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C. P. Snow『二つの文化と科学革命』

meow3571
February 14, 2017

C. P. Snow『二つの文化と科学革命』

2017年に大学で読書会をしたときのもの

meow3571

February 14, 2017
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Transcript

  1. 『⼆つの⽂化と科学⾰命』を読む理由 ⽂系 vs 理系の対⽴を埋めることが「学際」である! → ⽂系 vs 理系の問題を指摘した、スノーって⼈がいるらしい! → 『⼆つの⽂化と科学⾰命』を揃ってお題⽬のように引⽤

    「有名だが誰も読んだことのない本のひとつ」 ”孫引き”でカッコ悪く「学際」を語るより、 スノーをちゃんと読んで、カッコ良く「学際」を語ろう! 2
  2. C. P. Snow (1905-1980) 科学者 − ラザフォード(原⼦核の存在を提唱した⼈)のもとで研究 − ビタミンAを⼈⼯に作り出して脚光を浴びる(も、後に撤回) ⼩説家

    − シリーズ⼩説『他⼈と同胞』が有名(⽇本語訳は6巻⽬のみ) 政府、⺠間企業の重役 − 労働省の技術部⻑、電⼒会社の重役・取締役などを歴任 貴族 − ⼀代貴族として、騎⼠(Knight)の爵位を得る → 1959年 ケンブリッジ⼤学 リード講演 “The Two Cultures” 4
  3. 1950年代後半の時代背景 冷戦構造(1945年〜) − 社会主義(ソ連など) vs 資本主義(アメリカなど) − 冷戦構造が、アジアなど他地域にも拡⼤(e.g. 朝鮮戦争) −

    アフリカ植⺠地の独⽴の機運(1960年:「アフリカの年」) スプートニク・ショック(1957年) − ソ連による⼈⼯衛星打ち上げの成功 − ⻄側諸国で科学教育・研究の重要性が認識される 5
  4. スノーの仮想敵は誰か? スノーの仮想敵(≒⽂学的知識⼈) − ラスキン、モリス、ソロー、エマーソン、ローレンス etc… − 産業⾰命に批判的な詩⼈、美術家、思想家 − 科学⾰命に反発する「⽣まれながらのラッダイト」だ! →

    イギリス社会で⼤きな影響⼒を持つ「⽂学的知識⼈」が、 科学/科学⾰命や、その意義について無理解であることを批判 おまけ:当時のイギリス官僚 − ノースコート=トヴェリアン報告(1853年) → Oxbridgeで古典や歴史を学んだジェネラリストがエリート官僚に − 政策決定からの専⾨家の排除が問題に(1968年 フルトン報告) 9
  5. 『2つの⽂化と科学⾰命』のその後 スノーのその後 − 労働党政権にて、科学技術庁次⻑に(1964-1966年) − エリザベス2世より、男爵(Baron)の爵位を得る(1964年) リード講演のその後 − イギリスを超え、全世界的に反響(と、中傷に近い批判) −

    「その後の考察」をスノーが発表(1963年) − 「熱⼒学第⼆法則」の例を説明に使ったことを後悔 ・熱⼒学は「科学⾰命」の意義の理解には直結しない ・分⼦⽣物学こそ、すべての⼈が学ぶべき科学的知識だ! 12
  6. その後:スノー vs リーヴィス論争 F. R. リーヴィス (1895-1978) :イギリスの⽂芸評論家 − ハイカルチャーである上質の⽂学を保存する必要性を説いた

    − F.R.リーヴィスに代表されるスクルーティニー派 美学的鑑賞能⼒のある少数者こそが⺠族の意識を形づくる! リーヴィスによるスノー批判 − 「スノーは⼩説の何たるかを知らない!」 − ⼈間的な価値を⽂学に⾒出す(↔ 科学は⾮⼈間的な営みだ!) − 科学によって物質的に豊かになっても、道徳性は喪われる! 13
  7. スノーとエリオットの⽂芸評価 H. G. ウェルズ (1866-1946) :イギリスの⼩説家(SF作家) 代表作『タイムマシン』『モロー博⼠の島』 スノー:「芸術家らしくない」「偉⼤な作家」として強く評価 ↔ リーヴィス:科学技術の発展による『豊かさ』を書評で批判

    T. S. エリオット (1888-1965) :イギリスの詩⼈・劇作家 代表作『荒野』 第⼀次世界⼤戦後の⻄洋の混乱を前衛的な表現で、古典⽂学からの引⽤をちりばめて綴った難解な作品 発表当時は理解されなかったが、リーヴィスによって評価される ↔ スノー:エリオットを「科学を敵視する⼈物」の典型に挙げる 14
  8. まとめに代えて:「第3の⽂化」 スノーによる「第3の⽂化」(1963年の「その後の考察」より) − 社会史、社会学、⼈⼝統計学、政治科学、経済学、⼼理学 etc... − ⼈間の⽣存について、(伝記ではなく)事実から考える学問 − スノーの⾔い訳:イギリス教育が専⾨分化してるので⾒過ごした →

    これらの学問を通じて、科学との対話がいずれ達成される ブロックマンの「第3の⽂化」(1991年) − 科学者、経験主義的な思想家による(↔ 伝統的な⼈⽂学的知識⼈) − 科学が⼀般の⼈々の関⼼の対象になってきたことが背景に − 科学コミュニケーションの必要性 15
  9. 参考⽂献 ・Brockman, J. 1991. ”The Third Culture” https://www.edge.org/conversation/the-emerging ・Snow, C.

    P. 1959. “The Two Cultures” Cambridge university press. Cambridge UK. (= 松井巻之助 訳. 2011. 『⼆つの⽂化と科学⾰命』みすず書房.) ・井川ちとせ. 2015. 「リアリズムとモダニズム:英⽂学の単線的発展史を脱⽂脈化 する」『⼀橋社会科学』, 7(別冊), 61-95. ・河野真太郎. 2013. 『<⽥舎と都会>の系譜学 ⼆〇世紀イギリスと「⽂化」の地図』ミネルヴァ書房. ・佐倉統. 2002. 『進化論という考えかた』講談社現代新書. 16