academist Prize 4期生 研究トーク延長戦！「美は世界を救う」っていうけど、どうやって？

【こちらのイベントで使用した資料です】
academist Prize 4期生 研究トーク延長戦！「美は世界を救うっていうけど、どうやって？」- スピーカー：櫃割仁平（ヘルムートシュミッド大学）
https://lu.ma/b1ndl1f5

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Transcript

1. 「美は世界を救う」っていうけど， どうやって？ 櫃割仁平 (ヘルムートシュミット大学 / 日本学術振興会海外特別研究員) 2025. 6. 18 academist Prize 4期生 研究トーク延長戦！
2. 自己紹介 櫃割 仁平 (ひつわり じんぺい） Position ヘルムートシュミット大学ポスドク研究員 感情心理学，経験美学 (Empirical Aesthetics) 美的感情，美的体験，俳句，日本文化，感動 (体験)，曖昧性 コーヒー，旅行，サウナ，映画，カラオケ，ライブ・コンサート， 美術館，ボードゲーム，NFTアート，献血，フライドポテト etc. Major Keywords Like
3. 主な研究テーマ「美的な感情と芸術認知」 「美しい」という感情をたくさん感じてきた人生 「美しい」という 感情を体験する たびに価値観が変容 していっている？
5. 美ってどういう感情？
6. 美的感情のモデル (Menninghaus et al., 2019) 研究に使える 「美的感情」の 定義提供したで Menninghaus, W., Wagner, V., Wassiliwizky, E., Schindler, I., Hanich, J., Jacobsen, T., & Koelsch, S. (2019). What are aesthetic emotions?. Psychological review, 126(2), 171.
7. 主要な認知的評価項目 生理反応 主観的な感情 (feelings) 表現・表出 モチベーション傾向 機能 感情が発生するきっかけ パーソナリティ 文化的・歴史的文脈
8. このモデルに沿って， 自分のこれまでの研究を紹介してみます
9. 主要な認知的評価項目 生理反応 主観的な感情 (feelings) 表現・表出 モチベーション傾向 機能 感情が発生するきっかけ パーソナリティ 文化的・歴史的文脈
10. これまで扱ってきた題材 俳句 Sprengel, Hitsuwari, et al. (in prep) 書道 Hitsuwari, Hayashi, et al. (2023); Hitsuwari & Nomura (2022, 2023, 2024a, 2024b, 2024c, 2025); Hitsuwari, Ueda, et al. (2023); 櫃割・野村 (印刷中); Kato & Hitsuwari (2024) Hitsuwari et al. (under review) 雅楽 (舞楽) Hitsuwari & Nomura (in prep) いけばな
11. 主要な認知的評価項目 生理反応 主観的な感情 (feelings) 表現・表出 モチベーション傾向 機能 感情が発生するきっかけ パーソナリティ 文化的・歴史的文脈 曖昧さ，間， イメージ， 非対称性
12. ベーシックな研究手法 ラヂオつと消され秋風残りけり ラヂオつと消され秋風残りけり どれくらい美しさを感じますか？ 0 100 どれくらい曖昧さを感じますか？ 0 100 7秒後 俳句1句が表示され，数秒後に評価項目が提示され，点数をつけて評価する
13. 曖昧さが上がるほど，美しさの評価も下がる 曖昧さで美しさが下がる度合いがドイツ人の方が大きい 日本人 ドイツ人 曖昧さ 美しさ 涼しさや 鐘を離るる かねの声 Im kühlen Morgen löst sich von der Glocke der Klang und entschwindet. In the cool of morning the bell's voice leaves the bell. 日本人の方が曖昧さ を含むアート鑑賞に 慣れている？ Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2022). Ambiguity and beauty: Japanese-German cross-cultural comparisons on aesthetic evaluation of haiku poetry. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts.
14. イメージの鮮明度が高いほど美しい イメージする能力が高い人ほど，全体的に美しさが高くなりがち Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2021). How Individual States and Traits Predict Aesthetic Appreciation of Haiku Poetry. Empirical Studies of the Arts, 40(1), 81-99. イメージの鮮明度 美しさ イメージする能力 美しさ
15. 雅楽・舞楽 笙・篳篥・龍笛などの管楽器， 琵琶・箏などの弦楽器，太鼓 などの打楽器を用いる 奈良・平安時代に成立し， 中国・朝鮮の影響を受け発展 宮廷儀式，神事， 舞楽 (舞を伴う演奏) で用いられる
16. 舞楽の研究では39もの評価項目を用意 因子分析を用いて，変数を圧縮 (5つに) 好み Preference 超越的体験 Transcendent Experience 優美さ Gracefulness 調和と構造 Harmony and Structure 動きの理解 Movement Comprehension その舞が好きだ I like the gagaku dance. その舞を楽しんだ I enjoyed the gagaku dance. 畏敬の念を感じる I feel a sense of awe 崇高な感覚を覚える I feel a sense of the sublime. ・ ・ ・ ・ ・ ・
17. 舞楽を鑑賞する時の文化差 好みや超越的体験の得点は日本人 > ドイツ人, 動きの理解は逆 Hitsuwari, J., Weiler, S., Manolika, M., & Jacobsen, T. (under review). Aesthetic Appreciation of Japanese Traditional Dance: A Mixed-Methods Cross-Cultural Study. 西洋的なもの の見方 (分析的 認知) が舞楽の 鑑賞でも
18. 主要な認知的評価項目 生理反応 主観的な感情 (feelings) 表現・表出 モチベーション傾向 機能 感情が発生するきっかけ パーソナリティ 文化的・歴史的文脈 特に，混合感情と ネガティブ感情に 興味あり
19. 困難さの認識が畏敬の念を媒介して美へ 畏敬の念 (Awe) = 巨大さに対する感情でポジティブ・ネガティブの混合感情 Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2024c). Interaction between creation and appreciation: How linguistic art creation impacts on aesthetic evaluation of haiku poetry and ink paintings. International Journal of Psychology, 59(1), 155–162. アート鑑賞時，作る の難しそう，と思う と畏敬の念を感じる 畏敬の念を感じる ほど，美しさを 感じる
20. いろいろと紹介してきましたが・・・
21. 主要な認知的評価項目 生理反応 主観的な感情 (feelings) 表現・表出 モチベーション傾向 機能 感情が発生するきっかけ パーソナリティ 文化的・歴史的文脈 今日のメインは ここでは？？
22. 「美は世界を救う」って言うけど， どうやって？
23. 「要救い」すぎる世の中
24. 「要救い」すぎる世の中 「美」の力でなんとかできる？きれいごとでは？ （そういう風にも思います）
25. 戦争に対する態度が変容する？ プロの戦争写真 (美的) とアマチュアとで差はなかった (寄付行動など) Altenmuller & Gollwitzer (2023) 1．ニュースやSNS，ゲームなどで戦争の写真を見慣 れてしまっている？ 2．使用された写真が既に終結している戦争のもの
26. 詩や俳句ではどうか？ 普段と違った表現によって，真新しい印象？＋作者のナラティブ 戦争に反対しましょう！ 地下壕に紙飛行機や子らの春 共感，寄付意図，寄付行動など ＜
27. ※ 犯人は「妄想型統合失調症」のため，本件はもっともっと複雑です アートは攻撃性を下げるか？ 畏敬の念を感じると攻撃性が低下 (例：シューティングゲームの銃の威力) Yang et al. (2016)
28. アート体験がウェルビーイングを高める 最新レビューで5つのメカニズムが提示 Trupp et al. (2025) 感情的，認知的， 社会的プロセス， 自己変容，レジリ エンス
29. 自分の研究ではどうやる？
30. 日本的美意識にヒントあり？
31. 「足るを知る」(≠ 節約)
32. 俳句創作は何気ない日常への感謝につながる 1ヶ月に1度俳句を詠む人は詠まない人に比べて平穏感謝の得点が高い Kato, J., & Hitsuwari, J. (2024). Association between the creative experience of haiku poetry and a tendency toward self-transcendent emotions. The Journal of Creative Behavior, 58(3), 313–320. 平穏感謝 ・朝，いつもと同じように目が覚めた ・昨日と変わらない生活を今日も送る ことができた こんな尺度 「1. 感謝を感じることは，めったにない」~「7. 感謝を感じることは， かなり頻繁にある」
33. 曖昧を愛する
34. 曖昧さへの態度は変わる 俳句鑑賞・創作前後で絶対主義傾向が緩和 Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2023). Ambiguity Tolerance Can Improve Through Poetry Appreciation and Creation. The Journal of Creative Behavior, 57(2), 178–185. 俳句という曖昧さを特徴とする芸術に触れる 中で，「曖昧さ」を受け入れるようになる？ 創作 鑑賞 1週間後 1週間後も 効果は持続
35. 俳句すごい 俳句を広めることで，世界を確実に救っている人
36. 日本的な視点 (平穏感謝，曖昧さ) で 結果を示していく
37. 足りないこと① 俳句だけ？ 例えば書道 確実な基準がない，二度と同じ字が書 けない，曖昧な創作対象。書道体験に よって，曖昧さを楽しむ，完璧主義を 手放すことができるかも。
38. 足りないこと② 因果的・長期的影響 平穏感謝が高い人が俳句創作をしているだけでは？ 経験サンプリング 尾崎 (2022) 俳句を週に1回創ってもらう×4週間 をすることで平穏感謝の傾向が高まる かどうか (日記と比較する？)
39. 足りないこと② 因果的・長期的影響 平穏感謝が高い人が俳句創作をしているだけでは？ 経験サンプリング 尾崎 (2022) 俳句を週に1回創ってもらう×4週間 をすることで平穏感謝の傾向が高まる かどうか (日記と比較する？)
40. 足りないこと④ 研究を開いていく 実際に社会に広まっていってこそ「世界を救う」に繋がる？ (もちろん，他の人が知見を利用してくれたらそれで研究者としては◎と考えることもできる？) あいまいと 林・櫃割 (2025) 実践家，経営者も巻き込むイベント
41. 足りないこと④ 研究を開いていく この資料を作りながら思いついたこと もし曖昧発信でも広まるアカウント (そしてそのノウ ハウ？) が作れると，白黒思考であふれるタイムライ ンを緩和できるかも？ 研究発信ショート動画アカウント 特徴：論文に忠実に従う 弱点：結論をはっきり言わない (曖昧さが残る) ので，バズらない
42. FYI: ショート動画といえば ショート動画を盲目的に見続けることを食い止めたい (難) 定期
43. 改めて，「美は世界を救う」と思いますか？
44. ひつわりの答えは「Yes (救える世界は多い)」 その理由 (今日のまとめにかえて; 「そんな話してないじゃん」も含む) 1．価値観変容 (戦争反対，ただし悪用の可能性も)，攻撃性を下げる， ウェルビーイングを上げる，平穏感謝，曖昧性を楽しめるように 2．楽しくできる (c.f., マインドフルネス瞑想) 3．手軽にできる (特に俳句) 4．教育現場などで既に取り組んでいる (国語，美術，音楽，etc.) 5．なんならどこにでもある (e.g., 音楽，病院の絵画，自然)
45. みなさんの意見も聞かせてください！
46. まだまだやりたいことたくさんです クラウドファンディングへのご支援よろしくお願いします！ そして，ぜひ仲間になってください！
47. お聴きくださり，ありがとうございました！ どんなフィードバックでも参考にさせて頂きたいです クラウドファンディング ご支援よろしくお願いします！ ホームページ 下部に全SNSあります， よければ繋がってください！
48. References Altenmüller, M. S., & Gollwitzer, M. (2023). Power of pictures? Questioning the emotionalization and behavioral activation potential of aesthetics in war photography. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts. Advance online publication. https://doi.org/10.1037/aca0000607 林 尚芳・櫃割 仁平 (2025). コミュニティサイエンスの実践―心理学研究コミュニティ「あいまいと」における一般市民と研究者による共同研究の事 例を通して. 認知科学会第42回大会発表 (予定). Hitsuwari, J., & Jacobsen, T. (2025). Empirical Aesthetics of Ikebana: Effects of Subjective and Objective Symmetry on Beauty of Japanese Traditional Flower Arrangement. Visual Science of Art Conference 2025, Wiesbaden, Germany. Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2022). How individual states and traits predict aesthetic appreciation of haiku poetry. Empirical Studies of the Arts, 40(1), 81–99. https://doi.org/10.1177/0276237420986420 Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2023). Ambiguity Tolerance Can Improve Through Poetry Appreciation and Creation. The Journal of Creative Behavior, 57(2), 178–185. https://doi.org/10.1002/jocb.574 Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2024a). Ambiguity and beauty: Japanese–German cross–cultural comparisons on aesthetic evaluation of haiku poetry. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 18(6), 1004–1013. https://doi.org/10.1037/aca0000497 Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2024b). Comparison of ambiguity and aesthetic impressions in haiku poetry between experts and novices. Poetics, 107, 101944. https://doi.org/10.1016/j.poetic.2024.101944 Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2024c). Interaction between creation and appreciation: How linguistic art creation impacts on aesthetic evaluation of haiku poetry and ink paintings. International Journal of Psychology, 59(1), 155–162. https://doi.org/10.1002/ijop.12959 Hitsuwari, J., & Nomura, M. (2025). Effects of emotional and cognitive changes on aesthetic evaluation of poetry based on subjective and physiological continuous responses with pupil diameter measurement. Perceptual and Motor Skills. https://doi.org/10.1177/00315125251330926 櫃割 仁平・野村 理朗 (印刷中). 俳句鑑賞における曖昧性への態度の役割. 認知科学. Hitsuwari, J., Ueda, Y., Yun, W., & Nomura, M. (2023). Does human–AI collaboration lead to more creative art? Aesthetic evaluation of human-made and AI-generated haiku poetry. Computers in Human Behavior, 139, 107502. https://doi.org/10.1016/j.chb.2022.107502 Hitsuwari, J., & Yamamoto, S. (in preparation). Creative process of poetry inspired by scent: High school classroom environment.
49. References Kato, J., & Hitsuwari, J. (2024). Association between the creative experience of haiku poetry and a tendency toward self-transcendent emotions. The Journal of Creative Behavior, 58(3), 313–320. https://doi.org/10.1002/jocb.657 Menninghaus, W., Wagner, V., Wassiliwizky, E., Schindler, I., Hanich, J., Jacobsen, T., & Koelsch, S. (2019). What are aesthetic emotions? Psychological Review, 126(2), 171–195. https://doi.org/10.1037/rev0000135 尾崎 由佳 (2022). Exkumaで経験サンプリング法. 心理学ワールド, 97, 40–41. https://psych.or.jp/publication/world097/pw20 Trupp, M. D., Howlin, C., Fekete, A., Kutsche, J., Fingerhut, J., & Pelowski, M. (2025). The impact of viewing art on well-being—a systematic review of the evidence base and suggested mechanisms. The Journal of Positive Psychology. https://doi.org/10.1080/17439760.2025.2481041 山本 周・櫃割 仁平・赤松 大輔 (2025). STEAMクラスへの参加が高校生の創造的自己効力感を促進する効果に関する縦断的検討. 日本教育工学会2025年 春季全国大会. Yang, Y., Yang, Z., Bao, T., Liu, Y., & Passmore, H.-A. (2016). Elicited awe decreases aggression. Journal of Pacific Rim Psychology, 10, e11. https://doi.org/10.1017/prp.2016.8