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サブスクリプションサービスにおける価格戦略

CyberAgent
March 20, 2024
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 サブスクリプションサービスにおける価格戦略

サイバーエージェントでは、新しい未来のテレビ「ABEMA」や国内最大級のメディア「Ameba」、定額音楽配信サービス「AWA」、マッチングアプリ「タップル」など、様々なメディアサービスを提供しています。これらのサービスのなかには、顧客が月1回・年1回などで料金を支払うことでサービスが受けられるようになるサブスクリプションサービスが多くあります。この発表では、サブスクリプションサービスの価格設定においてどのようなことが課題になるのか、どのようにして最適な価格を導き出すのか、について紹介します。

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March 20, 2024
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  1. 自己紹介 名前: 新海公章 2023年度 新卒入社 メディア統括本部 Data Science Center(DSC) 職種:データサイエンティスト

    メディア事業のサブスクリプションサービスにお ける価格戦略の分析を担当
  2. サブスクリプションサービスの売上 売上 サブスク売上 従量売上 例:PPV・追加機能 新規プラン課金売上 (複数プランから1つ選択) 自動継続売上 価格 (プランA・プランB)

    アカウント数 追加機能 期間(月or年) ・・・ 課金者数 様々な要素の組み合わせによって 各プランの価格が設定されている
  3. サブスクリプションサービスのプラン構成の例 • 動画系のサブスク • 音楽系のサブスク 価格 広告有無 同時視聴デバイス数 追加機能 (4K画質・空間オーディオ

    ) 広告つきスタンダード 790円/月 1 2 0 スタンダード 1,490円/月 0 2 0 プレミアム 1,980円/月 0 4 1 価格 期間 学生 月額・スタンダード 980円/月 月 0 スタンダード 5880円/月 年 0 月額・スチューデント 480円/年 月 1 スチューデント 2880円/年 年 1 • 通信キャリア(スマホ) 価格 GB 店舗サポート スタンダード 4565円/月 10 1 スタンダード 7315円/月 ∞ 1 格安プラン 2970円/月 20 0 格安プラン+ 4950円/月 100 0
  4. サブスクリプションサービスの売上 競合の価格 売上 サブスク売上 従量売上 例:PPV・追加機能 新規プラン課金売上 (複数プランから1つ選択) 自動継続売上 価格

    (プランA・プランB) アカウント数 追加機能 期間(月or年) ・・・ 課金者数 競合の価格も考慮するケースがある ・例:業界最高値は避けたい
  5. サブスクリプションサービスの売上 競合の価格 売上 サブスク売上 従量売上 例:PPV・追加機能 新規プラン課金売上 (複数プランから1つ選択) 自動継続売上 価格

    (プランA・プランB) アカウント数 追加機能 期間(月or年) ・・・ 課金者数 サブスクリプションの価格戦略 ・価格設定によってサブスク売上を最大化 するために、どのような価格実験を行うのか 本日のテーマ
  6. 課題1:ユーザーはプランの関係を比較して意思決定する • 複数プラン(価格メニュー)を比較し、プランを選択する ◦ 例:価格メニュー(右表)の3つのプランを比較 ◦ 価格メニュー全体の最適化 • 1つのプランの価格を変更する価格実験では部分最適化になる可能性 ◦

    例:シングルプランの価格だけを変更するABテスト ▪ デュオ・ファミリーの価格が固定された状態での最適化 ▪ デュオ・ファミリーの価格が変わると、シングルの最適な価格も変わる ▶プランの関係(価格メニュー)を考慮した検証を行う必要 プラン名 価格 デバイス数 シングル ¥1000/月 1 デュオ ¥1400/月 2 ファミリー ¥1800/月 4
  7. 課題2:個人の属性によって支払える金額は異なる • 個人によって支払意思額(WTP:Willingness to Pay)は異なる ◦ 様々な要素がWTPに影響を与える ▪ 年齢・性別・居住地... •

    価格変更による平均処置効果(ATE)だけで意思決定すると ビジネスインパクトを見逃してしまう可能性 ◦ 平均的には効果がなくても、 ある属性のユーザーには効果が大きい可能性がある ▪ そのユーザーだけにターゲティングすることができる ▶「誰にどんな価格を提示するべきか」を知ることが必要
  8. 課題3:価格変更によるLTVへの影響を観測するには時間がかかる • 効果検証において関心があること ◦ 検証中の短期KPI ◦ 長期的な効果 ▪ 価格実験の例 •

    検証中の売上といった短期KPIだけでなく、 長期的な効果であるLTV(顧客生涯価値)を知りたい • LTV(長期的な効果)を観測するには時間がかかる ◦ 検証が長くなる・意思決定が遅くなる ▪ データを待つ間にPDCAサイクルが停滞してしまう ▶短期間に得られるデータを用いて、長期的な効果を評価する必要
  9. 架空サービスの設定について • 架空サービス ◦ 〇〇のメディアサービス ◦ 価格はサブスクリプションの形態 ◦ 複数プランが用意されている •

    プラン構成 プラン名 価格 デバイス数 追加機能 シングル・スタンダード ¥1000/月 1 なし デュオ・スタンダード ¥1400/月 2 なし ファミリー・スタンダード ¥1800/月 4 なし シングル・プレミアム ¥1500/月 1 あり デュオ・プレミアム ¥2100/月 2 あり ファミリー・プレミアム ¥2700/月 4 あり
  10. 架空サービスにおける、プランの関係を考慮した検証設計 • プラン構成 ◦ 同時接続デバイス数が多い方が価格が高い ◦ 追加機能がある方が価格が高い シングル スタンダード デュオ

    スタンダード ファミリー スタンダード シングル プレミアム デュオ プレミアム ファミリー プレミアム プラン名 価格 デバイス数 追加機能 シングル・スタンダード ¥1000/月 1 なし デュオ・スタンダード ¥1400/月 2 なし ファミリー・スタンダード ¥1800/月 4 なし シングル・プレミアム ¥1500/月 1 あり デュオ・プレミアム ¥2100/月 2 あり ファミリー・プレミアム ¥2700/月 4 あり
  11. プランの関係を考慮した検証設計 • 各変数の要素が3の場合 ◦ Elevation:{-1, 0, 1} ◦ Steepness:{-1, 0,

    1} ◦ Premium:{-1, 0, 1} ▶27通り(3×3×3) スタンダード プレミアム 組み合わせ elevation steepness premium シングル デュオ ファミリー シングル デュオ ファミリー 1 -1 -1 -1 1040 1300 1820 1352 1690 2366 2 -1 -1 0 1040 1300 1820 1560 1950 2730 3 -1 -1 1 1040 1300 1820 1768 2210 3094 4 -1 0 -1 929 1300 2043 1207 1690 2656 5 -1 0 0 929 1300 2043 1393 1950 3064 6 -1 0 1 929 1300 2043 1579 2210 3473 7 -1 1 -1 780 1300 2210 1014 1690 2873 8 -1 1 0 780 1300 2210 1170 1950 3315 9 -1 1 1 780 1300 2210 1326 2210 3757 10 0 -1 -1 1120 1400 1960 1456 1820 2548 11 0 -1 0 1120 1400 1960 1680 2100 2940 12 0 -1 1 1120 1400 1960 1904 2380 3332 13 0 0 -1 1000 1400 2200 1300 1820 2860 14 0 0 0 1000 1400 2200 1500 2100 3200 15 0 0 1 1000 1400 2200 1700 2380 3740 16 0 1 -1 840 1400 2380 1092 1820 3094 17 0 1 0 840 1400 2380 1260 2100 3570 18 0 1 1 840 1400 2380 1428 2380 4046 19 1 -1 -1 1200 1500 2100 1560 1950 2730 20 1 -1 0 1200 1500 2100 1800 2250 3150 21 1 -1 1 1200 1500 2100 2040 2550 3570 22 1 0 -1 1071 1500 2357 1393 1950 3064 23 1 0 0 1071 1500 2357 1607 2250 3536 24 1 0 1 1071 1500 2357 1821 2550 4007 25 1 1 -1 900 1500 2550 1170 1950 3315 26 1 1 0 900 1500 2550 1350 2250 3825 27 1 1 1 900 1500 2550 1530 2550 4335 27通りの価格メニューを ランダムに割り振る価格実験を実施 • 組み合わせが膨大になるため必要 があれば調整する ◦ 直交表を用いた実験計画法など
  12. ①価格変更の効果を推定する • RCTのデータを用いて処置(価格変化)の効果を推定 ◦ 平均処置効果(ATE:Average Treatment Effect) ◦ 条件付き平均処置効果(CATE:Conditional Average

    Treatment Effect) ▪ X=xで条件付けした場合の処置効果 ▪ 個別の属性における効果の異質性を捉えることができる • ATEは0でも、ある属性のユーザーには効果が高い可能性がある ◦ その属性のユーザーだけにターゲティングすれば ビジネスインパクトを作ることができる
  13. CATEを推定する方法 • 過去の知見から異質性のあるセグメントわかっている場合 ◦ そのセグメントを条件づけて効果を比較する ▪ 例:課金経験の有無で効果が違うことがわかっている • 課金経験あり・課金経験なしで処置効果を推定する ◦

    わかっていないケースが多い ▪ どんなユーザーに効果が高いのか知りたい ▪ わかっていても他の異質性があるのかを知りたい • 機械学習と因果推論を掛け合わせてCATEを推定する方法 ◦ Meta-Leaner ◦ Causal Forest ◦ (↑EconMLというPythonパッケージで推定できる)
  14. ②ユーザーの行動をモデル化する • 離散選択モデル ◦ 離散的な選択肢から一つだけを選ぶという行動を表現するモデル ◦ 効用が最大となる選択肢を選択すると仮定(効用最大化問題) (効用:得ることができる満足の度合い) ▪ 選択肢が2つ:二項選択問題

    ▪ 選択肢が3つ以上:多項選択問題 • 架空サービスの場合 ◦ 7つの選択肢(6プラン+無料)の中から、 自らの効用が最大となるプラン(選択肢)を選択 ▪ 選択肢:{ 無料・シングルスタンダード・デュオスタンダード・ファミリースタンダード・ シングルプレミアム・デュオプレミアム・ファミリープレミアム} ◦ 多項選択問題とすることができる ▪ よく使われる多項ロジットモデルでモデル化
  15. • 多項ロジットモデル ◦ 効用を表現 ◦ 個人iが時刻tに選択肢jを選ぶ確率 • ユーザーの行動をモデル化できると... ◦ どんなユーザーが、どんな時に、どんな行動をするのかを分析できる

    ◦ 実験していない価格でのシミュレーションができる 多項ロジットモデル 確定項 誤差項 プランに関する説明変数 個人に関する説明変数 確定項 誤差項 ◦ 尤度関数
  16. 価格実験で長期効果をみる理由 • サブスク売上(新規課金売上+自動継続売上)を最大化 ◦ 新規課金売上だけでなく自動継続売上も考慮して意思決定 ◦ 新規課金売上(短期KPI)だけだと長期的にはマイナスになる可能性 • 短期KPIと長期KPIが逆転する例 ABグループ

    新規課金売上 サブスク売上 A 3600 8400 B 3000 9000 短期KPI 長期KPI ABグループ user_id 新規課金売上 自動継続回数 自動継続売上 サブスク売上 A 1 0 0 0 0 2 1200 1 1200 2400 3 1200 1 1200 2400 4 0 0 0 0 5 1200 2 2400 3600 B 6 1000 3 3000 4000 7 0 0 0 0 8 1000 1 1000 2000 9 1000 2 2000 3000 10 0 0 0 0 短期KPIと長期KPIで結果が異なる ・短期KPI(新規課金売上)だとA ・長期KPI(サブスク売上)だとB
  17. 短期KPIから長期的な効果を評価する • 短期KPIと長期KPIの関係を調査 ◦ 短期KPIと長期KPIの相関関係 ▪ どの短期KPIを意思決定に考慮すればいいのかを知れる ◦ 短期KPIで意思決定した後に、本当に長期効果があったのかを追跡調査 ▪

    検証中に課金したユーザーを追跡 ▪ サブスクの自動継続率を考慮し、長期LTVにも効果があるか確認 • Surrogate index ◦ 短期に観測される中間指標を用いて長期効果を推定する ◦ Netflixの事例 ▪ Evaluating the Surrogate Index as a Decision-Making Tool Using 200 A/B Tests at Netflix T Y S1 S2 S3