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学生のための伝熱工学.pdf

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August 14, 2025
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  1. 1 学生のための伝熱工学 赤字:コメント(重要だから赤色なわけではないが,基本的には理解につまずきそうな 場所について述べている) はじめに:熱力学と伝熱工学の違い まず,読者がすでに学んだであろう「熱力学」と,これから学ぶ「伝熱工学」の違いか ら始めよう. 熱力学は,ある状態 A から別の状態

    B へ変化するときの「エネルギーの収支」を扱う 学問だ.例えば,「1 リットルの水を 20℃から 100℃にするのに,どれだけの熱エネル ギーが必要か?」という問いに答える.君が知っている dQ = mcdT (Q = mcΔT)の式 は,まさにこの計算に使われるもので,熱力学の第一法則に基づいている.これは系の 平衡状態(系が外部からの影響を受けず,温度,圧力,体積などの物理量が時間的に 変化しない状態)に注目していて,時間の概念はあまり重要視されない. 一方,伝熱工学は,「どのくらいの速さで熱が移動するのか?」という熱の移動速度 (熱流束)を扱う学問である.同じ熱量でも,1 秒で伝わるのか,1 時間かかるのかで は,現象も必要な装置も全く異なる.つまり,伝熱工学は非平衡状態を扱い,時間と空 間における温度分布が非常に重要になる. 熱流束:単位時間・単位面積あたりに通過する熱エネルギーのこと.これが伝熱工学で 主に用いられる. 熱の移動形態には,大きく分けて以下の 3 つがある. 1. 熱伝導 (Conduction): 物質内で,分子の振動などが隣に伝わっていくことで熱が移 動する現象.静止した固体や流体内部で起こる. 2. 対流熱伝達 (Convection): 流体の「流れ」によって熱が運ばれる現象.伝導と流体 の移動(移流)が複合して起こる. 3. 熱放射 (Radiation): 電磁波によって熱が運ばれる現象.真空中でも熱が伝わる. このテキストでは,対流熱伝達,熱放射,熱伝導の順番でわかりやすいテキストになっ ていると思われる.特に学生が苦手意識を持ちやすい対流熱伝達については,かなり丁 寧に書いているため,ぜひ読んでみてほしい.
  2. 2 第 1 章 熱伝導 (Heat Conduction) 1.1 熱伝導の基本法則:フーリエの法則 熱伝導の最も基本的な法則が,フーリエの法則だ.これは,経験則から導かれたもの

    で,熱の移動量(熱流束)は,その場所の温度勾配に比例するというものだ. 𝑞 = −𝑘 𝑑𝑇 𝑑𝑥 • q: 熱流束 (Heat flux) [W/m²].単位面積あたり,単位時間に流れる熱エネルギーの こと. • k: 熱伝導率 (Thermal conductivity) [W/(m·K)].物質固有の値で,その物質がどれだ け熱を伝えやすいかを示す指標.比例定数(y = ax + b の a)のようなもの. • dT/dx: 温度勾配 (Temperature gradient) [K/m].場所による温度の変化率. ここで重要なのが,式についているマイナス記号である.これは,「熱は温度が高い 方から低い方へ流れる」という物理法則(熱力学第二法則)を表している.dT/dx は温 度が上昇する方向を正とするから,熱流束 q はその逆向きになる.負号は非常に重要. 熱伝導の問題→まずフーリエの法則を考える. ここで,熱流束 q [W/m²] に断面積 A [m²] を掛けたものが,熱流 (Heat flow rate) Q [W] になる.Q = qA で,これは単位時間に流れる熱エネルギーそのものを表す. 熱伝導率 k は物質によって大きく異なる(これは問題では与えられるただの係数であ る). • 金属 (銅,アルミなど): k が大きい (数百 W/(m·K)).自由電子が熱エネルギーを活 発に運ぶため. • 液体 (水など): k は中程度 (約 0.6 W/(m·K)). • 気体 (空気など): k が小さい (約 0.026 W/(m·K)).分子がまばらで,エネルギーの伝 達効率が悪いため.断熱材は,内部に多くの空気を含むことで,この性質を利用し ている. 熱伝導率 k は「金属 > 固体 > 液体 > 気体」であることは覚える必要がある.
  3. 3 1.2 定常一次元熱伝導と熱抵抗 ここで述べる内容は順番の関係上,非常に分かりづらいと思うが,全て読んだらまた読 み返してみてほしい.実際は簡単な内容である. まずは最も簡単な,厚さ L の一枚の壁を考える.壁の両面の温度がそれぞれ T1, T2

    (T1 > T2) で一定に保たれている定常状態を考えよう. フーリエの法則 q = -k(dT/dx) を積分してみる(dT/dx を差分で表したいから.この言葉 の意味は Appendix まで読めばわかるであろう).定常状態では,壁の内部で熱の発生 や吸収がない限り,熱流束 q は場所によらず一定である.(∵定常状態とは,時間によ って温度や熱の流れが変化しない状態)熱伝導率 k も温度によらず一定と仮定すると, ∫ 𝑞𝑑𝑥 𝐿 0 = ∫ −𝑘𝑑𝑇 𝑇2 𝑇1 𝑞𝐿 = −𝑘(𝑇2 − 𝑇1 ) = 𝑘(𝑇1 − 𝑇2 ) よって,熱流束 q は, 𝑞 = 𝑘 𝐿 (𝑇1 − 𝑇2 ) となる.この式から,壁内部の任意の場所 x での温度 T(x) を求めてみると, 𝑞 = − 𝑇(𝑥) − 𝑇1 𝑥 ⟹𝑇(𝑥) = 𝑇1 − 𝑞 𝑘 𝑥 = 𝑇1 − 𝑇1 − 𝑇2 𝐿 𝑥 となり,温度分布は直線的になることがわかる. 定常状態→温度分布は直線的(覚えても良いと思われる).
  4. 4 ここで,電気回路とのアナロジーを導入すると,非常に見通しが良くなる.オームの法 則 I = V/R と比較してみよう. • 熱流 Q

    [W] ↔ 電流 I [A] • 温度差 ΔT [K] ↔ 電位差 V [V] • 熱抵抗 R_th [K/W] ↔ 電気抵抗 R [Ω] この考え方を使うと,平板の熱伝導は Q = ΔT / R_th と書ける.上の式と比較すると, 平板の熱抵抗 R_th は, 𝑅𝑡ℎ = 𝐿 𝑘𝐴 と定義できる.この「熱抵抗」の考え方は,複数の材質が重なった多層壁や,後述する 対流,放射が組み合わさった複雑な問題も,抵抗の直列・並列接続として考えられる. 一応のせておくが,機械系の学生で,これでしっくり来ている人を見たことがない.理 解していると便利であるが,わからなくても問題ない. 1.3 熱伝導方程式(一般形)と熱拡散率 今までは定常状態を考えてきたが,次は温度が時間と共に変化する非定常状態も含 む,より一般的な熱伝導方程式を導出してみよう. 図 1 のように微小な直方体要素 dxdydz を考え,その中での熱エネルギーの収支を考え る(ここは流体力学でナビエ・ストークス方程式を導出したときと同じ考え方であ る).
  5. 5 (単位時間あたりのエネルギー増加率) =(流入する熱量) - (流出する熱量) + (内部での発熱量) ・単位時間あたりのエネルギー増加率:dQ = mcdT

    = (ρ dxdydz)cdT を dt で除したもの ・流入する流量:x 方向については, 𝑄𝑥 = 𝑞𝑥 × 𝑑𝑦𝑑𝑧 = (ー𝑘 𝜕𝑇 𝜕𝑥 ) × (𝑑𝑦𝑑𝑧) ※y, z 方向も同様 ・流出する熱量:x 方向については,𝑄𝑥+𝑑𝑥 = 𝑞𝑥+𝑑𝑥 × 𝑑𝑦𝑑𝑧 ここで,𝑞𝑥+𝑑𝑥 = 𝑞𝑥 + 𝜕𝑞𝑥 𝜕𝑥 𝑑𝑥 + … (テイラー展開)より, 𝑄𝑥+𝑑𝑥 ≒ (𝑞𝑥 + 𝜕𝑞𝑥 𝜕𝑥 𝑑𝑥) × 𝑑𝑦𝑑𝑧 ≒ (𝑞𝑥 + 𝜕 𝜕𝑥 (−𝑘 𝜕𝑇 𝜕𝑥 )𝑑𝑥) × 𝑑𝑦𝑑𝑧 ※y, z 方向も同様 内部での発熱量:q’ × dxdydz(q’の単位は[J / (s・m^3)] = [W / m^3]) これはかなり簡単に導出している.本来はもう少し丁寧にするべき.より詳しく知りた いなら他の教科書を参照すること. 図 1 x z y x x+dx qx qx+dx dy dz
  6. 6 これより,以下の熱伝導方程式(または熱拡散方程式)が得られる. 𝜌𝑐 𝜕𝑇 𝜕𝑡 = 𝜕 𝜕𝑥 (𝑘 𝜕𝑇

    𝜕𝑥 ) + 𝜕 𝜕𝑦 (𝑘 𝜕𝑇 𝜕𝑦 ) + 𝜕 𝜕𝑧 (𝑘 𝜕𝑇 𝜕𝑧 ) + 𝑞′ • ρ: 密度 [kg/m³] • c: 比熱 [J/(kg·K)] • ∂T/∂t: 時間あたりの温度変化 • q’: 単位体積あたりの内部発熱率 [W/m³] もし,熱伝導率 k が場所によらず一定(k = const)であれば,式はもう少し簡単にな る. 𝜕𝑇 𝜕𝑡 = 𝑘 𝜌𝑐 ( 𝜕2𝑇 𝜕𝑥2 + 𝜕2𝑇 𝜕𝑦2 + 𝜕2𝑇 𝜕𝑧2 ) + 𝑞′ 𝑞𝑐 ここで,新しい物性値が登場する. 𝛼 = 𝑘 𝜌𝑐 この α [m²/s] を熱拡散率 (Thermal diffusivity) または温度伝導率と呼ぶ.これは,「温 度変化の伝わりやすさ」を示す物性値である. • k(熱伝導率)は「熱エネルギーそのものの伝わりやすさ」. • ρc(体積熱容量)は「単位体積あたりに熱をどれだけ蓄えられるか」. Q = mcΔT の mc を C として,「熱容量」(熱をどれだけ蓄えられるか)と呼ぶことを 理解していれば体積熱容量の概念を理解しやすいだろう. 熱拡散率 α が大きい物質は,相対的に,熱をあまり蓄えずに(ρc が小さい)素早く伝 える(k が大きい)ため,温度変化が瞬時に全体に広がる.逆に α が小さい物質は,温 度変化がゆっくりとしか伝わらない.
  7. 7 ここで,熱伝導方程式を使えばどんな問題が解けるのか,という問いに答える.以下は いくつかの例である. ①定常状態(t = const.)で,発熱量 q’ = 0 であれば,熱伝導方程式は,

    0 = 𝜕2𝑇 𝜕𝑥2 + 𝜕2𝑇 𝜕𝑦2 + 𝜕2𝑇 𝜕𝑧2 となる.仮に T が x,y,z それぞれの方向について独立した分布を持つならば, 𝜕2𝑇 𝜕𝑥2 = 0 𝜕2𝑇 𝜕𝑦2 = 0 𝜕2𝑇 𝜕𝑧2 = 0 である.これは,温度分布が直線(x 方向なら T = T1x + T2 )になるため,1.2 で示した 結果と一致する(熱伝導方程式は,「フーリエの法則より高等な式である」と言えるか もしれない).
  8. 8 ②非定常状態で,内部発熱 q’がなく,T が x のみの関数であるとき,熱伝導方程式は, 𝜕𝑇 𝜕𝑡 = α

    𝜕2𝑇 𝜕𝑥2 となる.これを流体力学でレイノルズ数を求めるときに無次元化するように,これも無 次元化してみる.厚さ L の板に対し,初期温度を Ti ,表面温度を Ts とする.このと き,以下の無次元変数を導入する. (i)無次元温度 θ: 温度を 0 から 1 の範囲で正規化. 𝜃 = 𝑇 − 𝑇𝑖 𝑇𝑠 − 𝑇𝑖 (ii)無次元位置 X: 位置を 0 から 1 の範囲で正規化. 𝑋 = 𝑥 𝐿 (i),(ii)を熱伝導方程式に代入すると, 𝜕𝑇 𝜕𝑡 = (Ts − 𝑇𝑖 ) 𝜕𝜃 𝜕𝑡 𝛼 𝜕2𝑇 𝜕𝑥2 = 𝛼 𝜕 𝜕𝑥 ( 𝜕𝑇 𝜕𝑥 ) = 𝛼 𝜕 𝜕𝑥 ( 𝑇𝑠 − 𝑇𝑖 𝐿 𝜕𝜃 𝜕𝑋 ) = 𝛼 𝑇𝑠 − 𝑇𝑖 𝐿2 𝜕2𝜃 𝜕𝑋2 ⇒𝜕𝜃 𝜕𝑡 = 𝛼 𝐿2 𝜕2𝜃 𝜕𝑋2
  9. 9 これで無次元化が完了したように思われるかもしれないが,時間 t が残っている.これ の解消のために,フーリエ数 Fo を導入する. 𝐹𝑜 = 𝛼𝑡

    𝐿2 これを代入すると,今度こそ熱伝導方程式を無次元化できる. 𝜕𝜃 𝜕𝐹𝑜 = 𝜕2𝜃 𝜕𝑋2 この無次元方程式は,熱伝導のプロセスにおいて,ある状態(特定の無次元温度分布 θ(X))に到達するのは,特定のフーリエ数 Fo の値においてであることを示す.つま り,厚かろうが薄かろうが,鉄だろうが木だろうが,熱が伝わって温度分布の「形」が 変化していくパターンそのものは,無次元化された熱伝導方程式という唯一の設計図 (完成形)に従う.フーリエ数 Fo は,その設計図(完成形)の「どの段階まで進んだ か」を示す%のようなものである.例えば,「板の中心の温度が,全体の半分まで上が った状態」を考える.これは,設計図(完成形)における特定の進捗段階に相当する. この状態に対応するフーリエ数の値は,例えば Fo=0.2 のように常に決まっている.厚 い板でこの状態に至るのも,薄い板でこの状態に至るのも,進捗段階で言えば等しく 「Fo=0.2」の地点である.これがなぜかわかるだろうか?無次元化された熱伝導方程式 には,個別の物体の「厚さ L」や「材質 α」といった情報は含まれていないからであ る. 長々と書いたが,違う観点から説明すると,フーリエ数はレイノルズ数と同じだから, と言っても良いかもしれない.レイノルズ数は,ナビエ・ストークス方程式を無次元化 したときに導入されるもので,例えば円管であれば,流速,円管の直径にかかわらず臨 界レイノルズ数は 2320 程度である.
  10. 10 よって,ある現象が完了する時間を t とすると,Fo は物体や寸法によらず一定であるた め, 𝐹𝑜 = 𝛼𝑡 𝐿2

    = 𝐶 として良い.これより,α が一定のとき,t と L との関係がわかる.熱が伝わるのに要 する時間 t は,厚さ L の 2 乗に比例する. 1.4 境界条件 微分方程式である熱伝導方程式を解くには,境界条件が必要になる.「境界で一致する のは何か?」という問いにここで答えよう. 固体と固体が完全に密着している場合,その境界面では 2 つのことが成り立つ. 1. 温度が連続である: T1 = T2 2. 熱流束が連続である: q1 = q2 つまり,−𝑘1 𝑑𝑇1 𝑑𝑥 = −𝑘2 𝑑𝑇2 𝑑𝑥 境界面で温度が不連続だと,その無限に薄い面で有限の温度差が生じることになり,熱 流束が無限大になってしまう(例えば熱湯に触れたとき,一番外側に存在する細胞のみ 熱湯と同じ温度になっているはずである.当然,温度勾配が存在するためその内側は瞬 時に同じ温度に至ることはない).また,熱流束が不連続だと,その面でエネルギーが 湧き出したり消えたりすることになり,エネルギー保存則に反する(発熱や吸熱がない 場合). この 2 つの条件は,後述する多層壁の熱抵抗を考える際の基礎となっている(Appendix にも載っている).
  11. 11 第 2 章 対流熱伝達 (Convective Heat Transfer) ここからが伝熱工学の華であり,流体力学の知識を持っている人であれば,その知識が 活きるであろう.

    2.1 対流とは?ニュートンの冷却法則 対流とは,流体のマクロな流れ(移動)によって熱が運ばれる現象である.例えば, やかんでお湯を沸かすとき,下から熱せられた水は軽くなって上昇し,上の冷たい水が 下降してくる.この循環によって熱が全体に効率よく伝わる.これが対流である. • 強制対流 (Forced convection): ポンプやファンなど,外部の力によって強制的に流 体を流す場合. • 自然対流 (Natural convection): 温度差による密度変化(浮力)によって流体自身が 流れる場合. 対流による熱伝達を扱う基本的な式が,ニュートンの冷却法則である. q = h(Ts − Tf) • q: 壁面での熱流束 [W/m²] • h: 熱伝達率 (Heat transfer coefficient) [W/(m²·K)] • Ts: 固体表面の温度 (surface) • Tf: 流体の主流温度 (fluid) この式はシンプルだが,対流熱伝達に苦手意識を持つ人が多い.なぜだろうか.それ は,熱伝達率 h が単なる物性値ではなく,流れの状態(流速,形状,流体の物性な ど)によって大きく変化する非常に複雑なパラメータだからである.伝熱工学(特に 対流)の目標の多くは,「この h をいかにして求めるか?」という点に集約されると 言っても過言ではない.逆に言えば,対流ではニュートンの冷却法則さえ覚えておけば 良いということでもある.大学の講義レベルの伝熱工学であれば,対流熱伝達の方が伝 導伝熱よりも簡単であろう.
  12. 12 2.2 温度境界層と熱伝達率の物理的意味 なぜ h はそんなに複雑なのか?その答えは境界層にある. 流体力学で速度境界層を学んだはずだ.物体表面では流速がゼロ(no-slip condition) で,表面から離れるにつれて主流速度に近づいていく薄い層のことである. もしかしたら速度境界層について学習していないかもしれないが,物体表面では流速が

    0 であることは知っているだろう. それと全く同じように,図 2 で示されるような温度境界層が存在する.表面温度 Ts の 物体周りを,主流温度 Tf の流体が流れているとしよう.物体に接している流体は,熱 伝導によって表面と同じ温度 Ts になる.そして,表面から離れるにつれて,次第に主 流温度 Tf に近づいていく.温度が変化している薄い層が温度境界層である. 図 2 ここで,非常に重要なポイントがある.先ほども述べたが,物体にぴったり接している 流体は,速度が 0 である.つまり,壁面での熱移動は,流れ(対流)によるものでは なく,純粋な「伝導」によってのみ行われる. したがって,壁面における熱流束は,流体の熱伝導率 kf を使ってフーリエの法則で書 けるはずである. 𝑞𝑠 = −𝑘𝑓 𝜕𝑇 𝜕𝑦 |𝑦 = 0 ここで, y は壁面に垂直な座標である(偏微分であるのは,単純に T が y のみの関数 ではないから).
  13. 13 この式と,ニュートンの冷却法則 qs = h(Ts - Tf) は,同じ壁面熱流束を表しているのだ から,等しいはず. ここで誤解しないように,h

    はあくまでも流体と,その流体の流れ方に対しての値であ る.h(Ts - Tf)は壁面について考えているのではなく,壁面位置の流体から主流温度の位 置の流体に対して考えている(流体全体について考えているということ).しかし,こ れはそもそも壁面の熱流束を出すための手順である(だから,壁面熱流束はこの式にな る).h は熱流束を出すために考えられた比例定数のようなものである(こうするのが 都合が良かった,ということ.h は人間が「勝手に」定義したもの).非常に難しい. ℎ(𝑇𝑠 − 𝑇𝑓 ) = −𝑘𝑓 𝜕𝑇 𝜕𝑦 |𝑦 = 0 この式を h について解くと,その物理的な意味が明らかになる. ℎ = − 𝑘𝑓 𝜕𝑇 𝜕𝑦 |𝑦 = 0 𝑇𝑠 − 𝑇𝑓 つまり,熱伝達率 h は,壁面における流体の温度勾配𝜕𝑇 𝜕𝑦 |𝑦 = 0 に比例する. だから,qs = h(Ts - Tf)という,温度差に比例するような式になっているのである. 温度境界層が薄ければ薄いほど,壁面での温度勾配は急になり,h は大きくなる.流れ が速い(乱流など)と,境界層は薄くなるため,熱伝達率は向上する.このイメージは 持っておくと良い. ちなみに,問題を解くときには,主流温度は「流体の温度」のことだと思って良い.
  14. 14 2.3 無次元数による支配法則 h を求めるために,毎回境界層内の詳細な温度分布を計算するのは現実的ではない.そ こで,実験結果や理論解析を,物理的に意味のある無次元数を使って整理するアプロ ーチがとられる.これは流体力学で抵抗係数をレイノルズ数の関数として整理したのと 同じ考え方. 対流熱伝達で登場する主要な無次元数は以下の 3

    つである. 1. レイノルズ数 (Reynolds number) Re 𝑅𝑒 = 𝜌𝑈𝐿 𝜇 = 𝑈𝐿 𝜈 ◦ 物理的意味: (慣性力) / (粘性力) ◦ 役割: 流れの状態が層流か乱流かを決定する最も重要なパラメータ.L は代表 長さ(円管なら直径,平板なら長さ).ν = μ / ρ は動粘性係数. 2. プラントル数 (Prandtl number) Pr 𝑃𝑟 = 𝜈 𝛼 = 𝜇 / 𝜌 𝑘 / 𝜌𝑐 = 𝑐𝜇 𝑘 ◦ 物理的意味: (運動量の拡散しやすさ) / (熱の拡散しやすさ) ◦ 役割: 流体の物性値のみで決まる.速度境界層の厚さ δ と温度境界層の厚さ δT の比の目安となる ( 𝛿 𝛿𝑇 ≈ Pr1/3). 動粘度:流体そのものの動きにくさ.大きいほど動きにくい. ▪ Pr << 1 (液体金属など): 熱が運動量よりずっと速く拡散する.温度境界層が 速度境界層より厚くなる. ▪ Pr ≈ 1 (気体など): 熱と運動量が同じくらい拡散する.境界層の厚さもほぼ 同じ. ▪ Pr >> 1 (油,高分子液体など): 運動量が熱よりずっと速く拡散する.温度境 界層が速度境界層よりずっと薄くなる.
  15. 15 3. ヌセルト数 (Nusselt number) Nu(非常に重要.これが問題を解くのに必須) 𝑁𝑢 = ℎ𝐿 𝑘𝑓

    ◦ 物理的意味: (対流による熱伝達) / (もし流体が静止していた場合の伝導による 熱伝達) ◦ 役割: 熱伝達率 h を無次元化したもの.Nu が大きいほど,対流の効果が大きい ことを示す.Nu = 1 は,流れがなく純粋な熱伝導のみが起きている状態を意味 する. これらの無次元数を使うと,複雑な対流熱伝達の問題は,驚くほどシンプルに表現でき る.すなわち, Nu=f(Re,Pr) ヌセルト数は,レイノルズ数とプラントル数の関数である. 物理的な意味は余裕が出てきてから理解しよう.とりあえずは式だけ暗記するべき. 伝熱工学の研究者たちは,様々な形状や流れの条件に対して,この関数 f の具体的な形 (相関式と呼ばれる)を実験や数値シミュレーションによって見つけ出してきた. 我々技術者は,その成果である相関式を利用して,具体的な h の値を計算する. 私は,対流熱伝達は h を計算する学問だと考えている(もちろん,問題を解く上では, という条件付きではあるが).
  16. 16 2.4 代表的な熱伝達相関式(色々と書いてあるが,重要なのは Appendix の解法であ る) ここでは,層流と乱流とで違う式が確立されていることと,強制対流と自然対流という 2 つの流れ方があるということを理解してもらえれば良い.式の意味はどうでも良い. a)

    平板上の強制対流(層流) 理論的に解くことができる数少ない例の一つ. • 局所ヌセルト数(先端からの距離 x での値): 𝑁𝑢𝑥 = 0.332 𝑅𝑒𝑥 1/2 𝑃𝑟1/3 • 平均ヌセルト数(長さ L 全体での平均値): 𝑁𝑢𝐿 = 0.664 𝑅𝑒𝐿 1/2 𝑃𝑟1/3 Re の 0.5 乗に比例していることに注目.流速 U が 4 倍になると,Re も 4 倍になり,h (つまり Nu) は√4 = 2 倍になることがわかる. b) 円管内の強制対流(乱流) 工業的に最もよく使われる式の一つが,Dittus-Boelter (ディタス・ベルター) の式である.これ は実験に基づいた相関式. 𝑁𝑢𝐷 = 0.023 𝑅𝑒𝐷 0.8𝑃𝑟𝑛 • D は円管の直径を意味する. • n = 0.4 (流体を加熱する場合) • n = 0.3 (流体を冷却する場合) • 適用範囲: 0.6 < Pr < 160, Re_D > 10000, L/D > 10 乱流では,Re の 0.8 乗に比例している.層流の 0.5 乗よりも指数が大きい.これは,乱 流になると渦運動による混合が激しくなり,境界層がさらに薄くなるため,熱伝達が劇 的に向上することを示している.流速が 2 倍になると,h は 20.8 ≈ 1.74 倍になる. これらの相関式を使って,流体の物性値と流れの条件(流速,代表長さ)がわかれ ば,Re と Pr を計算し,Nu を求め,最終的に未知だった h = Nu・kf / L を手に入れるこ とができる(ここが対流伝熱の問題の解き方そのもの).これが,対流熱伝達の基本 的な計算手順である.
  17. 17 第 3 章 熱放射 (Heat Radiation) 伝導,対流とくれば,最後の熱移動形態が放射である.これは前の 2 つとは少し毛色が

    違う. 3.1 ステファン・ボルツマンの法則 放射とは,物体がその温度に応じて電磁波を放出し,熱を伝える現象である.太陽の 熱が何もない宇宙空間を通って地球に届くのは,この放射のおかげである.伝導や対流 と違い,熱を伝えるための媒体(物質)を必要としないのが最大の特徴(真空状態で も熱を伝える事ができる). すべての物体は,絶対零度でない限り,常に熱放射を発している.その基本法則が, ステファン・ボルツマンの法則である. まずは理想的な物体である黒体(blackbody)を考える.これは,自身に入射するすべて の電磁波を完全に吸収し,また,ある温度において最大のエネルギーを放射する仮想的 な物体のこと. 光を 100 %吸収し,同時に 100 %放出する物体だということ. 黒体が放射するエネルギーの総量(熱流束)Eb は,その絶対温度 T の 4 乗に比例す る. Eb=σT4 • Eb: 黒体放射束 (Blackbody emissive power) [W/m²] • σ: ステファン・ボルツマン定数 (5.67×10−8 W/(m²·K⁴)).これは物理定数であるか ら,何も考えずにこの値を使用して計算すれば良い. • T: 物体表面の絶対温度 [K].摂氏[℃]ではないことに注意されたい. 温度の 4 乗に比例するということは,高温になるほど放射による熱伝達が急 激に支配的になることを意味する.例えば,温度が 2 倍になると,放射エネ ルギーは 24=16 倍にもなる.
  18. 18 3.2 現実の物体: 放射率と灰色体 現実の物体は黒体ではない.入射した電磁波の一部を反射したり,透過したりする.ま た,放射するエネルギーも黒体より小さい. そこで,黒体と比べてどれくらいの割合のエネルギーを放射するかを示す指標として, 放射率 (emissivity) ϵ

    を導入する. E = ϵσT4 • ϵ: 放射率 (無次元).0 ≤ ϵ ≤ 1 の値をとる. ◦ ϵ = 1 なら黒体. ◦ ϵ = 0 なら完全な反射体(放射を全くしない). • 物体によっては,放射率が波長によって異なることがあるが,現実の物体の多く は,放射率が波長によらずほぼ一定とみなせる.このような物体を灰色体 (gray body) と呼ぶ. 伝熱工学では,特に断りがなければ物体は灰色体として扱うことが多い.そのた め,難しく考えずに,伝熱工学で出てくる物体の放射率は一定の値を持っている, として良い. 放射率は物質の表面状態で大きく変わる.例えば,ピカピカに磨かれた金属表面 は ϵ が小さい(放射しにくい)が,同じ金属でも酸化して黒ずんだ表面は ϵ が大 きくなる(放射しやすい).
  19. 19 3.3 面間の放射熱交換と形態係数 ここが放射の難しいところである.2 つの面の間での熱交換を考えるとき,互いの「位 置関係」が重要になる. なぜか?面 1 から出た放射エネルギーがすべて面 2

    に行くとは限らないからである 面 1 から出た放射エネルギーのうち,どれだけの割合が面 2 に直接届くか?これを示す のが形態係数 (View factor, Shape factor) F12 である. • F12: 面 1 から面 2 への形態係数(無次元).0 ≤ F12 ≤ 1. • 相反関係として,A1F12 = A2F21 が常に成り立つ.ただし,証明は省略する. • 形態係数は,2 つの面の形状,大きさ,距離,向きだけで決まる純粋な幾何学的パ ラメータである. この形態係数と放射率を使うと,図 3 のような閉じた 2 つの灰色体表面(温度 T1 ・T2 ,面積 A1 ・A2 ,放射率 ϵ1 ・ϵ2 )間の正味の放射熱交換量 Q12 [W] が計算できる.非常に 複雑であるので,順を追って解説する. 0. 最初に,放射率 ϵ,吸収率 α,反射率 ρ について理解する必要がある. ある物体の表面に,外部から放射エネルギー(これを照射 G [W/m²]と呼ぶ)が当た ったとしよう.そのエネルギーの行方は,次の 3 つに分かれる. ・吸収 (Absorption): 物体内部に取り込まれ,熱エネルギーに変わる. ・反射 (Reflection): 物体表面で跳ね返される. ・透過 (Transmission): 物体を通り抜けて向こう側へ出ていく.
  20. 20 それぞれのエネルギーが,元の照射エネルギーに対してどれくらいの割合を占めるか を示したのが,吸収率 (absorptivity) α,反射率 (reflectivity) ρ,そして透過率 (transmissivity) τ である.当然,エネルギーは保存されるから,これらの和は必ず

    1 に なる. α + ρ + τ = 1 伝熱工学で扱う多くの固体は,光を透過しない不透明体 (opaque body) とみなせるか ら,τ= 0 とする.この関係はさらにシンプルになる. α + ρ = 1(不透明体) これは非常に重要な関係式だ.つまり,不透明な物体の表面では,吸収されなかった エネルギーは全て反射される,ということになる. さて,ここで放射を理解する上で最も重要な法則の一つ,ある物体が熱平衡状態にあ るとき,その物体の吸収率 α と放射率 ϵ は等しい.というキルヒホッフの法則 (Kirchhoff's law) が登場する. α = ϵ これは,「吸収しやすさ」と「放出しやすさ」が同じだと言っている.良い吸収体 は,良い放射体でもあるということである.例えば,鏡のような金属表面は光をよ く反射する(ρ が大きい→α が小さい)ので,熱してもあまり光を放射しない(ϵ も 小さい).この法則により,放射率 ϵ だけで物体の吸収特性もわかるようになっ た.
  21. 21 1. 面 1 の表面から出ていく全エネルギーを計算する. これを放射能 J と呼ぶことにする,放射能は,①自ら放射するエネルギー(E1 = ϵ1σ1T1

    4),②他の面からやってきた放射(これを G とする)のうち,反射するエネ ルギー(ρ1G1 )を足したものである.下の式で示せる. J1 = E1 + ρ1G1 = ϵ1σT1 4 + (1 − ϵ1)G1 (∵ρ1 = 1 - ϵ1 ) 2. 面 1 から出ていく正味の熱量 Q1 を求める. これは,面 1 から出ていく全エネルギー(A1J1 )から,面 1 に入ってくる全エネル ギー(A1G1 )を引いたものである. Q1 = A1(J1 – G1) この式に,1 で示される式を利用して G1 を消去する. 𝑄1 = 𝜎𝑇1 4 − 𝐽1 1 − 𝜀1 𝐴1 𝜀1 3. 同様に,Q2 を計算する. 𝑄2 = 𝜎𝑇2 4 − 𝐽2 1 − 𝜀2 𝐴2 𝜀2
  22. 22 4. これらより,面 1 から出て面 2 に届く熱量 Q1→2 ,面 2→1

    の熱量 Q2→1 を計算する. 繰り返しになるが,面 1 から出た全エネルギー(A1J1 )のうち,面 2 に到達する割 合が F12 であるから, Q1→2 = F12A1J1 Q2→1 も同様に, Q2→1 = F21A2J2 5. 正味の熱交換量 Q12 を計算する. これは, Q1→2 と Q2→1 との差であるから,下のようになる.ここで,A1F12 = A2F21 で あることに注意されたい. Q12 = A1F12(J1 – J2) ここで,閉じた 2 面間の定常状態における熱交換を考える場合,面 1 から出ていく 正味の熱量(Q1)は,2 面間の正味熱交換量(Q12)に等しい.また,面 2 が受け取る熱 量は面 1 から出ていく熱量と等しいから,Q2 = -Q1 = -Q12 となる.これを利用して J1 と J2 を消去する(自分でやってみると良い). 𝑄12 = 𝜎(𝑇1 4 − 𝑇2 4) 1 − 𝜀1 𝐴1 𝜀1 + 1 𝐴1 𝐹12 + 1 − 𝜀2 𝐴2 𝜀2
  23. 23 ※最もシンプルで重要なケースが,「有限の物体 1 が,無限の物体 2 に完全に囲まれて いる」場合である.このとき,物体 1 から出た放射はすべて物体 2

    に吸収されるので, F12=1 と考えられる.この場合の熱交換量 Q12 は,劇的に単純化されて以下の式で表せ る. Q12=A1ϵ1σ(T1 4−T2 4) なぜ放射率 ϵ2 が消えるのか?物体 1 から見て,物体 2 はどの方向を向いても「黒 体」のように振る舞うからである(ϵ2 = 1).これは非常に強力な近似で,多くの 問題がこれで解ける(ただし,導出できるため,覚える必要はない). 図 3 E1 = ϵ1 σT1 4 G1 ρ1 G1 = (1 − ϵ1 )G1 J1 Q1 = A1 (J1 – G1 ) 板1 板2 E2 = ϵ2 σT2 4 G2 ρ2 G2 = (1 − ϵ2 )G2 J2 Q2 = A2 (J2 – G2 )
  24. 24 第 4 章 総合的な熱移動 最後に,伝導と対流を組み合わせた,より実践的な問題を考えよう. 3.1 熱通過率 (Overall Heat

    Transfer Coefficient) この節は定常状態であることに留意されたい.図 4 のよう に流体 A(高温)と流体 C(低温)とが暑さ L の壁(物質 B)によって隔たれながら流れている.このとき,次の 3 段階のプロセスを経て熱が伝わる.①流体 A から A 側の 壁へ(対流),②A 側の壁から C 側の壁へ(伝導),C 側 の壁から流体 C へ(対流).これらについて,まずは熱流 束を考えてみる. ①𝑞𝐴 = ℎ𝐴 (𝑇𝐴 − 𝑇𝐴𝐵 ) ②𝑞𝐵 = 𝑘𝐵 (𝑇𝐴𝐵 − 𝑇𝐵𝐶) 𝐿 = 𝑘𝐵 𝐿 (𝑇𝐴𝐵 − 𝑇𝐵𝐶 ) ③𝑞𝐶 = ℎ𝐶 (𝑇𝐵𝐶 − 𝑇𝐶 ) ここで,① = ②,② = ③であるため,① = ② = ③となる(定常状態であるから,A 側の壁でも C 側の壁でも熱流束は②である.つまり,壁の熱流束は定常状態のときす べての場所で同じである.また,①と③とは対流のアプローチで求めた壁の熱流束で ある.だから,① = ②,② = ③).また,伝熱量 Q(QA = QB = QC ≡ Q)はこれに面 積 A をかけたものである.Q を変形し,TAB と TBC とを消去すると,下の式になる(是 非自分でやってみてほしい). 𝑄 = 1 1 ℎ𝐴 + 𝐿 𝑘𝐵 + 1 ℎ𝐶 𝐴(𝑇𝐴 − 𝑇𝐶 ) 壁B 流体A 流体C 0 L x 図 4
  25. 25 この式は少し複雑だが,熱交換器の設計などでは,これを一つの係数でまとめて表した い.そこで,熱通過率 (Overall heat transfer coefficient) K [W/(m²·K)] を導入する.

    Q=KA(Ti−To) ここで,A は基準とする面積である. 一応,熱流束について q = K(Ti - To)でも成り立つ. K は,内部の対流,壁の伝導,外部の対流という,全ての熱移動プロセスをひっくるめ た「熱の伝わりやすさ」を表す総合的な指標だ.熱交換器の性能は,この K の値と伝 熱面積 A で決まる.さらに,K は別の表し方もする. 1 𝐾 = 1 ℎ𝐴 + 𝐿 𝑘𝐵 + 1 ℎ𝐶 考え方としては,温度差の前の係数の逆数を足し合わせたものが熱通過率の逆数になる ということ. 結局何が言いたいかというと,熱通過率 K を導入することで,例えばこの章の最初に 提示したような流体 A・C,壁 B の熱交換器があるとしたら,それ全体を一つの係数に まとめることができるということである.だから,𝑄 = K𝐴(𝑇𝐴 − 𝑇𝐶 )のように,流体 A と流体 C との温度差から熱量が求められる式に変わっている.
  26. 26 例えば,内径 Di ,外径 Do の配管があり,内部を温度 Ti の高温流体が流れ,外部を温 度 To

    の低温流体が流れている状況を考える.熱は,内部流体から管の内壁へ(対 流),管壁を通り(伝導),管の外壁から外部流体へ(対流)と移動する. このとき,A は内面積 Ai か外面積 Ao のどちらかを使う(どちらを使用しても良い). 例えば外面積 Ao を基準にすると, 1 𝐾𝑜 = 𝐴𝑜 ℎ𝑖 𝐴𝑖 + 𝐴𝑜 𝑙𝑛 (𝐷𝑜 / 𝐷𝑖 ) 2𝜋𝑘𝐿 + 1 ℎ𝑜 となる. これは,円筒のように面積が複数ある場合,K はどちらを使用して求めても良いという 1 つの例である.
  27. 27 Appendix:伝熱問題解決のための実践的アプローチ Appendix 1 対流問題へのアプローチ:4 パターンの見極め方 対流熱伝達の問題に遭遇したら,まず最初に「流れの駆動源は何か?」そして「流れの 状態はどうか?」という 2 つの問いに答える必要がある.これにより,問題は大きく

    4 つのパターンに分類され,それぞれに適したアプローチが決まる. Step 1: 強制対流か?自然対流か? まず,流れが何によって引き起こされているかを見極める. • 強制対流 (Forced Convection) ◦ 見極めポイント: ポンプ,ファン,ブロワー,または物体の移動(例:走 行中の自動車)など,外部からの機械的な力によって流れが作られてい る. ◦ 支配的な物理現象: 慣性力と粘性力. ◦ 使うべき主要な無次元数: レイノルズ数 (Re).これが流れのパターンを決 定する. • 自然対流 (Natural Convection) ◦ 見極めポイント: 外部からの強制的な力がない.流体内の温度差に起因す *密度差(浮力)のみによって流れが駆動されている.(例:ストーブで 暖められた部屋の空気,温かいスープの表面からの湯気) ◦ 支配的な物理現象: 浮力と粘性力. ◦ 使うべき主要な無次元数: グラスホフ数 (Gr).これが流れのパターンを決 定する.
  28. 28 Step 2: 層流か?乱流か? 流れの駆動源を特定したら,次はその流れが穏やかな「層流」か,激しく混ざり合う 「乱流」かを見極める. 【パターン A】 強制対流のアプローチ レイノルズ数

    𝑅𝑒 = 𝑈𝐿 𝜈 を計算する.L は代表長さ(円管なら直径,平板なら流れ方向 の長さ). 1. 強制対流・層流 (Laminar Forced Convection) ◦ 条件: Re が比較的小さい領域.(例:円管内流れで Re < 2300,平板上で Re < 5 x 10^5) ◦ 特徴: 流れは規則的で,流体は層状に滑るように流れる.熱は主に伝導 と,規則的な流れによって運ばれる. ◦ アプローチ: 1. Re と Pr を計算する. 2. 層流用のヌセルト数 (Nu) の相関式を選択する. ▪ 例(平板): 𝑁𝑢𝐿 = 0.664 𝑅𝑒𝐿 1/2 𝑃𝑟1/3 3. 𝑁𝑢 = ℎ𝐿 𝑘 から熱伝達率 h を計算する. 4. q = h(Ts - Tf) または Q = hA(Ts - Tf) で熱流束・熱流を求める. 2. 強制対流・乱流 (Turbulent Forced Convection) ◦ 条件: Re が大きい領域.(例:円管内流れで Re > 4000) ◦ 特徴: 流れは不規則で,大小さまざまな渦が発生し,激しい混合が起こ る.この渦による混合(乱流拡散)が熱輸送を劇的に促進する. ◦ アプローチ: 1. Re と Pr を計算する. 2. 乱流用のヌセルト数 (Nu) の相関式を選択する. ▪ 例(円管内,Dittus-Boelter 式): 𝑁𝑢𝐷 = 0.023 𝑅𝑒𝐷 0.8𝑃𝑟𝑛 3. Nu から h を計算し,熱流束・熱流を求める.層流の場合と比べ て,Re の指数が大きいため h も大きくなる傾向がある.
  29. 29 【パターン B】 自然対流のアプローチ グラスホフ数 Gr を計算する. 𝐺𝑟 = 𝑔𝛽(𝑇𝑠

    − 𝑇𝑓 )𝐿3 𝜈2 • g : 重力加速度 [m/s²] • β: 体積膨張係数(理想気体なら β = 1/Tf ,Tf は流体の主流温度[K])[K-1] Gr は「浮力 / 粘性力」の比を表す.自然対流では,Gr と Pr の積であるレーリー数 (Ra = Gr * Pr) を使うと,強制対流のレイノルズ数のように,流れの状態を一つの指標で判 断できる. 1. 自然対流・層流 (Laminar Natural Convection) ◦ 条件: Ra が比較的小さい領域.(例:垂直平板で Ra < 109) ◦ 特徴: 浮力によって生じた流れが,比較的穏やかである状態. ◦ アプローチ: 1. Gr と Pr を計算し,Ra を求める. 2. 自然対流・層流用のヌセルト数 (Nu) の相関式を選択する. ▪ 例(垂直平板): NuL = 0.59RaL 1/4 3. Nu から h を計算し,熱流束・熱流を求める. 2. 自然対流・乱流 (Turbulent Natural Convection) ◦ 条件: Ra が大きい領域.(例:垂直平板で Ra > 109) ◦ 特徴: 浮力による流れが非常に活発になり,流れ場が不安定化して乱流に 遷移した状態. ◦ アプローチ: 1. Ra を計算する. 2. 自然対流・乱流用のヌセルト数 (Nu) の相関式を選択する. ▪ 例(垂直平板): NuL = 0.10RaL 1/3 3. Nu から h を計算し,熱流束・熱流を求める. このように,まずは流れの分類を正確に行うことが,正しい公式を選択し,問題を解く ための第一歩となる.
  30. 30 Appendix 2 フーリエの法則について 伝導伝熱の単元で出てきたフーリエの法則は,温度勾配に比例する式(𝑞 = −𝑘 𝑑𝑇 𝑑𝑥 )で

    あったが,熱通過率を出すときには温度差を壁の長さで除した式(𝑞 = 𝑘 (𝑇1 − 𝑇2) 𝐿 ) になっていた.これについて一応補足しておく必要がある. 先ず𝑞 = −𝑘 𝑑𝑇 𝑑𝑥 を,壁全体に適用できる単純な割り算の形にするために,私たちは無意 識に①定常状態,②一次元熱伝導(偏微分であるときはこの過程が必要だが,今回は 必要ない),③k が一定の 3 つの単純化を行い,積分している(本文 1.2 の通り). 実際には,𝑑𝑇 𝑑𝑥 → 𝛥𝑇 𝛥𝑥 → (𝑇1 − 𝑇2) 𝐿 のようなイメージを持っている人も多い(問題を解くだけ ならそれで問題ない). 4 章図 4 のような場合,これが定常状態なら,3.1 項のよう に,伝導から考えた,A 側の壁と C 側の壁との熱流束は, 𝑞𝐵 = 𝑘𝐵 (𝑇𝐴𝐵 − 𝑇𝐵𝐶 ) 𝐿 = 𝑘𝐵 𝐿 (𝑇𝐴𝐵 − 𝑇𝐵𝐶 ) となるが,非定常状態であれば,これらは順に, 𝑞𝐵(𝑥 = 0) = −𝑘 𝑑𝑇 𝑑𝑥 |𝑥 = 0 𝑞𝐵(𝑥 = 𝐿) = −𝑘 𝑑𝑇 𝑑𝑥 |𝑥 = 𝐿 となる(必ずしも両側の壁の熱流束が等しくならない.流入した熱の一部が壁の温度を 変化させるために蓄積されるため).なお,𝑇 = 𝑇0 (𝑥2 − 2𝑥 + 1)のように値が与え られている場合もあり,そのときは dT / dx に代入して微分した後,x に 0 や L を代入 すれば良い. 壁B 流体A 流体C 0 L x 図 4’