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20240430_FSA_Digital_Asset_Report_memo.pdf
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th_sat
April 30, 2023
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20240430_FSA_Digital_Asset_Report_memo.pdf
金融庁「デジタル資産を用いた不公正取引等に関する国際的な規制動向、法規制当局による執行事例、及びマーケットにおける課題の分析調査」報告書について、第Ⅲ章・第Ⅳ章の概略的なまとめ
th_sat
April 30, 2023
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Transcript
第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る 執行事例等 デジタル資産に関する不公正取引の現状や米国当局の執行状況に関して、具体的な執行事例について、各事 例の法的根拠、執行経緯等の詳細を纏めている。 • 執行事例については、 ◦ マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策 関係とし
て、米国財務省外国資産管理局(米 OFAC)による Tornado Cash プロトコル等に対する制裁及びオランダ当局による関係者 の逮捕 事案、並びに商品先物取引委員会( CFTC)への登録義務違反、 AML/CFT 規制違反及び相場操 縦規制違反で訴追し た Digitex の事案の詳細を纏めている。 • 次に、インサイダー取引関係 として、 ◦ 米国証券取引委員会( SEC)による元 Coinbase 社員によるDEXを利用したデジタル資産のイン サ イダー取引の摘発事案 の詳細を纏めている。 • 更に、市場操作不正等に係る執行事例 として、 ◦ Mango Markets(DeFiプロトコル)における担保価値操作事案 の詳細を纏め、その他に FTX 及び Alameda Research の準備資産に関する信用不安問題 、加えて、MTGOX の民事再生計画の動 向及び債権者への弁済に関する整理状況 と SEC が LBRY を無登録で有価証券を販売したとして 提訴した事案の詳細 を纏めている。 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 1
4.各不公正取引等から示唆されるデジタル資産に関する不公 正取引に係る課題分析 Tornado Cash に対する執行事例から示唆される課題 • 米 OFAC による、Blender.io に続く、暗号資産ミキサーに対する制裁措置が行われた案件であるが、
ミ キシングサービスがスマートコントラクトによって自律的に稼働 していた点が相違点。 ◦ スマートコントラクトを用いて自律的に稼働していたとされるミキシングサービスが犯罪行為を幇助・ 助長した場合に、責任主体をどのように捉えていくべきか について、様々な意見が出ている。 ◦ 蘭 FIOD は Tornado Cash の開発者兼実質的意思決定者を執行対象とした といえるが、既存の 規制執行のアプローチの当てはめが適切か否か も含め、今後の議論が待たれる。 • 匿名で作成可能なブロックチェーン上のアドレスを用いて、匿名性を維持・強化しながらデジタル資産の 取引を可能にするツールが マネー・ローンダリングやテロ資金供与含む犯罪行為に利用されることを阻 止するための効果的な執行方法 が課題。 • 制裁対象のア ドレスが関わっている取引のブロックチェーンバリデーターによる承認の可否や、暗号資 産等の発行者及び暗号資産取引所がデジタル資産の移転をどのように制限しなけれ ばならないのかと いった点について、未整理の部分が多く、事業者によって対応が異なっている場合がある。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 2
4.各不公正取引等から示唆されるデジタル資産に関する不公 正取引に係る課題分析 暗号資産取引プラットフォーム Digitex 等に対する執行事例から示唆される課題 • Digitex Futures の登録義務違反等・相場操縦事案 は、多くの法域のエンティティを組み合わせて、違法
な形で、ユーザーにサービスが提供されていた 。 ◦ こうした違反行為及び 関係エンティティの国際的な広がりはデジタル資産の不公正取引の特徴 と 考えられ、越境的違反行為に対して、各国当局がどのように協調して、監視・執行を行うべきかが 課題となっている。 • 当該サービスを運営していた Adam Todd は、インフルエンサーや SNS などを通じて虚偽の情報発信 を 継続し、自身が行った Digitex のネイティブトークンの相場操縦行為の効果を増大させようとしていた 。 • Digitex Futures のような暗号資産デリバティブ取引プラットフォームのユーザー におい ても、予め利用し ようとしているプラットフォームの登録状況を確認することが望まれる 。 ◦ 規制当局においても、 無登録業者・無登録取引プラットフォームに対して、警告書 の発出等の事前 の警告を行い、事業者名など広く公表し警鐘を鳴らすことも必要である。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 3
4.各不公正取引等から示唆されるデジタル資産に関する不公 正取引に係る課題分析 元 Coinbase 社員によるインサイダー取引事案に対する執行事例から示唆される課題 • 本件では、米国内及び外国の暗号資産取引プラットフォームにおける取引を組み合わせることで、本人 確認等を回避した形で不公正取引 が実行されている点が、従来との相違点。 ◦
このように、暗号資産の場合、 匿名取引を利用した不公正取引が可能 となっており、かかる不公正 取引に対する捜査及び執行の実効性確保が課題 となっている。 • パブリックブロックチェーン上でなされた取引内容を暗号資産取引プラットフォーム運営者含め何人も監 視できるという取引の透明性 を市場の公正性向上に活かしていくことができる可能性 がある。 • オンチェーン情報の分析のみでは、オフチェーンも含む取引の流れや実際の取引者(最終受益者)を識 別するのが難しい場合がある ことが分かっている。 • 不公正取引の未然防止のための社内体制の構築( 社内ポリシー遵守のための 研修やチェックの強化な ど)が、暗号資産取引プラットフォーム運営者などの事業者にも求められる。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 4
4.各不公正取引等から示唆されるデジタル資産に関する不公 正取引に係る課題分析 Mango Markets における担保価値操作に関する執行事例から示唆される課題 • 不可逆なスマートコントラクトが攻撃者によって利用された事案 であり、類似の攻撃方法に対する開発者 コミュニティや暗号資産関連サービス提供者の対策が課題となっている。 ◦
ソースコードがオープンゆえ、オープンとなっているコードが悪用される負の面もある。 • オラクルからの参照価格に依拠した当該担保価格を操作す ることで多額の(流動性の高い)暗号資産の 借入れを行うことができるという問題のあるビジネススキーム が、パブリックブロックチェーン上のコードの 解析を通して確認可能となっていた。 • 攻撃者からの交渉を踏まえ、 被害を受けたプラットフォームが DAO におけるガバナン ス投票を行った結 果、一定金額の返還の交換条件として攻撃者への訴追の権利を放棄することが可決された。 ◦ しかし、その後、DAO の投票結果が無効であることを求めてプラットフォーム側は攻撃者を訴追し た(DAO の投票結果の有効性は、係争中)。 ◦ これらは、 DAO のガバナンス投票の有効性に疑義を投げかけるもの であり、Mango Markets の ガバ ナンスは法的根拠が不明確であるものに過ぎなかったという課題 が浮き彫りとなった。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 5
4.各不公正取引等から示唆されるデジタル資産に関する不公 正取引に係る課題分析 FTX 及び Alameda Research に対する執行事例から示唆される課題 • 関連企業も含めた実質的な支配者があらゆる意思決定の権限をつかさどる 環境下において、顧客資産
を横領したという不正であり、 コーポレート・ガバナンスの不在、リスク管理態勢や内部統制の経営者によ る無効化が問題であった。 • 自社が発行した流動性の低いトークンを、 当該低流動性を十分考慮しない価値評価によって担保に供 し、資産計上していた 。 • 実質的な価値が不明確な暗号資産等を事実上の引き当てとして期待して投融資を出しあうことによって、 グループ内や暗号資産エコシステム内に、過度の相互連関性が形成され、市場の下落時に連鎖的な影 響をもたらしたが、過度の相互連関性の形成を抑止又は監視する制度等も十分整備されていなかった 。 • 各国の監督体制にばらつき があることで、特定の暗号資産や事業が規制対象である 法域と規制対象外 の法域がある場合や、取引所が発行するトレジャリートークン、その流通に対する明確なルール、及び市 場操作を規制するような 共通の規制は現状存在していない。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 6
5.デジタル資産特有の課題と、既存金融と共通の課題 主として以下の課題は、既存金融と共通の課題と考えられる。 • マネー・ローンダリング及びテロ資金供与 (経済制裁の潜脱を含む。)を目的としたサ ービスの悪用 • 仲介業者等としての登録義務違反 と無登録業者(特に、オフショア法域からの又は多法 域にわたるサー
ビスの提供)に対する規制当局による対処 • 相場操縦とソーシャルメディアを利用した 風説の流布 • 各市場関係者における インサイダー取引防止体制 • コーポレート・ガバナンスの不在と主要株主や経営幹部によるリスク管理・コンプライ アンスその他の内 部統制の無効化に対する 牽制・監査・検査等の欠如 • 多法域にわたりグループを形成しオフショアからサービスを提供する場合に法域間で 整合的な規制・監 督を行い、顧客資産の流用を禁止しサービスの健全性を確保するため の十分な規制監督体制 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 7
5.デジタル資産特有の課題と、既存金融と共通の課題 主として以下は、デジタル資産固有の課題と考えられる。(1/2) • パブリックブロックチェーンにはオンチェーン取引を行ったウォレットアドレスが記録され、いつでも誰でも 参照可能であるが(但し、一定の技術的素養を要する。)、 当該アドレスが帰属する法主体を特定すること は容易ではない • スマートコントラクトを用いて自律的に稼働していたとされるミキシングサービスが マネー・ローンダリング
及びテロ資金供与(経済制裁の潜脱を含む。)のために悪用さ れた場合の責任主体の所在 • スマートコントラクト上で自律的に稼働していたとされるサービスを利用した 犯罪行為を阻止するための 効果的な執行方法のあり方 • インサイダー取引・市場操作等の不公正取引が行われる場合の、オフショア取引所や分 散型取引所 (DEX)を利用することによる 本人確認等の回避への対処 • パブリックブロックチェーン上の取引内容を(アドレスは、匿名ではあるものの)何人 であっても監視するこ とができるという透明性を踏まえた新たな市場監視のあり方の模索 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 8
5.デジタル資産特有の課題と、既存金融と共通の課題 主として以下は、デジタル資産固有の課題と考えられる。(2/2) • オンチェーン情報とオフチェーン情報の統合的な分析による 市場監視及び取引モニタ リングの実効性の 向上 • 潜在的攻撃者からも、ビジネスロジックや技術実装上問題のあるスマートコントラクト の解読が可能であ
るという脆弱性への対応 • ビジネススキームにおいて、流動性の低い担保を受け入れ流動性の高い商品を貸し出す 側の担保価値 評価がオラクルによる外部への参照のみに依拠するなど ビジネススキー ム上問題のある設計がなされ る例がある点 • DAO において関係者が形成する 合意の法的効力の有無 に関する取扱い • 公正価値評価手法の確立していないデジタル資産の担保提供又は資産計上 と、その結果 発生しうる市 場のショック等に脆弱な相互連関性 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 9
6.デジタル資産特有の課題に対する技術的ソリューション オンチェーンブロックチェーン分析 • 裁判において、ブロックチェーン分析業者等のツールやデータは活用され 始めており、積極的活用に向けた検討・動きが生じる可能性。 • 多くのブロックチェーン分析業者等は、総じて規制当局に対して協力的な 姿勢を示している。 オフチェーン取引監視・分析ツール •
デジタル資産市場における市場操作等の不公正取引には伝統的金融市 場と共通する面も多く、伝統的金融市場における市場監視の経験、ツー ルを応用することもできるとの意見もみられた。 オンチェーン・オフチェーンの情報を統合した分析の 有効活用と今後の発展に向けた課題 • オンチェーン情報の分析だけでは十分でなく、オンチェーン情報の分析と オフチェーン情報の分析とを組み合わせて統合的に分析することが重 要。 コード監査等の有効活用 • スマートコントラクトその他のブロックチェーン上のプロトコルやアプリケー ションのクオリティを確保するために、コード監査を利用している事例がみ られた。 • 今後のコード監査の機能強化に向けて、コード監査の利用の業界プラク ティスとしての確立、コード監査人の用いる基準の標準化など。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 10
7.現下の対応状況と将来的に対応すべき課題 既存金融との比較の観点から、デジタル資産に関する不公正取引への対応状況と今後の課題 について整理する。 • デジタル資産の不公正取引事案に関して、既存金融の長い歴史の中で繰り返されてきた従来型の不公正取引の類型に合 致し、又は類似の特徴を示す事例も多く存在する。 ◦ 他方で、不公正取引がブロックチェーン技術等を用いて実行される、取引対象が暗号資産 等である、及びパブリック ブロックチェーン上で匿名性を保ったまま取引が行われること
等の影響で、不公正取引スキームの全体像、被害の大 きさ及び事案解明の難易度等において、 既存金融と大きく異なる場合もある。 • 既存金融における不公正取引スキームや手法に対しては、法令や自 主規制に基づく規制枠組み、監督・執行体制及び事業 者による自主的な取組み等の実務が確立され、市場の公正性確保に向けた抑止力となると共に、これまでに蓄積されたノウ ハウなどを用いて個別事案の解明が進み、分析結果も踏まえた対応の高度化が図られてきた。 • 一方、デジタル資産に関する不公正取引については、規制枠組みの議論・整備が国際的に進んでいるものの、サービスやプ ロダクトに対する法的整理の当てはめ及び遵守すべき規制などの社会的規範についての業界関係者の理解と遵守や業界 におけるプラクティスの深度が十分でないことに加え、規制当局におけるデジタル資産に係るプロダクトの技術面も含めた理 解や執行に向けた練度が相対的に低い。 ◦ これらが、取締り等による不公正取引の防止に向けた牽制、市場の公正性や透明性の向上に向けた官民双方での 取組みの深化を、難しくすると共に、被害規模の拡大などに繋がっているのではないか。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 11
7.現下の対応状況と将来的に対応すべき課題 7.1 デジタル資産の不公正取引への足元の対応状況 犯罪行為に関わる分散型アプリケーションへの執行 に向けた対応状況 • ブロックチェーン上のアドレスを対象として、犯罪行為の停止に向けた執 行が行われている事例が存在する。 匿名のアドレスを利用した不公正取引の行為者の特 定に向けた対応状況
• オンチェーン情報とオフチェーン情報の分析を統合的に行うことで、パブ リックブロックチェーン上の不公正取引の匿名行為者の特定に至っている 事例が存在している。 デジタル資産に関する内部者取引への対応状況 • 業界のスタンダードとしては、実効的な対策がなされているとは言えない 状況であるが、一部において、既存金融における内部者取引防止策を参 考とした取組みが始まっている。 デジタル資産を用いた市場操作行為等への対応状 況 • NFT に関する Wash Trade など、多くの不正行為が行われているとする 分析があるもの の、有効な抑止策は確立されていない。 デジタル分散型金融サービスの技術的脆弱性を利用 した不公正取引等への対応状況 • コードレビューを含むセキュリティ監査プロセスをプロダクトのローンチ前 に受けるプラクティスが広がりつつある。 公正価値評価手法の確立されていない流動性の低 いトークン等による資金調達等への対応状況 • 自社トークンも含め、暗号資産の流動性等を考慮した公正価値の評価手 法の確立へ向けた議論が待たれる。 国境を越えて展開される不公正取引行為への対応状 況 • 複数の法域に点在するエンティティを用いて一体的に行われる不正なス キームに関して、米国を中心とした各国当局が捜査・執行における協力 を実施している。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 12
7.現下の対応状況と将来的に対応すべき課題 7.2 デジタル資産の不公正取引への対応における今後の課題(1/2) 犯罪行為に関わる分散型アプリケーションへの執行 に向けた課題 • ブロックチェーン上の匿名性が アプリケーション及びガバナンス構造の実 態把握を妨げている。 •
スマートコントラクトを用いて自律的に稼働するサービスが犯罪行為を幇 助・助長した場合に、責任主体をどのように捉えていくべきか。 • 匿名性を強化するサービスが犯罪行為に悪用されることが想定される中 において、当該 犯罪行為を阻止するための執行方法のあり方 匿名のアドレスを利用した不公正取引の行為者の特 定に向けた課題 • 不公正取引の監視・執行能力の向上のため、オフチェーン情報も組み合 わせた統合的分析の推進が求められる。 デジタル資産に関する内部者取引への対応に向けた 課題 • 不公正取引の未然防止のための社内体制の構築が、暗号資産取引プ ラットフォーム運営者などの事業者にも求められる。 デジタル資産を用いた市場操作行為等への対応に向 けた課題 • デジタル資産の取引市場における市場操作行為の定義を整理し、有効な 市場操作防止策の検討を進めることが求められる。 • 流動性の低い(価格の操縦を受けやすい)トークンを担保としてトークンの 貸出等を行 う場合に、操作された担保価値に基づいて過大な貸出等をし ないための有効な対策が課題。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 13
7.現下の対応状況と将来的に対応すべき課題 7.2 デジタル資産の不公正取引への対応における今後の課題(2/2) 公正価値測定手法が未確立な流動性の低い自社固 有トークン等を担保にした資金調達による相互連関 性 • 保有者の集中等によって流動性が低い自社固有トークン等を、その公正 価値評価の手法が未確立にもかかわらず、当該トークン等を担保に資金 調達したり、過大な資産計上を行う慣行が見られ、結果として暗号資産市
場の急落時に 連鎖的な信用不安を生じるに至った。 デジタル分散型金融サービスの技術的脆弱性を利用 した不公正取引等への対応に向けた課題 • 米国法において暗号資産のハッキングは、未承認のアクセスとして訴追 されているが、 スマートコントラクトを正常に動作させることを通じた DeFi へのハッキングは、未承認のアクセスとは何かについて疑義を掲げてい る。 国境を越えて展開される不公正取引行為への対応に 向けた課題 • 規制・監督水準が低い国・地域から全世界にデジタル分散型金融のサー ビスを提供することで不正行為に係る規制のアービトラージが実現してし まう。 DAO のガバナンスに係る法的整理に関する課題 • 攻撃者が搾取した資産の一部返還と引換えに、 DAO による訴追の権利 を放棄することを投票により合意した DAO が、当該結果を無視して裁判 で攻撃者を訴追した事例があり、 DAO のガバナンスの法的根拠の不足 が強調されている。 第Ⅲ章 法規制当局によるデジタル資産の不公正取引に係る執行事例等 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 14
第Ⅳ章 本調査の結論(1/3) 本調査では、デジタル資産の不公正取引等に係る規制及び執行事例等の調査を行った。 • 「規制調査」の結果 ◦ デジタル資産に係るインサイダー取引や市場操作等に関する 規制及び監視・執行体制について ▪ 米国では「証券」や「商品」等といった既存の枠組みを実態に応じて適用して規制・執行している
▪ EU では既存の規制で対応しているセキュリティ・トークンに加え、 暗号資産を対象とした規制・執 行枠組みの導入を進めている といった違いがある ◦ AML/CFT 規制・執行体制に関して ▪ 米国及 び EU においても、基本的にはデジタル資産に係る取引についても、その性質に応じて、 既存の規制・執行枠組みが適用される ▪ そのため、既存金融に係るサービス提供者と同様の規 制・執行がデジタル資産のサービス提供 者にも適用される ◦ 日本においては、規制の適用関係及びその対象の明確化は諸外国に比べ比較的進んでいる ▪ 例えば、EU の MiCAR は、暗号資産に適用す るインサイダー取引規制等に関し、日本よりも一 歩踏み込んだ制度整備等が盛り込まれて いるといった特徴が見られる。 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 15
第Ⅳ章 本調査の結論(2/3) 本調査では、デジタル資産の不公正取引等に係る規制及び執行事例等の調査を行った。 • 「執行事例等の調査」の結果 ◦ 米国において、 いかなるデジタル資産又はその取扱業者が規制対象となるかについて法令上十分に明 確化が図られていない 中で、米国当局(SEC、CFTC、DOJ
等)による積極的な執行 が行われている ◦ 一方、既存金融における不公正取引と共通の特徴・課題以外にも、 デジタル資産の不公正取引固有の 特徴・課題がみられた • デジタル資産の不公正取引固有の特徴・課題 ◦ 分散型プロトコルないしアプリケーションの ガバナンスに関する実態把握及び責任主体の特定 ▪ ガバナンス構造の把握と規制名宛人としての捕捉可能性 ◦ 取引の匿名性を強化する ことを目的としたプロトコルやアプリケーションの 悪用への執行の確立 ◦ 流動性の低いトークンに関する第三者の取引所における価格を自動で参照するプロトコルやアプリケー ションにおける 相場操縦に対する技術的対策 ◦ オンチェーン情報とオフチェーン情報の統合的な分析による 不公正取引の監視・執行能力の向上 • これらの特徴・課題について、国際機関や各国・地域の当局やデジタル資産市場の関係者との議論を通じて更 に理解を深め、実効的なソリューションを探っていく必要がある 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 16
第Ⅳ章 本調査の結論(3/3) 本調査では、デジタル資産の不公正取引等に係る規制及び執行事例等の調査を行った。 • DeFi はグローバルなプラットフォームとして運営されていることが通常であるため、各国の規制当局が相互に連携 し、規制及び監視に係る国際的な枠組みを検討していくことが必要 ◦ DeFi プラットフォームの一部は分散型を謳っているものの、その運営は、実態として中央集権的に行われてい
ることが指摘されている ◦ 一方、既存の規制ではその存在が前提とされている中央集権的な管理者・ゲートキ ーパーを持たない仕組み をあくまで志向する DeFi がある場合にどのように規制を適用していくべきか について、まずは不正事案等の 実態を把握・分析し、具体事例を踏まえながら検討していく ことが考えられる。 • デジタル資産の取扱事業者の倒産事例が多発 していることも踏まえると、利用者保護の観点から、 デジタル資産の私 法上及び倒産手続上の取扱いの明確化の視点も不可欠 ◦ 特に米国では、デジタル資産の法的な取扱いに関する法改正( UCC 改正、連邦倒産法改正等) や、デジタル 資産のカストディアンの倒産時における顧客保護の課題解決に向けた動き が顕著 出典:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230427/20230427_report_digitalassets.pdf 17