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香りECスタートアップにおける データの更新によって生まれた データ負債事例と学び

Fumina Chihama
April 10, 2024
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香りECスタートアップにおける データの更新によって生まれた データ負債事例と学び

Fumina Chihama

April 10, 2024
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  1. 自己紹介
 • 名前: 野川賢二郎 (@nogaken1107) 
 ◦ 株式会社High Link 執行役員CTO

    
 • 経歴: 株式会社LINE → 株式会社High Link 
 ◦ ハイリンクには初期フェーズに入社し、今回のテーマ となる、データ負債の発生と解消に当事者として経 験してきました
 • 趣味: 
 ◦ 歩く
 ▪ 昨年はエクストリームウォークというイベントで 25時間かけて100km歩きました 
 • おすすめ( しません)
 
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  2. 目次
 • プロダクトの紹介
 • 生じた問題
 • どう解消していったか 
 • どうすれば負債が生まれることを防げたか?

    
 • どうすれば負債が大きくなることを防げたか? 
 • 組織としてデータ負債を生みにくく/大きくしないための取り組み 
 
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  3. 6 6

  4. カラリア 香りの定期便
 7 • 香水を中心とした香り商品のサブスク 
 ◦ 約1000種類の商品の中から毎月ユーザーが好きなも のを選べて、楽しめる 


    ◦ 目に見えないからこそ難しい 「香りとの出会い」をテク ノロジーを活用することによって身近に 
 • 2019年1月にリリースしサービス開始から 約5年
 • ユーザー数50万人超
 ◦ toCサービスで、かつユーザー規模も大きくなってきた ため、データ分析の重要性が大 
 

  5. ユーザー体験の流れ②
 9 • ユーザーは、定期注文を スキップしたり、停止*したりすることができる 
 ◦ 言い換えると、定期便の契約は注文継続性を表す ”状態”を持つ
 ▪

    注文待ち、スキップ中、停止中、エラー中 (決済エラーなど) 
 ◦ この”状態” (定期便ステータス)が、今回紹介する負債の発生箇所 
 
 *現在、停止機能は廃止されてスキップに一本化されている 

  6. 定期便ステータスのデータにおいて生じた問題
 11 • サービス開始から4年経過した2023年、分析面で問題が顕在化 
 ◦ データが不完全
 ▪ 事業上重要な数値を正確に出すことができない 


    1. ある時点での定期便ステータスを100%の精度で出せない 
 2. N-1月からN月への定期便ステータスの遷移率が正確に出せない 
 ◦ 分析が複雑化
 ▪ 分析のためにクエリが複雑化し、分析者の認知コストが高くなりすぎている 
 • データ基盤である程度吸収できるものの、メンテコストが高く、かつ高度な分析の際は 複雑なクエリを書く必要が生じていた 

  7. 問題の原因: データの“更新”による過去情報の喪失
 12 • スキップ、決済エラーといったイベントを、既存のカラムの 更新によって実装していた 
 ◦ これにより、過去の情報がデータ更新によって失われていた 


    ◦ アンチパターン “失われた事実”*
 • 過去情報の喪失を補うために、イベントログを出力していたが、過去のステータスを100%で復元するの が難しいログになっていた 
 スキップ時の処理
 - 次回注文日を1ヶ月先に更新
 スキップ状態の条件
 - 次回注文日が1ヶ月以上先
 * 「失敗から学ぶRDBの正しい歩き方」, 曽根壮大, 2019/3/6, 技術評論社 
 https://gihyo.jp/book/2019/978-4-297-10408-5 

  8. 負債解消の目的
 14 • 分析者やデータ利用者のニーズに応えられる状態にすること 
 ◦ 1. 100%の精度で今後発生するデータを分析できるようにする 
 ◦

    2. 分析しやすいデータの持ち方にする 
 • その状態を維持しやすいデータにすること 
 ◦ 事業計画を作成するのにも利用されるデータのため、一時的でなく長期的に正しいデータが維持 されやすいデータの持ち方にする 

  9. 負債解消の方針
 15 • 目的を達成するために、2つの点を重視 
 1. 定期便ステータス、イベント、ステータス遷移の定義とデータ定義をドキュメント化する 
 ◦ 仕様が明文化されておらず、ある時点で正しい定期便ステータスとは何なのか?というのが定まっていな

    かったので、改めて定義し共通認識を作る
 2. ログ出力をただ改善するのではなく、機能要件と分析要件を共に満たすデータの持ち方にリプ レースする
 ◦ アプリケーション開発者は機能要件に対する意識が強くなりがちで、分析要件の意識は長期的に見ると薄ま ることが想定されるので、どちらも満たしやすいデータ設計に持ち変えるのがよいという考え

  10. 成果物: データ
 17 1. データの完全性
 ◦ 状態とイベント共に履歴情報が保持されている
 ◦ RDBのUNIQUE制約によって”単一の状態”
 を持つことが保証されている


    2. 分析の容易性
 ◦ 履歴が保持されているため、過去の
 状態を復元するためにログを参照する必要がない
 ◦ 状態が単一のテーブルに集約されているため
 わかりやすい

  11. レコードの更新を避ける 
 19 • 負債発生の根本原因は、 レコード更新による履歴情報の喪失 (“消えた事実”) 
 ◦ イベントを明示的に扱い、

    INSERTで表現することで、履歴情報が残る 
 • 特に、売上や売上予測に関連するようなテーブルに関しては履歴の保持を徹底すべき 

  12. Confidential どうすれば負債が大きくなる ことを防げたか? • 「負債を生まない」ことも重要だが、「負債を大きくしない」ことがそれ以上に大事だ と考えている (スタートアップにおいて)
 ◦ サービス開発初期はどうやっても負債がうまれやすい 


    ▪ 分析要件やパフォーマンス要件は、サービスが成長してから発生するため 
 ▪ 初期ほど開発リソースも時間もないため 
 • カラリアの場合は初期開発は副業エンジニア1名 
 ◦ 負債はある程度生まれる前提で、生まれた負債とうまく向き合い続けることが重要 

  13. どうすれば負債が大きくなるのを防げたか?
 22 1. 対処療法でなく根本治療 
 ◦ 過去情報をみられるようにしたい、という分析要件があがってきた際に、対処療法的にログを追加 するのでなく、元のデータの移行を検討すべきだった 
 2.

    データ移行を恐れずやる、チームとしてデータ移行に習熟する 
 ◦ データの移行はサービスの規模が小さいほどコストが低い ので、早い段階でガンガンデータを移 行していくべき
 ▪ データサイズ、依存関係、障害発生時のリスク 
 ◦ サービス無停止のデータ移行は手間ではあるが、何度かやっているうちにチームが習熟していく 
 ◦ データ移行に習熟すると、1も 
 やりやすくなり好循環が生まれる 
 
 

  14. まとめ
 • カラリアにおいて生じた、サービス初期からの実装によって生じたデータ負債について紹介 
 ◦ アンチパターン回避によって防げた 
 • スタートアップにおいては特に 「負債を生まない」のも大事だが「負債を大きくしない」

    のが大事
 ◦ 負債を大きくしないためには 
 ▪ 対処療法でなく根本治療 
 ▪ データ移行を恐れずやる、チームとしてデータ移行に習熟する 
 • 弊社が組織として取り組んでいる、負債とうまく付き合うための取り組みを紹介 
 ◦ Design Docによる設計レビュー 
 ◦ データチームと連携した継続的なデータ品質向上 
 ◦ 20%ルール
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