Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

宇宙での筋萎縮と放射線対策

 宇宙での筋萎縮と放射線対策

Space Medicine Japan Youth Community(SMJYC)は宇宙医学に関心を持つ学生や若い世代が集い、各々の興味を深め、互いに学び合うコミュニティです。
今回、SMJYCは、2020年8月24日から28日に第1回目の宇宙医学ウェビナーウィークを開催しました。このウェビナーでは、宇宙医学研究の最前線で活躍されている先生方に宇宙医学についてのお話をしていただきました。
ここでは、宇宙での筋萎縮と放射線対策についてまとめました。

Other Decks in Science

Transcript

  1. 航空医学 宇宙×ひとを 研究する 宇宙にいるひとを 診る 宇宙環境を 研究する 宇宙での暮らしを 改善する ウェビナー

    ウィーク 宇宙放射線 の研究 自衛隊 医学運用 骨格筋の 研究 Flight surgeon 宇宙デブリ の除去 https://www.na sa.gov/sites/de fault/files/2013 09110005hq.jp g https://www.news weekjapan.jp/stori es/technology/202 0/03/post-92682.p hp http://issstream.tksc.jaxa.j p/iss/photo/iss023e01398 5_m.jpg https://withnews.jp/article/f 0190612002qq000000000 000000W06k10101qq0000 19325A 2020/8/24~28 5日間のトピック
  2. 目次 §1 骨格筋の研究 • 骨格筋の機能、重要性 • 骨格筋の分類と特性:速筋と遅筋 • 速筋と遅筋の違い:代謝系から •

    遅筋のメリット • 遅筋の性質をより具体的に:速筋と遅 筋のヒストン修飾(エピゲノム) • 今後の展望 • 考察 • 地上への応用 • 講義からの学び §2 宇宙放射線の研究 • そもそも宇宙放射線とは • 宇宙放射線の人体への影響 • 宇宙放射線対策 • 今回の講義を受けて
  3. §1 骨格筋の研究 ~新時代の骨格筋を~ Outline: • 骨格筋の機能、重要性 • 骨格筋の分類と特性:速筋と遅筋 • 速筋と遅筋の違い:代謝系から

    • 遅筋のメリット • 遅筋の性質をより具体的に :速筋と遅筋のヒストン修飾(エピゲノム) • 今後の展望 • 考察 • 地上への応用 • 講義からの学び https://cutt.ly/xfYnTXT 右図 エピゲノムの一例: DNAを巻くヒストンが集まったり離 れたりすることでDNAの巻かれていない部分の長短が変 化し、遺伝子の発現のしやすさが変化する
  4. 解糖系、脂質代謝系(有酸素下) 解糖系 1グルコース単位あたり 2ピルビン酸,2ATP,2NADH産生      脂肪酸の分解 1サイクルあたり(脂肪酸の炭素数- 2) 1アセチルCoA,1NADH,1FADH2産生

    TCA回路 1サイクルあたり 2CO2,3NADH,FADH2産生 電子伝達系 NADHorFADH2由来の高エネル ギー電子が最終的に O2に渡される この過程でミトコンドリアの膜の内外 にプロトン勾配ができる ATP合成酵素 プロトン濃度勾配をエネル ギー源にADPからATP合成 アセチルCoA @ミトコンドリア
  5. 解糖系、脂質代謝系(@速筋) 解糖系 1グルコース単位あたり 2ピルビン酸,2ATP,2NADH産生      脂肪酸の分解 1サイクルあたり(脂肪酸の炭素数- 2) 1アセチルCoA,1NADH,1FADH2産生

    TCA回路 1サイクルあたり 2CO2,3NADH,FADH2産生 電子伝達系 NADHorFADH2由来の高エネル ギー電子が最終的に O2に渡される この過程でミトコンドリアの膜の内外 にプロトン勾配ができる ATP合成酵素 プロトン濃度勾配をエネル ギー源にADPからATP合成 アセチルCoA 運動時の速筋では電子伝 達系を回せるだけの O2供 給がない 乳酸 NADH NAD+ なので解糖系を回し 続けることでATPを 得る そのために必要な NAD+は乳酸発酵で 調達 + + + + + 乳酸発酵
  6. 解糖系、脂質代謝系(@遅筋) 解糖系 1グルコース単位あたり 2ピルビン酸,2ATP,2NADH産生      脂肪酸の分解 1サイクルあたり(脂肪酸の炭素数- 2) 1アセチルCoA,1NADH,1FADH2産生

    TCA回路 1サイクルあたり 2CO2,3NADH,FADH2産生 電子伝達系 NADHorFADH2由来の高エネル ギー電子が最終的に O2に渡される この過程でミトコンドリアの膜の内外 にプロトン勾配ができる ATP合成酵素 プロトン濃度勾配をエネル ギー源にADPからATP合成 アセチルCoA @ミトコンドリア 毛細血管の発達している遅筋で は、O2供給が十分あり電子伝達 系が回る。 電子伝達系とATP合成酵素の協 働で1NADH,1FADH2あたりそれ ぞれ2.5ATP,1.5ATP産生するた め、脂肪代謝によるATP産生は 解糖系を上回る。 ミトコンドリアでの反応系が活発 なので、遅筋の細胞にはミトコン ドリアが多い。
  7. 遅筋のメリット(健康維持の面で) 速筋 • 収縮速度 • 筋パワー • エネルギー供給は 解糖系メイン 糖の入手元は細胞内グリコーゲン(血

    中の糖ではなく) 遅筋 • 耐糖能(血中の糖の取り込み) • ストレス耐性 • 加齢による剥離や肺疾患に伴う末梢血 管障害による萎縮が起こらない • エネルギー供給は 血流からのグルコース→解糖系 脂質分解→TCA回路→電子伝達系 さらに速筋から血流を介して運ばれる乳 酸をピルビン酸に戻してエネルギー源に することもできる 細胞内の糖がつきると 限界 限界がない 遅筋が多い動物ほど長寿
  8. 今後の展望 • ミトコンドリア転写因子に注目 遅筋はミトコンドリアの系が活発な代謝系で、ミトコンドリアが多い • 遅筋の機能メカニズムの解明 • ゲノム操作で速筋、遅筋を改善 • 遺伝子組み換えマウスモデルの活用

    floxマウス:薬で後天的に特定の遺伝子を欠損させる ドライバーマウス:組織特異的な遺伝子組み換え レポーターマウス:遺伝子発現の有無を蛍光タンパクで可視化
  9. 考察の前に • 運動ニューロンは速筋・遅筋という性質を大きく左右する 速筋型線維の多い筋と遅筋型繊維の多い筋の運動神経を交叉結合(交換)する と、筋の応答特性が反転したという実験も • 速筋型線維の支配ニューロン特性 発火閾値が高い→速筋線維は発火頻度が少ない 細胞体が大きい イオンチャンネルが多く神経伝達が速い

    • 遅筋型線維の支配ニューロン特性 発火閾値が低い→遅筋線維は発火頻度が高い 細胞体が小さい イオンチャンネルが少なく神経伝達が遅い 実際、運動強度(酸素消費量)を 上げていくと、まず遅筋から、そ の後に速筋が動員されるのは ニューロンへの入力刺激の少 ない内から遅筋の支配ニューロ ンが先立って発火し始めるから として説明できる
  10. 考察①:なぜ遅筋において活性型のヒストン修飾が少ないのか • 支配ニューロンの観点から:前のスライドの内容から、速筋線維は発火頻度 が低くニューロンが大きい、遅筋線維は発火頻度が高くニューロンが小さい、 と考えられる。このことにより以下のようなことが部分的に説明できるかもし れない。 • 2つ前のスライドで浮上した疑問(活性化型ヒストン修飾の少ない理由):遅筋はエ ネルギー消費が大きいのか?←発火頻度が高いから? •

    速筋で加齢による剥離←発火頻度が低く不要と見なされるから? • 速筋は末梢血管障害の影響を受ける ←ニューロンが大きくチャネルも多いため構造維 持が難しい? *支配ニューロンだけでは説明できなさそうなこと:遅筋線維の速筋化は支配 ニューロンレベルではなく運動状況による筋細胞の代謝レベルでの変化なのかも しれない。
  11. 考察②:運動模倣薬の標的候補、アディポネクチ ンの経路について https://www.u-tokyo.ac.jp/coe/japanese/achievements/c ategory1/base2/report02-01.html AMPK:細胞内グリコーゲン ↑、糖取り込み能↑、細胞 への血流↑等様々な機能 PGC-1:ミトコンドリアの転写因子 生体分子アディポネクチンは AdipoR1を介して細胞内

    Ca2+濃度を高め、AMPKと長寿遺伝子SIRT1を活 性化する。 これによりPGC-1に作用し、運動と似た効果 (電子伝 達系を介するATP合成など)が得られる。 AdipoR1作用薬は筋の性質を変えるというよりはメタ ボリック症候群への治療を主眼として研究されてい る。 • 運動との違いは? AdipoR1はAMP/ADPを直接上げるのではな く、AMPKとの結合を触媒する。なので AMP/ADP↑による他の下流経路への波及効果 があるなら、それは運動した場合にしか現れな いと思われる。
  12. 宇宙放射線対策 • 宇宙放射線による被ばく線量によって宇宙飛行士の滞在日数が規定されていることから、 宇宙飛行士の被ばく線量の正確な計測が必要となる。  →PADLESなど、宇宙用に開発された計測器(線量計)による計測が行われている。 • PADLESとは、2種類の線量計素子を受動型線量計と解析システムであり、高LET放射線 のLET分布が計測が可能。 • その他、PADLESによる実測値を用いたISS宇宙放射線被ばく量線量シミュレーションモデ

    ルの構築、月に存在しているレゴリス等新しい遮蔽材料の研究、滞在場所の管理とも組み 合わせて宇宙飛行士の被ばく評価は行われている。 • すぐに地球に戻ることが出来るという理由から、ISSには特別な遮蔽や保護はされていな いが、将来的に宇宙船居住モジュールの遮蔽防護技術を高めることが検討されている。
  13. 参考資料 • 大西武雄監修、放射線医科学の事典 1.15 宇宙放射線と遮へい防護(著者 JAXA永松愛子) 、2019年、朝倉書店、 ISBN978-4-254-30117-5 • 日本宇宙航空環境医学会・宇宙航空医学認定医認定委員会監修、「宇宙航空医学入門」 第3章 8.国際宇宙ステーションの宇宙放射 線環境(著者 JAXA永松愛子)

    、2015年、鳳文書林出版、ISBN978-4-89279-449-0 • JAXA PADLESデータベース https://iss.jaxa.jp/spacerad/ • G・ハリー・スタイン著、村上恭介訳、「宇宙で暮らす!」、2011年、築地書館株式会社、ISBN978-4-8067-1415-6 • 三井いわね著、「ヒトは宇宙で進化する」、2004年、株式会社ポプラ社、ISBN4-591-06225-2 • 宇宙放射線-JAXA宇宙教育センター http://edu.jaxa.jp/contents/other/seeds/pdf/2_radiation.pdf • Jpn J Rehabil Med Vol. 54 No.1 2017https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/54/1/54_27/_pdf • 東京大学グローバルCOE研究成果一覧「骨格筋におけるAdiponectin/AdipoR1経路の運動模倣効果」 https://www.u-tokyo.ac.jp/coe/japanese/achievements/category1/base2/report02-01.html • keele university “STUDY PROVES ‘MUSCLE MEMORY’ EXISTS AT A DNA LEVEL” https://www.keele.ac.uk/discover/news/2018/january/studyprovesmusclememoryexistsatadnalevel/muscle-memory.php  • ”Functional and structural adaptations of skeletal muscle to microgravity” Robert H. Fitts, Danny R. Riley, Jeffrey J. Widrick  Journal of Experimental Biology 2001 204: 3201-3208; https://jeb.biologists.org/content/204/18/3201 • ”Regional muscle loss after short duration spaceflight” A LeBlanc 1, R Rowe, V Schneider, H Evans, T Hedrick  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8747608/