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北海道フェノロジー SappoRoR

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March 01, 2026
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北海道フェノロジー SappoRoR

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March 01, 2026
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  1. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 0 北海道フェノロジー Rで植物の季節を眺めてみる

    SappoRo.R #13 @北海学園大学 20 26年2月28 日 安川武彦 株式会社JDSC * 本発表の内容は発表者が所属する組織の意見を代表するものではありません。
  2. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 1 目次 •

    はじめに • フェノロジーとは • 北海道*フェノロジーのデータをみる • 分析結果 • 考察とまとめ * 北海道と言っているが、実際の分析は札幌のデータです
  3. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 3 東京と札幌の季節感の違いは暑い・寒いという気温によるものなのか? では、ヒトではなく植物は季節をどう感じているのだろうか?

    はじめに〜まずは基礎的な情報から 植物のイベントとカレンダーに対応図 (Phenology Wheel) `geom_col()`で棒グラフを作って、`coord_polar()`で円グラフに変換 東京 札幌 年平均気温:9.2℃ 積雪日数:142日 年平均気温:15.8℃
  4. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 4 Phenology 比較:棒グラフにすると札幌の春の短さがよくわかる

    参考 * 円グラフはあまり使わない方がよいので、棒グラフで表示。こちらのほうがみやすい 札幌 東京
  5. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 6 フェノロジーとは、植物や動物で季節的な事象が繰り返し発生するタイミングの研究である フェノロジー

    * 本報告はほとんど趣味の範疇ではあるが、フェノロジーの変化を見える形に可視化することも意義があるはず、とのモチベーションで分析している。 フェノロジー(Phenology): 生物が示す季節的な現象(現象=“pheno”)を研究する学問(”-ology”)。 植物の芽吹きや開花、鳥の輪たち、昆虫羽化など、毎年繰り返される生命のサイ クルとそのタイミング(季節活動のタイミング)を扱う フェノロジーは環境問題とも密接に関係している 今、なにが起きている? • 世界中で、急速に変化する気候条件に生物が応答してフェノロジーをシフトさせて いる • 相互に作用し合う種のライフサイクル・イベントのタイミングがずれてしまう現象が起き ている(Phenological Mismatches) なにが問題? • フェノロジーの変化は、一見無害のように見えるが、多くの明確で具体的な方法で 私たちの生活に影響を与えることになる Theresa M. C. (2025) Phenology, The MIT Press.
  6. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 7 フェノロジーという用語は、1849年にCharles Morrenによって提唱されたが、その実践は

    古い。現在は気候変動の重要指標として位置付けられている フェノロジー • イギリスのロバート・マーシャムが「春の兆候 (Indications of Spring)」として、27種類の動植物の体系的な観測記録を開 始。これが近代フェノロジーの始まりとされる。 * IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)は、気候変動に関する政府間パネルのこと。気候変動に関する科学的知見を整理し、各国政府に提供することを目的と する。世界中の研究論文をレビューし、評価報告書(Assessment Report)を作成している。 紀元前 農業歴が存 在したとされ る 705年 京都でサクラ の開花記録 が開始 1736年 Marsham 家による長期 観測記録が 開始 1750-53 年 リンネが最初 の組織的な フェノロジー観 測ネットワーク を構築 2004年 欧州でフェノ ロジーデータ の標準化とプ ラットフォーム 化が開始 現在 気候変動に関す る政府間パネル (IPCC *)で気 候変動を示す重 要な指標として活 用 1849年 Morrenが 講演ではじ めて Phenolog yという用語 を提唱 18世紀 19世紀 20世紀 21世紀 1990年代 気候変動の 影響指標と してフェノロ ジーの重要 性が再認識
  7. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 9 フェノロジーでは、生物のイベントのタイミングが、どう違うのか、さらにそれらがどのように決定 されるかをみる。対象は主にウメ、サクラ。

    分析対象 植物が感じる季節(いつ花を咲かせ、いつ葉を色づかせるのか)をみることで、それがどう変わってきているのか、自然界のスケ ジュールがどう違っているのかを推測することができる ウメ サクラ イチョウ カエデ 本州では冬の終わりから春 の訪れを告げる。北海道で は桜とほぼ同時期か、少しだ け早く咲く。 北海道の桜は4月下旬に道 南から咲き始め、5月中旬に かけて道東・道北へと前線が 北上する。 北海道のイチョウの黄葉は、 10月下旬から11月上旬に 見頃を迎える 北海道のカエデの紅葉は、9 月中旬に大雪山系から始ま り、10月下旬にかけて平野 部へと広がる 今回の対象
  8. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 10 フェノロジーの定量分析へ入門するために、まずは記述的な分析からはじめる はじめに

    一般に、フェノロジー定量分析のテーマは主に3つに分類される。今回はオープンに取得できるデータを活用し 記述的な分析を実施した 変化の検出と記述 1 要因のメカニズム解明 2 モデリングと将来予想 3 生物季節のパターンが「いつ」「どこで」 「どのように」変化しているかを客観的な データで示す。 観測されたフェノロジー変化が「なぜ」起 きているのか、その要因を特定する。 過去のデータとメカニズムの理解にもと づき、将来の気候変動下でフェノロジー がどうなるかを予測する。 内容 • フェノロジー指標の定義 • 時系列データの整理 • 記述統計・可視化 • 変化の検定 • 候補要因の設定 • 要因とフェノロジーの関係分析 • 実験・準実験 • 種間・地域間比較 • フェノロジーモデルの構築 • 気候シナリオの入力 • 不確実性評価 • 影響評価との接続 現状把握 • 桜の開花日は過去50年で平均◦日早まった • 北日本ほど変化量が大きい • 時系列グラフ・可視化 因果・要因仮説 • 開花時期は春先の積算温度が主要因 • 気温上昇だけではメカニズムの把握に限界がある • 因果構造の仮説 予測・制御 • 2050年には平均でさらに◦日早まる • 現在の分布域では発芽が成立しない可能性 • シナリオ別将来予測 得られる情報 今 回 の 対 象
  9. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 11 フェノロジーイベントのタイミングではなく、イベント進行の期間や速度に着目して北海道(札 幌)フェノロジーの実態がどうなっているか、地上観測と衛星データを組み合わせて調査

    仮説設定 目的 仮説 1. 札幌(積雪地域)と東京(無積雪地域)のイベント間隔 を比較してフェノロジー圧縮を定量化する H1 札幌は東京と比較して、連続フェノロジーイベント間の 間隔が短い(春季・秋季) 2. 衛星NDVIフェノロジー指標を用いて地上ベースのパ ターンを検証する H2 衛星NDVIはより急速な季節遷移を示す 3. 地上観測と衛星由来フェノロジー間の時間的整合性 を評価する H3 地上観測イベントと衛星由来フェノロジーはより密接に 結合する(札幌でラグが短い) 4. 開花に影響する気候窓を客観的に特定する H4 climwinによる気候感受性窓は札幌で短く、高感度 環境キューを示す 5. 春の期間の非線形トレンドと季節構造を解析する H5 GAMMは札幌の年次安定性(ランダム効果小)を示す が、非線形効果はみられない 6. 上記を踏まえて、短い生育期間への適応戦略の文脈 で考察する H6 これらのパターンは時間的制約への適応戦略を反映 する ◦:支持、△:一部支持、×:棄却
  10. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 13 地上観測、衛星観測、気象要因の3種類のデータを取得 データ

    開花のデータのみcsvをダウンロードして加工、衛星観測と気象要因はRを通じて取得 ✓ 地上観測:うめの開花→桜の開花→桜の満開の日付 ✓ 衛星観測:NDVI(正規化植生指標) ✓ 気候要因:気象データ(気温) 気象庁からcsvをダウンロード MODISTools jmastats
  11. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 14 気象庁のサイトから各地の気象データおよび主要な生物季節観測の情報をcsvで取得でき る。csvは分析データセットに加工が必要。

    データ|開花情報 生物季節観測の目的 • 季節の遅れ・進みの把握: サクラの開花が平年より早いか 遅いか、といった季節の進行状況を把握 • 気候変動の監視: 長期的な観測データを蓄積することで、 地球温暖化などの気候変動が生物に与える影響を監視 する重要な指標となる • 総合的な気象状況の把握: 気温だけでなく、生物の応 答を含めた総合的な観点から季節の推移を捉える 2021年に気象庁は観測対象を大幅に見直している • それまで34種目あった観測対象を、気候変動の監視に 適したアジサイ、イチョウ、ウメ、カエデ、サクラ、ススキの6種 目9現象に絞り込んでいる。 • 動物の観測は全て廃止されている 気象庁 生物季節観測の情報 https://www.data.jma.go.jp/sakura/data/index.html
  12. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 15 サクラの開花日と満開日を棒グラフで、開花日と満開日の中央の点をLOESSでスムージン グして表示。年々、開花日が早まっている様子が見える

    データ|地上観測(開花日) • 東京、札幌のいずれも開花日、満開日は 早まる傾向がみえる • `geom_linerange()`で期間を表す線 を表示 いずれも近年早期化傾向にある
  13. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 17 NDVI(Normalized Difference

    Vegetation Index)は衛星などの画像データから 算出される データ|衛星観測 • 札幌市旭山記念公園と東京都代々木公園のNDVIを取得 • 札幌市旭山記念公園は、1970年に札幌市創建100周年を記念して開園した公園。標高137.5mに位置する展望台から は、石狩平野や日本海、札幌市内を一望できる(思い出の場所、よいところです!) https://www.sapporo-park.or.jp/asahiyama/?page_id=43 NDVI(正規化植生指標): 植物による光の反射の特徴を生かし衛星データを使って簡易な計 算式で植生の状況を把握することを目的として考案された指標で、 植物の量や活力を表す。 計算は可視域の赤色光と近赤外域の反射率の差を正規化し、 値は-1から+1の範囲で表される。健康な植生が多いほど値は大 きく(+1に近く)、雲や水域、土壌のみでは低い値(0に近いか 負の値)になる。 札幌市旭山記念公園
  14. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 18 NDVIはNASAのサーバから計算された値と取得時の品質情報を取得できる。一方、広範 囲を定期的に観測できる一方で、大気や地表面の状態によって品質が大きく左右される

    データ|衛星観測 • MODIS (Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer) は、NASAが運用する地球観測衛星搭載の中解像度撮像分光放射計 • MODISのNDVIデータは整数値で保存されており、10000倍されている • MODISプロダクトには雲やエアロゾル(大気中の微粒子)を除去するため の品質フラグが含まれている NASA MODIS(Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer) Data Products https://modis.gsfc.nasa.gov/data/dataprod/ バンド 波長範囲 (nm) 用途 空間解像度 バンド1 620-670 赤色(Red) 250 m バンド2 841-876 近赤外(NIR) 250 m • NDVIに使用されるバンド • NDVI計算式 可視域の赤色光と近赤外域の反射率の差から計算
  15. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 19 `MODISTools` は、Oak

    Ridge National Laboratory (ORNL) が提 供するWeb APIへのRインターフェース データ|衛星観測 • 緯度経度を指定してダウンロード(`mt_subset`)、雪や雲の影響を評価する品質情報も同時に取得して前処理に利用 MODISTools https://cran.r-project.org/web/packages/MODISTools/vignettes/modistools-vignette.html パラメータ 内容 product MODISプロダクト名(例: MOD13Q1) lat 緯度(-90 〜 90) lon 経度(-180 〜 180) band バンド名(NULLなら全バンド取得) start 開始日(YYYY-MM-DD形式) end 終了日(YYYY-MM-DD形式) site_name 地点識別名 internal TRUE(R環境)/ FALSE(ファイル保存) out_dir 保存先ディレクトリ(internal=FALSEの場合) km_lr 左右方向の範囲(km) km_ab 上下方向の範囲(km) progress 進捗バー表示(TRUE/FALSE) 0:Good data 1:Marginal data 2:Snow/Ice 3:Cloudy
  16. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 20 積雪地域である札幌は、冬と夏の違いが明確に現れている。札幌は年間での数値の幅が大 きく、東京は年中一定の緑化がみられる

    データ|衛星観測 都市部では土地被覆が複雑でノイズが多い。今回の解像度250mでは不均質な状況を大きく反映している可能性がある。 札幌は冬のNDVIがほぼゼロになり、夏に一気に上昇するという明確なコン トラストを示している
  17. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 22 気象庁からの気象データの取得は`jmastats package`が便利

    データ|気候要因 • 取得したい気象観測地点(`block_no`)と取得したい日付、形式を指定すればデータフレームとして保存 • 得られるデータフレームは階層構造を持っているので、ほしい情報を抽出する必要あり(著者の解説*を参照) 気象庁 過去の気象データ検索 https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php * 瓜生真也, 2025, jmastatsによる気象庁のデータハンドリング、計算機統計学, 第38巻第1号, 25-33. 気象データの取得には block_noが必要。緯度経度 から近くの観測地点を検索 * 過去のデータを順次取得するには、パッケージ著者の解説を参照 jmastatsパッケージによる気象庁の気象データの取得〜過去100年間の気温のヒート マップを作成するまで〜 https://uribo.quarto.pub/jmastats_heatmap/
  18. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 23 月次平均気温の推移STL(Seasonal-Trend decomposition

    using LOESS)で分 解し長期のトレンドと周期性を把握 データ|気候要因 • 季節性が年々少しずつ変化することを許容し、かつ 外れ値の影響を受けにくい設定として計算 • 成分を抜き出しデータフレームを作成、 `ggplot`で プロットし、`patchwork package`で1枚にまとめ る 2010年代後半か ら上昇傾向が見え る 季節による変動幅 は北海道が大きい 完全にランダム化さ れていなさそう
  19. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 25 東京で感じる季節の違和感。その正体を、フェノロジー指標を使ってみていく 分析内容

    いつ咲いたか、ではなく、イベントの間隔(速度)に着目し以下を札幌と東京で比較 ✓ 地上観測:うめの開花→桜の開花→桜の満開、イベントの間 隔を比較 ✓ 衛星観測:NDVIから緑化速度と開始日(SOS)を比較 ✓ 気候要因:開花トリガーとなる気候窓を特定し、比較 (climwin) うめ さくら SOS 緑化速度 開花 気候窓
  20. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 26 北海道は、春の進行期間であるうめ開花〜桜満開までの期間が短く、ほぼ同時に咲く現象 を可視化できた

    分析結果|地上観測 • 3段階の開花イベントの期間を比較 - 1968年から2025年までで算出 • 北海道ではうめとさくらの開花が逆転する年も観測され、ほ ぼ同時とみれ、一気に春がくる現象を表している • 秋も春ほど極端ではないが、進行期間は短い様子がみえる 場所 指標 n Mean ± SD (days) Q1–Q3 (days) 札幌 春: ウメ-サクラ 58 0.8 ± 2.6 0.0–2.0 札幌 春: 開花-満開 58 4.1 ± 1.6 3.0–5.0 札幌 秋: 紅葉-落葉 48 9.5 ± 6.1 5.8–11.0 東京 春: ウメ-サクラ 58 58.7 ± 10.8 53.0–65.0 東京 春: 開花-満開 58 7.7 ± 2.4 6.0–9.0 東京 秋: 紅葉-落葉 44 13.4 ± 6.3 8.8–17.0 カエデ 春 春 秋
  21. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 27 フェノロジー指標の系年変化から、札幌と東京でトレンドとばらつきの2つの側面で傾向が異 なる

    分析結果|地上観測 主な発見事項 • 春季 - サクラ開花日はいずれも早まる傾向 だが、札幌の方が急 - ウメ-サクラの間隔は、札幌の方がば らつきは小さい • 秋季 - カエデの紅葉日は、札幌で遅くなる 傾向が強い • 生育期間 - 札幌で長期化傾向にある 札幌は生育期間が長期化 札幌は紅葉日が遅れている いずれも開花日は早まっている 春 春 秋 春〜秋 ここはあとでGAMMでみてみる
  22. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 28 東京で感じる季節の違和感。その正体を、フェノロジー指標を使ってみていく 分析内容

    いつ咲いたか、ではなく、イベントの間隔(速度)に着目し以下を札幌と東京で比較 ✓ 地上観測:うめの開花→桜の開花→桜の満開、イベントの間 隔を比較 ✓ 衛星観測:NDVIから緑化速度と開始日(SOS)を比較 ✓ 気候要因:開花トリガーとなる気候窓を特定し、比較 (climwin) うめ さくら SOS 緑化速度 開花 気候窓
  23. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 29 NDVIから、札幌は生育開始が遅く、生育終了が早く、生育期間が短いことがわかる。札幌 のMAUはSOS後7日でピークになり急速に生育している

    分析結果|衛星観測 • SOS(Start of Season):生育期の開始日 - 春季における植生の緑化が開始される時期を示す。 NDVI時系列の微分(変化率)を計算し、春季(DOY 80-180)における最大上昇率を示す日として推定 • EOS(End of Season):生育期の終了日 - 秋季における植生の活動が終了し、落葉や枯死が進行す る時期を示す。NDVI時系列の微分を計算し、秋季 (DOY 240-330)における最大下降率を示す日として 推定 • POP(Peak of Phenology):生育期のピーク日 • LOS(Length of Season):生育期間の長さ - SOSからEOSまでの期間を示し、植生が活発に成長・活 動する期間の長さで、LOS = EOS – SOS で算出 • MGD(Maximum Greening Rate Date):NDVI変 化率が最大に達する日(差分をとって一番大きい日) • MSD(Maximum Senescence Rate Date):NDVI 変化率が最も減少する日(差分をとってマイナスが一番大きい 日) 指標 札幌 東京 SOS 平均 128.0 101.0 始まり 標準偏差 32.8 15.0 EOS 平均 323.0 346.0 終わり 標準偏差 16.9 15.5 LOS 平均 195.0 245.0 生育期間 標準偏差 22.0 38.9 POP 平均 210.3 221.3 ピーク 標準偏差 22.6 52.7 MGD 平均 135.4 145.0 標準偏差 22.0 45.3 MSD 平均 306.9 330.8 標準偏差 20.3 22.2 • 上記は、2000年から2024年までのデータで算出 • 単位は1月1日を1とした積算日数(DOY)である。なお、DOY120で4月末、DOY320で 11/15前後 • フェノロジー指標はNDVIの時系列データから関数を作って算出(MGDとMSDは著者が定義)
  24. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 30 NDVIの推移から、札幌は東京に比べて急激に緑化し、東京は季節変化があいまい 分析結果|衛星観測

    急激に緑化 NDVIを2000年代、2010年代、2020年代 に分けてプロット • 札幌は、急激に緑化し、急激に減少する傾 向がみられ、どの年代でも同じ傾向を示す • 東京は、年をとおして緩やかな変動で推移 かつ年代ごとのばらつきも大きい
  25. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 31 フェノロジー指標のみから、北海道の春から緑化のピークまでの期間が短いことがわかる 分析結果|衛星観測

    フェノロジー指標からわかること - 春のフェノロジー: 東京は早いが年変動が2〜3倍大きく予測困難 - 秋のフェノロジー: 両地点とも安定的(気候変動の影響少ない) - 季節性の非対称性: 春は不安定、秋は安定という非対称パターン - サンプルサイズ: 東京(n=13)は札幌(n=25)の半分(ここは課題) フェーズ 札幌 東京 緑化期 (SOS→MGD) 7日(急速) 44日(緩慢) 成長期 (MGD→POP) 75日 76日(同程度) 成熟期 (POP→MSD) 96日 110日 衰退期 (MSD→EOS) 16日(急速) 15日(急速) 札幌と東京の平均的な季節推移 札 幌 東 京 SOS 5/8 4/11 MGD 5/15 5/25 POP 7/29 8/9 MSD 11/3 11/27 EOS 11/19 12/12 7日 75日 96日 16日 44日 76日 110日 15日 生育期間
  26. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 32 北海道は、個体レベルの開花と景観レベルの緑化との同調レベルが高い(緑化開始と開花 の期間が短い)

    分析結果|地上観測と衛星観測 • 開花とSOSの比較(DOY)を比較すると、緑化開始(SOS)とさくら開花のラグは`札幌 < 東京`となり札幌は短い 地域 件数 SOS平均 サクラ開花 平均ラグ 標準偏差 札幌 25 128 118 -9.9 13.2 東京 13 101 81.1 -19.6 34.5 衛星景観緑化開始 (SOS) 東京 札幌 地上サクラ開花 平均9.9日 平均19.6日 • 上記は、2000年から2024年までのデータで算出(NDVI のデータ範囲と合わせている) • 件数が異なるのはSOSが抽出でききた年のみサンプルに加 えているため • 単位は1月1日を1とした積算日数(DOY)である サクラが開花すると一 気に緑化が進む
  27. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 33 東京で感じる季節の違和感。その正体を、フェノロジー指標を使ってみていく 分析内容

    いつ咲いたか、ではなく、イベントの間隔(速度)に着目し以下を札幌と東京で比較 ✓ 地上観測:うめの開花→桜の開花→桜の満開、イベントの間 隔を比較 ✓ 衛星観測:NDVIから緑化速度と開始日(SOS)を比較 ✓ 気候要因:開花トリガーとなる気候窓を特定し、比較 (climwin) うめ さくら SOS 緑化速度 開花 気候窓
  28. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 34 さくらの開花日と気象要因との関係みるために、climwin packageを使って最適な気候窓

    をデータにもとづいて決定する 分析|気候要因 • `climwin`パッケージでは、モデル選択の考え方を利用して可能なすべての期間の組み合わせを検討(多重検定となってい る可能性があるため、パッケージではランダマイゼーションテストが実装されている。`randwin()`でできるが今回は実施してい ないため、検出窓が偶然かである可能性を排除できない。) • climwin : https://cran.r-project.org/web/packages/climwin/vignettes/climwin.html • van de Pol, M., et al. (2016). Identifying the best climatic predictors in ecology and evolution. Methods in Ecology and Evolution, 7(10), 1246-1257. • Bailey LD, van de Pol M (2016) climwin: An R Toolbox for Climate Window Analysis. PLOS ONE 11(12): e0167980. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0167980 候補ウィンドウの生成 1 モデル構築と評価 2 最適ウィンドウの特定 3 検証 4 応答(例:開花日)に対して、考えうる全ての開始日と終了日の組み合わせによる、多数の「候 補ウィンドウ」を生成 各候補ウィンドウについてモデルを構築し、モデル選択基準(AICc)を設定しモデルの当てはまりを 評価。モデルは、lm, glm, lmer, lmeなどが利用できる 最もあてはまりのよいモデルに対応する期間を最適な気候窓とする(ΔAICc:各ウィンドウのAICcと ヌルモデル(気象データを含まないモデル)のAICcの差) よりロバストな結果が必要な場合には、最適な気候窓であるかをランダム化検定(`randwin`) により検証する(今回はしていない)
  29. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 35 シンプルな線形回帰モデルで最適な気候窓がどのくらいであるかを分析することで、開花に対 する感度をみた

    分析結果|気候要因 • 線形回帰モデルを窓をスライドして繰り返し実施し、ベースラインとの比較をして、最小のAICを示す窓を探索している 説明変数をリスト形式で指定(複数指定も可) `cdate`:気候データの日付 `bdata`:生物学的イベント(開花日)の日付 ベースラインモデルとして、切片のみのモデルを指定(気候変数 を含まないモデルと比較) `range`:気候窓のレンジを指定(開花前15日〜15日) `stat`:気候窓内の平均値を計算 `type`:関数形を指定(他に、quad, logなどがある) `type`:絶対日付を指定(1/1 を 1とする) `refday`開花日からの相対的な日数計算の起点(通常は 開花日) `cmissing`:欠測のある年を除外 `cinterval`:日単位で窓をスライド
  30. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 36 気候窓の分析の結果、東京は短期、北海道は長期の気温変化を積算して開花を決定する。 回帰係数の絶対値は札幌の方が大きく、気温に対して感応度が高い

    分析結果|気候要因 札幌の方が気候窓が長い理由として、偽の春のリスクを回避しているからが考えられる。これを検証するにはさらなる分析が必要 最適な気候窓の結果 ベストモデルの結果(札幌) 55日前〜17日前(-38日) ベストモデルの結果(東京) 32日前〜15日前(-17日) 雪どけ?
  31. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 37 東京で感じる季節の違和感。その正体を、フェノロジー指標を使ってみていく 分析内容

    いつ咲いたか、ではなく、イベントの間隔(速度)に着目し以下を札幌と東京で比較 ✓ 地上観測:うめの開花→桜の開花→桜の満開、イベントの間 隔を比較 ✓ 衛星観測:NDVIから緑化速度と開始日(SOS)を比較 ✓ 気候要因:開花トリガーとなる気候窓を特定し、比較 (climwin) うめ さくら SOS 緑化速度 開花 気候窓
  32. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 38 フェノロジー指標の系年変化から、札幌と東京でトレンドとばらつきの2つの側面で傾向が異 なる

    分析結果|地上観測 主な発見事項 • 春季 - サクラ開花日はいずれも早まる傾向 だが、札幌の方が急 - ウメ-サクラの間隔は、札幌の方がば らつきは小さい • 秋季 - カエデの紅葉日は、札幌で遅くなる 傾向が強い • 生育期間 - 札幌で長期化傾向にある 札幌は生育期間が長期化 札幌は紅葉日が遅れている いずれも開花日は早まっている 春 春 秋 春〜秋 ここをGAMMでみてみる
  33. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 40 年と「春の期間の比較」をGAMMにより実施したところ、線形トレンドが抽出され、非線形効 果および経年変化は認められなかった

    分析結果|GAMM ウメの開花からサクラ満開までの期間(間隔)は、経年で大きなトレンド変化はなく、札幌は東京よりもばらつきが小さい いずれも開始日が早期化しても、春の期間は安定している
  34. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 42 北海道フェノロジーの特徴から、短い生育期間へ適応した植物の戦略がみえてくる 考察|北海道フェノロジーの特徴

    • 短い生育期間への選択圧により形成された戦略が、メリハリのある季節感という形で現れているのかも 春の進行が短い 地上と衛星のラグが短い 早い緑化速度 環境応答への感度が高い 季節のリズム • 送粉者や資源が利用可能な短い期間に、個体間・種間で一 斉に開花・展葉することで、繁殖成功と被捕食リスク低減 • 長期の気温情報を統合して晩霜リスクを回避する。休眠打破 後の準備状態から一気に成長を開始 • 短い生育期間で炭素を最大限獲得するため、単位時間あたり の光合成速度が高くなる • 霜によるダメージを避けるため、早めに養分を回収し、制御され た落葉に移行。秋の同調性も高い • 短い期間で生活環を完結させるため、一年生植物より多年生 植物が優占(らしい) 同調 高感度 効率性
  35. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 43 積雪環境に適応したこの洗練された戦略は、気候変動によって大きな影響を受けるリスクを 懸念

    考察|気候変動のリスク 北海道の植物は、短い生育期間を最大限に活かすために、フェノロジーを圧縮させる戦略をとっている。現在進行し ている気候変動はこのバランスに影響を与えると考えられる * フェノロジカルミスマッチ(phenological mismatch)とは、生物の季節的なライフサイクル(フェノロジー:開花、繁殖、渡り、羽化など)のタイミングと、それに依存する資源や環境条件の タイミングがずれてしまう現象。フェノロジカルミスマッチは、気候変動の見えにくい影響、生物多様性減少の要因、生態系サービスの低下につながるという理由で重要視されている。 ► フェノロジカル・ミスマッチ*:植物と送粉者の活動タイミングのズレ ► 偽の春に過剰反応し、霜害を受けるリスク ► 共通のシグナルが消え、動植物の同調行動が崩壊するリスク 気候変動にともなうリスク
  36. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 44 北海道らしい話題でデータ分析してみた結果を紹介。結果として、メリハリのある北海道の季 節感の正体がわかった

    おわりに フェノロジーの観点をいれると主観的な季節感を定量化ができそう(季節のこと は植物に聞けばいい) 北海道は一気に春が来る、季節のメリハリが明確という感覚の正体がわかった 短い春に合わせた植物の同調行動はみごと! データの取得から分析までRが活躍 MODISTools, jmastas, climwin, mgcv
  37. Confidential © Takehiko Yasukawa All rights reserved. 45 参考文献:もっとフェノロジーをください •

    永濱 藍(2024)植物の季節を科学する: 魅惑のフェノロジー入門, 共立出版. - フェノロジーに着目した(おそらく初めての日本語の)本。フェノロジー研究や自身の研究概要だけでなく、 研究者としての葛藤や熱い想いを綴っている。フィールドワークでの良いデータを取得することの大変さがよく わかる。 • Theresa M. C., 2025, Phenology, The MIT Press Essential Knowledge series. - USA National Phenology Networkのディレクターである著者が、一般の読者にも分かりやすくフェノロ ジーの基本を解説した入門書。樹木の芽吹きや開花、鳥の渡りといった身近な現象を例に、フェノロジーと は何か、そしてそれが気候変動によってどのように変化しているかを説明している。 市民科学として、一般 の人がデータ収集に参加することの意義や、それがメンタルヘルスにも良い影響を与えることにも触れている • Mark D Schwartz(Editor), 2025, Phenology: An Integrative Environmental Science Third Edition, Springer Nature. - フェノロジー分野における包括的な教科書。データ収集の方法、世界各地域(北米、ヨーロッパ、アジア、 アフリカなど)のフェノロジー研究、特定の生物気候帯(地中海、熱帯乾燥気候、高緯度地域など)に おける特徴、そしてモデリング技術まで、広範なトピックを網羅。 • Irene L Hudson, Marie R Keatley(Editor), 2014, Phenological Research: Methods for Environmental and Climate Change Analysis, Springer Nature - フェノロジー研究の「方法論」に焦点を当てた専門書。データ収集のグローバルな枠組み、統計的な解析 手法、時系列データの扱い方、大規模マッピング技術など、実践的な研究デザインや分析手法について 詳しく解説している。