PHPでお金を扱う時、終わりのない謎の1円調査の旅にでなくて済む方法 ~ドメインコードの具体例を交えて~ / PHP Money Management: Ending the 1-Yen Mystery with Domain Code

PHPカンファレンス関西2025 - 07/19(土) - ルーム B 11:20 ~ , 45分セッション

## 話すこと
- PHPでstring, float, intを相互変換するとどのような問題が起きるのか、どのように実行されているのか
- センシティブな数値を扱う時、どのように扱うべきなのか
- UseCase、Domainの各層で具体的にどのように書くのか

## 説明
会計システムを作る時にPHPの数値仕様をしっかり理解した上で作らないと、後々大変なことになってしまう可能性があります。
小数点以下の誤差によって1円が消えたり増えたりしてしまうことがあり、1円の行方を巡って終わりのない、解決もしない調査の旅に身を投じることになるでしょう。
それが今なのか、いつなのかは分かりませんが、知っていれば防げる問題でもあります。

本セッションでは数値にはどんな問題があり、扱う時に何を気をつける必要があって、さらに扱いやすくするためにおすすめの方法をお話しします。

Transcript

1. PHPでお金を扱う時、終わりのない 謎の1円調査の旅にでなくて済む方法 〜ドメインコードの具体例を交えて〜 CARTA HOLDINGS fluct 開発本部 テックリード なっかー (@konsent_nakka) PHPカンファレンス関⻄ 2025 2025.07.19
2. 株式会社fluct テックリード なっかー @konsent_nakka 略歴 • 2020新卒でCARTA HOLDINGS⼊社 fluctに配属され6年⽬ • 1年⽬はパブリッシャー向け広告配信システム全体開発を担当 • 2年⽬から数年は1名で会計システムを保守管理 • 広告配信設定システム/ツール開発チームのテックリード 役割/領域 management engineering Front Server Data Cloud Intra
3. お⾦の計算といえば会計システム
4. 会計システムを開発してきた経験から 気付きづらい問題が潜むところを話します
5. ドルの⼊⾦レポートから、円の⽀払い⾦額を計算
6. $depositReportUSD = [ // 海外からの入金レポート (10行) 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1 ]; $sumUSD = 0.0; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD += $priceUSD; } 0.1ドルを10回足してみる
7. $depositReportUSD = [ // 海外からの入金レポート (10行) 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1 ]; $sumUSD = 0.0; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD += $priceUSD; } 0.1ドルを10回足してみる 四則演算を使っている
8. $depositReportUSD = [ // 海外からの入金レポート (10行) 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1 ]; $sumUSD = 0.0; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD += $priceUSD; } var_dump($sumUSD); // `float(0.9999999999999999)` 合計が1ドルにならない 1ドルを想像するがそうはなってない
9. $yenConversionRate = 150.0; $sumJPY = $sumUSD * $yenConversionRate; // 円に変換 $floorSumJPY = floor($sumJPY); // 支払いに利用するため切り捨てる 1ドルを円に変換すると150円になるはず
10. $yenConversionRate = 150.0; $sumJPY = $sumUSD * $yenConversionRate; // 円に変換 var_dump($sumJPY); // float(149.99999999999999) $floorSumJPY = floor($sumJPY); // 支払いに利用するため切り捨てる var_dump($floorSumJPY); // `int(149)` 1円消えた…… 150円を想定していたはず
11. コンピューターでは表現しきれない世界 • コンピューターは2進数 ◦ 表現できない数が存在する • 今回は0.1を表現できず、無限に続く小数(循環小数)として扱われる ◦ 0.1 = 0.0 0011 0011 0011…… ◦ 小数の規格は 浮動小数点数(IEEE754) を参照 • 何も気にせず扱うと、意図しない数字になる はじまり
12. 1円消えるとどうなる？
13. 問い合わせ • スプシで確認した金額とズレ はじまり 〜後日〜
14. 複雑なドメイン処理のなか 調査は厳しく推測に終わった
15. お⾦の様な正確性が求められる処理で 算術演算⼦を利⽤しない
16. AGENDA A 正しく計算する 1. 計算⽅法 2. ⽐較⽅法 3. 型変換 出来ていいことだけを出来るようにする 1. 型宣⾔ 2. 独⾃型定義 3. 全体の流れ B
17. AGENDA A 正しく計算する 01 計算⽅法 02 ⽐較⽅法 03 型変換 01
18. BCMathを使う
19. 小数の罠 • 算術演算子を利用した小数計算はコンピューター誤差の影響を受ける ◦ 算術演算子とは + - * / など ◦ 例えば 0.1 + 0.2 ≠ 0.3 • 誤差が発生しない仕組みが必要 計算方法
20. BCMath • PHPではBCMathという任意精度演算が拡張で用意されている ◦ bcadd - 2つの任意精度の数値を加算する ◦ bcsub - 任意精度数値の減算を行う ◦ bcmul - 2つの任意精度数値の乗算を行う ◦ bcdiv - 2つの任意精度数値で除算を行う ◦ bcfloor - 任意精度数値を切り下げる • https://www.php.net/manual/ja/ref.bc.php 計算方法
21. BCMath • BCMathはstringを引数として計算し、stringを返す ◦ bcadd(string $num1, string $num2, ?int $scale = null): string ◦ https://www.php.net/manual/ja/function.bcadd.php • 小数点第何位までの計算として欲しいのかはscaleで指定 計算方法
22. $depositReportUSD = [ // 海外からの入金レポート (10行) 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1, 0.1 ]; $sumUSD = 0.0; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD += $priceUSD; } $yenConversionRate = 150.0; $sumJPY = $sumUSD * $yenConversionRate; // 円に変換 $floorSumJPY = floor($sumJPY); // 支払いに利用するため切り捨てる 計算方法が良くない
23. $sumUSD = '0.0'; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD = bcadd($sumUSD, $priceUSD, 2); } $yenConversionRate = '150.0'; $sumJPY = bcmul($sumUSD, $yenConversionRate, 2); // 円に変換 $floorSumJPY = bcfloor($sumJPY); // 支払いに利用するため切り捨てる BCMathを利用したコード BCMath関数を使う
24. $sumUSD = '0.0'; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD = bcadd($sumUSD, $priceUSD, 2); } var_dump($sumUSD); // `string(1.00)` $yenConversionRate = '150.0'; $sumJPY = bcmul($sumUSD, $yenConversionRate, 2); // 円に変換 var_dump($sumJPY); // `string(150.00)` $floorSumJPY = bcfloor($sumJPY); // 支払いに利用するため切り捨てる var_dump($floorSumJPY); // `string(150)` BCMathを利用したコード 想定通り150円
25. 注意点 - BCMathの型 • BCMathでは基本的に計算対象の数値をstringとして扱う ◦ 戻り値もstring • 数値もstringで扱う必要がある 計算方法
26. 注意点 - PHP8.3以前 • BCMathはPHP8.3以前は使えない関数がある ◦ bcceil - 任意精度数値を切り上げる ◦ bcround - 任意精度数値を丸める ◦ bcfloor - 任意精度数値を切り下げる ◦ bcdivmod - 任意精度数値の商と剰余を取得する 計算方法
27. 注意点 - 速度の低下 • 速度は少しだけ遅くなる ◦ 正確性を犠牲にしてどこまで速くするべきなのかは疑問 ◦ パフォーマンスを犠牲にしてでも正確性が重要な場合は多い • PHPはバージョンが上がるごとに速くなっている ◦ BCMathは計算アルゴリズムの変更で数倍速くなっている ◦ https://qiita.com/SakiTakamachi/items/8510ff59b09592ceb51d 計算方法
28. 1000万回の雑計測で1.5倍程度 [PHP8.4] for($i = 0; $i < 10000000; $i++) { "2.34" * (string) $i; } /** * 0m 0.486s */ for($i = 0; $i < 10000000; $i++) { bcmul("2.34", (string) $i); } /** * 0m 0.718s */ BCMath 算術演算
29. AGENDA A 正しく計算する 01 計算⽅法 02 ⽐較⽅法 03 型変換 02
30. $price1 = 0.1 + 0.2; $price2 = 0.3; var_dump($price1); var_dump($price2); var_dump($price1 === $price2); BCMathを使わない場合は 等価 にならない
31. $price1 = 0.1 + 0.2; $price2 = 0.3; var_dump($price1); // 0.30000000000000004 var_dump($price2); // 0.3 var_dump($price1 === $price2); // false BCMathを使わない場合は 等価 にならない 等価にならない
32. $price1 = bcadd('0.1', '0.2', 2); $price2 = '0.3'; var_dump($price1); // `string(0.30)` var_dump($price2); // `string(0.3)` var_dump($price1 === $price2); // false '0.30' === '0.3' BCMathで計算しても 等価 にならない 通常文字列比較だと小数点以下の 0有無が違う
33. 比較の罠 - 数値と数字 • 小数の比較は意図しない結果になることもある ◦ BCMathを使っていない計算では特に • BCMathを使った計算結果でも比較演算子による比較が失敗しうる ◦ 小数末尾の0の有無などで厳密な比較(===)で失敗する ◦ “0.1” ≠ “0.10” と判断される 比較方法
34. bccompで⽐較する
35. 比較の罠 - 数値と数字 • BCMathで計算し、BCMathで比較する ◦ BCMathで比較すれば同一の”数値”として判断してくれる • お金など、厳密な計算を伴うところは基本的にはすべてBCMathを使 うべき 比較方法
36. bccomp(string $num1, string $num2, ?int $scale = null): int • bccompは第一引数と第二引数の比較をする関数 ◦ 第一引数が大きければ 1 ◦ 第二引数が大きければ -1 ◦ 等価であれば 0 • scaleにより等価かどうか変わる点は注意 ◦ bccomp('1.001', '1', 2); // 0 ◦ bccomp('1.001', '1', 3); // 1 比較方法
37. $price1 = bcadd('0.1', '0.2', 2); $price2 = '0.3'; var_dump($price1); // `string(0.30)` var_dump($price2); // `string(0.3)` var_dump($price1 === $price2); // false '0.30' === '0.3' var_dump(bccomp($price1, $price2, 2) === 0); // true 数値としての比較 想定通り等価として扱われる
38. 計算と⽐較、両⽅揃って初めて想定通りになる
39. AGENDA A 正しく計算する 01 計算⽅法 02 ⽐較⽅法 03 型変換 03
40. 型変換の挙動を実感するために 算術演算⼦を使ったサンプル
41. (中略)ここまでは既存と一緒 $sumUSD = 0.0; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD += $priceUSD; } 0.1ドルを10回足すコード
42. (中略)ここまでは既存と一緒 $sumUSD = 0.0; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD += $priceUSD; } var_dump($sumUSD); // 0.9999999999999999 var_dump((string) $sumUSD); var_dump((int) $sumUSD); 合計は0.9999の循環小数に
43. (中略)ここまでは既存と一緒 $sumUSD = 0.0; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD += $priceUSD; } var_dump($sumUSD); // 0.9999999999999999 var_dump((string) $sumUSD); // 1 var_dump((int) $sumUSD); // 0 float / string / int で乖離
44. PHPにおける浮動小数点数の型変換 • 小数をstringにする過程でイプシロンは丸められる • PHPは利用者に扱いやすい変換を提供しようとしてくれる ◦ それが仇となって難しい挙動を生み出している？ 型変換
45. PHPにおける浮動小数点数の型変換 • 場合によっては 1.0E-6 のようなE表記になってしまう ◦ var_dump((string)0.000001); // 1.0E-6 ◦ E表記はBCMathの引数として渡すと怒られる ◦ floatはsprintfで変換する 型変換
46. (中略)ここまでは既存と一緒 $sumUSD = 0.0; foreach ($depositReportUSD as $priceUSD) { $sumUSD += $priceUSD; } var_dump($sumUSD); // 0.9999999999999999 var_dump((string) $sumUSD); // 1 var_dump((int) $sumUSD); // 0 var_dump(sprintf('%.16f', $sumUSD)); // 0.9999999999999999 float / string / int で乖離
47. PHPにおける浮動小数点数の型変換 • sprintfを使っていても桁数によっては想定外の数値が出てくる ◦ sprintf('%.16f', $sumUSD)も16桁なので想定通り ◦ さらに17桁目を表示すると末尾に8が出てくる • そもそも不要な型変換をしないのがベスト ◦ BCMathで計算する数値は基本的にstringとして扱う 型変換
48. ここまでで計算の正確性は担保された
49. 次はお⾦計算のミスを防ぐ
50. 例えばBCMathを使い忘れたり、 数値を取り違えたり、 使い⽅を間違えたりする
51. 間違いやすいロジックはお⾦の調査を困難にする
52. 出来ていいことだけ 出来るようにしよう
53. AGENDA A 出来ていいことだけを出来るようにする 01 型宣⾔ 02 独⾃型定義 01 B 03 全体の流れ
54. プリミティブ型とBCMathを使ったサンプル
55. $price1 = bcadd('0.1', '0.2', 2); $price2 = '0.3'; bccomp($price1, $price2, 2) === 0; // true 比較方法の章で使ったコード
56. 関数にしてみる
57. function 二つの値を計算して比較する関数 ( string $expected, string $actualLeftOperand, string $actualRightOperand, ): bool { $actual = bcadd($actualLeftOperand, $actualRightOperand, 2); return bccomp($actual, $expected, 2) === 0; } 二つの値を計算して比較する関数 ('0.3', '0.1', '0.2'); メッセージを出力し、比較する関数
58. 全部stringだけど 数値として扱いたくないだろうか？
59. そもそもbcmathを忘れずに 全ての箇所で使⽤できるだろうか？
60. プリミティブ型 • stringにはじまりPHPには多くのプリミティブ型が存在する ◦ Javaでは byte / char / short / long ◦ JavaScriptでは symbol / undefined / null ◦ Golangでは complex64 / rune / uintptr • プリミティブ(=原始的)というように汎用的な型 ◦ 汎用的で何でもできて容易に壊せる ◦ 壊さないように使い方を脳に留めておく必要があり辛い 型宣言
61. 引数の型を狭くして ⽤途を絞ろう
62. BCMath\Number • BCMathはPHP8.4でBCMath\Numberというクラスが登場 ◦ new BCMath\Number(‘0.1’) ◦ string | int を引数として作れるBCMath用の型 ◦ BCMathが提供している計算関数が実装されたクラス • 数値の型を限定して、それ以外のstringと区別するべき ◦ 数値も通常文字列もstringなのは緩すぎる ◦ 静的解析でも数字になっているかどうかは指摘されない ◦ 実行時エラーになる 型宣言
63. function 二つの値を計算して比較する関数 ( \BCMath\Number $expected, \BCMath\Number $actualLeftOperand, \BCMath\Number $actualRightOperand, ): bool { $actual = $actualLeftOperand->add($actualRightOperand, 2); return $expected->compare($actual, 2) === 0; } BCMathを使って書き直す
64. 二つの値を計算して比較する関数 ( new \BCMath\Number('0.3'), new \BCMath\Number('0.1'), new \BCMath\Number('0.2'), ); 呼び出しコードに数字しか渡せなくなった
65. 型を狭くする利点 • 仕方なくstringとして扱っていた数字が正しく数値になった • BCMath\Numberを使うとメソッドが自動補完される ◦ 任意精度演算を忘れない 型宣言
66. 二つの値を計算して比較する関数 ( '0.3', '0.1', '0.2', ); 型が決まっていると数値であるべきことが明確 二つの値を計算して比較する関数 ( new \BCMath\Number('0.3'), new \BCMath\Number('0.1'), new \BCMath\Number('0.2'), );
67. 次は、型にコードの意味を持たせる
68. AGENDA A 出来ていいことだけを出来るようにする 01 型宣⾔ 02 01 独⾃型定義 B 03 全体の流れ
69. 独⾃型を使って意図が分かりやすく、 使い⽅も分かりやすいものを提供する
70. 汎⽤的な型のみの場合はどうなるか？
71. ユースケースの説明
72. 今⽉の⽀払⾦額を計算→ドルに変換する
73. 今⽉の⾦額に税率をかけて⽀払⾦額を計算 ⽀払⾦額に為替レートをかけてドルに変換 円とドル両⽅の⽀払⾦額を返す
74. $最終円金額 = 今月の最終円金額を計算する ( $金額, $税率); $最終ドル金額 = 最終円金額をドルに変換する ( $最終円金額, $ドル変換レート); return [$最終円金額, $最終ドル金額]; 本当に正しく動いているのかは分からない
75. function 今月の最終円金額を計算する ( \BCMath\Number $金額, \BCMath\Number $税率): \BCMath\Number { $最終円金額 = $金額->mul($税率, 2)->floor(); return $最終円金額; } function 最終円金額をドルに変換する ( \BCMath\Number $最終円金額, \BCMath\Number $ドル変換レート): \BCMath\Number { return $最終円金額->div($ドル変換レート, 2); } 本当に正しく動いているのかは分からない
76. 表現の限界 • 汎用的な型だけでは表現に限界がある ◦ プリミティブ型、BCMath\Number • 汎用的な型だけではメソッドを呼び出す時に取り違えられる ◦ 正しい使い方しかできないようになってない • ドメインが伝わらず用途を推測できない ◦ ある値がドメインとして存在可能な値か分からない ◦ 例えばマイナスはダメなど • 引数に同じ型が横一列に並んでいると視認/保守性が悪い 独自型定義
77. どう表現するか？
78. プリミティブ型より ドメイン固有の型を 【62】プリミティブ型よりドメイン固有の型を
79. ValueObjectを使う
80. final readonly class PriceJPY { public function __construct(private \BCMath\Number $value) {} // applyTax は税込金額を含めたValueObjectを返す // 課税、非課税、免税などに対応するため外から税率を渡す public function applyTax(TaxRate $taxRate): TotalPriceTaxinJPY { return new TotalPriceTaxinJPY($this, $taxRate); } } ValueObjectはこんなの
81. $最終円金額 = 今月の最終円金額を計算する ( new PriceJPY($金額), new TaxRate($税率)); $最終ドル金額 = 最終円金額をドルに変換する ( $最終円金額, new DollarConvertRate($ドル変換レート)); // 円とドルの金額を両方 DBに保存したいのでまとめて返す return new TotalPriceTaxin($最終円金額, $最終ドル金額); ValueObjectを使った関数を呼び出してみる
82. function 今月の最終円金額を計算する ( PriceJPY $金額, TaxRate $税率, ): TotalPriceTaxinJPY { return $金額->applyTax($税率); } function 最終円金額をドルに変換する ( TotalPriceTaxinJPY $最終円金額, DollarConvertRate $ドル変換レート): TotalPriceTaxinUSD { return new TotalPriceTaxinUSD($最終円金額, $ドル変換レート); } ValueObjectを使った関数の実装
83. 使い⽅を間違えない
84. 型が違うとちゃんと怒られる 型が違う
85. 追加要望
86. 前⽉からの繰越⾦額を扱う必要が出てきた
87. 例えば 1000円に満たなければ 翌⽉の⽀払いとするような場合
88. $最終円金額 = 今月金額と前月金額から最終円金額を計算する ( new CurrentPriceJPY($今月金額), new TaxRate($今月税率), new PrevPriceJPY($前月金額), new TaxRate($前月税率)); $最終ドル金額 = 最終円金額をドルに変換する ( $最終円金額, new DollarConvertRate($ドル変換レート)); return new TotalPriceTaxin($最終円金額, $最終ドル金額); 前月金額が出てきても可読性が悪くなりづらい
89. function 今月金額と前月金額から最終円金額を計算する ( CurrentPriceJPY $今月金額, TaxRate $今月税率, PrevPriceJPY $前月金額, TaxRate $前月税率, ): TotalPriceTaxinJPY { return new TotalPriceTaxinJPY( $今月金額->applyTax($今月税率), $前月金額->applyTax($前月税率), ); } 処理もやれることをやるだけ
90. 伝わりやすさ重視でコードを書いたが、 本来はもっと複雑なコードなはず
91. 前⽉の繰越⾦額が出てきてたり マージンの概念が出たり 配信障害などの補填をしたくなったり ⼊⾦レポートが会社ごとに違うフォーマットだったり 買い切りでの取引が始まったり 暫定で⽀払いがしたくなったり 暫定の差額を計算する必要が出てきたり 計上科⽬を区別したくなったり 請求が出てきたり インボイスが出てきたりインボイスが出てきたり
92. コードが正しいかどうかに⾃信を持てるのは⼤事
93. ⾃分⾃⾝のことは⾃⾝で答えられるようにする
94. どうして縛るのか？ • 引用 ◦ 問題領域の知識を活用して固有の型を作ることで、取りえる組み 合わせを大幅に減らせる ◦ 「出来てはならぬことを禁じる」のではなく、はじめから「出来 ていいことだけを出来るようにする」と考えるのです ◦ 状態だけでなく「ふるまい」もカプセル化する 独自型定義 【89】関数の「サイズ」を小さくする 【103】見知らぬ人ともうまくやるには 【31】状態だけでなく「ふるまい」もカプセル化する
95. どこまで縛るか • 間違った処理を書かないために型を分ける ◦ ドメインとして明確に処理を区別したい場合は型を分ける ◦ スコープが大きい変数も制約があった方が安全 • 重要でないロジックを細かく型を分ける必要はないと思っている ◦ コードを書く時のコストの方が辛くなってくる ◦ 例えばログメッセージ、スコープが2, 3行だけの変数など 独自型定義
96. AGENDA A 出来ていいことだけを出来るようにする 01 型宣⾔ 02 01 独⾃型定義 B 03 全体の流れ 03
97. 全体の設計として どこでBCMath\Numberにして、 どこでValueObjectにするのか
98. 同心円のどこで変換するか 全体の流れ string BCMath\Number CurrentPriceJPY
99. 実装の具体例
100. Controller
101. class PaymentCalculationController { public function __construct(private PaymentCalculationUseCase $paymentCalculationUseCase) { } public function calculate(array $request): array { $data = $request->request->all(); // 〜 validate パラメーターの存在確認 ,数字であること $result = $this->paymentCalculationUseCase->execute(new \BCMath\Number($data['dollarExchangeRate'])); return ['response' => json_encode([ 'totalJPY' => (string) $result['totalJPY'], 'totalUSD' => (string) $result['totalUSD'], ])]; } } Controller
102. class PaymentCalculationController { public function __construct(private PaymentCalculationUseCase $paymentCalculationUseCase) { } public function calculate(array $request): array { $data = $request->request->all(); // 〜 validate パラメーターの存在確認 ,数字であること $result = $this->paymentCalculationUseCase->execute(new \BCMath\Number($data['dollarExchangeRate'])); return ['response' => json_encode([ 'totalJPY' => (string) $result['totalJPY'], 'totalUSD' => (string) $result['totalUSD'], ])]; } } Controller 実際はvalidationする
103. class PaymentCalculationController { public function __construct(private PaymentCalculationUseCase $paymentCalculationUseCase) { } public function calculate(array $request): array { $data = $request->request->all(); // 〜 validate パラメーターの存在確認 ,数字であること $result = $this->paymentCalculationUseCase->execute(new \BCMath\Number($data['dollarExchangeRate'])); return ['response' => json_encode([ 'totalJPY' => (string) $result['totalJPY'], 'totalUSD' => (string) $result['totalUSD'], ])]; } } Controller Controllerで BCMath\Numberに変換
104. class PaymentCalculationController { public function __construct(private PaymentCalculationUseCase $paymentCalculationUseCase) { } public function calculate(array $request): array { $data = $request->request->all(); // 〜 validate パラメーターの存在確認 ,数字であること $result = $this->paymentCalculationUseCase->execute(new \BCMath\Number($data['dollarExchangeRate'])); return ['response' => json_encode([ 'totalJPY' => (string) $result['totalJPY'], 'totalUSD' => (string) $result['totalUSD'], ])]; } } Controller 外界に出る時はまたstring
105. UseCase
106. class PaymentCalculationUseCase { public function __construct( private IOriginalReportRepository $originalReportRepository, private IPaymentRepository $paymentRepository, private \DateTime $currentDateTime, ) { } public function execute(\BCMath\Number $dollarExchangeRate): array { // 〜〜〜 } } UseCase
107. class PaymentCalculationUseCase { public function execute(\BCMath\Number $dollarExchangeRate): array { // 〜 validation number min/max $report = $this->originalReportRepository->find($this->currentDateTime); // 〜 レポートが無い場合、 0円の場合は skip // 今月金額と前月金額から最終金額を計算 // 〜〜〜 } UseCase
108. class PaymentCalculationUseCase { public function execute(\BCMath\Number $dollarExchangeRate): array { // 〜 validation number min/max $report = $this->originalReportRepository->find($this->currentDateTime); // 〜 レポートが無い場合、 0円の場合は skip // 今月金額と前月金額から最終金額を計算 // 〜〜〜 } UseCase ドメインとして正しいか validationする
109. class PaymentCalculationUseCase { public function execute(\BCMath\Number $dollarExchangeRate): array { // 〜 validation number min/max $report = $this->originalReportRepository->find($this->currentDateTime); // 〜 レポートが無い場合、 0円の場合は skip // 今月金額と前月金額から最終金額を計算 // 〜〜〜 } UseCase 取得されるデータは 本来Entityが良い
110. class PaymentCalculationUseCase { public function execute(\BCMath\Number $dollarExchangeRate): array { // 〜〜〜 // 今月金額と前月金額から最終金額を計算 $totalPriceTaxinJPY = $this->今月金額と前月金額から最終金額を計算する ( new CurrentPriceJPY($report['currentMonthAmount']), new TaxRate($report['currentMonthTaxRate']), new PrevPriceJPY($report['previousMonthAmount']), new TaxRate($report['previousMonthTaxRate']), ); // 最終金額をドルに変換 // 〜〜〜 } UseCase
111. class PaymentCalculationUseCase { public function execute(\BCMath\Number $dollarExchangeRate): array { // 〜〜〜 // 今月金額と前月金額から最終金額を計算 $totalPriceTaxinJPY = $this->今月金額と前月金額から最終金額を計算する ( new CurrentPriceJPY($report['currentMonthAmount']), new TaxRate($report['currentMonthTaxRate']), new PrevPriceJPY($report['previousMonthAmount']), new TaxRate($report['previousMonthTaxRate']), ); // 最終金額をドルに変換 // 〜〜〜 } UseCase ValueObjectとして扱う
112. class PaymentCalculationUseCase { // 〜〜〜 public function 今月金額と前月金額から最終金額を計算する ( CurrentPriceJPY $今月金額, TaxRate $今月税率, PrevPriceJPY $前月金額, TaxRate $前月税率, ): TotalPriceTaxinJPY { return new TotalPriceTaxinJPY( $今月金額->applyTax($今月税率), $前月金額->applyTax($前月税率) ); } // 〜〜〜 } UseCase - 今月金額と前月金額から最終金額を計算する
113. class PaymentCalculationUseCase { public function execute(\BCMath\Number $dollarExchangeRate): array { // 〜〜〜 // 最終金額をドルに変換 $totalUSDWithJPY = $this->最終金額をドルに変換する ( $totalPriceTaxinJPY, new DollarConvertRate($dollarExchangeRate) ); // 結果を保存する // 〜〜〜 } UseCase
114. class PaymentCalculationUseCase { // 〜〜〜 public function 最終金額をドルに変換する ( TotalPriceTaxinJPY $最終円金額 , DollarConvertRate $ドル変換レート ): TotalPriceTaxinUSD { return new TotalPriceTaxinUSD( $最終円金額 , $ドル変換レート ); } // 〜〜〜 } UseCase - 最終金額をドルに変換
115. class PaymentCalculationUseCase { public function execute(\BCMath\Number $dollarExchangeRate): array { // 〜〜〜 // 結果を保存する $this->paymentRepository->save($totalUSDWithJPY); // 結果を返却 return [ 'totalJPY' => $totalPriceTaxinJPY->totalJPY(), 'totalUSD' => $totalUSDWithJPY->totalUSD(), ]; } UseCase
116. class PaymentCalculationUseCase { public function execute(\BCMath\Number $dollarExchangeRate): array { // 〜〜〜 // 結果を保存する $this->paymentRepository->save($totalUSDWithJPY); // 結果を返却 return [ 'totalJPY' => $totalPriceTaxinJPY->totalJPY(), 'totalUSD' => $totalUSDWithJPY->totalUSD(), ]; } UseCase BCMath\Numberで返す
117. Repository
118. interface IOriginalReportRepository { public function find(\DateTime $currentDateTime): array; } interface IPaymentRepository { public function save(TotalPriceTaxinUSD $totalUSD): void; } Repository
119. どこまで縛るか • ドメイン周りの設計は人や場合によって大きく変わる ◦ いつでもこれが最適というものは無い ◦ 今最適なものを選ぶ • ValueObject / Entity / DomainService / UseCase の使い分け難しい • 例えばTotalPriceTaxinJPYの生成もValueObjectの一つとして実装する ◦ またはDomainServiceでも良いが、基本はValueObjectで書く ◦ 今回はオブジェクト生成のみなのでUseCaseでも良いか 独自型定義
120. 余談
121. ドメイン用語を使う • ユビキタス言語をまとめていた方がやりやすい ◦ ValueObjectやEntityを定義する時に迷わない • ユビキタス言語表をExcelで用意するのが良い ◦ AI時代の今、markdownで文章化しておく方が良いと思う ◦ 変数名、クラス名など決める時の精度が上がる ◦ 今ないなら初手はコードの中に頻出する単語をAIに集めてもらう 余談
122. AIに作らせるには • 設計方針についてもAI向けのルールにしっかり記載しておく ◦ 構造、どこで型を変換するか、基本的な計算方法など • 自分で1から作るのは難しいので、一旦AIに生成してもらうのが良い ◦ そこから自分のチームで改造していく ◦ 実態に合わせるのか、理想に合わせるのか • 最初から完璧を目指さず小さくアップデートを重ねながら使う • 最推しはClaude Code 余談
123. まとめ
124. まとめ • 基本的には精度を求められる小数計算全てにBCMathを使う ◦ BCMathを使う場合、数値はstringで扱うことを第一に考える • 変数の型は用途を狭く限定する ◦ スコープも狭くし、広い場合は型をフルに使って限定する • PHPのバージョンは上げる分だけメリットが増える ◦ BCMathの関数 ◦ BCMath\Number ◦ readonly ◦ 速度 まとめ
125. No day but TODAY CARTA HOLDINGSについて 約 53% 電 通 （株） VOYAGE GROUP 約 47% 既存株主 事業例 サービス例 CARTA HOLDINGSについて
126. まとめ • 基本的には精度を求められる小数計算全てにBCMathを使う ◦ BCMathを使う場合、数値はstringで扱うことを第一に考える • 変数の型は用途を狭く限定する ◦ スコープも狭くし、広い場合は型をフルに使って限定する • PHPのバージョンは上げる分だけメリットが増える ◦ BCMathの関数 ◦ BCMath\Number ◦ readonly ◦ 速度 まとめ
127. Q & A • ドメインの中にBCMathみたいな外部ライブラリ入るのが気になる ◦ BCMathは純正拡張なので保守されなくなるような痛みは少ない ◦ 出来ることもシンプルでGMPなどへの入れ替えも大変ではない • BCMathによる計算時間増加が気になることもある ◦ 前処理(ELT/ETL)でまとめておく可能性も考える ◦ ただ、例えばsnowflakeはコンピュータ誤差は発生する ◦ そもそもintで全部扱い小数が発生しないならBCMathも必要ない まとめ