Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
電気通信事業法の「通信の秘密」~条文の読み方・解釈を中心に~
Search
関原秀行
August 06, 2025
5
1.1k
電気通信事業法の「通信の秘密」~条文の読み方・解釈を中心に~
2025/8/6に開催した電気通信事業法の「通信の秘密」に関するウェビナーの投影資料です。
関原秀行
August 06, 2025
Tweet
Share
More Decks by 関原秀行
See All by 関原秀行
プライバシーポリシーの実務ポイント
sekihara
1
640
個人情報保護法「いわゆる3年ごと見直し」の重要テーマ
sekihara
4
1.1k
個人情報の漏えい時のインシデント対応のキソ
sekihara
6
2.8k
情報流通プラットフォーム対処法.pdf
sekihara
1
190
Featured
See All Featured
Building an army of robots
kneath
306
45k
How to Create Impact in a Changing Tech Landscape [PerfNow 2023]
tammyeverts
53
2.9k
[RailsConf 2023 Opening Keynote] The Magic of Rails
eileencodes
29
9.6k
Fireside Chat
paigeccino
37
3.6k
Statistics for Hackers
jakevdp
799
220k
The Success of Rails: Ensuring Growth for the Next 100 Years
eileencodes
46
7.5k
ReactJS: Keep Simple. Everything can be a component!
pedronauck
667
120k
Build The Right Thing And Hit Your Dates
maggiecrowley
37
2.8k
"I'm Feeling Lucky" - Building Great Search Experiences for Today's Users (#IAC19)
danielanewman
229
22k
Mobile First: as difficult as doing things right
swwweet
223
9.9k
Cheating the UX When There Is Nothing More to Optimize - PixelPioneers
stephaniewalter
283
13k
Why Our Code Smells
bkeepers
PRO
337
57k
Transcript
電気通信事業法の「通信の秘密」 ~条文の読み方・解釈を中心に~ 2025年8月6日 関原法律事務所 弁護士 関原秀行(Sekihara Hideyuki)
弁護士紹介 関原 秀行(せきはら ひでゆき) 総務省で電気通信事業法(通信の秘密)、個人情報保 護法といったデータプライバシーに関する法制度の解 釈・執行を担当した後、大手IT企業でインハウスロー ヤーとして様々なサービス・機能・システムのレ ビューやインシデント対応、プライバシーガバナンス の構築に関与し、情報通信分野の法制度や企業の運用
実務、テクノロジーに関する豊富な経験と知識を持つ 弁護士です。
Agenda 本日は以下の5つをお話しします 1. イントロ 2. 「通信の秘密」の意義・範囲 3. 「通信の秘密」に関するルール 4. 違法性阻却事由
5. 個人情報保護法との違い 6. 「通信の秘密」の侵害等が発生した場合
イントロ
「通信の秘密」のイメージ 2025/8/6/17:33 メッセージ受信 2025/8/6/17:32 メッセージ送信 Aさん Bさん 電気通信事業者C
「通信の秘密」のイメージ 2025/8/6/17:33 メッセージ受信 2025/8/6/17:32 メッセージ送信 Aさん Bさん 電気通信事業者C A to
B 2025/8/6/17:32 送信 2025/8/6/17:33 受信 メッセージ
「通信の秘密」のイメージ 2025/8/6/17:33 メッセージ受信 2025/8/6/17:32 メッセージ送信 Aさん Bさん 電気通信事業者C A to
B 2025/8/6/17:32 送信 2025/8/6/17:33 受信 メッセージ
「通信の秘密」の意義・範囲
「通信の秘密」の保護 日本国憲法21条2項の規定を受け、電気通信事業法4条において 「通信の秘密」を保護する規定が定められており、同法上「通信 の秘密」は厳格に保護されている。
「通信の秘密」の保護 日本国憲法21条2項の規定を受け、電気通信事業法4条において 「通信の秘密」を保護する規定が定められており、同法上「通信 の秘密」は厳格に保護されている。 日本国憲法 第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。 2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密はこれを侵してはならない。 電気通信事業法
第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。 2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関 して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、 同様とする。
「通信の秘密」を保護する意義 • 表現の自由の基礎となる個人の自由な意思(思想、信条を含 む)の形成に当たっては、多様な情報の収集と他者との意思疎 通の自由が保障される必要があり、通信はコミュニケーション に不可欠な手段であるから、憲法21条2項の規定を受けて思想 表現の自由の保障を実効あらしめる。 • 個人の私生活の自由を保護し、個人生活の安寧を保障する(プ ライバシー保護)。
• 安心・安全な通信(通信制度)に対する利用者の信頼・期待を 保護する。
「通信の秘密」の範囲 電気通信事業法における「通信の秘密」の範囲 ⇒①通信内容のほか、②通信の日時、場所、通信当事者の氏名、 住所・居所、電話番号等の当事者の識別符号、通信回数等これら の事項を知られることによって通信の意味内容が推知されるよう な事項全てを含む(電気通信事業法研究会編「電気通信事業法逐 条解説 再訂増補版」(情報通信振興会)、以下「逐条」。78 頁)。
「通信の秘密」の範囲 2025/8/6/17:33 メッセージ受信 2025/8/6/17:32 メッセージ送信 Aさん Bさん 電気通信事業者C A to
B 2025/8/6/17:32 送信 2025/8/6/17:33 受信 メッセージ
「通信の秘密」の範囲 2025/8/6/17:33 メッセージ受信 2025/8/6/17:32 メッセージ送信 Aさん Bさん 電気通信事業者C A to
B 2025/8/6/17:32 送信 2025/8/6/17:33 受信 メッセージ
「通信の秘密」に関するルール
「通信の秘密」に関するルール • 電気通信事業法には、どのようなルールが定められているか? • まずは、主なルール(規定)の全体像を見ていきます。
電気通信事業法の「通信の秘密」に関連する規定 条文 規定の概要 4条 通信の秘密の保護 28条1項2号イ 通信の秘密の漏えい報告 29条1項1号 業務改善命令 164条1項3号
適用除外 166条1項 報告徴収・立入検査 179条 罰則
電気通信事業法の「通信の秘密」に関連する規定 条文 規定の概要 4条 通信の秘密の保護 28条1項2号イ 通信の秘密の漏えい報告 29条1項1号 業務改善命令 164条1項3号
適用除外 166条1項 報告徴収・立入検査 179条 罰則
通信の秘密の保護(4条1項) 電気通信事業法 第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。 • 一番大事な規定 • 条文を読んだだけでは内容の理解が困難
通信の秘密の保護(4条1項) 電気通信事業法 第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。 書いてあることを分解すると ① 電気通信事業者の取扱中に係る ② 通信の秘密を ③
侵害してはならない
通信の秘密の保護(4条1項) 電気通信事業法 第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。 禁止されている行為は何かというと ① 電気通信事業者の取扱中に係る ② 通信の秘密を ③
侵害すること(侵してはならない) 上の①~③が条文に書かれている禁止行為(刑法上は構成要件) その上で、条文に書かれざる違法性阻却事由があれば適法化される
通信の秘密の保護(4条1項) 電気通信事業法 第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。 禁止されている行為は何かというと ① 電気通信事業者の取扱中に係る ② 通信の秘密を ③
侵害すること(侵してはならない) 上の①~③が条文に書かれている禁止行為(刑法上は構成要件) その上で、条文に書かれざる違法性阻却事由があれば適法化される
電気通信事業者の取扱中に係る • 「電気通信事業者の取扱中」とは ⇒発信者が通信を発した時点から受信者がその通信を受ける時点までの間 をいい、電気通信事業者の管理支配下にある状態のこと • 「取扱中に係る」とは ⇒情報の伝達行為が終了した後も、その情報は保護の対象となることを表 現したもの。具体的には、通信終了後に電気通信事業者が保管している通 信履歴も保護対象に含まれる。
通信の秘密の保護(4条1項) 電気通信事業法 第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。 禁止されている行為は何かというと ① 電気通信事業者の取扱中に係る ② 通信の秘密を ③
侵害すること(侵してはならない) 上の①~③が条文に書かれている禁止行為(刑法上は構成要件) その上で、条文に書かれざる違法性阻却事由があれば適法化される
「通信の秘密」 「通信の秘密」の範囲 ⇒①通信内容のほか、②通信の日時、場所、通信当事者の氏名、住所・居 所、電話番号等の当事者の識別符号、通信回数等これらの事項を知られる ことによって通信の意味内容が推知されるような事項全てを含む(逐条78 頁)。 (参考裁判例) • 最一判令和3年3月18日・民集75-3-822 •
東京地判平成14年4月30日(平成11年刑(わ)第3255号)
通信の秘密の保護(4条1項) 電気通信事業法 第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。 禁止されている行為は何かというと ① 電気通信事業者の取扱中に係る ② 通信の秘密を ③
侵害すること(侵してはならない) 上の①~③が条文に書かれている禁止行為(刑法上は構成要件) その上で、条文に書かれざる違法性阻却事由があれば適法化される
禁止される侵害行為の類型 禁止される侵害行為は以下の3類型(条文には明記されていない) 知得=積極的に通信の秘密を知ろうとする意思のもとで知ること 窃用=発信者又は受信者の意思に反して利用すること 漏えい=他人が知り得る状態に置くこと 違反するとペナルティ(行政、刑事) 違法性阻却事由があれば適法化
禁止される侵害行為の類型 侵害の3類型を個人情報保護法の概念と比較したイメージ • 知得>取得 • 窃用>利用 • 漏えい>第三者提供、委託先への提供、漏えい
「通信の秘密」の侵害と条文の適用関係 主なメルクマール • 故意or過失 ⇒4条1項は故意犯のみを対象 28条1項2号イの「漏えい」の報告義務は、事故や過失も対象 • 適用主体が電気通信事業者か否か ⇒4条1項の侵害主体は「何人」も対象 28条1項2号イの報告主体は「電気通信事業者」
• 役務の類型 ⇒3号事業は、4条1項を除き適用除外(164条1項3号、3項)
違法性阻却事由
違法性阻却事由とは • 電気通信事業法が定める「通信の秘密」に関する規律には、個人情報保護法と 異なり「同意」といった適法化事由が条文に明記されていない。 • そのため、条文に書かれざる法解釈によって形式的には侵害行為に該当する場 合であっても、当該行為の違法性を阻却して適法化する事由が、違法性阻却事 由。 • 違法性阻却事由がある場合、形式的には侵害行為に該当するとしても当該行為
が適法化され、行政・刑事上の責任を負わない。 • 刑法の考え方と同じイメージ ⇒「構成要件」に該当しても「違法性阻却事由」があれば犯罪不成立
違法性阻却事由の類型 違法性阻却事由は以下のとおり(刑法の違法性阻却事由をイメージ) • 通信当事者の同意 • 正当防衛 • 緊急避難 • 正当行為(法令行為、正当業務行為)
違法性阻却事由:同意 • 同意は誰から取得すればよいか? ⇒通信当事者 • 通信の一方当事者の同意により違法性が阻却されるか?
違法性阻却事由:同意 同意取得の方法 • 「有効な同意」が必要 ⇒通信の秘密を侵害することに対する認識・認容が必要 同意の意味内容を正確に理解した上で真意に基づきなされる必要 • 「個別具体的かつ明確な同意」があれば一般的には「有効な同意」とされる • 例外的に約款等による同意を許容しているケースあり
違法性阻却事由:同意 「個別具体的かつ明確な同意」とは? 「個別」のサービスごとに 「具体的」に通信の秘密に関する事項を認識させて クリックや ボックスへのチェック等で「明確」 に同意を取得するイメージ (参考)同意の参照文書 https://www.soumu.go.jp/main_content/000734726.pdf
違法性阻却事由:同意 約款同意が許容されている具体例 • マルウェアサイトの注意喚起 https://www.soumu.go.jp/main_content/000283608.pdf • マルウェア感染端末利用者への注意喚起 https://www.soumu.go.jp/main_content/000575399.pdf
違法性阻却事由:法令行為 法令に根拠がある行為は、原則として違法性が阻却される • 法令行為の具体例:令状に基づく通信当事者に関する情報の差押え • 弁護士会照会等は注意(原則令状によることとされている)
違法性阻却事由:正当業務行為 「正当業務行為」に該当するときは、違法性が阻却される • 正当業務行為の要件 ① 業務目的の「正当性」 ② 目的を達成するための行為の「必要性」 ③ 手段の「相当性」
• 「電気通信役務の円滑な提供」という見地から判断される
個人情報保護法との違い
「通信の秘密」と「個人情報」の相違点 • 特定個人識別性を必要とするかどうか • 法人に関する情報を含むかどうか • 個々の通信との関連性を必要とするかどうか • 秘密性を必要とするかどうか
規律上の相違点 • 1件から漏えい報告が必要(28条1項2号イ) * 漏えいを知った日から30日以内(施行規則57条1項) • 委託・事業承継・共同利用についても原則同意が必要 * 個人情報保護法27条5項に相当する規定がない *
正当業務行為 • 弁護士会照会に応じて通信の秘密を開示することは原則NG * 個人情報保護法上は27条1項1号により開示可能
「通信の秘密」の侵害等が発生した場合
電気通信事業法の「通信の秘密」に関連する規定 条文 規定の概要 4条 通信の秘密の保護 28条1項2号イ 通信の秘密の漏えい報告 29条1項1号 業務改善命令 164条1項3号
適用除外 166条1項 報告徴収・立入検査 179条 罰則
電気通信事業法の「通信の秘密」に関連する規定 条文 規定の概要 4条 通信の秘密の保護 28条1項2号イ 通信の秘密の漏えい報告 29条1項1号 業務改善命令 164条1項3号
適用除外 166条1項 報告徴収・立入検査 179条 罰則
「通信の秘密」の漏えいが発生した場合 • 「通信の秘密」の漏えい事故が発生した場合 • どのような対応をとればよいか? • 対象条文はどれか?
通信の秘密の漏えい報告 電気通信事業法 第28条 電気通信事業者は、次に掲げる場合には、その旨をその理由又は原因と ともに、遅滞なく、総務大臣に報告しなければならない。 一 第八条第二項の規定により電気通信業務の一部を停止したとき。 二 電気通信業務に関し次に掲げる事故が生じたとき。 イ
通信の秘密の漏えい ロ 第二十七条の五の規定により指定された電気通信事業者にあつては、特定利 用者情報(同条第二号に掲げる情報であつて総務省令で定めるものに限る。)の漏 えい ハ その他総務省令で定める重大な事故。
「通信の秘密」の漏えいが発生した場合 • 「電気通信事業者」は「電気通信業務に関し」「通信の秘密」の漏えいが発生 した場合、遅滞なく総務大臣に報告する必要 • 28条1項2号イの「漏えい」は、事故や過失による漏えいも含む * 4条1項の「漏えい」は、故意に限定 • 「遅滞なく」報告する必要
⇒漏えいを知った日から30日以内(施行規則57条1項) • 報告の書式は規則に規定(施行規則様式50の2) * 具体的な手続や様式は総務省のHPに掲載 https://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/com/rouei.html
電気通信事業法の「通信の秘密」に関連する規定 条文 規定の概要 4条 通信の秘密の保護 28条1項2号イ 通信の秘密の漏えい報告 29条1項1号 業務改善命令 164条1項3号
適用除外 166条1項 報告徴収・立入検査 179条 罰則
「通信の秘密」の侵害等が発生した場合 • 「通信の秘密」の漏えいを含む侵害が発生し、又はそのおそれがある場合 • 行政においてどのような対応がとられる可能性があるか?
「通信の秘密」の侵害等が発生した場合 「通信の秘密」の侵害等が発生した場合における行政の対応 • 行政指導 例:漏えい報告(28条1項2号イ)>ケースにより行政指導 • 報告徴収・立入検査(166条1項) • 業務改善命令(29条1項1号) *
指針が存在 https://www.soumu.go.jp/main_content/000734725.pdf • 罰則(直罰:4条1項・179条)
まとめ • 「通信の秘密」の意義・範囲を押さえる • 電気通信事業法のルールを押さえる • 漏えい事故等の侵害行為が発生した場合の対応を押さえる • その上で、「通信の秘密」の範囲や同意の取得方法、違法性阻却事 由の解釈を理解していきましょう
ご清聴ありがとうございました 関原秀行(せきはらひでゆき) X(旧Twitter) Mail :@Hide_Sekihara :
[email protected]
本資料はリーガルアドバイスを目的とするものではなく、個別の案件については当 該案件の個別の事情に応じ、弁護士の適切なアドバイスを求めていただく必要があ ります。 また、本資料に記載の見解にわたる部分は、当職の個人的見解であり、当職が所属 し、または過去に所属した組織の見解ではありません。