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研究のやり方,論文の書き方

Hiroshi Kajino
November 19, 2022

 研究のやり方,論文の書き方

IBIS2022若手交流企画で用いた資料です.企画担当者の梶野の考える研究のやり方を紹介しています.研究に対する考え方の一例として参考になれば幸いです.

Hiroshi Kajino

November 19, 2022
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Transcript

  1. 自己紹介 梶野 洸(かじの ひろし) • 2016/3 東大情報理工 数理情報 博士課程修了 •

    2016/4- IBM Research – Tokyo 研究の興味: 役に立ちそうで立たなくてでもちょっと役に立つもの • 分子の最適化 • 強化学習 • Spiking neural network 2
  2. 論文は研究を他人に共有する手段 なぜ他人に共有するのか • 自分の凄さを知らしめるため • 自分が面白いと思ったことを共有するため • 他人が困っていることを解決したから 共有された側はどう思うか? •

    🤔🤔🤔 • 面白いから自分も研究してみる / 面白くない • 解決して嬉しい / 的外れ 6 • 適切なプロトコルに従って他人に共有する必要がある • 想定顧客のことを考える必要がある
  3. 良い論文の条件の全てを満たす必要がある 良い論文の条件 • 課題が明確である • 解く価値のある課題を取り扱っている • 課題の原因を明確に特定している • 課題の原因を解決する手法を提案している

    • 課題が解決されたことを論証している • 論理的な構成ができている • 標準的な文章構成に則っている などなど… 条件がひとつでも欠けると良くない • 課題がはっきりしない • 課題の重要性を説明できていない • 原因が深掘りされていない • 原因と手法が対応していない • 数値実験のメッセージが明らかでない • 論文の所々の話がつながっていない • 文章が読みづらい 8
  4. 課題設定 解くと誰かが嬉しくなる課題≠「論文になりそう」な課題 Do: 実際に困っている人の相談にのる • 学会で色々話を聞く • 少し近い分野の人と話す • お客様と話す

    Do: 実際に自分で困ってみる • 論文の数式をいじってみる • 既存手法を実際に動かして遊んでみる 多くの既存手法はそんなにうまく動かない Don’t: 論文を漠然と読んでできそうなことを考える Don’t: 「論文になりそう」なことを考える • 「論文になりそう」 =他の論文の技術的貢献と 同じくらいの貢献がありそう,と考えていると 良い課題に辿り着けないかもしれない • 研究テーマが思いつかない人はこうしているこ とが多い気がする • 少なくとも自分で手を動かして困ってみるべき 9
  5. 関連研究 体系化しつつ,自分の貢献を明確化する Do: 研究テーマを考える段階で関連研究を調べる 困りごとの多くは既存手法で解決する 1. 既存手法が見つかった場合 • 興味があれば触ってみて困りごとを探す •

    興味がなくなったら違うことを考える 2. 近い既存手法が見つからなかった場合 ちょっと違う分野でも探してみる 3. ちょっと近い既存手法は見つかるが, ドンピシャなものがない 次のステップに進む時! Do: 関連研究を体系化する 関連研究 = 研究を売り込むコミュニティ = 想定される査読者 • キーとなる論文を探す • 時系列順,手法ごとに分ける • 自分のやろうとしていることがコミュニティ にどう貢献できるのかを整理する Don’t: 既存研究との違いだけを探す • Related work は既存研究との違いを書くだけ の章ではないと梶野は思う • 対象とする問題を取り組んできた人々から 成るコミュニティへの貢献を述べるべき 10
  6. 解決手法 解ける問題になるように課題を変える or 塩漬けにする Do: 課題が解けない場合は 課題を考え直すのも一案 • 抽象度が高い課題は解けない 例)少データで学習したい

    • 解けそうだけど解けない場合は自分で考えて もいいし誰かに聞いてもいい (解決できることが最も大事) Don’t: 解けなさそうな問題に執着する • 解くべき問題は無限 vs. 時間は有限なので 他の研究テーマをやった方がいい • たまに思い出して触ってみると解ける時が 来るかもしれない 12
  7. 数値実験・証明 解決策が本当に課題を解決できているのかを検証する Do: 証明する場合は適切な仮定・命題を設定する • 現実的ではない仮定を置かないといけない ならば証明しないほうがいいかも? • 既存研究の仮定を思考停止で使わない Do:

    数値実験の設計をちゃんと考える • 実験の目的を考える • 適切な比較手法を考える • 適切な評価指標を考える • 必要十分な実験をちゃんとやる Don’t: 既存研究の数値実験をそのまま持ってくる • 適当に性能比較をしていることもよくある • 研究目的が違うならば検証方法は違うはず Don’t: めんどくさがってサボる • 後々査読対応で困る • 必要なだけの実験をやっていればいいけど… 13
  8. 論文執筆 論理展開を考えつつ,パラグラフ単位でひたすら書く Do: 大まかな論理展開を考える • 徹底的に論理的でなければいけない • 矛盾があってはいけない • 論理的な飛躍があってはいけない

    • 問題がある場合は修正を試みた方が良い Do: パラグラフ単位でひたすら書く • 1パラグラフ1メッセージ(絶対守る)で書き 殴る • 切り貼りして論理展開を組み立てられる Don’t: 書き始めない • 書き始めないと気づかない飛躍もある • 時間は有限なので… Don’t: 人に見せない・相談しない • 論理的な文章を書ける人しか論理的かどうか 判断できない • 初期状態では論理的な文章を書けない人が ほとんど • 論理性を判定できるオラクルを使いましょう 14
  9. 論文執筆 なるべく守るべき基本構造がある パラグラフの基本構造 • Topic sentence: パラグラフの一文まとめ • Supporting details:

    topic sentenceをサポート • Closing sentence: topic sentence を繰り返す • Supporting details を読んだ後にパラグラ フの内容を振り返るのに相応しい一文に 15
  10. 論文執筆 Tips Do: 全体の構成をはやめに整える • 論文を真っ赤に添削≠良い指導者 • はじめは構成を整えるべき • 細かいところを直してもしょうがない

    • 共著者/指導者とまず構成について議論すべき • 論文の初稿を見せると細かいところを 言われるかもしれない • 箇条書きの構成メモで議論するといいかも • 構成が綺麗に作れれば短時間での発表も やりやすくなる Do: とにかく推敲する 初稿ができてから5~10周くらいする Don’t: Related work で研究を列挙するだけ • 自分の研究が既存の研究群にどう位置づけ られるのかを語る場所 • 「全ての研究と異なる」と書いても 位置付けはわからない • 既存の研究群を体系化しないといけない • 梶野的には Related work は最も力を入れて 書くところのひとつ 16
  11. 査読者とのやり取りについて 査読結果が返ってきた時によく聞く感想 • 査読者ガチャに外れた • 査読者が全く理解していない • 的外れなことを言われて困る • 査読結果が短い…

    それって査読者だけが悪いのだろうか? 自分の論文で直した方がいい箇所もあるのでは? 査読者について知っておくべきこと • 査読者はコミュニティから(偏りをもって) ランダムに選ばれた人々 • 割り当てられた論文に詳しい人もいれば, ちょっと知っているくらいの人もいる • 数式が好きな人もいれば嫌いな人もいる • 査読に時間を割ける人もいれば あまり割けない人もいる これを踏まえた上で論文を書かなければならない 17
  12. 査読者とのやり取りについて Do: 査読してくれた人にちゃんと感謝して対応する • 査読者は想定読者なので,その意見は参考に ならないわけがない • 時間を使ってくれたのだから感謝する • 査読結果が短いのは,自分の論文に魅力がな

    い and/or タイトル・アブストが内容と対応 していないのかもしれない(マッチングが悪 い) • 理解してもらえていないのは,書き方が良く ないからかもしれない Do: 問題があればSPC/ACへ報告する • 誤読がある場合,誤読させるような書き方を したことは反省する必要がある • 査読者の内容の理解については訂正しなけれ ばならない • 訂正されない場合はSPC/ACに報告して,内 容面では問題ないことを伝えた方がいい Don’t: 査読ガチャに外れたと切り捨てる 改善の可能性を捨てている 18
  13. まとめ ひとつの研究の考え方を紹介した • 誰かが喜んでくれることをやりたい人向け • 考え方のひとつなので,特に自分に合わない 場合はあまり真剣に受け止めすぎないでくだ さい… 他の研究の考え方もある •

    己の興味を追求する人 • 自分の価値を高めたい人 筋が通っていればなんでもいいと思います 日々試行錯誤しましょう • 論文を書く目的もだんだん変わっていくので • 私も試行錯誤中 19
  14. パネルディスカッション Q. 良い研究のアイデア/良くない研究のアイデア • 自分が自信を持って面白いと思う研究が良い 研究の必要条件 • 研究が役立つ相手を具体的にイメージできる ような研究が良い •

    役立つ相手が自分でもいい • 「自分が面白いと思う」でもいい • なぜ面白いのかを言語化する必要はある Q. 手法ドリブンな研究テーマ vs. 目的ドリブンな研 究テーマ,どちらがいいのか?どう使い分けるか? • 目的ドリブンな方がわかりやすい • 手法ドリブンでも面白さを伝えれば良い • 分野によっては手法ドリブンな研究も普通 に認められていたりする • 面白さの言語化が必要 • 手法ドリブンでも目的があるはず 20
  15. パネルディスカッション Q. スケジュール管理について気をつけていること • 締め切り2週間前に初稿ができるくらいの スケジュール感 • 原稿執筆の着手が1ヶ月前とか • スケジュールを実際に書き出していない場合

    管理をしていないのと変わらない • 適当でもいいからスケジュールを書きだす • 実績に合わせてスケジュールを更新する • 一度にできる範囲の仕事量を把握すべき • 気合いで頑張る💪 💪 💪 Q. メンタリング時に気を付けること • 細かいところよりも本質的な指摘を先にする • 寄り添う気持ちを忘れない • はっきりと意図や理由が伝わるように言う • 知ったかぶりをしない • 打ち合わせ前にこれまでの議論を思い出す • 相手のレベルに合わせて課題を分解して 取り組みやすくする 21