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地方自治体の個別の行政事務における事務執行上の課題についての意見

Avatar for Sayaka Ishizuka Sayaka Ishizuka
June 15, 2025
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 地方自治体の個別の行政事務における事務執行上の課題についての意見

持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/jizokukanonachihozaisei/index.html

構成員として参加しているこちらの会議で、第6回会議で提示された「論点整理(案)」について、元地方自治体職員としての経験から作成し、総務省に参考提出した資料です。

デジタル技術が利便性を向上させることは間違いないですが、それは現状のアナログ要素との様々なバランスの元に成り立つものであり、青天井に利便性が良くなるというものではありません。
しかし、マイナンバーカードの普及が全人口の7割を超えている現在にあって、これまでは技術的課題から仕方なく基礎自治体(市区町村)行っていたが、もはやその技術的課題が解消されており、県あるいは国で一括して行えることも多くなっているはずです。
実際に、パスポートの新規申請はオンラインで行えるようになっており、各段に利便性が向上しているはずです。

国民・県民・市民、言い方は変わっても結局指している対象は同じです。
正しい課題認識と現実のリソース配分を前提とした、議論が進むことを願います。

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Sayaka Ishizuka

June 15, 2025
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Transcript

  1. 「都道府県は、基礎自治体の集合体である」という前提を改めて思い出す 広域で行った方がスケールメリットが出るもの (例) • 同じ法令などに基づくデジタル処理(標準化 対象業務の一部、標準データセットに基づく 基礎データ整備など) • 下水道などのインフラ整備や水道事業 •

    域内基礎自治体の横連携推進 地域のステークホルダや個々の対象に寄り添う 必要があるもの (例) • 相談支援 • 自治会町内会など地域活性化 • 地域ごとの特性を勘案した経済振興 基礎自治体と広域自治体の分担について 広域自治体(都道府県)の対応範囲 基礎自治体(市町村)の対応範囲 分担についての意見
  2. 効率的な業務が行える環境を作る:現実にある様々な不具合 問題 実際にある事象 理由 低所得者把握できない問 題 低所得者向けの給付をするために、収入 が一定レベル以下の人を抽出しろといわ れてもできません。 「未申告(税情報なし)」の人の所得把

    握はできませんので、申告してもらう必 要があります。特に「世帯で把握」と なった時には更に難易度が上がります。 子どもの保護者把握でき ない問題 同一世帯に、世帯主、複数の世帯主の子 どもとその配偶者、世帯主から見た時の 「孫」が複数いる場合、どの孫がどの保 護者の子どもかわかりません。 世帯主を基準に関係性を表す住民基本台 帳では、世帯主の子は全て「子」、その 孫は全て「子の子」で表現されますので、 「子の子」がどの「子」に結びつくのか わかりません。 ひとり暮らし高齢者把握 できない問題 住民登録上で単身世帯となっていても、 実際は違う場合があるので、結局全件ア ナログに確認するしかありません。 子どもとひとつ屋根の下に住んでいても、 非課税世帯になる等の理由で世帯分離で 住民登録上分けているというパターンで は、本当のひとり暮らし高齢者が把握で きないので、すぐ手が差し伸べられませ ん。 環境面についての意見
  3. 効率的な業務が行える環境を作る:現実にある様々な不具合 問題 実際にある事象 理由 選挙人名簿二重登録問題 複数自治体の選挙人名簿に同じ人が登録 される場合があり、選挙前の確認が煩雑 になります。 選挙人名簿登録は転入3か月後、一方で 削除は転出4か月後という誤差のために、

    名簿に二重登録される期間ができ、郵送 やFAXで登録の有無を調べる羽目になり ます。 児童手当が別問題 子育て支援のために児童手当を受給して る人を全員抽出しろと言われても無理で す。 公務員は勤務先から手当を支給している ため、自治体の児童手当システムで管理 していません。 ひとり暮らしどころか、 そもそも住んでるかどう かわからない問題 住民票はそこにありますが、本当に住ん でいるかどうかはわかりません。 住民票を移さないまま有料老人ホームや サービス付高齢者向住宅に入所された場 合、家族に聞く以外に捕捉する術はあり ません。 環境面についての意見 次ベージ参照
  4. 投票前 投票 開票 今でも効率化できそうな例 例)開票事務 住記から選 挙人名簿を 生成 投票案内作 成

    住民へ送付 投票日の投 票所対応 期日前投票 所対応 開票所開設 投票用紙 集約 開票所事務 現状は完全なる「労働集約型作業」 全国で何万箇所? 何万人の基礎自治体職員 が前日対応から当日対応 で動員? 選挙人名簿二重登録問題 にどれだけの確認作業が 発生している? 即日開票によって、 どれだけの深夜勤が 発生? これを「自宅からマイナンバーカードの電子署名を用いた電子投票を可能にすればよい」という意見もあり ますが、個人的には投開票事務をエンドtoエンド全てでオンラインにするには、技術的観点よりも国民側の 心理的拒否感を払拭できないため難しいと感じています。 現状のデジタル活用は、技術的観点よりも、こうした「アナログ要因」によって阻まれることが多いという のが現実です。 対応方策についての意見
  5. 投票前 投票 開票 今でも効率化できそうな例 例)開票事務 住記から選 挙人名簿を 生成 投票案内作 成

    住民へ送付 投票日の投 票所対応 期日前投票 所対応 開票所開設 投票用紙 集約 開票所事務 対応案:選挙人名簿登録の誤差解消+投票所から先だけをオンラインにする 全国で何千箇所? 何万人の基礎自治体職員 が前日対応から当日対応 で動員? 選挙人名簿二重登録問題 にどれだけの確認作業が 発生している? 即日開票によって、 どれだけの深夜勤が 発生? • データベース連携により選挙人名簿二重登録問題を解消 • 投票所はなんらかの端末(専用端末orタブレット)を設置し、それを使用した投票にすることで、開 票事務の効率化を実現(従来通り紙の投票用紙を使いたい人はそれも可能とする) • オンラインに「慣れた」段階でエンドtoエンドの「インターネット投票」を検討 これにより、移動投票所も開設可能になるため、人口減少地域での投票保証も担保できます https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/taiwa5/240215taiwa4.pdf 参考:つくば市が目指すインターネット投票について 対応方策についての意見 参考:消えた投票所 自治体の苦悩 https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/86100.html
  6. オープンデータの公開は、R7年2月末現在で1486市町村が行っていますが、全ての市町村が同じデータ品質 (※)を保つことは難しく、例えば災害時などに利用しようとしても、データクレンジングの手間が膨大にかかり ます。 EBPMのベースデータや生成AIの教師データにもなるオープンデータは、きちんとデータ品質を保ち続ける必要 がありますが、1486市町村に同じ品質保証の作業を強いることはほぼ不可能です。 しかし、オープンデータの中には医療機関や学校など、国や都道府県で集約をしているものが含まれます。 厚生労働省では、医療法に基づき集約したデータをオー プンデータとして公開しています。 同様に、学校基本調査に基づく学校基礎データなどの公 開を文部科学省で行うことや、ほかに国や都道府県で集

    約しているデータを公開してもらえれば、基礎自治体は 「データの活用」に注力することができます。 ※質の良いデータとは データの「相互運用性」が保たれるように公開・更新を行うこと。 地方自治体においては、デジタル庁が国際標準やデファクトのグローバルスタンダードも重 視して策定した「政府相互運用性フレームワーク(GIF)」に従うこととなっている。 対応方策についての意見 今でも効率化できそうな例 例)オープンデータ公開
  7. 最後に:守るべき領域を規定する 引っ越しワンストップ検討の際に示された「共通領域・協調領域・競争領域」という考え方は、今回の検討に おいても参考になるものです。 以前、自治行政局から示された資料(※)に「住民を正確に記録しておくことは自治行政の基礎であり、市町村に おいては住民基本台帳を備置し、住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない」と いう記載がありますが、デジタル技術が発達 ※住民基本台帳制度の意義等について(令和3年6月30日 総務省自治行政局) https://www.soumu.go.jp/main_content/000757998.pdf し、マイナンバー制度も実現した現状におい

    て、住民記録などは共通領域に分類されるも のであり、市町村における本来の地方自治が 発揮される場面は「競争(協創・共創)領 域」にこそあると考えます。 しかし、今は全領域を市町村が負うような構 図となっており、そのことが市町村から余裕 を失わせ、「地方創生」を妨げる遠因となっ ています。 引越しワンストップサービス実現に向けた方策のとりまとめ(概要版)(2019年4月 内閣官房IT総合戦略室 https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/hikkoshi_doc1.pdf
  8. 最後に:守るべき領域を規定する -地方自治の本旨とは • 2018年から農家の猛反発を受けながらも、 農産品の品種転換を促進 • そんな余市のブドウにほれ込み、有名醸造家 が余市にワイナリー「ドメーヌ・タカヒコ」 を設立 •

    町長が元外交官・ワインエキスパートという 肩書を活かし、ドメーヌ・タカヒコのワイン を手に海外へ販路拡大 • 2025年、フランス・ブルゴーニュ地方で最 も有名なワイン産地のひとつであるシャンベ ルタン村と連携協定を締結 • ふるさと納税は約6000万円(2017年)から 約15億円(2024年)に急増 町長には当然批判的な意見もあると記事内には あるが、本来その地域の特色と良さを見出し、 住民との地道な合意を取りつつ、連携して地域 の活性化に務めるのが地方自治の本旨であり、 地域創生のあるべき姿 出典:2015.4.27 日経新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD312J60R30C25A3000000/