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COVID-19制御戦略設計のための試論

motoisuzuki
August 10, 2021
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 COVID-19制御戦略設計のための試論

motoisuzuki

August 10, 2021
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  1. 潜在的疾病負荷(ストック) 発生(フロー) 新規変異ウイルスの出現 感染力の上昇 → ↑ 重症化リスクの上昇 ↑ ↑ 重症化リスクの低下

    ↓ ↓ 再感染リスクの上昇 ↑ ↑ ワクチン接種 ↓ ↓ 治療薬 ↓ ↓ 外部要因が潜在的疾病負荷と発生に及ぼす影響 • 新規変異ウイルスの出現による感染力の上昇は、ストックには影響しないが、フローを上昇 させる。 • ワクチン接種による感受性人口の減少は、ストックを減少させ、集団内で感染者と非感染者 の接触機会を低減することから(実効再生産数の低下)フローを抑制する。したがってワク チン接種はストックを減少させる人為的要因であり、制御の手段でもある。 • 新規変異ウイルスの出現による再感染リスクの上昇は、ワクチンと逆のメカニズムでストッ クおよびフローの上昇に関係する。
  2. 供給コストと3つの緊急時コスト • 平常時には、疾病負荷の発生に際して供給コストが伴う。疾病負荷が急激に増大するときは、 これに加えて制御コスト、受容コスト、破綻コストが伴う。この3つを合わせて緊急時コスト と呼ぶ。 制度的なもの 社会的なもの 経済的なもの 平常時 供給コスト

    平時の医療公衆衛生サービスの提 供、コミュニケーション 平時の社会環境、衛生観念の維持 左記に伴うもの 緊急時 制御コスト 公衆衛生対応(サーベイランス、 検査、接触者追跡)の強化、医療 対応(治療、感染対策)の強化、 ワクチンの開発と導入、短期的コ ミュニケーション等 日常の感染対策、行動変容(接触 削減)、社会文化活動の変容、社 会心理的負荷、間接的要因による 疾病負荷(慢性疾患、精神疾患の 悪化) 左記に伴うもの 受容コスト 医療公衆衛生関連の設備投資、関 連人材の再配置・育成、長期的コ ミュニケーション、法令改正等 疾病概念の受容、受療行動の変化 左記に伴うもの 破綻コスト 一時的な他疾患の医療公衆衛生提 供体制の大規模な変更 一時的な通常医療・公衆衛生サー ビスへのアクセス制限、間接的要 因による疾病負荷(超過死亡等) の発生、社会心理的負荷 左記に伴うもの
  3. フローを最小化させる:最小化戦略 • 制御コストは最大である。 • 需要は常に供給閾値を下回ることから、必ずしも供給閾 値を上げる必要はない。 • 一定期間経過後の累積疾病負荷は最小である。 • ストックは不変であり絶えず最大限の制御を継続する。

    初期状態での制御戦略:最小化戦略、最適化戦略 フローを供給閾値に最適化させる:最適化戦略 • 最小化戦略に比べるとフローは大きいが、ストックの自然 増加を上回らなければストックは大きく減少しない。 • 供給閾値を継続的に上昇させることでフローは大きくなり ストックは減少する。 • 制御の強度は経時的に変化し、そのコストは最小化戦略よ りも小さい可能性がある。
  4. • 最大化戦略の場合、一定期間経過後に定常状態となる可能性があるが、閾値を上昇させない限り 理想状態に到達しない可能性がある。破綻コストおよび累積疾病負荷は最大となる。 • 最小化戦略の場合、ストックが減らないので理想状態に到達することはない。理想状態に到達す るためには、ワクチンや治療薬の導入、あるいは感染力や重症度の低下した新規変異ウイルスの 出現を待つ必要がある。 • 最適化戦略の場合、閾値を継続的に上げることでフローを増大させることができれば、やがて理 想状態が達成される可能性がある。ただしそれに要する制御コストと受容コストの総計は、最小

    化戦略のそれに近づく可能性がある。また理想状態に至る期間が長期に及ぶ場合には、最終的な 累積疾病負荷は最大化戦略のそれに近づく可能性がある。 3つの制御戦略の比較 最大化戦略 最小化戦略 最適化戦略 疾病負荷および需要のフロー +++ ± + 制御コスト ± +++ +~++ 受容コスト ±~+ ± +~++ 破綻コスト +++ ± ±~+ 一定期間経過後の潜在的疾病負荷 + +++ +~++ 累積疾病負荷 +++ ± +~++
  5. 問2 人為的要因による理想状態が期待される場合 初期状態において、一定期間が経過した後に、ワクチンあるいは治療薬によって理想状 態に到達することがあらかじめ見込まれるとき、いずれの戦略を選択することが合理的 か?またその合理性は何によって決まるか? 暫定的な解答 人為的要因によって理想状態に到達することが見込まれる場合、制御コストを問わなけ れば最小化戦略を選択することが合理的である。 制御コストの最小化を優先する場合には、最大化戦略が選択肢となる。この時、受容コ ストの見込みを考慮する必要がない。ただし、その定義上、最大化戦略の制御コストは

    ゼロであることから、ワクチンあるいは治療薬を導入する時点で最小化戦略あるいは最 適化戦略に戦略を変更することになる。 制御コストと累積疾病負荷を共に最小化することを優先する場合には、最適化戦略が選 択肢となる。このとき最小化戦略に対して最適化戦略を選択する理由は、制御コストが 相対的に小さいことである。最大化戦略に対して最適化戦略を選択する理由は、累積疾 病負荷と破綻コストが相対的に小さいことである。 理論的、定量的分析によって明らかにされるべき問い
  6. 問4 人為的要因によって理想状態に到達しないときの戦略変更 いずれかの戦略下で、ワクチン・治療薬では理想状態に到達しないとき、戦略を変更す ることが合理的となる条件は何か? 暫定的な解答 人為的要因によって減少した潜在的疾病負荷の状態から、初期戦略の場合と同様の選択 となる。 問5 自然的要因によって潜在的疾病負荷が増大するときの戦略変更 いずれかの戦略下で、ワクチン接種・治療薬使用の拡大によって免疫逃避あるいは重症

    化に関わる新規変異ウイルスが発生する(=潜在的疾病負荷が増大する)可能性がある とき、戦略を変更することが合理的となる条件は何か? 暫定的な解答 人為的要因によって減少した潜在的疾病負荷の状態から、見込まれる増大に基づいて初 期戦略と同様の選択をする。 理論的、定量的分析によって明らかにされるべき問い