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宇宙輸送とは何か──その全体像とAIが導く次の進化

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November 25, 2025
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 宇宙輸送とは何か──その全体像とAIが導く次の進化

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Atsushi Ishii

November 25, 2025

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  1. 石井 敦 | Atsushi Ishii クーガー CEO couger.co.jp 日本IBMを経て、楽天やライコスの大規模検索エンジン開発を担当。その後、 日米韓を横断したオンラインゲーム開発の統括、Amazon

    Robotics Challenge上位チームへの技術支援、ホンダへのAI学習シミュレーター提供、 NEDOクラウドロボティクス開発統括などを務める。現在、人型AIプラット フォーム「LUDENS」の開発を進めている。スタンフォード大学2018年AI 特別講義の講師。電気通信大学 元客員研究員。Enterprise Ethereum Alliance日本支部代表。 2 自己紹介
  2. 人類は何を宇宙に運んでいるのか • 現在、人類が宇宙へ運んでいる主な対象は、4つのカテゴリに分類できる。 衛星(Satellite) ・通信、観測、測位、防衛など。 ・全打ち上げ件数の約9割を占める。 ・Starlinkなどのメガコンステレーションが主因。 貨物(Cargo) ・ISSや月軌道基地への物資補給。 ・燃料、食料、実験機材、部品などを運搬。

    ・Dragon/Cygnus/HTV-Xなどが担う。 有人(Crew) ・宇宙飛行士をISSや深宇宙へ輸送。 ・Crew Dragon、Orion、Shenzhouなどが代表。 探査機・着陸機(Probe / Lander) ・月・火星・小惑星などの探査を目的。 ・HAKUTO-R、LUPEX、Artemis探査機など。 • これらは単独ではなく、宇宙活動全体のサプライチェーンを構成する。 → 衛星が通信網を支え、貨物が基地を維持し、探査機が拡張領域を開く。 • つまり宇宙輸送とは、「人類が宇宙空間で機能するためのすべてを運ぶ仕組み」。 • 現在の宇宙産業では、これら4カテゴリすべてが商業化のフェーズに入っている。
  3. 輸送内容のシェア(件数+質量の実態) • 宇宙へ運ばれる対象は、件数ベースで圧倒的に 衛星が中心。 • 2024年の全世界の軌道打上げ結果: → 打上げ回数:259回(過去最多) → ペイロード総数:約2,900機(うち衛星が約2,857機)

    • 割合(件数ベース) - 衛星 :約 93〜95 % - 貨物 :約 3 %(ISS・実験補給) - 有人 :約 1 %(Crew Dragon・Shenzhou等) - 探査機:約 1 %(月・惑星探査) • 質量ベースの割合(大型貨物が寄与) - 衛星:約 70 % - 貨物:約 20 % - 有人:約 7 % - 探査機:約 3 % • 件数は衛星が圧倒的だが、質量では貨物・有人が存在感を持つ。 • 打上げ回数・質量ともに、民間企業主導(SpaceX、Rocket Lab など)が全体の約 80 % を占める。 • このデータは、「宇宙輸送の大部分は“衛星インフラの構築”に費やされている」ことを示す。 https://www.planet4589.org/space/papers/space24.1.0.pdf https://www.spacefoundation.org/2025/01/21/the-space-report-2024-q4/ https://brycetech.com/reports/report-documents/global-space-launch-activity-2024/
  4. 輸送内容のシェア(経済規模と今後の変化) • 宇宙輸送市場の中心は依然として衛星輸送だが、価値ベースでは補給・有人・探査が拡大中。 • 2024年時点の宇宙輸送市場規模:約 1,100億ドル(OECD推計)。 → 内訳: - 衛星関連

    :約 730億ドル(通信・観測・軍事) - 補給・貨物:約 200億ドル(NASA商業補給契約等) - 有人・探査:約 150億ドル(Crew Dragon/Artemis計画など) • 将来予測(2035年): → 衛星輸送のシェアは減少(7割→5割) → 貨物・燃料・軌道上補給など“宇宙内物流”が急成長 • 特に月・地球間輸送や軌道上製造の需要が拡大見込み。 • 「量」は衛星が支配、価値成長は物流・有人が牽引」という二層構造。 https://www.oecd.org/en/about/directorates/directorate-for-science-technology-and-innovation.html https://www.spacefoundation.org/2025/01/21/the-space-report-2024-q4/ https://www.nasa.gov/humans-in-space/commercial-space/
  5. 輸送の全体規模(2025年時点) • 2024年の世界全体の軌道打上げ回数:259回(史上最多) → 2015年比で 約3.8倍増。 • ペイロード総数:約2,900機/総質量:約2,180トン。 • 年間打上げ頻度:平均34時間に1回(地球上のどこかでロケット発射)。

    • 国・事業者別構成比(件数ベース) • 米国:63%(うちSpaceXが全体の55%を占有) • 中国:24% • 欧州・日本・インドなど:13% • 民間主導構造が定着 - SpaceX、Rocket Lab、Arianespace、Blue Originなどが全世界の8割超を担当。 • ペイロード別内訳 - 小型衛星群(Starlink等):約80% • 補給・有人・探査:残り20% • 再使用打上げが全体の約70%(SpaceXによる再利用ブースター)。 • 打上げ経済規模は年間約 1,100億ドル(うちSpaceXが約6割を担う)。 • 宇宙輸送はすでに「実験」から「定期輸送インフラ」へ移行した段階にある。 https://www.spacefoundation.org/2025/01/21/the-space-report-2024-q4/
  6. 衛星輸送-1:Starlinkの圧倒的規模 • 現在の宇宙輸送を数量面で牽引しているのが SpaceX「Starlink」。 • 2025年6月時点、軌道上に存在するStarlink衛星は約7,875機。 → 世界の運用衛星総数(約9,000機)の 約87% を占める。

    • 2024年だけで 1,900機以上 が新規投入。 → Falcon 9の打上げの 約8割がStarlink専用ミッション。 • 1回の打上げあたり平均投入衛星数:22〜60機。 → 高頻度・高効率の輸送モデルを確立。 • Starlink群の総質量は 約1,100トン に達し、世界全体のペイロード質量の 約半分 に相当。 • 目的は「地球全域インターネット網の構築」。 → 高度約550kmに分散配置し、レーザー通信で相互接続。 • Starlinkの打上げ頻度は 3〜4日に1回。 → 宇宙輸送の定常化を象徴する事例。 • SpaceXは2025年以降、第2世代衛星(Starlink v2) をStarshipで一括輸送予定。 → 1回あたり数百機の大量輸送体制へ移行中。 https://www.space.com/spacex-starlink-satellites.html https://planet4589.org/space/con/star/stats.html
  7. 衛星輸送-2:運用と自動軌道管理 • Starlink衛星群は、人手による運用を超えた“自動運行システム”で制御されている。 • 各衛星は地上局と通信しながら、自動的に軌道調整と衝突回避を実施。 • SpaceXはFCC提出書類で「autonomous collision avoidance system」を正式記載。

    → 他衛星やデブリとの距離・相対速度を常時計算。 • しきい値を超える接近リスクを検出した際、自動的に噴射して軌道を変更。 → 機動指令は地上の確認を経ず、衛星内制御で完結。 • 2024年上半期だけで144,000件超の回避機動を実施。 → “衝突リスク1/100,000”を基準に自動判断。 • 衛星の位置・速度・燃料残量・姿勢情報はすべてリアルタイムで地上に送信。 → NASAや他事業者と共有され、Space Traffic Management(STM)の基盤となっている。 • この自動運行はAIそのものではないが、アルゴリズム制御・自己学習的最適化の要素を含む。 → SpaceXは将来的に“AI最適化軌道制御”への拡張を計画中(Starlink Gen2以降)。 • Starlink群は、宇宙輸送における「自律運行」という新しいパラダイムを示している。 https://www.spacex.com/updates
  8. まとめ:輸送対象の違いが技術要求を決める • 宇宙輸送の「何を運ぶか」は、「どう運ぶか」を直接決定する。 • 衛星輸送: - 高頻度・大量・小型化が進行。 - 必要技術:再使用ロケット、精密軌道投入、自動衝突回避。 •

    貨物輸送: - 高質量・安全性重視。ISSや月基地への定期補給。 - 必要技術:精密ドッキング、姿勢制御、熱防護システム。 • 有人輸送: - 最も高い信頼性と冗長設計が要求される。 - 必要技術:緊急脱出、生命維持、AI監視システム。 • 探査機輸送: - 遠距離通信と自律航法が鍵。 - 必要技術:高推力エンジン、深宇宙通信、AIナビゲーション。 • 各カテゴリは共通して、「自律制御」と「低コスト化」を指向。 → その両立を実現する要素技術が、現在の宇宙輸送の競争軸となっている。 https://www.esa.int/Enabling_Support/Space_Transportation https://www.oecd.org/en/about/directorates/directorate-for-science-technology-and-innovation.html
  9. 輸送目的の4類型 • 宇宙輸送の目的は、主に以下の4類型に分けられる: • 地球軌道輸送(LEO/MEO/GEO): • 衛星通信・観測・測位など、地球近傍にシステムを構築する。 • 軌道補給・物流輸送(Cargo/Resupply): •

    軌道上ステーションや将来の月・火星基地への物資・燃料・部品の輸送。 • 有人輸送(Crew/Human Spaceflight): • 宇宙飛行士の移動・滞在・作業を可能にする輸送。 • 深宇宙輸送(Deep Space/Interplanetary): • 月・火星・小惑星などへの探査機・着陸機・貨物の長距離輸送。 • これら4類型は、それぞれ異なる技術要件・運用モデル・リスク構造を持つ。 https://www.esa.int/Science_Exploration/Human_and_Robotic_Exploration https://en.wikipedia.org/wiki/Space_Transportation_System
  10. 地球軌道輸送 • 地球軌道輸送(Earth Orbital Transportation) は、宇宙輸送の基盤となる領域。 → 打上げの 約95%以上 がこの範囲で完結している。

    • 主な目的は以下の3点: 1. 通信・インターネット網の構築 - Starlink、OneWeb、Kuiperなどのメガコンステレーション。 - 地球全域をカバーする低軌道ネットワークが急拡大。 2. 地球観測・測位・防衛 - 気象観測、農業モニタリング、災害監視、GPS/Galileo/みちびき。 - 地上社会のデジタルインフラを支える中核。 3. 科学実験・技術実証 - 小型衛星・CubeSatによる新技術の試験やAI運用実験。 • 軌道別の役割: - LEO(高度200–2,000 km):通信・観測(Starlink、ISS)。 - MEO(約20,000 km):測位衛星(GPS、Galileo)。 - GEO(約36,000 km):通信・放送衛星(静止軌道)。 • 地球軌道輸送は、宇宙を「使う」ための入り口であり、深宇宙探査や有人活動の前提条件を形成。 https://www.nasa.gov/missions/ https://brycetech.com/reports/report-documents/global-space-launch-activity-2024/ https://www.spacefoundation.org/2025/01/21/the-space-report-2024-q4/
  11. 補給輸送・物流輸送 • 補給輸送(Cargo / Resupply)は、宇宙ステーションや将来の月基地に必要な物資を定期的に届けるため の物流システム。 • 輸送の流れは「地上発射 → 軌道投入

    → 接近 → ドッキング → 荷下ろし → 再突入(または廃棄)」で構 成される。 • これにより、宇宙における完全なサプライチェーンが成立している。 • 主な輸送対象は、食料・水・酸素・燃料・研究装置・交換部品・実験サンプルなど。 1回のミッションで運ばれる質量は通常 3〜6トン。 • 現在運用されている主な補給機は次の通り: - SpaceX「Cargo Dragon」:NASAの商業補給契約で運用。再使用可能で地球帰還も可能。 - Northrop Grumman「Cygnus」:ISS滞在後、大気圏再突入で廃棄される使い切り型。 - JAXA「HTV-X」:7トン級の大型補給機。将来は月軌道基地「Gateway」への補給を想定。 - Roscosmos「Progress MS」:最古参の補給機。自動ドッキング機能を早期に実装。 • 補給のプロセスでは、自動姿勢制御・LIDARセンサー・ビジョン誘導を用いてステーションに接近。 相対速度0.1m/s以下でのドッキング精度を達成している。 • ISSでは年間 12〜15回 の補給ミッションが実施されており、今後は月軌道基地「Gateway」や 「Artemis Base Camp」への月ロジスティクス網の整備が進む見込み。 https://www.northropgrumman.com/what-we-do/space/spacecraft/cygnus https://www.spacefoundation.org/2025/01/21/the-space-report-2024-q4/
  12. 自律ドッキング技術 • 補給輸送を成立させる中核技術が、自律ドッキング(Autonomous Docking)。 • かつては地上からの遠隔操作が主流だったが、現在は機体自身が軌道上で自律判断し接近・結合する。 • 代表的な実装例: - SpaceX「Cargo

    Dragon」:NASA承認の完全自動ドッキングシステムを搭載。 - Northrop「Cygnus」:接近時は自律航法、最終捕捉はロボットアーム。 - JAXA「HTV-X」:AI画像認識+LIDARで相対姿勢を自動推定し、将来的に完全自律化を目指す。 • 自律ドッキングのプロセス: 1. 軌道投入後、GPSと慣性計測でISSやGatewayの位置を特定。 2. 数十メートルまで接近すると、LIDAR・カメラで相対距離と角度を測定。 3. 自動姿勢制御スラスタが相対速度を0.1m/s以下に調整。 4. センサー認識が閾値に達すると、結合リングを自動展開してドッキング完了。 • これらの動作はAI制御ではなく、ルールベース+リアルタイム最適化で構成される。 → NASA と JAXA は、将来的にAIベースの自己診断・誤差学習型誘導を導入予定。 • この技術により、地球—軌道間物流の自動化比率が80%以上に到達。 • 今後は月軌道や深宇宙でも、同様の自律ドッキングが標準化されていく。 https://www.spacex.com/vehicles/dragon https://www.esa.int/Science_Exploration/Human_and_Robotic_Exploration
  13. 有人輸送 有人輸送(Human Spaceflight Transportation)は、「安全性・冗長性・再使用性」を軸に技術革新が最も 集約される領域。 過去:国家主導の有人飛行 • 1960〜2010年代前半までは、ソ連のソユーズ(Soyuz)と米国のスペースシャトルが中心。 • 再使用・大型輸送を実現したが、運用コストと安全性の両立が課題だった。

    現在:商業有人輸送の時代 • 2020年以降、**SpaceX「Crew Dragon」**が商業有人輸送を実現。 - NASA認定の完全自動運用。 - 再使用機体・高信頼カプセル・冗長系統電力制御を搭載。 • 中国の**神舟(Shenzhou)**シリーズも安定運用を継続中。 • **Boeing「Starliner」**も2025年本格運用開始予定(NASA契約)。 未来:月・火星への移動技術へ拡張 • NASAのOrion宇宙船は、月軌道基地「Gateway」とArtemis計画で運用予定。 • SpaceXのStarship Crew版は、最大100人規模の輸送を想定。 • 今後は、AIによる船内環境制御・異常診断・自動帰還が標準化される見込み。
  14. 緊急脱出・生命維持システム 有人輸送で最も重要な要素は、安全性(Crew Safety)。「乗員を生還させる」ことが最優先。 緊急脱出システム(Launch Abort System, LAS) • 打上げ中の異常を検知すると、ロケット上部の脱出塔または推進モジュールが作動。 •

    カプセルを数秒で主ロケットから切り離し、安全高度まで退避。 • SpaceX「Crew Dragon」では、機体内蔵のSuperDraco推進装置がLASを担当。 • Boeing「Starliner」も同様に内蔵式脱出システムを採用。 生命維持システム(ECLSS: Environmental Control and Life Support System) • 船内の酸素供給・二酸化炭素除去・温湿度管理・水再生を自動制御。 • Crew Dragonは再生型ECLSSを採用し、複数日間の軌道滞在を実現。 • Orion宇宙船では、ESA製サービスモジュールが酸素・水・電力を供給。 • すべての制御は二重冗長(Redundant)構成で、異常時は即時バックアップに切替。 今後の方向性 • NASAとSpaceXは、AI診断による異常予測・乗員対応支援の実証研究を進行中。 • 将来の長期探査では、AIが「乗員の健康モニタリング」と「自律意思決定支援」を担う予定。
  15. 深宇宙輸送-1:目的と意義 深宇宙輸送(Deep Space Transportation)は、地球軌道を超える探査・輸送・滞在を実現する技術領域。 目的は大きく3つに分類できる。 1. 科学探査 • 月・火星・小惑星・外惑星を対象とした地質・資源・生命起源の研究。 例:NASA「Artemis計画」、JAXA「MMX(火星衛星探査)」、ESA「JUICE(木星探査)」など。

    2. 技術実証 • 長距離通信、AI自律航法、放射線防護、燃料補給などの実験。 • 月軌道基地「Gateway」や、小惑星資源利用の実証ミッションが該当。 3. 将来の居住・経済圏構築 • 月・火星における人類の恒久的拠点形成を見据えた輸送技術の整備。 • 民間も参入(SpaceX「Starship」、Blue Origin「Blue Moon」、ispace「HAKUTO-R」など)。 • 深宇宙輸送は、単なる探査ではなく、人類の行動圏を地球外に拡張する「経済圏形成」技術。 • これらのミッションでは、地球との通信遅延(片道10〜20分)を前提に、高自律運用が求められる。 • よって、推進・通信・AI制御の三要素が、地球軌道輸送と大きく異なる。
  16. 深宇宙輸送-2:通信と自律航法 • 深宇宙輸送では、地球からの距離が極端に大きくなるため、通信遅延・信号減衰・制御不能時間が発生。 → 火星との通信遅延は片道10〜22分、木星では約45分。 → 地上からのリアルタイム操作は不可能。 通信インフラ • NASAのDeep

    Space Network(DSN)が主要通信基盤。 ・地球3拠点(米国・スペイン・オーストラリア)で連携し、常時通信を維持。 ・帯域幅の拡大とKa帯通信への移行が進行中。 • ESAはESTRACK網を運用し、欧州探査機・商業機との接続を統合。 • 将来は、光通信(Laser Comm)による高容量・低電力伝送が主流になる見込み。 自律航法技術 • 通信遅延を補うため、探査機自身が位置・姿勢を推定し航行を判断。 • NASAの「Optical Navigation」技術では、カメラで惑星や星の位置を自動解析し、地球基準ではなく 「宇宙基準座標」での自己位置を計算。 • AIを用いた経路計画・姿勢制御(Autonomous Trajectory Planning)は、「Psyche」「OSIRIS-REx」 「HAKUTO-R」などで実運用済み。 • 将来的には、探査機間が直接通信し合い、ネットワーク型自律運用へ移行予定。
  17. 目的の違いと必要技術のマッピング 宇宙輸送の「目的」によって、要求される技術構成・運用思想・AI活用領域が明確に異なる。 以下は、主要4目的に対する技術要素の特徴整理。 1. 地球軌道輸送 • 目的:通信・観測・測位インフラの構築。 • 要求技術:精密軌道投入、再使用ロケット、低コスト大量打上げ。 •

    AI活用:打上げ最適化、衝突回避、再使用診断。 • 特性:高頻度・大量・高自動化。 2. 補給輸送 • 目的:ISS・Gateway・将来基地への定期物資補給。 • 要求技術:自律ドッキング、姿勢制御、熱防護・安全分離機構。 • AI活用:接近誘導、ドッキング制御、ミッションスケジューリング。 • 特性:定期運航・信頼性重視。
  18. 目的の違いと必要技術のマッピング 3. 有人輸送 • 目的:宇宙飛行士の安全な移動と滞在。 • 要求技術:冗長制御、生命維持、緊急脱出、自動再突入誘導。 • AI活用:船内監視、異常診断、健康モニタリング支援。 •

    特性:安全優先・冗長構成・高コスト。 4. 深宇宙輸送 • 目的:月・火星・小惑星探査、将来の移住・資源輸送。 • 要求技術:高推力・高効率推進、深宇宙通信、自律航法。 • AI活用:経路最適化、通信遅延補正、自律判断支援。 • 特性:通信遅延・高自律性・ミッション長期化。 総括すると、“距離が遠くなるほどAIの介入度が高くなる”。 地球軌道輸送ではAIは補助的だが、深宇宙ではAIが“運用の主体”となる。
  19. 輸送手法の全体像 宇宙への輸送手段は、その発射方式(launch method)によって大きく4つに分類される。 1. 垂直打上げ(Vertical Launch) 2. 空中発射(Air Launch) 3.

    水平離陸型(Spaceplane Concept) 4. 軌道上輸送(In-Orbit Transportation) これらの手法の発展により、発射環境・コスト構造・運用頻度が根本的に変化した。 一方で、「再使用」はこれらの方式を横断的に進化させる運用革新として位置づけられる。
  20. 垂直打上げ(Vertical Launch) 構造・特徴 • 地上から垂直に発射し、多段ロケットで軌道へ投入する最も標準的な方式。 • 1段目が大気圏を突破し、上段が精密軌道投入を担当。 • 世界の打上げの約9割を占める主流技術。燃料は液体酸素+ケロシン/メタンが主流。 利点

    • 高推力・高信頼性・大型ペイロードに対応可能。 • 技術が成熟しており、定期運用・大量打上げが可能。 • 地上発射設備によるメンテナンス・安全管理が容易。 課題 • 発射場の位置(緯度・地形)や天候に影響を受けやすい。 • 打上げ初期の燃料消費が多く、経済性に課題。 • 打上げ回数増加に伴い、発射場の混雑・運用制約も顕在化。 代表例 • SpaceX「Falcon 9」/ESA「Ariane 6」/JAXA「H3」/CNSA「長征」シリーズ。 将来性 • 再使用技術(VTVL)によりコストは過去10年で約1/10に低下。 • 2030年代には完全再使用型の垂直発射が標準化見込み。
  21. 空中発射(Air Launch) 構造・特徴 • 航空機からロケットを切り離し、成層圏(高度10〜15km)で点火・上昇する方式。 • 母機とロケットを統合制御し、空気抵抗の小さい環境から発射。 • 地上発射場を必要としない柔軟な運用が可能。 利点

    • 天候や発射場制約が少なく、どの地域からでも発射できる。 • 初期高度が高く、燃料効率が良い。機動的でオンデマンド打上げ(Responsive Launch)に適する。 課題 • 打上げ能力が小型衛星(300kg〜1t級)に限定。 • 航空機運用や統合設計のコストが高い。 • 構造的制約により大型化・再使用化が難しい。 代表例 • Northrop「Pegasus」/Virgin Orbit「LauncherOne」/Stratolaunch「Talon-A」。 将来性 • 小型衛星・防衛・災害監視など、即応型需要が拡大。 • 高頻度・小規模ミッション用として、再び注目が高まっている。
  22. 水平離陸型(Spaceplane Concept) 構造・特徴 • 滑走路から航空機のように水平離陸し、大気圏上層でロケット推進へ切り替える方式。 • 空気呼吸エンジン(ジェット/ラムジェット)とロケットエンジンを併用。 • 打上げから帰還まで、再使用前提の一体型機体が特徴。 利点

    • 再使用率が高く、発射準備が短時間で済む。 • 打上げコストを大幅に削減できる可能性。地上インフラを共有でき、空港ベースでの運用が可能。 課題 • エンジン切替や熱防護など、複合システムの設計が極めて難しい。 • 軌道投入能力が低く、実用化には高推力・軽量化技術が不可欠。 • 安定した再突入制御と安全認証に課題が残る。 代表例 • 英Reaction Engines「Skylon(SABREエンジン搭載)」、Sierra Space「Dream Chaser」 • 中国「Tengyun」計画、JAXA「再使用宇宙往還機」構想など。 将来性 • 再使用・即時再発射・空港運用の三拍子が揃えば、“航空宇宙輸送”の橋渡し技術として有望。 • 現時点では試験段階だが、2030年代以降に商業運用の可能性。
  23. 軌道上輸送(In-Orbit Transportation) 構造・特徴 • 打上げ後の軌道上で、衛星の再配置・燃料補給・修理・補給・部品交換を実施する輸送・物流方式。 • 軌道間移動用モジュールや「宇宙内物流ハブ」により、衛星や構造物の軌道遷移・補給・延命を実現。 利点 • 衛星寿命延長や軌道柔軟性の向上により、打上げコストや廃棄リスクを大幅に低減。

    • 軌道上補給や再配置により、インフラとしての宇宙輸送網が成立。 • 将来的には月・軌道製造・資源回収との融合も可能。 課題 • 軌道上での自律運用・ドッキング・燃料補給技術の確立が必須。 • 軌道交通管理・デブリ対策・運用コスト構造の未成熟。 代表例 • SpaceLogistics(Mission Extension Vehicle MEV)によるジオ衛星寿命延長サービス。 • D-Orbit「ION Satellite Carrier」による衛星配送・軌道投入サービス。 将来性 • 宇宙内の物流ハブを起点に、 地球―軌道―月間の輸送ネットワークが拡大。 • 2030年代には軌道上製造・燃料補給・デブリ除去・部材交換が一般化し、「宇宙輸送=地球外インフラ運 搬」から「宇宙内物流」へシフト。
  24. 自動化・AI活用の全体像 自動化・AI活用の目的 人間の判断を支援し、通信遅延・情報過多・複雑な宇宙環境を克服する。 運用の「安全性・効率性・自律性」を最大化することが主眼。 主な活用領域(4分類) 1. 打上げ運用(Launch Operations) ・気象解析、打上げタイミング最適化、推力制御の自動化。 2.

    軌道制御(Orbital & Attitude Control) ・推進最適化・姿勢制御・ドッキング支援。 3. ミッション管理(Mission Management) ・タスクスケジューリング、燃料・電力管理、航法判断支援。 4. 異常検知・診断(Anomaly Detection & Health Monitoring) ・センサーデータから異常兆候を早期検知、自動復旧を補助。
  25. 自動化・AI活用-1:打上げ運用・軌道制御 打上げ運用(Launch Operations) • 近年のロケットは、人手による操作ではなく、自動シーケンスと自律安全システムで運用されている。 • SpaceX「Falcon 9」は、事前に定義された飛行計画に従って自動制御され、Autonomous Flight Termination

    System(AFTS)が飛行データを監視し、規則逸脱時に自動でフライト中止を判断する仕組 みを採用。 • 打上げ前後のテレメトリ監視には、NASAなどでデータ駆動型モニタリング(IMS等)が導入されており、 人間オペレータを支援する自動異常検知が実運用されている。 • 現状の多くは自動制御+ルールベース+一部データ解析ツールの組合せ。 軌道制御(Orbital & Attitude Control) • Falcon 9ブースターの帰還・着陸は、オンボードコンピュータが推力・姿勢・グリッドフィン・スラス ターを統合制御する「自律誘導アルゴリズム」によって実現。着陸時に人間が手動操作することはない。 • JAXAの技術試験衛星ETS-VIIやHTV/HTV-X計画では、完全自動ランデブ・自動接近制御が実証・適用さ れており、相対位置計測と軌道制御を機上アルゴリズムが実行している。 • JAXA「SLIM」は、月面着陸時にビジョンベースドナビゲーション(画像認識による自己位置推定)を用 いて自律的に軌道補正・着陸地点選択を行い、「ピンポイント着陸」を達成している。これはAI的要素を 含む自律制御システムの実例。
  26. 自動化・AI活用-2:ミッション管理・異常検知 ミッション管理(Mission Management) • 宇宙機運用では、古くからルールベース+モデルベースの自動計画・自動スケジューラが利用されており、 観測タイミング、通信ウィンドウ、電力・燃料配分などを半自動で最適化している(NASA・ESA運用事 例)。 • 近年は、これに機械学習や最適化アルゴリズムを組み合わせた「自動計画支援ツール」が研究・試験導入 されているが、本番運用で“全面AI任せ”というケースは限定的で、多くは人間監督つきの意思決定支援と

    して使われている。 異常検知・診断(Anomaly Detection & Health Monitoring) • NASAは「IMS」などのデータ駆動異常監視ツールを実運用で使用し、テレメトリから統計的な逸脱を検 出して運用者に警告する仕組みを構築。 • 「LSTM-based Anomaly Detection System」など、機械学習(LSTM等)を用いた異常検知アルゴリズ ムがNASA技術カタログとして公開されており、宇宙機テレメトリへの適用が進む「実証レベルの技術」 として位置づけられている。 • 論文・レビュー(MDPIほか)でも、衛星・宇宙機の異常検知にGAN・LSTMなどのMLを適用する研究が 多数報告されており、「AIで異常を検知する」こと自体は技術的に成立しており、一部運用現場で試験的 に導入されている。
  27. AIが変える運用モデルと役割分担 現状の位置づけ • 宇宙機運用では、AIが“完全自律運用”を担う段階には到達していない。 • 現実的には、「人間主導+AI支援(Human-in-the-Loop)」の形で導入が進行中。 • NASA・ESA・JAXAともに、AIは意思決定を補助する「運用支援ツール」として活用。 人間の役割(Human in

    the Loop) • ミッション設計、リスク判断、運用方針、異常時対応を担当。 • AIの出力結果を検証・承認する監督者としての役割。 • 例:NASA DSNやISS運用では、AI提案を管制官が最終判断する体制を維持。 AIの役割(AI in the Loop) • テレメトリ解析、スケジュール最適化、異常兆候検出などを自動実行。 • NASA「AIMES」やESA「AI Planning Engine」では、AIがデータを事前解析し、運用者に推奨案を提示。 • JAXAは「AI運用支援アーキテクチャ(2025構想)」で、AIを運用意思決定のサブプロセッサとして位置 づけ。
  28. AIが変える運用モデルと役割分担 運用モデルの変化 • これまで:地上からの逐次指令による「集中制御」型。 • 現在:自動化・AI支援により「分散協調制御」型へ移行中。 • 将来:通信遅延の大きい深宇宙探査では、AIが自律判断を行い、地上はモニタリング中心となる。 • 例:NASA「Autonomous

    Mission Operations(AMO)」実験では、宇宙船内AIが自律的にタスク判断 を行う試験が実施済み。 将来展望 • 有人ミッションでは、AIが乗員の健康モニタリング・意思決定支援を担う(NASA「EVA AI Assistant」 計画)。 • 深宇宙ミッションでは、AIが地上管制の代替となる「運用代理モデ」として研究進行中。 • 方向性は「AIが操縦する」ではなく、「AIが判断を補助し、人間が安全を保証する」協調構造。 https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20170011337/downloads/20170011337.pdf https://ntrs.nasa.gov/citations/20230002048 https://www.esa.int/Enabling_Support/Operations/
  29. 再使用(Reusable Systems) 概要 • ロケットの再使用は宇宙輸送の最大のコスト要因を抜本的に変えた。 • 「1回限り」から「繰り返し使える輸送機」への転換が始まっている。 現状 • SpaceX「Falcon

    9」:ブースターを最大21回再使用(2025年時点)。 • Blue Origin「New Shepard」:小型再使用ロケットで10回以上の再打上げ。 • Rocket Lab「Electron」:パラシュート+ヘリ回収から再点火試験へ。 • ESA「Themis」、JAXA「H3R」など、欧日でも再使用化が次の焦点。 技術課題 • 耐熱材・構造疲労・エンジン再点火寿命・整備コスト。 • 再使用後の安全性を保証するための検査自動化・AI診断が不可欠。 将来展望 • 完全再使用機「Starship」「Neutron」が実現すれば、1kgあたり輸送コストは数百ドル台まで低下。 • 再使用は「宇宙を日常運用化」する基盤技術。
  30. 補給(In-Orbit Logistics) 概要 • 軌道上で燃料・部品・物資を補給する“宇宙内物流”が始動。 • 打上げ後も継続運用できる「循環型輸送」への転換。 現状 • Northrop

    Grumman「MEV」:静止衛星へドッキングし寿命延長を実証(2020・2021)。 • Orbit Fab「Gas Stations in Space」:軌道上燃料供給網を開発中。 • JAXA「HTV-X」:ISS・月周回補給を想定し、再使用技術を検証。 技術課題 • ドッキング規格の標準化(NASA/ESA/JAXAで共同検討中)。 • 燃料転送の安全制御・漏洩防止・遠隔AI監視。各国法規・保険制度が未整備。 将来展望 • 軌道上補給が確立すれば、宇宙船は「再充電」して再出発できる。 • 地球―月間の中継補給拠点(Gateway/NRHO)構築へ。 • 長期的には「宇宙港・宇宙倉庫」という概念が成立。
  31. AI自律運用(AI-Driven Autonomy) 概要 • 通信遅延・膨大データ・有人探査の複雑化により、AIが「自動化」から「自律運用」へと役割を拡大中。 現状 • NASA「AIMES」:AIによる運用データ解析・異常検知支援。 • ESA「AI

    Planning Engine」:探査ミッションのタスク最適化。 • JAXA「AI運用支援アーキテクチャ2025」:運用判断の自動補助を研究。 • SpaceX:ロケット制御でAIベースの推力調整・着陸最適化を推進中。 技術課題 • 学習データ不足とシミュレーション依存。 • 安全保障・責任所在・Explainable AI(説明可能性)の確立。 • 訓練環境と本番環境の乖離による信頼性リスク。 将来展望 • 深宇宙ではAIが一次判断を担い、人間が監督する協調自律運用へ。 • 有人探査ではAIがクルーの意思決定支援・リスク予測を担当。
  32. まとめ:宇宙輸送の進化と今後の焦点 輸送の内容(What) • 現在の主輸送対象は通信・観測・測位衛星(約85%)。 • 今後は補給物資・有人拠点・資源輸送が急増。 • 対象の多様化が、推進方式・精度・安全性要求を決める。 輸送の目的(Why) •

    輸送の焦点は「探査」から「運用・維持」へ。 • 地球軌道は経済基盤、月軌道は中継拠点、深宇宙は拡張領域へ。 輸送の手法(How) • 垂直打上げが主流だが、空中発射・水平離陸・軌道上輸送が台頭。 • 再使用と補給を組み合わせたネットワーク型輸送へ移行中。 自動化・AI活用(Automation) • Falcon 9やSLIMで自律誘導・姿勢制御が実用化。 • NASA AIMESなどで異常検知・運用最適化をAIが支援。 • 深宇宙ではAIが一次判断を行う協調運用が鍵。
  33. まとめ:宇宙輸送の進化と今後の焦点 進化の三本柱 1. 再使用: 打上げコストを桁下げ(1kg 数百ドルへ)。 2. 補給: 軌道上補給・修理で運用期間を延長。 3.

    AI自律運用: 自律航法と異常対応で安全性を強化。 宇宙輸送は、単発の打上げから継続的な物流システムへ。再使用・補給・AIの三要素が、宇宙を 「運用可能な空間」へ変える。