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ASRは精度だけでは足りない − 専門用語の誤認識にどう向き合うか
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Nishika-Inc
August 05, 2026
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ASRは精度だけでは足りない − 専門用語の誤認識にどう向き合うか
現場で使える音声認識・LLM (Nishika AI Product Lab #1)
Nishika-Inc
August 05, 2026
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Transcript
ASR(音声認識)は精度だけでは足りない 専門用語の誤認識にどう向き合うか 2026-08-05 © Nishika, Inc
Nishika AI Lab #1 自己紹介 ▪ プリンシパルAIエンジニア ▪ プロダクトのAI機能(音声認識・要約)まわりを担当 ▪
サウナがマイブーム © Nishika, Inc 2
Nishika AI Lab #1 アジェンダ 1. ASR の現在地 2. プロダクトにおける音声認識の課題意識
3. 課題に向き合う © Nishika, Inc 3
1. ASR の現在地 © Nishika, Inc 4
Nishika AI Lab #1 ASR(Automatic Speech Recognition):音声認識 音声を入力し、発話をテキストとして出力する技術 音声 会議の録音、マイク入力
© Nishika, Inc ▶ ASR モデル 音声 → テキストへ変換 ▶ テキスト 文字起こし 5
Nishika AI Lab #1 モデルは改善され、ベンチマークのスコアも良くなっている オープンソース クローズド(API) ノイズ耐性が強く、いまも事実上のベースライン Whisper 系からの世代交代
▪ Whisper〈2022.09 / large-v3-turbo 2024.10〉 ▪ gpt-4o-transcribe / mini〈2025.03〉 ▪ ReazonSpeech v2〈2024.02〉 ▪ MAI-Transcribe-1〈2026.04 / Microsoft〉 ▪ Qwen3-ASR 1.7B / 0.6B〈2026.01〉 ▪ gpt-transcribe / gpt-live-transcribe〈2026.07〉 日本語 35,000 時間で学習した純国産。ツールキットは v3.0.0(2026.01) 52 言語。OSS 最高精度を謳い、日本語ベンチでも上位 25 言語。FLEURS で平均 WER 3.9% を謳う プロンプト・キーワード・言語ヒントを渡せる ▪ Granite Speech 4.1 2B〈2026.04〉 日本語対応・Apache 2.0。キーワード指定で用語をバイアスできる 出典: 各モデルの公式リリース / HF OpenASR Leaderboard / ▼ 自前の比較結果があれば追記 © Nishika, Inc 6
Nishika AI Lab #1 音声認識の評価方法 CER — Character Error Rate
正解の書き起こしと比べて、何文字間違えたかの割合。低いほど良い。 CER = ( 置換 + 削除 + 挿入 ) / 正解の文字数 文字起こしのスタイルでスコアが大きく変わる 言い淀み(フィラー)をテキストにするか、数字を「12」と書くか「十二」と書くか。同じ音声・同じモデルでもスコアが変わる。 WER — Word Error Rate 文字ではなく、語単位で数える指標。日本語では形態素解析の設定で WER が変わりやすい © Nishika, Inc 7
Nishika AI Lab #1 ベンチマークと本番の差 同じ Whisper large-v3 でも、測る音声を実環境に近づけるとスコアはこれだけ動く(CER)。 7.1%
JSUT basic5000(朗読) 18.4% メディア音声(ニュース・ドラマ等) 26.0% 自社データ(会議録音・人手アノテーション) ▪ 公開ベンチマークは読み上げ(クリーンな録音環境・単一話者)で評価されている ▪ 朗読 → メディア → 会議録音で大きくスコアが悪化する 差はどこから来るのか 録音環境の違い マイク・部屋・Web 会議・オープンスペース 話者の重なり 会議は複数人が同時に話す 文字起こしスタイルの違い フィラーの有無など 出典: JSUT は kotoba-tech/kotoba-whisper-v2.0 モデルカードの比較表 / メディア音声は Neosophie 日本語 ASR ベンチマーク比較 (2026.02、20 本・計 580 秒、CER 0.184 / WER 0.218) / 自社データは社内評価セット © Nishika, Inc 8
2. プロダクトにおける音声認識の課題 © Nishika, Inc 9
Nishika AI Lab #1 SecureMemo ▪ 会議音声から文字起こしを生成、要約を行う ▪ 文字起こし結果はインラインで編集が可能 ©
Nishika, Inc 10
最も大きな課題は「名詞」の間違い © Nishika, Inc 11
Nishika AI Lab #1 名詞の誤認識の実例 誤りのタイプ 専門用語 サービス名 地名 人名
数字 正解 話者認識 セキュアメモ 大仙 潮沢さん 1、2回 © Nishika, Inc 誤認識 和社認識 セコイアメモ 大選 塩沢さん 12回 別の漢字に置き換わる。知識のなさが表面化し印象がとくに悪い 似た別の音で文字起こしされる。カタカナ社内用語で多い 知識として当たってほしい 当たってほしい(基本的に厳しい) 句読点の漏れ(学習データで対応はできる) 12
Nishika AI Lab #1 名詞を間違えると起きる問題 印象の悪化 音声を聞かなくてもテキストから間違い がすぐに分かる 検索されない 表記揺れで検索がヒットしない
要約の品質が劣化 LLM が名詞の意味をとらえ損ねる 90%くらい上手くいっているでは済まない ▪ 文字起こしは一次資料 ▪ これだけで業務が完結することはない。要約や、テンプレートを用いた報告(議事録化)の品質に問題が波及 ▪ 一次資料としてナレッジを蓄積すること対して「検索されない」は致命的 © Nishika, Inc 13
Nishika AI Lab #1 評価指標はすべての語を等価に数えているので分かりづらい WER 上の扱いは等価 ▪ 「えー」の脱落 …
誤り 1 語 ▪ 製品名の誤変換 … 誤り 1 語 実務上は等価にならない ▪ 「えー」の脱落 … ほぼ無害 ▪ 製品名の誤変換 … 検索・要約が破綻 ▪ 専門用語は低頻度なので、全体の WER にはほとんど影響しない。 ▪ 評価指標のペナルティと、課題への影響が一致していない © Nishika, Inc 14
3. 名詞の間違いに向き合う © Nishika, Inc 15
Nishika AI Lab #1 3つの施策 1. モデル自体の認識を良くする — ファインチューニング 2.
モジュールとして後付け — 辞書登録 3. 運用する中で改善される仕組みを導入 — ユーザーの修正履歴を次に還す © Nishika, Inc 16
Nishika AI Lab #1 1. モデル自体の認識を良くする — ファインチューニング 社内で独自にデータを集め、Whisper をファインチューニング
26.0% ベースモデル 16.0% ファインチューニング後 約4割 誤りの相対削減 改善するもの ▪ 会議特有の音響条件に適用してノイズ耐性が向上、幻聴が低減(音声にない文字起こしをする現象。特にwhisperで顕著) ▪ 文字起こしのスタイル(フィラーをどの程度起こすか、などの読みやすさ) 改善しにくいもの ▪ 名詞(社名・製品名・人名、社内専門用語、難読語)は、データを足しても改善しにくい ▪ 評価指標のみ追っていると、課題意識に気づきいくい © Nishika, Inc 17
Nishika AI Lab #1 どうして名詞の誤りは減らないのか 学習は分布に従う データを増やせば、よく出る語の精度は上がる。 固有名詞は分布外、ロングテールで無限にある 製品名、社員名、社内用語。学習サンプルには存在しない。 ©
Nishika, Inc 18
Nishika AI Lab #1 2. モジュールとして後付け — 辞書登録 「用語集=辞書」として知識を導入して専門用語を認識させる プロンプトで条件づけ
デコーダに前文脈として用語を渡す。Whisper の initial_prompt など。LLMを使った文字 起こしでも基本的にこの手法。 辞書を使ってデコーディングに介入 ビームサーチのスコアに用語ボーナスを加算す る(shallow fusion / hotword boosting) モデル内部に文脈を注入 用語リストを埋め込み、アテンションで参照させ る(contextual biasing / CLAS 系) どの手法でも壁は同じ ▪ 強く効かせると関係のない箇所まで書き換わる(過修正)。弱くすると効かない ▪ 狙った用語の再現率と、それ以外を壊さないかのトレードオフになり、設定が難しい ▪ 顧客ごとに用語が違うため登録すべき語彙が事前に確定できない。登録できるものに限りがある。 ▼ 出典: Pundak et al. "Deep Context: End-to-End Contextual Speech Recognition" (2018) / 各実装のドキュメント © Nishika, Inc 19
Nishika AI Lab #1 3. 運用する中で改善される仕組みの導入 「修正」すると次の文字起こしでその知識が継承されるようなループを組み込む 1. ⽂字起こし そのままでは使えない
4. LLM 校正 ⽤語集として溜まる 名詞の誤りが残っている 次の⽂字起こしに ⾃動で効かせる 集まったヒントをプロンプトに © Nishika, Inc 2. ユーザーが修正 画⾯上で⽂字起こしを直す 直した箇所が ヒントになる 3. 修正結果を⾃動で収集 「和社認識」→「話者認識」 20
Nishika AI Lab #1 2-1. LLM 校正のプロンプト 以下は会議の文字起こしです。 誤認識と思われる箇所だけを直してください。 用語ヒント(過去の修正履歴から自動生成)
和社認識 → 話者認識 セコイアメモ → セキュアメモ 潮沢 → 塩沢 # ルール - ヒントに関係のない箇所は変更しない - 迷ったら直さずそのまま残す - 表記の揺れや言い回しは整えない # # 文字起こし {transcript} ▪ ユーザーの修正操作から「間違い語 → 正しい語」の対が自動で溜まり、顧客ごとに履歴が積み上がる ▪ 使えば使うほど賢くなっていくような体験を目指す © Nishika, Inc 21
Nishika AI Lab #1 それでも残る課題 1. コールドスタート — 顧客ごとに認識したい専門用語が違う。初回導入時は情報がない。反映までの時間差 2.
過剰な修正、見逃し — LLM でも過剰な修正や見逃しは残り、100%にはならない 3. 評価の困難さ — 専門用語、それに対する修正パターンは多岐にわたる © Nishika, Inc 22
Nishika AI Lab #1 まとめ 1. ベンチマークと本番は違う — Whisper large-v3
で ベンチマーク: CER 7.1% → 社内アノテーション: 26.0% 2.「名詞」という課題意識 — 社名・製品名・人名・専門用語。印象が悪く、検索されず、要約まで壊れる 3. 銀の弾丸はない — ファインチューニングでは顧客ごとの専門用語・社内用語の精度は上がらない 4. 仕組みで解決を目指す — ユーザーの修正を自動で集め、LLMによって修正を自動化させる © Nishika, Inc 23
Appendix © Nishika, Inc 24
Nishika AI Lab #1 専門用語と「与えた文脈をどれだけ使えているか」を測るベンチマークが出てきている。 ベンチマーク 時期 何を測るか ProfASR-Bench 2025.12
専門的発話。用語密度・固有表現の誤りに着目。文脈を与えても使いこなせない問題を指摘 ContextASR-Bench 2025.07 文脈情報を与えたときの認識性能 GigaSpeechBench 2026.06 業種別ドメイン 12 領域。ホットワードを多く含む実環境音声 ProfASR-Bench の指摘(context-utilization gap) 用語集や文脈を入力として与えても、モデルはそれを十分に活用できない。→ プロンプト/辞書で用語を与えても効きが弱いのは実装の失敗 ではなく、既知の限界。 出典: arXiv:2512.23686 / arXiv:2507.05727 / arXiv:2606.28884 © Nishika, Inc 25