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「なんで英語やるの?」の戦後史

TerasawaT
March 06, 2024
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 「なんで英語やるの?」の戦後史

関西学院大学大学院言語コミュニケーション文化研究科
第2回公開セミナー
2018年10月20日(土)

TerasawaT

March 06, 2024
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Transcript

  1. 1950年代の履修率(愛知県の例) 10 100% 76% 61% 0% 20% 40% 60% 80%

    100% 中1 中2 中3 84% 79% 53% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 名古屋 市部 郡部 1954年、愛知県教育文化研究所による調査 (出所:『英語教育』編集部1955)
  2. 1960年代の英語履修率 80% 85% 90% 95% 100% 1961 62 63 64

    65 66 67 68 69 中1(推測値) 中2 中3 11 出所:文部省発行、全国中学校学力調査の報告書、各年度版 注)65年度から英語に関する調査は行われていない
  3. 農漁村地域の急上昇 12 65% 70% 75% 80% 85% 90% 95% 100%

    1961 62 63 64 65 66 住宅市街 工業市街 商業市街 山村 普通農村 農山村 純農村 漁村 ※1 「全学テ」報告書記載 の各地域のシェアか ら推 ※2 報告書原本の 14地域から、 特徴的な8地域を抜 粋。
  4. 必修化を阻害していた要因 18 必修化 1. 英語使用ニーズがきわめて低 かった。特に地方・農村にお いて顕著 2. 運動がなかった。関係者の間 に、英語を必修科目にすべき

    だとする認識は広く浸透して いなかった 3. 戦後初期の理念は「選択科目 であるべし」だった。「社会 の要求に答えられない科目は 必修にすべきではない」 4. 英語教育条件が未整備だった。 特に、農漁村地域
  5. 必修化を促進した要因 A) 高校入試制度改革 選択科目という理由で高校入試の試験 科目から除外されていた英語が、 1950年代半ば以降、なし崩し的に導入 されるようになった B) 人口動態的影響 1960年代初め。ベビーブーム世代の入

    学による生徒数急増に伴う教員採用の 変化。その後、生徒数急減による教育 環境の改善 C) 戦後民主主義の退潮 教育政策の保守化、いわゆる「逆コー ス」。戦後初期の「社会の要求に基づ く教育」という理念が退潮。その結 果、社会の要求に基づいていなかった 英語科の存在意義が相対的に向上した D) 離農化 1950年代後半以降。農業従事者の減 少。「農家には英語はいらぬ」という 図式の否定 E) 戦後型英語教育目的論の創出 戦前から有力だった「教養を深めるた めに英語を学ぶ」という目的論を、新 制中学にあてはまるように読み替え、 使う必要がなくても学ぶ価値があると 正当化した F) 科学的英語教育理論の浸透 1950年代以降。英米の最先端の言語学 習理論が輸入・受容されたことで、科 学的に正しい英語教育が理想とされ、 社会的ニーズの問題が後景に退いた 19
  6. 阻害要因 限定的だった国際化 0 10 20 30 40 50 1950 1960

    1970 1980 1990 2000 出国者数(百万人) 入国者数(百万人) 輸出額(兆円) 輸入額(兆円) 20 出典:財務省(貿易額)、法務省(出入国者数)
  7. 阻害要因 農漁村における英語への不信感 1940年代後半、山村地域の人々の声 英語などどうでもよいのだ 英語は人間を堕落せしめるものである 英語の出来る者は不良の奴だ (禰津 1950, pp. 1,

    47-8) 1960年前後の教研集会 「先生、なんで英語なんかやるだい。英語なんかいらねえと思う けどなあ」という声が生徒からも父母からも出はじめました。そ れに対して、どう答えたらよいのか、… 生徒や父母を納得させる ことはもち論、自分自身を納得させるだけの答えが出来ませんで した。 (五十嵐 1962, p. 8) 21
  8. 『英語教育』における必修化をめぐる議論 0.0% 0.2% 0.4% 0.6% 0.8% 1.0% 1.2% 1.4% 1945-49

    1950-54 1955-59 1960-64 必修化不支持―現状肯定 必修不支持―選択制支持 必修支持 賛否表明なし 記 事 の 出 現 頻 度 23
  9. 必修化を促進した要因 再掲 A) 高校入試制度改革 選択科目という理由で高校入試の試験 科目から除外されていた英語が、 1950年代半ば以降、なし崩し的に導入 されるようになった B) 人口動態的影響

    1960年代初め。ベビーブーム世代の入 学による生徒数急増に伴う教員採用の 変化。その後、生徒数急減による教育 環境の改善 C) 戦後民主主義の退潮 教育政策の保守化、いわゆる「逆コー ス」。戦後初期の「社会の要求に基づ く教育」という理念が退潮。その結 果、社会の要求に基づいていなかった 英語科の存在意義が相対的に向上した D) 離農化 1950年代後半以降。農業従事者の減 少。「農家には英語はいらぬ」という 図式の否定 E) 戦後型英語教育目的論の創出 戦前から有力だった「教養を深めるた めに英語を学ぶ」という目的論を、新 制中学にあてはまるように読み替え、 使う必要がなくても学ぶ価値があると 正当化した F) 科学的英語教育理論の浸透 1950年代以降。英米の最先端の言語学 習理論が輸入・受容されたことで、科 学的に正しい英語教育が理想とされ、 社会的ニーズの問題が後景に退いた 26
  10. 27 1950 1955 1960 1965 1970 0 10 20 30

    40 46 0 20 40 60 80 100 都道府県数 高校進学率(%) 高 校 進 学 率 入 試 に英 語 を課 した都 道 府 県 高 校 進 学 率 高校入試への英語導入 → 履修率上昇
  11. 高校進学が一般化するはるか前に 英語必修化が完了 28 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    1960 1961 1962 1963 1964 全国の中3履修率 漁村の中3履修率 東京都の高校進学率 青森県の高校進学率 宮崎県の高校進学率 → 高校入試改革以外にも重要な原因が…
  12. 促進要因 人口動態 → 教員採用の変化 29 戦後初期の深刻な教員不足 ↓ 生徒数増への対応として教員増員 ↓ 生徒減少後も採用した教員は維持

    (苅谷剛彦, 2009, 『教育と平等』中央公論新社) 英語科の人的リソースの余裕 ↓ 上級学年に人員をまわすことが可能に ↓ 英語クラスの新規開講
  13. 31 1961 1962 1963 1964 中3 中2 中1 英語履修者数(万 0

    100 200 300 400 500 600 推計方法「学校基本調査」各年 度版に記載されている各学年の 生徒数に、次の履修率をかけた 中1:100% 中2:「全学テ」報告書記載の履修率 中3:同上 実数は減少 31
  14. 英語教員シェア増 → 人的余裕増 → 英語科の新規開講 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000

    1947 1950 1953 1953 1959 1962 1965 国語 社会 数学 理科 外国語 公立中・本務教員数 32 出所:『学校教員統計調査』各年度版
  15. 英語教育と教養の関係について論じた記事 (※高校・大学を前提としたものは除外) 40 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1945-49

    (n = 5) 1950-54 (n = 15) 1955-59 (n = 18) 1960-64 (n = 17) 記事のシェア 戦前型教養観 明示なし 戦後型教養観
  16. 英語教員の若返り(1963年) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 国語 n =

    45,289 社会 n = 51,017 数学 n = 34,034 理科 n = 34,178 外国語 n = 29,523 50代以上 40代 35-39 30-34 29歳以下 新制大学 経験者 41 出所:文部省『学校教員需給調査報告書』(1963年)
  17. 0 2 4 6 8 10 12 14 16 1945-49

    1950-54 1955-59 1960-64 言語の本質 語学の本質 農漁村地域 言 及 数 43
  18. 促進要因 離農化 3段論法の消失 1. 農家の子どもは農業を継 ぐ 2. 農家に英語はいらない 3. 農家の子どもに英語がい

    らない 0 5 10 15 20 25 1946 55 60 65 70 75 80 85 農業従事者数(百万人) 人口に占める割合(%) 45
  19. まとめ 生徒数急増・ 教員採用の変化 高校入試への 英語導入 中学校英語 履修率増 事実上の 必修化 選択科目の理念

    「社会の要求」 農村の苦境 必修化 促進要因 必修化 阻害要因 文化教養説 「科学的に正し い語学」言説 離農化 戦後民主主義 の退潮
  20. 経路依存性 Xp-3 Yp-3 Xp-2 Yp-2 Yp-1 Yp 例 X: 米式モールス信号上の都合

    Y: キーボードのQWERTY配列 X:「英語教育の目的は教養育成だ」言説 Y:英語の事実上の必修化 経路依存性の働いているもの 教育の公式の制度のすべて 教育界における非公式的慣習のすべて 態度・信念(社会的要因に左右されやすいもの) 学問体系・学会制度 50
  21. ポリアの壷(Polya’s urn) 51 1. 壷に赤玉が n 個、白玉が m 個 入っている状態からスタート

    2. 一個取り出して色を確認して、ま た壷に戻す 3. この時の色が赤なら赤玉を、白な ら白玉を、もう1個壷に入れる 4. 1.~ 3. を繰り返す
  22. 初期値:赤1個、白1個 52 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

    0.8 0.9 1 1 100 200 300 Probability Number of trials
  23. 0 50 100 150 200 250 300 0.0 0.2 0.4

    0.6 0.8 1.0 Number of trials Probability 初期値:赤1個、白9個 53
  24. 引用文献 五十嵐新次郎 1962 「英語教師志望の N 君へ」『英語教育』(5 月): 8-9. 『英語教育』編集部 1955

    「英語教育通信」『英語教育』(5 月): 32. 禰津義範 1950 『英語カリキュラム』開隆堂 55