Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

MATSUO MAKIKO

Genomethica
December 15, 2022

MATSUO MAKIKO

Genomethica

December 15, 2022
Tweet

More Decks by Genomethica

Other Decks in Science

Transcript

  1. View Slide

  2. 今日お伝えしたいこと
    •科学技術は社会に様々な影響をもたらすので、その考慮
    (=ELSI)は不可欠となる。
    • ELSIとは、倫理的・法的・社会的課題・含意
    •研究開発のファンドを取るうえでも、技術を世の中に出す
    うえでも、ELSI対応の検討を当たり前に行う時代に(いず
    れELSI対応は研究開発の一環に)。
    •そのためにも今から備えておく必要がある。
    •ではどう実践すれば良いのか?
    2

    View Slide

  3. View Slide

  4. 本日のお話
    なぜELSIが必要か
    各国におけるELSIの展開
    ELSIにかかわる具体的な活動事例
    4



    View Slide

  5. View Slide

  6. ゲノム合成に限らず、
    (新興)科学技術は反対に遭うことが多い
    • 反対の理由は様々。。。Fear of “Loss” (Juma, 2016)
    →それへの対応が求められる
    • 物理的被害(事故や安全性・身体や環境への)→事故後の救
    済・補償。事故にならないように事前に予防的な安全性の確保
    や方策・ルール・制度を講じる。
    • 物理的利害(既得権益・セクターの利益)→自ら新たな事業に転じる。
    行政によるセーフティネットの提供・経済的補填・雇用創出、
    仕事の転換を促進する、調整・制度的後押し。
    • 特定の価値に抵触→社会の多様な価値の把握、対話・ニーズの吸
    い上げと共感。
    • 安全性の確保、既存の技術との関係、社会・産業構造・マー
    ケット、価値観など、様々な社会影響を「事前に」把握する
    こと(=テクノロジーアセスメント)が必要

    View Slide

  7. View Slide

  8. 新興技術と社会の間で(よく)あること
    8
    •法規制ギャップ:今の規制でカバーできない
    •ルールの後追い問題
    「新しい科学的なアイディアが芽生えて、それが革新的な技術となったとき、し
    ばしば技術が先んじて、規制当局や政府のコントロールは追いつかない」(by
    ジェニファー・ダウドナ)
    •その分先取りしていかないといけない(想像
    力の強化が求められる)
    "The Ultimate Life Hacker." Foreign Affairs. 11 May 2018. Web. 11 May 2018.
    https://www.foreignaffairs.com/interviews/2018-04-16/ultimate-life-hacker

    View Slide

  9. View Slide

  10. View Slide

  11. 基礎から応用までのスピードは速い
    11
    2019年2月8日:環境省自然環境局長通知「ゲノム編集技術の利用により得ら
    れた生物であってカルタヘナ法に規定された「遺伝子組換え生物等」に該当し
    ない生物の取扱いについて」
    • 生物多様性影響:カルタヘナ法
    • 食品安全:食品衛生法・食品安全基本法
    技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領(令和元年9月19日大
    臣官房生活衛生・食品安全審議官決定)」
    →日本は世界的にも早く規制上の取り扱いを明確化
    詳細参考:松尾(2021)「日本におけるゲノム編集技術応用プロダクトの規制上の取扱い明確化の経緯と課題の整理」
    https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo 11656214 po 20200506.pdf?contentNo=1

    View Slide

  12. 基礎から応用までのスピードは速い
    →様々なゲノム編集応用食品の社会導入が加速
    12
    「高成長トラフグ」
    2021年10月29日、リージョナルフィッ
    シュ(株)が厚生労働省・農水産省へ届出。
    レプチン(食欲を抑制するホルモン)を
    働かなくすることで一般よりも1.9倍の成
    長。
    「GABA 含有量を高めた
    トマト」
    2020年12月11日、サナテックシード(株)
    が厚生労働省・農林水産省へ届出。トマ
    トに元々あるGABA(血圧の上昇を抑える
    成分)を4-5倍増加。
    「可食部増量マダイ」
    2021年9月17日、リージョナル
    フィッシュ(株)が厚生労働省・農水
    産省へ届出。ミオスタチン(筋肉の発
    達を抑制)の機能を働かなくする。

    View Slide

  13. View Slide

  14. 開発段階からレギュラトリーサイエンスの検討も
    両輪で行う必要性
    「具体的なものが出てきてから考える」では遅い
    開発中に必要なデータを集められることもある。
    •社会導入の際に安全性確保は大前提となる+規制を考
    慮する際のエビデンスにもなる
    • 将来開発されるバイオ製品に関する安全性評価の研究蓄積が必要(NASEM,
    2016, NASEM 2017)
    • 合成生物学・ジーンドライブ等将来の技術の検討もすでに実施(NASEMの報
    告書、EFSAへの諮問)
    • 従来育種・GMと新興技術由来の育種の実態とリスクレベルに関する検討(欧
    州の科学的アドバイスのハイレベルグループ、SIPの研究)
    14

    View Slide

  15. View Slide

  16. 米欧の研究開発プログラムにおけるELSI/RRI
    • 欧米では研究開発プログラムに制度的に埋め込まれている
    • 米では:いわゆる「ELSI」は、ヒトゲノム計画でNIHが研究開発
    予算の3 ~ 5%(途中から最低でも5%)をELSI研究に充て
    る→こうした活動はその後のナノテク・イニシアティブにも。
    Real time Technology Assessment, RTA(Guston・ASU)に
    発展していく。
    • 欧州では:FP6以降、FP7「Science in Society:SiS」、
    Horizon 2020で「Science with and for Society:SwafS」・
    「責任ある研究・イノベーション(Responsible Research and
    Innovation:RRI)」プログラムでRRIとして制度化。
    16

    View Slide

  17. 日本におけるELSIに関する議論
    •科学技術政策全体レベル
    • 科学技術基本計画ではELSIは第3期から言及、直近の第6期
    科学技術基本計画(令和3年3月)にも。統合イノベ戦略
    (2019)にも。
    •大学での教育・センターが複数立ち上がっている
    • 例えば、、
    • 教育:東大のSTIGやテクノロジーアセスメントの授業、阪大の
    STiPSや文科省のSciREX事業の各拠点の取り組み、北大の
    CoSTEP等々
    • 阪大のELSIセンターや、慶応・中央大等々。。。。
    17

    View Slide

  18. (参考)日本でもELSI 対応が当たり前に
    • 第6期科学技術基本計画(令和3年3月26日)
    (6)様々な社会課題を解決するための研究開発・社会実装の推
    進と総合知の活用
    (b) あるべき姿とその実現に向けた方向性で、「広範で複雑な社
    会課題を解決するためには、知のフロンティアを開拓する多様で
    卓越した研究成果を社会実装し、イノベーションに結び付け、
    様々な社会制度の改善や、研究開発の初期段階からのELSI対
    応を促進する必要がある(p.42)
    • 我が国や世界が抱える社会問題の解決や科学技術・イノベー
    ションによる新たな価値を創造するために、 研究開発の初期段
    階からのELSI対応における市民参画など、人文・社会科学と
    自然科学との融合によ る「総合知」を用いた対応が必須となる
    課題をターゲットにした研究開発について、2021 年度より、関
    連のファンディングを強化する。 【文】(p.45)
    18
    https://www8.cao.go.jp/cstp
    /kihonkeikaku/6honbun.pdf

    View Slide

  19. 日本のバイオ分野のELSIに関する議論
    •バイオの分野でも
    • 特にゲノム編集を念頭に、統合イノベ戦略(2019)や、バイオ戦
    略(2019、2020、2021)ELSIの重要性が指摘
    • バイオ戦略のフォローアップ(2021):「ELSI への対応とイノベーションの両立の基盤
    となる、人文・社会科学系と自然科学系の共同による ELSI 関連研究の振興と市民
    との対話を促進する。」
    •研究ファンドにおいてもELSIが位置づけられるように
    • JST戦略的創造研究推進事業(CREST/さきがけ)「ゲノムス
    ケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」研究領域
    19
    研究開発にも位置付けられる傾向は今後ますます強まって、
    ELSI対応や取り組みが当たり前の時代に。
    政策文書は、国の研究開発に大きな影響。

    View Slide

  20. View Slide

  21. ELSIに係る活動の事例 non-exhaustive
    様々なELSIの側面(技術の社会影響)を分析する
    ELSIにかかわる原則を掲げる
    議論の場を設けて様々な側面を議論・ネットワーキ
    ング
    研究推進と教育・人材育成の中への埋め込み
    21



    4

    View Slide

  22. 1.様々なELSIの側面を分析
    • 技術の社会影響をELSIの観点から分析(テクノロジーアセスメント:
    TA的な分析)
    • 分析のスコープも実施主体も様々
    • 網羅的な分析の事例:European Group of Ethics on Science and
    Technology (2021)などなど
    • セクターやイシュー別の分析事例:NASEM(2017) Preparing for Future
    Products of Biotechnology, NRC (2015) Industrialization of Biology,
    NASEM (2020) Safeguarding the Bioeconomyなどなど
    22

    View Slide

  23. 1.様々なELSIの側面を分析 cont.
    •ELSIの構成要素の一部の分析
    • 生命倫理的考慮
    • 管理・法規制ギャップ調査→SIPでも海外動向の調査
    • 特許や標準化
    • バイオ政策・科学技術政策・産業政策等政策分析
    • 関連ステークホルダー分析
    • 消費者意識や受容の調査・コミュニケーション。。。。などなど
    •個別研究プロジェクトごとELSI分析
    • 事例:iGEMからマンチェスター大学の取り組み→E.Coliによる合
    成パームオイルの作成が持つ、グローバルな市場、消費者受容、
    パームオイル農家、政治的産業的なインパクトなどを分析
    http://2013.igem.org/Team:Manchester/HumanPractices
    23

    View Slide

  24. 2.ELSIにかかわる原則・方針を掲げる
    様々な主体・形態(ルール的、RRI・説明責任的)によるものがありうる
    • 政府による原則の提示、指針・ガイドライン・行動規範
    • 学会・アカデミア・個別プロジェクト
    • 事例:Sc2.0 project( Saccharomyces cerevisiaeの合成)のStatement of
    Ethics and Governance
    • 産業界による原則・Code of Conduct等
    • バイオ関連企業の連合(the Coalition for Responsible Gene Editing in
    Agriculture)による「責任ある農業分野におけるゲノム編集の利用」の原則
    • Cf. ナノに関しては化学メーカーと環境NGOで「ナノ・リスク・フレームワーク」
    • NGO
    • 地球の友(FoE)による「合成生物学の監視のための原則Principles for the
    Oversight of Synthetic Biology」
    • DIYbioコミュニティ
    • Draft DIYbio Code of Ethics from European Congress(ヨーロッパと北米それ
    ぞれ作っている)
    24

    View Slide

  25. 3.様々なELSIの情報・議論の場の提供
    • シンポジウム等のアウトリーチ(一方向・双方向)
    • 事例:SIPの植物ゲノム編集技術ワークショップ
    • 多様なステークホルダーによる講演とネットワーキング
    • 事例:CRISPRCon。 キーストーン政策センター(米)が2017年から毎
    年企画・開催するステークホルダーを集めたCRISPRの社会的な議論
    の場。米国・欧州で開催。 Idea Market Place(参加者間でテーマを
    設定して議論する場)も提供。
    • 参加型TA:コンセンサス会議、市民パネル、グループディス
    カッションによる意見の抽出
    • 事例:「ゲノム編集に関するグループディスカッション」(2018年@北
    海道)
    • 意識喚起・アートとのコラボによる
    • 事例:バイオ・アートやスペキュラティブデザイン、参加・体験型のアート
    25

    View Slide

  26. 4.教育・人材育成を通じて実施
    • 授業や教育:ELSIや関連分野の講義や演習の実施
    • 事例:東大のSTIG(TA講義)・科学技術インタープリター養成プログラム、阪
    大のSTiPS、北大のCoSTEP、広大など
    • 学生コンペを通じたELSIの教育
    • 事例:iGEM(合成生物学の学生コンペ)
    • 2003年にMITの授業として開始、夏のコンペとなり今は財団に。2019年に
    は40か国以上から353チーム、約6千人が参加。
    • iGEM Competition, Safety & Security, Human Practices, iGEM Registry.
    • バイオセイフティ・バイオセキュリティ: SSCを設置。Safety Security Awardでインセ
    ンティブ付与。各チームは自分のプロジェクトのリスクを特定、SSCがチェック。急速
    な技術の進展に合わせてadaptive risk management approach/方針の更新も。
    • Human Practices:2017年からJudging systemに導入。日常の作業に、自分のプロ
    ジェクトが持つ、セイフティ・セキュリティだけでなく社会的なインパクト、そしてそ
    の反対も意識するというHPアプローチが取り込まれるようにすることを目的にしてる。
    • マンチェスター大学の事例
    • 欧州のプログラムとの連携も:SYNENERGENE/iGEM Partnership
    26

    View Slide

  27. ELSI・RRIにかかわる活動の実践上の難しさ
    • ELSI/RRIの多様性
    • 考慮すべきELSIは技術や応用対象、どの側面を切り取るかによって異なる。
    • 成果物もいろいろ。
    • 「正しい」手順や回答・画一的手法・解決はない。
    • チェックリストの作成と利用(欧州のRRI Tools)も一定程度は役立つかもしれないが、
    問題ごとに “tailored approach”を取っていくのが良い(ERA-NET Cofund on
    Biotechnologies)。
    • 多層的な実践も必要:個々のプロジェクトでも大事だが、集団としての検討も大事。
    産業、学会、政府レベルもあるだろうし、それ全体を包含するものもあり得る。
    • Good Practiceを蓄積していくことが大事→良い事例があったら是非共有してく
    ださい!
    • 様々な事例を収集する。
    • まずはやってみる。参考:iGEMのコンペ、人工知能学会 AI ELSI賞
    • 全部は自前でできない。関連する専門家・アクターを集める力も要る。
    27

    View Slide

  28. 自然科学系と社会科学系の「総合知」
    • 研究開発プロセス・教育・学会の活動に組み込んでいくことが求められる。意識づけ(頭
    の隅に置いておく)。
    • 注意点:ELSIやRRIが目的化してはいけない。何のためにやるのか、の原点に立ち戻る。
    • →一緒に考えていきましょう!→ご相談はRISTEX ゲノム倫理研究会まで
    28
    自然科学系 社会科学系
    「総合知」

    View Slide

  29. 謝辞
    •ご清聴ありがとうございました。
    • 東京大学 公共政策大学院 STIG
    • SIP (スマートバイオ産業・農業基盤技術)国民理解コンソーシ
    アム 代表 高原学)
    • 科研A「新たな情報技術・バイオテクノロジーの国際的ガバナン
    ス-情報共有・民間主体の役割」(代表:城山英明)
    29

    View Slide