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量子コンピューティングの開発課題と実用化へのロードマップ
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Etsuji Nakai
January 23, 2025
Technology
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量子コンピューティングの開発課題と実用化へのロードマップ
Etsuji Nakai
January 23, 2025
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Transcript
Ping Yeh ICEPP, University of Tokyo, 2019-09-25 量子コンピューティングの開発課題と 実用化へのロードマップ 中井
悦司 / Etsuji Nakai Google Cloud このスライドはコミュニティイベント「GCPUG Shonan vol.106」での発表資料です
量子コンピューターの動作原理
量子コンピューターの基本原理 • 微小な世界の物理現象である「量子力学の原理」を利用して、従来 のデジタルコンピューターでは(効率的に)実行できないタイプの アルゴリズムを実行可能にします ◦ 言い換えれば、従来と同じアルゴリズムを量子コンピューターで実行しても計算 速度は変わりません • 主に「重ね合わせの原理」「量子もつれ現象」「量子測定の原理」
を利用します 3
量子アルゴリズムの例 • 1 ビットの足し算を実行する量子回路 ◦ この回路は 4 種類の足し算を 1 回の演算で同時に実行します
※ ただし、計算結果を取り出す点に課題があります(後で説明) 4 測定 H H
量子ビットの仕組み 〜 重ね合わせの原理
デジタルコンピューターの「ビット」の仕組み • 0 と 1 の 2 種類の数値を表す記憶デバイス ◦ 例:電子が溜まっていれば
1 、溜まってなければ 0 6 1 0 1 0
デジタルコンピューターの「ビット」の仕組み • 2 種類の状態が表現できれば、実装方法は自由です ◦ 例:左の部屋に電子があれば 0 、右の部屋に電子があれば 1 7
0 1 0 1
デジタルコンピューターの「ビット」の仕組み • ただし、現実世界では、想定外の状態になることもあります 8 ?
デジタルコンピューターの「ビット」の仕組み • デジタルコンピューターは、これを「誤動作(エラー)」として検 知して、必要に応じて、正しい状態に修正します。 9 エラー!
「量子ビット」の世界 • 分子・原子レベルの微小世界では、さらに新しい現象が発生します • 次のデバイスには、どのような状態が存在するでしょうか? 10 絶縁物質 蓄電物質 蓄電物質 電子が
1 つ だけ存在
「量子ビット」の世界 • 1 つの電子は、「量子の波動」として広がるため、左右の両方に同 時に存在することができます 11 絶縁物質 蓄電物質 蓄電物質 電子の量子波動
「量子ビット」の世界 • 言い換えると、「左にいる状態」と「右にいる状態」の 2 つの状 態を同時にとることができます ⇨「重ね合わせの原理」 • 2 つの状態それぞれの「重み」は、2
つの値 で表されます 12
「量子ビット」の世界 13 = = • 「左右のどちらかにのみ存在する状態」は、次のようになります
「量子ビット」の世界 14 = = • 「左右の両方に存在する 状態」には、次のように 様々なパターンがあり得 ます。
Google が開発中の 量子コンピューティングデバイス
量子超越性の実験結果を発表 16 https://japan.googleblog.com/2019/10/quantum-supremacy-using-programmable.html
量子プロセッサの制御装置 17
量子プロセッサ(拡大図) 18 Kelly et al. Nature 519, 66-69 (2015) Barends
et al. Nature Communications 6, 7654 (2015) White et al. npj Quantum Information 2, 15022 (2016) Barends et al. Nature 534, 222-226 (2016) 9 量子ビット プロセッサの拡大写真 ※ 量子超越性の実験は 54 量子ビット プロセッサを使用
超電導回路の電気振動で量子ビットを表現 19 2種類の振動モードで 量子ビットを表現 最低エネルギーの 振動状態 1 つ上のエネルギーの 振動状態
ハードウェア開発の主要な課題 20 • エラー発生率の低減 ◦ 基本的には、チップ上の微小な電気回路からなる「アナログデバイス」であ り、エラーの発生を検知・訂正する機能を持ちません ◦ 製造技術の向上、高精度なキャリブレーション技術により、エラーの発生率 を十分に下げないと信頼性のある計算結果が得られません
• 将来的には、複数の量子ビットを組み合わせることで、エラー訂正機能を持った 「論理量子ビット」の実装を目指しています
量子超越性を示すための量子回路 (ランダム量子サンプリング) 21 測定により特定の分布に 従った乱数が得られる 古典計算機でシミュ レーション可能な領域 量子超越性を 達成する領域
量子超越性が生まれる理由 〜 量子もつれ現象
2 量子ビットの状態 23 • 2 量子ビットを持ったデバイスは、どのような状態を取り得るで しょうか?
2 量子ビットの状態 24 • デジタルビットであれば、次の 4 種類の状態を取ります
2 量子ビットの状態 25 • 量子ビットの場合、これら「4 種類の状態の重ね合わせ」が発生します ◦ 個々の量子ビットが個別に「重ね合わせ状態」になるのではなく、2 量子 ビット全体としての
4 つの状態が「重ね合わせ」になる点がポイントです 量子もつれ状態
量子アルゴリズムの例 • 1 ビットの足し算を実行する量子回路 ◦ この回路は 4 種類の足し算を 1 回の演算で同時に実行します
26 測定 H H
量子アルゴリズムの例 • 1 ビットの足し算を実行する量子回路 27 2 つの数を入力 2 つの数を足した 結果を出力
量子アルゴリズムの例 • 1 ビットの足し算を実行する量子回路 28 H H 4 種類のデータ を同時に入力
4 種類の計算結果 を同時に出力
n 量子ビットの状態 29 • n 量子ビットを持ったデバイスは、どのような状態を取り得るで しょうか? ⇨「2n 種類の状態の重ね合わせ」になります デジタルの場合に
取り得る値は 2 n 通り これらすべての 重ね合わせが実現
デジタルコンピューターによるシミュレーション? 30 • 64 量子ビットの状態は 264 個の(複素数の)係数で表現できるの で、デジタルコンピューターのプログラムでシミュレーションする なら、次のようなコードになるはず・・・ int
n=64; float c_re[2**n]; float c_im[2**n]; これは実行可能?
デジタルコンピューターによるシミュレーション? 31 • 残念! • これを実行するには、18 エクサバイト以上のメモリーを持ったマ シンが必要です。 int n=64;
float c_re[2**n]; float c_im[2**n]; 2**64 = 18,446,744,073,709,551,616 = 18 E
量子超越性を示すための量子回路 (ランダム量子サンプリング) 32 測定により特定の分布に 従った乱数が得られる 古典計算機でシミュ レーション可能な領域 量子超越性を 達成する領域
量子アルゴリズムの難しさ 〜 量子測定原理
量子アルゴリズムの例 • 1 ビットの足し算を実行する量子回路 34 H H 4 種類のデータ を同時に入力
4 種類の計算結果 を同時に出力
量子測定の原理 35 • 重ね合わせ状態の量子ビットを観測すると、重ね合わせ状態が失わ れて、特定の状態のみが観測されます • どの状態が観測されるかは、重ね合わせ状態に含まれる「重み」に 対応した確率で決まります 測定
量子測定の原理 36 • 量子もつれ状態の場合も同様に特定の 1 つの状態が観測されます 量子もつれ状態 測定 係数の値から 確率が決まる
量子アルゴリズムの例 • 1/4 の確率で 、1/4 の確率で 、1/2 の確率で を観測 H H 4 種類のデータ
を同時に入力 4 種類の計算結果 を同時に出力 測定 量子ビットの値を 読み出した結果は?
量子アルゴリズムの難しさ • 量子もつれ状態を利用すれば、複数の計算を同時に行えますが、最 後に取りだせる結果は 1 つだけです • 確率的に結果が決まるので、実行ごとに結果が異なります • 「欲しい答え」が高い確率で観測される状態を作り出す必要があり
ます
量子アルゴリズムの研究
量子アルゴリズムの全体像 40 デジタルコンピューターで 効率的に実行可能 量子コンピューターで 効率的に実行可能
量子アルゴリズムの全体像 41 デジタルコンピューターで 効率的に実行可能 量子コンピューターで 効率的に実行可能 量子超越性の実験 (ランダム量子 サンプリング) 役に立つ
量子アルゴリズムの全体像 42 デジタルコンピューターで 効率的に実行可能 量子コンピューターで 効率的に実行可能 役に立つ 既存のデバイスで 実行可能 量子超越性の実験
(ランダム量子 サンプリング) 素因数分解 (Order finding) この部分のアルゴリズム を発見する必要がある
Google の研究チームがフォーカスしている研究領域 43 • エラー訂正機能を効率的に実装するためのアルゴリズムの開発 • マテリアルサイエンス ◦ 量子化学計算の一部を量子アルゴリズムで高速化 •
量子物理学の理論研究支援 ◦ 量子力学の現象を量子コンピューター上でシミュレーションすることによ り、これまでは理論上の仮説にすぎなかった現象を実際に観察できるように する 長期的な実用化に向けた研究 中期的な応用分野の探求 中期的な応用分野の探求
実用化へのロードマップ
ハードウェア開発のロードマップ 「量子超越性」の実証 (2019年) エラー訂正機能を持った量子ビット (1論理量子ビット)の実現 エラー訂正機能を持った実用的な 汎用量子コンピューターの実現 論理量子ビットの実現可能性を実証 (2023年) 45
1 long-lived logical qubit 現在の主要な 研究テーマ
46 https://ai.googleblog.com/2023/02/suppressing-quantum-errors-by-scaling.html
47 論理量子ビットの構成方法 https://ai.googleblog.com/2023/02/suppressing-quantum-errors-by-scaling.html • d × d 個の量子ビットに複数の Stabilizer Condition(パリティ制約)を与え
ることで、1 論理量子ビットを実現 • Stabilizer Condition の破れを観測することでエラーの発生を検知・修正 例(直感的な説明): 2 量子ビットで xy = 00, 01, 10, 11 の 4 種類の値を表現 パリティ制約 (x+y) % 2 = 0 で 00, 11 の 2 種類の値に制限 1 量子ビットの反転が検知可能
• 論理量子ビットを構成する量子ビット を増やすことで、検知可能なエラーの 種類を増やすことが可能 • 一方、量子ビットを増やすとエラーが 発生する確率も増加する • 「量子ビットを増やすことで論理量子 ビットの信頼性を高める」には、量子
ビットのエラー発生率を一定値以下に 抑えることが必要 • 54 量子ビットのチップで冗長化によ る信頼性向上を実証 48 量子ビットを増やすことで信頼性を高められることを実証 https://ai.googleblog.com/2023/02/suppressing-quantum-errors-by-scaling.html 3×3 量子ビットによる冗長化の信頼性 5×5 量子ビットによる冗長化の信頼性
Quantum Computing | Google Quantum AI Research Google’s new Willow
Chip Willow, Google Quantum AI’s newest generation of superconducting processors, enabling progress towards realizing its mission to: build best-in-class quantum computing for otherwise unsolvable problems. Introducing Willow
• 105 物理量子ビットで Sycamore を超える信頼性を実現 50 Willow の特徴 1cm Control
Qubits
51 https://www.nature.com/articles/s41586-024-08449-y
52 物理量子ビットを超える信頼性を実証
ハードウェア開発のロードマップ 「量子超越性」の実証 (2019年) エラー訂正機能を持った量子ビット (1論理量子ビット)の実現 エラー訂正機能を持った実用的な 汎用量子コンピューターの実現 論理量子ビットの実現可能性を実証(2023年) 物理量子ビットを超える信頼性を実証(2024年) 53
1 long-lived logical qubit 現在の主要な 研究テーマ
Thank You.