RSGT2024 での登壇資料です。
https://confengine.com/conferences/regional-scrum-gathering-tokyo-2024/proposal/19236
デイリースクラムで「困っていることはありません」というフレーズを聞くことがあります。この「困っていることがない」とはどういう状態でしょうか?私は次の2つのいずれかだと考えます。
本当に困っていることがない
困っていることはあるが気づいていない
ソフトウェア開発者として仕事をしている中で、私は「本当に困っていることがない状態」に出会ったことがありません。放置されているライブラリーアップデート、長年の蓄積によるメンテナンス性の乏しいクラスやメソッド、デプロイまでに立ちふさがる承認フロー、テストのない実装。これらのものを前にして「困っていない」と本当に言い切れるでしょうか?
私の経験上、「困っていることがない」状態は問題や課題に気づいていないことによるものだと思っています。では、なぜ気づかないのでしょうか?これまでいくつかのチームを観察してみると以下のことが原因としてありそうです。
ある特定のタスクに集中し過ぎてスコープを狭めることで、全体像への意識が薄れている
これまでのやり方に慣れ、つまり適応してしまい、やり方自体への疑問を持てなくなる
いずれも、チームが現在取り組んでいることをスムーズに完了させるという点では優れた戦略だと思います。こうした戦略によってプロダクトのデリバリーにかかるリードタイムは短くなります。実際、私の関わっているチームもこのような状況でデリバリーのリードタイムは短く、デプロイも頻繁に行われています。
こうした状況下で「困っていることはありません」という発言が出るようになり、私にとっての明確な課題がチームにとっての課題ではないことにショックを受けました。しかし、ふと立ち返ってみると、私はチームから少し離れた位置で仕事をしていたため、そのような違いが生まれたのだと思い至りました。そこから、「困っていることはありません」という言葉自体が、チームが見方を変えるタイミングを示すものと仮定して、それ自体をチームの気づきにする活動にしようと思い至りました。
チームが自ら気づきを得られるように、私からの問いかけ方法を見直しました。まずはスコープを限定することです。「困っていることはありますか?」と直接問いかけてもなかなか困っていることが思いつかない、という声があったので、もう少し具体的に「デプロイで困っていること、面倒なことはないですか?」のような問いかけを試してみました。
本セッションでは、「困っていることはありません」という発言をきっかけにチームの見方を変えることによる意義、取り組んだこと、そして、その効果について、これまでの経験から得られた知見を共有します。このセッションを聞くことで、チームや組織にはたくさんの気づきがあることに気づくことができると思います。