株式会社Ridge-i内の2019年度インターンシッププログラムで行った基礎講座。
第5話は人工知能第2次ブームの立役者であるエキスパートシステムについて。2011年に、人間のクイズチャンピオンを早押しで打倒したAIが話題になりましたが、第2次ブームの技術も活かされています。
対応する動画が https://youtu.be/cpS0eg33Onc にアップロードされておりますので、ご興味があればご覧ください。
Ridge-i インターンシッププログラム人工知能・機械学習(AI/ML)基礎講座第5話 第2次AIブームルールベースとエキスパートシステムChief Research Officer牛久 祥孝
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1.2. 第2次AIブーム
Take Home Message• 第1次ブームの終焉– フレーム問題– 「知識」への注目• 第2次AIブーム(1980年代)– ルールベースとエキスパートシステム– オントロジー• 現在も続く知識ベースの人工知能への取り組み– ワトソン
第1次AIブームの終焉• フレーム問題– ジョン・マッカーシー(人工知能という言葉をつくりだした、ダートマス会議の主催者)が1969年に指摘– あるタスクを実行する際に、• そのタスクに関係あること• そのタスクに関係ないことを分離して動作を記述することが非常に難しい、という問題• 本講義ではダニエル・デネットの例[1984]をもとに作成した例を紹介
ネズミ型ロボットN1• チーズを動力源として消費する• チーズを探して摂取する機能を実装済みチーズを発見!
ネズミ型ロボットN1• チーズを動力源として消費する• チーズを探して摂取する機能を実装済み
ネズミ型ロボットN1• チーズを動力源として消費する• チーズを探して摂取する機能を実装済み罠にかかってエネルギー切れ
ネズミ型ロボットN2• チーズを動力源として消費する• チーズを探して摂取する機能を実装済み• 「自分の起こそうとする行動によって発生する別の現象」を考慮する機能を追加チーズを発見!
ネズミ型ロボットN2• チーズを動力源として消費する• チーズを探して摂取する機能を実装済み• 「自分の起こそうとする行動によって発生する別の現象」を考慮する機能を追加チーズを発見!このチーズを取った時に左の木が倒れてくるだろうかこのチーズを取った時に左の葉っぱが飛んでくるだろうかこのチーズを取った時に下に穴が開くだろうかこのチーズを取った時に土が周囲から降りかかってくるだろうかこのチーズを取った時に奥の木が吹き飛んでくるだろうかこのチーズを取った時に空から隕石が降ってくるだろうか
ネズミ型ロボットN2• チーズを動力源として消費する• チーズを探して摂取する機能を実装済み• 「自分の起こそうとする行動によって発生する別の現象」を考慮する機能を追加チーズを発見!このチーズを取った時に左の木が倒れてくるだろうかこのチーズを取った時に左の葉っぱが飛んでくるだろうかこのチーズを取った時に下に穴が開くだろうかこのチーズを取った時に土が周囲から降りかかってくるだろうかこのチーズを取った時に奥の木が吹き飛んでくるだろうかこのチーズを取った時に空から隕石が降ってくるだろうか考え続けてエネルギー切れ
ネズミ型ロボットN3• チーズを動力源として消費する• チーズを探して摂取する機能を実装済み• 「自分の起こそうとする行動によって発生する別の現象」を考慮する機能を追加• 「自分の起こそうとする行動と関係ない現象は考慮しない」ようにする機能を追加チーズを発見!
ネズミ型ロボットN3• チーズを動力源として消費する• チーズを探して摂取する機能を実装済み• 「自分の起こそうとする行動によって発生する別の現象」を考慮する機能を追加• 「自分の起こそうとする行動と関係ない現象は考慮しない」ようにする機能を追加チーズを発見!このチーズと左の木が倒れるのには関係があるだろうかこのチーズと左の葉が飛来することは関係があるだろうかこのチーズを取ったと下に穴が開くことは関係あるだろうかこのチーズと土が周囲から降ってくることは関係あるだろうかこのチーズと奥の木が吹き飛んでくることは関係あるだろうかこのチーズと空の隕石には関係あるだろうか
ネズミ型ロボットN3• チーズを動力源として消費する• チーズを探して摂取する機能を実装済み• 「自分の起こそうとする行動によって発生する別の現象」を考慮する機能を追加• 「自分の起こそうとする行動と関係ない現象は考慮しない」ようにする機能を追加チーズを発見!このチーズと左の木が倒れるのには関係があるだろうかこのチーズと左の葉が飛来することは関係があるだろうかこのチーズを取ったと下に穴が開くことは関係あるだろうかこのチーズと土が周囲から降ってくることは関係あるだろうかこのチーズと奥の木が吹き飛んでくることは関係あるだろうかこのチーズと空の隕石には関係あるだろうか考え続けてエネルギー切れ
知識への注目• 第1次AIブームでの反省– 推論・探索のために限定されたルールの下であれば問題をとけた• 迷路の探索やパズルの解き方、定理の証明など– 現実の問題は解けるのか?• 病気の人をどう治せばいいか、など• お医者さんの代わりをしたいなら– お医者さん(エキスパート)の知識をコンピュータに入れよう!– ルールベースのエキスパートシステムが発展
ルールベースのエキスパートシステム• DENDRAL [Feigenbaum+, 1971]– 質量スペクトルから化学構造を推定するシステム• PROSPECTOR [Hart+, 1978]– 鉱床を発見するためのシステム• MYCIN [Shortliffe, 1976]– 医療診断のためのシステム– 例:ある細菌が緑膿菌と判定するルール• もし 細菌の培地は血液であり細菌のグラム染色による分類がネガティブであり細菌の形状が棒状であり患者の痛みがひどい• なら、この細菌は緑膿菌
エキスパートシステムでの知識表現の問題点• ルールが膨大になると、エキスパートシステムとしての拡張性やメンテナンス性が問題になる• 特に次の観点への無配慮が問題[武田, 2001]– 全体性:例えば農家におけるリンゴ選別機で必要なリンゴの情報(サイズや色)と、スーパーにおける商品選別機で必要なリンゴの情報(誰が育てたか、収穫日はいつだったか)は異なる。– 網羅性:さらに、農家におけるリンゴ選別機でも、違う国や地域の農家であれば違うルールが必要かもしれない。– 体系性:リンゴの概念が体系として与えられていないので、あるエキスパートシステムに与えた知識を別のシステムに共有したり再利用したりするのが難しい。– 変化可能性:今のリンゴであれば良いが、そのうち別の品種が登場した場合には、うまくいかないかもしれない。
オントロジー• 「概念化の仕様」 [Gruber, 1993]– 知識を共有し再利用するためのデータベース• Cyc Project– 「すべての木は植物だ」「東京は日本の首都だ」といった知識をすべて計算機に入力することが目的– ダグラス・レナートが1984年から現在に至るまで続けているプロジェクト• WordNet– ジョージ・ミラーが1980年代に構築開始– 単語の同義語、抽象的かどうかの親子関係などを記述した辞書(シソーラス)
ワトソン• 2006年からIBMが開発を開始したQA(Question Answering)システム• 2011年にジョパディ!というクイズ番組で人間を破る– 自然言語によるクイズからオントロジーを高速で検索する技術– 深層学習の流行と同時期だが、深層学習による成果ではない(当時より機械学習は活用されており、現在のQAでは深層学習もよく用いられている)• 2016年に東京医科学研究所でワトソンのおかげである患者の推定困難な病気が正しく診断され、治療に成功したと発表– 2000万件以上のがんに関する論文をデータとして保持