この発表は、日本で暮らす外国人の権利に対する日本人の世論を、特に「子どもが母国の言葉(母語)を学ぶ権利」をめぐる態度に焦点を当てて分析したものである。2009年に行われた「日本の国際化と市民の政治参加に関する世論調査」の二次分析を用い、20~80歳の日本国籍保持者3610名を対象としたデータを基にしている。具体的には、「日本政府は、日本に定住している、または定住する意志のある外国人に対して、子どもに母国の言葉を学ばせる権利を認めるべきか」という設問の回答と、回答者の属性(年齢・学歴・職業など)、外国人との接触経験、海外旅行や英語力の有無、さらには排外主義や愛国主義といったナショナリズム意識との関連を多変量解析で検証している。
結果として、母語教育に賛成する人は全体の約6割に上り、反対は1割程度と比較的少なかった。しかし、外国人の地方参政権や生活保護など、財政やシチズンシップに直結すると見なされる権利には反対の声が増える傾向が示唆された。さらに、属性や態度との関連をモデル化したところ、外国人との交流経験が豊富な人は母語教育に肯定的になりやすく、逆に排外主義や反福祉(自己責任を強調する態度)が強い人は反対に回りやすいことが分かった。一方で、海外旅行や英語力の有無といった要素は、強い影響を及ぼしていなかった。
このように、外国人の母語教育に対する賛否は一定の説明が可能ではあるが、アメリカのように政党支持によって明確に態度が分かれる事例とは異なり、日本では個人の属性やナショナリズム意識を加味しても説明力はさほど高くないとされている。理念的なレベルでは母語教育を「権利」として肯定しやすいが、朝鮮学校無償化をめぐる世論のように、具体的な政策の段階になると反対意見が増える場合もある。