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MyData Japan Conference 2025 - FairBuild

Avatar for Takahito Sakamoto Takahito Sakamoto
July 17, 2025
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MyData Japan Conference 2025 - FairBuild

MyData Japan Conference 2025
Usable Privacy ~形だけの“同意”を超えて信頼されるデータ利活用へ~
で発表した資料です。
https://mydatajapan.org/events/mydata-japan-2025/

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Takahito Sakamoto

July 17, 2025
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Transcript

  1. 自己紹介 2 2014〜 オンラインプライバシーの研究 Cookieを利用したトラッキングの調査 オプトアウト時の挙動調査 2009/04〜 情報セキュリティの研究 クライアントサイドセキュリティ 民間の研究所

    2015 個人情報保護法改正 GDPR施行 2021〜 ダークパターンの調査 同意画面のダークパターン調査 デジタルウェルビーイングに関する 勉強会開催 2020〜 プロダクトマネジメント 同意管理ツールの提供 (株)フェアビルド / 静岡大学 2024〜 起業・独立 エシカルデザイン領域に 注力し活動 (株)DataSign 某庁 2009 2018 2020 2021 2014 2024
  2. オンライントラッキング(前提知識) 5 今のウェブサービスは多くの異なる事業者からデータが配信されてページを表示 ウェブページ (主体) news.example.com × https://news.example.com コンテンツ配信(CDN) Web

    API 広告事業者 ニュース ------------- ------------- ------------- ------------- ------------- ------------------------------ ---- ------------------------------ ---- ------------------------------ ---- ------------------------------ ---- ------------------------------ ---- ------------------------------ ---- ------------------------------ ---- 広告枠 広告枠 つぶやき 画像 つぶやき ------------------- - ------------------- ------------------- - ------------------- ファースト パーティ サード パーティ 広告① 広告②
  3. オンライントラッキング(Cookie ID) 6 Cookieで識別して閲覧履歴を収集、さらに事業者間で協力してCookie IDを名寄せ × https://news.example.com ニュース -- ---

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  4. CDP (Customer Data Platform) 7 顧客データのサイロ化をなくし、顧客の解像度を高めるソリューション First party data Output

    ウェブ閲覧 アプリログ 店舗情報 SNSデータ 位置情報 CDP 広告キャンペーン パーソナライズ Third party data データ分析
  5. プライバシーの侵害モデル 8 ※ デジタルアイデンティティー(崎村夏彦 2021年)図表7-2 をもとに作成 実体 (エンティティー) 自観 コンテキスト:

    親しい友人との集まり コンテキスト: 社会人2年目でまじめに仕事 自分が狙った自己像 (アイデンティティー) 他人から見た自己像 (アイデンティティー) 友人たち 上司 自分が狙った自己像 (アイデンティティー) 他人から見た自己像 (アイデンティティー) 自観 他観 他観 ズレ ズレ プライバシー 侵害 プライバシー 侵害 関係性 関係性 山ちゃん 明るい 彼女ほしい 山ちゃん 山田さん 明るい 明るい 彼女ほしい 山田さん 明るい まじめ 彼女ほしい
  6. プライバシーの侵害モデルとマーケティング 9 実体 (エンティティー) 自観 コンテキスト: インターネットで仕事内容に関する調べ物 自分が狙った自己像 (アイデンティティー) 他観

    ズレ プライバシー 侵害 関係性 山田さん 明るい まじめ 他人から見た(統合され解像度を上げられた)自己像 (アイデンティティー) 明るい 30代 収入 (中) アニメ好き デリバリ インドア 広告代理店 野球 ラーメン アニメグッズ 30% OFF! 広告 コンテキストから大きくはみ出した他観的なアイデ ンティティーの属性情報をもとに広告クリエイティ ブが表示されるため、自観アイデンティティーとの ズレが大きい。 そもそも関係性が薄い(というか全くない)事業者 がコンテキストを逸脱してクリエイティブを出現さ せるため、プライバシー侵害が起きやすい構造。
  7. GDPR (欧州一般データ保護規則 /2018年施行) の影響 (1) 「個人データ」とは、識別された自然人又は識別可能な自然人(「データ主体」)に関する情報を意味する。識別可 能な自然人とは、特に、氏名、識別番号、位置データ、オンライン識別子のような識別子を参照することによって、又は、 当該自然人の身体的、生理的、遺伝的、精神的、経済的、文化的又は社会的な同一性を示す一つ又は複数の要素を参照す ることによって、直接的又は間接的に、識別されうる者をいう。 11

    第4条 定義 オンライン識別子 (Cookie含む) も規制の対象となったため、ウェブサイトやアプリにおいて クッキー同意(クッキーバナー、同意管理ツール)と呼ばれるポップアップが多くのサイトで 表示されるようになった。 本サイトでは、広告などのためにCookieを利用してパーソナルデータを収集しています。 × 同意する 同意しない 設定 GDPR仮日本語訳 (https://www.ppc.go.jp/files/pdf/gdpr-provisions-ja.pdf) より抜粋
  8. GDPR 第4条 定義 (11) データ主体の「同意」とは、自由に与えられ、特定され、事前に説明を受けた上での、不明瞭ではない、 データ主体の意思の表示を意味し、それによって、データ主体が、その陳述又は明確な積極的行為により、自 身に関連する個人データの取扱いの同意を表明するものを意味する。 14 GDPRにおける同意の定義 ①

    ② ③ ④ ① 自由に与えられているか (Free / freely given) ② (目的が)特定されているか (Specific) ③ 事前に説明を与えているか (Informed) ④ 不明瞭でない意思表示によるものか (Unambiguous indication of wishes) GDPR仮日本語訳 (https://www.ppc.go.jp/files/pdf/gdpr-provisions-ja.pdf) より抜粋
  9. ベルギーのメディア会社RTL Belgiumの クッキー同意におけるダークパターン是正命令 (2024年10月) 15 ダークパターン関連の制裁 GDPR第4条(11)の同意要件に適合しない 命令の概要 • 全ての選択を同じ階層レベルで表示せよ

    • 誤解を招かない色とコントラストにせよ 罰金の概要 • 45日以内の改善期間 • 1日あたり4万ユーロの罰金を累積 • 最大約180万ユーロ以上となる https://www.dataprotectionauthority.be/publications/beslissi ng-ten-gronde-nr.-131-2024.pdf
  10. 16 ダークパターン規制 (欧米) 法令・ガイドライン名 規制内容 GDPR(EU一般データ保護規則) 同意取得やプライバシー設定において、事前チェック済みの同意、拒否ボタンの非表 示などユーザーを誤導する設計は「自由で明示的な同意」(第4条11・第7条)や「公 正性・透明性」(第5条)に違反。最大売上高の4%の制裁金。各国DPAが執行。 DSA(デジタルサービス法)

    UIでユーザーの意思決定を歪める設計(例:解約手続き妨害や一方的に目立たせた選 択肢)は明示的に禁止(第25条)。違反時は最大売上高の6%の罰金。執行は欧州委員 会または各国当局。 EDPBガイドライン 3/2022 ダークパターンを6類型(過剰提示・誘導・感情操作・妨害・混乱・情報隠し)に分類。 GDPRの「公正性・透明性」や「同意の自由性」に基づき違法性を解説。法的拘束力な しだが実務で広く参照される。 UCPD(不公正取引方法指令) 虚偽の緊急性(例:カウントダウン)、解約妨害、隠れコスト表示などは「誤認的・ 攻撃的商慣行」として違法(第6〜9条)。売上高の最大4%の制裁可。消費者保護当局 が執行。 FTC(米連邦取引委員会) サブスク解約困難化、隠れ課金、誘導UIなどは「不公正・欺瞞的取引」(FTC法第5 条)として規制。報告書で4分類提示。違反時は返金命令や巨額制裁(例:Epic社に約 3億ドル)。 ※ ChatGPT-o3 Deep Research まとめ (2025/07/13)
  11. システム1 ✓ 無意識的、直感的に速い判断 ✓ 知的努力はほぼ不要 ✓ 容易に認知バイアスにかかる ✓ スムーズに進むと心地よさを感じる ✓

    頻度が多いと親しみを感じる 19 行動経済学における二重過程理論 (Dual process theory) システム2 ✓ 意識的、論理的に遅い判断 ✓ 知的努力が必要 ✓ 懐疑的に比較検討する ✓ 負荷が多すぎるとサボる ✓ 仕事量に個人差がある 判断の支援を求める 状況を監視 ウェブ、アプリ操作はこちら側 同意などの判断はこちら側ですべき ダークパターン では悪用
  12. → 参加型デザイン、エシカルデザインを取り入れ再設計する(一案) • オンライントラッキングとマーケティング事業は、構造的にプライバシー侵害が起こりやすい • 法令・ガイドラインでは同意を根拠として求めるが、行動経済学の視点からは有効な同意を成立 させることはかなり難易度が高い • そもそも人間は不完全で不合理な判断をする生物 •

    複雑かつ広範囲の事象を比較検討するのは苦手で、相当のリスクがないとやらない 22 雑感とこれから • ユーザも事業者も儀式的な同意で妥協している現状がある • この状態が正しいわけではないが、よく確認せず同意する ユーザ、同意済みを免罪符にする事業者を責めるべきでは ない • それぞれ最適化され安定した結果、局所最適に陥っている • この状態から抜け出し、倫理的な全体最適へ向かうために はどうすればよいか