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サンガー法および次世代・ 超並列シークエンシング技術

安田健士郎
October 01, 2023
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サンガー法および次世代・ 超並列シークエンシング技術

バイオインフォマティクス
サンガー法および次世代・超並列シークエンシング技術

安田健士郎

October 01, 2023
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  1. 全体概要(1/2) DNAの塩基配列を読み取る装置をシークエンサーという。 本稿では、シークエンサーがDNA配列を解明する手法について解説する。 シークエンサー • シークエンシンサー:DNAから、A, G, C, Tの4つの塩基の配列を解明する装置 4

    zDNA 塩基配列 CCAGTCTCAGCTCCTT TCGAGCCAATCCAGG AGCTCGATCGTCAGCA TGCAGTCAGTCAGTTT CCAAGTGCTTCAACCG TGGCCAAGACCATCC GGGTCATATCGTCAGC ATG 【参照元】https://www.ac-illust.com/main/search_result.php?word=DNA 【参照元】http://www.rimg.kochi-u.ac.jp/toppage/miseq.html
  2. 全体概要(2/2) 鋳型DNAの塩基配列を解明する際には、シークエンシングを用いる。次世代 ・第三世代シークエンシングの場合は、配列復元までのプロセスが必要。 鋳型DNAの塩基配列を解明するプロセス • シークエンシング:DNAから、A, G, C, Tの4つの塩基の配列を解明する手法 5

    ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・ サンガー型 シークエンシング 次世代・第三世代 シークエンシング デノボアセンブリ 鋳型DNAの用意 シークエンシング マッピング 配列復元 ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・
  3. (再掲)全体概要 鋳型DNAの塩基配列を解明するプロセス 7 ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・

    サンガー型 シークエンシング 次世代・第三世代 シークエンシング デノボアセンブリ 鋳型DNAの用意 シークエンシング マッピング 配列復元 ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・
  4. サンガー法 相補鎖を合成するdNTPと、合成をSTOPさせる作用を持つddNTPを用い て、任意の鋳型DNAに対する様々な長さの相補DNA鎖を作成する。 • dNTP:デオキシヌクレオチド三リン酸 (dATP・dGTP・dCTP・dTTP) ◦ 鋳型DNAの各塩基に対して相補的に合成する塩基 • ddNTP:ジデオキシヌクレオチド三リン酸

    (ddATP・ddGTP・ddCTP・ddTTP) ◦ dNTPから水酸基(-OH基)が欠けた塩基 ◦ 取り込まれた時点で相補鎖の合成をSTOPさせる作用を持つ 10 1:相補DNA鎖の合成 1/2 ? T T 5’ 5’ 5’ ? A A ? G G ? T ? T ? ? 3’ 3’ 3’ 鋳型DNA G G T A A G G T A A A T N N dNTP ddNTP
  5. サンガー法 相補鎖を合成するdNTPと、合成をSTOPさせる作用を持つddNTPを用い て、任意の鋳型DNAに対する様々な長さの相補DNA鎖を作成する。 • dNTP:デオキシヌクレオチド三リン酸 (dATP・dGTP・dCTP・dTTP) ◦ 鋳型DNAの各塩基に対して相補的に合成する塩基 • ddNTP:ジデオキシヌクレオチド三リン酸

    (ddATP・ddGTP・ddCTP・ddTTP) ◦ dNTPから水酸基(-OH基)が欠けた塩基 ◦ 取り込まれた時点で相補鎖の合成をSTOPさせる作用を持つ 11 1:相補DNA鎖の合成  2/2 A T T 5’ 5’ 5’ T A A C G G A T A T T G 3’ 3’ 3’ 鋳型DNA G G T A A G G T A A A T N N dNTP ddNTP
  6. サンガー法 1の塩基配列で求めた様々な長さの相補DNA鎖を電気泳動にかける。 電気泳動は短い配列ほど速く流れるため、配列の長さ順で並べ替えが可能。 12 2:塩基配列のソート(配列長順に並べ替え) T T T A A

    A G G G T T T T A C T A G T T A T A T T A G T T T A T A G T A G T T A G T T T A G T T A T A G T T A C ー + 電気泳動前 電気泳動後 T T T A T A G T A G T T A G T T T A G T T A T A G T T A C ー + T
  7. サンガー法 相補DNA鎖へレーザー照射して得た蛍光をセンサーで判定し、配列を特定。 各ddNTPを識別できるよう、事前にそれぞれ蛍光色素で加工している 13 3:塩基配列の特定 T T A T A

    G T A G T T A G T T T A G T T A T A G T T A C T T T A T A G T A G T T A G T T T A G T T A T A G T T A C T C A T T G A T A 5’ T C A A T G 3’ T 5’ A G T T A C 3’ レーザー照射
  8. サンガー型シークエンサの欠点 サンガー型シークエンサの欠点は、DNAの鋳型を大腸菌などの微生物を利用 して一つ一つ個別に複製するという作業の手間がかかることである。 • サンガー型シークエンサの欠点 14 A 5’ T C

    A A T G 3’ サンガー法で配列特定するには、鋳型DNAをたくさん複製する必要がある A 5’ T C A A T G 3’ A 5’ T C A A T G 3’ A 5’ T C A A T G 3’ A 5’ T C A A T G 3’ 大腸菌などの微生物内で個別に複製 (クローニング) 鋳型DNAの複製作業にとても手間がかかり、非効率なのが欠点である
  9. (再掲)全体概要 鋳型DNAの塩基配列を解明するプロセス 16 ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・

    サンガー型 シークエンシング 次世代・第三世代 シークエンシング デノボアセンブリ 鋳型DNAの用意 シークエンシング マッピング 配列復元 ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・
  10. 次世代シークエンシングの概要 次世代シークエンシングは2007年から普及した手法。同時並行で複数の塩基 配列を決定することが可能。1日あたりの読み取り塩基数は100Gを超える。 • 次世代シークエンシング(NGS)Next Generation Sequencing ◦ 2007年頃から普及したシークエンシング技術 ★

    特徴 ◦ 鋳型DNAの複製効率化によって、サンガー型の欠点を解消 ◦ 超並列化により、1日あたりの読み取り塩基数は100Gを超える 17 【参照元】https://foodmicrob.com/dna-sequencers-princiiple/ • 超並列:並列処理の中でも規模が大きいもの 従来法: 1人で1冊の本を読破するイメージ 次世代:複数人で1冊の本を輪読するイメージ
  11. (再掲)全体概要 鋳型DNAの塩基配列を解明するプロセス 24 ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・

    サンガー型 シークエンシング 次世代・第三世代 シークエンシング デノボアセンブリ 鋳型DNAの用意 シークエンシング マッピング 配列復元 ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・
  12. 復元完成度の指標はどうすればいいか? N50は、デノボアセンブリで復元したゲノム配列の完成度を評価する指標。 N50の値が高いほど、ゲノムの復元が大方なされているという評価になる。 • N50 ◦ デノボアセンブリによって復元された配列の完成度指標 ◦ contigを長さ順に並べ、全体量の半分となった時のcontig配列長 26

    • contig:復元した断片配列 • scaffold:全ゲノムから見たcontigの位置 半分時、contigが長い = 大方復元できている N50が高いと大方復元できているという認識 半分時、contigが短い = 全然復元できてない 【参照元】https://bi.biopapyrus.jp/hts/assembly/de-bruijn-graph-assembly.html
  13. (再掲)全体概要 鋳型DNAの塩基配列を解明するプロセス 28 ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・

    サンガー型 シークエンシング 次世代・第三世代 シークエンシング デノボアセンブリ 鋳型DNAの用意 シークエンシング マッピング 配列復元 ? 5’ ? ? 3’ 鋳型DNA ・・・
  14. マッピング マッピングは、既知のゲノム情報を参照配列として使用し、これにシークエ ンシングで求めた塩基配列を一つずつ当てはめながら復元する手法である。 • マッピング ◦ ある程度ゲノム情報が既知の場合に使用する復元手法 ◦ リファレンスと呼ばれる参照配列にマッピングして解析する 29

    • デノボアセンブリ ◦ ゴールの図が無い状態でピースを埋めていく • マッピング ◦ ゴールの図がなんとなくわかる状態から、 ピースをそれぞれ当てはめながら埋めていく 【参照元】http://www.med.osaka-cu.ac.jp/bacteriology/b-online/omics/yougo/assembly.shtml
  15. 論文概要 “Rapid DNA Sequencing Technology Based on the Sanger Method

    for Bacterial Identification” 「サンガー法に基づいた高速 DNA シーケンス技術」 Shunsuke Furutani Nozomi Furutani, Yasuyuki Kawai, Akifumi Nakayama, Hidenori Nagai 1 PMID:35336302,Sensors 2022, 22(6), 2130; https://doi.org/10.3390/s22062130 • 背景: ◦ 敗血症は、1時間以内に適切な抗菌薬を投与すれば、死亡率が減少する ◦ 適切な抗菌薬を作成するための迅速な細菌の特定が必要不可欠 • 目的: ◦ サンガー型シークエンサ―の中身を改善して、早期的な細菌特定を目指す • 目的に対する提案: ◦ 高速なPCR法     : 高速なPCRシステムの導入し、最小伸長時間を決定 ◦ 高速なシークエンシング: サイクルシークエンスの最小サイクル数を決定 ◦ 新規的な電気泳動解析 : マイクロチップ電気泳動法の導入 31 35336302
  16. Figure1 Figure1は、サンガー法に基づく高速DNAシーケンシングの臨床試験プロセ スと全体的な実験スキームでまとめた図である。 32 “The clinical testing process and the

    whole experimental scheme for rapid DNA sequencing based on the Sanger method.” 35336302 本研究で提案する高速DNAシーケンシングの全体図 GeneSoC システム (キョーリン製薬) 高速なPCRとシーケン シングを実現する装置
  17. Figure2 Figure2では、マイクロチップを用いた電気泳動における蛍光標識を検出す るための光学システムの概略図を示している。 33 “ Schematic diagram of the optical

    system for DNA sequencing.” 35336302 • BPF:帯域通過フィルター • DM:ダイクロイックミラー • LPF:ロングパスフィルター • PMT:光電子増倍管 • 「488nmのレーザー」「20倍レンズを備えた顕微鏡」「4つのPMT」で構成 • 蛍光は3つのDMを使用して4つの波長に分割され、各BPFを通じて4つのPMTで検出
  18. Figure4 高速PCR法で得たDNAを電気泳動にかけた結果、目的のDNA(793bp)の伸 長に必要な最短時間は8秒であることが分かった。 • (a)は10秒以上、(b)は8秒以上の伸長時間で、目的の793 bpのDNA断片を増幅した。 • この実験結果より、KOD One polymeraseを使用した場合の最短伸長時間(8s)を採用

    “Results of 1% agarose gel electrophoresis of amplification products following 45 cycles of PCR using two DNA polymerases.” 35 1 : 伸長の全パターン 2 : 18秒 3 : 16秒 4 : 14秒 5 : 12秒 6 : 10秒 7 : 8秒 8 : 6秒 1 : 伸長の全パターン 2 : 16秒 3 : 14秒 4 : 12秒 5 : 10秒 6 : 8秒 7 : 6秒 8 : 4秒 (a)SpeedSTAR DNA HS Polymerase (b) KOD One polymerase 35336302
  19. Table1 異なる配列決定法ににおける細菌特定の比較結果 “The comparison of bacterial identification by different sequencing

    methods.” 39 配列決定法 必要なプロセス 分析時間 読み取り長 【従来】サンガー法 PCR サイクルシークエンス 電気泳動 9時間以内 700~900bp 【最新】ナノポア法 PCR ライブラリの準備 ナノポア配列決定 4.2~7.5時間 10000bp 【提案】高速サンガー法 高速PCR 高速サイクルシークエンス マイクロチップ電気泳動 41分 550bp 35336302
  20. 結論&まとめ ~まとめ~ • Sanger法に基づくDNA配列解析の3つのステップは、合計で41分以内に完了する ◦ 高速PCR ▪ DNAの増幅は、45サイクルで13分以内で完了 ◦ 高速サイクルシーケンシング

    ▪ 15サイクルで十分な蛍光強度のサンプルを生成し、14分以内で完了 ◦ マイクロチップ電気泳動 ▪ マイクロチップ電気泳動DNA配列解析は、14分以内に完了 • 本研究にて、大腸菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎レンサ球菌の特定に成功 ~結論~ • 提案手法により、敗血症の早期治療に重要な菌種特定が1時間以内に可能となる 40 35336302
  21. Figure2用語解説 44 • BPF:帯域通過フィルター ◦ 周波数の範囲を決めて、その周波数のみを通過させるフィルタ • DM:ダイクロイックミラー ◦ 特定の波長領域の光を透過し、残りの波長領域を反射するミラー

    • LPF:ロングパスフィルター ◦ 短波長側を反射し、長波長側を透過する機能をもった光学フィルター • PMT:光電子増倍管 ◦ 光電効果により放出された電子を増幅し、高感度で電子を検知する光センサ
  22. 高速PCR法 • 高速PCRの条件(GeneSoC システム上にて実施) ◦ PCRミックスを96℃で10秒間加熱してDNAポリメラーゼを活性化 ▪ PCRミックス:DNAポリメラーゼ、dNTP、ddNTPなど ◦ 96℃で5秒間の変性、55℃で4~18秒間の伸長させる

    ▪ このサイクルを45回繰り返す ★ 高速PCR法で、最短の伸長時間決定のための実験(Figure4に通ずる) ◦ 電気泳動により、目的のDNA増幅に必要な最短伸長時間を特定 ◦ SpeedSTAR HS DNAポリメラーゼ・KOD One ポリメラーゼ ▪ 高速PCRで増幅にバフをかけるポリメラーゼ 45