこう (生物と文化の共進化アプローチ) • 二重継承理論(Dual Inheritance Theory): 人類の生態・行動は、全生物種が生物学上の親から継承する 遺伝情報と、社会の他の成員から継承する(人類固有の)文化情報の2 つの継承情報により影響を受けているという理論的枠組 (Russel&Muthukrishna, 2018) • 注意: 両者は対立するとは限らず、共存しうる
  25. 03. 階層性アプローチ • 統語論 • 形態論 • 音韻論 • 言語の階層性

    • その他の階層性 • 道具の構造(道具作成) • 目的/計画/行為 • 入れ子のカップの操作 • 階層性: 要素のまとまりが新たな機能を実現し、さらに それらのまとまり(=要素のまとまり)がより上位の機能を実現すること • 例)
  26. 03. 階層性アプローチ • 統語論 • 形態論 • 音韻論 • 言語の階層性

    • その他の階層性 • 道具の構造(道具作成) • 目的/計画/行為 • 入れ子のカップの操作 • 階層性: 要素のまとまりが新たな機能を実現し、さらに それらのまとまり(=要素のまとまり)がより上位の機能を実現すること • 例) • 形態論 • 道具の構造(道具作成) • 目的/計画/行為 併合の運動制御起源仮説 • 併合の運動制御起源仮説(Fujita (2017) ) • 印刷機 • ブドウ絞り機 • ハンコ 人類の創造的思考力の一因は、併合 • 河 • 豚 • 河豚(フグ)
  27. • 意図理解/意図共有 冷蔵庫に ジュース ある? 取ってくるよ • 意図共有: 相手が持つ実現したい状態(に対する態度)を理解し、 自分もそれを実現する意欲を持つこと

    04. 意図共有アプローチ • [意図共有] = [意図理解] + [協力(=cooperation)] ( or [協調(=coordination)] ) (Based on 橋本 (2019) ) • 冷蔵庫にジュースある? • 例) “冷蔵庫にジュースある?”の意味推論 • 今飲めるジュースが冷蔵庫にある? • ジュースあるなら今飲んでいい? (本当の意味)
  28. • 意図理解/意図共有 冷蔵庫に ジュース ある? 取ってくるよ • 意図共有: 相手が持つ実現したい状態(に対する態度)を理解し、 自分もそれを実現する意欲を持つこと

    04. 意図共有アプローチ • [意図共有] = [意図理解] + [協力(=cooperation)] ( or [協調(=coordination)] ) (Based on 橋本 (2019) ) • 冷蔵庫にジュースある? • 例) “冷蔵庫にジュースある?”の意味推論 • 今飲めるジュースが冷蔵庫にある? • ジュースあるなら今飲んでいい? (本当の意味) • 用法基盤理論(トマセロ (2008)) • 言語の本質は、その記号的次元にあり、 文法構造は、言語使用から発生する。 • 言語の文法的次元は、全体としては「文法化」と 呼ばれる一連の歴史的・個体発生的プロセスの 産物である。
  29. 05. 階層性&意図共有アプローチの共通点 • 人間の発達過程への着目: 人間固有の能力を明らかにするために、 比較的早期の人間の幼児に見られる現象に着目している点 • 階層性アプローチ: 刺激の貧困 ⇒

    階層性能力 • 意図共有アプローチ: 共同注意&意図共有能力 • 系統進化の重視: 系統進化において人間に近い「人間以外の類人 猿」との比較を重視し、「類人猿に上記の能力がない」とする点 • 階層性アプローチ: 類人猿は「カップの入れ子構造」 を理解できていない • 意図共有アプローチ: 類人猿は意図共有をしない • 「創発現象としての言語」という視座: 言語を、「注目した能力 と他の能力/環境との複雑な相互作用の産物(創発現象)」と見なす
  30. 06. 言語進化研究の方向性 • 方向性1:人類固有と考えられる生得的で適応価が高そうな言語能力を 探し、その能力に着目して、言語進化について考えていこう 1. 高度な認知能力 (階層性アプローチ) 2. 高度なコミュニケーション能力

    (意図共有アプローチ) • 方向性2: 生物進化と文化進化の共進化により、人類固有の言語が 進化した可能性を考えていこう (生物と文化の共進化アプローチ) • 二重継承理論(Dual Inheritance Theory): 人類の生態・行動は、全生物種が生物学上の親から継承する 遺伝情報と、社会の他の成員から継承する(人類固有の)文化情報の2 つの継承情報により影響を受けているという理論的枠組 (Russel&Muthukrishna, 2018) • 注意: 両者は対立するとは限らず、共存しうる
  31. 08. 生物から文化への影響の例 • 虹彩色が緑/青系 (欧米人/白人) • 虹彩色が茶系群 (日本人/黄色人種) • 相対的に光を眩しく

    感じる(庄山等, 2007) • 低照度での色弁別が 相対的に苦手(庄山等, 2007) • 文化進化 (可塑的形質) • 暗いとよく見えないので 高照度の照明を使う傾向 • 眩しさを避けるために サングラスをかける傾向 • 生物進化 (遺伝形質)
  32. 09. 文化から生物への影響の例 • 西アフリカ &北ヨーロッパ • 8000年以上の歴史を 持つ乳牛の牧畜文化 • 東南アジア

    • 文化進化 (可塑的形質) • 生物進化 (遺伝形質) • 人口の約90%が乳糖耐性を 持つ(Gerbault et al., 2011) • 人口の10%未満だけが 乳糖耐性を持つ (Gerbault et al., 2011) • 現代においても牛乳の1日毎 の摂取量が少ない文化 (Singh et al., 2015 )
  33. 11. 言語進化研究のこれから • 人類言語の言語性質・能力としてどんなものがあり、それらがどう分類されるか? • 人類の言語活動や動物のコミュニケーションの各性質が、その各能力、 及び、生存環境の各性質がどのように関連し合うことで生じているか? 人類の言語活動 の性質の全体 動物コミュニケーション

    と共有する性質 外的 な 言語 現象 言語使用者 環境 人類固有の環境 • 文化的環境 • 社会的環境 (語用含) • 物理的環境 • 生態学的環境 至近要因に関する以下を改めて一つずつ特定し、人以外の種と比較することで、究極要因や要因間 の複雑な相互作用の影響を理解するためのヒントを得るための努力を、人類言語の各性質毎に、積み 重ねていく必要がある。 人類固有の 遺伝形質 他の動物と共有する 遺伝形質 人類固有の 獲得形質 他の動物と共有 する獲得形質 性質 要素 言語 使用者 の 形質 (能力) 遺伝形質 獲得形質