IBIS2022若手交流企画で用いた資料です.企画担当者の梶野の考える研究のやり方を紹介しています.研究に対する考え方の一例として参考になれば幸いです.
研究の進め方や論文執筆について梶野 洸IBM Research - Tokyo
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自己紹介梶野 洸(かじの ひろし)• 2016/3 東大情報理工 数理情報 博士課程修了• 2016/4- IBM Research – Tokyo研究の興味:役に立ちそうで立たなくてでもちょっと役に立つもの• 分子の最適化• 強化学習• Spiking neural network2
本日の話は個人の趣向に基づく箇所が多いです3
論文は研究を他人に共有する手段なぜ他人に共有するのか• 自分の凄さを知らしめるため• 自分が面白いと思ったことを共有するため• 他人が困っていることを解決したから4
論文は研究を他人に共有する手段なぜ他人に共有するのか• 自分の凄さを知らしめるため• 自分が面白いと思ったことを共有するため• 他人が困っていることを解決したから共有された側はどう思うか?• 🤔🤔🤔• 面白いから自分も研究してみる / 面白くない• 解決して嬉しい / 的外れ5
論文は研究を他人に共有する手段なぜ他人に共有するのか• 自分の凄さを知らしめるため• 自分が面白いと思ったことを共有するため• 他人が困っていることを解決したから共有された側はどう思うか?• 🤔🤔🤔• 面白いから自分も研究してみる / 面白くない• 解決して嬉しい / 的外れ6• 適切なプロトコルに従って他人に共有する必要がある• 想定顧客のことを考える必要がある
適切なプロトコルに従うと採択される確率は確実に上がる(ので適切なプロトコルを身につけましょう)7トップ会議に投稿される論文適切なプロトコルに従っていない論文適切なプロトコルに従っているが,顧客の要望を完璧に満たしているわけではない論文適切なプロトコルに従っているし,顧客の要望を完璧に満たす論文 ※個人的な感想ですまずここを目指したい&この議論をします
良い論文の条件の全てを満たす必要がある良い論文の条件• 課題が明確である• 解く価値のある課題を取り扱っている• 課題の原因を明確に特定している• 課題の原因を解決する手法を提案している• 課題が解決されたことを論証している• 論理的な構成ができている• 標準的な文章構成に則っているなどなど…条件がひとつでも欠けると良くない• 課題がはっきりしない• 課題の重要性を説明できていない• 原因が深掘りされていない• 原因と手法が対応していない• 数値実験のメッセージが明らかでない• 論文の所々の話がつながっていない• 文章が読みづらい8
課題設定解くと誰かが嬉しくなる課題≠「論文になりそう」な課題Do: 実際に困っている人の相談にのる• 学会で色々話を聞く• 少し近い分野の人と話す• お客様と話すDo: 実際に自分で困ってみる• 論文の数式をいじってみる• 既存手法を実際に動かして遊んでみる多くの既存手法はそんなにうまく動かないDon’t: 論文を漠然と読んでできそうなことを考えるDon’t: 「論文になりそう」なことを考える• 「論文になりそう」 =他の論文の技術的貢献と同じくらいの貢献がありそう,と考えていると良い課題に辿り着けないかもしれない• 研究テーマが思いつかない人はこうしていることが多い気がする• 少なくとも自分で手を動かして困ってみるべき9
関連研究体系化しつつ,自分の貢献を明確化するDo: 研究テーマを考える段階で関連研究を調べる困りごとの多くは既存手法で解決する1. 既存手法が見つかった場合• 興味があれば触ってみて困りごとを探す• 興味がなくなったら違うことを考える2. 近い既存手法が見つからなかった場合ちょっと違う分野でも探してみる3. ちょっと近い既存手法は見つかるが,ドンピシャなものがない次のステップに進む時!Do: 関連研究を体系化する関連研究 = 研究を売り込むコミュニティ= 想定される査読者• キーとなる論文を探す• 時系列順,手法ごとに分ける• 自分のやろうとしていることがコミュニティにどう貢献できるのかを整理するDon’t: 既存研究との違いだけを探す• Related work は既存研究との違いを書くだけの章ではないと梶野は思う• 対象とする問題を取り組んできた人々から成るコミュニティへの貢献を述べるべき10
関連研究体系化しつつ,自分の貢献を明確化するDon’t: 新しい関連研究をランダムに調べる• コミュニティの歴史を踏まえる必要がある• 見つけた課題がコミュニティで本当に困りごとなのかわからないDon’t: 論文書くときに関連研究を調べる• 手戻りリスクがそこそこある11
解決手法解ける問題になるように課題を変える or 塩漬けにするDo: 課題が解けない場合は 課題を考え直すのも一案• 抽象度が高い課題は解けない例)少データで学習したい• 解けそうだけど解けない場合は自分で考えてもいいし誰かに聞いてもいい(解決できることが最も大事)Don’t: 解けなさそうな問題に執着する• 解くべき問題は無限 vs. 時間は有限なので他の研究テーマをやった方がいい• たまに思い出して触ってみると解ける時が来るかもしれない12
数値実験・証明解決策が本当に課題を解決できているのかを検証するDo: 証明する場合は適切な仮定・命題を設定する• 現実的ではない仮定を置かないといけないならば証明しないほうがいいかも?• 既存研究の仮定を思考停止で使わないDo: 数値実験の設計をちゃんと考える• 実験の目的を考える• 適切な比較手法を考える• 適切な評価指標を考える• 必要十分な実験をちゃんとやるDon’t: 既存研究の数値実験をそのまま持ってくる• 適当に性能比較をしていることもよくある• 研究目的が違うならば検証方法は違うはずDon’t: めんどくさがってサボる• 後々査読対応で困る• 必要なだけの実験をやっていればいいけど…13
論文執筆論理展開を考えつつ,パラグラフ単位でひたすら書くDo: 大まかな論理展開を考える• 徹底的に論理的でなければいけない• 矛盾があってはいけない• 論理的な飛躍があってはいけない• 問題がある場合は修正を試みた方が良いDo: パラグラフ単位でひたすら書く• 1パラグラフ1メッセージ(絶対守る)で書き殴る• 切り貼りして論理展開を組み立てられるDon’t: 書き始めない• 書き始めないと気づかない飛躍もある• 時間は有限なので…Don’t: 人に見せない・相談しない• 論理的な文章を書ける人しか論理的かどうか判断できない• 初期状態では論理的な文章を書けない人がほとんど• 論理性を判定できるオラクルを使いましょう14
論文執筆なるべく守るべき基本構造があるパラグラフの基本構造• Topic sentence: パラグラフの一文まとめ• Supporting details: topic sentenceをサポート• Closing sentence: topic sentence を繰り返す• Supporting details を読んだ後にパラグラフの内容を振り返るのに相応しい一文に15
論文執筆 TipsDo: 全体の構成をはやめに整える• 論文を真っ赤に添削≠良い指導者• はじめは構成を整えるべき• 細かいところを直してもしょうがない• 共著者/指導者とまず構成について議論すべき• 論文の初稿を見せると細かいところを言われるかもしれない• 箇条書きの構成メモで議論するといいかも• 構成が綺麗に作れれば短時間での発表もやりやすくなるDo: とにかく推敲する初稿ができてから5~10周くらいするDon’t: Related work で研究を列挙するだけ• 自分の研究が既存の研究群にどう位置づけられるのかを語る場所• 「全ての研究と異なる」と書いても位置付けはわからない• 既存の研究群を体系化しないといけない• 梶野的には Related work は最も力を入れて書くところのひとつ16
査読者とのやり取りについて査読結果が返ってきた時によく聞く感想• 査読者ガチャに外れた• 査読者が全く理解していない• 的外れなことを言われて困る• 査読結果が短い…それって査読者だけが悪いのだろうか?自分の論文で直した方がいい箇所もあるのでは?査読者について知っておくべきこと• 査読者はコミュニティから(偏りをもって)ランダムに選ばれた人々• 割り当てられた論文に詳しい人もいれば,ちょっと知っているくらいの人もいる• 数式が好きな人もいれば嫌いな人もいる• 査読に時間を割ける人もいればあまり割けない人もいるこれを踏まえた上で論文を書かなければならない17
査読者とのやり取りについてDo: 査読してくれた人にちゃんと感謝して対応する• 査読者は想定読者なので,その意見は参考にならないわけがない• 時間を使ってくれたのだから感謝する• 査読結果が短いのは,自分の論文に魅力がない and/or タイトル・アブストが内容と対応していないのかもしれない(マッチングが悪い)• 理解してもらえていないのは,書き方が良くないからかもしれないDo: 問題があればSPC/ACへ報告する• 誤読がある場合,誤読させるような書き方をしたことは反省する必要がある• 査読者の内容の理解については訂正しなければならない• 訂正されない場合はSPC/ACに報告して,内容面では問題ないことを伝えた方がいいDon’t: 査読ガチャに外れたと切り捨てる改善の可能性を捨てている18
まとめひとつの研究の考え方を紹介した• 誰かが喜んでくれることをやりたい人向け• 考え方のひとつなので,特に自分に合わない場合はあまり真剣に受け止めすぎないでください…他の研究の考え方もある• 己の興味を追求する人• 自分の価値を高めたい人筋が通っていればなんでもいいと思います日々試行錯誤しましょう• 論文を書く目的もだんだん変わっていくので• 私も試行錯誤中19
パネルディスカッションQ. 良い研究のアイデア/良くない研究のアイデア• 自分が自信を持って面白いと思う研究が良い研究の必要条件• 研究が役立つ相手を具体的にイメージできるような研究が良い• 役立つ相手が自分でもいい• 「自分が面白いと思う」でもいい• なぜ面白いのかを言語化する必要はあるQ. 手法ドリブンな研究テーマ vs. 目的ドリブンな研究テーマ,どちらがいいのか?どう使い分けるか?• 目的ドリブンな方がわかりやすい• 手法ドリブンでも面白さを伝えれば良い• 分野によっては手法ドリブンな研究も普通に認められていたりする• 面白さの言語化が必要• 手法ドリブンでも目的があるはず20
パネルディスカッションQ. スケジュール管理について気をつけていること• 締め切り2週間前に初稿ができるくらいのスケジュール感• 原稿執筆の着手が1ヶ月前とか• スケジュールを実際に書き出していない場合管理をしていないのと変わらない• 適当でもいいからスケジュールを書きだす• 実績に合わせてスケジュールを更新する• 一度にできる範囲の仕事量を把握すべき• 気合いで頑張る💪 💪 💪Q. メンタリング時に気を付けること• 細かいところよりも本質的な指摘を先にする• 寄り添う気持ちを忘れない• はっきりと意図や理由が伝わるように言う• 知ったかぶりをしない• 打ち合わせ前にこれまでの議論を思い出す• 相手のレベルに合わせて課題を分解して取り組みやすくする21