滑空スポーツ講習会2022(EMFTオンライン学科講習/EMFT実技講習) http://www.japan-soaring.or.jp/2022jsaemft/ 公益社団法人日本滑空協会
講師 公益社団法人日本グライダークラブ 櫻井 玲子
公益社団法人日本滑空協会2022年度 EMFT学科資料 本編公益社団法人 日本グライダークラブ櫻井 玲子Emergency Maneuver Flight Training2022/06/18 1
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自己紹介 櫻井玲子ヘリコプター・メーカーで座学教官・教材開発担当。神戸空港勤務。飛行機・回転翼の社有機運航業務(操縦士・整備士)を経験滑空機 世界五大陸で冒険飛行自己無動力最長距離 1,270km (アルゼンチン)自己無動力最高高度 34,000ft(アメリカ)グライダー曲技世界選手権出場スピン訓練講師、アクロバット講師、教育証明講習会講師(公社) 日本航空機操縦士協会 CRM/TEM講師(一社)日本女性航空協会理事【所有資格】事業用操縦士 飛行機(JCAB/FAA)・回転翼(JCAB/FAA) ・ 滑空機(JCAB)計器飛行証明 飛行機(JCAB/FAA)・回転翼(FAA)二等航空整備士 回転翼航空機(JCAB)・滑空機(JCAB)操縦教育証明 飛行機(JCAB/FAA)・回転翼(JCAB/FAA) ・ 滑空機(JCAB)特定操縦技能審査員 飛行機・回転翼・滑空機2022/06/18 2
2022/06/18 3本資料の作成に当たり、ご協力及びご助言をいただきました皆様に深く感謝申し上げます。・中部日本航空連盟岐阜支部 佐藤 文幸様 : 滑空機性能計算ツールの作成と提供・九州大学大学院工学研究院航空宇宙工学部門 東野伸一郎様:滑空機の航空力学に関する監修及び助言本編1. グライダーの危険2. 失速のメカニズム3. スピンのメカニズム4. 失速・スピンの兆候と回避5. パイロットに必要な能力6. ケーススタディ7. EMFT実技実施要領参考資料1. 飛行の根拠「滑空機計算ツール」2. 空間識失調とサブG感覚3. 空中衝突4. 低酸素症(ハイポキシア)5. 滑空機安全啓発動画EMFT学科講習会 内容
1. グライダーの危険2022/06/18 4
2022/06/18 5運輸安全委員会 航空事故報告書より抜粋滑空機重大事故
6滑空機事故統計(1974~2021)運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成2022/06/18(インシデントは除く)02468101214197419751976197719781979198019811982198319841985198619871988198919901991199219931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015201620172018201920202021その他の事故重傷事故数死亡事故数
7滑空機重大事故(死亡/重傷/大破) 1年 場所 機体 事故原因 状況2021 美瑛 アーカスM スピン? 離陸約100mでENG停止後の旋回2019 焼岳 DG500エラン 下降気流 山岳風下側の下降気流で高度低下2017 福島 H-36 Dimona スピン 谷間で低速急旋回2016 妻沼 LS-4b スピン 場周経路上で低速旋回2016 福島 GF304 CZ-17 空中分解 酸素OFFでウェーブ上昇中の低酸素症2016 千葉 プハッチ スピン ソアリング中?の低速旋回2016 阿蘇 ぺガス 立木衝突 ウィンチ故障の自然離脱による低空旋回2015 霧ヶ峰 Duo Discus スピン ウィンチ索切れ低空旋回中下降風遭遇2015 滝川 Discus bT スピン 場外着陸中の低速旋回2013 北海道 H-36 Dimona 下降気流 山脈の稜線超えで下降気流に遭遇2008 板倉 ASK23B 立木衝突 低高度での最終進入2008 飛騨 G109 立木衝突 着陸時にオーバーラン2007 都城 FOX 失速 低速進入による失速2007 霞目 ASK23B 空間識失調 ウィンチ曳航中のヒューズ切れ運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成2022/06/18
2022/06/18 8滑空機重大事故(死亡/重傷/大破) 2年 場所 機体 事故原因 状況2007 長野 ASK23 送電線衝突 リッジソアリング中に接近2006 但馬 ジマンゴ スピン 滑走路に引き返す時に低空旋回2005 妻沼 ASK21 川面接触 ベースで急降下中の機首引き上げ遅れ2005 関宿 ASW24 Top スピン ソアリング中の低空低速急旋回2005 浜北 クラブリベレ スピン ウィンチ曳航中に不適切な上昇姿勢2005 関宿 Super Dimona 地面接触 被曳航機が曳航機を吊り上げ2005 久住 プハッチ スピン 追い風ウィンチ曳航による失速2005 板倉 ベンタス2a スピン 低空進入時の低空外滑り旋回2004 韮崎 ファルケ 不時着破損 離陸時の過度なエンジン出力減少2004 栗橋 PW-5 スピン ウィンチ曳航中の傾き2002 小名浜 RF5 船舶衝突 濃霧中でVMCの維持不能2002 関宿 プハッチ スピン 飛行機曳航索離脱後の低空旋回2000 栗橋 Ka6CR スピン 場周経路上の低速旋回運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成
2022/06/18 9滑空機重大事故(死亡/重傷/大破) 3年 場所 機体 事故原因 状況1999 角田 DG-400 空中分解 ウェーブ飛行中のフラッター1998 八ヶ岳 タイフーン17E 山岳衝突 意図しない雲中飛行での空間識失調1997 阿蘇 L23 ブラニック スピン ウィンチ曳航中の減速と自然離脱1996 宮城 Discus bT スピン 不時着のエンジン始動遅れ1996 美幌 ASK13 失速 ウィンチ曳航中の減速1996 美瑛 ASK13 スピン 不適切なオーバーヘッドアプローチ進入1992 小山 L13ブラニック スピン 不適切な飛行機曳航追随1989 当間 Ka6E スピン ソアリング中の低速旋回1983 妻沼 H-23C 空間識失調 ウィンチ曳航中の意図しない雲中飛行1983 関宿 IS29D2 スピン 場周飛行中の低速旋回1983 宝珠花 ASK18 空中分解 ウィンチ曳航中のメインピン脱落1982 霞目 ピラタスB4 スピン 第4旋回中の低速旋回1978 太田 B4/ASK13 空中衝突 ソアリング中の空中衝突運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成
グライダー死亡事故原因(1974~2021)1032件運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成2022/06/182023221 1 1 スピン悪天候空中分解地面/立木衝突空間識失調空中衝突器物衝突低空ピッケ
スピン重大事故(死亡・重傷事故)発生形態(1974~2021)1127件2022/06/18 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成8633231 1 ウィンチ曳航場周ソアリング中場外着陸飛行機曳航動力離陸自動車曳航山岳旋回
スピン死亡・重大事故 操縦士資格(1974~2021)1227件2022/06/18 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成131121自家用教育証明同乗/保持者練習生飛行機自家用のみ
日本の失速・スピン重大事故の機種<複座> ( )内機数ASK13 (2) H-36 ディモナ (1)プハッチ (2) 三田3改1 (2)デュオ・ディスカス (1) L23 スーパーブラニック (1)FOX (1) IS29 (1)H-23C (1) アーカスM (2)SF25C (1) ジマンゴ (1)<単座> ( )内機数ASW24 (2) ディスカスbT (2)ピラタスB4 (2) ベンタス2a (1)クラブリベレ (1) LS-4 (1)Ka6CR (1) Ka6E (1)PW-5 (1)13 13運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成2022/06/18
300m以下のスピンスピンに入ったところでゲームオーバー。曳航初期であれば、一旋転する前に地面に衝突している。スピン訓練に必要なのは、回復訓練よりも回避訓練。14FAA Glider Flying Handbook下を向きながら回転しているので、回復するとノーズダイブの状態回復時の速度エレベーターやや戻す:150km/hエレベーター中立:180km/hエレベーター押す:200km/h増速~フレアー:失高 50-100m150km/hからの引き起こし:約50ft上昇(プハッチの場合)不時着適地は?風向は?高速からフレアーかけられるか?恐怖を感じながら、冷静に操作できるのか?2022/06/18
事故原因の分析15事故統計及び事故報告書を分析すると、下記の傾向がみられた。1. すべての事故に共通・回復不能な状況に至るまで、グライダーが危険に近づきつつあることに気が付いていない。・・・状況認識力不足・危険に気が付いた時は、もはや手遅れな状況となっている。・咄嗟の判断で行ったアクションにより、さらに事態が悪化・理論的な根拠のない直感的なアクション・グライダー運用のために必要な知識・技量・経験不足・操縦士に必要な総合能力(状況認識力、判断力、法令順守)不足2. スピン事故の特長・大多数の事故が場周高度(約200m)以下で発生・離陸直後のスピンは1旋転する前に地面に衝突・失速はスティックフォワードで回復することをわかっているにも関わらず、地面に衝突するまで、渾身の力でエレベーターを引いている。2022/06/18
事故分析から考える事故防止対策161. すべての事故に共通・グライダー運用のために必要な知識・技量・経験の向上→指導者の養成 (EMFT講習会、教育証明講習会等)→安全教育やヒューマンファクター、TEMを初期教育に盛り込む。・操縦士に必要な総合能力(状況認識力、判断力、法令順守)の向上→自家用操縦士養成シラバスに総合能力向上訓練を入れる。・咄嗟の判断で行ったアクションにより、さらに事態を悪化させている。→低高度の運用はあらかじめ計画性を持つ(索切れ、不時着の処置等)。・理論的な根拠を持ったフライトを行う。→ソアリング時のバンク角や速度の設定、低空旋回可否、風の影響を計算して決定する。→計算ツールの利用2. スピン事故対策・スピン初動でノーズが下がった時に、エレベーターを引かせない教育→失速・スピンが発生するメカニズムを理解させる。→ラダー、エレベーターの基本的な役割を理解させる。-2022/06/18
17EMFT講習会の変遷第1世代:フルスピンに陥った場合の回復操作を習得する 。第2世代:スピンの兆候を早期に察知して、フルスピンに陥る前に回復する。第3世代:起こりうる事態を予測し回避するための知識と状況認識能力を身に着け、危険に近づかない。第4世代:パイロットの技能向上には限界がある。機材の向上と組織的な取り組みが必要。第5世代:初期教育の見直し。危険がどこにあるのかを知り、危機感知能力を身に着ける。第6世代:常に根拠を持ったフライトをできるパイロットを育成する初期教育を行う。←今ココ2022/06/18
182. 失速のメカニズム2022/06/18 18
19グライダーはなぜ飛ぶか?グライダーの下向き重力を支えるために、揚力が必要2022/06/18翼が揚力を発生するのは、空気の循環が翼に発生するため揚力重力揚力式 L=(1/2ρV2) SCL抗力式 D=(1/2ρV2) SCD動圧主翼まわりに空気が流れなければ、揚力は発生しない。機体正面から気流が当たらなければ、設計上想定された揚力を発生することができない。私たちは重力に逆らって飛んでいる!
20何がグライダーを滑空させるか?水平直線滑空飛行=加速・減速がない一定の速度で飛行している滑空飛行Wsinθ(重力の飛行方向成分)=D(抗力)Wcosθ=L(揚力)重力W=mg(質量x重力加速度)重力・揚力は相対風に直角に発生する。・重力の飛行方向成分(Wsinθ)がグライダーを滑空させる。・抵抗の大きなグライダーは、滑空角θが深くなる。2022/06/18揚力Lと抗力Dの合力滑空角θWcosθL=12𝜌𝜌𝑉𝑉2𝑆𝑆𝐶𝐶𝐿𝐿= 𝑛𝑛𝑛𝑛𝑛𝑛cosθWn=荷重倍数
21機体姿勢と迎え角(ウィンチ曳航中)通常の速度でのウィンチ上昇迎え角:小さい低速でのウィンチ上昇迎え角:大きい進行方向進行方向迎え角迎え角機体の姿勢や速度計からは、どれくらい失速に近づいているかわからない。FAA Glider Flying Handbook迎え角=飛行方向(相対風)と翼弦線の角度翼弦線2022/06/18
222次元翼の失速失速飛行迎え角の増加↓抗力の増加揚力の減少定常飛行迎え角の増加↓揚力の増加抗力の増加2次元翼では失速は迎え角のみによって決まる。どんな姿勢または速度でも臨界迎え角を超えれば失速する。2022/06/18揚力係数CLと抗力係数CDは、迎え角、翼型の形状、レイノルズ数の影響を表すもの。翼の単位面積あたりの揚力と抗力。その翼型の特徴を表している。機体固有の値。
翼型と失速特性高速翼型 中速翼型・低いClとCd・小さめの迎え角で失速する。・失速迎え角付近でClが急激に下がる・前縁半径が大きい、大きなキャンバー、翼厚が大きい・大きいCLとCd・失速迎え角付近は揚力係数勾配がなだらかに下がる。2022/06/18Cl Cl迎え角 迎え角23
243次元翼の失速揚力式 L=(1/2ρV2) SCL抗力式 D=(1/2ρV2) SCD空気密度:ρ [kg/m3]相対速度:V [m/s]翼面積 :S [m2]揚力係数:CL(無次元)抗力係数:CD(無次元)揚力: L [kg]抗力:D [kg]動圧パイロットが変えられる要素は何か?機体の発生する総揚力<機体重量の時機体重量を支えられなくなる↓失速するLW機体の発生する総揚力重力≒機体重量2022/06/18
単座グライダーのスピン特性・安定性よりも操縦性を重視している。・スティック操作がすぐに姿勢の変化に反映される。・ソアリング等で低速で飛ぶことが多い。・高速翼型で翼が薄い。最大揚力係数から急激に揚力が減少する。・翼のねじり下げを抑えてある。・スキッドからだけでなく、ウィングドロップによるスピンも入り易い。2022/06/18 25Cl高速飛行時、翼端にねじり下げがあると、下向き揚力を発生し、翼が下向きに曲げられ、抵抗が増えることがある。
26失速速度が増加する要因• 機体そのものの重量の増加搭乗者・バラスト・荷物・水バラスト・燃料• 高荷重がかかる操作旋回・高速引き起こし・アクロ・ウィンチ索の張力• フラップ位置フラップDOWNからUP→キャンバーが減る→揚力係数・抗力係数の低下• 抗力の増加翼面のバグ・エアブレーキ・フラップ・エンジン・着氷• 外部要因ガスト・ウィンドシアー・ウィンドグラディエント• 密度高度高高度、高温、多湿→低高度では温度の影響が大きい2022/06/18 https://www.quora.com/Why-does-an-airplane-stall-at-a-higher-airspeed-with-gear-and-flaps-up-than-with-gear-and-flaps-downフラップDOWNフラップUP
27揚力の発生を妨げる要因・セルフローンチ機のエンジンパイロン・エアブレーキ2022/06/18・すべり ・降雨・バグバグワイパーFAA Glider Flying Handbook
28機体重量と失速速度の関係機体重量=「実際の機体重量」 または 「運動による荷重が加わった総重量」失速速度は荷重倍数nの平方根(√)に比例する。一定の翼型では臨界角での揚力係数は一定。重量が変化するときはそれに釣り合った揚力を得るために、速度が変化しなくてはならない。機体重量、荷重倍数、バンク角が増加すれば失速速度は増加し、減少すれば失速速度も減る。FOX 飛行規程より2022/06/18
29旋回中の失速とエレベーター操舵範囲デレック・ピゴット著 「滑空工学入門」より出典グライダーの場合、低速での急旋回では、旋回半径が非常に小さいので機首にあたる気流と尾翼にあたる気流は角度が違う。翼の実質的な取付角は小さくなるため、失速させるためには水平失速よりスティックをずっと多く引くことが必要。エレベーターの舵角範囲のほとんどは旋回で必要な揚力増加のために使われてしまっており、残されたわずかな量の引きしろでは機体を失速させることは困難。2022/06/18
30失速速度と重心位置(CG)の限界CG位置・迎え角とCG位置は関係ない。エレベーターの効果に影響する。・失速速度の定義気流の剥離(主翼の失速)または縦方向のコントロールを失う(尾翼の失速) のどちらか。・エレベーターの安定効果は表面を通過する気流の速さとエレベーターの制御能力で決まる。CG位置が前方に移動すると速度を保つためにエレベーター操作量が多く必要。限界までいくと主翼は失速していなくても機首は下を向く。CGが前方限界・尾翼の制御能力の限界。・水平安定板とエレベーターの大きさを、すなわち旋回時に十分な力をエレベータが発生するように決定される。CGが後方限界・失速速度は気流の剥離やバフェットなどの主翼の空力上の限界で設定。・安定性の限界。グライダーが十分な縦安定性を有してスピンからの回復に問題がないように決定される。2022/06/18
重心位置の影響前方重心の特長・縦安定性が増す・失速から回復しやすい・高速飛行に適する前方限界を超えると・着陸時の引き起こし操作不能後方重心の特長・縦安定性が減る・操縦性が増す・低速飛行に適する後方限界を超えると・失速からの回復不能重心前方限界 後方限界機首下げ傾向 機首上げ傾向
32運動包囲線図と失速の関係すべて失速に近づく操作←スティックを引く操作→スティックを押す操作スティックを引く操作・減速・+Gをかける2022/06/18
33運動による荷重倍数(Load Factor)日本航空技術協会 飛行機構造n=3n=2n=1n=1n=2n=3荷重倍数揚力=飛行機の重量 x 荷重倍数n・Gがかかった時に主翼にかかる力は水平飛行時のn倍・パイロットにも体重のn倍の力が作用するので、+Gでは座席に押しつけられる感じ、-Gでは、放り出されるような感じがする。2022/06/18エレベーター引くPositive G (+)エレベーター押すNegative G (-)
34荷重倍数の増加要因(旋回)重力 1000kg 重力 1000kg有効翼面積はバンク60度の場合、水平飛行の半分しかない。単位翼面積は通常の荷重の2倍を支えなければならない=2Gバンク60度では水平時と同じ速度60km/hで飛行している場合、2Gの時の迎角は1Gの時の2倍必要になるので、失速迎角を超えてしまう。1Gの時の失速速度=60km/hの時、 2Gの時の失速速度=60km/h x √2=85km/hバンク60度60km/h60km/h1G2G2022/06/18
35旋回中の荷重倍数と失速速度FAA Pilot's Handbook of Aeronautical Knowledge水平飛行中の失速速度をVsとするとW = L = ½ ρCLSVs2Vs = √(2W/ρSCL)旋回飛行中の失速速度をVSθとするとW = L cosθよりVSθ= √(2W/ρSCLcosθ)=√cosθ1×Vs荷重倍数n=L/W または n=1/cosθ2022/06/18バンクをつけただけでは失速速度は増えない!
荷重倍数の増加要因(突風)上昇気流風速U 迎え角の増加-迎え角の増加速度V風速U相対速度V静かな大気中を飛行してきた機体が風速Uの上昇気流に突入すると、主翼にあたる気流の向きが変わる。迎え角が増えて主翼の揚力を増し、機体全体は上方へ押し上げられる。機体各部には正の荷重倍数がかかる。
荷重倍数の増加要因(高速からの引き起こし時)旋回を垂直に行っている状態。引き起こしの運動をすると、機体の各部には重力の他に円運動をするための遠心力が働く。揚力は重力の他、遠心力の分も支えないといけないので、大きな荷重がかかる。FAA Pilot Handbook揚力重力遠心力(向きを変えることによって感じる慣性力)下記の時、荷重倍数が大きい・引き起こし半径が小さい・高速度揚力=重力+遠心力L = W +
荷重倍数の増加要因(ウィンチ索の張力)BGA Instructor’s Manual揚力索の張力重量抗力100km/hで上昇中合力曳航初期上昇径路角45°索角 5°100km/hで上昇中には 重量(重力)の1.63倍の上向き 合力Ra(揚力とほぼ同じ強さ)が発生することで力が釣合う。定常滑空時の1.63倍の 揚力が発生している 。その時の迎え角は定常滑空 時よりやや大きい 。100km/h定常滑空時は 4°とすると、 約7.5°。水平飛行での失速速度60km/h曳航中の失速速度 = √1.63VS1 ≒1.3 VS11.3x60km/h=78km/h
39ウィンド・グラディエント(Wind Gradient:風速の勾配)http://rockets2sprockets.com/issue-cross-winds-wind-tunnels/2022/06/18空気と地面の間に粘性による摩擦力が生じ、地面から離れるごとに少しずつ摩擦力が弱まるため、風は上空に行くほど強くなりある一定の高度以上ではほぼ一定になる。・風は地面のそばが一番急勾配になっている。・地形によって、風力の変化傾向が異なっている。・500ft 以下でとても著しく、150ft 以下で最も大きい。
ウィンド・グラディエントと低空旋回デレック・ピゴット著 「滑空工学入門」より出典風速 10m/s風速 5m/s風速 13m/s風下への旋回 風上への旋回グライダーは翼幅が大きく、ロールの運動性がやや悪い。急旋回では上の翼は下の翼の高さより10m以上高くなる。ウィンド・グラディエントのために上の翼にあたる気流の速度は下の翼より大きい。バンク角が深くなる傾向が強くなる。特に地面近くは、傾きの修正が難しくなる。対気速度 90km/hでの旋回より大きな揚力より大きな揚力より少ない揚力より少ない揚力水平にしやすい 水平にしにくい翼端対気速度 108km/h翼端対気速度 80km/h翼端対気速度 72km/h翼端対気速度 100km/h
3. スピンのメカニズム2022/06/18 41
42低空索切れ(80m) 背風着陸中のスピン2022/06/18https://www.youtube.com/watch?v=use6PnxjO7s
43ASK 21 glider spin entry during Flight Test2022/06/18https://www.youtube.com/watch?v=yXH6XDxQdPYスピン一旋転にかかる秒数、自転中に機首が上下することを確認。
44スピンの特徴翼が失速し、左右の翼の揚力と抗力が不均等であった場合、失速迎角を維持しながら自転を継続している状態スピン軸(自転軸)2022/06/18FAA Glider Flying Handbook自転スピンが持つ運動を持続する作用失速時、機体の横安定性が失われる。傾きを戻す力が弱まり、アドバースヨーを上まわる抗力が発生するので、自転が持続する。スピン初動では、自分が操作しているわけではないのに、「意図しない自転」が発生する。スピン軸(自転軸)
45スピンとスパイラルBGA Flight Instructor Manualスピンの特徴スピン軸を中心に自転ノーズダウン旋回率大きい低速通常のG非常に大きな降下率スパイラルダイブの特徴旋回(円弧)バンクは増大(結果的に安定)旋回率はスピンより小さいすべてのコントロールは効く高いG2022/06/18スピンとスパイラルの回復操作の違いは?
46重心位置とスピンBGA Instructor’s Manual / FAA Glider Flying Handbook2022/06/18前方重心スピン初動後、スパイラルダイブになる。後方重心フルスピンになる。重心が後方限界を超えているフラットスピン(回復不能)
2022/06/18 47アクシデンタルスピンのメカニズム・沈下に遭遇したため、普段より低い高度で場周に入った・第4旋回に左旋回で入った。低高度でバンクをつけるのが怖かったので、20度程度の緩旋回を行ったが、オーバーシュートしてしまった。・滑走路にアラインさせようとしたが、バンクをつけたくなかったので、無意識のうちに左ラダーを踏んでいたため、意図せずしてスキッド旋回となった。遠心力向心力パイロットは旋回外側への力を感じる。<スキッド旋回>バンク角に比べてラダーが多すぎる状態。ノーズが旋回内側に向く(旋回率に比べてバンクが少なすぎ)。揚力の水平成分(向心力)が遠心力より小さいので、旋回の外側へ滑る。
左ラダーを踏んで外滑りを起こした場合①左ヨーにより、右翼は左翼より速く進む ②左にバンクする③左に旋回し、左翼が下がることにより、左翼の迎え角が増加する。揚力揚力大揚力小移動速度大移動速度小揚力大揚力小④左旋回で横滑りしながらノーズが下がるので、エレベーターでノーズを上げようとすると、左翼が先に臨界迎え角に達して失速する。2022/06/18 48
49左旋回スキッド中(左ラダー過多)の問題2022/06/18相対風が翼の正面から当たらないため、揚力を発生させる方向の気流の効果が減少する(翼端方向の分力は揚力を生み出さない)。このため、翼は通常より早く失速する。スキッド中は胴体が翼面の気流をブロックして、内側翼の気流が減少するため、揚力が減少し、内側翼が先に失速しやすくなる。翼型が変わるので、翼の揚力・抗力特性も変わる(本来の性能が出ないかも)。揚力発生を妨げる要因
臨界迎角前後のヨーイングの影響左翼の方が迎え角が増え、抗力も増加する。エレベーターを引くと、左翼が先に失速し、左右の揚力と抗力差のために、自転を続ける。Cd 左翼>右翼・ Cl左翼<右翼CdとCl 左翼>右翼旋回中左ラダーを踏んで左にバンクした場合左ラダーを踏んだままエレベーターを引き、左翼が先に臨界迎え角を超えた場合左翼右翼左翼右翼Cd抗力係数Cl揚力係数Cd抗力係数Cl揚力係数臨界迎角 臨界迎角リッチ・ストーウェル著 「緊急機動訓練(EMT)」より出典2022/06/18 50
失速付近のエルロン使用の影響デレック・ピゴット著 「滑空工学入門」より出典失速付近で翼が傾いて下がるのを止めようとしてエルロンを大きく使うと実際には翼端が失速してもっと左へ傾く。失速付近で左翼が傾いて下がるのを止めようとして右エルロンを使用失速付近で左翼が傾いて下がる傾きを止めるために右エルロンを使用キャンバーが増えることにより、失速を起こし、さらに左に傾く失速付近の傾きの直し方は?近代的なグライダーは翼端失速を防ぐ設計
52スリップとスキッド2022/06/18スリップ旋回・バンク角に比べてラダーが足りない。・ノーズが旋回外側に向く。・旋回率に比べてバンクが大きすぎる。・揚力の水平成分(向心力)>遠心力・旋回の内側へ滑る。スキッド旋回・バンク角に比べてラダーが多すぎる。・ノーズが旋回内側に向く。・旋回率に比べてバンクが少なすぎる。・揚力の水平成分(向心力)<遠心力・旋回の外側へ滑る。FAA Glider Flying Handbookスリップもスキッドも左右翼のアンバランスがある限り失速すればスピンに入りうるが、スキッドの場合は自転と旋回方向が同じなため、スピンに入りやすく、スリップの場合は、自転と旋回方向が逆なので、スピンに入るのにスキッドより時間がかかる。スリップもスキッドもラダーを踏んでいる方向に自転する。
スピン中に尾翼への気流が遮蔽される部分リッチ・ストーウェル著 「緊急機動訓練(EMT)」より出典CG位置からできるだけ後方に離れた大きなラダーは近くの小さなラダーにくらべて良好な回復特性。前方CGも、より長いモーメントアームで回復操作が容易。通常姿勢のスピン中、T尾翼は水平尾翼とエレベーターが作り出す遮蔽部分が最も小さい。急角度のスピンフラットなスピンスピン中の相対風
回復にトップラダーを使用する理由迎角の減少SSA Soaring Magazineより出典ラダーを使用してスピン回転速度ベクトル(図中鉛直下向きのベクトル)の,大きな成分であるヨーイング角速度(図中Z方向ピンクの成分)をラダーを使用して減らすと、慣性力によるピッチアップ力が減少する。この動きにより機首は下向きとなり迎え角は減少するため、エレベーターに気流があたりやすくなり、エレベーターの効きが良くなる。そのため回復操作は、トップラダー使用後、スティックフォワードの順番で行う。迎角速い回転 遅い回転トップラダーを踏む→回転角速度ベクトルヨー成分の減少速い回転↓遠心力大↓ピッチアップ遅い回転↓遠心力小↓ピッチダウン遠心力
左スピンからの回復操作右ラダーを踏むことにより、スピン軸に対する迎え角が減少し、ロール及びヨーの自転を止める向きに力が働き、自転が止められる。スティックフォワードせずに、そのまま右を踏み続けると、逆方向のスピンが発生する。リッチ・ストーウェル著 「緊急機動訓練(EMT)」より出典左スピン中左翼右翼Cd抗力係数Cl揚力係数臨界迎角右ラダーを踏んだ場合左翼右翼Cd抗力係数Cl揚力係数臨界迎角
4. 失速・スピンの兆候と回避2022/06/18 56
57水平失速の定義と兆候1G失速の兆候といわれる状況・ノーズ位置が通常より高い・速度が遅いまたは減少している・気流の音の変化・速度計の針が振れる・バフェット・エレベーター、エルロン、ラダーのレスポンスが悪い・高い降下率2022/06/18BGA Flight Instructor ManualQ1 : 失速に近づいていることがわかる計器は何か?Q2 : 1G失速の兆候はスピンにもあるか?Q3 : スピンの兆候は何か?
3舵のコントロールする軸エレベーターピッチ軸エルロンロール軸ヨー軸ピッチ軸ラダーヨー軸ロール軸ピッチ軸1つの操縦系統を動かすと複数の軸の動きがある。図:FAA Glider Flying Handbook2022/06/18 58単舵操作の段階で理解している必要がある。
スピンの兆候2022/06/18 59エレベーターを引いても機首が上がらない。これはスピンに近づいている唯一の「スピンの兆候」絶対にそれ以上引いてはいけない!!ラダーを中立にすること!!「意図しない自転」のフェーズはすでにスピンに入っており、そこからの回復は困難。ラダー使用時の機体の動き・低速旋回中、ラダーを少しでも使用すると、バンクがつき、ノーズが下がる。・この状態でエレベーターを引いても機首は上がらず、逆に下がる。・エルロンとラダーを中立にすると機首が上がる。単舵操作の段階で理解している必要がある。
初期スピンの糸の動き初期スピンでノーズが下がる時、糸は中立または内すべりを示すことがある。糸は何を表す計器か?糸はすべりを示しているのか?2022/06/18 60外すべり方向 中立方向内すべり方向外すべり方向
エレベーターの役割・エレベーターのコントロールする要素・ ピッチ・迎え角・揚力・速度・荷重倍数リッチ・ストーウェル著 「緊急機動訓練(EMT)」より出典「エレベーター=高度」「エレベーター=上昇」エレベーターの使用を間違えると、失速、構造破壊に直結する取り扱い要注意の舵。根拠のある時しか使用してはいけない!!2022/06/18 61
62ヨーストリングの位置正しい旋回は、ヨーストリングが内すべりしているように見える。特に複座の前席は、重心から離れているので、この傾向が強い。ヨーストリングをまっすぐにする動作は、スキッドを誘発するので、スピンの危険が高まる。山肌に近いサーマリングをしている時は、上向き突風があると危険なので、ヨーストリングが内滑りのような見え方をキープする。2022/06/18
グライダーの最適な重心位置DG HP「グライダーの最適な重心位置について」よりグライダーは後方限界に近い位置では良い性能は得られない。単にピッチとロール方向のコントロールが非常に敏感となるだけ。また、パイロットは長距離飛行中に2L程度の水分を失う(汗をかく)ことはありえるので、飛行中に重心位置が許容範囲を超えてしまい、すべてのコントロールが過敏といえる状況になってしまうかも。後方限界から30~35%前方の重心位置を選択。このあたりが安全性の面からも性能の面からも最適な位置。2022/06/18 63
スピンからの回復操作(飛行規程)1. フル・トップラダー2. エルロン・ニュートラル3. フラップ・アップ4. スティック・フォワード5. 旋転がとまったら、ラダー・ニュートラル6. 高速ダイブからのリカバリーこれは、意図的にスピンを入れたらできる操作。アクシデンタル・スピンの場合、ラダーを踏んでスピンに入っているという認識がそもそもないので、何が起こっているのかわからないのが現実。スピンと認識できず、機体の挙動がおかしいと思ったらやるべきこと。引いている操縦桿の力を緩め、エルロン・ラダーを中立にする。それでも自転が止まらなかったら、トップラダーとスティックフォワード量を増やす。(スピンがフラットな場合。多くのスティックフォワード量が必要)TWIN Ⅱ Spin Recovery
65失速・スピンからの回復時の注意1. 引いている操縦桿を戻す量はどれくらい戻せばよいのか?2. 旋回を伴う高速ダイブからの回復時の速度、制限荷重超過3. スパイラルダイブへの転移スピンとの違いは? 見分け方は? 回復方法の違いは?4. 2次スピンへの転移回復操作時に使ったトップラダーを中立に戻さなかった場合、急激にエレベーターを引いた時に再度失速し、反対側にスピンに入ることがある。2022/06/18
5. パイロットに必要な能力2022/06/18 66
グライダー・パイロットに求められる技能についてグライダーパイロットの技能操縦技術知識判断取組姿勢通常操作非常操作モニター航空機・空力・機材環境(気象・地形)人間の能力の限界意志決定能力リスクマネージメント能力タスクマネージメント能力状況認識(危険予知)能力搭載機器マネージメント能力CFIT*マネージメント能力法令遵守積極性協調性沈着性コミュニケーション能力計画マネージメント能力リーダーシップ緊急時の対応不時着時のサバイバルリーダーシップエアマンシップ(ICAO 定義)正しい判断力、確固たる知識と技術、そして飛行目的を完遂する心構えを常に持ち続けるパイロット精神飛行技術計画・判断力状況認識力規則の遵守CRM・TEM*能力同乗者の安全確保*CFIT=Controlled FlightInto Terrain*CRM=Crew ResourceManagement*TEM=Threat and ErrorManagementテクニカルな能力ノン・テクニカルな能力航空法要求項目↑この能力向上の訓練が必要2022/06/18 67
2022/06/18 68TEM (Threat & Error Management)モデル【対抗手段(Countermeasures)】ThreatThreat ManagementErrorError ManagementUASUAS ManagementインシデントアクシデントCall out、Checklist、Briefing 等のProcedureやCRMスキル(Undesired Aircraft State)望ましくない航空機の状況安全マージンが低下している状況操縦士が関与しない領域(気象、地形、感性、運航上のプレッシャー)で発生し、運航を複雑にする要因安全マージンを低下させる操縦士の行動・無行動UAS(望ましくない航空機の状況)が発生してしまった場合、パイロットがそのUASの対処に失敗すると、インシデント・アクシデントとなる。
リスクとなりえる状況をどう認識するか?リスク要素 評価内容パイロット 健康状態、精神・感情の状態、疲労度、極度の緊張等スピン訓練の実施状況、機体の慣熟度等機体 性能・運用限界・装備・耐空性、重量、フラップ・ダイブ位置、計器の作動、速度や降下率等環境 風向と風速・天候の変化、上昇気流・下降気流の状態、他機の動向、地形や障害物の位置、ピストによる指示、法令・空域・空港規則等の指定経路・高度、離着陸場の条件等外圧 他者からの飛行完遂への期待や圧力。スケジュール上の圧力。仕事・家庭・友人・先輩・教官からの圧力等。2022/06/18 69Threat=複雑な運航環境の中で航空機乗組員に降りかかり、航空機乗組員の業務負荷や心理的負担を増大させ、乗員が適切な対応をしなかった場合には乗員のエラーを誘発する可能性がある乗員以外の要因(エラーの発生する確率が高くなる要因)
70出発前の確認 スレット&エラー・マネージメントスレット エラー マネージメント気象 強風と大きな沈下帯 滑空比の計算間違いによる高度の低下計算結果に十分なマージンがあるかの確認ATC 宇都宮ACAの通過 他機とのニアミス レーダーアドバイザリーと見張りの強化空港 夕方の西日による視程低下他機とのニアミス 自機の位置を一方送信でアナウンス地形 場周経路場の送電線 索切れ時の送電線との異常接近事前に地図をチェック。場外着陸の手順を決める。組織 場外着陸した際のリトリブ要員確保要員がいないので、無理に滑走路に帰る。事前に場外着陸時の手順を決めておく。その他 体重が軽いパイロットとの交代バラスト搭載忘れによる不適切な重心位置事前に交代パイロットに注意喚起する2022/06/18
飛行中の意思決定のための3PモデルFAA Aviation Instructor’s Handbook状況認識実行 決定危険の認識すべての行動の始まりソアリング中、風が強く、沈下が強くなってきた。滑走路に届くか?リスクレベルの検討滑走路に届かないと判断した場合に、プランBを用意しているか?リスクマネージメントの実行このままだと滑走路に届くのは難しいため、場外着陸の意思決定をする。途中、その結果をレビューし、必要であれば別の場外適地を選択。状況認識に戻る。場外着陸の経路はどうするか?無線で連絡するか?注意点は?2022/06/18 71
危険に近づかない工夫例注意力散漫・一点集中になる状況の除去• 状況認識能力を高めるためのシミュレーション実施• 注意力をそらせる訓練等の実施• 優先順位の判断• 普段と異なる経路の飛行の実施• 考える訓練、自分の考えを評価してもらう機会の設定失速から遠ざけるためのマージン・ソアリング速度の検討・旋回時にバンクをしっかりつける。・旋回時に内滑り気味で飛ぶ。・ベース~ファイナルを高めに持ってきて、ダイブを使用して降りる。・トリムを前気味に取るパイロットだけでなく、ピスト、曳航パイロット、教官だったら何ができるのか?
6. 事故ケーススタディThreat & Error Management2022/06/18 73
2022/06/18 742021/10/12 美瑛 アーカスMスピン事故概要当該機は前月日本に導入されたばかりで、当該フライトが3回目の飛行。自力発航で美瑛滑空場RW31を離陸し、90度ほど旋回した時点で約100mでエンジンが停止した模様。左旋回を継続し滑走路方向を向いたところで突然スピンに入る。1回転弱回った時点で旋転が弱まり機首が上がりだしたが、その後は不明。エンジン停止から約10秒後に地面への衝突音が聞こえた。前席(69才) 飛行時間3000時間以上Arcus M 800時間以上オーストラリアで離陸直後のENG停止経験あり後席慣熟2回後、前席でチェックフライト1発目後席(68才) 飛行時間は3000時間以上、機体所有者SL 2000時間以上
2022/06/18 75滑走路長 850m美瑛滑空場周辺の地形推定墜落場所
2022/06/18 76エンジン運転時(最大出力)Vy =90km/h(25m/s) Vv=+3.42m/sエンジン停止時(エンジン展開)Best L/D V=95km/h(26.4m/s) Vv=-2.0m/s滑空比=13:1(Duo Discus =18:1)SL機上昇中(+フラップ)の特性・ノーズダウンモーメントのためノーズアップ気味にトリムArcus Mの性能エンジン展開・エンジン停止時のArcus M(赤)とDuo Discus T(青)の推定ポーラーカーブエンジン展開時・失速速度 82km/hエンジン格納時・直線失速からの回復高度:60m・スピンからの回復高度:260m(Duo Discus T : 110m)
2022/06/18 77滑走路長 850mArcus M エンジン停止時の推定滑空高度エンジン展開/停止時Best L/D 95km/hBank 25°旋回半径 約150m直線中沈下率 -2.0m/s100m180°旋回開始→終了 約20秒旋回中沈下率 -2.3m/s失高 46m44m300m植生 約15m90°旋回終了失高 23m直線 275m 10秒失高 20m24m 1mVy90km/h→Best L/D95km/h加速に必要な時間約3秒とする失高10m 距離75m90m・エンジン停止から約10秒後に衝突音・100mから地面に落下するまでの秒数約5秒・エンジン停止から約5秒間で、回復不能のスピンに陥ったと推測・状況認識→判断→加速→旋回開始に要する時間は?上昇中Vy=90km/h上昇率=+3.42m/sエンジン展開/停止時Best L/D 95km/h滑空比 13:11kmあたり失高=75m沈下率 -2.0m/s自分だったら、動力機でエンジン停止時、何mあったら滑走路に旋回して戻ってくるか?それ以下の高度で停止したらどうするか?
2022/06/18 78AT索切れの場合の推定滑空高度TWIN 2 板倉滑空場RW15曳航速度 =120km/hBest L/D 37:1 105km/h30:1の時 1kmあたり失高=33m沈下率 -0.8m/s索切れ後、120km/h→105km/hに減速Bank 25°旋回半径 約180m旋回中の沈下率 -0.9m/s180°旋回終了 約20秒失高 18m索切れ 100m82m直線 700m 24秒失高 20m90°旋回終了失高 9m62m53m土手の高さ 24mクリアランス 38m自分にとっての安全高度は何m?索切れ時、何mあったら滑走路に旋回して戻ってくるか?それ以下の高度で索切れしたらどうするか?土手の高さ 24mクリアランス 38m滑空場標高 18m62m
79曳航中索切れ後低空旋回着陸中のスピン2022/06/18https://www.youtube.com/watch?v=zxbulrrQVigShoreham airshow glider crash 2010
2022/06/18 80Shoreham airshow glider crash 2010雲高低く、索たるみがあったため、自身で約200mで離脱。旋回してエアブレーキを使用し、滑走路に降りようとしたが、位置的に降りられないと判断したため、エアブレーキを閉めて、滑走路エンドで旋回を試みた時にスピンに入った。
2022/06/18 81https://www.dailymail.co.uk/news/article-1311828/Shoreham-air-crash-pilot-escapes-stunt-glider-smashes-runway.htmlShoreham airshow glider crash 2010
ベンタス2a スピン事故 概要2005年 板倉滑空場機体:ベンタス2a型(単座)機長の飛行経験総飛行時間:354時間最近30日間の経験:3.5時間同型式の飛行時間:3.5時間機体損傷:大破パイロット:死亡日本選手権出場を計画しており、選手権に使用するレース機の慣熟とクロスカントリーの練習飛行運輸安全委員会事故報告書より
ベンタス2a スピン事故 状況風向約300°風速約5m/s。滑走路は33。上空では、2/8程度の積雲が4-5,000ftで、赤城山から佐野市付近まで雲道があった。飛行後、約2km北北西の佐野ICを100mで通過して、高度約58mまで160km/hに増速し、高さ約85mの鉄塔間の高圧線を、高度約100m、対地速度約80km/hで越えたところでピストに対し 「高度が下がったのでダイレクトに入る」との通報。進入中、ピスト担当者から同機に、現在の使用滑走路は風に正対する33との通報。機長は滑走路15上のピスト横を通過時、ギヤを出さず、エア・ブレーキも使用しないまま滑走路上を 低高度で通過し滑走路のエンド付近で中央付近に向け、旋回を開始した。2022/06/18 83運輸安全委員会事故報告書より
ベンタス2a スピン事故 状況追い風の滑走路上を低高度で通過後、滑走路端で風にほぼ正対する滑走路に着陸しようとして、左上昇旋回(対地高度42m、対地速度116km/h)したが、オーバーシュート気味になり、深いバンクで外滑り状態となり失速状態に陥ったため、地面に衝突した。当日は高度による風の強さの違いによるウィンド・グラディエントがあったと予測された。2022/06/18 84・Threatは何か?・Errorは何か?・Countermeasuresは何ができたか?・事故再発防止のためには何をすれば良いか?運輸安全委員会事故報告書より
Ka6CR スピン事故 概要2000年 読売大利根滑空場機体:Ka6CR型(単座)機長の飛行経験総飛行時間:600時間最近30日間の経験:39分同型式の飛行時間:不明機体損傷:大破パイロット:死亡ウィンチ曳航による単座のソロ飛行運輸安全委員会事故報告書より
Ka6CR スピン事故 状況天気 曇り、 視程10km以上、風向 北、風速 約0.5m/s、同機は、滑走路31からウインチ曳航により 発航し、高度約1350ftで離脱、場周経路を 飛行し、ダウンウインド・レグで利根川左岸沿い(滑空場対岸)にある工業団地 の上空約1200ftで数回旋回した後、徐々に高度を下げながら、他の会員の 飛行速度と比較し、ゆっくりとした速度で川下側へ飛行を続けた。同機が工業団地と東武線の鉄橋の中間付近上空を飛行中、同鉄橋付近上空で最終進入中であったモーター・グライダーからタッチアンドゴーの要求がピストにあった。その後、同機機長から「オン・ダウンウインド」とピストへ 無線連絡があった。ピストは同機に対して、モーター・グライダーに続いて着陸するよう通報した。2022/06/18 86運輸安全委員会事故報告書より
Ka6CR スピン事故 状況通常、この付近では、会員は約500ftで飛行し、最低でも400ftの高度が 必要であるが、この時の高度は350~400ftに見えた。その後、同機は左へ旋回した後、落下するように降下し、堤防の陰になり見えなくなった。進入するものと思っていたら、左旋回を開始したので、モーター・グライダー との間隔をとるためかと思ったが、他の会員の飛行速度と比較し、低速度で飛行しており、低速度のままで、バンクをしないで左旋回をしたように見えた。2022/06/18 87・Threatは何か?・Errorは何か?・Countermeasuresは何ができたか?・事故再発防止のためには何をすれば良いか?運輸安全委員会事故報告書より
山の斜面への衝突事故 H-36ディモナ 概要2015年 日高山脈付近機体:ホフマン式H-36ディモナ型(動力滑空機)機長の飛行経験総飛行時間:5811時間最近30日間の経験:2時間同型式の飛行時間:3171時間機体損傷:大破パイロット:死亡同乗者:死亡女満別空港から鹿部空港への野外飛行当日の目的地は花巻空港最終目的地は沖縄運輸安全委員会事故報告書より
山の斜面への衝突事故 H-36ディモナ状況機長は下降気流に遭遇し対地速度が減少する中、最終的に稜線を越えるための安全な高度を確保できるものと判断して約2000mで 事故現場となる九ノ沢の谷に進入したが、その後、予想以上に下降気流が強くなったため当該機体の上昇性能では降下を止めることができなかった。機長は風上側に発生する斜面上昇風を利用して 高度を上げようとしたが、それが十分にできず、約1800mの斜面に衝突し、雪山を滑り落ちた。ELTはスイッチOFFであったため、作動しなかった(事故発生3日後に発見)。2022/06/18 89・Threatは何か?・Errorは何か?・Countermeasuresは何ができたか?・事故再発防止のためには何をすれば良いか?運輸安全委員会事故報告書より
山の斜面への衝突事故 H-36ディモナ状況事故前日は上空の風が強くなったので出発中止した。当日は気圧の谷が北海道地方を通過する見込みで日高山脈の稜線はよく見えており、4000ft付近に少量の積雲が山脈にかかる程度。山脈稜線東側の事故現場周辺は、西から45~50kt程度の風が吹き、吹き下ろしによる強い下降気流が発生していたものと考えられる。同機は約2000mであった高度を岩内岳稜線の西側において南北に蛇行しながら、約2450mまで斜面上昇風を利用して山脈の稜線を越える直前に高度を上げていた。2022/06/18 90運輸安全委員会事故報告書より帯広空港ウィンドプロファイル
2022/06/18 91阿蘇場外離着陸場滑走路標高835m標高800m標高850m滑走路長900m標高800m935m=標高+100m到達点935m=標高+100m到達点自分にとっての安全高度は何m?索切れ時、何mあったら滑走路に旋回して戻ってくるか?それ以下の高度で索切れしたらどうするか?電線や電柱の位置は知っているか?130m
2022/06/18 92阿蘇場外離着陸場 索切れ時に考慮すべきこと曳航機の性能、索切れ時の滑走路からの距離、標高差、勾配のきつさ、地形の凸凹、電線と電柱の位置、AGLの計算等
2022/06/18 93飛騨エアパーク索切れ検証滑走路長900m滑走路標高715m標高628m索切れ730m400mBank 28°電線
2022/06/18 94関宿滑空場90m370m
7.EMFT実施要領2022/06/18 95
2022/06/18 96実技講習実施手順説明https://www.youtube.com/watch?v=v3LeexwvaI4配布資料 「2022_JSA EMFT訓練実施要領(機体共通)20220618」 参照
Safe Flying!ご清聴ありがとうございました。