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寺沢拓敬 (2022).「新自由主義=グローバル化」観から問い直す小学校英語. 小学校英語教育...

TerasawaT
September 16, 2024

寺沢拓敬 (2022).「新自由主義=グローバル化」観から問い直す小学校英語. 小学校英語教育学会2022年大会

小学校英語教育学会
2022年大会
7月18日
「グローバル化」は小学校英語論議の枕詞だが、同時に、「呪文」でもある。なぜなら、論者は 誰もGlobalisation Studies の先行研究を参照せず、単なるキャッチフレーズとして使っているだけだからであ る。Globalisation Studiesでは、通常、グローバル化と新自由主義の密接な関係が頻繁に言及されるが、以上 の事情から、日本の英語教育論議ではグローバル化=新自由主義に関する諸概念の検討は進んでいない。一 方で、英語圏の英語教育学ではすでに、早期英語教育と新自由主義を関連付けた研究が増えている。こうし た知見を踏まえながら、日本の早期英語を改めて問い直すことが重要である。以上が本発表の目的である。

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September 16, 2024
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  1. 「新自由主義=グローバル化」観から問い直す小学校英語 寺沢拓敬 関西学院大学(在外研究中@University of British Columbia) 連絡先:https://terasawat.jimdo.com/ JES 2022-07-18 1

    研究概要 「グローバル化」は小学校英語論議の枕詞だが、同時に、「呪文」でもある。なぜなら、論者は 誰もGlobalisation Studies の先行研究を参照せず、単なるキャッチフレーズとして使っているだけだからであ る。Globalisation Studiesでは、通常、グローバル化と新自由主義の密接な関係が頻繁に言及されるが、以上 の事情から、日本の英語教育論議ではグローバル化=新自由主義に関する諸概念の検討は進んでいない。一 方で、英語圏の英語教育学ではすでに、早期英語教育と新自由主義を関連付けた研究が増えている。こうし た知見を踏まえながら、日本の早期英語を改めて問い直すことが重要である。以上が本発表の目的である。 想定オーディエンス 学会・学界
  2. 呪文としての「グローバル化」 • 早期英語教育の意義を強調するために頻繁に言及されるわりに、誰もグロー バル化について読んだり調べたりした形跡がない? • 全国英語教育学会編『英語教育学の今』には、「グローバル」は46回、「グ ローバリゼーション」は2回出現。一方、引用文献には、グローバル化論の 文献0点 単語がタイトルに含まれる文献を含めても4点のみ。 •

    文部科学省(2013)「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」 • 日本国際理解教育学会 (2010) 『グローバル時代の国際理解教育~実践と理論をつな ぐ ~』明石書店 • 大津和子 (1997) 『グローバルな総合学習の教材開発』明治図書出版 • 鳥飼玖美子(2013)「グローバリゼーションのなかの英語教育」 広田照幸他(編) 『グローバリゼーション,社会変動と大学』139-166. 東京:岩波書店 • 自明ではない概念が、まるで「自明なもの」として流通(呪文) 2
  3. 「グローバル化」の語られ方 現場の能動的対応(自律性)を強調 3 子供のため 日本のため 未来のため XX国のため グローバル資本家のため 多国籍企業のため 現場

    現場 現場=主、グローバル化=従 「大変だけど頑張ってグローバル化に対応しよう」 グローバル化=主、現場=従 「他所の事情で勝手に教育が決まり、振り回される」
  4. グローバル化、新自由主義、教育政策 新自由主義 • 伝統的に政府の役割とされてきた領域(例、公教育、福祉、インフラ整備)を、市場(=人々の自 由な選択)に移管すべきだとする考え方 • ハーヴェイ (2007): グローバル資本家階級(多国籍企業等)の利益にかなう形で様々な制度(例、教 育)が市場化されること

    • グローバル資本家にとって各国政府の規制は障害 • グローバル資本家に逃げられては困るので、各国政府も必死にアピールする グローバル化の拘束力 • 世界相互のつながりの強化 • 様々な決定事項が、ローカル・国内の都合よりもグローバルな権力・動向によって左右される。 教育も拘束される • 「グローバル人材」、PISA(国際的な学力テスト)、ユネスコ • 小学校現場の事情よりも、グローバルな政治経済が優先され、直接の関係者(児童、教員、その 他)の利益が軽視される 4
  5. 新自由主義と英語教育 先行研究 • 英語圏において既に多数ある (e.g., Block, Gray, & Holborow, 2012;

    Block, 2018) • 日本語圏はわずか(例外:江利川, 2018; 久保 田 2018) 論点 • グローバル労働市場における英語の重要性 → 市場の原理に取り込まれる英語コミュニケーション 能力 • 英語教育の産業化 →語学産業、ICTビジネス、教職のアウトソーシング等 5
  6. 小学校英語の文脈での先行研究 Sayer (2015) • メキシコの公立小学校英語政策 • グローバル市場を利する労働者(い わばグローバル人材)の創出を目的 として、小学校英語が導入 •

    ただし、学校リソースに予算を大規 模に投入したわけではない • むしろ改革の「足かせ」になり得る 教員組合を再編成 6
  7. なぜ小学校段階? 矛盾? • 資本家階級の利益となる「グローバル人材」育成にとって、初等教育 への注力は効率が悪い(cf. 寺沢, 2020: 6章) • しかも、早期化そのものには劇的な効果が認められないことは研究者

    の間で定説化している (Pfenninger & Singleton, 2019) 答え • Sayer (2015): 「見栄え」のため。早期化=国際競争力指標が高くなり、 グローバル資本家へのアピールが増す。 • 日本の場合、ここまで露骨なメカニズムはないかも。 7
  8. 引用文献 Block, D. (2018). Political economy and sociolinguistics : neoliberalism,

    inequality and social class. Bloomsbury Academic. Block, D., Gray, J., & Holborow, M. (2013). Neoliberalism and applied linguistics. Routledge. Enever, J. (2018). Policy and politics in global primary English. Oxford University Press. Pfenninger, S. E., & Singleton, D. (2019). Making the most of an early start to L2 instruction. Language Teaching for Young Learners, 1(2), 111–138. https://doi.org/10.1075/ltyl.00009.pfe Sayer, P. (2015). “More & Earlier”: Neoliberalism and Primary English Education in Mexican Public Schools. L2 Journal, 7(3). https://doi.org/10.5070/l27323602 江利川春雄. (2018). 『日本の外国語教育政策史』. ひつじ書房. 久保田竜子. (2018). 『英語教育幻想』. 筑摩書房. スティーガー, M. (2010). 『新版グローバリゼーション』 (櫻井公人他訳). 岩波書店. 寺沢拓敬. (2020). 『小学校英語のジレンマ』. 岩波書店. ハーヴェイ, デヴィッド. (2007). 『新自由主義 : その歴史的展開と現在』. 作品社. 10