西埼玉中央病院耳鼻科選択研修で作成したスライドです。中枢性めまいのスクリーニングについてまとめています。
救急外来でのめまい診療~中枢性めまいを見逃さない!~国立病院機構 西埼玉中央病院 耳鼻咽喉科研修初期研修医 佐々木 勇紀 / 指導医 瀬越 健太
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めまい診療は難しい!? めまい症状が強すぎて問診・身体診察が行いにくい場合がある… 眼振をはじめ、神経所見の評価が慣れるまで難しい 患者の予後に大きく関わる中枢性めまいがまぎれている…今回の目標中枢性めまいを疑う所見を見逃さず帰宅/入院の判断ができるようになる!
めまいの種類、中枢性めまいの割合回転性めまい その他の「めまい」椎骨脳底動脈系の閉塞・循環不全(TIAなど)、小脳出血、多発性硬化症、脳腫瘍、脳膿瘍、頭部外傷…中枢性貧血、月経、妊娠、心因性めまい、過換気症候群、高・低血圧、起立性低血圧、自律神経失調症、Adam-Stokes 発作、頸動脈洞症候群、低血糖、甲状腺機能低下、副甲状腺機能低下、中毒(アルコール・ニコチン・睡眠剤etc.) …良性発作性頭位めまい(BPPV)、メニエール病、突発性難聴、耳硬化症、中耳炎、迷路炎、前庭神経炎、Ramsay-Hunt 症候群、聴神経鞘腫、薬物中毒、外傷性内耳障害…末梢性回転性めまいのうち、ほとんどが末梢性(最多はBPPV)中枢性はわずか1.7-3.0%1)2)1) 城倉 健, 日本医師会雑誌 134, 2005 2) Kerber KA et.al., Stroke 37, 2006
CTで中枢性めまいは除外できるか?1) Tarnutzer AA et.al., CMAJ. 2011 2) Chalela JA et.al., Lancet., 2007 脳梗塞における頭部単純CTの感度は16%1)救急搬送されるめまい500例のうち1例程度2) 小脳出血はまれ頭部CT所見が正常でも中枢性は除外できない!めまい患者全例に出血のスクリーニングを行う意義も乏しい!
MRIなら中枢性めまいは除外できるか?• めまいを起こす後方循環(椎骨脳底動脈領域)における脳梗塞は前方循環(内頚動脈領域)より見落とされがち (19% vs 2%)3)3) Oppenheim C et.al., AJNR Am J Neuroradial. 2000 4) Saber Tehrani AS et.al., Neurology., 2014• 発症6~48時間後の小脳梗塞に対するMRI(DWI)の感度は梗塞巣10mm以上:92%、10mm未満:47%4)小さい小脳梗塞は2日たっても半数は見逃すMRIでも絶対的な除外は出来ないCT・MRIはあくまでも中枢性めまいを疑ってから行う鑑別のポイントを押さえた問診・身体診察が重要!
問診のポイントめまい・聴力低下以外に異常な神経所見はあるか?めまいの発症形式(頭位変換など)・持続時間・聴力低下も確認するが…→ 自覚症状(複視・構音障害・四肢脱力・感覚障害…)を確認→ 一過性に出現、受診時消失している場合も (e.g.椎骨脳底動脈灌流異常(VBI))脳卒中リスクとなる既往はあるか?→ 心房細動、高血圧、脂質異常症、糖尿病…会話しながら顔の動き(顔面神経麻痺)・構音障害も確認!
身体診察のポイント : HINTS眼球の動きだけで中枢性めまいを除外するツール・ Head Impulse test 陽性・ Nystagmus (眼振) 方向固定・ Test of Skew deviation 陰性感度 95.6-100%1) 2)で中枢性めまいを除外!めまい・聴力低下以外に異常な神経所見がないかチェック→ 各脳神経所見・小脳失調・錐体路徴候・感覚異常…HINTS1) Kattah JC, et.al., Stroke. 2009 2) Newman-Toker DE, et.al., Acad Emerg Med., 2013
HINTS :Head Impulse test①患者の正面に立ち、検者の鼻を注視させる②視線を固定させたまま、顔を右or左に向ける③視線はそのままで一気に顔を正面に向ける視線が一瞬外れるずっと正中を向いている首を痛めていないか確認が必要…陰性では中枢性を除外できないことに注意!→ 陰性:正常 or 中枢性 → 陽性:前庭障害(ほぼ末梢性)
HINTS : Nystagmus (注視時眼振)方向固定性水平性眼振:前庭障害患者に顔は動かさずに目だけで上下左右に動く検者の指先を追わせる極端に側方を向かせない(健常でも眼振様運動が出現)5秒は指を動かさず固定し眼振の持続を確認注視方向性眼振・垂直眼振が出現した場合は中枢性を強く疑う
HINTS : Test of Skew deviation①患者の正面に立ち、検者の鼻を注視させる②片目ずつ隠し、目隠しを外した瞬間に眼球が垂直方向に動くかをみる眼球の偏位はわずか・一瞬で戻る陽性所見を取るのが難しい垂直方向に動けば 陽性
HINTS だけでは不十分?HINTS は感度が非常に高いが…基本的にHINTS以外の神経所見のチェックも必要構音障害(評価がしやすい)パ行・カ行・タ行の発音を確認指鼻・膝踵試験・回内回外試験に加えて、起立・歩行を確認する3つ揃わないと中枢性を除外できない!所見の評価が難しい!めまいが強くて実施できないことも…
なぜ歩行の確認が必要か?歩行を確認する意義:小脳失調(特に体幹失調)の検出→ 後下小脳動脈(PICA)梗塞による小脳下部の障害では構音障害・四肢失調が軽微でめまい以外の症状に一見乏しい→ 体幹失調により起立・歩行不能となる点で末梢性と鑑別できる末梢性であれば視覚・深部覚で代償しなんとか起立・歩行可能
まとめ:中枢性めまい除外のためのポイントめまい以外の神経所見に乏しい場合(小脳下部の障害)もある中枢性では基本的にめまい・聴力低下以外の異常な神経所見も伴う→ 問診・身体診察が重要、HINTS以外の神経所見もチェック→ 画像検査はやみくもに行わない、中枢性が疑わしければ追加→ 末梢性を疑っても、帰宅前に起立・歩行できるか確認中枢性(即入院!!)を除外しつつ、末梢性の鑑別に進むめまいが持続する・聴力低下があれば耳鼻科受診に繋げるめまい以外の神経所見に乏しい場合(小脳下部の障害)もある
参考にしたテキスト 「ベッドサイドの神経の診かた 改訂18版」田崎 義昭・斎藤 佳雄・坂井 文彦、南山堂、2016 「医学生・研修医のための脳神経内科 第4版」神田 隆、中外医学社、2021 「Dr.増井の神経救急セミナー 第2版」増井 伸高、日本医事新報社、2020 「外来で目をまわさない めまい診療シンプルアプローチ」 城倉 健、医学書院、2013