$30 off During Our Annual Pro Sale. View Details »

C. P. Snow『二つの文化と科学革命』

meow3571
February 14, 2017

C. P. Snow『二つの文化と科学革命』

2017年に大学で読書会をしたときのもの

meow3571

February 14, 2017
Tweet

Other Decks in Education

Transcript

  1. 読書会
    『⼆つの⽂化と科学⾰命』
    2017/02/14
    @meow3571
    1

    View Slide

  2. 『⼆つの⽂化と科学⾰命』を読む理由
    ⽂系 vs 理系の対⽴を埋めることが「学際」である!
    → ⽂系 vs 理系の問題を指摘した、スノーって⼈がいるらしい!
    → 『⼆つの⽂化と科学⾰命』を揃ってお題⽬のように引⽤
    「有名だが誰も読んだことのない本のひとつ」
    ”孫引き”でカッコ悪く「学際」を語るより、
    スノーをちゃんと読んで、カッコ良く「学際」を語ろう!
    2

    View Slide

  3. よくある『⼆つの⽂化と科学⾰命』像
    タイトルにある「⼆つの⽂化」とは、現代において世界の問題の解決
    に貢献してきた“⾃然科学”と“⼈⽂科学”を指す。(by wikipedia)
    ”お題⽬”化した⼀節
    私はよく(伝統⽂化のレベルからいって)教育の⾼い⼈たちの会合に出席したが、彼ら
    は科学者の無学について不信を表明することにたいへん趣味をもっていた。どうにもこ
    らえきれなくなった私は、彼らのうち何⼈が、熱⼒学の第⼆法則について説明できるか
    を訊ねた。答えは冷ややかなものであり、否定的でもあった。私は「あなたはシェイク
    スピアのものを何か読んだことがあるか」というのと同等な科学上の質問をしたわけで
    ある。
    3

    View Slide

  4. C. P. Snow (1905-1980)
    科学者
    − ラザフォード(原⼦核の存在を提唱した⼈)のもとで研究
    − ビタミンAを⼈⼯に作り出して脚光を浴びる(も、後に撤回)
    ⼩説家
    − シリーズ⼩説『他⼈と同胞』が有名(⽇本語訳は6巻⽬のみ)
    政府、⺠間企業の重役
    − 労働省の技術部⻑、電⼒会社の重役・取締役などを歴任
    貴族
    − ⼀代貴族として、騎⼠(Knight)の爵位を得る
    → 1959年 ケンブリッジ⼤学 リード講演 “The Two Cultures”
    4

    View Slide

  5. 1950年代後半の時代背景
    冷戦構造(1945年〜)
    − 社会主義(ソ連など) vs 資本主義(アメリカなど)
    − 冷戦構造が、アジアなど他地域にも拡⼤(e.g. 朝鮮戦争)
    − アフリカ植⺠地の独⽴の機運(1960年:「アフリカの年」)
    スプートニク・ショック(1957年)
    − ソ連による⼈⼯衛星打ち上げの成功
    − ⻄側諸国で科学教育・研究の重要性が認識される
    5

    View Slide

  6. 『⼆つの⽂化と科学⾰命』を知るために
    1)「⼆つの⽂化」って?
    − 「⽂化その1」は、誰による、どんな⽂化なのか?
    − 「⽂化その2」は、誰による、どんな⽂化なのか?
    − 「⼆つの⽂化」に対するスノーの評価は?
    2)「科学⾰命」って?
    − スノーの⾔う「科学⾰命」は、どんなできごとなのか?
    − スノーは「科学⾰命」をどう評価しているのか?
    6

    View Slide

  7. 「科学⾰命」って?
    スノーによる「科学⾰命」
    ・産業⾰命に次ぐ、第2の⽣活の物質的な基盤の変化
    ・科学そのものの⼯業への応⽤(↔ 産業⾰命は「発明家」のアイデア)
    ・原⼦的な粒⼦が最初に⼯業的に利⽤されだした時期(1910〜20年代?)
    e.g. エレクトロニクス、原⼦⼒⼯業、オートメーション
    おまけ:科学史・科学哲学で⼀般的な「科学⾰命」
    1)コペルニクス、ガリレオ、ニュートンらの、17世紀の科学的発⾒
    (バターフィールド『近代科学の誕⽣』)
    2)それまでの通常科学で共有されたパラダイムの転換が起こること
    (クーン『科学⾰命の構造』)
    7

    View Slide

  8. 「2つの⽂化」って?
    ⽂化その1:⽂学に造詣の深い知識⼈
    − 伝統的な⽂化(⽂学、歴史 etc...)こそが”⽂化”である!
    − 科学に対して無理解(科学者は道徳的ではない!)
    ⽂化その2:科学者(特に物理学者)
    − 未来志向(科学の⼒で⼈々の暮らしを豊かにしよう!)
    − ⽂学的知識⼈には先⾒の明がない、反知性的だ!
    ・2つの⽂化はお互いについて無理解で、無価値だと思っている
    ・スノーは科学者側の⽂化(科学⾰命の可能性)を⽀持
    8

    View Slide

  9. スノーの仮想敵は誰か?
    スノーの仮想敵(≒⽂学的知識⼈)
    − ラスキン、モリス、ソロー、エマーソン、ローレンス etc…
    − 産業⾰命に批判的な詩⼈、美術家、思想家
    − 科学⾰命に反発する「⽣まれながらのラッダイト」だ!
    → イギリス社会で⼤きな影響⼒を持つ「⽂学的知識⼈」が、
    科学/科学⾰命や、その意義について無理解であることを批判
    おまけ:当時のイギリス官僚
    − ノースコート=トヴェリアン報告(1853年)
    → Oxbridgeで古典や歴史を学んだジェネラリストがエリート官僚に
    − 政策決定からの専⾨家の排除が問題に(1968年 フルトン報告)
    9

    View Slide

  10. スノーの危機意識
    1)南北格差、世界の貧困問題をどう解決するか?
    → 「科学⾰命」による物質的な豊かさだ!
    2)では、誰が世界的な「科学⾰命」を主導するのか?
    → 現在(50年代後半)は、ソ連が最も科学者の養成に成功
    → このままだと、我が⼤英帝国の世界的な影響⼒は失われる!
    3)イギリスが「科学⾰命」を主導できないのはなぜか?
    → イギリスの教育制度が過度に専⾨化していることが問題だ!
    → そのせいで、知識⼈層が科学に無理解なままである!
    ※Oxbridgeの給費⽣試験を頂点とした構図
    10

    View Slide

  11. スノーの主張していること
    主張①:科学⾰命を発展途上の国々にも広めて、貧困を無くそう!
    科学⾰命を広めるためにすべきこと
    1)資本の投下(⻄側諸国、ソ連の2つの資本源)
    2)⼈材の育成
    − 各国に派遣する科学者・語学者の育成(現状はソ連がリード)
    3)教育計画(途上国が⾃前で⼈材を育成できるようにするには?)
    主張②:2つの⽂化のあいだのギャップを無くそう!
    − ⽂学的知識⼈が、主張①を理解できていないことを問題視
    − 科学⾰命の価値を共有できれば、主張①を達成できる!
    11

    View Slide

  12. 『2つの⽂化と科学⾰命』のその後
    スノーのその後
    − 労働党政権にて、科学技術庁次⻑に(1964-1966年)
    − エリザベス2世より、男爵(Baron)の爵位を得る(1964年)
    リード講演のその後
    − イギリスを超え、全世界的に反響(と、中傷に近い批判)
    − 「その後の考察」をスノーが発表(1963年)
    − 「熱⼒学第⼆法則」の例を説明に使ったことを後悔
    ・熱⼒学は「科学⾰命」の意義の理解には直結しない
    ・分⼦⽣物学こそ、すべての⼈が学ぶべき科学的知識だ!
    12

    View Slide

  13. その後:スノー vs リーヴィス論争
    F. R. リーヴィス (1895-1978) :イギリスの⽂芸評論家
    − ハイカルチャーである上質の⽂学を保存する必要性を説いた
    − F.R.リーヴィスに代表されるスクルーティニー派
    美学的鑑賞能⼒のある少数者こそが⺠族の意識を形づくる!
    リーヴィスによるスノー批判
    − 「スノーは⼩説の何たるかを知らない!」
    − ⼈間的な価値を⽂学に⾒出す(↔ 科学は⾮⼈間的な営みだ!)
    − 科学によって物質的に豊かになっても、道徳性は喪われる!
    13

    View Slide

  14. スノーとエリオットの⽂芸評価
    H. G. ウェルズ (1866-1946) :イギリスの⼩説家(SF作家)
    代表作『タイムマシン』『モロー博⼠の島』
    スノー:「芸術家らしくない」「偉⼤な作家」として強く評価
    ↔ リーヴィス:科学技術の発展による『豊かさ』を書評で批判
    T. S. エリオット (1888-1965) :イギリスの詩⼈・劇作家
    代表作『荒野』
    第⼀次世界⼤戦後の⻄洋の混乱を前衛的な表現で、古典⽂学からの引⽤をちりばめて綴った難解な作品
    発表当時は理解されなかったが、リーヴィスによって評価される
    ↔ スノー:エリオットを「科学を敵視する⼈物」の典型に挙げる
    14

    View Slide

  15. まとめに代えて:「第3の⽂化」
    スノーによる「第3の⽂化」(1963年の「その後の考察」より)
    − 社会史、社会学、⼈⼝統計学、政治科学、経済学、⼼理学 etc...
    − ⼈間の⽣存について、(伝記ではなく)事実から考える学問
    − スノーの⾔い訳:イギリス教育が専⾨分化してるので⾒過ごした
    → これらの学問を通じて、科学との対話がいずれ達成される
    ブロックマンの「第3の⽂化」(1991年)
    − 科学者、経験主義的な思想家による(↔ 伝統的な⼈⽂学的知識⼈)
    − 科学が⼀般の⼈々の関⼼の対象になってきたことが背景に
    − 科学コミュニケーションの必要性
    15

    View Slide

  16. 参考⽂献
    ・Brockman, J. 1991. ”The Third Culture”
    https://www.edge.org/conversation/the-emerging
    ・Snow, C. P. 1959. “The Two Cultures” Cambridge university press. Cambridge UK.
    (= 松井巻之助 訳. 2011. 『⼆つの⽂化と科学⾰命』みすず書房.)
    ・井川ちとせ. 2015. 「リアリズムとモダニズム:英⽂学の単線的発展史を脱⽂脈化
    する」『⼀橋社会科学』, 7(別冊), 61-95.
    ・河野真太郎. 2013.
    『<⽥舎と都会>の系譜学 ⼆〇世紀イギリスと「⽂化」の地図』ミネルヴァ書房.
    ・佐倉統. 2002. 『進化論という考えかた』講談社現代新書.
    16

    View Slide