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日本理科教育学会 オンライン全国大会発表 スライド資料

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September 06, 2024
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 日本理科教育学会 オンライン全国大会発表 スライド資料

単元「振り子の動き」における 誤差の扱いとデータのばらつき処理に関する授業開発

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  1. 単元「振り⼦の動き」における 誤差の扱いとデータのばらつきの処理に関する授業開発 ⻄ 東 京 市 ⽴ 栄 ⼩ 学

    校 森川 ⼤地 中村 ⼤輝 宮 崎 ⼤ 学 教 育 学 部 2024.03.24 ⽇本理科教育学会 オンライン全国⼤会 セクション B03 (9:40〜10:00) 連絡先 メールアドレス X(旧Twitter)
  2. 平均値の扱いに関する指導の不⼗分さ • データのばらつきを処理するための平均値の扱いに関する指導が不⼗分(⼤⾕,2023) • 平均値を中⼼傾向としての意味で捉えさせる必要がある(⼤⾕,2023) 3 考察の場⾯において 不確実性が伴うデータを考慮した 平均値をデータの傾向として捉えられるような指導 中⼼傾向としての平均値(

    Konold & Pollatsek, 2004) • 単に代表値としての値ではない(e.g., 中央値/最頻値) • 不確実性(誤差・ばらつき)が伴う状況下における推定値(中⼼傾向)として 捉える • 測定値(個のデータ)を増やしていくことで,より安定した推定値が得られる • 2つのグループを⽐較する際に有効 平均値の4つの意味 1.データの要約 2.公平な分配 3.代表的な値 4.中⼼傾向としての値 算数科において 公平な分配の意味で⽤いられる教材 『新しい算数 5下』より
  3. 検証⽅法 対象者 • 東京都公⽴⼩学校 • 第5学年 3クラス(n=99) 実施時期 • 2023年11⽉〜12⽉

    分析対象 • 児童のノート記述や授業中の児童の発話プロトコルを中⼼に質的分析 4
  4. 本単元の展開(全体像) 5 誤 差 や デ 1 タ の ば

    ら つ き に 関 す る 診 断 的 評 価 誤 差 や デ 1 タ の ば ら つ き の 全 体 的 な 説 明 振 り ⼦ の ⻑ さ お も り の 重 さ 振 れ 幅 ⼀次 ⼆次 三次 事前指導 1コマ 6h 3h 3h 結果の予想 場⾯ 考察場⾯ 誤差や データのばらつきを 実感できる活動 ⻄井・⼩倉(2020) を参考にした 質問項⽬ を中⼼とした指導 スライド資料を ⽤いて説明
  5. 誤差に対する誤概念(1) 6 Q1.同じ実験を何回もする時は,グループのみんなが交代して測った⽅がよいですか 70% 6% 24% 85% 6% 9% 82%

    15% 3% A組 (n=33) B組 (n=33) C組 (n=33) 多くの児童が⼈による測定誤差を認識していない はい いいえ 無回答・⽋席
  6. 誤差に対する誤概念(2) 7 Q2.機械を使って測った値は正確だと思いますか 61% 12% 15% 12% 64% 9% 15%

    12% 70% 21% 9% 0% はい いいえ その他 無回答・⽋席 多くの児童が機器誤差を認識していない A組 (n=33) B組 (n=33) C組 (n=33)
  7. 本研究における指導・介⼊ 9 1. 誤差やデータのばらつきを実感できる活動 • データのばらつきの実感 • 防ぎやすい誤差,防ぎにくい誤差の区別 2. 予想の精緻化

    • データのばらつき範囲の予想 • グラフによるデータのばらつきの可視化 3. データの傾向を捉えるための⼯夫(考察場⾯) • 平均値の解釈 • ばらつきの解釈
  8. 本研究における指導・介⼊ 10 1. 誤差やデータのばらつきを実感できる活動 • データのばらつきの実感 • 防ぎやすい誤差,防ぎにくい誤差の区別 2. 予想の精緻化

    • データのばらつき範囲の予想 • グラフによるデータのばらつきの可視化 3. データの傾向を捉えるための⼯夫(考察場⾯) • 平均値の解釈 • ばらつきの解釈 ⼩学校段階 であることを考慮
  9. 誤差やデータのばらつきを実感できる活動(1) 11 ⼀次の前半 T「じゃあ,試しに振り⼦が1往復する時間を計測してみよう」 「まず,先⽣が測ってみるね(演⽰)」 「0.78秒でした。では次に,班の代表の⼈前に来てください」 C「あれ?先⽣の結果とだいぶズレている」 C「同じ振り⼦を⾒ているはずなのに」 C「誰の結果が正しいの?」 •

    教師が演⽰で⽰した数値を真の値として捉えている • 同じように実験をすれば,毎回同じ値になると考えている 児童の姿として 同じ条件下においてもデータがばらつくことを実感 実験で得られるデータ(結果) の確からしさを問い直す機会
  10. 誤差やデータのばらつきを実感できる活動(2) 12 ① ② ③ ④ 「平均」の捉え直し 同じ時期に算数 で学習している 「平均」の説明

    算数では『凸凹をならす』 と⾔う意味で学習している 平均を中⼼傾向として 外れ値の扱いを 教⽰ 誤差をどのように 考慮したらよいか 全体で検討 (=全体の流れ)
  11. 誤差やデータのばらつきを実感できる活動(2) 13 ① ② ③ ④ 「平均」の捉え直し 同じ時期に算数 で学習している 「平均」の説明

    算数では『凸凹をならす』 と⾔う意味で学習している 平均を中⼼傾向として 外れ値の扱いを 教⽰ 誤差をどのように 考慮したらよいか 全体で検討 振り⼦シュミレーションを⽤いて 児童が誤差を実感できるように
  12. 本研究における指導・介⼊ 15 1. 誤差やデータのばらつきを実感できる活動 • データのばらつきの実感 • 防ぎやすい誤差,防ぎにくい誤差の区別 2. 予想の精緻化

    • データのばらつき範囲の予想 • グラフによるデータのばらつきの可視化 3. データの傾向を捉えるための⼯夫(考察場⾯) • 平均値の解釈 • ばらつきの解釈
  13. 児童の記述 −データのばらつき範囲を推測した際の理由− 17 おもりの重さが重くなるほど… 誤差が⼩さくなるだろう 変わらないだろう 誤差が⼤きくなるだろう おもりが重くなれば 振り⼦に余計な⼒が 加わるから

    これまでのデータを⾒ると 誤差の範囲はあまり変わって いないから 実験操作に慣れていくから 測定値には必ず誤差が含まれ、中⼼の値からばらつくことを理解につながった 共通して『誤差(データのばらつき)がなくなる』と記述する児童は⾒られなかった
  14. 予想の精緻化 −データのばらつき範囲の予想− 18 整理すると… これまでの予想場⾯の指導法 • 「おもりの重さによって,振り⼦の1往復する時間は変わる/変わらない」の⼆項対⽴での予想 に留まっていた • さらに,予想の根拠にあたる⽣活経験(素朴概念)が根強く,その後の実験結果の⾒⽅を歪めて

    しまうことも多々 ⇨ どこまでを誤差として⾒るか,判断が難しい 本発表における『予想の精緻化』を通して • 測定値には誤差が必ず含まれることへの理解につながった • データがばらつくことを前提とし,得られるであろう数値を点(個々)ではなく,全体の傾向で 捉えられるようになった
  15. 本研究における指導・介⼊ 19 1. 誤差やデータのばらつきを実感できる活動 • データのばらつきの実感 • 防ぎやすい誤差,防ぎにくい誤差の区別 2. 予想の精緻化

    • データのばらつき範囲の予想 • グラフによるデータのばらつきの可視化 3. データの傾向を捉えるための⼯夫(考察場⾯) • 平均値の解釈 • ばらつきの解釈
  16. 平均値の解釈 21 学級全体での発話プロトコル 三次・考察場⾯ それぞれの独⽴変数がどのあたりの数値に位置しているか データを吟味し,全体の傾向を捉えられるように T:全ての班の実験が終わりましたね。 全体の流れ(傾向)は,それぞれ(20°,40°,60°)どうかな。 C:全体で⾒ると,それぞれ0.8〜0.9に集まっているね。 [全体の傾向を表す『⻘いテープ』の場所を全体で合意]

    C:けど,20°のところは6班と7班で0.2の差があるね。 C:じゃあその班の⼀つひとつのデータを確認してみようよ。 [外れ値を含めて計算していることに気付いた] C:外れ値を⼊れないで計算し直したら,それぞれ0.9辺りに集まっているね。 C:そうなると20°40°60°のそれぞれのデータを全体の流れで⾒ると,どれも平均値の0.9辺り だから,振れ幅によって1往復する時間は変わらないってことになるね。 ⻘いテープを貼る前の グラフの様⼦
  17. まとめ • 点パラダイム • 実験で得られた測定値は,真の値である • 各測定値は,他の測定値とは独⽴している(個々の結果は決して統合されない) • 変数間の⽐較をする際,個々のデータ同⼠を⽐べる •

    集合パラダイム • 各測定値は,真の値の近似値にすぎない • 真の値からのばらつき具合はランダムである • 多数の測定を通して,特定の値の周囲に集中する分布が形成され,それが近似値として捉えられる • 測定値全体を特徴づけるために,平均とばらつき具合(標準偏差)などのツールを使⽤する 23 本実践を通して,児童の不確かなデータに対する考えが変容 点パラダイム ⇨ 集合パラダイムへ近づきつつある 不確かなデータに対する考え⽅(Lubben et. al., 2001; Buffler et. al., 2001)
  18. 引⽤⽂献 24 • Buffler, A., Allie, S., & Lubben, F.

    (2001). The development of first year physics students' ideas about measurement in terms of point and set paradigms. International Journal of Science Education, 23(11), 1137-1156. • Lubben, F., Campbell, B., Buffler, A., & Allie, S. (2001). Point and set reasoning in practical science measurement by entering university freshmen. Science Education, 85(4), 311-327. • 藤井⻫亮・真島秀⾏ら(2023)『新しい算数5下 考えると⾒⽅が広がる!』東京書籍,p. 20. • Konold, C., & Pollatsek, A. (2004). Conceptualizing an Average as a Stable Feature of a Noisy Process. In D. Ben- Zvi, &J. Garfield (Eds.), The Challenge of Developing Statistical Literacy, Reasoning and Thinking. Kluwer Academic Publishers, 169-199. • 宮本直樹・⼤髙泉(2007)「おもりの質量の異なる振り⼦実験におけるデータ解釈の現状」『⽇本科学教 育学会研究会報告』第23巻,第3号,27-32. • ⽂部科学省(2017)『⼩学校学習指導要領(平成29年告⽰)解説 理科編』東洋館. • ⻄井ミカ・⼩倉康(2020)「Working Scientifically の指導に関する研究ー⽇本の⼩学校での実験データの 不確かさの指導ー」『⽇本科学教育学会研究会発表報告』第35巻,第4号,27-32. • ⼤⾕洋貴(2023)「⼩学校理科における統計教育:「振り⼦の運動」単元の教科書分析を通して」『⽇本 科学教育学会研究会発表報告』第38巻,第2号,243-246. • ⾼垣マユミ(2005)「観察・実験によって「振り⼦の周期」に関する概念はどのように形成されるのか」 『科学教育研究』第29巻,第3号,184-195. • 植⽊幸広・久保⽥善彦(2012)「振り⼦の学習における数値の処理が,数値⽐較の判断に与える影響ー平 均と誤差の認識に着⽬してー」『理科教育学研究』第53巻,第2号,219-227.
  19. 単元「振り⼦の動き」における 誤差の扱いとデータのばらつきの処理に関する授業開発 ⻄ 東 京 市 ⽴ 栄 ⼩ 学

    校 森川 ⼤地 中村 ⼤輝 宮 崎 ⼤ 学 教 育 学 部 2024.03.24 ⽇本理科教育学会 オンライン全国⼤会 セクション B03 (9:40〜10:00) 連絡先 メールアドレス X(旧Twitter)