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USAMI Kosuke
May 02, 2020
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USAMI Kosuke
May 02, 2020
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Transcript
1/25 四元数のはなし 宇佐見 公輔 第 6.5 回 関西日曜数学 友の会 宇佐見
公輔 四元数のはなし
2/25 今回はオンライン開催 * いえのなかにいる * 宇佐見 公輔 四元数のはなし
3/25 自己紹介 職業:プログラマ / 趣味:数学 最近の活動(登壇・ブログ・Twitter) : はじめて学ぶリー環 勉強ノート(4 月
19 日〜) Ising 模型 勉強ノート(3 月 29 日〜4 月 18 日) Onsager 代数の話(3 月 22 日 / 京都某所) はじめて学ぶリー群 勉強ノート(1 月 11 日〜3 月 28 日) リー代数と結合法則(2019 年 12 月 / Advent Calendar) 回転群のはなし(2019 年 11 月 / 関西日曜数学友の会) 行列の指数関数(2019 年 10 月 / 関西数学徒のつどい) リー代数の計算の楽しみ(2019 年 10 月 / マスパーティ) 宇佐見 公輔 四元数のはなし
4/25 今回の内容 四元数とは なぜ四元数というものが考えられたのか なぜ三元数はないのか なぜ四元数は交換法則を満たさないのか 宇佐見 公輔 四元数のはなし
5/25 四元数とは 次の形であらわされる数を四元数(しげんすう / quaternion)と 呼びます(a0, a1, a2, a3 ∈
R) 。 a0 + a1i + a2j + a3k 虚数単位の積の規則 i, j, k(これらを虚数単位と呼ぶ)の積を以下で定義します。 i2 = −1, j2 = −1, k2 = −1 ij = −ji = k, jk = −kj = i, ki = −ik = j また、虚数単位と R とは可換とします。分配法則や結合法則は通 常どおり使えるものとします。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
6/25 ハミルトンの関係式 1843 年にハミルトンが四元数を考え出しました。 ハミルトンが四元数のアイデアをひらめいたとき、嬉しさのあま り、そのとき渡っていた橋(アイルランドのダブリンにあるブ ルーム橋)に以下の式を刻んだといいます。 ハミルトンがブルーム橋に刻んだ関係式 i2 =
j2 = k2 = ijk = −1 この関係式は、先ほどの「虚数単位の積の規則」と同値です。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
7/25 素朴な疑問 四元数は複素数の拡張ですが、定義を見て、以下のような素朴な 疑問が浮かびます。 疑問 1 なぜ、複素数の拡張を考えたのでしょうか。 疑問 2 なぜ、
「四元数」なのでしょうか。 「三元数」ではダメなのでしょ うか。 疑問 3 なぜ、四元数は交換法則を満たさない定義になったのでしょうか。 交換法則を満たすような定義にはできないのでしょうか。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
8/25 複素数と平面 複素数は、平面上の点との対応づけが考えられます。 a0 + a1i ←→ (a0, a1) ある複素数に対して、別の複素数をたしたりかけたりする操作
は、平面上で考えると、点を移動する操作と考えられます。 ここでは、特に複素数をかける操作に注目します。つまり、複素 数 α に複素数 β をかける操作が、平面上の点をどのように移動 させる操作なのかを考えてみます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
9/25 複素数の積と大きさ 複素数の大きさは |α| = a2 0 + a2 1
で定義されます。平面上で考 えると、原点からの距離にあたります。 複素数の積と大きさ 複素数 α と複素数 β について以下が成り立ちます。 |αβ| = |α||β| 特に、大きさ 1 の複素数をかける操作は、平面上で考えると、原 点からの距離を変えない操作であることが分かります。実のとこ ろ、平面上の回転変換になります。 また、大きさが 1 でない複素数の場合は、回転と拡大縮小とを組 み合わせた変換になります。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
10/25 複素数の拡張の動機 2 次元平面上の回転変換が、複素数の積で表現できることが分か りました。ここで「3 次元空間について同じようなことができな いか?」という発想が、ハミルトンが複素数の拡張を考えた動機 だったようです。 つまり、3 次元空間の点に対応する何らかの「数」を考えようと
いうことです。そして、その「数」の積が空間上の回転や拡大縮 小の変換を表現するようにしたいわけです。そのためには、以下 の性質を持っていてほしいと考えられます。 新しい「数」に期待する性質 |αβ| = |α||β| 宇佐見 公輔 四元数のはなし
11/25 三元数の構想 仮に、三元数を考えてみます(a0, a1, a2 ∈ R) 。 a0 +
a1i + a2j 虚数単位について i2 = −1, j2 = −1 で、積は可換とします。 α = a0 + a1i + a2j の大きさを |α| = a2 0 + a2 1 + a2 2 で定義します。|α| は 3 次元空間上で、原点から点 (a0, a1, a2) へ の距離にあたります。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
12/25 三元数の積 2 つの三元数の積を計算してみます。 αβ = (a0 + a1i +
a2j)(b0 + b1i + b2j) = a0b0 − a1b1 − a2b2 + (a0b1 + a1b0)i + (a0b2 + a2b0)j + (a1b2 + a2b1)ij ここで ij という項が出てきます。 積が三元数で閉じているためには、ij = x0 + x1i + x2j と書ける必 要があります。ij をどのように定義するべきかが悩みどころです。 特に、|αβ| = |α||β| を満たすようにしたい、という観点で考えて みます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
13/25 三元数の大きさについて考える 1 α2(つまり α = β の場合)を考えてみます。 α2 =
(a0 + a1i + a2j)2 = a2 0 − a2 1 − a2 2 + 2a0a1i + 2a0a2j + 2a1a2ij ここで仮に、2a1a2ij の項がなければ、 |α2| = (a2 0 − a2 1 − a2 2 )2 + (2a0a1)2 + (2a0a2)2 = (a2 0 )2 + (a2 1 )2 + (a2 2 )2 + 2a2 0 a2 1 + 2a2 0 a2 2 + 2a2 1 a2 2 = (a2 0 + a2 1 + a2 2 )2 = |α|2 となって綺麗におさまります。ということは、ij = 0 ではないか と思えてきます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
14/25 三元数の大きさについて考える 2 αβ についても考えてみます。先ほどのように ij の項を無視して みます。 (|αβ|)2 =
(a0b0 − a1b1 − a2b2)2 + (a0b1 + a1b0)2 + (a0b2 + a2b0)2 = (a0b0)2 + (a1b1)2 + (a2b2)2 + (a0b1)2 + (a1b0)2 + (a0b2)2 + (a2b0)2 + 2a1b1a2b2 (|α||β|)2 = (a2 0 + a2 1 + a2 2 )(b2 0 + b2 1 + b2 2 ) 残念ながら、|αβ| = |α||β| とはならないようです。 積 αβ の ij の係数に a1 や b2 が出てきていたので、これをうまく 絡められればという雰囲気もあります。実のところ、上の (|αβ|)2 の式に (a1b2 − a2b1)2 を足すことができればうまくいきます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
15/25 交換法則をあきらめる α2 を考えたときに 2a1a2ij の項に消えてほしかったわけですが、 そのためのアイデアとして、ij = 0 とする代わりに、ij
= −ji とす る方法があります。 この場合、(a1i)(a2j) + (a2j)(a1i) が 2a1a2ij ではなく 0 になり ます。 こうして、交換法則をあきらめる代わりに、|α2| = |α|2 が成り立 つようになります。 また、先ほどは触れませんでしたが、ij = 0 という規則では 「αβ = 0 であるにもかかわらず α も β も 0 ではない」という現 象が起こることを許してしまっていました。ij = −ji という規則 ならば、この点は問題ありません。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
16/25 第 3 の虚数単位 ij = −ji という規則を入れて、|αβ| = |α||β|
はどうなるでしょ うか。 この場合、(a1i)(b2j) + (b2j)(a1i) = (a1b2 − b1a2)ij となります。 係数に (a1b2 − b1a2) が出てくるのは良さげな雰囲気です。 しかし、ij = x0 + x1i + x2j と書けなければならないのが障害とな ります。実数項や i, j の係数と衝突してしまって、|αβ| = |α||β| となる形は見つかりそうにありません。 そこで三元数の枠をこえて、第 3 の虚数単位 k = ij の導入が必要 になりました。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
17/25 四元数の積 三元数(と呼んでいたもの)で発生していた問題が、四元数の世 界で解決されていることを確かめておきます。 k の係数が 0 の四元数を考えます。その積は以下のようになり ます。 αβ
= (a0 + a1i + a2j)(b0 + b1i + b2j) = a0b0 − a1b1 − a2b2 + (a0b1 + a1b0)i + (a0b2 + a2b0)j + (a1b2 − a2b1)k 宇佐見 公輔 四元数のはなし
18/25 四元数の大きさについて考える 1 α2(つまり α = β の場合)について見ます。 α2 =
(a0 + a1i + a2j)2 = a2 0 − a2 1 − a2 2 + 2a0a1i + 2a0a2j k の係数が 0 になってくれています。したがって、 |α2| = (a2 0 − a2 1 − a2 2 )2 + (2a0a1)2 + (2a0a2)2 = (a2 0 + a2 1 + a2 2 )2 = |α|2 となって問題ありません。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
19/25 四元数の大きさについて考える 2 αβ について見ます。 (|αβ|)2 = (a0b0 − a1b1
− a2b2)2 + (a0b1 + a1b0)2 + (a0b2 + a2b0)2 + (a1b2 − a2b1)2 = (a0b0)2 + (a1b1)2 + (a2b2)2 + (a0b1)2 + (a1b0)2 + (a0b2)2 + (a2b0)2 + (a1b2)2 + (a2b1)2 = (a2 0 + a2 1 + a2 2 )(b2 0 + b2 1 + b2 2 ) = (|α||β|)2 となって問題ありません。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
20/25 四元数の大きさ k の項も含めた 2 つの四元数の積を計算してみます。 αβ = (a0 +
a1i + a2j + a3k)(b0 + b1i + b2j + b3k) = a0b0 − a1b1 − a2b2 − a3b3 + (a0b1 + a1b0 + a2b3 − a3b2)i + (a0b2 − a1b3 + a2b0 + a3b1)j + (a0b3 + a1b2 − a2b1 + a3b0)k 項の数が多くて大変ではありますが、直接計算することで |αβ| = |α||β| が成り立つことを確認できます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
21/25 四元数と 4 次元空間との対応 こうして、複素数の拡張として四元数がえられました。 ところで、複素数を拡張する動機を振り返ると、3 次元空間の回 転を記述する数が欲しいというものでした。しかし、実際にえら れた四元数は、4 次元空間と対応するものになっています。
a0 + a1i + a2j + a3k ←→ (a0, a1, a2, a3) 四元数に四元数をかける操作は、4 次元空間での回転にあたり ます。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
22/25 純虚四元数と 3 次元の回転 3 次元空間と対応させるためには、四元数の虚数部分のみを使い ます(純虚四元数) 。 a1i +
a2j + a3k ←→ (a1, a2, a3) 純虚四元数は積について閉じていません。このため、扱いに注意 が必要です。 純虚四元数を使った 3 次元空間の回転は、積ではなく以下の操作 (随伴)であらわされます。 α → βαβ−1 (α は純虚四元数、β は純虚に限らない四元数) 宇佐見 公輔 四元数のはなし
23/25 四元数のオイラーの公式 回転の話題に関連して、オイラーの公式の四元数バージョンを紹 介しておきます。 複素数の場合は、以下でした。 eiθ = cos θ +
i sin θ 四元数の場合は、以下のようになります。 eiθ+jφ+kψ = cos θ2 + φ2 + ψ2 + iθ + jφ + kψ θ2 + φ2 + ψ2 sin θ2 + φ2 + ψ2 宇佐見 公輔 四元数のはなし
24/25 発展的な話題 四元数の先には、さらに八元数もあります。 実数を 2 つ使って、複素数を構成することができます。 複素数を 2 つ使って、四元数を構成することができます。四 元数では交換法則が崩れます。
四元数を 2 つ使って、八元数を構成することができます。八 元数では結合法則が崩れます。 四元数や八元数の応用のひとつとして、リー群やリー代数があり ます。 四元数や八元数は、リー群やリー代数の構成に使われます。 特に、例外型(G2、F4、E6、E7、E8)リー群やリー代数の 構成では八元数が重要です。 宇佐見 公輔 四元数のはなし
25/25 参考文献 最近出た、以下の本を参考にさせていただきました。良い本だと 思います。おすすめ。 松岡 学 「数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ」 講談社ブルーバックス 宇佐見
公輔 四元数のはなし