Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
Quaternion
Search
USAMI Kosuke
May 02, 2020
Science
1
880
Quaternion
※ Docswell に移行しました
https://www.docswell.com/s/usami-k/ZW16MG-quaternion
USAMI Kosuke
May 02, 2020
Tweet
Share
More Decks by USAMI Kosuke
See All by USAMI Kosuke
Onsager代数とその周辺 / Onsager algebra tsudoi
usamik26
0
360
Apple HIG 正式名称クイズ結果発表 / HIG Quiz Result
usamik26
0
62
ゆめみ大技林製作委員会の立ち上げの話 / daigirin project
usamik26
0
250
@ViewLoadingプロパティラッパの紹介と自前で実装する方法 / @ViewLoading property wrapper implementation
usamik26
0
350
これからUICollectionViewを実践活用する人のためのガイド / Guide to UICollectionView
usamik26
1
600
Xcodeとの最近の付き合い方のはなし / Approach To Xcode
usamik26
2
520
UICollectionView Compositional Layout
usamik26
0
530
Coding Swift with Visual Studio Code and Docker
usamik26
0
330
Swift Extension for Visual Studio Code
usamik26
2
740
Other Decks in Science
See All in Science
東大・松尾研主催 LLM Summer 2023 コンペ解法 (11位 – 20位枠での優秀賞)
hayataka88
0
150
5色定理
techmathproject
0
190
AI Alignment: A Comprehensive Survey
s_ota
0
170
スポーツメトリクス設計に対比較法を使いまくる / Sports metrics design using pairwise comparison method (spoana#14)
konakalab
1
650
Avatar Fusion Karaoke: Research and development on multi-user music play VR experience in the metaverse
vrstudiolab
1
130
LCG20
lcolladotor
0
170
Design of three-dimensional binary manipulators based on the KS statistic and maximum empty circles (IECON2023)
konakalab
0
210
Transformer系機械学習モデルを取り巻くライブラリや用語を整理する
bobfromjapan
2
450
「みんなの自然災害伝承碑」ワークショップ 2023|日本地図学会
fullfull
0
190
Unlocking Healthcare data: the power of Open Formats in Python Data Science
whitone
0
140
iRIC v4 Solvers
nkmr_rl
0
3k
Machine Learning for Materials (Lecture 8)
aronwalsh
0
300
Featured
See All Featured
Templates, Plugins, & Blocks: Oh My! Creating the theme that thinks of everything
marktimemedia
18
1.7k
Optimizing for Happiness
mojombo
369
69k
Rails Girls Zürich Keynote
gr2m
91
13k
Producing Creativity
orderedlist
PRO
335
39k
Helping Users Find Their Own Way: Creating Modern Search Experiences
danielanewman
19
1.9k
Distributed Sagas: A Protocol for Coordinating Microservices
caitiem20
319
20k
Unsuck your backbone
ammeep
660
56k
In The Pink: A Labor of Love
frogandcode
137
21k
How to train your dragon (web standard)
notwaldorf
71
5.1k
Exploring the Power of Turbo Streams & Action Cable | RailsConf2023
kevinliebholz
1
3.3k
Easily Structure & Communicate Ideas using Wireframe
afnizarnur
185
15k
ピンチをチャンスに:未来をつくるプロダクトロードマップ #pmconf2020
aki_iinuma
67
38k
Transcript
1/25 四元数のはなし 宇佐見 公輔 第 6.5 回 関西日曜数学 友の会 宇佐見
公輔 四元数のはなし
2/25 今回はオンライン開催 * いえのなかにいる * 宇佐見 公輔 四元数のはなし
3/25 自己紹介 職業:プログラマ / 趣味:数学 最近の活動(登壇・ブログ・Twitter) : はじめて学ぶリー環 勉強ノート(4 月
19 日〜) Ising 模型 勉強ノート(3 月 29 日〜4 月 18 日) Onsager 代数の話(3 月 22 日 / 京都某所) はじめて学ぶリー群 勉強ノート(1 月 11 日〜3 月 28 日) リー代数と結合法則(2019 年 12 月 / Advent Calendar) 回転群のはなし(2019 年 11 月 / 関西日曜数学友の会) 行列の指数関数(2019 年 10 月 / 関西数学徒のつどい) リー代数の計算の楽しみ(2019 年 10 月 / マスパーティ) 宇佐見 公輔 四元数のはなし
4/25 今回の内容 四元数とは なぜ四元数というものが考えられたのか なぜ三元数はないのか なぜ四元数は交換法則を満たさないのか 宇佐見 公輔 四元数のはなし
5/25 四元数とは 次の形であらわされる数を四元数(しげんすう / quaternion)と 呼びます(a0, a1, a2, a3 ∈
R) 。 a0 + a1i + a2j + a3k 虚数単位の積の規則 i, j, k(これらを虚数単位と呼ぶ)の積を以下で定義します。 i2 = −1, j2 = −1, k2 = −1 ij = −ji = k, jk = −kj = i, ki = −ik = j また、虚数単位と R とは可換とします。分配法則や結合法則は通 常どおり使えるものとします。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
6/25 ハミルトンの関係式 1843 年にハミルトンが四元数を考え出しました。 ハミルトンが四元数のアイデアをひらめいたとき、嬉しさのあま り、そのとき渡っていた橋(アイルランドのダブリンにあるブ ルーム橋)に以下の式を刻んだといいます。 ハミルトンがブルーム橋に刻んだ関係式 i2 =
j2 = k2 = ijk = −1 この関係式は、先ほどの「虚数単位の積の規則」と同値です。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
7/25 素朴な疑問 四元数は複素数の拡張ですが、定義を見て、以下のような素朴な 疑問が浮かびます。 疑問 1 なぜ、複素数の拡張を考えたのでしょうか。 疑問 2 なぜ、
「四元数」なのでしょうか。 「三元数」ではダメなのでしょ うか。 疑問 3 なぜ、四元数は交換法則を満たさない定義になったのでしょうか。 交換法則を満たすような定義にはできないのでしょうか。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
8/25 複素数と平面 複素数は、平面上の点との対応づけが考えられます。 a0 + a1i ←→ (a0, a1) ある複素数に対して、別の複素数をたしたりかけたりする操作
は、平面上で考えると、点を移動する操作と考えられます。 ここでは、特に複素数をかける操作に注目します。つまり、複素 数 α に複素数 β をかける操作が、平面上の点をどのように移動 させる操作なのかを考えてみます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
9/25 複素数の積と大きさ 複素数の大きさは |α| = a2 0 + a2 1
で定義されます。平面上で考 えると、原点からの距離にあたります。 複素数の積と大きさ 複素数 α と複素数 β について以下が成り立ちます。 |αβ| = |α||β| 特に、大きさ 1 の複素数をかける操作は、平面上で考えると、原 点からの距離を変えない操作であることが分かります。実のとこ ろ、平面上の回転変換になります。 また、大きさが 1 でない複素数の場合は、回転と拡大縮小とを組 み合わせた変換になります。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
10/25 複素数の拡張の動機 2 次元平面上の回転変換が、複素数の積で表現できることが分か りました。ここで「3 次元空間について同じようなことができな いか?」という発想が、ハミルトンが複素数の拡張を考えた動機 だったようです。 つまり、3 次元空間の点に対応する何らかの「数」を考えようと
いうことです。そして、その「数」の積が空間上の回転や拡大縮 小の変換を表現するようにしたいわけです。そのためには、以下 の性質を持っていてほしいと考えられます。 新しい「数」に期待する性質 |αβ| = |α||β| 宇佐見 公輔 四元数のはなし
11/25 三元数の構想 仮に、三元数を考えてみます(a0, a1, a2 ∈ R) 。 a0 +
a1i + a2j 虚数単位について i2 = −1, j2 = −1 で、積は可換とします。 α = a0 + a1i + a2j の大きさを |α| = a2 0 + a2 1 + a2 2 で定義します。|α| は 3 次元空間上で、原点から点 (a0, a1, a2) へ の距離にあたります。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
12/25 三元数の積 2 つの三元数の積を計算してみます。 αβ = (a0 + a1i +
a2j)(b0 + b1i + b2j) = a0b0 − a1b1 − a2b2 + (a0b1 + a1b0)i + (a0b2 + a2b0)j + (a1b2 + a2b1)ij ここで ij という項が出てきます。 積が三元数で閉じているためには、ij = x0 + x1i + x2j と書ける必 要があります。ij をどのように定義するべきかが悩みどころです。 特に、|αβ| = |α||β| を満たすようにしたい、という観点で考えて みます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
13/25 三元数の大きさについて考える 1 α2(つまり α = β の場合)を考えてみます。 α2 =
(a0 + a1i + a2j)2 = a2 0 − a2 1 − a2 2 + 2a0a1i + 2a0a2j + 2a1a2ij ここで仮に、2a1a2ij の項がなければ、 |α2| = (a2 0 − a2 1 − a2 2 )2 + (2a0a1)2 + (2a0a2)2 = (a2 0 )2 + (a2 1 )2 + (a2 2 )2 + 2a2 0 a2 1 + 2a2 0 a2 2 + 2a2 1 a2 2 = (a2 0 + a2 1 + a2 2 )2 = |α|2 となって綺麗におさまります。ということは、ij = 0 ではないか と思えてきます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
14/25 三元数の大きさについて考える 2 αβ についても考えてみます。先ほどのように ij の項を無視して みます。 (|αβ|)2 =
(a0b0 − a1b1 − a2b2)2 + (a0b1 + a1b0)2 + (a0b2 + a2b0)2 = (a0b0)2 + (a1b1)2 + (a2b2)2 + (a0b1)2 + (a1b0)2 + (a0b2)2 + (a2b0)2 + 2a1b1a2b2 (|α||β|)2 = (a2 0 + a2 1 + a2 2 )(b2 0 + b2 1 + b2 2 ) 残念ながら、|αβ| = |α||β| とはならないようです。 積 αβ の ij の係数に a1 や b2 が出てきていたので、これをうまく 絡められればという雰囲気もあります。実のところ、上の (|αβ|)2 の式に (a1b2 − a2b1)2 を足すことができればうまくいきます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
15/25 交換法則をあきらめる α2 を考えたときに 2a1a2ij の項に消えてほしかったわけですが、 そのためのアイデアとして、ij = 0 とする代わりに、ij
= −ji とす る方法があります。 この場合、(a1i)(a2j) + (a2j)(a1i) が 2a1a2ij ではなく 0 になり ます。 こうして、交換法則をあきらめる代わりに、|α2| = |α|2 が成り立 つようになります。 また、先ほどは触れませんでしたが、ij = 0 という規則では 「αβ = 0 であるにもかかわらず α も β も 0 ではない」という現 象が起こることを許してしまっていました。ij = −ji という規則 ならば、この点は問題ありません。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
16/25 第 3 の虚数単位 ij = −ji という規則を入れて、|αβ| = |α||β|
はどうなるでしょ うか。 この場合、(a1i)(b2j) + (b2j)(a1i) = (a1b2 − b1a2)ij となります。 係数に (a1b2 − b1a2) が出てくるのは良さげな雰囲気です。 しかし、ij = x0 + x1i + x2j と書けなければならないのが障害とな ります。実数項や i, j の係数と衝突してしまって、|αβ| = |α||β| となる形は見つかりそうにありません。 そこで三元数の枠をこえて、第 3 の虚数単位 k = ij の導入が必要 になりました。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
17/25 四元数の積 三元数(と呼んでいたもの)で発生していた問題が、四元数の世 界で解決されていることを確かめておきます。 k の係数が 0 の四元数を考えます。その積は以下のようになり ます。 αβ
= (a0 + a1i + a2j)(b0 + b1i + b2j) = a0b0 − a1b1 − a2b2 + (a0b1 + a1b0)i + (a0b2 + a2b0)j + (a1b2 − a2b1)k 宇佐見 公輔 四元数のはなし
18/25 四元数の大きさについて考える 1 α2(つまり α = β の場合)について見ます。 α2 =
(a0 + a1i + a2j)2 = a2 0 − a2 1 − a2 2 + 2a0a1i + 2a0a2j k の係数が 0 になってくれています。したがって、 |α2| = (a2 0 − a2 1 − a2 2 )2 + (2a0a1)2 + (2a0a2)2 = (a2 0 + a2 1 + a2 2 )2 = |α|2 となって問題ありません。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
19/25 四元数の大きさについて考える 2 αβ について見ます。 (|αβ|)2 = (a0b0 − a1b1
− a2b2)2 + (a0b1 + a1b0)2 + (a0b2 + a2b0)2 + (a1b2 − a2b1)2 = (a0b0)2 + (a1b1)2 + (a2b2)2 + (a0b1)2 + (a1b0)2 + (a0b2)2 + (a2b0)2 + (a1b2)2 + (a2b1)2 = (a2 0 + a2 1 + a2 2 )(b2 0 + b2 1 + b2 2 ) = (|α||β|)2 となって問題ありません。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
20/25 四元数の大きさ k の項も含めた 2 つの四元数の積を計算してみます。 αβ = (a0 +
a1i + a2j + a3k)(b0 + b1i + b2j + b3k) = a0b0 − a1b1 − a2b2 − a3b3 + (a0b1 + a1b0 + a2b3 − a3b2)i + (a0b2 − a1b3 + a2b0 + a3b1)j + (a0b3 + a1b2 − a2b1 + a3b0)k 項の数が多くて大変ではありますが、直接計算することで |αβ| = |α||β| が成り立つことを確認できます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
21/25 四元数と 4 次元空間との対応 こうして、複素数の拡張として四元数がえられました。 ところで、複素数を拡張する動機を振り返ると、3 次元空間の回 転を記述する数が欲しいというものでした。しかし、実際にえら れた四元数は、4 次元空間と対応するものになっています。
a0 + a1i + a2j + a3k ←→ (a0, a1, a2, a3) 四元数に四元数をかける操作は、4 次元空間での回転にあたり ます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
22/25 純虚四元数と 3 次元の回転 3 次元空間と対応させるためには、四元数の虚数部分のみを使い ます(純虚四元数) 。 a1i +
a2j + a3k ←→ (a1, a2, a3) 純虚四元数は積について閉じていません。このため、扱いに注意 が必要です。 純虚四元数を使った 3 次元空間の回転は、積ではなく以下の操作 (随伴)であらわされます。 α → βαβ−1 (α は純虚四元数、β は純虚に限らない四元数) 宇佐見 公輔 四元数のはなし
23/25 四元数のオイラーの公式 回転の話題に関連して、オイラーの公式の四元数バージョンを紹 介しておきます。 複素数の場合は、以下でした。 eiθ = cos θ +
i sin θ 四元数の場合は、以下のようになります。 eiθ+jφ+kψ = cos θ2 + φ2 + ψ2 + iθ + jφ + kψ θ2 + φ2 + ψ2 sin θ2 + φ2 + ψ2 宇佐見 公輔 四元数のはなし
24/25 発展的な話題 四元数の先には、さらに八元数もあります。 実数を 2 つ使って、複素数を構成することができます。 複素数を 2 つ使って、四元数を構成することができます。四 元数では交換法則が崩れます。
四元数を 2 つ使って、八元数を構成することができます。八 元数では結合法則が崩れます。 四元数や八元数の応用のひとつとして、リー群やリー代数があり ます。 四元数や八元数は、リー群やリー代数の構成に使われます。 特に、例外型(G2、F4、E6、E7、E8)リー群やリー代数の 構成では八元数が重要です。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
25/25 参考文献 最近出た、以下の本を参考にさせていただきました。良い本だと 思います。おすすめ。 松岡 学 「数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ」 講談社ブルーバックス 宇佐見
公輔 四元数のはなし