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クィアアライとしてのベンタムと功利主義(Fセク研究会発表資料)

Masashi Takeshita
December 06, 2024
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 クィアアライとしてのベンタムと功利主義(Fセク研究会発表資料)

Masashi Takeshita

December 06, 2024
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  1. 自己紹介 研究分野:自然言語処理(AI)、倫理学(主に応用倫理) AI研究: • AIの社会的バイアス(ジェンダー、種差別バイアスなど)の分析 • AIへの道徳の実装 倫理学研究: • AI倫理・AI哲学

    ◦ AIの哲学的直観、AIによる道徳的エンハンスメントの倫理など • 動物倫理 ◦ 非ヒト動物の道徳的地位、ヴィーガニズム、動物性愛行為の是非など • 功利主義の応用的研究:効果的利他主義など 3
  2. ベンタムの同性愛行為擁護論:議論の概要 三つの指摘(児玉 2004, 6章; Boralevi 1984, ch. 3) 1. 同性愛行為の危害のなさ・快楽の存在の指摘

    a. 同性愛行為の性質の分析 2. 同性愛行為に対する既存の批判への反論 3. 偏見の起源・反感への指摘 同性愛行為=同意のある同性間での性行為 9
  3. ベンタムの同性愛行為擁護論 1:同性愛行為の危害のなさの指摘 • 一次的危害:特定個人への危害はない(Bentham 1978a, p. 390=1994, p. 32) ◦

    同意がある場合、互いに危害をなしてない。 ◦ むしろ快楽を増やしてる • 二次的危害:社会への危害もない(Bentham 1978a, p. 390=1994, p. 32) ◦ 不安という苦痛を生み出さない。恐れるようなものはない。 ◦ 犯罪の可能性も高めない 10
  4. 例:ヴォルテール「人口に悪影響」「人類は滅びる」「自然に矛盾」 11 ベンタムの同性愛行為擁護論 2:既存批判への反論 ベンタムの反論 • 同性愛行為の合法化は、異性愛行為を禁止しない (Bentham 1978a, p.

    396=1994, p. 44) • 歴史上、そんな事例はない (Bentham 1978a, p. 396f.=1994, pp. 45f.) • 仮に人口に悪影響でも、人口過剰なときには有益 (Bentham 2014, p. 25) ◦ マルサスの人口論からの影響 (Boralevi 1984, pp. 48f.)
  5. なぜ反対するのか→反感(antipathy) (Bentham 1978b, p. 94=1994, p. 68) 反感を感じる理由 (Boralevi 1984,

    p. 55) 1. 肉体的反感→倫理的反感 2. 禁欲主義 3. 宗教 4. 快楽への嫌悪 5. 徳の称賛を得られる 6. 「不自然」「不純」といった用語による混同 12 偏見由来の反感を持つ者はどうすべきか? ベンタムの同性愛行為擁護論 3:偏見の起源・反感への指摘
  6. ベンタムの議論のまとめ・考察 ベンタムの主張 1. 同性愛行為に有害さはない a. 同性愛行為は一次的・二次的危害を生じない i. むしろ快楽を生み出す b. 同性愛行為に対する批判はすべて根拠がない

    2. 偏見の起源への指摘→反感に起因する 3. 反感を克服すべきである なぜ当時にこのような主張ができたのか?→功利主義と快楽主義 14
  7. 快楽主義:いかなる快楽にも等しく価値を認める ベンタムの観察: • 立法者の嗜好由来の反感が刑法に反映(Shanafelt 2022) • 嗜好に対する判断は偏見から逃れられない(Quinn 2017) ◦ 「普通じゃない」嗜好に基づく快楽の価値を貶める

    ◦ 誰かの快楽に対して不快に感じる→反感 16 Quinn, M. (2017). Jeremy Bentham on liberty of taste. History of European Ideas, 43(6), 614-627. 竹下昌志. (2023). 「人間とAI・ロボットの親密な関係の価値を擁護できるか?」. 『人工知能学会全国大会論文集 第 37 回 (2023)』. 一般社団法人 人工知能学会. 快楽主義:すべての快楽は等しく価値がある(竹下 2023) →嗜好の自由(liberty of taste)(Quinn 2017)
  8. 非 常 識 不 自 然 異 常 大衆の反感→抑圧的規範 功利主義・快楽主義から、抑圧的規範に関する含意

    「常識」「自然」「正常」は、道徳的正しさ・価値を示さない 19 反感を 克服せよ! 特定の嗜好・セクシュアリティを非難・排除する 抑圧的規範への抵抗を正当化
  9. ベンタムの同性愛行為擁護論:二次文献 22 Boralevi (1984) 『ベンタムと被抑圧者』 土屋 (2012) 『怪物ベンサム』 Shanafelt (2022)

    『非常識:ジェレミー・ ベンタム、クィア美学、 そして嗜好の政治』 児玉 (2004) 「第6章 功利主義と世論 ―ベ ンタムの同性愛寛容論―」
  10. 補足:ベンタムを読む場合の注意点:自慰行為について ベンタムは自慰行為を結構強く批判してる 「すべての異常性欲のうち、議論の余地なく最も有害なのは、(…)人 が自分ひとりで犯す種類の淫らな行為のことである。」(Bentham 邦訳 1994, p. 83) 安藤(2024, p.

    68)によれば、18〜19世紀にかけて、自慰行為の 医学的有害性が指摘されており、ベンタムはそれに影響を受けてい る。ベンタムが今の科学と医学に触れればおそらく撤回しただろう (し私としても積極的に肯定したい)が、読まれる際は注意。 23 安藤馨. (2024). 「ベンタムとジェンダー」. 『法と文化の制度史【第5号】』. 至誠堂書店. pp. 51-73.